• 詩天

【詩天】憤怒王なんて呼ばないでっ!

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
不明
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2017/02/13 19:00
完成日
2017/02/18 18:47

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「おじいさん、大変だよ! あそこに人が打ち上げられてるわ!」
「ありゃあ~、どざえもんけぇ~!? おぅい、若い人! 生きてるけぇ!? 婆さん、家に運ぶっち、そっち持たんしゃい!」
 その日、とある両村に一人の見目麗しき若者が打ち上げられた。
 女性と見紛うような端正な顔つきに綺羅びやかな着物は、海水に(約一週間)浸って尚、美しさを損なっていなかった。

 ――男は、ある日突然自覚した。自分は運命に見捨てられた存在だと。
 自らを認識した時、彼は既に終わっていた。
 闇の眷属に用意された七つの王座。かつてその一つに座し、憤怒王を名乗った怪物がいた。
 それが無様に人類に討伐された時、生に縋り付き無様に放り出した糞――それこそが彼だった。
(なんという……私は肥溜めです……)
 愕然と頭を抱え鏡を覗き込むと、そこには実に“悍ましい”顔があった。
 美しい――あまりに美しすぎる。
 おおよそありとあらゆる憤怒たる者が醜い容姿をしているのは、彼らにとってそれこそが誇らしいから(たぶん)だ。
 人類を怒りのままに焼き払う醜い怪物、獣――それこそ王の威厳というものではないのか(少なくとも彼にとってはそうだった)。
 それがどうしてこんな外見になる。まるで人間のような。いくら頑張っても顎に髭すら生えてこないではないか。
(それはそうでしょう。便宜上父上とアレを呼ぶのなら、アレが放り投げた理性――人間性こそこの私なわけで)

 誕生と同時に一切のやる気を失った彼は、憤怒本陣にある父の作ったやけにデカい根城に引きこもった。
 毎日自分に傅く眷属達は先王の敵討ちだなんだと盛り上がっているが正直どうでもいい。
(……外の世界に旅行に行きたいですね)
 だから人類が攻め込んでくると知った時にはちょっと嬉しかった。
 やっとこのクソのような役職――勝手にくたばって勝手に自分を作った父親から逃れられると。
 そんな彼にも友人(と思っている)はいた。詩天に執着を見せる秋寿さんと青木さんだ。
 秋寿さんは結構ノリもいいし、おちょくるといいリアクションをしてくれるので好きだった。元々人間というところもいい。
 青木さんはずっと遠くからわざわざやってきて力を欲するという武者修行っぷりと、やっぱり元人間というのがよかった。
(私の人生で初めての友達……いえ、歪虚生……? まあどちらでもよいでしょう)
 三人で悪巧みをするのは楽しかった。二人が土産話をしてくれるし(作戦報告なのだが)。
 更に、異世界からやってきたマクスウェルさんが更に広い世界を教えてくれた時、男は決意した。

 “バックレよう”――と。

 蒼乱作戦を瀕死になりつつ生き延びた九蛇頭尾大黒狐 蓬生は、コッソリ憤怒本陣を抜け出した。
 それからマクスウェルさんと青木さん、秋寿さんにお手紙を書き、一人で旅を始めた。
 西方に向かうのには陸路を使い、辺境を経由した。
 何か近くで大きな戦いもあった気もするが無視。でも無視したせいでこの道は帰りに使えなくなる。
 なるべく人目につかぬようにあちこちを観光する中で、自分は比較的歪虚の中でも気配を消す事に優れていると知る。
 とは言え王の片鱗。気配を隠したとしても覚醒者にはバレるし、傍にいるだけで人間はドンドン具合が悪くなる。下手すると死ぬ。
 だから一処に留まれない。転々と旅をする中で広い世界を知り、そして自分を知った。
(私はどうやら、結構人類が好きみたいです)

 詩天に足を運ばなかったのは、流石に東方エリアは足がつくと思ったからだが、良く考えたら本陣から一回も出たことないから皆知ってるわけもないと気づき、秋寿さんが執着する詩天も見てみたくなって、東方に戻ることにした。
 陸路が使えなかったのでパクった小舟で暗黒海域を渡ろうとしたが、熟練の船乗りでも難しい暗黒海域横断に失敗し、船が転覆。
 二週間無人島で過ごした後、憤怒王だから泳げばイケると思って大海に飛び込んだ後、現在に至る――。

(ここは……東方の民家?)
 目を覚ますと男は布団の中にいた。
 そしてきっと自分を助け出し、看病してくれたであろう老夫婦が、眠っているが故に制御できなかった自分の負のマテリアルで倒れているのを目にした。
(このままではこの二人は死んでしまいますね)
 感謝の手紙を残し、蓬生は家を出る。自分はどこにも馴染めない。旅の途中でも優しくしてくれる人はいた。でも、長く一緒にいると死んでしまう。
 非覚醒者は、王の放つ負の気配に耐えられない。直ぐに体調を崩してしまうのだ。
「詩天は……どちらでしょう? まあ、歩いていればいずれ着くでしょう」
 着きませんでした。船じゃないと行けません。
 暫く東方を彷徨い(途中歪虚とバレて交戦を繰り返しながら逃亡し)また小舟をパクって詩天へ辿り着いた男は、街道に咲く花を「美しい」と愛でる瞬間負のマテリアルで枯らしつつ上機嫌に歩いていた。
「おや。こんなところに茶屋が……せっかくですし、少し休んで行きましょうか」
 返り討ちにしたハンターから奪った金がまだある。ハンターすっごいお金持ってる。
 歪虚なので腹は減らないが、なるべく各地の食を堪能するのがマイルールだ。
「ごめんください。お茶を一杯と、お団子を……おや?」
 彼は知らなかった。その店にまさか、ハンターが立ち寄っているとは。
 こういう場合はまず間違いなく攻撃されるが、なるべく穏和に事をやり過ごしたかったので、男は一計を案じた。

 そうだ、知らんぷりをしよう、と――――。

リプレイ本文

 東方エトファリカ連邦において国防を司る武人らの一大拠点、詩天に迫る危機……。
「やっぱりグリーンティーは本場ものに限るわね」
「潮風が気持ちいいー! あんまり人通りはないけど、まったりできるいいところだね」
 しかし前線から離れてしまえばあまり関係ない。
 キサ・I・アイオライト(ka4355)が湯呑みを傾ける隣でシアーシャ(ka2507)が串に齧りつく。
 ハンターらは哨戒がてら茶屋で休憩中。思い思いにお茶や団子を楽しんでいた。
 だが、平和な時間は長くは続かなかった。
 街道を歩いてくる一人の男が放つ禍々しい気配――それはまっすぐこちらに向かってくる。
「おー……? なんかすっごい歪虚的な気配?」
「どう見ても普通の人間じゃない……ってうか美形だー!?」
 気配とは正反対にキラキラと輝くような所作で近づく美男子一名。
 シエル・ユークレース(ka6648)が小さく感嘆の息をつき、シアーシャがテンションを上げる。
 緊張の面持ちで帯刀した剣に手を伸ばすメンカル(ka5338)。その目の前で男は席につき、茶を頼んだ。
「あれは……憤怒王蓬生……?」
「あら、知っているの?」
「蒼乱作戦で少し」
 小声で呟く十 音子(ka0537)にケイ(ka4032)は納得したように頷く。
 瞳を輝かせるシアーシャとは対象的にキサは手にした湯呑みを高速で震わせている。
「うん、気のせい。気のせいに違いないわ……こんな強烈な歪虚、冗談じゃない……」
「ぜったい強いよね? その気になったらボクらの戦力じゃすぐぷちってされちゃいそう」
「ごめんなさい、理解はしてるから解説しないで」
 シエルの笑顔に肩を落とすキサ。メンカルは団子を良く噛んで呑み込むと、ニッコリと微笑み。
「……いやいやいや待て。ちょっと待てそこの青いの、お前だ」
(((行ったーーー!!)))
 メンカルがつかつかと歩み寄ると、仲間達が各々反応を浮かべる。
「通りすがりのどざえもんですよ」
「意味がわからん。正体と言うか色々黙っててやるんで答えろ、いや答えてくれ。なんでここにいる?」
 問いかけに蓬生はハンターらを一瞥する。
 それだけで気迫に胸が苦しくなる。なお、この瞬間茶屋のおばちゃんは転んだ。
「趣味です。世界各地の特産品が私の数少ない楽しみですから。ハンターさん、申し訳ないのですが、私がここに居たということはご内密にしていただけないでしょうか? さもないと、私は剣を抜かねばなりません」
 それは“嘆願”の形をした“脅迫”だ。
 人通りが多いわけではなくとも、この付近には一般人もいる。戦いになればこの店もどうなるかわからない。
「別にいいんじゃない? お茶をしに来ただけって言ってるし、それは私達も同じでしょう?」
「お忍びでバカンスに来ただけなんだよね? 別にいいんじゃないかな!」
 ケイとシアーシャの言葉にキサは思わずのけぞる。
「ちょっと、本気……? そもそも、本当に高位歪虚なのかしら? 大抵はもっとこう、威張ってるものよね」
 キサの言う通り、蓬生にはそもそも“敵意”と呼べるものがさっぱりない。
 さっきの威圧も狙ったものではなく、王の一挙一動とはそういうものというだけである。
「この通り、私達に戦闘意志はありません。蓬さん、相席してもよろしいでしょうか?」
 親しげに声をかける音子。それが知り合いを演じてくれるという意図だと理解し、蓬生はハンターらを手招きした。
「よかった。こっちから“一緒にお茶しない”って言おうと思ってた所だったんだ。せっかくだし、自己紹介していい?」
 手を振りながら歩み寄り、シエルがウィンクすると蓬生も笑顔を返す。
 こうして皆、何故か自己紹介をする流れになった。
 大きめの長椅子に並んで腰掛け、一通り名前の認識を揃えると、メンカルが指先で眉間を揉む。
「最近の若いのは皆こうなのか……? こういうノリが流行っているのか……?」
「調子狂うわね。闘って死ぬ思いをするよりマシだけど……あんまり歪虚って感じがしないもの」
「そうでしょうか? でも、皆さんも変わってますね。これまでのハンターさんは私を見かけるなり襲い掛かってきましたから」
 自嘲染みた笑みを浮かべ、キサは目を逸らす。歪虚王と肩を並べて茶を呑むハンターなんぞ、そりゃ変わっている。
「おにーさん、みたらし団子好きなの? ここのおいしいよね!」
「ここの団子に目をつけるなんて話が分かるじゃない。みたらしもいいけど、ずんだもいけるわよ」
 シアーシャの視線の先には蓬生が齧る団子がある。自分が注文したずんだを見せるケイ、それをじっと見ていた蓬生の口の端からタレが垂れてくる。
「おい……零してるぞ。そこじゃない、ほら。さっきから気になっていたのだが、お前は食べ方が汚いな……」
「お恥ずかしながら、ヒトの食べ物は難しいのです。ほら、私も中身は獣ですから」
 口の周りがベチャベチャの蓬生に呆れたようにハンカチを差し出すメンカル。
「お兄さんすっごい美人さんなのに、性格は結構ワイルドってこと?」
「いえ、狐なので」
「狐?」
 きょとんとしたシエルの隣でシアーシャは腕を組み。
「おにーさん狐なの? いやー、実はおにーさんの事ぜーんぜん知らないんだよねー」
「ねー。有名人っぽいけど、細かい事気にしてもしょーがないし」
 『ねーっ』と顔を見合わせ笑うシアーシャとシエル。キサは遠い青空をじっと見つめて半笑いする。
「しかし、ここに長居すれば他の覚醒者に気取られる可能性もあります。戦闘は私達も望むところではありません……どこか人目のつかない場所に移動しませんか?」
 音子の提案に眉を顰め、困ったように蓬生は呟く。
「でも、まだお団子を全種類食べていませんし……」
「では、全種類の団子をこちらから提供させていただきます」
「やはり海岸がいいでしょうか? さあ、行きましょう」
 一瞬で気が変わったのかすっくと立ち上がる蓬生に全員ずっこけそうになる。
「そうね、せっかくだから多めに包んでもらいましょう」
「そうと決まれば海岸でお散歩しよう! おにーさん、早く早く!」
 ケイが団子を注文している間にシアーシャは蓬生の手を取り海岸へ走っていく。
 二人の背中を眺め、シエルは懐から魔導カメラを取り出す。
「楽しくなってきたね。歪虚って記念撮影OKかなあ?」
「知らんが……まあ訊いてみろ」
「うん♪ お兄さーん!」
 カメラを手に走っていくシエルを見送り、メンカルは小さく溜息を零した。

「海だーーー! あたし森育ちだから海って新鮮なんだ! おにーさんはこの辺り詳しいの?」
「いえ。生まれてからずっと城に閉じこもっていましたから」
 目に見える景色は岩と溶岩、枯れた大地ばかり。初めて海を見た時は驚いたものだ。
「でも、西方からここまで泳いできたので、泳ぎはうまくなりましたよ」
「え? 暗黒界域超えて?」
「おにーさん、最近なにしてたの?」
 大きな流木に腰かけ問いかけるシエル。蓬生は目をつむり、
「この世界を知る為に旅をしていました。その前は王様の真似事をしていましたが、ハンターさんに四方八方からタコ殴りにされた上に爆発して生死の境を彷徨いまして……」
「あ、あー……うん。なんか話しにくい事訊いちゃってゴメンね?」
「話しにくい事? 歪虚ではよくある話では?」
「別に全部のハンターがそういう感じじゃないと思うよ。ボクはお餅みたいなスライムを見たり、おーっきいもこもこの羊と会ったり……」
「争いが苦手なのですか?」
「そうじゃないけど、どうせなら楽しく面白く生きていたいじゃない? 戦うこともあるけど、別に何かがスゴく憎たらしくて剣を取ったわけじゃないかな」
 興味深そうに頷きながら話を聞く蓬生に、キサは問いかける。
「そういうあなたは、どうしてそんなにヤル気ないの?」
「何故……。うーん……結果がわかりきっているから、ですね。例えばここであなた達を殺す事は容易い。でも、全人類を滅ぼす事は不可能……。絶対に勝利条件を満たすことができない戦いに価値を感じられないのです」
 語りながら歩み、傍にあった小さな名もなき花に手を伸ばすも、それはみるみる枯れてしまう。
「歪虚は世界を滅ぼす為だけにある。なのに私はそれが出来ない、出来損ないの王なのです」
「なんかおにーさん……ちょっと可哀想だね」
 同じものを食べて、『おいしい』と言えるのに。
 同じ風を感じ、同じように語り、同じ花を愛でたのに、それを枯らしてしまう。
 シアーシャの瞳に、目の前の怪物はどこか哀れに映っていた。
「難儀だな……。意志に関わらず負のマテリアルを撒いてしまうんだろう」
「はい。私とまともに言葉を交わせるのは、歪虚を殺す為に存在するハンターさんだけとは、皮肉ですね」
 苦笑を浮かべる横顔がどこか弟を思わせ、メンカルは目を細める。
 世界に交じりたくとも、巨大な力がそれを許さない。それはきっと、寂しい事だから。
「蓬さんはこれからどうするのですか? あなたは他眷属の歪虚とも繋がりがあるはず。身の振り方には様々な可能性がある」
 音子の言葉に蓬生は困ったように砂浜に座り込み。
「それを考えていました。青木さんとは約束がありますが、せっかく眷属が壊滅状態で自由になれたので、もう少し旅を楽しみたいのですが」
「約束とは?」
「青木さんは“力”を求めています。歪虚はより高位の歪虚を“共食い”することで相手の力を得る事ができる。青木さんはそれで眷属間を渡り歩いているようですね。私の命も彼に差し出すと約束をしています」
「え!? おにーさん自分の命売っちゃったの!?」
「はい」
「なんで!?」
「え……? 別にいいかなって……」
 間の抜けた返事にがっくりするシアーシャ。シエルはその様子に苦笑する。
「……わからなくはないかな」
 なんとなく自分と似たものを感じてしまう。
 なんてことはない。つまり蓬生も刹那主義というだけのこと。
「先行きが未定ならば――人類と手を組みませんか?」
 音子の提案は心底意外だったのか、目がまん丸になる。
「味方になれとは言いません。しかし、非好戦的ならば中立の立場を取っていただきたいのです」
 今、この世界は黙示騎士の介入や邪神と言った新たな敵とも戦いの中にある。
 歪虚の中にも複数の勢力が生じた現在、蓬生は様々な形で人類と敵対する可能性がある。それを防ぐことができれば……。
「お前のその負のマテリアルも、イニシャライザーという装備を使えばある程度抑えられるかもしれん。ソサエティと交渉が成立すれば、旅を続けることも出来るかもな」
 メンカルはそう語りながら蓬生に歩み寄る。
「ノリといい突拍子もなさと言いどうにも弟を思い出していかん。お前、人間の友達は欲しくないか?」
「友達は欲しいです」
 即答だった。だが、
「でも――ヒトの仲間にはなれません」
「どうして? あなた、ちゃんとヒトにだって交じれるわ。一緒にお茶も出来るんだもの」
 大量の団子を包んでもらったケイが途中から話を聞いていたのか、砂を踏みしめながら問う。
「私はヒトを美しいと感じます。しかし、“すべてのヒトが美しいわけではない”とも感じている」
 ヒトは、醜さと美しさの両方を持つ生き物だ。
 “理性を得た獣”……ヒトは時に愚かに、残酷に美しいモノを壊してしまう。
「あなた達の申し出は嬉しい。けれど私は、ニンゲンとは相容れない」
「歪虚だから?」
「いいえ。私は――ヒトという種族が嫌いなのです。“花”は美しい。けれどこの大地の全てが花で覆いつくされたのなら、それは醜悪と言わざるを得ない」
 男は悲し気に目を細め、瞳を揺らす。
「花は少しで良い。人類は、増えすぎた」
「……なんとなくわかるかも」
 キサはそう言って視線を逸らす。
「私は歪虚が嫌い。でもそれは歪虚が私にとっての脅威だから。あなたも脅威には違いない。でもあまりそんな感じがしない。だから、あなたという個と分かり合うことは……できるのかもしれない。だとしても、歪虚すべてを赦す事はできない」
「じゃあ、あたしと友達になろっ!」
 シアーシャは蓬生の手を取り、両手で包み上下に揺らす。
「人類全部がダメでも、ちょっとならいいんでしょ?」
「そうね。友達は難しいけど……同好の士ならいいわよ。自分の知らない世界を見たいって気持ちはよくわかるわ」
「……ねねね、記念にみんなで写真撮りたいなあ。だめ?」
 キサに続き、シエルがカメラを手に提案する。
 良くわからないまま全員が並び、記念撮影が行われた。
 海を背に、砂浜にシエルの合図が響き、カメラが写真を吐き出す。
「これは?」
「思い出よ。はい、これも思い出」
 ケイはたくさんのお団子の包みを手渡す。
「歪虚も長生きなんでしょう? 思い出って大切よ。例え時が過ぎても楽しめる永遠の趣味ってやつね」
 蓬生は写真を手にケイの言葉に耳を傾ける。思い出、それは彼にとって新鮮な言葉だった。
「写真、お土産、書き物……そんな楽しい日々の思い出を増やしてくのも悪くないわ。あなた、旅は趣味だって言ったけど、本当に欲しかったのは思い出じゃないかしら」
「思い出……それが、私が本当に欲しかったもの……」
「また会えたらあなたの思い出を見せてちょうだいよ。一緒に見せ合いっこしましょ。カメラ、よかったら要る?」
 プレゼントしようとしたケイだったが、魔導カメラは覚醒者の力を原動力とする。
 負の力しか持たない蓬生には扱いが難しすぎたようだ。そもそも、蓬生は機械オンチであった。
「髪と筆は使えるので、これからは詩を作りながら旅するとします」
「良かったわね。私もあなたもいずれは死ぬ。それまでに、できるだけたくさんの良い景色が見れるといいわね」
 キサの言葉に蓬生は無邪気な笑顔を返した。
「お前は俺の弟と気が合いそうだ。今度会ってみるか?」
「おにーさん……また会えるかな?」
 首を傾げる蓬生に、ケイは『これが約束よ』と耳打ちする。
「成程、約束。では、約束しましょう。ありがとう、皆さん。きっといつか、また」
 蓬生はそう言って立ち去って行った。今となっては憤怒王がいたなどと言っても誰も信じないだろう。
「大きな迷子だったわね」
「なーんか、他人の気がしなかったなあ」
 背中を見送り笑うケイ。シエルは複雑な表情でつぶやく。
「ともあれ、様々な情報を入手できました。この報告が彼と人類の関係性に良い一石を投じるとよいのですが」
 音子はさっそくソサエティへの報告書を纏めにかかる。
 一方シアーシャは頭の後ろで両手を組み思案する。
 ここには潮の香りのする、陽に焼けた、逞しいエキゾチックなダーリンとの出会いを夢見て来たが……。
「エキゾチックなダーリンは見つからなかったけど、おにーさんと会えたし、いっか!」

「砂浜に……流るる風は、みたらしの……明日思い出す、友の味かな……」
 ノートにペンを走らせながら夕暮れの街道。
 ペンを団子に持ち替え、放浪王の旅路はどこかへと続く……。

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参加者一覧


  • 十 音子(ka0537
    人間(蒼)|23才|女性|猟撃士
  • 力の限り前向きに!
    シアーシャ(ka2507
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 憤怒王FRIENDS
    ケイ(ka4032
    エルフ|22才|女性|猟撃士
  • 境界を紡ぐ者
    キサ・I・アイオライト(ka4355
    エルフ|17才|女性|霊闘士
  • 胃痛領主
    メンカル(ka5338
    人間(紅)|26才|男性|疾影士
  • なにごとも楽しく♪
    シエル・ユークレース(ka6648
    人間(紅)|15才|男性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
十 音子(ka0537
人間(リアルブルー)|23才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2017/02/13 08:51:55
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/02/09 23:12:08