乙女、草を以て村おこし

マスター:狐野径

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2017/03/21 15:00
完成日
2017/03/27 19:24

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●草が来る
 領内の話でイノア・クリシスは形の良い眉をしかめた。
「なぜ、あの村には草が集まるのでしょうか」
 去年は一晩で草まみれになり、雑魔もなぜか住み着き大変な騒ぎになったのだった。
 かねてから調査はしてあった。隣の領主のところや自分のところの牧草地などの草が原因でもある。それだけではなく、近隣に飛びやすい草が生える地域があるらしく、一層集まる。
「……年によっては差はありますけど、防げればいいのですが」
 なかなかいうまくかないから毎年悩む。
 できれば飛んでくるなということだ。自然現象なために完全な停止は難しい。
「……昨年、ハンターの方が面白いことを提案していましたね」
 当時の領主は父ウィリアム・クリシスだった。その書類を見る。
「今年、イベントをやるとして草が集まるかは不明ですわね」
 イノアは難しい顔になる。
 そこに、扉がノックされる。
「どうぞ」
「失礼します。べリンガー家の方からの手紙を持ってきたという子供がいるのですが……」
 手紙だけなら家の者に渡せば終わりだろう。重要な親書だろうかとイノアは思ったがすぐに打ち消す。
「子供?」
「はい……どういたしましょうか? きちんと届けたというサインをもらわないといけないと言っているのです」
「……通してちょうだい」
 不思議がりながら通した。暗殺者等も疑われるが、自分を殺したところで得られるものは大したことはないと腹をくくった。

●和気あいあい
 ルゥルは緊張して執務室に入った。
「初めまして……みぎゃ? お姫様!」
「ふふっ、わたくしなどそんな身分じゃないですわ。わたくしはここの領主のイノア・クリシスです」
「初めまして! 領主さんに頼まれて手紙を運んできたハンターのルゥルです」
「まあ、ハンターなの」
「ハイです」
 手紙をルゥルは渡す。
「確かに受け取りました」
「これにサインください。ルゥルがちゃんと渡したって」
 首にかけているメモ帳を開いて渡す。
 ちらりと見るとハンターズソサエティの職員の名前もある。どうやら、チェックポイントになっているようだ。目標があれば寄り道も減る。
「はい、これで良いかしら」
「ありがとうございます」
「この後は忙しいのかしら?」
「町を見学して帰ります。きちんと帰らないと、怒られてしまうです」
 保護者の監視は強力なようだ。
「ルゥルさん、こういうイベントあると楽しいかしら?」
 イノアは試しに草の話をした。
「それはいいと思うです! リアルブルーには案山子祭りとか雪まつりってあるそうです。いろいろ像を作って飾ってみんなで見物するのです」
「案山子?」
「そうです。草なら藁人形とか案山子になるです?」
「なるでしょうね」
「それをいろいろ組み合わせて作れば、かっこよかったり可愛いものができるに違いありません!」
「なるほど」
 イノアは少し考えた。
「ルゥルさんは忙しくないとおっしゃられましたね?」
「はいです」
「もし、イベントの提案とか請け負っていただくことはできますか」
「やるです! その前に、師匠かマークさんに聞いてからです」
 師匠は魔術師の先生であり、マークとは師匠の隣家のエクラ教会在住の司祭である。
 後日会う約束をして、駄目なら駄目でかまわないとイノアは思った。
 約束の日、ルゥルが飛び跳ねるようにイノアのもとにやってきたのだった。

●張り紙
 案山子祭り開催!
 日時 ▽月×日
 場所 アックサ村
 作るもよし、見るもよしです! 簡単な飲食物販売も可能です。
 ただし、草がふわふわ飛んでくる関係で、屋外での火の取り扱いは非常に神経を使うこととなるです。協力してくれる村の方が台所は貸してくれるそうです。
 皆様、奮ってご参加してくださいです。
 主催 イノア・クリシス、お手伝い 魔術師の弟子ルゥル

リプレイ本文

●受付
 草は何故飛んでくるのか。地形なんだろうけれども――。
「って、草多いな……こんなにあるのかよ」
 受付をすませたステラ・レッドキャップ(ka5434)は口元が引きつった。草自体は牧草の団子みたいにあちこちにまとめてあるが、相当な数がある。
「本当、今年も積もってるなぁ」
 レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は去年の雑魔が現れた事件にもかかわっており、懐かしいやら平穏で良かったとも気持ちが膨れあがる。
「あのあたりか」
「そうらしいな」
 二人は戦友であり、たまには戦場以外で楽しむのもよかろうとやってきた。それなりに広い場所で荷物を置いて制作開始する。

 村の入り口で受付をしているルゥル(kz0210)はやってくるハンターを出迎える。
「ここに名前を書くの?」
 ディーナ・フェルミ(ka5843)は示されたところにサインをする。
「これが会場の見取り図です。ディーナさんはこの辺でいいですか?」
「問題ないの」
「楽しんでください」
「はい、なの。子供が喜ぶものを作るの。あなたにも喜んでもらえられ良いの」
「草たくさんあるだけで楽しいです」
「そうよね? 草を積んで、飛び乗るだけでも実は楽しいの」
 ディーナとルゥルはにこにことしている。
 地図を受け取ってディーナは手を振り、現地に向かった。

 クウ(ka3730)は弟のカイ(ka3770)と幼馴染のリラ(ka5679)とともに指定された場所に向かう。
「姉貴、何でそんなにやる気満々なんだよ!」
 クウが猛ダッシュで行ってしまったのを追いかけながらカイは怒っている。
 リラからすれば怒っているがどこか楽しそう。遊びの場所なのだからそれでいいと少し安堵する。
「カイ、急がないとクウさんが場所を全部占有してしまうかも」
 リラはくすくす笑う。場所は余っているのだから、そんなことになっても実際問題はないのだ。
「それはやばい、急ごう」
 カイはまじめに焦ってスピードを上げた。広いし、クウが占領しても別の場所もあるだろうから実は問題はないのだが。
 一方のクウは姉らしい感情を持って「弟と幼馴染」の間を取り持っているのだ。
「カイはともかく、リラは楽しんでもらわないとね」
 そして、現地に一番乗りした。
「必要なものがあれば、言ってくださいね」
 周りにいる村人に声をかけられ、クウは支柱にするような木材がほしいと頼んだ。

 フィリテ・ノート(ka0810)とオウガ(ka2124)はデートもかねて、やってきた。
「村おこしも兼ねているのよね」
 フィリテは村の入り口から歩きながら村の様子を見ていた。草がわんさかある以外は目立ったものがないとよくわかった。
「つまんねー村、だけど、平和ちゃー平和」
 オウガは周囲を見ると手を振られたので振り返す。
 小さな子だけで走り回り、村の外から来たハンターに両手を振り「楽しみにしてるよ」ということを異口同音に言ってくるのだ。本当に悪い村なら、小さい子の姿は皆無だろう。
「いい村なのは間違いないな」
「それなら、これを生かした村おこし物品を作れれば素敵よね?」
「いい案だよな。で、考えたってわけ?」
 フィリテははにかんだようにうなずく。
「案山子の作り方、村の人に教わりつつ……かな」
「いいじゃん」
 近所にいる村人に話を聞くことにした。

 ミリア・エインズワース(ka1287)は女の子師匠と敬うニコラス・ディズレーリ(ka2572)とともに広い土地を前にした。
 ニコラスは訳あって女装をして過ごしてきておりハンターとしてはエリス・カルディコットと名乗っている。
 女装と言っても本格的、彼女が男だと疑う余地はない美しい令嬢だ。
 一方のミリアは元気いっぱいな少年のようで、外見はなかなかグラマラスだったりする。
「小さいころからやってみたったんだ。祭りと言えば巨大物だしな」
 ミリアはこぶしを固める。
「どのような物になるか楽しみですわ。お手伝いはお任せを」
「うん、頼りにしてる! やるぞー」
 早速必要なものを現地調達を始めた。

 七夜・真夕(ka3977)は恋人の雪継・紅葉(ka5188)と連れ立ってやってきた。
「こちらの村おこしがどんな感じなのか興味あるからね」
 楽しそうな真夕をまぶしそうに紅葉は見る。
「うん、頑張る」
 紅葉はデート嬉しいという内心とともに、グッと見えないところでこぶしを握る。
「え?」
「あ、えと……案山子、作るんだよね? だから」
 慌てて紅葉は取り繕う。
「そうだね。案山子なんて作る機会ないし。でも、藁人形に近いのかも?」
「そう、だね。どっちにしろ、楽しみだよ」
 そこそこの広さの敷地で何を作るかあれこれ考えた。

 陶 凛華(ka5636)は受付で配置きめを見つつ、悩む。
 できれば大きいものが楽しいだろうと思う。大きい敷地過ぎてもいらないかもしれない。
「おすすめはあるかしら?」
「お姉さんがどんなものを作りたいかによるですー」
 ルゥルの至極まっとうな返答に、凜華は微笑む。
「お子さんが来そうなところ」
「それならば、おいらも近くがいいんだけど、どうだろう?」
 並んで待っていた玄間 北斗(ka5640)がのんびりと声をかける。
「大きくて、子供が楽しめるものを作りたいんだ」
 ルゥルは受付係として威厳を保ちつつも、二人の言葉により遊ぶことに心を奪われつつあるのが見えてとれる。
「それならこの辺りはどうですー? さっき来たお姉さんも子供好きなものって言ってました」
 ディーナが選んだ近くを指した。広さも程よく、凜華と北斗は了承した旨を告げた。

 ミオレスカ(ka3496)はいくつか案を考えつつやってきた。
「お姉さんが、案山子作りの受付最後ですー」
「……そんなに遅くなったつもりはなかったのですが」
「時間は間に合っていますよ?」
「良かったです」
 二人はにこにこしながら、手続きをする。
「作る物は決めていますから、あとは道具を使ってうまくできればよいのです。草で編み上げて……大きく」
「大きくっ!」
「かっこよく」
「かっこよく!」
 ルゥルが反芻するため、徐々にハイタッチのように手をあげる。パシッとルゥルの手が伸びた。
「良い一日を」
「はい、よろしくお願いしますね」
 ミオレスカは指定された場所に急いだ。

●作成
 レイオスとステラは適度な大きさの五体のユグディラを作っていた。
「寝ている奴があってもいいか」
「それ、楽団とは別か?」
「見物人? いや、見物猫」
 それとなく会話しつつそれぞれ手を動かす。
「んー、ちょっとユグディラにみえねぇーか?」
「行けるんじゃないか? 楽器はこうくくりつけて」
「レイオスは何の楽器だ? バラバラな感じは仕方がないか」
「楽しそうならいいんじゃないか? 一応、それとなく雰囲気はできてるし」
「ああ。しかし、なんか物足りない」
 胴体ができてそれらしいものができてもなかなかうまく行かない。
 ステラは全体を見て何がいるか考える。
「チビにノッポにぽっちゃり……」
 レイオスは鼻歌交じりに布を巻きつけて服のようにしていく。
「そうだ、子供の要らない服あれば」
 ステラは村人に尋ねるため、その場を離れた。
 その間、せっせとレイオスは音が鳴るようにと仕掛けも作っておいた。
「それなりに賑やかになってきたな」
 ハンターと村人が入り混じり、あちこちで楽しそうになっていた。

 ディーナは枯れ草を眺めルゥルと話していたように「これだけでも子供は楽しい」とうなずく。実際、村の子供が草につっこんでいるのが見える。
「もっと楽しくなるの」
 ディーナは腕まくりするとさっそく草やロープをメーンに使いつつ作業を開始した。
 一つは乗るだけでも高さが出て楽しい馬。手際よく草を束ねしっかり縛った円柱を七個作り、脚、胴体、首頭と組み立てていく。
「それともう一つは……上に乗って飛び跳ねたくなるチューダさまの人形なの」
 シーツで草を包み、雪だるまのように組み立てる。小さいもので耳、草を入れて王冠も作り、しっかりと本体に縫い合わせていく。マントもつけてそれらしいものとなる。
 最後の仕上げ、顔も描いて「完成なのー」とできた物を眺めた。

 案山子の作り方はいろいろあると村人は言う。その中でも基本となる物をフィリテは教わり、形を作った。
「案山子と案内板や道路標識を一緒にして何か作れないかな?」
「うーん? 例えば指さすとか?」
「そうです。場所の案内プレートを作って、方向は案山子に示してもらうというのはどうかな?」
 オウガは木の板を材料から見つけ、案山子の首あたりに添えてみる。
「ちょっと無骨だよね……」
「案山子は自由に作れるって言ってたし、フィリテ先輩らしい案山子を作ってみればいいんだろう?」
「そうですね」
「藁人形風」
 二人は草を束ねたりしつつ、試行錯誤するのだった。

 クウは狩りで見てきたオオカミの姿を思い出しつつ、土台を作り草を巻き付けるように肉付けをしていく。
「人が背中に乗れるサイズだとステキ」
 ワクワクしながら作る。迫力のあるものを目指しひたつくる。
 カイはリラとお揃いの物を作る。
「でーどんなものが作りたいんだ?」
「リースで飾りがついているのがいいかな」
「なるほど、女ってホント揃い物好きだよな」
 カイは憎まれ口をたたきながらも、手際よく草を心材に巻き付けるように輪っかにしていった。
「そう? それって私のことかしら? クウさんかしら? それとも?」
「一般論だよ!」
「うーん、人それぞれでしょ? 一緒に作ると楽しいっていうのもあるし、今回の場合は」
「まあそうだな」
 黙々と作りながら、揃いと言いつつも違うところがあるリースを作る。
「ほらほらカイ! こっちにも手を貸して!」
「はあ?」
「ちょっと動かせば終わるでしょ! リラ、そうよね?」
 リラが曖昧に笑った、仲が良い姉と弟の図に。

 北斗は角材を使い土台を作るところから始める。大工仕事となっているが、村人も手伝ってくれるため早かった。それに肉付けをしていく。
 寝ころんだたれたぬきと座ったたれたぬきをイメージし、草を置いていく。寝ころんだほうは高いところから飛び込んで遊べるようにと、腹辺りは草を布袋に包み、その上から古シーツなどで覆い、怪我をしにくい様子に。
 座っているほうは、前足の付け根あたりから腹を通って尻尾に抜ける滑り台を作る。
「やっぱり滑らない……しかし、転げて遊べればいいのだ」
 完成するまでいい汗をかいた。

 ミリアとエリスは木材とロープやシーツなどを使い巨大なベッドを作る。
「子供がぶつかると危ないので、この辺りにはもっと草を詰めておいた方がいいでしょう」
 エリスはせっせと細かいところを埋めていく。
 二人はうまい具合に分業していた。
「うわああ、これはフカフカだぞ」
 ボスボスと音を立てて歩くミリアは地面に飛び降りた。
「梯子借りてこないとな」
「そうですね、ハンター向けアトラクション、では子供が泣いてしまいます」
 エリスはひょいと飛び降りて、はしごが来るまでの間、周囲が崩壊しないように修正をしていった。

 凜華は骨格を大まかに作ったところに、袋に詰めた草を詰め込んでいく。
 イメージは腹を上にしたチューダの像。子供が抱き着いたり、登って飛び跳ねたりできるように考えて草を配置していく。
「あとはこれに草を固定して、色を塗ればよいかしらね」
 彩色すればそれらしく見えるだろうかと不安に思いつつも、子供が楽しんでくれればいいと願い続ける。

 真夕と紅葉は場所を見つつ、どんなものを作るか考える。
「動物で、折り紙で作ったような雰囲気がいいかな?」
 折り紙で作る動物自体が簡素化している。それでも動物だと分かるのだから、こういった素材で作るにはよいと真夕は考える。
「うん、いいと思う。それと、やや大きめが見栄えがいい、かも?」
 紅葉は両手を広げて言う。
「そうだね、大きいほうがいいよね。どんな動物にしようか」
「犬と馬」
「分かりやすいほうがいいね。あまり見ない動物だと分からなくてつまらないね」
 紅葉はこくんとうなずく。
 それぞれ作り始める。
「うーん、もう少し尻尾は長いほうがいいのかな?」
「真夕のはそのくらいで、いいと思う」
「そっか。紅葉のは長いけど、そのくらいがバランスとしていいね」
 揃いの動物とはいえ、それぞれが作ると違う物にも見える。違うけれども同じにも見える。

 ミオレスカはせっせと草を組み上げる。
「人間よりは大きく作りたいですね」
 自分の愛機のCAMシルバーレードルをイメージして、かっこよく、そして、雑魔よけになりそうなものを。草はなかなか手ごわい。村人がアドバイスをくれたり手伝ってくれるのも楽しむ。
「休憩です」
 木の支柱に巻き藁みたいなことはできないかとやってみる。
「刀剣の試し切りや格闘武術の演武、弓でも狭いところに打ち込める練習台として重宝します」
 形はできた。
「あとは使い心地ですよね? あとで弓で試してみましょうか」
 いくつか作ってみた後、雑魔よけ希望のCAM案山子を作りに戻った。

●デモンストレーション?
 ルゥルは首から魔導カメラを提げ、厚紙を台に紙とペンを村の中を持ち歩き回る。
「採点してんのか?」
 ステラの前で足を止め、ユグディラ像を見る。
 ステラが紙を覗き込むと、年相応の字でまじめに書き込みがあった。
「そういうことでもないですよ? お兄さん、これはユグジラですね?」
「ユグディラな。音楽好きっていうからそれにしてみた。楽器があれだがなぁ」
 ステラは頭を掻いた。
「へええ。ユグジラ見たことないのですー」
「そっか。見られるといいな……てかユグディラって言えないのか」
「ちゃんと言っていますよ! ゆーぐーでぃーら、ですっ。それより、どうやって音楽が鳴ってるです?」
 レイオスがにやりとしてPDAを見せる。
「これを隠しておけば。それらしく見えるだろう?」
「すごいです。この四角いの!」
「地球軍の物で――」
「……リアルブルーのですか! みぎゃー、触りたいです、触りたいですうう」
 レイオスの手に向かって飛び跳ねる。手渡すと目をキラキラさせてPDAを天に掲げ、ひっくり返したりして眺める。
「リアルブルー好きなのか?」
「行ってみたいですー。エルフがいないって聞きました」
「いないのと行きたいのがつながらないが」
 レイオスはPDAを返してもらい、首をかしげる。
「ユグディラにも会いたいとか、いろいろ大変だな。あ、お前も入れて写真撮ってやろうか?」
 ステラが手を出す。
「違うですよー、来られないイノアさんのためです。私が映っても仕方がないですよ」
「別に、お前も一緒に楽しかったでいいんじゃねー?」
 ステラが言うとルゥルは「そうですか!」と笑った。
「じゃあ、一枚だけお願いします」
「おう」
 ステラは受け取ると、ユグディラのように楽器を弾く真似をするルゥルを一緒に撮った。

 ディーナの作った馬に子どもがよじ登る。
「うわああ」
 体をゆすって動けと念じているようだった。それに、別の子もよじ登り、二人乗りになる。
「どっしりしているからこのくらいならへこたれないの」
 ディーナの自信通り、馬は全く揺らがない。
 それ以上にチューダ草人形は危険だ。大きさが適度、抱き着き、よじ登り、引っ張られている。
「愛されているの」
 腹のあたりでびょびょこと飛び跳ねる子を見て、ディーナも飛び上がった。
 ずぼっ。
 しかし、適度な弾力により、埋もれるわけではない。
「大きなハムスターさんです」
 回ってきたルゥルが写真を撮る。そして、抱き着いて「おおっ」という。
「ちがうのー」
 ディーナが草人形のモデルについて説明をすると、ルゥルは関心を持って聞いていた。

 案山子と案内板を組み合わせた物ができた。
 フィリテは微笑む。
「村の雰囲気には合うよな?」
 オウガが褒める。
「オー君も一緒にいたからできたんですよ」
「そんなんか? お前が考えたからできたんだぞ?」
 照れくさいオウガ。
「お取込み中すみません。これはどういう物でしょうか?」
 ルゥルが言葉と反してきっぱりと声をかける。
「お、お取込み中!?」
 素っ頓狂な声とともにフィリテが目を白黒させ、オウガは鼻の頭を掻く。
「草が商品化できれば良いと考えたの。観光名所や商業区画などに標識としてこうすれば、商品になるのではと。草が来て困るなら、これを売ってお金になれば、問題解決で村の得にもなるわよ」
 ルゥルはうなずきながらメモを書く。
「分かりました、イノアさんには伝えます。写真もきちんととるです」
 ルゥルは下から見上げるアングル。
「みぎゃ」
「と、撮りわね」
「お願いします」
 ルゥルと別れた後、フィリテは視線が下になる子にはどうすればいいのかとアレンジを加え始めた。
 それをオウガはまぶしく眺めていた。

 びょこびょこ巨大ベッドで飛び跳ねるミリア。
「それを貴族のお屋敷で、立派なベッドでやったら怒られます……マナーも問題ですけれどね」
 揺れるせいでエリスはうまく立てずに中腰からしゃがむを繰り返す。
「だからだよ! それに巨大だったら、レスリングもできる!」
「はい?」
「だからー! エリス、勝負だ!」
「ちょ、ちょっと待ってください」
 びょこびょこ跳びながらミリアが近づいてくる。
「子供たちが来たら遊べなくなる、それまでの時間だ!」
「とは言いましても!」
「三秒抑え込まれたらくすぐり地獄な! たあ」
「きゃああああ」
 草の跳ねを利用して飛び掛かってきたミリアを支えきれず、エリスは倒れる。
「あははは、不安定だ! お前の抵抗はそんなもんか!」
「ちょ、やめてください!」
 抵抗するが筋肉の付き方で確実に問題があったし、下になってしまうとなかなか抜けられない。足に力を入れようとしても、ミリアに押されもみ合いになるだけだった。
「1、2、3! 僕の勝ち」
「えと……」
「こうだ」
「やめてください」
 くすぐりにかかるミリアをどかそうと必死にエリスは抵抗する。しかし、揺れる足元、立つことできず。中腰になればミリアもバランスを崩す。
「おとなしくくすぐられろ!」
「遠慮いたしますぅううう!」
 抵抗するがなかなかできない。服を互いに引っ張り合い、もみくちゃになる。
 そんなこんなで手が服に絡み、はずみでミリアの豊かな双丘にエリスの手がふれる。
「……こここれは違いまして!」
 エリスは顔を真っ赤に慌て手を引くが、逃がさまいとするミリアの脚が脚に絡みつく。
「ミ、ミリア様、動かないくださいませ! ますます絡んでしまいます」
「絡むって何がだ! 油断大敵!」
 めくれた上着の素肌部分をくすぐろうとしているミリア。
 一方、エリスは逃げつつ端っこで気づいた、ルゥルの視線に。
「……え?」
「ちょ、力抜くな!」
「きゃあああ」
「うわああ」
 頭から二人は落ちた。
「だ、大丈夫です?」
 ルゥルが恐る恐る声をかけた。

●見学
「行きますー」
 ミオレスカはハープボウを構えると、離れた的に向かって放った。
 村人はハラハラしながら離れて見ていたが、命中すると拍手する。
「草を束ねるだけでこういうこともできるのです。乱暴にいうと、草を束ねるだけで商品になるんです」
 村人は感心して見ている。
 ただ、それだけ。
 それだけとしても武術と遠い生活をしていると知らない世界。
「私もやるですー」
 ルゥルが手をあげる。
「えいっ」
 石を投げた。
 すこーんと別のところに飛んでいく。
「みぎゃ」
 村人から笑いが起こる。
「魔法の練習相手にもなるです?」
「なりますけれど……そうですね……人に当てるよりは良いのでしょうか?」
 魔法のことはよくわからないが。
「きちんとイノアさんには伝えるです」
 メモを取ってルゥルは立ち去った。
「領主さんのところも、兵がいるんですよね?」
 それは安定供給、掃除もかねていいのではないだろうかとミオレスカは思った。

 真夕と紅葉は作り終わった。
 ルゥルがチェックして立ち去った後、二人は見学することにした。
「結構、難しかったよ」
「そう、かな? 真夕は上手だった、よ?」
「紅葉が手伝ってくれたからだよ。そうだ、お弁当食べよう」
 真夕は笑う。
 紅葉は真夕の手を取って指さす。
「あっちがいろいろ見えて、いいかも」
 即席の広場になっており、草を丸めておいてあるだけだが椅子もある。
「チクチクする」
 座り心地はちょっと良くないが、最初のうちだけ。
「ふふっ……」
「のんびりするね」
 紅葉はうなずく。
 言葉よりも一緒にいること。お弁当を食べながら、感想を言ったりしても、そっと寄り添って静かに食べる。
 そよそよと吹く風は心地よく、空から降る太陽の光は暖かい。
「おいしかったよ」
「それは良かった」
 片づけると、見物に向かう。
 紅葉は真夕の腕をとる。
「えへへ……真夕、大好き、だよ」
「え? なんか言った?」
「あっちに行こう」
 腕から手に紅葉は手を移し、真夕をぐいぐいと引っ張った。

 妙にリアルなオオカミの草の像。
「お、おおう……ですう」
 ルゥルが見上げて感嘆の声を上げた。
「どうだ、登ってみる?」
 クウが勧める。
「良いですか」
 ルゥルがよじ登りオオカミの首根っこにしがみつく。
「お、かっこいいぞ」
「えっへんです」
「カメラで一枚」
「あ」
 壊れないように魔導カメラとメモと台紙を渡していたので、クウが撮る。
「かっこいいよ。きっと領主さんもルゥルの姿見られて嬉しいというよ」
 よじよじと降りてくるルゥルは照れ笑いをする。
「お姉さんは、皆さんと行かないのです?」
「あー、カイはどうでもいいけど、リラのために見守るのよ」
「大変ですねー」
 しみじみ言うルゥルにクウはにかっと笑った。
「見回りご苦労様」
「これが私のお仕事です」
 ルゥルはクウと手を振り別れた。
 一方、カイとリラは二人で見物に回った。
 リラは積極的にカイの腕をとり、引っ張りまわす。嫌がろうと何しようと。
「落ち着けよ」
「あっちにも面白いのあるのよ!」
「確かに……CAMにユグディラに……幻獣か」
 カイは苦笑する。
 その顔を見てリラは呟く。
「ね、落ち込んでたりしていない? 元気……に見えるけど、無理はしてない?」
「……あー、そこそこ元気だな」
 じーとリラは見る。その表情は真剣で厳しい。彼が好きな人がいて別れた後であり、嫌いになっているわけではないと状況だとも知っている。
 そしてリラはカイのことが非常に気になる、幼馴染として。
「元気? ならいいけど。でも、言いたくないなら無理に聞かないけど、そばにいるから! それだけでいいならするから! 頼ってよね?」
 カイは目を見開いた後、彼女の心を感じ細めた。
「自業自得で仕方がないけどな。惚れた相手が幸せになるなら俺はいいんだ」
 「でも」という視線をリラから感じる。
「気遣いサンキュな」
 カイは笑ってリラの頭をなでるように手で触れる。
「ちょ、子ども扱いじゃない? これ!」
「俺が年上だろう?」
「ちょっとじゃないの!」
 二人は笑った。

 チューダの像は子供の突撃を受け止める。安全だと分かっていると子供は結構無茶をする。
 凜華は一応危なくないように見張っていたが、村人も用心して見ているため安全は問題がないようだ。
「わーーー」
 見回りのルゥルも飛び込んだ。
 ぼふっ。
 仕事忘れているようだが、凜華はその様子を笑いながら眺める。
「子供たちの笑顔は見ていてこちらが嬉しくなるわね」
 隣のたぬきのお置物でも、子供はよじ登りハッスルしている。
「さて、そろそろ、片付けもしておきましょうか」
 こうやって使っても草はあちこちに転がっている。
 丈夫な熊手を借りて、まずは自分が借りた近辺を掃除する。草は集まるため、集積所に置いてくる。それから、バイクの後ろに括り付け村の周りを走ってきた。
「確かにこれはすごいですね」
 火気厳禁と言いたくなるのはよくわかった。
 改善されることを祈りつつ、しばらく掃除を手伝った。

 たぬきの大きな人形に子どもたちがよじ登り、転がって下りてくる。
「おじちゃん、楽しいよ」
「すごく高いよ」
 北斗の周りに子どもたちは群がり、お礼を言う。そして、またよじ登って転げてくる。
「木登りくらいしかないから」
 北斗にぶっきらぼうに言ってから、ちょっと大きい子が弟妹を連れて遊ぶ。
 喜んでくれたのはよくわかった。
「他のもいろいろおもしろいのだ」
 見てくるべきか、それともここで子供たちが危なくないように見ているほうがいいのか。
「楽しい姿を見るのがうれしいのだ」
 見ているだけであきない。
 子供たちの歓声が響き渡っていた。

 日が落ちるまでそれぞれの休日を過ごす。

●報告
 イノアは行くことができなかったが、ルゥルが目をキラキラさせ報告に来たとき良かったと思った。
「皆さんにいろいろ考えていただけて、幸せですわ」
「良かったですう。それと、ユグジラは近々みられるかもしれないです」
「ゆぐじら?」
「ゆーぐーでぃーらです」
「……そうですか。ハンターの皆さんもルゥルさんにも感謝してもしきれないです」
 ルゥルは照れる。
 ルゥルと夕食をとりつつ楽しい報告会となった、撮った写真とともに。

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MVP一覧

  • 恋人は幼馴染
    フィリテ・ノートka0810
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    レイオス・アクアウォーカーka1990
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカka3496
  • 厳かなる鳴弦
    陶 凛華ka5636

重体一覧

参加者一覧

  • 恋人は幼馴染
    フィリテ・ノート(ka0810
    人間(紅)|14才|女性|魔術師
  • 英雄譚を終えし者
    ミリア・ラスティソード(ka1287
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ミリア・ラスティソード(ka1287
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
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2017/03/18 19:42:43
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
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最終発言
2017/03/20 16:53:30
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ディーナ・フェルミ(ka5843
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2017/03/20 22:19:16