• 王臨

【王臨】【空の研究】雷華皓々と乱れ咲く

マスター:紺堂 カヤ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/03/28 19:00
完成日
2017/04/05 15:00

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 グラズヘイム王国・王都イルダーナ。その片隅に施設をかまえる「空の研究所」に、研究員がひとり、加わった。
 名は、キラン。輝嵐、と表記するらしい。真っ黄色の髪をパイナップルのヘタのように逆立てているのが特徴の男だ。
「へー、じゃあスバルくんはもともとはその……、なんて言ったっけ、ナントカって貴族の旦那のところで働いてたんだ?」
「ルッツバード氏です。正確には、ルッツバード氏の秘書のシールズ氏の召使いでした」
 キランは、空の研究所の職員である青年・スバルと共に昼食のサンドイッチを頬張っていた。
「へー、そっかー。スバルくん十八歳だっけ? 若いのにしっかりしてるよねえ」
「いえ……、若いって、キランさんも同じくらいでは?」
「え? 俺? そう見える?」
 キランがぱあっと顔を明るくする。そこへ、黒いローブを纏い、なおかつローブのフードをすっぽりとかぶった女がやってきた。アメリア・マティーナ。この「空の研究所」の所長である。
「キランはもう三十を超えてますよねーえ」
「えっ」
 スバルが驚いて言葉をなくす。外見からも言動からもそうは見えない、という正直な意見を飲み込んだためだろう。
「アメリア~、俺、若く見られちゃった~! 俺はいつも、キラーンと輝く! 輝嵐だけに! なんつって!」
 キランがお得意のキメ台詞をノリノリでかました。スバルが愛想笑いをするのを申し訳なさそうに見やってから、アメリアは口を開いた。
「楽しそうなところすみませんがねーえ、お仕事ですよーお」



 仕事というのは、実はハルトフォート砦の指令であるラーズスヴァンからもたらされたものであった。
 すなわち。
「ベリアル軍と戦うのですよーお」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
 こともなげに言ったアメリアの言葉に、キランが慌てる。
「ここは「空の研究所」だろ? 傭兵軍団じゃあない。そもそも、研究所には今アメリアと俺しかいないし、どちらも戦闘が得意とは言えない。なんでそんな仕事が回ってくる?」
「キラン、貴方がここへ来る際にあったことを覚えていますかねーえ」
「覚えているさ。ついこの前のことじゃないか。カント村の周辺に、ベリアル軍の小隊がいた、というあれだろ」
 リベルタース中部の西の端にあるカント村近くに、ベリアル軍の者らしき姿を発見し、ささやかながらアメリアたちが調査をしたのだ。
「あの一件もあって、ラーズスヴァン殿はあちらの方面の警戒を一層強めたそうでしてねーえ。その結果、どうやらまとまった軍勢が近く王都を目指してくるようだとわかったのですよーお。予想ルートも算出したというのですから、ラーズスヴァン殿は優秀な部下をお持ちですねーえ」
「そこまでわかってたら楽勝じゃねえか」
「まあ最後までお聞きなさい」
 アメリアはフードの下で苦笑した。
「ルートを算出したわけですから、待ち構えて迎え撃つつもりでおられるようです。幸い、ルートはほぼ一本道。網を張るのにさしたる苦労はないのですがねーえ」
「ほぼ一本道」
「ええ、ほぼ、です」
 アメリアが何を言いたいのか正確に察知したキランが呟き、アメリアも肯定する。
「一か所だけ、細い分かれ道が存在するのですよーお。その道も、回り道にはなれど、砦へ到達できるそうでしてねーえ。言うまでもなく、王国はベリアル軍の殲滅を目指しています。今回進軍してくる者たちも根こそぎ始末しなくてはなりません。ここを放置しておくのはあまりにも危険であると」
「つまり、その分かれ道で待ち構える仕事、というわけか。だが、なぜ俺たち「空の研究所」なんだ? カント村での一件で縁があるから、というだけではなかろう」
 キランはなおも食い下がった。致し方ないことと言えよう、彼はもともと医者だ。それも、戦いを嫌悪するタイプの。
「いいですか、キラン。今回、ベリアル軍が進撃してくるルートは、リベルタース地方中部西域の、さらに西端。ほぼ西部に位置するのですよーお。今、西部には……マーロウ卿の手の者がいます」
 キランが、ぴくりと眉を動かした。アメリアは穏やかに続ける。
「少しでも情報が漏れたり、派手な動きが見つかれば、これ幸いと介入してくることでしょうねーえ。もちろん歪虚対策が優先ですからそれも悪くはないのでしょうが、どうにも上は少々複雑なご様子。メインルートで迎撃するのにも気を使うに違いありませんからねーえ、分かれ道はなおのこと、目立たないようにしなければなりません。その点で、設立されたばかりの「空の研究所」は都合がよいのですよーお」
「……少人数だし、面も割れてない、何か見咎められても「知らなかった」で済まされそうな小さな施設、ってことか。しかしよぉ!」
「キラン。王国の危機なのですよーお。そしてこの「空の研究所」は王国のためにある」
「……」
 キランは、押し黙った。フードに隠れたままのアメリアの顔を、いくら睨み続けたところで彼女はこの仕事を放り出しはしないだろう。大きく息を吸って、そして、吐いた。
「わかったよ! 所長サマの言うことだしな! でもいくらなんでもふたりじゃ無理だろ。俺なんて役に立たないだろうから行かない方がマシなくらいだぞ?」
「ええ、もちろん我々だけでは無理ですよーお。ハンターの方々に協力を仰ぐ許可をいただいています。そしてキラン、自分でわかっているようですが、貴方は来なくて結構です。……貴方の不運を持ち込まれても困りますからねーえ」
 その一言に反論できず、キランは渋面を作った。キランは尋常でなく運が悪いのだ。
「ところで……、迎撃するのに良い方法はあるんですか?」
 これまで黙って控えていたスバルが、おずおずと質問をした。
「そうですねーえ。少人数で戦わなければなりませんからねーえ、とにかく相手の戦意を奪うことが肝要と思っているのですよーお。そこで、です。キラン、「雷華の枝」を使おうかと思っています」
「へーえ」
 キランがニヤリとした。スバルは神妙な顔で首を傾げる。アメリアが簡単に説明をした。
「人間はそもそも、体に電気を溜めこむことができる。静電気がいい例ですねーえ。それを利用した魔法ですよーお」
「いいかもしれないな。リベルタースの天気はまだ崩れがちだっていうし、上手くすればいいものが見られるかもしれんぞ」
 上手くすれば、の一言で、キランはますます、自分が同行しない方がいいことを悟るのだった。

リプレイ本文

 まるでピクニックにでもでかけるようだ、と「空の研究所」所長アメリア・マティーナは薄雲のかかる空を見上げつつ苦笑した。手元にはバスケット。黒いローブには似合わないことこの上ない。
 ハルトフォート砦の西端にて待ち合わせたハンターたちは、アメリアのその恰好を見て、ある者は面白そうな、ある者は怪訝な顔をした。アメリアはそのどちらにも唇だけで微笑みかけ、口火を切った。
「皆さん、よくお集まりくださいましたねーえ」
「こんにちは、アメリアさん」
 にこやかに挨拶をしたのは、マチルダ・スカルラッティ(ka4172)だ。
「よろしくお願いしますねーえ、マチルダさん。皆さん。あまり時間もありません、移動しながら計画を立てましょう」
アメリアが時間がない、と言ったのにはわけがあった。
「メイン道路で敵を迎え撃つ散弾になっている王国軍は、すでに迎撃ポイントに到着しているとの連絡が入りましてねーえ」
「我々も急がねばならんということだな」
 コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)が己の武器の点検を抜かりなく行う。雨を告げる鳥(ka6258)も目元を厳しく引き締めていた。
「私は報告する。陣形についてはすでにプランが用意できていると」
 戦いを内密に済ませる必要があることもふまえた陣形と作戦を、鳥が説明すると、アメリアは素直に感心した。
「素晴らしいですねーえ。よく取りまとめてくださったものです」
「それから、保険の為に「雨の子守唄」とやらを教えてほしい」
 そう申し出たのはルナリリル・フェルフューズ(ka4108)だ。アメリアはなるほど、とその発想にも舌を巻き、「雨の子守唄」の伝授をする。その間にも歩は進み、一行は迎撃ポイントへと到着した。
「敵が接近している様子はありませんね。まだ猶予はありそうです」
 央崎 遥華(ka5644)が道の先に目を凝らし、様子を探る。油断なく周囲の地形にも目を配り、これから始まるであろう戦いに備えていた。
「では皆さん、今のうちにこれを」
 アメリアは、持っていたバスケットの中から小瓶をいくつも取り出して皆に配った。
「ほう、これが例の薬かな?」
 小瓶の中の、無色透明な液体をチマキマル(ka4372)が興味深そうな視線で覗き込んだ。
「ええ、「体内の蓄電性・耐電性を高める薬」です。魔法を発動できるのはマギステルのみですが、飲むことで雷に巻き込まれる事故を多少は防ぐことができますので、全員、服用をお願いしますねーえ。ああ、マギステルの皆さまには呪文もお教えしておきます」
「多少は、防ぐ?」
 マチルダが訊き返した。薬の効果はできるだけ詳しく知っておくべきだ。
「ええ、多少、です。ですから、マギステル以外の方は、魔法の発動時、できるだけ雷の発生源、つまり私たちから離れるようにしてくださいねーえ」
「ほいほーい、わっかりましたー! ではさっそくお薬をいただきまーす」
 小宮・千秋(ka6272)が小瓶の中身を一息にあおる。と、一瞬にして表情を渋くさせた。
「う……」
 フィーナ・マギ・ルミナス(ka6617)も口元を押さえて呻く。
「ああ、言い忘れていましたねーえ。その薬、とても不味いのですよーお」
 アメリアはバスケットから口直し用のクッキーを取り出し、皆に配った。



 ハルトフォート砦への進行方向を向いて、右側にルナリリル、マチルダ、遥華、雨を告げる鳥。左側にチマキマル、フィーナ、千秋、コーネリア、そしてアメリア。いつの間にか、空は雲を厚くしており、道は薄暗くなってきていた。
「雨、降るでしょうか」
 フィーナが小声で呟く。アメリアは軽くかぶりを振った。
「あまり期待のできる雰囲気の雲ではありませんねーえ」
深く生い茂る草は、身を隠すには充分な条件だった。足場が悪いため、長時間の潜伏はつらいだろうな、と千秋は内心でこっそり心配をしたが、幸い、ほどなくして、敵のものらしき足音が聞こえてきた。
 ザク、ザクという足音に、ブェエエエ、グルルルという不気味な唸り声。ときどきピシリと鳴らされるのは鞭の音か。
 それらが、近付いてくるにつれて、チマキマルの目が爛々と輝き、コーネリアの双眸が鋭くなっていった。
「きた」
 そう、誰かが呟いた。
 はたして、総勢およそ三十と思われるベリアル軍分隊がハンターたちの前に姿を見せた。ざっと確認すると、羊型の歪虚が二十ほど。予想よりは少ないとはいえ、彼らは雑魔と化したゴブリンを十体ほど連れていた。ゴブリンは真っ直ぐ歩けぬようで、あっちへふらふらこっちへふらふら。そのたびに歪虚の持つ鞭が鳴らされるものの、鳴らしている方の知能も決して高くはないようで、隊全体が蛇行していた。
 敵のこの愚かさが、こちらにとって吉と出るか、凶と出るか。
「それでは諸君、始めるとしよう」
 チマキマルの低く楽しげな呟きが、最初の合図となった。紫の光が場に現れる。グラビティフォールによるものだ。
「ブェ!?」
 覿面に鈍くなった先頭の歪虚とゴブリンを。
「こんな一本道を束になって堂々と行軍するとは……甘いな」
 コーネリアのマシンガン「プレートスNH3」が打ち抜いていった。暴れ馬のように打ち出される銃弾に慈悲はなく、そもそも慈悲の必要はない。
「前に進むしか能がないのか、素人め? 戦術のいろはも分からん奴にはその身を以て叩きこんでやるほかあるまい」
 前へ出ようともがく敵を、見る間に霧散させていくコーネリアの戦いぶりは恐ろしいというよりはむしろ美しかった。彼女の言うとおり本当に、敵に前に進むしか能がなければこの戦いは一瞬にして勝利を収めたであろう。しかし、敵は別の意味で、能がなかった。
「メ゛エェエエエエエエエ!!!!!」
「ブフェエエエエエエエエ!!!!!」
 奇声を惜しみなくあふれ出させ、歪虚たちは一斉に、後方へと走り出した。それも、バラバラに。
「来ましたっ!!」
 遥華が叫ぶ。敵すべてが挟撃の範囲に入るのを待って後方に出てきた彼女たちは、出てきた瞬間にすぐ、敵に押し寄せられることとなった。
「こんなにあっさり、ためらいもなく撤退しようとするの!?」
 マチルダが驚きつつもアースウォールを、鳥が静謐の霧を、遥華がブリザードを使用する。土の壁に阻まれた敵が眠らされ、凍らされ、と足止めができたかに見えたが。
「くぅっ!」
 突然であった上に数が多い。すべてを食い止めきれず、遥華とルナリリルを弾き飛ばすようにして数体の歪虚が駆け抜けて行った。
「逃げられると思うなよ……!」
 弾き飛ばされ、足を負傷しつつも冷静な対処で素早く身を起こし、ルナリリルが走り去る敵に真雷炎波を浴びせた。ギャアアアアア、という無様な叫びが、魔法の効果を物語る。しかし、数体は攻撃を免れたらしく、そのまま走り去って行ってしまった。あれを追うよりも、先へ行かせぬことが先決だ、とルナリリルは前へ向き直った。この間に、マチルダはアースウォールをさらに二回使用し、防御と移動に有利な位置を選んで壁を作っていた。
 敵は、これ以上逃げられぬと悟って戦闘態勢に入りつつあった。混乱しすぎているのも困るが、肝を据えられてはなお困る。ハンターたちがそう考えて顔を険しくするが、それはこの魔術師も同じだった。
「雷華の枝を広げよ!!」
 アメリアが叫ぶ。それを合図に、マチルダ、鳥、チマキマル、フィーナが案山子のように両腕を真っ直ぐに伸ばす。遥華は先ほど歪虚が通りがかりにかすめていった傷を腕に負っていたが、魔法の発動に支障はないとみえ、毅然とした態度で腕を広げていた。ルナリリル、千秋が、マチルダの作った壁に身を隠す。コーネリアもギリギリまで敵に銃弾を浴びせながら魔術師たちから距離を取った。
 そして。
 六名が声を揃えて詠唱する。
「我が身の内の眩き電光よ、我が腕を枝とせよ! 我が腕を枝として、咲き乱れよ! 皓々と!!」
 パチパチ……。
 最初は、そんな小さな光の筋にすぎなかった。しかし。魔法を発動させたマギステルたちは感じていた。これは、こんなものには留まらぬ、と。自分の体内で膨れ上がる、雷の蕾の気配に酔いしれるように、フィーナが思わずつぶやく。
「花、開く……」
 その、瞬間。

 ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!!!!!!!

 音なき振動が、辺り一帯を駆け抜けた。
 六名の手から、雷の華が白に黄にと光を広げる。パシパシとお互いの光を弾きながら、それはまさしく、咲き乱れていた。薄暗い道が、カッと明るくなる。
「電気のピリピリした感じ、ありますねー」
 土壁の内側から様子を伺いつつ、千秋が呟く。痛みはないが、電気特有の、肌にまとわりつく感覚が、頬を撫でていた。
 驚きだけでなく、決して近寄ってはならないと思わせるだけの威圧感を、雷の華は生み出していた。歪虚もゴブリンも、手も足も出せぬ様子で直立している。
「好機!」
 コーネリアが叫び、銃撃を再開した。そちらへの警戒などまったくしていなかったゴブリンたちが見る間に倒れる。千秋もルナリリルも、雷の動きを見定め、姿勢を低くして壁から飛び出した。負傷した者にマテリアルヒーリングを、という考えがルナリリルの頭の端にあったが、それが出来そうな状況ではなさそうだ、と戦闘体勢のみに集中した。マチルダが配置した壁は実に効果的で、身を隠しながら攻撃を続けることができそうだ。
 チマキマルとフィーナは、「雷華の枝」にライトニングボルトを重ねた。効果の増大を期待しての試みであったが。
「ふむ」
 ゴブリンと歪虚を一体ずつ貫通したライトニングボルトを見て、チマキマルが首を傾げる。いつもよりも雷光は激しく、明るかったが、打撃が増大しているようには見えない。攻撃力には影響を及ぼさないものと思われた。
「なるほど。では」
 そう呟いて、チマキマルは「雷華の枝」を一度解く。同じタイミングで、鳥も一度解除をし、氷の棺をかけて歪虚を凍らせていく。それを見た遥華も、ブリザードで鳥を援護した。
「実験台になってもらおう」
 チマキマルは自らが改造したファイアーボール『凶作祝いの花葬』を打ち込んだ。歪虚の身体を餌にするがごとく、黒い花が召喚される。花は美しいままではいてくれず、敵を燃料にしてパチパチと燃えた。ブェエエエエエ、という叫びと共に、歪虚が滅する。
「おおお、成功だ!!!」
 チマキマルが歓喜の声を上げた、そのとき。
「あっぶなーい!」
 ドカッ、とチマキマルの背中にぶつかるものがあった。千秋だ。
「ふー、危ない所でしたー! すみません、防ぎきれず」
 ふうふうと息を荒くし、千秋が詫びる。チマキマルを後ろから殴り倒そうとしていたゴブリンを、身を挺して弾き返したのである。しかし、完全には攻撃を防ぎきれず、チマキマルは背中に、千秋は両腕に、ナイフによる切り傷を受けた。
「いや、こちらこそすまない。実験に熱中しすぎたようだ。命拾いしたな」
 そして、チマキマルは自分を傷つけたゴブリンに成功したばかりのファイアーボールをお見舞いした。
「アメリアさん!」
 遥華が再び、雷の華を腕に咲かせながら叫んだのは、そのときだった。彼女は目線で空を示す。頭上には。
「真っ黒な、雷雲……。アメリア!」
 鳥も叫び、再び「雷華の枝」を発動させた。アメリアは雷光を全身にまとわせたまま、大きく頷く。
「千秋さん、コーネリアさん、ルナリリルさん、もう一度、壁に!」
 マチルダが声をかけたとき、コーネリアは見事銃弾をゴブリンの胸に貫通させ、ルナリリルは歪虚を蒼機剣で斬り伏せたところだった。ふたりとも、すぐさま土の壁の方へ身を翻す素早さは実に華麗だった。
 千秋がチマキマルのそばを離れ、そのチマキマルがフィーナの隣で「雷華の枝」を発動させた、そのとき。

 ドドドド……、バリーーーーーーーーッ!!!!!!!!!

 凄まじい音と、光と、衝撃が大地に降り注いだ。
 雷が、落ちたのである。
 鳥が凍らせ、身動きのできないでいた敵の上に。
「一挙、撃滅」
 喜びを含んだ声で、誰かが、呟いた……。



 道は、急にすっきりとした。こんなにも広い道だっただろうか、と決して広くはないこの場を錯覚してしまうほどに。
「何事もなかったかのように、とは、さすがにいきませんでしたが……」
 遥華が苦笑する。
「私は考える。巨大な雷が落ちたことは事実。自然現象の観測という言い訳は充分通用するであろう」
 鳥が言うと、マチルダも苦笑しつつではあったが同意した。
「ちょっと苦しいところだけど、あの一撃にインパクトがあったことは確かだしね」
「雷の華は咲き、本物の雷も落とせた。魔法は成功と言っていいだろうな」
 チマキマルはそう言いながら、己の中で今回の魔法に関する実験考察をしていた。今回の結果も、今後の探究に役に立つであろう、と。
「でも、取り逃がしたっ」
 ルナリリルが悔しそうに唇を噛む。そう、敵は、少数とはいえ、逃げおおせている。取り逃がしたのはルナリリルの所為ではない。だが、目の前で走り去られた彼女にとってみれば腹立たしいことこの上なかった。
「逃走した敵は、おそらくメインの道へ向かうことでしょうからねーえ。今、王国軍の方へ連絡を入れましたよーお」
 アメリアはそう言って、皆に深々とお辞儀をした。
「どうしたというのだ」
 コーネリアが怪訝そうに問う。
「ありがとうございました。傷を負わせてしまった方もいて、申し訳なかったのですが、皆さんのおかげで、敵を一体たりとも先へ通さずに済みましたからねーえ。それも、こんなにも迅速に。よく計画を練ってくださったおかげです。「雷華の枝」も成功しましたしねーえ。私も、あんなに美しく咲き乱れ、かつ、大きな雷が落ちるところを見るのは初めてでした」
 戦闘の直後には似つかわしくない和やかさで、アメリアが語った。
「ハンターにこの程度の怪我はつきものです。気にするに及びませんよー」
 千秋が明るく笑い飛ばす。アメリアも釣られて唇を笑みの形にした。
「ありがとうございます。さて。折角、迅速に事が済んだのです、皆さんはすぐにハルトフォート砦へお戻りくださいねーえ。余計な者に、目をつけられる前に」
「あなたは……どうするの……?」
 フィーナが小首をかしげる。
「私はメインの道の方へ向かいます。折角、この身にまだ雷を宿しているのですからねーえ。逃げてしまった敵にも、味わわせて差し上げなければねーえ」

 深くかぶったフードから、唯一のぞく唇が、冷たい笑いを帯びた。

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MVP一覧

  • 黎明の星明かり
    マチルダ・スカルラッティka4172
  • 雨呼の蒼花
    雨を告げる鳥ka6258

重体一覧

参加者一覧

  • 竜潰
    ルナリリル・フェルフューズ(ka4108
    エルフ|16才|女性|機導師
  • 黎明の星明かり
    マチルダ・スカルラッティ(ka4172
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 迷いの先の決意
    チマキマル(ka4372
    人間(紅)|35才|男性|魔術師
  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • 雷影の術士
    央崎 遥華(ka5644
    人間(蒼)|21才|女性|魔術師
  • 雨呼の蒼花
    雨を告げる鳥(ka6258
    エルフ|14才|女性|魔術師
  • 一肌脱ぐわんこ
    小宮・千秋(ka6272
    ドワーフ|6才|男性|格闘士
  • 丘精霊の絆
    フィーナ・マギ・フィルム(ka6617
    エルフ|20才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【相談卓】寡兵の意地
コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
人間(リアルブルー)|25才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2017/03/28 18:56:36
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/03/28 18:52:55