13番目の死の物語

マスター:藤山なないろ

シナリオ形態
ショート
難易度
不明
オプション
  • relation
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/03/30 22:00
完成日
2017/05/23 00:57

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

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オープニング

●XIII 死

 タロットの大アルカナは、0から始まり22に結実する一つの物語を表している。
 それは、始まりのカード0番「愚者」が、これから歩んでゆく人生という長い旅路を描いた物語。
 人の魂の移り変わりを描いたもので、一般的に「The Fool's Journey」の名で語り継がれている。
 タロットが描くのは、人の一生における“出会い”だ。それは時に可能性との出会いであり、父性や母性との出会いであり、誘惑であり、選択であり、そして希望との出会いである。
 人は、誰しもが人生という旅のなかで数多の出会いを経て、成熟を重ねながら価値観を形成し歩んでゆく。

 これは、持たざる一人の少女が始めた人生という名の旅であった。

 【0 愚者】/ユエル・グリムゲーテ(kz0071)
 生後の環境や要因により意味を持たされる者は多いが、本来人は誰しもが“自由”な存在だ。
 無限の“可能性”を秘め、これから始まる旅へと立つ。
 この物語は、“あの日”に始まった。

 【I 魔術師】/ワールドウェイク 「普通」
 王国歴1014年10月、これが物語の“起源”だ。
 愚者たる少女は、自らの世界を目覚ます“機会”に出会い

 【II 女教皇】/【黒祀】ブラック・イースター 「成功」
 ある日、“直観”を信じて戦へと身を投じ、そこで世界の有様を“知る”。

 【III 女帝】/運命の輪【WheelofFortune】 「大成功」
 父の死後、“家庭”の欠損を補い、更なる“繁栄”に尽力を開始した少女は

 【IV 皇帝】/【不動】相剋の叙唱 覇軍の主は死地で嗤う 「大成功」
 その道の先、社会を“支配”する力を目の当たりにするが、強い“責任感”から怯むことはせず、

 【V 教皇】/【聖呪】クリスタリゼーション 「成功」
 傷つきながらも他者の“優しさ”で、徐々に“自信”を得て心を育ませた。

 【VI 恋人】/或る少女の不確定性原理 「大成功」
 結果、勇気を出して自ら望み、“異なる価値観”に触れ、自身の在り方を“選んだ”少女は

 【VII 戦車】/【聖呪】パラダイムシフト 「普通」
 “負けたままでは終われぬ”と足掻き、因縁の相手に挑むも真の勝利を得るには及ばず。

 【VIII 正義】/【聖呪】アン・スピーカブル 「大成功」
 しかし、かけがえない友の“誠意”で、自らの思う“正き行い”を再び採択でき、

 【IX 隠者】/【聖呪】【審判】決戦、クラベルを討伐せよ 「大成功」
 そうして己の“内”と向き合い、重ねた“知恵と経験”により、遂に勝利を収めるに至る。

 【X 運命の輪】/リヴァーサル・オブ・フォーチュン 「大成功」
 そんな少女を待ち受けていたのは、“転換点”の到来……。

 【XI 力】/禁断の果実 「成功」
 貴族政治において大人と自分との絶対的な“力量差”に気付き始めた少女は
 今は“自制”を言い聞かせるばかりであったのだが

 【XII 吊るされた男】/【王臨】きみが世界に生まれた意味を 「失敗」
 新たな“試練”に臨むも、失敗に終わる。
 アルカナは逆位置を示し“自暴自棄”を諌める術を得られず。
 少女はその心のまま、12番目の分岐点を過ぎて行った。

 次なる物語は【XIII 死】。ある少女のデッドエンドの運命日。
 手の長さが、呼吸の深さが、心の温かさが十人十色であるように、寿命や運命は人それぞれだ。
 時は王国歴1017年。リアルブルーの文明が流入したこの世界の価値観の中では、学者曰く「運命と呼ばれるものですらエネルギー(熱量)で定義することが可能」なはずで、同時に熱量で定義可能なものは「熱量の介入によって影響を及ぼせる」事でもある。
 それは「運命は変えることが出来る」という、言葉にしたら陳腐だけれど酷く困難な現実。
 象の巨体を蟻の力で動かすことが至難なように、運命は並大抵のことでは動かない。
 しかし、ここに彼女が三年間得てきた「縁ある人々からの熱量」がある。
 そして、あなたたちがいる。

 少女の人生最大──あるいは“最後”の分岐点「13番目の死の物語」が、いま幕を開ける。

●死地

 黒大公来襲の知らせを受けた王国軍は、即応部隊である騎士団赤の隊の出撃を命令。同時に“近隣を所領とする貴族より兵力を募り”防衛線を展開した。
 一度撃退した相手である以上、次こそは必殺と意気込む王国軍だったが、その空気はベリアルの様相の変化が報告されるとすぐに消え失せていく。
 ベリアルの変調も勢いも、全てが凄まじかった。これまで西部の激戦区で歪虚の侵入を阻み続けて来た幾つもの砦が、瞬く間に攻め落とされた。人々は逃げる間もなく蹂躙され、幾つもの村々が焼かれた。
 急派された王国軍はこの情報を得ると指揮官達の合議により方針変更を余儀なくされる。
 王国側は急造の混成軍。移動の疲れも残り、横の連携も確立されていない。悪条件の中で黒大公の軍と戦っても勝ち目が薄い事は誰の目にも明らかだ。
 だがここで時間を稼がなければ、ベリアル襲来までにハルトフォートでの全軍集結が間に合わない。
 苦渋の決断の末に、王国軍の混成部隊は野戦を開始。
 赤の隊を中心とする騎士団、聖堂戦士団、現地領主の私兵軍は身を隠す場所の無い平野において、ベリアル軍を前後より挟撃。
 後方から回り込み進軍する西軍は、赤の隊を中心とする高機動部隊。
 対して前方より挑みベリアル軍を足止めする東軍は、王国西部を領土とする領主達を中心とした貴族連合軍。
 その貴族連合軍の一部隊に、ユエル・グリムゲーテ率いるグリム領私兵団があった。
「戦況は!?」
 ユエルの切羽詰まった声に、グリム領騎士は悲痛な叫びをあげる。
「それが……ッ、“機器の不調か、無線のチャンネル不一致か”、連絡が取れません!」
「そんなこと、有り得るはず……!」
 開戦から30分。その時既に東軍指揮官は戦場で討死し、部隊は壊走。
 だが、ユエル達グリム騎士団には“そのことが解らなかった”。
 連携するはずの後続部隊も戦闘開始以来なぜか姿が見えず、孤軍奮闘するも限界は近い。
 息を呑む。汗が伝う。これ以上は、持ちこたえられない。
 理解は一瞬。撤退の判断が遅れればそれだけ人が死ぬ、ならば。
「……ッ、グリム騎士団はこれより撤退を開始!」
 少女には苦渋の決断だった。けれど地獄は始まったばかり。
「退路から、高機動力の個体が単騎……いえ、二騎ッ!
 赤と緑の髪をした人型歪虚です! このままでは囲まれますッ!」
 どくん、と。
 いつもより大きな鼓動が身体を震わせた。
 “覚えのある容姿”と思い至った瞬間、頭の奥が痺れた。
 ──ここで、死ぬの……?
 冷静に周囲を見渡す。
 そこには共に戦場に赴いてくれた騎士とハンターの姿がある。
 ああ、よかった。それに気づけて、本当に良かったと少女は心底思う。
 今頃腑に落ちるなんて馬鹿みたい、と小さく笑って……剣を握りしめた。

リプレイ本文

●起

「あれが後方と連絡が取れない原因でしょうか……」
 猛進してくる双子星。クリスティア・オルトワール(ka0131)の記憶に刻まれた歪虚と、今こちらへ疾駆する歪虚の容姿はほぼ完全に一致していた。そんな状況を知ってか知らずか、傍に居たバリトン(ka5112)が白い顎髭を撫でつけながら唸る。
「退路から来たと言うことは、あやつ東軍に対して何かした後か?」
「もしかすると、東軍は既に潰走しているのかもしれません。“味方側から現れた人型の影響”か……“或いは何者かの謀略か”」
 シルウィス・フェイカー(ka3492)には、予感だけがあった。先のグリム領でのことを思い出す。教え子の少女を取り巻く環境は、“この状況を引き起こす十分な動機”足り得てしまう。だからこそ、シルウィスはこれまで彼女を案じてきたのだけれど。起こり得てしまった事実に、じくじくとした痛みが広がる。傍に居たもう一人のハンターが、溜息でもつくかのように言葉を吐きだした。
「……こう、なってしまったか」
 誠堂 匠(ka2876)の心境は、余りに苦かった。
 戦場は、激しい交戦の最中。武具がぶつかり合う音。魔法や技の炸裂する音。羊の雄叫び。傷ついた人々の悲鳴。無数の音が飛び交い、青年の嘆きは戦場に飲みこまれてゆく。
「いずれにせよ、この状況は私たちだけで打開する他ありません」
「ああ、そうだね」
 矢筒から流れるような動作で矢を引き抜き、番えるシルウィス。匠は言葉少なに首肯しながら、視線をすいと動かした。撤退命令を出した指揮官──ユエル・グリムゲーテの面持ちは、この戦場にあって不思議なほど清々しい。まるで「今になって漸く何かを理解出来た」かのような顔だ。
「……よく見ろ」
 ふと、少女の視線が敵から外れた。
「俺を、じゃない。あれを、だ」
 ユエルは、文月 弥勒(ka0300)の声に素直に従っている。
「どう見ても偽物だ」
「……」
「あいつはもうこの世にいない。だろ?」
 確かに、"彼女は自分達が葬った"。その事実を否定することなど、当事者だからこそ出来るはずがない。
「……はい」
 戦場での会話に冗長さは許されない。少年と少女は、それをもうあの歳で理解してしまっているのだ。
 ここが死地であること。わずか1秒の尊さ。それが生死を分けること。
 その事実に、匠は僅かな間だけ目を伏せた。瞼の裏に、悔恨を映すように。
 ──あの姿は、あの時の光景は、今も覚えている。
 いつかの日、目の前で喪ってしまったもの。それはひとつきりではない。
「状況はおよそ最悪ですが、諦める訳にはいきません。ですよね?」
 絶望するばかりでは何も進みはしない。ヴァルナ=エリゴス(ka2651)の鼓舞が、連合部隊一同の気持ちを奮い立たせる。
 東方より双子の人型歪虚。西方より羊型歪虚。両者接敵まで恐らく、あと約20秒。機を見て弥勒が強烈なオーラを纏い始めた。それは、烈火のごとくに燃え盛るマテリアル。同時に、クリスティアもスリープクラウドを後方へと放つ。瞬く間に5体の羊が眠りに落ち、後方の脅威は一時的に60%低減。
 ──今なら、動き出せる。いいや、今しかない。
「帰ったら、“それ”を渡したヤツをぶん殴りに行くぞ」
 少年は少女に告げ、そして大地を蹴った。
「……死ぬなよ」
 駆け行く背中から、そんな思いを零しながら。
「ユエルさん」
 少女が少年の背中から視線を引きはがすと、そこにはシルウィスがいた。
 その顔は険しく、いつもの様な穏やかさはない。けれど、優しさに溢れていることが感じられる。
「いいですか、諦めないことです。弦が切れようと、腕が折れようと……私は諦めない」
 彼らは、彼女らは、輝かしい未来を切り開ける“この世界にとって大切な人たち”だ。
「はい。皆さんを、こんなところで死なせませんから」
 少女は今まで見たこともないほど自然に晴々しい表情で笑う。けれど、シルウィスはすぐさま首を横に振った。
「違いますよ。 “この場にいる全員で生還しましょう”。その為にこそ、私は力を尽くします」
 それを忘れないで──そう言って、シルウィスは少女に背を向けた。

●承

 平和な世界を願った。
 大切なものと在る人生を夢見た。
 理想のために、数え切れぬほど弓を引いた。
 けれど、戦いはどんなに掛け替えのないものでも平気な顔で奪っていく──。
 ──生きる為に命を懸けることはできても、勝利の為に命を捧げることはできない。そんな覚悟は持っていない。
 これは、シルウィスの心の内。
 だからこそ、彼女は先程の教え子の表情が苦しかったのだ。違う道を示してやりたかったのだ。
 前方、赤髪と緑髪の少女と連合隊がついに激突。
 シルウィスは精神集中のため、一瞬の間だけ瞑目した。胸中を満たすのは、大切な者への思いだ。
 ──私は騎士の道を捨てた者。生き恥を晒し続ける『贋作者』。それでも……。
 ここに立つ彼女に、何のためらいもなかった。放つ矢がその心の有様を表すことだろう。
「今の私には、私の隣には、“今度こそ失いたくない命”が在るから、戦える」
 番えた矢は洗練された動作で放たれ、惑いなく奔る。それは前衛の頭上を越え、緑髪の少女に雨のように降り注ぎ、相手の全てを制圧した。
『Grrrrrrr……』
 歪虚から感じるのはおぞましいほどの狂気。呻きは既に言葉の形を成していない。
「これが限界を超えるってことかの……なんとも、哀れじゃ」
 バリトンのそれは百戦錬磨、老齢の戦士だからこそ“かける余地のある憐れみ”だった。けれどさほど余裕はない。
 緑髪はシルウィスに制圧されているとはいえ、自分が飛び込むのは巨大な戦斧の射程圏だからだ。
 しかし、バリトンはこれをこそ“是”として、不敵に笑う。
「呵々、間近に迫るとやはり圧が違う。たった二匹で『敵陣』に送り出されるだけはある」
 大ぶりの刀を構える。接敵まであと数秒。……二、一、捉えた。
 移動直後の隙をついて、側面から抑え込むように素早く回り込み、バリトンが吠えた。
「悪いが……ここで、止めるぞッ!!」
 イニシアチブは老戦士に軍配が上がる。繰り出されるのは、体躯と経験に見合う豪快で無駄のない剣閃。
「おおおおおおおッ!!」
 バリトンの二連の業が、余すことなく少女の体に叩きつけられた。刹那、歪虚に接触した切っ先から突如として輝きが増大。それはバリトンの力だけではない。込められた縁ある者のマテリアルが、歪虚を裂く刃により大きな力を与えてくれたのだろう。
 余りに鮮烈、余りに苛烈な剣撃が、緑髪の少女を切り刻む。
「嬢ちゃん、もう一発ッ」
「承知しています、すぐに……!」
 バリトンに応じ、シルウィスを背に庇いながらヴァルナが前へ出た。
「約束を果たすためにも……皆で必ず無事に帰るのですから!」
 大きく踏み出し、ぎりぎりまで引き付けた槍を少女の腹部へと渾身の力で繰り出し、穿つ。貫通したとは言い難いが、確かに歪虚の腹へと穂先が埋まる手ごたえは得た。
 そこへ、バリトンの逆サイドから迫る匠が抜刀。青年の心情は、ただ一つの答えに辿りつこうとしていた。
 何回、苦渋を舐めただろう。何度、傷ついてきただろう。何人、目の前で死んだだろう。
 ──自分の非力が悲劇を許した。
 事実を認めることはひどく苦しいことだった。
 もし教会で懺悔したなら、大方この手の説法が語ってきかされるだろう。
『歪虚がいなければ、こんなことにはなっていない。だから、自分を恨まなくてもいい』
 非力な自分への追及をやめ、歪虚を憎むのは自然な流れだ。けれど、それは根治にはなり得ない。歪虚を憎むことは対処療法でしかないのだ。もしも同じ状況が発生したのなら、また同じ結末を繰り返すことになる。
 匠はそれを理解していた。理解しながらも、『歪虚を憎むことで、現実と相対することから逃げてきた』のだ。
 だが、そんなのはもう十分だった。
 ――覚悟を決めろ。
 眼鏡の奥、意思の強いアンバーの瞳が感情に揺れる。
 握りしめる掌から、主のマテリアルを吸い上げ、刃は急速に硬度を高めていく。
『GRUAAAAAAAAAAAッ』
 怖気を覚えるほどに強い怒りの咆哮。
 だが、怯む理由はない。やるべきことがある。それは過去より未来より、明確な現在。
 ──奴を、後悔を……無力な俺を、越えなければ。
 アクセルオーバーで加速した青年は、超至近距離から仕掛けた。
 連撃は、深く、強く、歪虚の身体を繰り返し抉り、そして散らす。
「■■■■■■■■──ッ!!」
 未だシルウィスが押さえ続けている赤髪が解放されるまであと20秒。無駄な時間はない。
「……彼女まで死なせる訳には、いかない」
 その瞳は、遙か先を見据えていた。



 他方、赤髪は緑髪から約6m程度離れた位置に居た。緑髪の大斧の射程外に位置せねば、巻き込まれるからだろう。その人型二体を同時に抑え込み、後方の騎士団の壁となるためには「1体ずつ個別に囲い込む」か「長い壁が必要」だった。
 もとよりハンターたちは端から二体を分断させるつもりで居たのだ。最初から多少でも離れている状況は好都合だった。それに、弥勒のソウルトーチは確かに敵の視線を弥勒に集めたが、だからと言って「この後もし相方の歪虚が制圧された場合、彼女がそんな相方を置いてでも弥勒めがけて走ってくる個体」だとは到底思えなかった。ならば、現在時点で既に多少2体の間に距離があるのだから、直ちに人の壁を作って物理的に互いを分断してしまう「同時対処」を行うことで狙い通りの布陣を完了させるが良策だろう。
 赤髪対応は前衛が弥勒とリクの2名のみ。最低限あと一方向、誰かが敵の動線を潰さねば機動力の高い敵がすり抜け騎士団へと害をなすリスクを捨てきれない。そこへ、ユエルが申し出て赤髪の少女に接近しようしたのだが……その腕は、ある少年に引き戻されたのだ。
「俺が行くよ」
 振りかえると、ラスティ(ka1400)が笑っていた。
「え……?」
 少女は言葉を失った。なにせ、ラスティは銃撃手だ。前衛なんてやるべきじゃないし、当人もそれは重々承知している。だがしかし、少年は予感したのだろう。
「私では力不足だからですか……?」
「違うって。……ユエル、何て顔してンだ」
 苦笑するラスティ。しかし時間は有限。
「絶対に、なんとかするから」
 言い残し、少年は駆けだした。引き留めようとするユエルの肩をおさえ、クリスティアが諭すように言う。
「皆様に押さえて頂いている間に、私達は東へ抜けましょう。いいですね」
 撤退の判断が遅れれば死者が出る。だからこそ見切りをつけたのだ。稼いだ時間は1秒たりとも無駄に出来ない。
「……ッ、グリム騎士団、東進! ここを突破しますッ」
 呼応する騎士を背に、ハンターたちが赤髪へと駆けてゆく。囲い込みまであと数メートル。……そして、接敵。
「リク、弥勒、頼んだぜ……ッ!」
 眼前の脅威めがけ、ラスティが放つはエレクトリックショック。だが、放たれた雷撃の勢いが、少女に接触した途端なりを潜めた。直後、弥勒がチャージングを乗せた刺突一閃を仕掛けるも、相手が容易にそれをかわしてしまうのを目の当たりにし、合点のいったラスティが声を上げた。
「あッ!? そうか、そういうことかよッ!」
 エレクトリックショックは『魔法攻撃』であり“ダメージを与えた場合に限り、敵に麻痺を与える可能性”が発生する。つまり、“魔法で相手にダメージを追わせることができなければ、そもそも麻痺させられない”わけだ。
 ラスティは、射撃威力は高いが、肝心の魔法威力は致命的に低く、赤髪の少女に傷を与える事が出来ない。
 つまり、ラスティのエレクトリックショックは「効かない」のだ。うっかりしてたよね!
 だが、人型を囲い込んだ彼らは、“Role”を十分果たせていたと言える。なぜなら……
「グリム騎士団、総員離脱完了! 皆さんも、早く……ッ」
 彼らの包囲が騎士団を安全に移動させることに寄与したからだ。だが、まだ戦いはこれから。
 ハンターたちは人型を抑え込んでいた都合、当然包囲を突破できていないうえに、「漸く手番」とばかりに人型が笑っていたのだ。
「■■■■■■──!!!」
 刹那、赤髪の少女が高らかに声をあげた。
「……ッ、今の……!」
 魔力の波動が身体を突きぬけて行ったと感じた時には、クリスティアは騎士団の面々と共に包囲を離脱しており、カウンターマジックの射程圏外に位置してしまっていた。
 察知したものの対策は及ばず、直後弾かれたようにクリスティアの馬が暴れ出す。落馬の可能性を意識していたため受け身をとれたクリスティアだが、馬は戦場の彼方へ突撃を開始し、やがて視野の先で羊の斧に潰され、息絶えてしまう。
 けれど、その状況でもなお、ハンターたちは大きな収穫があったと言える。
 “強制の影響が、ほかの誰にも出ていなかった”のだ。
 ハンターたちが成長してきたように、騎士団もユエルもきちんと成長し、練度をあげてきていることの証左。
「……いける。これなら、耐えきれる。僕らはもうあの頃のままじゃない」
 呟いて、キヅカ・リク(ka0038)はピースメイカーを強く握りしめた。

●転

 二体の歪虚対応班は同時に離脱を開始しなければ、片方の班が二体に嬲られるリスクを生んでしまう以上『同時対処』は欠かせない。
「目標、人型二体ッ! 総員、撃てーーーッ!!」
 グリム騎士団から無数の矢が空に放たれ、宙で弧を描き、落下。矢の一つや二つをよけることは容易だろうが、複数方向から飛来する矢の全てに対処するのは酷く面倒なことだ。彼女たちが気をとられ、矢に応じているうちが絶好のタイミングだろう。
「今だ、この機に抜けようッ!」
 リクの合図にラスティは首肯し、弥勒も追随。
 こうして、グリムゲーテ連合隊全員が無事歪虚の包囲を突破。
 ここまで僅か数十秒。ハンター側の被害は、羊の弓兵による射撃程度。
 考え得る限り最小限の被害で包囲を突破し、理想的な配置を確保したと言えるだろう。
 あとはシンプルだ。“後方から追いすがる歪虚一正面に対して、集中して戦いを展開すればいい”。
「UUUUUUHHHHHH!」
「AAAAAAHHHHHH!」
 連合隊の前には、8体の羊型歪虚と2体の人型歪虚。
 うち緑髪の人型の声に反応し、赤髪が“応えた”。
 それが何を意味するのか解らないが、人型歪虚の二人一組の連携が再開してしまったことは察知できる。
 彼女たちの視線の先にあるのは、ソウルトーチで未だ注目しやすい状態にあった弥勒の姿だ。
「狙い通りとはいえ、何をする気なんだか……来るよ、文月さん。気を付けて!」
「お手柔らかに、とはいかねえだろうな」
 リクの警鐘が響くも、弥勒の表情は仮面の奥で伺えない。
 直後、赤髪が吠えた。
「■■■■──ッ」
 当然、この“音色”には覚えがある。二度目の“強制”だろう。
「今度こそ……」
 即応し、クリスティアが高速で詠唱を開始。
 マテリアルの流れは、確実に弥勒ひとりに注がれている。単体強制だ。
 正直、それを打ち破ることが出来るかは解らない。むしろ、破れる確率は決して高くないだろう。
 だが、諦めるわけにはいかなかった。
 クリスティアが思い描くのは、先のユエルの様子。覚悟を定めたような、今まで見たことがない顔をしていた。
 ……それを思うと、胸が痛む。あの“いつかの追撃戦”の事を、嫌でも思い返してしまうのだ。
 ──最期の瞬間まで、諦めるわけにはいかない。
 だって。二度も同じ思いを、“彼ら”にさせる訳にはいかなかったから!
「弾けてッ」
 正と負。相反する二つのマテリアルが食らい合い、ややあって強制は結ぶ前に解けて消える。クリスティアのカウンターマジックが豪運にも強制を制し、赤髪の少女が驚いたようにその手を止めてしまう。
「今です!」
 この好機に、シルウィスが他方の緑髪へ向けて弓を引き絞り、放つ。
 連続掃射による矢の雨が緑の少女に食らいついた。制圧射撃は残り僅か。だが、それで十分だった。
「さて、仕上げと行くぞ」
 本来弥勒を操って何らか仕掛けるつもりだったのだろうが、強制は失敗に終わった。ハンターに追いすがってきた緑の少女は、現在孤立無援の状態だ。さらに、バリトンが間近で相対したその体は、既に多量の体液を流し、幾筋もの傷でボロボロになっている。これは、シルウィス、バリトン、ヴァルナ、匠の攻撃によるものだけではない。
「……これが、“人間”の力じゃな」
 グリム連合隊との交戦だけではない。彼女たちがここに到達するまでの間も、必死で抵抗し、諦めずに戦い続け、次にこの敵と出会う誰かの未来の為に一撃でも多くの傷を負わせる──そんな王国の人々の“あがき”が、そこに刻まれていたのだ。
「行くぞ!」
 老戦士の咆哮に、匠が応じる。
 バリトンの脚部に急速にマテリアルがめぐり、行動不能に陥っている少女の側面を陣取って叫んだ。
「うおおおおおおッ!!」
 繰り出す天墜。シルウィスの制圧で受けることも敵わない剣撃は、吸い込まれるように少女の肌を切り刻む。刃はそれに留まらず、血飛沫を伴いながらその身を捻らせ、今度は二度目の斬撃へと転じた。
『OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!!』
 苛烈な二連閃を耐えきることなどできず、遂に少女の腕が斬り落とされるも、ハンターの猛攻は止まらない。逆サイドから迫った匠も対傲慢刀を振り抜いたのだ。
 先程自身が付けた傷口をなぞるように刃を滑らせた途端、肉を裂く手ごたえが唐突に軽くなった。理解は一瞬。青年の目と鼻の先で少女の軸足が切断されて勢いよく転がり、戦場の土に塗れながら、燐光に変じて消えてゆく。
 衝撃にバランスを崩した少女本体はそのまま大地に倒れ込むが、未だ背筋が凍るほどの憎しみを世界にまき散らしている。
 宇宙外からの侵略者。今は言葉がかわせない相手だと言えど、ぶつけられる“負の感情”は受け取れてしまう。
「歪虚は……一体、何のために“在る”のでしょうか」
 ヴァルナが表情を歪めた。歪虚に共感するつもりはない。それでも、何故今自分達は歪虚と戦っているのか。彼らは何のために、どうしてこの星を、人間を、食らい尽くそうとしているのか。詮無い思いが胸を支配し、少女は頭を振りかぶる。
「さようなら。もう、二度とお会いしないことを……願います」
 そうして、ヴァルナは両の手で逆手持ちした龍槍を、思いの丈を込めて突き立てた。
 その穂先は歪虚の体を大地ごと抉り、やがて──黒い光となって、消失していった。



 他方、強制をかき消された赤髪の元へ走り込んだのは弥勒とリク。
 しかし相手もただただハンターたちの行動を許すばかりではない。
 接近中の弥勒に向けて、今度は少女の手からしなる何かが繰りだされた。長射程の鞭だ。
 視認することも難しい豪速の一撃が、何かの組織に触れた──その瞬間。
『A・A・A・A・A・A・Aッ!!』
 突如、短く震えるような悲鳴が少女の口から断続的にこぼれ始めた。
 鞭を伝い、強力な雷撃が少女の体に纏わりついたのだ。
「スロウすぎて欠伸が出るよ……って挑発もわかんないか。ま、ともあれ上手くいったかな」
 弥勒への一撃に身体を割り込ませ、敵の攻撃を受けとめたのは、リクだった。
 瞬間、少年は光る障壁を出現させ、鞭の先を完全にガード。
 無論それだけではなく、攻勢防御による麻痺が否応なく赤髪の少女の体を支配したのだ。
 総攻撃の時は、今しかない。後方に待機している騎士団員たちに向け、リクが声を上げた。
「力を貸してくださいッ! 目標、赤髪! これが最後の総攻撃だ──ッ!!」
 号令を待ち焦がれた彼らの手から、数え切れぬ矢の雨が降る。
 そこにタイミングを重ね、ラスティも指先に全神経を集中させた。
「こんな所で終わらせる訳にゃあ行かねェんだよ! イグニッションッ!!」
 その一撃は、狙い通りに歪虚の喉を貫いた。
 少年はもう、あの叫びを聞くのが耐え難かったのだ。
 黒色の拳銃から繰り出された弾丸が、少女から声を奪い、そして……
「比べたりしないぜ。てめえとも、話したい事はあった」
 崩れ落ちゆく少女の視界に、弥勒の姿が映り込んだ。
 仮面の奥に隠された瞳は、真っ直ぐに歪虚の姿を捉えている。
「……じゃあな」
 突撃するバイクの勢いを、その全てを蛇節槍に乗せ、繰り出す渾身の刺突。
 穂先が埋まり、少女の体が消える瞬間──その歪虚の貌は、先ほどより僅かだけ苦痛が和らいだように見えた。

 二対の人型歪虚の目撃から約二分足らず。
 グリム連合隊は、東軍指揮官を殺害した凶悪な歪虚を討ちとることに成功。
 東軍の撤退は劇的に生存率が上昇し、貴族私兵団の多くが命を救われることとなった。


 ──【XIII】番目の『死』の物語。
 ハンターらが力尽くでひっくり返したこのアルカナ。
 逆位置が示すのは、起死回生と新たな始まりだ。


●結

 グリム連合隊は、撤退完了後、砦に運ばれてくる負傷者のうち、治療スキルと応急処置で対応可能な者の処置を買って出ていた。
「嬢ちゃん、そろそろ休んだらどうだ」
「ありがとうございます、バリトンさん」
 休憩の最中、自然と集まるハンターたち。その輪の話題にのぼるのは、先程の苛烈な戦いのことだった。
「無事にここまで辿りつくことが出来て、本当に良かったですね」
 皆でテーブルを囲みながら、温かい紅茶に口を付けて一呼吸。ヴァルナが安堵の息をついた。
 誰もが首肯するなか、クリスティアは小さく苦笑して言う。
「私は……正直、ユエル様は“諦めてしまうのでは”と、思っていました」
 恐らく、この場の多くのハンターがそう感じていたのだろう。
 率直な言葉にユエルも苦笑しているが、言われたことの意味は十分理解していたのだろう。
「皆さんは、“生まれた意味”を考えたことはありますか?」
 突然の問いにハンターたちは驚きや戸惑い、はたまた呆れのような表情を浮かべている。
 仲間にがっかりされるだろうことを承知で、少女は心の内を明らかにした。
「この場に居る多くの皆さんがご存じの通り、私の幼少期は……辛い思い出に支配されています。我が家に“男児の跡取り”が長く生まれなかったが為に、母は家中から責めを受けたのです。全ては、それに端を発します。……この家には、私がいても“意味がなかった”のですよ」
 ユエルは精一杯“笑って”見せた。
 吐露されたのは、跡取りがいない家のために少女が奔走してきた日々の記憶。
 認めてほしい。必要とされたい。この世に生きる意味が欲しい。
 ただ、それだけのことだった。その為に、“女の子”として生きる道を捨てる覚悟すらした。
 けれど、その思いは何時しか歪み始めてしまう。弟の生誕。父の死。母の否定。
『真に、自分は不要だったのだ』
 そう気付いてからの地獄は長かった。自分の“理解”に見て見ぬふりをした。努力を惜しまなかった少女は、学校で好成績を収め教師の信頼や周囲の生徒の羨望を集めたが、望んでいたのはそんなものではない。
 ──気付けば、リクがおおいに不満顔をしている。ユエルは言葉を切って、少年に視線を送った。
「なんでそんなふうに思うんだよ。不要だとか、意味がない、なんてさ」
 きつい声音に、突然周囲が静まり返る。
「ユエルちゃんの“護りたい”って気持ちは本物だと思うよ。けどさ、そこに“生きる”覚悟が無きゃ死ぬ理由を僕らに求めてるのと一緒だろ?」
 その瞳で真っ直ぐにユエルを見つめながら、リクはなおも思いを口にする。
「僕が、嘗てそうだった。でもさ、力を手に入れた日に願ったのってそんな未来?
 違うだろう、そうじゃねーだろ!」
 心の底からの想いに自然と語気が強まるリクを、シルウィスがやんわり制す。
「キヅカさんの言うことは一理あるかもしれません。でも、ユエルさんの場合は少し違いますよね?」
「……」
「“生きる覚悟”……ひいては“生きる意味”が、貴女自身の中で見失われている。それはきっと、幼い頃のやわらかな心に強く深く刻まれてしまった“盲信的な目的”との向き合い方を見失ってしまったから。……だから、“死ぬ理由を求めている”のではなく、今の貴方にはもとより生きている意味がなかったんですよね?」
 シルウィスの温かくも鋭い考察に、堪え切れず、少女は言葉を詰まらせて俯いた。
「ねえ、ユエルちゃんの“生きる意味”ってどういう意味? それって本当に皆が持ってるものだと思う?」
「……どういうことですか? “無い”方が、いらっしゃるんですか?」
 リクの純粋な疑問と指摘に、ユエルがきょとんと首を傾げる。これにはラスティも溜息をつくしかない。
「あのな、ユエル。お前の無事を待ってるヤツがいる。王女サンとか赤いのとかうるさいのとかな」
「そう、でしょうか」
「そうだよ。だから、この場に居ない彼女らの分も、言葉を飾らず言ってやる。
 俺らには、お前が必要なんだユエル」
 少女の感情は、もはや言葉にならなかった。ただ、すうっと一筋の滴が赤い瞳の縁から零れ落ちてゆく。
「彼の言う通り、私達の事も、ご自身の事も……
 貴女が大切に思ってくれるように、私達にとっても大切なのですから」
 クリスティアも、そっと少女の手をとって微笑む。
「これまで繋いだ絆は、必ず、あなたの“支え”になるはずですよ」
「ッ……あの、私……皆さ、を……っ“生きてる意味”に、しても……」
「いいんです」
 抱きしめるシルウィスの腕の中、少女は人目もはばからず声を上げて泣いた。



 やがて、シルウィスに背中を擦られてユエルが落ち着いた頃。
「……こんなときに、ごめん。一つこの場で確認したい事があるんだ」
 誰もが疑いを持ち、誰もが心に留めていたこと。それが匠の口から問われた。
「ユエルさん、さっきから“そのトランシーバー”をずっと首から下げてるよね」
 どう答えるべきか悩む少女に微笑んで、匠は首を横に振る。
「無理に何か答えて欲しい訳じゃないんだ。けど、原因は探っておいた方がいい。あと……今回の出来事が領内で表だって問題視されると騎士団の皆も不安だろうから、水面下でやるのがいいと思うよ。俺からも“副長さんにうまく言っておく”から」
「はい。この度は、皆様を危険な目に遭わせてしまい、本当に……申し訳ありませんでした」
 深々と頭をさげるユエルの首から、ラスティがひょいと“それ”を取り上げた。
「隙ありッ。少し見せてもらうぜ」
 トランシーバーを前に舌なめずりをして、ラスティは指をぱきぱきと鳴らす。
 『機導の徒』で、少年は機器の状況を探るつもりなのだ。砦の備品のツールを手に、少年は躊躇なく暴いてゆく。
「ん~……通信出来なかった原因は、間違いなく“こいつ”にあるんだが……」
 そういって少年は機械の中身を指をさして見せ、覗き込んだリクが「うーん、これはちょっと……」と顎に指を絡める。
「経年劣化だとか、その手の類の故障かなぁ。詳しく見ないとダメかも」
「故意に破壊されたものではない、ということですよね」
 念を押すように尋ねるシルウィスに、リクはあっさりと、そして明瞭に答えた。
「人為的破壊の痕跡がないからね」
「ユエルさん、なぜこの通信機を持ち込んだのです? 事前確認は……」
「していますよ、ヴァルナさん。領で準備した際、一切の不備はありませんでした。問題は別のところです」
 ユエルは、トランシーバーのケース内面を皆に見せるように持ち上げる。
「なにもなさそうですが……?」
 首を傾げるヴァルナを肯定しながら、意を決した様子でユエルはこんな説明をした。
「その通り“なにもない”のです。機械は元々リアルブルー伝来の技術による産物で、お恥ずかしながら当家の伝統教育では弱い部分です。しかし、知識が及ばぬとはいえ、武家として在る以上、最新の軍備は必要……それを理由に、先代はある手法を採択しました」
「アドバイザー……識者に協力を取り付けた?」
 匠の問いに、少女は頷く。
「お父様は特に機械に弱い方でした。ですから、古くよりリアルブルーの血統を継ぐ優れた商人を頼ったのです」
「なるほど、理解しました。その“品質確認の印”が、裏蓋に刻まれていない……と言うことですね」
 ヴァルナの目つきが鋭さを増した。どうやら、此度の“一件”の事情が解ってきた。
「つまり“この通信機は、現在グリムが使用してる備品ではない”ってことだね?」
 リクの確認に対する答えは“YES”だった。



 やがて、駐留していたハルトフォートに王国軍が全軍集結したとの報せが入った。
 ここから再び、ベリアルを討伐するべく大規模な戦争が始まろうとしている。
 同行していたハンターたちも、一部の面々はその戦いへと出立したのだが、ユエルは大人しくそれを見送る決断をした。

 物見台から戦場を見渡していたユエルの元へ、軽口と共に弥勒がやってくる。
「いつもなら『我らグリム騎士団は、直ちに最前線に向かいます!』とか言いそうなもんなのに」
 当然『』の中のセリフはユエルの口真似だ。けれど、少女は反論せず、苦笑するばかり。
「そうですね。先の戦いを経験しなければ、私はそう言って最前線へ向かったと思います」
「……なんだよ、じゃじゃ馬が随分大人しいじゃねえか」
「私、本来は聞き分けがいいんですよ」
 やれやれ、と言わんばかりに弥勒は頭の後ろで手を組んだ。
 視線の先では黒い煙が幾つも立ち上り、激しい戦いを匂わせている。
「腹は決まったか」
「流石に“殴りはしません”けど、事情の追及はすべきです」
 終ぞ、一度も役に立たなかった通信機を抱え、少女は真っ直ぐに応えた。
「私の大切な騎士たちを、そして弥勒さんたちを危険に晒したこと。
 どういう背景であれ、明かさなければなりませんから」

依頼結果

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MVP一覧

  • 黒の懐刀
    誠堂 匠ka2876
  • 平穏を望む白矢
    シルウィス・フェイカーka3492

重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 古塔の守り手
    クリスティア・オルトワール(ka0131
    人間(紅)|22才|女性|魔術師
  • 壁掛けの狐面
    文月 弥勒(ka0300
    人間(蒼)|16才|男性|闘狩人
  • all-rounder
    ラスティ(ka1400
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • 黒の懐刀
    誠堂 匠(ka2876
    人間(蒼)|25才|男性|疾影士
  • 平穏を望む白矢
    シルウィス・フェイカー(ka3492
    人間(紅)|28才|女性|猟撃士
  • (強い)爺
    バリトン(ka5112
    人間(紅)|81才|男性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/03/26 18:08:56
アイコン 相談卓
誠堂 匠(ka2876
人間(リアルブルー)|25才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/03/29 22:31:13
アイコン 質問卓
誠堂 匠(ka2876
人間(リアルブルー)|25才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/03/27 18:24:08