• 哀像

【哀像】ブリと助手、突然の襲撃と告白

マスター:朝臣あむ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/04/08 22:00
完成日
2017/04/18 22:55

このシナリオは2日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「今回も今回とてリンドヴルムはやっぱり力持ちだ。私だけでなくキヨモリやその部下を連れても落ちないとは。流石だね!」
 何処かで聞いたことがあるような台詞を放ちながらリンドヴルムの眼下に広がる景色を眺める1人の青年。
 彼はいわゆる絶世の美青年と称される部類なのだが、ちょっと……いや、かなり頭が緩い。そんな彼の言葉に頷きながら肩を並べるのは、コートを羽織った巨大なゾンビだ。
「目標、補足。今回ノ任務……タマ、覚えテル?」
「ああ、勿論だとも! 今回の任務は人間を捕まえる事だ。この程度の命令は覚えていることが出来るとも。まあ、前回のギャム回収作戦に比べたらお茶の子白湯白湯の部類だよ!」
「キャム、ダヨ……ソレト、オ茶ノ子サイサイ」
「ん? ああ、そうか。ガムにお茶の葉こいこいか! このタムレッド・マリアーディ様としたことがついつい間違えてしまったよ!」
 はっはっは! と華麗に笑って胸を張るタムレッドことタマに必死に言葉を訂正するゾンビ。彼らが眼下に据えるのはウェルクマイスター社だ。ここには魔導アーマーの開発者が複数存在するという。
 彼らの今回の目標はその人間を捕獲する事だ。
「さあ部下を投入するとしよう! キヨモリ、リンドヴルムに指示を出してくれ。そしたら僕はここで高みの見物を――おや?」
 キヨモリこと巨大ゾンビに指示を出したタマは何かを発見して動きを止めた。
「あ、あのふぉるむ……そしてあのちびっこ……っ、こ、これは何のいたずらだ……?」
「ドウしタ、ノ?」
「……右頬が疼くんだ。とても痛い、痛く哀しい記憶が蘇ってくる」
 何があったのか。そう視線を動かしたキヨモリは直ぐに理解した。
 ウェルマイスター社に運び込まれる複数のトラックの荷台に乗せられた魔導アーマーは、いつぞやの際にタマとキヨモリを追い払った機体だ。確かその名を、
「渡るトムの汽車!」
「ちっがうのよさーッ!! なんなのよ、その某機関車みたいな名前わー! 渡り鳥の騎士なのよ!! 渡り鳥の騎士ーーーー!!!!」
「ッ、何が違うのかわからんっ!!」
「わかれぇーーーー!!!」
 良く聞こえたものだが、上空に佇むリンドヴルムを見上げて叫んだブリジッタは大層ご立腹の様子。
 どうやら彼女はプラヴァー正式実装に向けてウェルマイスター社で量産される機体の自主監督を行っていたらしい。今は出来上がったプラヴァーを倉庫に運び込む作業の真っ最中だったが、聞こえてきた声に思わず反応してしまったようだ。
 そしてそんなブリジッタの傍らで、1人の黒髪の青年が呟いた。
「ブリジッタ博士、覚醒者でもないにも関わらずその聴覚。このヘイアン、此度の感動を一生忘れはしないでしょう。そしてあれに見えるはリンドヴルム……さては至高の芸術プラヴァーを狙う不届きものかっ!」
 声と同時に抜き取った刀がブリジッタの頬を掠める。
 それに目を見開きながら、ブリジッタは「ああっ!!」と頭を抱えて座り込んでしまった。
「こんな場所で刀抜くんじゃないのよ……うー、何だって、こんな面倒なのがあたしの助手なのよぉっ」
 錬魔院を出発する直前に押し付けられた助手、それがヘイアンだ。
 彼は才能はあるのだが若干問題があり、誰かの元で修行させるべきだと判断されてブリジッタの元へ寄越された。しかし道中でも垣間見たのだが、問題あるのは如何見ても性格で、
「そこに見えるが不届きものよ! 至高の芸術品プラヴァー、そしてそれを作り出した天才美少女ブリジッタ博士に指一品でも触れてみろ。このヘイアンが許しはしない――喰らえ、超高速閃光剣!!!」
 ただの機導剣やないかーい! が、上空へ向けて放たれる。
 しかし届くはずもなく、リンドヴルムから一連の流れを見ていたタマが「ふっ」と鼻で笑う。
「キヨモリ、僕は怖い。意味は分からないが、すごくかっこいい名前の技すらもこの僕には届かないらしい。やはり僕が美し過ぎるからだろうか!」
「多分、違うヨ……」
「ふふ、そうだろうそうだろう。僕は美しい。そしてあの人間は何故だか気が合いそうな気がする。がっ、僕は任務をこなさなければいけないので攫うとしよう!」
「目標、ハ?」
「とりあえず全部が良い。つまり、ちんちくりんと黒髪の友、そして機関車トム!」
「ちっがーう!!!」
 しゃがんだまま叫んだブリジッタの目に、複数のゾンビが投下される姿が見えた。
 ゾンビたちはプラヴァーが乗ったトラックを囲み、ついにはそれごと持ち上げてしまった。これにはブリジッタも慌てたがヘイアンだけは冷静にこれらを見詰めていた。そして静かに囁く。
「出発前に手を打った甲斐がありましたね。大丈夫、助けは来ます」
「ほ?」
「調べさせて頂きましたが、ブリジッタ博士は各所で事件に巻き込まれる確率が高いですから、事前に救援要請を出しておきました。無駄足になっていたら目も当てられませんが、これで体裁は整いましたから問題ありません。それにブリジッタ博士には、まだ生きていて頂かないといけませんので」
 にっこり、笑った男にブリジッタの背にゾッとしたものが走った。
 この男、目が全く笑っていない。しかもトラックごとゾンビに運ばれているのに恐怖すら浮かべていない。
「あ、あんた……何者なのよ……」
「何者とは悲しい問ですね。私はブリジッタ博士もご存知の錬魔院研究員ヘイアンですよ」
「そうじゃ、ないのよ……あんた……何を考えてるのよ。あんたのその目……」
「やはり貴女には伝わりますか……私の錬金術への憎しみが……」
 ヘイアンは笑みを深めると瞳に浮かぶ光を黒く染めてこう囁いた。
「ええ、そうです。私は錬金術を、特に魔導アーマーを憎む男。錬金術師になったのは錬金術をこの世から無くすため。貴女や貴女が親しくしている錬金術師組合組合長とは真逆の考えを持つ錬金術師。それが私です」
「ふぉあ?!!?」

●依頼書
 ハンターソサエティ所属の皆様

 此度、ブリジッタ・ビットマン博士に緊急事態が発生致しました。
 つきましては至急ウェルマイスター社へお越し下さい。

 尚、此度の依頼はブリジッタ博士の生存が最優先となり、同行機体の損傷の有無は問わないものとします。
 この場合の同行機体とはブリジッタ博士が生存着手中の「魔導アーマー・プラヴァー」を指し、ハンターの皆様が所有する機体ではない事を明言しておきます。
 繰り返します。
 最優先はブリジッタ博士の生存。これは博士の要望でもあります。

 ではご助力をお願いします。

 錬魔院所属・ブリジッタ博士代理 ヘイアン

リプレイ本文

 混乱の様子を見せるウェルマイスター社。その倉庫前にいち早く到着した雨月彩萌(ka3925)は、自分の目に映る光景に眉を寄せた。
「……この状況。混沌、としか言いようのない光景ですね」
「うん。かなりシュール……」
 同意する天竜寺 詩(ka0396)は魔導バイクの足を止めると、現在の状況を確認するように視線を飛ばした。
 現在マイスター社倉庫前にて歪虚の襲撃が起きている。
 襲撃対象は倉庫、と言うよりも魔導トラックに搭載されている新型魔導アーマー・プラヴァーとその開発者のように感じる。その証拠に、現場は複数のゾンビ型歪虚がプラヴァーの乗る魔導トラックを担いで移動するという極めて不可解な状況だ。
「とにかく、ブリジッタを取り戻さないとな」
 零した瀬崎・統夜(ka5046)の声に、彩萌の口から「ええ」と声が漏れる。
「……ゾンビという異常は早々に殲滅したいです。わたしの正常を証明する為にも」
 そもそも彼らはその為にここにいる。
 彼らの目的はブリジッタの生存及び奪還だ。
 それはここに来るに至った経由である依頼遂行のための必須条件でもある。
「同行しよう」
 駆け出す彩萌にオウカ・レンヴォルト(ka0301)が続く。
 2人は頭上に佇むリンドヴルムに一瞥を飛ばすと己が武器を握り締めた。
 幸いな事にリンドヴルムに攻撃の意図は見えない。となれば目標は魔導トラックを輸送するゾンビ型歪虚だけだ。
「俺たちも行こう」
 やや遅れて到着したレオーネ・インヴェトーレ(ka1441)は、守原 有希遥(ka4729)に表情硬く告げる。
 そんな彼はこの状況に怒りを抱えていた。その原因は概ね彼らを招いた依頼書にある訳だが……。
「ぜってぇ許さねぇ……でもって、ぜってぇ負けられねぇ」
 奥歯を噛み締め、そのままアクセルを踏む。
 急発進するバイクに続いて自らのバイクも発進させながら、有希遥は僅かに思考を巡らす。
 そう、今回の依頼、色々と準備が良すぎる。
「……この依頼。タイミングになんか違和感がある」
「違和感、ですか?」
 問うたのは、先を行っていた詩だ。
 加速によって並走状態となった有希遥がチラリと視線を寄越す。
「うちの勘だが、タイミングが良すぎる。そもそもこの襲撃、どう見ても今始まったばかりって感じがする」
 そう彼らが急行したのは依頼を受けたから。なのに今の状況は襲撃直後にしか見えない。
 つまりこの依頼は襲撃が行われるよりも前に出されたと言うことになる。それは依頼主がこの襲撃を知っていたか、それとも変態級に探知能力が高いか、のいずれになる訳だ。
「タイミング。確かに良いと思うけど、そうなると……ブリちゃん……」
 心配げに唇を引き結ぶ詩を視界端に、有希遥のバイクが加速する。そして彼のバイクが魔導トラックに急接近した時、同じようにトラックへ向かっていたタマが警戒の声を上げた。
「邪魔者が現れたか。キヨモリ、あいつらを僕に近付けさせるな!」
 了解。そう返して加速したキヨモリがブリジッタの乗る魔導トラックに接近する。
 その勢いは見た目の巨大さとは正反対だ。
 あっという間にトラックの間合いに踏み込んだ彼は、トラックに手を伸ばすと機体そのものを掴みに掛かった。
「させるか!」
 トラックを引き寄せられてからだと色々面倒だ。
 有希遥は凄まじい音をさせながら車体とキヨモリの間に滑り込む。しかし!
「守原さん!!」
 詩が叫ぶのと有希遥が転がるのはほぼ同時だった。
 急なハンドル操作に車体が耐えきれなかった。有希遥はバイクと共に地面を転がり苦痛に呻く。
 そしてキヨモリはそんな彼の行動に驚いたように動きを止めた。
 どんな方法であれキヨモリの動きが止まった事は好機だ。
 レオーネは慎重にトラックへバイクを寄せると、荷台で困惑した表情を浮かべるブリジッタに手を伸ばした。
「ブリ……!」
 白馬の王子サマ参上。そう手を伸ばす彼にブリジッタが首を横に振る。
 これに驚いたのはレオーネだ。
「何でっ! 白馬じゃなくて拗ねてるのか?!」
「違うわいっ!」
 そもそも王子認定はまだだ! そう叫ぶブリジッタにレオーネの心が若干抉れる。それでも何とか持ち直すと、彼はブリジッタが掴む2つのモノに気付いた。
「……置いていけないってことか」
 ブリジッタが掴んでいるのはいけ好かない容貌の男とプラヴァーだ。
 状況から見るにこの男が依頼主のヘイアンと見て間違いない。
 レオーネは僅かな舌打ちと共に後方へ視線を飛ばすと、そこに詩がいるのを確認してバイクから手を離した。
「うおおおおおお!!」
 加速しているバイクからトラックへのダイブ。
 普通ならかなり危険な行為だが、今はゾンビに運ばれて動いている状態だ。相手の動きは普通のトラックよりも遅い。
 つまり、失敗してもそこまでダメージは大きくない!
「いえ。この場合、バイクの速度がかなりありますので失敗した場合はそれなりのダメージを受けるものと思われます」
「――て、冷静に分析している場合じゃないだろ」
 彩萌のツッコミを耳に統夜がライフルを構える。
 彼ら徒歩組は漸くの到着だ。
 ゾンビに照準を合わせた統夜に続き、彩萌も詠唱を開始する。そして双方の狙いが定まると、一気に攻撃が開始された。
「救出行動は時間との勝負です。障害は早々に排除しましょう」
 言葉と同時に放たれた光の衝撃が、前方を担ぎ上げるゾンビを撃ち抜く。次いで統夜の冷気を帯びた弾丸がその隣にいたゾンビの足を射抜くと、車体が一気に傾いた。
「天龍寺さん、お願いします」
 残りのゾンビを確認して彩萌が地面を蹴る。その姿にバイクの速度を緩めると、詩が祈りの歌を紡ぎ始めた。
「”眠れ。眠れ。魂無き子ら。今一度の安らかな眠りを与えん”♪」
 澄み渡る癒しの歌は死者への鎮魂歌だ。
 歌はゾンビたちの耳に届き、そして――動きを止めた。
「ブリジッタ!」「博士!」
 唐突な車体の停止を受けてブリジッタの体が車外へ放り出される。それに手を伸ばしたのはレオーネとヘイアンだ。
「お前……くそっ。ブリ、そこで大人しくしてろよ!」
 睨み合ったのも一瞬。男2人の力で荷台に戻されたブリジッタを確認して彼女から手を離す。そうしてトラックとプラヴァーに異常がないか確認していると、後方からヘイアンの声が届いた。
「何をしておいでですか。一刻も早くブリジッタ博士を安全な場所へ誘導するのが貴方がたの務めでは?」
「あ? んなこたわかってるんだよ。ブリジッタは……安全が確認できたら連れてく。そもそも。なんかうさんくせーんだよ」
「胡散臭い?」
 何が。そう問いかける視線にレオーネは「よし」と零して振り返った。
「あんたも、あの依頼も。全部だ。そもそもあのブリが『同行機体の損傷の有無は問わない』なんて言うか? 本人談を強調してるのも怪しいし……千歩譲って『どっちも大事に助けるわさ!』だろ!」
「貴方はそこまで博士の事を……」
 妙に感心したようにヘイアンが呟いた時だ。
「ブリちゃん、しっかりー!」
 詩の慌てた声に双方の視線が飛ぶ。
 そうして目にしたのは若干目を覆いたくなる光景だった。
「キュア! キュアだよ、ブリちゃん!!」
 慌てて清浄な光を注ぐ真下で繰り出される嘔吐物。完全にシリアスモードを奪う彼女の行動にレオーネの口から笑みが漏れる。
「間一髪で汚れるのを回避しましたが……果たして無事と言えるのか」
 やれやれ。そんな勢いで息を吐いた彩萌は、嘔吐物に汚れたプラヴァーを見る。そしてヘイアンに視線を寄越すと、彼女はブリジッタを抱え抱いてこう言った。
「依頼通りビットマンさんの安全を最優先とします。依頼主の身はご自分で何とかしてください」


 ブリジッタ確保を行っていたその時、トラックの前ではタマとキヨモリが無事なゾンビを侍らせてハンターと対峙していた。
「初めまして、オウカ・レンヴォルト、だ。よろしく、な」
「ああ、これは丁寧な挨拶痛む犬だよ。僕はタムレッド・マリアーディ。そしてこちらはタイラント・キヨモリ。僕の素晴らしいパートナーだ!」
 戦闘中とは思えない優雅な礼を見せる相手にオウカの首が傾げられる。
「痛む犬? ……ああ、痛み入る、か」
 成程。そう頷きながら印を刻む。そうして出現させたキーボードに指を這わすと彼の前に炎が出現。更にキーを打ち込むと、炎は扇状に変化してまるで生き物のようにキヨモリやその周囲のゾンビに襲い掛かった。
 苦痛の声を上げるゾンビに対し、キヨモリは平然と炎を振り払う。そして目の前のオウカを排除対象に据えると腕の筋肉を膨張させて踏み込んで来た。
「疾く祓い、縛りて鎮めん」
 咄嗟に紡いだ。満月の幻影。
 それを砕くキヨモリの腕は更なる加速を加えてオウカに迫る。
 そして顔面直前まで来て動きを止めた彼に、オウカの目が僅かに細められた。
「……あんた、強いんだ、な」
 スゥッと零れた血液はオウカのものだ。
 防護壁の役割をした月が鎖に変じてキヨモリに巻き付き動きを阻害する。そう、ここまでは良かった。
 キヨモリは鎖を引き千切るように更に腕を拡大させると、目の前にある顔を叩きのめしに掛かったのだ。そしてそれを叶えた結果がオウカの負傷だ。
「貴方モ、強イ……デモ、足リなイ」
 無の表情に垣間見えた『喜』。それに目を見開いた直後、キヨモリの動きが止まった。そしてオウカから視線を外すと同時に離れると、彼は後方に控えるタマに向かって走り出した。
「ふふ、この僕を狙うとは貴様らかなり卑怯だな!」
「うるせぇ! お前が無能だからキヨモリは過保護でいなきゃならない、助かるねえ!」
 有希遥は地面を蹴るとタマ目掛けて一閃を仕掛けた。
 以前の戦いや今回の様子からタマに戦闘能力はないと判断した彼は、キヨモリが離れた隙を突いてタマを倒す事を画策。そしてオウカのキヨモリが集中している今を好機と取って踏み込んだのだ。
「あはは、君は面白い冗談を言うのだね。けれど僕が無能と言うのは間違いだよ。うん、かなり間違ってると思う!」
「なっ」
 斬り込んだ攻撃。そこに手応えはあったが有希遥は己が斬ったものを見て目を見開いた。
「さあキヨモリ、僕たちの力を見せてあげるんだ!」
 タマを護るように滑り込んだのは倒れたゾンビの死体だ。
 キヨモリが投げたのか、それとも死体がタマを助けたのか、その辺りの判断は微妙だが、確かにゾンビはタマの盾になった。
 しかも盾になった瞬間、ゾンビの死体は鉄のように固くなったのだ。
 これが彼の能力だとするならばかなり厄介だ。
「死体があればその分だけ……ッ!」
 新たな事実に驚愕する間もなく、轟音を響かせて巨大な腕が迫る。それを阻害するように統夜が弾丸を降らせるが、腕の勢いは止まらない。
 そして、骨が軋む音をさせながら有希遥の体が吹き飛ぶと、彼は自らの刀を地面に刺して障害物へぶつかる危険性を回避した。
 タマと合流を果たしたキヨモリは鉄壁だった。
「効けば良いけど……」
 彩萌にブリジッタの事を託した詩がレクイエムを奏でる。
 先程、複数のゾンビに効果を為した歌だ。もしかしたら……そんな想いで奏でるのだが――
「微妙、だな」
 スコープ越しに見えたレクイエムの効果は一瞬だった。
 僅かに動きを鈍らせたキヨモリだが、完全に動きが止まるまでには至らなかった。けれど状況によっては効く可能性も考慮できる。
 統夜はキヨモリの先に居据わるタマに再び照準を合わせると、何の迷いもなく引き金を引いた。
 弾かれる弾。それによって氷を付着させる腕はキヨモリの物だ。
 撃つ弾、撃つ弾が弾かれ、タマに攻撃を届かせることが出来ない。そしてキヨモリの動きからダメージが蓄積されている様子も見えない。
 オウカは防戦一方にも拘わらず、こちらにダメージを与えてくるキヨモリに感心したように息を吐く。そして自らの手に銀色に輝く美しい剣を出現させ、地面を蹴った。
「……ならば。祓い給え、浄め給え――」
 彼の動きに合わせて統夜が冷気の弾を、詩がレクイエムを奏でる。そしてオウカの攻撃がキヨモリに届く直前、有希遥の二刀の刃が彼の防御を阻害した。
「キヨモリ!」
 タマの声と同時にオウカの美し一閃がキヨモリの腕が宙を舞った。そして勢いに乗って更なる攻撃を加えようとした瞬間、リンドヴルムが吼えた。
「リンドヴルムが降下してきます!」
 彩萌の声に全員が撤退を開始。
 魔導トラックの荷台にあるプラヴァーをそのままに、ブリジッタを抱えて移動する一行を、タマは苦々し気に睨み付けていた。


 リンドヴルムはタマとキヨモリだけを乗せて現場から離脱した。
 残されたのは襲撃を受けた痕跡とハンター、そして奪還したブリジッタとヘイアン、それにプラヴァーだけだ。
 本来であれば救出された喜びに沸くところなのだが、現在ブリジッタは激怒の真っ最中。その原因となっているのがヘイアンに巻き付けられた縄だ。
「これは何のつもりなのよさ!」
 そう声を上げたブリジッタに有希遥の眉が上がる。
「まだ何か仕掛けてるとも限らないだろ。このまま放置しておけばブリに危害が加わる可能性だってあるんだ」
 何故こんな事になったのか。
 それはブリジッタとヘイアンを奪還後、ヘイアンが語った言葉にある。
「錬金術が嫌いでそれを無くしたいって言ってた上に、今回の依頼だ。何かあるとは思うだろ……?」
 そうヘイアンは自分の目的を何の躊躇もなく彼らに伝えた。
 その結果がコレだ。
「極めて愚行です。何故この私が縛り上げられるのでしょうか?」
「そうですよ。何もこんな……ヘイアンさんにだって何か事情が……」
「ああ、美しいお嬢さん。私の為に貴女まで泣きそうになる事はありません。しかしこの状況が芳しくない事も事実ではあります。そもそも思想は個人の自由ではありませんか」
「う、美しいって……そ、そうじゃなくて、ですね。嫌いな物を極めるって凄い執念だけど、はいそうですかと認められる訳ないなって。事情を話してくれないと」
 彼は「成程」と短く零して考え込むと、僅かな息と共に語り始め――られなかった。
「ぶごふっ?!」「だっ!」
 ヘイアンの鳩尾を蹴り上げた足と、有希遥の顎を頭突きした頭。そのどちらもがブリジッタの物だ。
「いーから縄を解くのよ! こいつはあたしの助手なのよ! 助手の責任はあたしがもつって決まりなのよ! だいたいあんたもあんたで簡単になんでもかんでもしゃべるんじゃないのよさ! 大事な理由なんだろぉ!」
 ゲシッと今度は背中に入った蹴りにヘイアンの目が見開かれると、有希遥は「降参」と言った様子で両の手を上げて溜息を吐いた。
「……わかった。今回は開放する。だがブリ。お前にはあとで話がある」
「ほ?」
「店売りのゲームの話だ」
 そう言って笑った有希遥にブリジッタが震え上がったのは今回とは別の話――。

依頼結果

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MVP一覧

  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩ka0396

重体一覧

参加者一覧

  • 和なる剣舞
    オウカ・レンヴォルト(ka0301
    人間(蒼)|26才|男性|機導師
  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • 魔導アーマー共同開発者
    レオーネ・インヴェトーレ(ka1441
    人間(紅)|15才|男性|機導師
  • エメラルドの祈り
    雨月彩萌(ka3925
    人間(蒼)|20才|女性|機導師
  • 紅蓮の鬼刃
    守原 有希遥(ka4729
    人間(蒼)|19才|男性|舞刀士
  • 【魔装】希望への手紙
    瀬崎・統夜(ka5046
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/04/05 22:04:39
アイコン ブリへの質問室
守原 有希遥(ka4729
人間(リアルブルー)|19才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2017/04/07 15:01:16
アイコン ブリジッタ救援作戦司令室
守原 有希遥(ka4729
人間(リアルブルー)|19才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2017/04/08 20:15:57