• 哀像

【哀像】ラプンツェルの訓え

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/04/09 07:30
完成日
2017/04/17 00:49

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ――初めて作ったのは、確か小さな時計だった。
 “時間”という概念を理解した時、漠然とした恐怖に駆られたのを覚えている。
 時計は時間をつなぎとめる楔だ。刻まれなければ時は揺蕩い、あっという間に溶けてしまう。
 次に作ったのは、銃。
 それまでは拾ったものを改造して使っていた。でも、それでは物足りなく感じるようになった。
 知識と技術が暴力に直結する、それが魔導銃の魅力だ。
 暴力そのものを好んだわけではない。だが、暴力は何よりも恐ろしかった。
 それは時間を奪う。まだこれから無限に広がるはずだった可能性を一瞬で奪う。
 奪われるのが嫌ならば、奪われないだけの力が必要だった。
「まさか、噂の亡霊さんがこんな小さな男の子だったなんてね」
 傘を差した貴婦人はそう言って、ずぶ濡れの少年の前に屈んだ。
「それ、あなたが作ったの?」
 そこに興味を持たれたのは初めてで、少年はしっかりと頷いた。
「そう。すごいわねぇ、よく出来てます。でも、まだ甘いわね。例えば……ここ。安い素材でよく頑張っているけれど、これじゃあマテリアルの伝導が上手くいかないでしょう? 2,3回撃つ度に壊れていたはずよ」
「……すごい。なんで分かったの?」
「わかるわ。だっておばさんは、魔女ですからねぇ」
 魔女のおばさんは少年の頭上に傘を差し、無数の宝石で彩られた手を差し出す。
 それは高純度のマテリアルを結晶化した鉱石。それだけで技能の高さが窺い知れた。
「一緒にきなさいな、ぼうや。時は、有限なのだから――」

「え? ウェルクマイスタ―社に襲撃?」
 部下の報告を錬魔院の自室で聞き届けたナサニエル・カロッサの第一声は、「遅かったですね」だった。
 ウェルクマイスター社。それは帝都バルトアンデルス内に本社を持ち、各地に支社を持つ兵器販売を生業とする企業だ。
 一応は民間企業ではあるが、錬魔院の開発した兵器や魔導アーマーを量産、販売するのも彼らの役目である。
 錬金術師組合とも付き合いがあるのでその立場はなんとも言えないところだが、軍事国家の縁の下の力持ちといったところか。
「遅かった……と言うと、こうなることを院長はご存知で?」
「いや、普通に考えればわかりませんか?」
「わかりません! 現場には新型魔導アーマーとブリジッタ・ビットマン博士も出向いていますが、連絡が取れない状況です!」
「ああ……エインヘリアルタイプの。プラヴァー型の生産時期を彼らが狙ったとは考えづらいですが」
 包み紙から取り出した飴玉を口に放り、ナサニエルは愛用の魔導ガントレッドを引ったくって歩きだす。
 どこに敵が潜んでいるのかもわからぬ状況、プラヴァーを狙った可能性もあるにはある。
 先のエルフハイムの事件でもこっそり裏でヴルツァライヒや剣機の軍勢が動いているのは気づいていた。
 そして――剣妃オルクスというブレインが撃破されたことで、統率の効かなくなった連中が暴走することも。
 エルフハイムの事件は剣妃の独断にも見えたが、実際は違う。
 一部のエルフが反政府組織や剣機と共闘していた以上、あの構図を描いた者は他にもいて当然。
「しかし、大胆ですね」
 ウェルクマイスターの本社は帝都内にある。当然だが、あっという間に帝国兵に包囲されるだろう。
「敵の出どころは掴めてます?」
「は、それが突然現れたと……空からリンドヴルム型の出現も確認されていますが、それにしては数が多く……」
「じゃあ河ですね。ウェルクマイスターは中洲にありますから」
「剣機が河を……ですか? そこまで高度な隠密行動を取れるゾンビなど聞いたことがありませんが……」
「出来るのが作られたんでしょう。ゾンビは水中で呼吸も必要ないからいいですねぇ、いいなあ」
 錬魔院を出ると既に街には騒ぎが広まっていた。ウェルクマイスターから距離のあるここでも、燃え上がる炎の色が空に映し出されている。
 現場に急行しようと走らせる魔導車がイルリ河を目指す中、ナサニエルは退屈そうに町並みを眺めていた。
 そこへ突然、上空からリンドヴルム型が襲いかかる。機銃が火を吹き魔導車に大穴を開けると、ナサニエルを載せたまま高速でスピン、街灯に激突し停止した。
 炎上する車から飛び降りたナサニエルの目の前にリンドヴルムからフードの男たちが降り立つ。
「手荒い真似をしてすみません。でも、お迎えにあがったのです。機導術の真の王に相応しき、ナサニエル様……あなたを」
 外套の隙間から伸びる腕には、それぞれ異形の装置をまとっている。感じるのは負のマテリアルだが、魔導ガントレッドと見て間違いない。
「ヴルツァライヒか、エルフか……それとも錬金術教団とかいうヤツですかね? 確か、データで見た……そう、エルフのヴォールという個体が装着していたものに似ています」
「流石ですね。そう、我々は剣機と剣妃……その中間とでも言うべきでしょうか。そこらの新参者よりは気骨がありますよ。証明してみせましょうか?」
 小柄な人影が一歩前に踊り出ると、突然ガントレッドの掌の中に赤い光を帯びた刃が形成される。
 その一撃を自らのガントレッドで受けるナサニエルだが、力負けし弾き飛ばされてしまう。
「院長が素晴らしい機導師であることはよく知っています。でも、あのお方の叡智には叶わない」
「剣機博士、ですか」
「博士も院長が力を貸してくれる事をお望みです。何よりそれこそ、院長ご自身が望んでいたことじゃないですか!」
「私の望み……?」
 首を傾げるナサニエル。と、そこへ騒ぎを聞きつけた帝国兵が駆けつけてくる。
「僕が錬魔院に居た時に聞かせていただいた、あの願いですよ」
 帝国兵の銃撃に対し、赤い光の障壁で防御、そして広範囲に薙ぎ払うように赤い雷撃を放ち、容易く帝国兵を薙ぎ払って見せる。
 その小柄な青年にナサニエルは見覚えがなかった。一生懸命思い出そうとしてみたが、ピンとこない。
 だが、自分の願いだけは覚えている。そしてそれを知っている人物には、極わずかしか心当たりがない。
「まさか……剣機博士とは……」
 そこへ帝国兵に遅れ、ハンターたちが駆けつける。青年は忌々しげに舌打ちし。
「次から次へと……これだから愚者は嫌なんだ! アレを出せ!」
 上空から投下された何かがレンガ敷きの側道を粉砕する。
 外装を覆っていた布とロープを引きちぎり、巨大な肉塊をコクピットにみっちりと敷き詰めた異形の魔導アーマーが雄叫びを上げた。

リプレイ本文

 まるで生物のように雄叫びをあげる魔導アーマー型剣機。そこへ突如として幾重にも光が迸る。
 それは紅薔薇(ka4766)の放った次元斬。その攻撃に怯んだ敵陣へ、ハンター達は猛然と駆け寄っていく。
「先手必勝は戦の常道……そちらも準備は万端なのじゃ、文句は言うまいな?」
「私は文句あるんですけど……ビックリしましたよ」
「それはすまぬ」
 背後へ飛び退くナサニエルの言葉に苦笑する紅薔薇。
 その次元斬が直撃してなお動き出そうとする剣機を神楽(ka2032)の放ったファントムハンドが拘束する。
「てかワカメは狙われてんだからとっとと逃げるっす! ……無視すんじゃねーっす!」
 ナサニエルが引き下がる様子はない。流石に次元斬に巻き込まれては堪らないので、少し下がったが。
 剣機は近接攻撃しか攻撃手段を持たない。だが、神楽のスキルでかなり離れた位置で移動を封じられている。
 腕を振り回すだけの無様な状態。そこへシガレット=ウナギパイ(ka2884)が容赦なく銃弾を撃ち込んでいく。
「こいつもゾンビだってんなら、生身の部分が弱点だろォ?」
「ナサニエルさんには私がつきますから、皆さんは敵をお願いします!」
 大盾を携えた花厳 刹那(ka3984)がナサニエルにピッタリとつく。それを確認し、ファティマ・シュミット(ka0298)は三人の機導師へデルタレイを放つ。
「愚者……だなんて。お褒めいただいて光栄でです! 知らない事があればあるほど、沢山の事を見つけられるじゃないですか!」
 掌の内に血の剣を作りファティマへ襲いかかる機導師。その一撃を剣で受け止め、ヴァイス(ka0364)がカウンターで吹き飛ばす。
「どうやら民間人に被害はないようだな……なら、後はあいつらをどうにかするだけだ。ファティマ、行くぞ!」
「引導を渡してあげましょう、ヴァイスさん! あの方たち……機導師向いてませんから!」
 アウレール・V・ブラオラント(ka2531) はライフルで謎の機導師を攻撃する。この個体だけ、明らかに纏う負のオーラが強い。
「人には法を、歪虚には剣を……貴様がまだヒトであるのなら、命までは奪わん。悪い事は言わない、白旗を上げるならば今だぞ」
「人間風情が図に乗るな! 愚民が才人の邪魔をするんじゃない!」
「また自分達だけが特別か? 生憎だが、私はそういう者共が大嫌いなのだ」
 吐き捨てるようにアウレールが告げた瞬間、紅薔薇の次元斬が機導師の姿を覆い隠す。
 衝撃で吹き飛ぶ煉瓦道。それを敵は血の障壁を張りながら突っ込んでくる。
「血液操作能力……あれって、剣妃と同じ……? アウレールさん、気をつけて!」
 エイル・メヌエット(ka2807)がそう叫んだ直後、かなり手前――剣のリーチ外から敵は剣を振る動きを見せる。
 それにアウレールは反応し盾を構えた直後、切っ先が異常に延長された斬撃が放射された。
 すぐさま距離を詰め、自らもバスターソードを叩きつける。拮抗する二人、その側面から紅薔薇が滑り込み、刃を繰り出した。
 攻撃は障壁を貫通し敵を斬りつける。吹き出す血……だが、それは空中で凝固、変質して槍の形状を取る。
 明らかな奇襲。だが二人は難なくそれを弾き砕いた。
「何……!? こちらの動きに対応してくる……?」
「オルクスと同じ能力じゃのう。残念じゃが、何度も見ておるのでな」
「悪いが、踏んでいる場数が違うのだよ」
 青年は舌打ちし、それから拳に赤い稲妻を迸らせる。
「オルクス様の力だけではない。これが僕達、剣機の力だ!」
 放出された雷撃は嵐のように渦巻き、轟音を轟かせながら二人を貫いた。
「ナサニエルさんの意思は最大限に尊重します。でも、彼らと共に行かせることだけは出来ません」
 赤い光の迸る戦場を前に髪を靡かせながら刹那はナサニエルに目を向ける。
「私は“過去”のことは知りませんけれど、“現在”と“未来”にナサニエルさんが必要なことは知っていますので、全力で護らせて貰います。迷惑でも、ですからね」
 刹那の言葉にナサニエルは反応しない。じっと機導師の姿を見つめ、何かを考えているようだ。
 そんな間にも刹那は上空のリンドヴルムへの警戒を怠らない。今のところ戦域から大きく距離をあけているが、撤退する様子が見えない以上、いざという時には対応が必要だろう。

 マテリアルの炎を纏った七支槍を操るヴァイスは一撃は非常に苛烈で、近接攻撃にはカウンターも合わせてくる。
 だが距離を話そうとしても衝撃波で追撃がかかり、ファティマを自由にしてしまうため機導師たちは苦戦を強いられていた。
 襲いかかる機導師の攻撃を受け、カウンターの槍で打ち払う。強烈な一撃に血飛沫を上げる機導師。
 そして同時に仕掛けようとする敵には、ファティマがエレクトリックショックで迎撃する。
「ここは通しません!」
「その腕、貰っていくぞ!」
 怯んだ敵の腕へ槍を繰り出すヴァイス。その一撃は魔導ガントレッドを装着した腕を肩口から切断することに成功する。
 だが、ここで感じていた違和感がより一層強くなった。
(腕を切断されて……平然としている?)
 精神力や鍛え方の問題ではなく、まるで痛みを感じていないかのようだ。
 そして先程からファティマが声をかけても応答が全くない。
「この人達……まさか、操られてるんです?」
 それに、非常に再生能力が高い。切断面の血は既に固まり、瘡蓋のようになっている。
 そしてそのまま機導砲による攻撃を繰り出してきた。
「だとしても、手を抜ける相手ではないな……」
 一方、暴れ狂う魔導アーマーの拘束を続ける神楽。
 ファントムハンドは非常に強力で、レジストされるまでは完全に封殺が可能。だが、いざという時のために使用回数は残しておきたい。
「このまま楽したいとこっすけど、お前の遊び相手は俺っす!」
 乱戦を避けるため自分に引き寄せつつ、神楽は近接攻撃を繰り出す。すると近くに来た神楽を敵と認識したのか、魔導アーマーは腕を振り回してくる。
 が、背後に飛べば射程外に出られる。この状態も長くは続かないだろうが、付かず離れずでたった一人でもここを抑えられるのは大きい。
「くっ、感電か……」
 雷撃は紅薔薇の自由を奪う。だが、その自由を奪われてなお繰り出す攻撃は正確だ。
 だが、防御まではそうはいかない。雷撃を纏った機導剣をかわしきれず斬魔刀で受ける。
「驚いたね。その状態でまだ動けるとは……人間じゃないのか?」
 その時だ。エイルの放った光がアウレールと紅薔薇に降り注ぎ、身体の痺れが取れていく。
「二人共大丈夫!? 感電は私が回復するわ!」
「貴様……余計な事を」
 エイルを狙う閃光、これをアウレールが盾を構えて遮断する。
 だが、敵の攻撃にはどうやら殆どに感電の力が付与されている。攻撃を受ければ受けるほど、それは重く自由を縛る。
 しかし、そこへシガレットのキュアが飛んでくる。
「神楽さんが頑張ってくれてるおかげでちっとヒマなんでなァ」
「クソッ、この僕が押されている……!? こんな奴ら相手に本気を出さねばならないなんて……」
 機導師が腕を振るうと、外套の内側から何かが飛び出した。
 高速で飛翔する何らかの物体、これをアウレールは素早く銃撃で撃ち落とす。
「フン、どうせ何か隠し持っているとは思っていたが……その装置、確かエルフの森で見た……スペルアンカーというやつか」
 機械化された機導の楔は浮遊し、機導砲を放ってくる。
 だが、このハンター達に取ってはさして大きな脅威ではなかった。
「この力、神森事変の時に同時並行していた失踪事件……やはり剣機の介入だったのね」
 エイルは聖機剣を翳し、周囲に光の翼を広げる。
「黎明の子よ、その御名に於いて、この手に光を!」
 衝撃波は周囲に広がり、高速で場所を変えるアンカー達を纏めて吹き飛ばす。
 怯んだところへ駆け寄った紅薔薇が刃を繰り出す。その一撃が袈裟に青年を切り裂いた時、衝撃で外套が引き裂かれた。
 見えたのは、エルフの耳。半ば予想通り――襲撃者はエルフ。
 神森事変、そしてヴォールと呼ばれたエルフの機導師を連想させた。
「予想通りエルフか。だが……その傷の再生速度。貴様、とうにヒトを捨てたか」
 アウレールの指摘通り、彼は既に契約者の域を超えている。歪虚化した契約者、すなわち堕落者と呼ぶべきだろう。
 そしてその身体はところどころが機械化されている。ゾンビではなく、吸血鬼の剣機と言ったところか。
「剣機だか剣妃だか……こんなの、血を操っているのじゃなくて操られているわよ」
「黙れ……! お前らのほうこそなんなんだ!? これだけの力を持つ僕を相手に……。そうか……お前たちがオルクス様を倒した……!?」
 男は思案する。様々なパターンをシミュレートする。これまでの戦いで相手の力量はわかった。
 だから考える。考える。考えた上で、身震いする。
「クソ……クソクソクソォ! 解が……お前たちに勝てる解が存在しないだと!?」
 わなわなと震え、そして再び周囲に雷撃を振りまくと同時、男はその背に血の翼を出現させた。
 それと同時、上空からリンドヴルムが降下してくる。それはまるで息の合ったコンビネーションであった。
「指示もなしに……急に?」
 リンドヴルムの狙いはナサニエル。だが、傍にはピッタリと刹那がついていたし、シガレットも既に迎撃に入っている。
「ヘッドハンティングはお断りだぜェ」
 神罰銃で対空攻撃を仕掛けるシガレットに続き、近くのアパートの外壁を蹴って跳躍した刹那が斬りかかる。
 残像を纏って繰り出された斬激がリンドヴルムの首筋を直撃。更にナサニエルが片手を上に上げ、機導砲を放つとリンドヴルムは空中で絶命する。
 そうしてナサニエルへ注意が向いた間、血の翼を広げた青年は空へ舞い上がる。
 それを止めようと対空攻撃を仕掛けようとするアウレールへ、側面から別の機導師の攻撃がかかった。
 だが当然だがそんな事をすれば背後がスキだらけになる。次の瞬間にヴァイスの一撃で機導師は胸を貫かれた。
 もう一人に対してはファティマがエレクトリックショックで妨害をかける。が、やはり自分の身よりも、空中にいる機導師の援護を優先しているように見える。
 フリーになった紅薔薇は次元斬を繰り出す。これが直撃するも、障壁でなんとか持ちこたえた機導師は脇目も振らずに飛び去っていった。
「こいつら急になんなんすか!?」
 そして神楽は最後のファントムハンドで魔導アーマーを縛り付けていた。
 さっきまで普通に闘っていたのに、急にくるりと後ろを向いて猛ダッシュを始めたアーマーは、放置すればいきなり紅薔薇たちに襲いかかっていただろう。
 急に空に舞い上がった機導師が射程外だったこともあり、結局最後まで魔導アーマーの捕縛に使い切ってしまった。

 魔導アーマー型は残ったハンターにあっさり片付けられた。
「連中の魔導ガントレッドだが、どうやら腕そのものだったらしいな」
 通常、魔導ガントレッドは腕の外側に装着する装備だ。だが、彼らのそれは肉と一体化していた。
 ヴァイスに手渡された腕を興味深そうに眺めるナサニエル。
「それで、彼らは?」
 止めを刺さずに捕らえることが出来た機導師は二人。どちらも種族は人間で、“ゾンビではない”。だが、既に意識がなく目覚める気配がない。
「これって……生きてる剣機ってことですか?」
 険しい表情のファティマ。この二人は契約者であって歪虚ではない。だが、人体改造を受けている。まさに生きた剣機と言えるだろう。
「殺戮兵器を突き詰めていけば非人道的になるのは道理か……」
 苦々しく紫煙を吐き出しシガレットが呟く。心配なのはナサニエルが目の前の非人道的な行いを興味深そうに見ていることだ。
「剣妃と剣機の能力の融合か……ナサニエル、心当たりはないのか?」
「そうっす。今回最初から心当たりがあるっぽかったじゃないっすか。あと、さっきのあいつは誰なんすか?」
 ヴァイスと神楽の問いかけにナサニエルは応えない。いつもおしゃべりというわけではないが、今回は特に沈黙が多い。
「にしても魔導アーマーをここまで強化するとか敵はナサニエルさん並みっすね。あ、解ったっす! ラプンツェルであるナサニエルさん並みって事は剣機博士は先代ラプンツェルっす!」
 神楽が手を打った瞬間、未だかつて感じたことのない殺気を覚えた。
 発生源はナサニエルで、別に表情は変わっていないのに鋭く肌に刺すような怒りを感じる。
「じょ、冗談っす、冗談……」
「いや、先代のラプンツェル……それが剣機博士なのではないかと睨んでいるのじゃろう? 博士は永遠の命を望んでいたのか?」
 怯まずに問い返す紅薔薇にナサニエルは目を閉じる。
「彼女はそんな事は望みません。でも、それを望む者がいたのも事実です。……そんなものもあったな」
 ブツブツと呟くナサニエルの言葉は聞き取りづらい。そしてファティマは空気を読まない。
「でも、ナサニエルさんは大丈夫ですよね。だって、命にも智慧にも限りもあれば不足もある人間だからこそ、必死で喰らい下がって昨日より進歩できる。それが機導術の本懐じゃないですか」
「その通りです。永遠があれば、誰だって世界の全てを手にできる。それなら別に、私じゃなくたっていいんですよ」
 天才と凡人の違いは、より短い時間で答えにたどり着く力だとナサニエルは語る。
「私は天才ですが、だからこそ“ずる”はしない主義なんですよ」
「へェ……なんかちょっと意外だぜ。禁忌なき男って感じだけどなァ」
「どちらかというと、損得の問題です。彼らについていく事に得がないんですよ」
「剣機につくよりリアルブルーに行ったほうがいいぜ。向こうの技術力ハンパないって訊くしな」
「この間ちゃっかり崑崙には行きましたけどね」
「それで……さっきの彼の事は覚えてないんですか?」
 刹那の問いにナサニエルは首を傾げる。
「うーん。実は私、殆どヒトの顔を覚えないので。後で考えてみます」
「まあ、歪虚化で人相が変わったのかもしれぬしの……」
 一応フォローした紅薔薇だったが、単純に覚えていないだけだったら少しかわいそうだ。
「彼はエルフだった……それならこれは、間違いなく神森事件の続きなのね」
 複雑な表情でそう振り返り、エイルは頭を振る。
「――ねえナサニエルさん。貴方のような錬魔院の“天才”の欲するものって何?」
「よしんば剣気博士が先代だったとして、その研究に手を貸すのか?」
 エイルとアウレールの問いにナサニエルは空を見上げる。
「さて、どうでしょうねぇ。もう結構前に、忘れてしまいました」
 ぼんやりとした横顔に戸惑いはない。ただ、空虚で満たされない、理解し得ない天才の闇に触れたような気がした。

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MVP一覧

  • 大悪党
    神楽ka2032

重体一覧

参加者一覧

  • 理の探求者
    ファティマ・シュミット(ka0298
    人間(紅)|15才|女性|機導師

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 愛にすべてを
    エイル・メヌエット(ka2807
    人間(紅)|23才|女性|聖導士
  • 紫煙の守護翼
    シガレット=ウナギパイ(ka2884
    人間(紅)|32才|男性|聖導士
  • 紅花瞬刃
    花厳 刹那(ka3984
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士
  • 不破の剣聖
    紅薔薇(ka4766
    人間(紅)|14才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン ワカメさんに聞いてみよう
神楽(ka2032
人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2017/04/05 10:46:12
アイコン ワカメと共に敵を討て!
神楽(ka2032
人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2017/04/08 22:23:36
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/04/04 12:52:17