火輪の燭光

マスター:鷹羽柊架

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/04/10 07:30
完成日
2017/04/16 18:06

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 辺境はスコール族が住まう土地にも雪解けの時期が訪れていた。
 昼間は暖かく、夜は寒い日が続いており、もうすぐ畑の時期だとスコールの民達は春を待ち遠しくしている。
 そんな中でスコール族に保護された少年、エーノス族のルックスはスコール族の戦士たちに剣の稽古を受けていた。
 年を越す間際に賊に一族を殺されたり、連れ去られた経緯があり、虫の息でスコール族へ助けを求めてハンター達の手によって、賊の一部は捕まった。
 しかし、それから賊に関する情報は来なかった。
 ルックスは傷を癒す中、宙ぶらりんな気持ちになるのを恐れて剣の修行に明け暮れて日々を過ごしていた。
「うわぁ!」
 雪解けでぬかるんだ地面に滑ったルックスは肩から盛大に転んでしまった。
「はははは、この時期は踏ん張らんと泥だらけになるぞ」
「うわぁ」
 泥は顔まで汚しており手で拭うとさらに汚れてしまう。しかし、ルックスはもう一度手合わせ願いたいと立ち上がって剣を構える。
 そんなルックスの気概を察してか、スコール族の戦士は内心では心配しつつも、彼に付き合う。
「そんなに根を詰めても上達しませんよ。ルックス様」
 二回手を叩いて稽古の時間を止めたのはスコール族長補佐のカオンだ。
「あ、カオン様っ!」
「お話がございます。こちらへ」
 カオンは用件だけ告げると、すぐに踵を返して歩き始める。ルックスは急いでカオンの後を追った。

 向かった先は、カオンの家だった。
 乾燥させた薬草茶を供されて冷えた体を温める。
「本題はこちらです」
 ルックスの目の前に差し出されたのは見覚えのある首飾り。
 炎のような色の鳥の羽根をあしらった首飾りはエーノス族であることを示している。
 この首飾りは青い石をあしらっていた。
 今、それを見つめるルックスがかけているものと似ていたが、ルックスは羽根と青い石と黄色の石が細く編まれた紐に括りつけられている。
「この石をつけているのは、俺のと、ストルのものだけです」
 ルックスは首飾りを見つめて答えた。
「……カオン様、これをどこで」
「見つけたのは、ハンターの方です。場所は辺境ドワーフが有する採掘場の地上部分です」
 カオンが言い終わる前にルックスが駆け出そうとすると、丁度カオンの母が木の実入りのスコーンを持ってきたところで、ルックスは慌てて足を止める。
「慌ててどうしました?」
 カオンとよく似た柔和な笑みを浮かべる彼女にルックスはテンパって足を止めてしまう。
「……慌てたところで、ストル様がいるかはわかりません。しかし、我が族長の話では先の歪虚がヴェドルを目指して侵攻していた時、ストル様に似た姿は見なかったそうです」
 伝説の入墨を持つ、スコール族の現族長の話はルックスも聞いてる。
「今は闇雲に探すよりも、情報を得るのが先です」
 静かに告げるカオンの言葉にルックスは自分の無力さを思い出してうなだれて一度、頷いた。
「いずれ、ストル様の首飾りを発見したハンター様を依頼した方がこちらにいらっしゃいます。その時にお話をしてもいいでしょう?」
 どこか、声音をやわらげてカオンは告げた。

 部族なき部族の名を年若いルックスは知らなかった。
 歪虚の侵略にて、滅ぼされた部族も多い。その生き残り達をかき集めて組織を形成していたなんて。
「え、同年代……」
「……はいですにゃ」
 ものすごいドン引きした顔をしたルックスが言えば、テトは所在無さげに頷く。
「まぁまぁ、ルックス様。テト様は戦闘民族シバ族最後の生き残りのシバ様の愛弟子です」
「帝国に従属したって、爺様が怒ってた……昔は本当に強い人だったって、なのに、帝国の犬になるなんてって」
 どうやら、エーノス族はシバの行動に対しては否定的な感情を思っているものがいたようだった。
 ルックスはシバの人物像はあくまで他人の噂で形成されていたので、好意も悪意もない。
「私は、シバ様いてこそ、帝国と対等の立場でいられたと思ってますよ」
 にこっと笑うカオンをルックス動揺した様子で見つめていた。
「現在は、まだ部族なき部族は休止状態ですにゃ……ですが、辺境に何かあれば調査や戦闘をしますにゃ」
 テトは少し戸惑いつつ、ゆっくり話す。
「現在、辺境への歪虚軍の動きは鎮まってますにゃ。ですが、その首飾りは人為的な奪略の果てにヴェドル近郊の採掘場にありましたにゃ」
 ちらりと、テトがルックスの首にかけられている二つの首飾りへ視線を送る。
「ストルはいなかった」
「はいですにゃ」
 ルックスが確かめるように、どこか怒気を含んだように言えば、テトは頷く。
「調査は辺境全域に広がりますにゃ」
「もしかしたら、情報がつかめるかも……」
 とくんと、ルックスの胸が高鳴る。
「己を見失にゃうことがなければ……ですにゃ」
 成果が出ない事に人は時間をかけて己を見失うことがある。
 誰にも気づかれない内に見失うのだ。
「来るのは、自由ですにゃ。ですが、抜けるのは許されませんにゃ」
 ルックスに差し出されたテトの手は華奢ながらも、同年代の……記憶に残るストルにはない手だった。
 どんな危険な任務も負うのかは想像に容易い。
 だが、比べたストルは探さないと見つからない。
 危険なのは承知だ。
「あんたが、俺の長になるんだな」
「そうなりますにゃ」
 テトがあっさりと告げると、ルックスはその手をとった。
 もう片方の手は二つの首飾りを握りしめながら。

 ルックスは世話になったスコール族に世話になった感謝を告げ、テトと共にスコール族を出た。
「これからどうするんだ」
 二人乗りで馬に乗っていたルックスが手綱を握っていた。
「首飾りが落ちてたところから、辺りを付けて、街を探しましたら、要塞郊外の街にぶつかりましたにゃ。そこで賊らしいものがいないか調査しますにゃ」
 後ろに座っていたテトが応える。
「まずは要塞に行ってもらいますにゃ。そこでハンター達がおりますにゃ。そこで一緒に調査してもらいますにゃ」
「わかった」
 ハンターの言葉にルックスはまた彼らに会えるのかと心を跳ねさせた。
 彼らには大きな感謝がある。
 ストルが見つかれば、きっと彼女もハンターの事が好きになるだろうとルックスは想いを馳せた。

リプレイ本文

 ハンター達を目の前にして緊張した面持ちのルックスがいた。
「どうしたんだ?」
「あ、ご無沙汰してます。なんか、緊張して……」
 あの怪我の中でもオウガ(ka2124)の事を覚えていたルックスは照れたように指先で頬を掻く。
「手掛りとなるものが見つかれば、焦るものだ。しかし、焦っても良いことはないぞ」
 そう言ったのは鞍馬 真(ka5819)。
 結果を急いでもよい事でかえってくることはあまりない。
 寧ろ、チャンスを落とす可能性がある。
「エーノス族の手掛かりが見つかるように頑張ろうぜ」
 ルックスの様子に気づいたオウガがルックスの背中を景気づけに叩く。
「はいっ」
 彼は目的を思い出したように背を伸ばし、しっかりと声を出した。
「にゃぁ、ハナさんもよろしくなのにゃ」
「……は、はいですぅ」
 明確な年齢差を提示するのは回避するが、輝かんばかりの若さに星野 ハナ(ka5852)は眩んでしまいそうだ。
 今回の依頼内容を見た時は毛色の違う内容かと思って参加した残波源弥(ka2825)であったが、今になって気づいたのだ。
「ただの人探しではないか、これ」
「今、気づいたようだね」
 ナタナエル(ka3884)が赤の瞳をゆっくりと瞬く。
「穏便に済ますことができるかはわからないけど」
 肩を竦めるアイラ(ka3941)は自分の細く編んだ三つ編みを指先で遊び背中へ流す。
 何せ、辺境ドワーフの採掘場の地上部分を『盗品』の移動手段に使うような連中だ。十分に危険な案件。
「捕まった賊は口を割ってないんだよね」
 そう言ったナタナエルにテトが「そうですにゃ」と答えた。
「覚醒者ばかりで拷問にも耐性があったぜ。耳を切られても痛みに苦しむだけで、発狂はしなかった」
 静かに告げるオウガの言葉に真と源弥が目を眇める。
「思った以上に胆力がある連中だな」
 厄介だなと言わんばかりに真が言えば、オウガは「耳は拷問で切り落としたわけじゃないぜ」と断った。
「ぼくが切ったんです……部族を襲われた恨みを晴らそうと。殺すのは簡単だけど、やっぱり、皆の……ストルの行方を知りたかったから」
 そう言ったルックスに絆されるようにハナが口元を緩めてからにこっと笑う。
「大丈夫と思いますぅ! 残った連中を見つけて情報をゲットしちゃえば問題ないですよ☆」
 明るい調子でルックスに話しかけたハナの言葉を聞いた一部のハンターは「カッコ物理だ」と思ったが、口にしなかった。
「ハンターって、やっぱりすごいっ」
 目を輝かせるルックスにハナは「まかせてください♪」といいつつも、ルックスの放つオーラに圧されてそうだが、とりあえず占術をするためにルックスより首飾りを預かった。
 ハナの占術の結果で出てきた方向を調べることにする。

 町に入った瞬間、ハンター達は前情報であった治安の悪さを肌で感じ取った。
 帝国や同盟のどちら寄りでもない多国籍というか、更に辺境という土地柄が入った異国情緒を感じとれる雰囲気だ。
「埃っぽいね」
 ため息交じりにアイラがフードを目深に被りなおす。
「クリムゾンウェストって本当に人権ない世界だなぁって思うんですよねぇ」
 アイラがフードを被りなおす姿を横目で見ていたハナが呟く。
「確かに、あるようでないという感じだな」
 源弥の言葉にテトが「にゃぁ」と頷く。
「リアルブルーはとても豊かな世界と聞いたことがありますにゃ。しかし、この赤き大地にとって、生きることが最優先となりますにゃ。身分の高い者の命でも、一時の食料より軽くなることだってありえるかもしれないのですにゃ」
「暗殺の報酬といったところか」
 更に真がテトの言葉に補足を入れると、彼女は「ご明察ですにゃ」と返した。


 そんな話をした後、ハンターはそれぞれ聞き込みに入る。
 裏道を歩いていたのは源弥だ。その後ろをナタナエルとテトが互いに少し距離を置いて歩いている。
 大衆食堂へ源弥がテトを連れて入ると、ナタナエルはそのはす向かいの店に入った。
 源弥の目的はこの辺りの元締めを探すこと。
 店員にそれとなく尋ねると、微かに警戒の姿勢を見せた。
「人捜してしている。大っぴらにしたくはないのでな」
 要塞郊外と括られる場所ならば、どんなに無法地帯とはいえ、警備の手が入る。
 そうなれば、この町は『機能』することはできない。
 町を動かすにはそれなりの秩序が必要となる。
 垂れ流される悪さの蛇口を締める者が。
 訝しむ店員だったが、大通りの一本向こうにある小汚い店に行けと告げる。目印が切り刻まれた樽が目の前にあると言った。

 ナタナエルはこの町に馴染んで溶け込んでいた。
 酒はそれなりに嗜んでいるので、羽振りよく酒を飲む。
 男たちはナタナエルの穏やかな風貌に「色男が粋がって」という妬みに近い感情を含んだ視線を突き刺していく。
 金は持っていそうなので、集団で襲えばいいんじゃないかという会話も出ていた。
 店員達も似た考えを持っていて、ナタナエルは目立っていた。
 酒を追加注文しようとしたナタナエルが店員に手招きをして耳を貸せというジェスチャーをする。
 羽振りのいい客にはいい顔をする店員がその通りに顔を近づけると、彼は「ここでは女や子供も買えるのかい」と耳打ちした。
 店員は一瞬躊躇う様子をナタナエルは見逃さなかったが、それは杞憂と理解する。
「この店は上に一晩買える女がいますが、そのものを買うのは大通りの向こうの裏道にある店ですね」
 なるほど、確かに意味合いは複数あることを理解したナタナエルは頷いて少し多めの代金を置いて店を出た。

「離れるなよ」
 真の言葉にルックスが頷いて彼の後ろをついていく。
 入ったのは一軒の酒場。
 小さな町であるが、一応の大通りにあたる道沿いにある店だ。
 店の中は閑散としており、胡乱げな視線を真とルックスへと向けられる。
 外れたかと真は内心で思っていたが、敵意は感じられない。
 バーカウンターへ向かい、酒を注文した真の胸元には、ルックスから借り受けたストルの首飾りがあった。
「あら……綺麗な首飾り」
 上から放られた声は階段を下りる女のものだ。商売女だろうか、露出が高い服装に濃い化粧で顔を彩った女が真の方へ興味を向けている。
「……興味があるのか?」
「珍しいと思ったのよ……」
 どこか疲れというか、倦怠感をもった女はほつれ落ちた横髪を耳の後ろにかけ、真へ流し目を送った。
「こんなところにこんな綺麗な顔をしたコがいるんだもの。ぼやぼやしていると、悪い連中に連れて行かれるわよ?」
 愉しそうに笑う女は真の白い肌を自身の指先でなぞる。手入れがされてないのだろうか、手入れするものがないのか、乾燥していた。
「男だが?」
「関係ないわ。買おうと思ったやつがいたら、それが商品にしちゃうんだもの」
 くすくす笑う女の口元に厚い化粧では隠し切れない皴が浮き出る。
「どこかにいるのか?」
「町の奥、深くよ」
 よくは知らないわと、女は答えた。
 真はこれ以上の詮索は危険と判断し、一杯飲んでくれと金を渡した。
「生きてたら、また会いましょ。そこのボクも」
 女はそう言って片目を瞑る。

 店の外で微妙そうな顔をしているのはオウガだった。
 中にいる真とルックスの様子を超聴覚で探り、有事が起これば助けに入るようにしている。
 正直、こういった町は苦手だ。
 ざっと見たところ、居住しているのはほぼ人間。ドワーフは一応いるがやエルフなんかは見ない。
 フードをかぶって歩く者もいるので、もしかしたらいるかもしれない。
 中では真がここの住人らしい者と接触できたのか、言葉を交わしていた。
 この店の一本向こうの裏道にある店にアイラが探りを入れているのを確認している。
 音からして、揉め事が起きているとは思えないので、少し安心したが、町が騒がしいので音が聞き取りづらい。
 町を歩く連中がどいつも怪しく思えるのは少々きついとオウガはそっとため息をつく。
 真とルックスが店より出て来ると、店の中で男と女が諍いをしている声が聞こえた。
 何となく察したオウガは二人を大通りではなく、裏路地に来るようにと手招きをする。真もまた、事態を察しており、臨戦態勢となっている。

 この町で身を隠しているのは女や子供だけでなく、姿を見られたくない者がいるとアイラは判断する。
 この店で聞き込みをしようと決めたアイラは周囲を確認すると、隣は物が溢れ返って小汚い店があった。店の前には切り刻まれた樽が置いており、傷口が切られたものだけではなく、刺されている箇所もあった。
 表面はどす黒いものが重力にしたがって垂れてこびりついて汚れている。
 フード越しに細めてアイラは真っすぐ目的の店へ入る。
 鼻についたのはアルコールの匂い。昼間から酒を飲むのは自由だ。
 店内では酒を飲みながらカードや盤を使って遊んだりしている連中がいたりしていた。
 酒を頼んだアイラの声を聞いた店員は短く口笛を吹く。冷やかしの意味合いはすぐに分かったがまともに相手にしてはいけない。
「剣士を雇いたいって奴の話聞いてる?」
 ローブの中を少しだけ見せるようにアイラはグラスへと手を伸ばす。
「用心棒か」
「傭兵だけど、そういうのもやってる」
「残念だが、そういった話は暫くねぇよ。この間デカい競りが終わった」
 肩を竦める店員の言葉にアイラは引っかかりを感じる。
「競りに?」
「ああ、この町には色々と『客』がいるからな。足がつかないように、『客』の金目の物を守るように用心棒を配置するのさ」
 当該する競りの内容は冬場に攫ってきた若い女達の競りだったという。
 思い当ることはある。
「俺もそれ、見に行ったなぁ」
 前歯のかけた壮年の男が笑う。
「一番幼い娘が高く買われたよ。あの娘だけ、首飾りしてなかったなぁ」
 赤い羽根は初めて見たと男は酔いで夢見心地だ。
「しかし、アンタも毛色は違うが、きっと売れるだろうな。いい匂いがする」
 剣呑とした視線を男へ向け、アイラは店を後にした。
 店の前では源弥がテトと隣の店の主に話している姿を見つける。
 何を売っているのか全く分からない店の主は源弥に話をしつつも、アイラにも視線を向けているのがわかった。
「そんな筋を通す奴、初めてじゃ。隣のチビも訓練を受けてるな」
 店の主は老人であり、楽しそうに笑っていた。
「アンタ、要塞の連中に頼まれたんかい?」
 それには否と答える。嘘ではない。
「人を探している。年齢は十代前半から二十代後半くらいの女達だ。消えたのは冬頃だ」
「……この間に大きな、競りがあったと聞いてるけど」
 アイラが言えば、老人は確かにと頷いた。
「時折、奪ってきた盗品を売り出す連中がいてな。結構な大がかりに持ってくるんで、ある程度『客』を呼び込んで競りをするんじゃよ。客を呼び込むのも奴らの仕事。儂らはその場所を提供するだけじゃ」
 競りの場だけではなく宿もということだろう。
「そうか、全員売られたのか?」
「ああ、そう聞いてい……なんだ……?」
 言い終わる前に老人が外の様子を窺う。店の裏が騒がしいことに気づく。
「……彼が貴方に筋を通しに来たのは、そういうことなの」
 アイラは店の後ろから発せられる白い光を見た。

 少し時間を巻き戻して……アイラが入った店より更に奥まったところの裏路地を歩いていたハナは目立っていた。
 ハナが若く、可愛らしく堂々としているから。
 尾行人数が増え、尾行同士で喧嘩が始まる。
 埒が明かないので、目の前の問題を片づけることで一致した。その後で奪い合えばいいのだから。
「おい、お前が歩いていると喧嘩が増えて敵わねぇ。有り金と着ているものを置いて町を出ろ」
 男たちは剣や斧といった得物をハナに見せるように囲む。
「私ぃ、人攫いを探してるんですぅ。貴方達ですかぁ?」
 ぱっちりとした茶の瞳は恐れることなく男たちを見ている。
「ああ? 何言って……」
 痺れを切らしたかのように男の一人が短剣をかざしながらハナへと手を伸ばすが、それは叶わなかった。
 金属と骨がぶつかる鈍い音がするなり、男は白目をむいて倒れる。
「イケメンなら壁ドンとかされてもいいんですけどぉ。時間は惜しいんでぇ、答えてもらえますぅ?」
 もう一度瞬いたハナの瞳は茶ではなく、空とは違う蒼さ。
 土埃にまみれる風が吹いているのに、髪が優雅さすら覚えるかのように揺らめく。
 その隙をつくように白い光が発せられ、一瞬で男たちは地べたに伏してしまう。
 詰問しようとしたハナだが、更に奥の路地でもトラブルが発生したことに気づいた。
 転がってる男達は暫く動けないので、更に情報を得られるならと思ってハナは符を隠し持って待つ。
 暗がりの向こうより怒号と走る音が聞こえる。
 まず視界に飛び込んできたのは中性的な美貌の青年。腰まで届く漆黒の髪に月のような金色の瞳が印象的だった。
「ちっ」
 ハナを見るなり青年は舌打ちをし、ローブを目深に被りなおして彼女の腕をとる。
「行くぞ」
「は?」
 そのまま加速した青年は布のような幻影を見せて、褐色の肌がタールを塗ったように黒くなった。
 覚醒者だと判断したハナは、姫抱きにされて青年は地を駆るもので細い路地を疾走する。
 積み上げられた荷物や窓辺などに足をかけて跳躍して屋根の上に上がっていく。ネコ科の動物霊だろうかと冷静に分析していた。
 ハナは大通りに近いところでアイラとテトと目が合うと、自身を抱く青年の腕が震えた気がした。
 大通りに近い路地で降ろされたハナに青年は「人攫いがここに滞在していることはない」とだけ言うと、更に奥へと走っていった。
 逃がさないで質問攻めにしてもいいが、テトとアイラが来た。
「大丈夫?」
「いまのは?」
 心配してくれる二人にハナはこう言うしかなかった。
「イケメンでしたぁ」
 だって、事実だもの。


 ハンター達が宿の一角に集まって情報を交換する。
 源弥の心意気を気に入った元締めの爺さんが宿を提供してくれたのだ。
 真とオウガはあの後、情報をくれた女のやっかみで真に絡んできた男がいたが、『お話合い』の末に聞いた話は、確かにエーノス族の女が競りにかけられていたという事実。
 更にナタナエルは競りにかけられた店に行っており、女は全員売られたとの事。
 どこへ行ったのかも不明であったが、一番高値で売られたのは一番年若い娘。
「買ったのは黒の長髪に金の目をした女みたいな若い男だそうだよ。少女趣味の中年と競り合っていたとね」
 反応したのはハナ。
「助けてくれた人に似てますぅ。お礼がてら、もう一度会いたいですねぇ♪」
 お礼参りではないのかと言いたかった源弥だが口には出さなかった。
「とりあえず、一度退きましょうにゃ。今後町の様子は部族なき部族が様子見しますにゃ。またお力を借りることになりますにゃ」
 テトが言えば、ハンター達は頷いた。

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MVP一覧


  • 残波源弥ka2825
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナka5852

重体一覧

参加者一覧

  • 援励の竜
    オウガ(ka2124
    人間(紅)|14才|男性|霊闘士

  • 残波源弥(ka2825
    人間(蒼)|29才|男性|闘狩人
  • 《死》を翳し忍び寄る蠍
    ナタナエル(ka3884
    エルフ|20才|男性|疾影士
  • 太陽猫の矛
    アイラ(ka3941
    エルフ|20才|女性|霊闘士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/04/10 00:56:54
アイコン 情報収集頑張りましょう
星野 ハナ(ka5852
人間(リアルブルー)|24才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2017/04/10 01:05:38