• 界冥

【界冥】八雲分屯基地殲滅作戦

マスター:みみずく

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/04/12 07:30
完成日
2017/04/26 06:37

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 三沢基地、飛行場内がにわかに騒然とする。スクランブルを告げるサイレンが鳴り響き、対Gスーツに身を包んだ隊員達が、一斉に戦闘機に搭乗していく。耳をつんざくエンジン音の中、スピーカーからは繰り返し、
「各機、爆装せよ。目標、自衛隊八雲分屯基地、繰り返す、目標は、自衛隊八雲分屯基地、全弾投下をもって破壊せよ。これは、訓練ではない。繰り返す。これは、訓練ではない」
 発進を待つパイロットの顔色は優れない。八雲はすでに、歪虚とやらに支配されているという。しかし、状況は杳として知れなかった。
 上官は言った。
「敵を射程内に収めたら、トリガーを引く。その繰り返しだ。向かってくる奴は全員敵だと思え。たとえそいつがどんな顔であろうとな」
 GOサインが出て、次々と飛び立っていく。
 雲の見え始めた空を見上げ、整備兵が呟いた。
「味方の基地を、俺たちが墜とすのか」
 雨が降りそうな、嫌な雲行きだった。警報は鳴り続ける。残響は、長く尾を引いた。
 
 大型スクリーンに映し出された残骸を見つめながら、30代前半と思われる若い指揮官は淡々と状況を説明した。
「八雲は元々高射隊、つまり対空戦機の装備のみで、あとは三沢のバックアップ用として旧軍時代からの飛行場がある、小さな分屯基地にすぎませんでした。しかし、函館クラスタが形成されたことで状況が変わった。上層部より、津軽海峡を占拠された場合に備え、八雲にも航空隊が配備されることが決定した。いざとなれば三沢と挟み込んでの攻撃もできると考えたわけです」
 彼は続ける。
「あの日、三沢より分隊した12機が一斉に八雲を目指し、沿岸を迂回して無事に到着したと報告が入りました。しかし、到着早々急襲され、配備した武器、戦闘機もろともが歪虚の支配下に下った。三沢には緊急発進命令が下り、国の内外を問わず、発進可能な機が次々と飛び立っていきました」
 まだ若いはずの彼の横顔はやつれ、髪には年に似合わぬ数の白いものが混じっている。ディスプレイを見つめる瞳からは、もはや何の感情も読み取ることができなかった。
「結局、一機として帰投したものはいなかった」
画面が切り替わり、空に向かって砲を向ける巨大な立方体が現れた。PAC3、パトリオットミサイル。航空機撃墜用の対空ミサイルである。
「何が彼らを殺したと思いますか」
 片側、僅かに歪んだ頬は、笑っているように見えた。少しも楽しそうでなく、無理矢理に感情を呼び起こそうとするかのように。
「敵はこれに憑りつき、ミサイルとしてだけでなく、爆撃機に自ら憑依するための飛び道具として使用することを覚えた。ある者は味方機に撃墜され、ある者は憑りつかれて、なすすべもなく自らの機で味方を殺し、そして死んでいった。作戦は、完全な失敗に終わりました」
 ズームアウトして、八雲分屯基地全体の図が現れる。
「これは、衛星がとらえた現在の八雲分屯基地周辺の図です。今はもう、宇宙からでしか観測することができなくなった。あなた達にお願いしたいのは、八雲殲滅作戦における地上戦の補佐です」
 殲滅、という言葉を口にしたとき、歯をかみ合わせる、がちりという音がした。
「敵の手に渡った兵器は、もはや脅威でしかない。この手で破壊するしかないのです」
 基地は比較的海の近くにあり、海側に市街地、基地の背後にはかつてのどかな田園風景が、一面狂気の醸成場のように、不気味な沼を形成している。
「まずは、あなた方に基地内に侵入して頂き、障害となる戦闘機、PS3などを破壊していただく。作戦終了の合図を待って、あとは我々が空から空爆します」
 ハンターたちの窓口となるオフィスの職員が、衛星画像に目を凝らして言葉を挟んだ。
「近辺に生存者はいないんですか」
 若き指揮官は僅かに視線を逸らして、金属のコンソールに手をかけた。
「分かりません。八雲の航空隊配備に先駆けて、軍は対爆ハンガーを建設中でした。シェルターの建設も同時進行で行われていたが、応答がない。軍は確実性のない生命に関しては、なきものとして行動する。優先事項は敵の殲滅であり、味方の保護ではない」
 コンソールに映し出された液晶パネルの上を、指が滑る。真っ二つに折れた戦闘機の残骸、航空写真には写らない、パイロットの顔。
 努めて冷静であろうとするように、息を詰めて口を開く。
「行動時間が来たら、こちらは容赦なく殲滅作戦を開始します。救出に向かうゆとりはない」
 職員は、彼の経歴を思った。手塚啓司一等空佐。元航空自衛隊三沢基地所属。北海道函館市出身。自衛隊が地球防衛軍に組み込まれた後は、対八雲分屯基地の作戦司令部に転属。
 文字通り、火消しの役割を背負わされた、当事者の生き残りである。
「我々が用意した基地への侵入ルートです。基地は内浦湾に接し、背後には元田園地帯がある。だが、今は狂気の醸成場です。足を踏み入れるのは危険だ。よって、侵入は海側からになる。国道を折れ、道道42号線から進行する」
 職員がマップを見ながら鋭い視線を向ける。
「シェルターの建設地はどこですか」
 手塚は指で緑の地帯を指した。
「この、病院の裏手側……」
 指が震えていた。
 きつく唇をかみしめ、彼は言った。
「何としてでも、我々は八雲の暴走を止めなければならない。異世界人のあなた方に申し上げるのは筋が違うのかもしれないが、お願いです。我々に力を貸してほしい」
 制帽が転がり落ちる。乱れた髪を取り繕うこともなく頭を下げる彼に、言葉をかけるものはいなかった。

リプレイ本文

 海沿いに並行して走る国道は、今はもう通る車もなく、ただまっすぐ線を引いたように、雑草を茂らせながら北へと続いている。
「ついに帰ってきたなぁ……リアルブルー」
 日高・明(ka0476)は、愛獣リーリーの背に手を当てて、久しく帰らなかった故郷を見渡した。彼のいた場所とはずいぶん距離があるが、チェーン展開のガソリンスタンドは見慣れたロゴで、寂れた風な自動販売機も、等間隔に並ぶ電信柱も、何もかもが懐かしい。冷気を孕んだ向かい風に、上着の襟元を掻き合わせる。春まだ遠い北の大地だ。花の季節はまだ来ない。
「国道を進み、市街地を抜けて、道道に入ります。僕たちは、基地裏手から侵入して、Fー35、そして、ミサイルの破壊に回ります」
 一団の中で最も小柄なミュオ(ka1308)が、常になく厳しい表情で、作戦を総括した。
「るね、は、とらっくで、しぇるーたーに、むかう。せいぞんしゃがいそう……いや、いる」
 ルネ(ka4202)は大きな瞳に確信を覗かせて、トラックの運転席に飛び乗った。
「俺も、生存者の確認に向かう! ルネさん、支援は任せろ!」
 明はリーリーに騎乗したまま、窓からちょこんと見える横顔に向かって声を掛けた。初めて見たとき、私立の制服によくあるブレザー姿だったので、彼女も同じ転移者かと思ったが、実のところは生まれも育ちも紅界のエルフだと知って、なんだか不思議な気がした。
『エルフも制服がかわいいとか、思うんだ』
 クラスの女の子みたいなエルフの少女に親近感が湧いてくる。一方、明と同じく蒼界からの転移者である葛音 水月(ka1895)は、
「移動距離が近い者同士、固まっていきましょう。ルネさんは直接攻撃には向いていないんですから、離れないでくださいねー!」
 妹のようなルネを心配して声を掛ける。
 しかし、エンジンの音にかき消され、声は届かない。
 時音 ざくろ(ka1250)は既に、愛機アルカディアを駆って前線に出ている。
 漠然と認識されているのは、シェルターに向かう人員2名の動きと、音羽 美沙樹(ka4757)が滑走路の破壊を行うということ。あとは、各人の出方次第というところだ。
 美沙樹が葛城に搭乗、トラック右前方につき、援護を買って出る。マニピュレーターの駆動音に、ただでさえ姿勢の良い美沙樹の背筋が、更にピンと伸びた。葛城とは、これが初戦になる。トラックの機動力と運搬性は、生存者救出に欠かせないものだ。警戒を怠れば、ルネの安否だけではない。その後の救出にも差しさわりが出てしまう。アサルトライフルを構えて警戒に当たりながら、最大全速で進んでいく。時速20km、自動車なら、せいぜい徐行程度の速度だが、CAMではこれが精いっぱいだ。膝のサスペンションが衝撃を緩和するが、上下の激しい揺れはいかんともしがたい。
「前方、歪虚群! 気を付けて!」
 手元に用意したトランシーバーから、ざくろの声が響く。
「見えるんですの」
「試作レーダーを積んでるからね。でも、演算能力の関係で、少し機動力が落ちるかも」
 言うなり、横跳びに避けて、崩れかけた民家の影に機体を隠した。前方から猛スピードで、乗用車に憑りついた狂気歪虚が全速力で進んでくる。車はアルカディアめがけてくるが、不意の方向転換に操作が間に合わず、立ち並ぶ樹木に正面衝突、爆発と共に派手に炎上した。
「まずい、この爆発で敵の注意が集まったかもしれない」
 トラックの後方に、ざくろ、美沙樹と同型のR7、フレイヤをつけた水月が、イースクラWを構えて警戒する。
 レーダーはない。この目に映るもの、それがすべてだ。
「トラックは道路上から動かせない! 美沙樹さん、ここで僕たちが撃破するしかない」
 走行可能なルート以外選べないという点、そして小回りが利かず、包囲されての集中攻撃では装甲が持たないということ、魔導トラックの大きな弱点だ。これをカバーするには、敏捷性に優れるCAM隊が 前面に立つしかない。
「CAM隊は市街地に降りて敵を引き付けよう」
 トランシーバーに向かって叫び、フレイヤを国道から民家の立ち並ぶ市街地へと進める。
 イースクラWにマテリアルを装填、無駄撃ちは避けたいが、ルネへの集中攻撃は回避しなければいけない。
「いっ……けえぇぇ!」
 向かってくる車の群れを、一気に打ち抜いた。爆音とともに、黒煙が上がる。
「ルネさんは、このまま予定通りのルートを進んでください!」
 イェジドのまくらに騎乗したミュオが、トランシーバーでルネに送話する。
「わかった」
 流れるように左手でギアシフトをトップに変え、ルネは思い切りアクセルペダルを踏みこんだ。エンジンが唸りを上げ、魔導トラックは一路、国道を北上していく。明の乗るリーリーが、速度を上げてその前方に出た。幻獣の移動速度は時速70km、速度としては魔導トラックを上回る。最も早く敵襲に気づくため、警戒態勢を用いて進む。パーカーのフードが、風で大きく膨らむ。声も出せない向かい風の中で、明は太刀「鬼神大王」を構えた。遮蔽条件を用いて戦いたいところだが、それでは小回りの利かないトラックを敵に晒すことになる。龍銃「ラントヴァイティル」の備えもあるが、装填6、リロード1、そして敵の総数が図れないこの状態では、使用制限のない武器の方が確実だ。
 敵の狂気歪虚は、車を武器に使う。敵の注意が集中したら、トラックは巨大な的へと変わり、基地に辿り着くことさえ難しい。
 また、爆炎があがった。この隙に、何とかシェルターへ。額に流れた汗が、こめかみに伝っていく。
 
「がんばりましょう、まくら。終わったらたくさんもふもふしてあげます!」
 日頃先生のように慕う幻獣の体毛に顔をうずめて、ミュオが語り掛ける。少女のように高い声が、緊張で少し硬い。詰めの甘さがここにきて露呈した。今、先頭に立っているのは最も速い彼のイェジド、まくらだ。自分が踏ん張らなければ、作戦は失敗に終わる。轟々と耳元で蟠る風鳴りの中で、ミュオは大きく息を吸った。
「ソウル……トーチ!」
 呼吸を溜める。体内のマテリアルを燃やし、ミュオの小さな体が、炎のオーラに包まれた。
 敵意が、彼に集中する。
「来い!」
 飛び込むように、速度を上げた乗用車が突っ込んでくる。
 跳躍するイェジドの胴を両腿で掴み、上段にサイズ「アダマス」を構えた。2メートルの巨大な鎌は、さしずめ死の象徴のようだ。
「ここから先へは、通さない!」
 柄を振るって横薙ぎに一閃。接触と同時に切り裂いていく。華奢な面影からは想像がつかない迫力で、車一台を割れた鉄塊へと変えた。まくらが長い尾を震わせて遠吠えを放つ。攻撃が集中する只中にあって、ミュオは次々と歪虚の中心へと進んだ。
「今は急ぎなのでお相手はごめんなさいですよ?」
追いついた水月のフレイヤが、車体を掴み上げる。急激に上昇するテンションに、モーターが悲鳴のような回転音を上げる。操縦桿からの細かなコマンドに従って、アクチュエーターが作動、人工筋肉が忽ちバンパーを握りつぶす。立ち上る黒煙を纏いながら、一気に戦局を逆転させた。
「ここでマテリアルの消費は避けたいところですが、仕方ありませんわね」
美沙樹の葛城が、マテリアルナイフを構えたその時、トランシーバーからルネの独特な声が聞こえた。
「こちら、るね、しぇるたー、とーちゃく」
 三者は無言のうちに頷き合った。ここは無駄に消耗すべきではない。ミュオがマテリアルを開放する。背後の幻影が消え、ソウルトーチが解かれた。
「急ぎましょう」
 速度の速いミュオの枕を先頭に、敵を躱しつつ、先を急ぐ。

 一方ざくろは市街地の別ルートを進んでいた。
 敵の攻撃はあるものの、レーダーで事前に感知できるので、損害はない。
「右側面より敵機」
 CAMのガイドオペレーターが平坦に告げる。ここに集結している狂気歪虚は乗用車に憑りついたものがほとんどだ。中には大型トラックで突っ込んでくる場合もあるが、基本的に直進しかしてこない、単純な攻撃だ。避けられない、という条件下でなければ、回避は容易かった。
 建物の影に潜んで特攻をやり過ごす。コックピットに備え付けの懐中時計、星読に目線を配る。総攻撃の開始時間まで、あと数時間。ミサイル、戦闘機の破壊、そしてシェルターの生き残りの救出、全ての時間を総合して、十分かどうか。
司令部で目にした手塚の憔悴した顔が目に浮かんだ。これが失敗すれば、また……。訪れるのは死ばかりではない。長い睫に縁どられた柔和な二重の目を、きっと吊り上げてざくろは叫んだ。
「同士討ちなんて、絶対にさせない!」
 回避が終わればすぐに前進する。一歩踏み出すごと、大きく上下するCAMの中で、ざくろの長い髪が乱れ、焦りは増していく。
「時間は限られてるんだ、邪魔はさせない……行けっアルカディア!」
 ザクロの叫びに呼応するように、魔導エンジンが唸りを上げ、アスファルトを蹴りあげて、加速していく。

 病院の駐車場を抜け、ちょうど分屯基地との境に位置する場所に、その出入口はあった。衛星画像で予め確認はしていたが、周辺には工事用什器が複数横倒しになって、建設が途中であったことを示している。
 打ちっぱなしのコンクリートが地下に繋がっており、遠い爆音と対比するようにしんとした階段に、ルネの足跡が響いた。明の騎乗するリーリーは、路肩に停めたトラックを守って待機している。
 生存者は必ず、いる。
「きっと、いきよーとがんばってるよ」
 確信を言葉に込めて、階段を下りていく。町の惨状を考えるに、通信手段がそもそもないのかもしれない。
 重い鉄扉に行きあたる。見たところ、入り口が突破された形跡はない。意を決して、扉を引いた。異臭と、籠った空気が流れてくる。
 警戒しながら、天井の高いコンクリの壁伝いに進んだ。足元には、緑の誘導灯、電力は生きている。
 その時、軽い足音が聞こえた。薄暗い中に、一瞬光がよぎる。
「だれ」
 足音は慌てたように速度を速めた。物陰に隠れた気配がする。
「てきしゅー! みんなー! にげろー!」
 高い声。子供だ。
「てきじゃない、たすけにきた」
 とっさに言葉が出た。
 ルネの声に、光が向けられた。
 懐中電灯を向けたようだ。
「どうした、カイト!」
 奥から別の声がした。もう少し年長だろうが、やはり成熟した声ではない。
「女の子だ。制服着てる」
 懐中電灯で照らし出される。やっぱりそこから突っ込まれるのか。
「えと……おむかえの、てんしです……ちがった。えるふー、です」
 ルネがぼそりと名乗ると、
「かわいい」
 やがて光は、照れたようにくねくねと身を捩らせる、10歳前後の少年の姿を映し出した。

 シェルターに隠れていたのは、15歳を先頭にした、子供ばかりだった。
「大人はみんな、死んだ」
 全部で13人。大人は皆、助けを呼ぼうと表に出て、帰ってこなかったという。
「残酷だけど、それで助かったのかも。食料も13人なら間に合ったから」
 淡々と状況を説明した最年長の少年は、擦り切れた学生服姿だったが、ずいぶんしっかりとした印象だった。
「自発型の電気システムもあるし、最低限の籠城はできたけど、携帯電話、電波繋がんないんだよね」
 彼が中心となって、この小さなコロニーは保たれていたのか。
「ここから、よう、ひなん。あと、3時間で、ばくげきが、始まる」
 ルネの言葉に、集まった子供たちはみな顔を強張らせた。
「小さい子から連れてって」
 セーラー服の少女が、年少の子供の手をルネに預けた。
 魔導トラックの定員は6人。子供同士、膝に乗せたとしても、2回の往復が必要になる。13人を一気に運搬することはできない。
「私たちは、この子たちよりは、ちょっと長生きしたから」
 学生服の少年と少女、まだ十代の前半であろう数人が、立ち上がって、目を合わせた。
「ダイジョーブ、こっちにも、なかま……がいる。みんな、ぜったい、たすけるから」
 明には彼らの護衛に残っていてもらうしかない。その分トラックの守りは薄くなるが、シェルターに彼らを残すよりは、まだましだ。
「こちら、ルネ」
 魔導の送話ボタンを押す。予定はだいぶ狂ったが、やるしかない。

「あたしの方は誘導路の破壊を致しますわ」
 トランシーバーで自らの行動指針を示して、美沙樹の葛城が先行する。
 事前の情報で分かっているF-35の制動距離は、空手の状態で400m、つまり、バックファイヤー使用で400m走れば、離陸する可能性があるということだ。
 滑走路の長さは1800m、ここでの走行を不可能にするのが先決。
「どなたか、格納庫の左右を1箇所、端にある耐爆シェルターの正面を」
 いや、対空迎撃システムが2基残っている。PAC3だ。
「いえ、PAC3が先ですわ」
 焦る美沙樹に、個別に移動していたざくろから通信が入る。
「大丈夫、ざくろが行くよ。でも、まずは、これでもくらえ……アルカディアビーム!」
 言うなり、アルカディアの機体正面に三角形が現れ、額、胸に位置した頂点から光が放たれる。ざくろのスキルをトレースしたようだ。魔法威力の高い攻撃は、敷き詰められたコンクリートを破壊、深い傷が刻まれた。そのままアクティブスラスターを起動、噴煙を吐きながら、速度を増して、上空に砲を向けるPAC3に接近した。
「こちらも、いきますよ、まくら!」
 ミュオがまくらに騎乗し、滑走路に躍り出た。
 轟音を立て、戦闘機、F-35が突進してくる。敵が侵入に気づいたようだ。
ガトリング砲が鉄弾の雨を降らせる。ミュオは素早くまくらから飛び降り、向かってくる機体の側面に移動した。衝撃波を放つ。向かってくる銃弾を無効化した。
「まずは、片翼!」
 まくらが前線で攪乱する中、祝装・星幽花を起動、ミュオのマテリアルを共有して、アマダスの攻撃威力が増した。向かい風に目を細めながらも、存分に振るう。近接での効果は絶大だ。走り抜ける機体に向かって刃を構えた。すれ違う。爆炎、鋼の翼を突き破る。
「次は、機銃か」
 機関砲がこちらを向く。燃え上がりながらも、なおも攻撃をやめない。片翼を失い、炎を吹き上げた機体が回転を始めた。
  一瞬間をおいて、再び散弾が舞い始める。敵意は歪虚の本能か、それとも狂気が、共に滅ぶ相手を探しているのか。
 まくらの幻獣砲が放たれる。鉄弾が威力を失った隙をついて、ミュオの戦鎌が機銃を削ぐように切り裂いた。
 ミサイルに着火、垂直に火炎があがる。激しい爆風の中、ミュオはまくらとともに、戦禍を逃れた。
 これが一機目として、残り11機。爆音に引き付けられて、戦闘機が集中してくる。敵も味方もなく、狂気の機体が ガトリング砲を回転させながら、一直線に向かってくる。
 ミュオは再びまくらに騎乗、左右に翻弄しながら、本体に向かっていく。
「脱出に備えて、戦力は温存していきますかねー」
 暢気な口調とは裏腹に、水月の駆るフレイヤがアーマーペンチ「オリゾン」を構えて特攻していく。
「僕は左、ミュオ君は右でお願いします!」
 格納庫に向かって前進する。飛ばない機体は足回りに集中して攻撃してくる。フレイヤの高い瞬発性を生かしてガトリング砲の連射を避けるが、細かいダメージは蓄積していく。一機、また一機と、滑走路上にステルス機が集まってくる。
「数が多い。近接は不利か」
 走り出す機体に、持ち替えた200mm4連カノン砲で応戦。また一つ、機体が爆風に包まれた。ミサイルを内蔵した機体は、激しい爆発とともに炎上する。ミュオが遥か前方に移動したこと確認して、続けざまに発射した。火柱が上がる。衝撃はコックピットまで及んだ。
「脚部、損傷。出力85%」
オペレーターの警告は冷淡だ。カスタム済みの機体は、ここで終わるほどやわじゃない。構わずペダルを踏みこんで、操縦桿を動かした。走る。鋼鉄のジョイントが軋む音がするが、今歩を止めることは、死ぬことと同義だ。進んでくる機体を、待ち受けて撃ち落とす。
水月の乗るフレイヤが鬼神のごとく、熱せられた大気の中に揺らいでいる。
「葛城、行きますわよ!」
 愛機に呼びかけて、美沙樹は耐爆ハンガーの中に突撃した。耐爆ハンガーは爆撃から戦闘機を守るためのもの。たとえ空爆が実行されても、機体自体は残る可能性がある。事前の情報収集を怠らない。美沙樹の立てた戦術は、調べたデータのもとに成り立っている。
「滑走路の距離は1800、制動距離が400なら、間隔をそれ以下にすれば……」
 離陸に必要な距離を勘案しながら、アサルトライフルで傷を増やす。スコープを覗き込んで発射、しかし、地面を狙った弾は跳弾し、あらぬ方向へばらけた。
「これはなかなか、思うようにはいきませんわね」
 唇を噛みしめる。角度を調整、再度引き金を引いた。
「着弾、成功」
 音声が成否を知らせた。
「まだまだですわ」
 撃ち漏らしのないよう、目視でハンガー内を確認していく。ハンガー内はトンネルのようになっており、電気の灯らない暗闇の中だ。超敏視覚をもって周囲を警戒する。エンジン音が近づいてきた。
「そこか!」
 マテリアルを充填、アサシントライフルを発射。爆発で、ハンガー内が明るくなる。敵地の中心に美沙樹と葛城は飛び込んでいく。
「ブレストヒートレイ!」
 ざくろの声に呼応して、アルカディアの胸元で、炎が形を成す。扇状に集められたマテリアルは、放射線状に広がり、熱線で敵機を燃やし尽くした。
 ルネが単独で残された生存者を運ぶことは、無線で聞き及んでいる。時間がない。
 PAC3を破壊し、ルネに合流できたら。機体とMライフル「イースクラW」をエネルギーチューブでつなぐ。マテリアルの供給が始まる。ゲージが満ちるのは一瞬だった。
 ライフルを構える。
「エネルギー充填120%……そこをどけぇぇぇ!」
 邪魔な機体越し、並び立つ2基の砲台に、銃弾を撃ち込んだ。

「この子たちを、お願いします」
 セーラー服姿の少女は、ぶるぶると震えながら、幼子の手を取ってルネに託した。
「わかった。すぐ、むかえ、くるから」
 少女はその言葉に軽く頷いて、子供の頭を撫でた。
「ちゃんと、幸せに、大きくなってね」
 子供は訳も分からず、きょとんとした顔で、少女を車内に引き込もうとする。
頭を振って、強引に扉を閉めた。
「行ってください」
 年長の少年の言葉に、エンジンがスタートした。トラックの車体が視界から遠ざかる。
 掌で顔を覆った少女の肩を軽く抱き寄せ、
「大丈夫、僕が残るし、君たちも、絶対無事に送り届けるから」
 明がわざと明るい声で、残った年長の彼らに笑顔を見せた。
「なんだか、異世界人じゃないみたいに見えるけど」
 少年が、背の高い明を見上げて、胡乱な視線を向けた。
「そりゃね、僕、元はこっちの人間だもん」
 気づいてもらえて光栄、とばかりに眉を上げ、少年を見下ろす。
「どうして異世界に行ったの?」
 さっきまで泣いていた少女が問いかける。
「なんで? そりゃ、こっちが聞きたいよ」
 ツッコみ疲れた紅界での出来事を反芻する。
「そっちの、大きな鳥さんは?」
 別の少女が、リーリーを見上げて行った。
「おいおい、質問攻めだな。えーっと、まずは」
 明とのおしゃべりに、漂っていた悲壮な雰囲気が霧散していく。
 トラックの影は、もう見えない。明は祈るように、砂埃の舞う彼方を見上げた。

 ミッションを細かく入れ替えながら、ルネのトラックは防衛軍が待つ安全地帯を目指す。暴走した車が、自己の破壊を顧みず、ルネのトラックに向かって直進してくる。
「した、かまないで、ね!」
 鋭くハンドルを切って、路肩に乗り上げながら、スピードを緩めず走り抜ける。オフロードカスタムが施してある。斜めになった車体の中で、子供たちの悲鳴とも歓声ともいえぬ声が広がった。
「すっげー! スーパーヒーローみたい!」
「のんきだね、きみたち」
 アクセルを踏み込む。縁石に乗り上げる勢いで発進、鋭いカービングで、敵の追尾を躱した。ついでに車載砲「パンテレスD7」で、後続の車群に一撃を食らわせる。
 ここで敵の注意を引くのは危険だが、最高時速100kmを超えるリアルブルーの乗用車相手に、いつまでも逃げ回るのも得策ではない。
 しかし、つくづくとトラックでやってきたことは英断であった。生存者の運搬という点では、他に適切なユニットは存在しない。
 冷静に敵の姿を射程にとらえて、ルネは車載器のスイッチを押した。

「やっぱ、気づいちゃうものなのか」
 残った少年少女たちをシェルターに戻し、明は太刀「鬼神大王」を構えて、再びリーリーに騎乗した。町中に広がった狂気の歪虚が、人の気配に続々と集結してきている。
 この町では、車に憑りつくことにしたらしい。エンジンの回転音ですらいかれて聞こえる。
「さて、じゃあ、いきますか」
 不規則に並ぶ車体を、一列に狙えるポイントまで、リーリーの俊足を頼りに移動する。
 ソウルエッジで太刀の威力を増大させる。明のマテリアルを吸って、「鬼神大王」はいよいよ怪しい光を放った。刺突一閃で一気に複数台の車を撃破する。爆発に巻き込まれないよう、素早く離脱した。
 一人ではきついか、と思われたその時、ザクロの操るアルカディアが加勢に現れた。
 浮遊するFシールド「ハイラハドム」から、砲撃状の魔法攻撃を放つ。
「遅れてごめんね! ルネさんは?」
「今、一回目の生存者を送り届けてる! シェルターに、まだ人がいるんだ」
 叫びながら、明の斬撃が、猛スピードで突っ込んできたトラックを切り裂いた。
 
 撃破した敵機の報告を受けて、水月は撃ち漏らしがなくなったことを確認した。分屯基地内での兵器の制圧は完了した。
「ルネさん達と、合流しなくちゃ」
 黒く煤けた仲間たちに合図を送る。撤退だ。

 水月の放った空砲を受けて、一斉爆撃が始まった。生き残りの少年、少女たちは、移動する車の中で、その様を見ていた。
「町が、燃えていく」
 窓を開けて、届かぬ故郷に手を伸ばした少女の掌に、冷たく、雪が触った。
「風花……」
 リーリーの背にいた明にも、それは触れていった。掌に当たると、忽ち溶けて水になる。天泣、とも呼ばれる、晴天の雪は、炎に撒かれる街の上にも、はらはらと、静かに舞った。
 

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MVP一覧


  • ルネka4202
  • 清冽の剣士
    音羽 美沙樹ka4757

重体一覧

参加者一覧

  • 挺身者
    日高・明(ka0476
    人間(蒼)|17才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    リーリー
    リーリー(ka0476unit002
    ユニット|幻獣
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    マジカルボウケンキアルカディア
    魔動冒険機『アルカディア』(ka1250unit002
    ユニット|CAM
  • 純粋若葉
    ミュオ(ka1308
    ドワーフ|13才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    マクラ
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ミュオ(ka1308
ドワーフ|13才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2017/04/12 00:36:14
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/04/10 08:30:52