• 界冥

【界冥】2隻の使者

マスター:韮瀬隈則

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/04/16 09:00
完成日
2017/05/04 23:13

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 2隻の船はデンマーク南部の港を出て、一路、イギリス南部イプスウィッチ近郊、アワフォード社開発分局専用港を目指している。
 R7エクスシア開発元であるアワフォード社の開発研究室のひとつ、専用港と付帯する実用化実験演習場を備えたそこに、デンマーク某社(どうやらアワフォード社が出資しているようだ)から試作型対VOID兵器を搭載して、そのまま、実験に参加するためである。
「こちらギルデンスターン。どうだ。少し前の情報じゃイギリス近海にVOID飛来と聞いたが、そんな気配はサッパリ無いじゃないか」
「こちらローゼルクランツ。ギルデンスターン、遭遇しても既に鑑砲として搭載済みの試作型兵器が早速役に立つ。件のVOIDは軍が対応済み、目撃情報だって残骸数個の話だろう? 複数といってもだ、こっちの「クローディアス」は面制圧を前提とした散弾型艦載ライフルだからな」
 無線越しのお気楽な会話。元小型巡視艇、現在はアワフォード社関連某社所属の武装艦艇「ギルデンスターン」と「ローゼルクランツ」の乗組員にとっては退屈な航路だったに違いない。元軍人揃いのPMC。対VOID戦をくぐり抜けた彼らはいわばアワフォード社子飼いの私兵だ。

 試作型大容量マテリアルパック「henbane」ならびに散弾型ライフル「クローディアス」。CAMには搭載不可能な図体からお蔵入りとなるはずだったこれを、面制圧可能な艦載砲として改修。商魂たくましいといえばそれまでだが、コンセプトが島岨奪還を想定した上陸戦支援兵器、となれば多少本気度は上がってくる。──クラスタ、という脅威。人類相手の要塞化阻止とは違うのだ。群をなす小型狂気を面制圧できるなら、載るのが船しか無くとも有用性はあるはずだ。それが、デンマーク某社(と、アワフォード社開発分局)の目論見である。
 ともあれ。
 あと2時間足らずでイプスウィッチ。隣接する演習場にはギルデンスターンとローゼルクランツの到着と呼応して、実用化実験のためにCWより覚醒者と彼らのユニットが転移してくる手筈だ。数時間の転移時間と上陸の速攻化。忙しい話である。
「ロッソが転移してからもう3年、か」
 感慨深いつぶやきはどちらの船か。併走するギルデンスターンとローゼルクランツ。元軍籍。船も乗員も。
「同期のあいつが議事堂占拠のとき居てな。PMCとハンター、立場は変わったがまた一緒にできるかと少し楽しみなんだ。表立っては言えないがな」


 夜明け前の海。とぷり、と黒い水面に異形が浮かぶ。小さな藻屑に気づかずに併走するローゼルクランツとギルデンスターン。



 ──転移ゲート前。
 ハンター達を前にタブレットを抱えた受付嬢が最終チェックを行う。
「転移後にはすぐ……といっても数分の移動はありますが、演習場にて実用化実験に参加していただけます。流石、アワフォード社ですね。VOID役の標的群と特殊換装エクスシア2機、それと戦車2両。これらが構築した陣地に、皆さんと上陸支援艦艇ギルデンスターンとローゼルクランツがカチコミをかけます。標的をかなり厄介なレベルで大量設置したと聞いていますけど、これはテストする艦砲が面制圧を目的としたものだからです。っと、こちらが演習マップですね」
 アワフォードだから仕方ない。そんな文脈を匂わせて、マップを拡大する。海面、いや河口面に接した、専用港と分局との間に広がる約2km四方の更地。ポインタが矢印を描く。
 専用港沖合いに停泊した2隻の武装艦艇の艦砲が、海岸線に敷設された固定標的群を無力化。上陸したハンターとそのユニットが、移動標的とVOID役エクスシアを支援砲撃を受けながら突破。クラスタ深部に見立てた戦車2両を制圧すれば実験成功。……支援があるというのなら、歴戦のハンターからすれば正直余裕の目標設定ではある。
 お気楽気分で転移するハンター達を待ち受けていたのは、しかし、喧騒。であった。


「偵察ドローンは? 落とされた? 進行方向は変わらずココなんだな?」
「付近の退避は完了。とはいえ、被害は出すな、との上の意向だ」
 ムチャだ。だがハンターを呼んでいたのは災い転じてなんとやらだ。VOID役CAMのパイロットと開発局員だろう。男達がよいところに来たという体裁で押し寄せて指差すモニターには「幽霊船」が映っていた。

 高度凡そ5~8m。時速30km相当で海上を浮遊し、一路、この演習場……いやアワフォード社開発分局を目指すのは、狂気に侵され変わり果てた姿のギルデンスターンとローゼルクランツ。
 ギィと軋んだ音をたてたのだろう。こちら──偵察ドローンに向けられる散弾型ライフル「クローディアス」。複数機飛ばしたはずのドローンが一気に墜ちた。録画はそこで終わっている。
「こちらは交戦直後の通信記録だ。自爆装置を起動する間もなかったらしい。あ? 自爆能力はシャレにならん威力そのままだ。いやVOIDの手に落ちたと思っていいだろうな!」
 くそっ! R7パイロットが毒づいて、録音を再生する。

 VOIDを討つための使者の船は死者の船となり、その鑑砲を人類に向ける。演習場を突破されれば研究分室が、さらにその延長線上にはロンドンがある。

リプレイ本文


「開発局からは誰が来てるの? 名前じゃなく! 権限の話で! 船体と兵装の元データ、洗いざらい開示してもらおうじゃないの。少しでも隠蔽工作したら、英国自慢のn枚舌全部引っこ抜いてやるから!」
 美亜・エルミナール(ka4055)が三枚舌でも過小申告な英国紳士(比喩)の胸倉を掴み、大仰な錠付トランクを指差す。その資料で足りなければ自慢の高速回線リソース全部使って引っ張ってきなさいね? 途中でちらりと演習用の計測機器を見やり、「出し惜しみしやがったら逆にデータをSNSで炎上させるわよコンニャロー」と、暗に恫喝することも忘れない。
 彼女に比べればクオン・サガラ(ka0018)の情報収集は、演習相手の元軍人であるだけ話が通じやすかった。元の演習計画からして、ハンターに開示されるものではあった。多少番狂わせはあったとしても、上陸戦を迎え撃つ布陣だ。
「なるほどこれは……」
 厭らしい状況ではないか。個々の抵抗などタカが知れている標的群だが、いちいち相手取らなければ進めない。「クローディアス」の面制圧が効果的に展開すること前提の構築。お手盛りと言わば言え。問題は──当の艦艇のVOID化だ。
「VOID化そのものは想定内。ですが、何度見てもエゲツナイものですよ。拍車をかけるのが、かのフューリアスを思わせる流転と改修の末というのがね……」
 全くなんてモノを積みますかね? クオンは肩をすくめる。空母化の挙句に魔改造された艦載機相手なんて状況でなくて良かったですね? との仄めかせ。英国流ジョークっぽく話せただろうか? いずれ想定できる戦艦級対応の予行演習です予行演習……と今度は自分に聞かせるように呟きながら、状況変化を整理し防衛ラインを引きなおしてゆく。
 つぅ……と白魚のような指がそのパネル上を滑った。央崎 遥華(ka5644)が言う。
「敵戦力漸減を期待するなら海上です。可能ならば半数以上を落とす、最低でも敵の消耗を観測するのは上陸より前」
 差し出がましいことですが。と一礼。
「イギリス人にとり上陸戦という言葉は特別です。この演習場も、あの2隻も、永い永い作戦の上陸時の一辺だけを切り出した運用を想定しては居ないはず」
 幼年期を過ごした地ですから判るのです。遙華はつけくわえて、上陸推定時刻をパネル上に呼び出す。

「ブリカスェ……!」
 突っ伏した美亜の肩越しに、ルナリリル・フェルフューズ(ka4108)が転送された資料を覗き見る。
 コレは酷い。断っておくが褒め言葉ではない。
「なるほどコレが英国面というやつか」
 えいこく、とネット検索バーに入力した時点で候補に英国面って出るだけはある。RB転移すぐに検索したのは、時折傑作品も産出しているとの評判を聞いてのことだが、件の2隻は奇跡の範囲外。
「英国王立兵器工廠の産廃みたいかな?」
 ? という顔をした美亜に、ほら日本の国民的ロボットアニメ『CTS』の兵器会社の、とルナリリルが添える。
「元は大容量マテリアルパックの開発から発展したみたい。だから、特定のメガコーポっていうより固定兵装ありきのKV設け……じゃない、「クローディアス」を積んだ船のキモはエネルギー源ね」
 ……比喩が通じてしまった。慌てて言い直す美亜にルナリリルは会話を続ける。
「あー、状況は鹵獲奪還作戦回を思い出すな」
「うん。武器本体を壊すかエネルギー切れにする話。食い込んでる敵の雑魚に苦戦したアレ」
 だから、無力化の優先順位は「クローディアス」と「大容量マテリアルパック」。平行して雑魚からコントロール奪還。セオリー通りだけど、いや、あのアニメ良く出来てたよ。
 さて……。ぱぁん、と頬を叩いて美亜は気合を入れなおす。軍人家系が珍兵器ごときでズッコケてられるか!
「……コントロール、か」
 白兵覚悟でいくにしても敵の位置だな、問題は。
 難しい顔のルナリリルに、はい、と横から小型タブレットが差し出された。マリィア・バルデス(ka5848)だ。
「これが小型VOIDで露出してるやつ。偵察ドローンの映像を洗って鮮明化して貰ったの。正面の主砲──「クローディアス」と両脇の艦載重機関銃に各1匹。これがそれぞれ攻撃を制御してると睨んでる」
 画面を拡大してマリィアが、任せて! と自ら腰に提げた銃で狙い打つ動作をしてみせた。うちの子、スキルトレース鍛えてるから。と笑って、すぐ、懸念はね……と続けて背後で同じく今度は無線の音声データ分析を聞くボルディア・コンフラムス(ka0796)を見る。
「自爆、できなかったのか。図ったかのように各種制御を乗っ取られて、無線で状況を急報いれるのがやっと」
 無頼という印象のボルディアだから、続けて報告する口調に混ざる乗組員への傷ましさがより沁みる。
「敵は1隻につき4体だ。酷い雑音だがね、ギルデンスターンとローゼルクランツは、僅かな交戦中に少しでも多く、と、状況を無線に載せてくれてたよ。現在の敵は、見えるやつが兵装1つにつき1体、計3体。そのほかに見えない1体がいる」
「ボルディアはね、コントロール乗っ取りの傾向から、見えない兵装……つまり自爆装置に取り憑いてるだろうって見立ててるのね」
 それだとちょっと遠距離攻撃だけだと厄介かなって。マリィアが鼻を鳴らし、ルナリリルへ小声で囁く。
「カチコミ。貴女がやるってんなら、戦術に組み込んでおくわよ?」



 2隻の船がもう港から見える。
 変わり果てたギルデンスターンとローゼルクランツ。彼らを襲った狂気は瞬く間に、中古とはいえ兵器会社の改修をうけた近代艦船を幽霊船に変えてしまった。事前にこれが演習相手と、在りし日の彼らを提示されなければ。あるいは3年前、転移前のロッソへ査収に訪れた姿を知っていれば。あれが凛々しいローゼルクランツとギルデンスターンだとは誰が知ろう。

「ザマぁないな。超兵器を積んでも亡霊となって飛ぶんじゃぁさ」
 ボルディア機のモニターに2隻。姿は幽霊船でも都合よく自爆装置を露出させちゃくれなかったかぁ。そりゃそうかぁ。と小さな溜息。船底近く、巧妙にダメージコントロールされた腹の中に抱え込んでいると聞いたとき、少しだけ、海を呪った船長の話を思い出した。
 皆、それぞれの最大レンジの兵装を持ち、迎える港の演習標的群を背に立つ。
(もっと詳しく、標的群について打ち合わせる時間が有れば……いや、言っても仕方ないことですか)
 クオン機の受信範囲からエクスシア演習カスタム機が消えた。クラスタに見立て要塞のように組んだ布陣で、固定標的に加え可動標的を操作する大型VOID役。支援申し出は有りがたかったが、開発局防衛に専念してもらう。背後の護りを疎かにさせるわけにはいかなかった。
「はい。布陣は敵上陸に会わせて、ハの字型にです。標的群もいれて鶴翼を構築するように。その上で主砲クローディアスと片方の機銃を片舷1方へ寄せることができれば……」
 いざとなれば自分が囮となればよい。
 その言葉を飲み込んでクオンは皆の応答を待つ。すぐに遙華の補足。
「敵陣形は梯形。現状は偵察ドローン撃墜時から変わらず直進です。その時、ターンせず砲塔回転のみでの攻撃、これが敵のコントロール能力の限界ならばというのは希望的観測、ではあるのです」
 ですが、と遥華は続ける。複数の偵察ドローン撃墜の位置関係と僅かなタイムタグが、梯形固持を示しているのだと。
 ──艦艇の攻撃レンジ。そして、嗚呼! 何人がその仕様に罵声を浴びせただろう。大容量マテリアルパックの搭載位置は、護りも堅固な弾薬庫ならびに後部格納庫。
「つまりは後ろを衝くしかないんだろう?」
 ルナリリルは肩をすくめ、当初の予定通りだろう、と鶴翼先端に就いている。彼女のターゲットは後衛、先頭のギルデンスターンの背を護るローゼルクランツ。270度の主砲攻撃レンジに180度機銃レンジ。各艦艇ごとに背後を突くなら、2隻を連携させるわけにはいかなかった。

 あっけない。
 最前線に位置する標的群がクローディアスに一掃されたときの、遙華の感想だ。
 大群を予測し配置された標的群は、操作するものが居なければただ固定された風船モドキ。あれらと自機──キルケーを隔てるものは、遮蔽する堡塁だけではない。
(故郷の兵器が奪われて故郷を踏みにじろうとする。そんな夢見の悪い話、沙翁の描く悲劇みたいなこと、させるものですか……!)
 キルケーのガトリングが目標とする小型歪虚へ届くのは実際はまだ先。しかし銃口は向け続けなければならない。再度、標的群へ紛れて実弾発射の火花を強調する。モニター片隅に追うのはクオン機、Phobos。上陸後の囮を買って出た、同じくギリシアの神の名をもつ機体。

「……っしゃ! ギルデンスターン入った。見えてて撃てないって疲れるんだってば」
 美亜機の対空砲CC-01が火を噴いた。クオン機105mmスナイパーライフル、ルナリリル機カノン砲「スフィーダ99」の射程を指くわえてみていた分、鬱憤の堪った運用なのは致し方ない。
「なんで艦砲を散弾とかにするかなー? しかもエネルギー弾とか撃ち落せないじゃない。あー、逆か。逆に考えるんだってどっかの英国貴族が言ってたよ。実弾でエネ弾落とすんじゃなく、相手のエネ弾に実弾落とさせればいい!」
 ブリカスもたまにはいい事言うじゃない。美亜機GーCustomの類人猿にも似たシルエットから再度、対空砲。無駄撃ちをさらに無駄にしてやれば接近手段の応用も効く、と目論見。しかし──撃っているうちに(これミサイルかロケランがあればもっと簡単に済むじゃんよ?)との結論に達したのだろう。
「ブリカスェェエ! 実弾バンザイ!」
 マリィア機の無線から流れた美亜の叫び。これはもう、激しく同意するしかない。
「でしょ? 実弾サイコー実弾サイキョーでしょ」
 ……じり。と、美亜より痺れをきらせたマリィアが、標的群を括りつけた堡塁から鶴翼を狭める。移動特化。マリィアが傭兵という名の愛機に課した命題は、彼女自身の戦闘スタイルそのものだ。──速攻のガンスミス。気がつけばもはや海岸線を横切ろうとするギルデンスターン、その後ろにローゼルクランツ。
「それじゃ行きましょうか、mercenario。オーダーは狂気から全ての奪還」
 状況はこれより陸上戦へ移行する。

「範囲外の射程を放つコレに喰らいついてくれましたよ」
 ふん、と小さくついた息は無線越しにも伝わってしまっただろうか。クオンの飄々とした口調に、それでも混ざる安堵と少し好戦的な響き。迎撃作戦の概要、そのお膳立ては便利屋を自負する自分でも内心緊張するものだ。105mmスナイパーライフルが、先頭ギルデンスターン搭載クローディアスを2度無駄撃ちさせ、機銃に取り憑くVOIDを1匹貫いていた。だが、彼にとって最大の成果は、『クローディアスの狙いを自らに向けたこと』だ。
「ん。じゃぁクオン、よろしく頼むよ。おまえに苦労かけっけど、俺のロングレンジマテリアルライフルと機銃はさ、乗組員が出来なかった自爆用にブっこみたいんだ」
 美亜もよろしくな。と、野性味を強調したボルディア機、炎帝が軽く片腕をあげて第一次防衛ラインから散開する。
 先頭のギルデンスターンからの狙いを引きつけたまま、鶴翼の中心寄りにクオン機。ライフル設定はマルチロック。


 砲撃目標を片舷に寄せ、標的群を殲滅して、陸を進むはギルデンスターンとローゼルクランツ。
 先頭を逝くギルデンスターンに立ち向かうは、クオン機、美亜機、ボルディア機。
 かの船の無駄撃ちは全員合わせて6発、仕留めたVOID1匹。ギルデンスターンをこのまま進めてはならぬ。その先にあるは開発局、クローディアスの追加付与する帯電で、未対策の機器は沈黙する、とは、先ほど美亜が締め上げた英国紳士談である。
 次に続くローゼルクランツ。引きとめるは、マリィア機、ルナリリル機、遙華機。
 上陸までの無駄撃ち4発。VOID健在。かの船に先頭ギルデンスターンの背後を護らせてはならぬ。決死の戦友達が自爆装置を貫くまで、しがみついてでもその船足を遅めねばならぬ。



 遙華機の索敵センサがモニタに捕らえたローゼルクランツ上を走る。
「クオンさんを狙っているクローディアスがこちらを向くまで、ローゼルクランツを護るのは左右の機銃のみ。この状況から如何に優位に遷移するか……」
 既にルート上の標的群と堡塁の位置は把握済み。私はそれを使えば囮なんて怖くない。
 けれども……クローディアスの帯電効果と機銃(確か連射機能に優れていたはずだ……)の相乗効果が生じる範囲。こういうとき、CAMや魔導アーマーの宇宙対応の防御機構を感謝すべきか。それとも歩行と引き換えた速度を残念とみるべきか。

「遙華。そのデータ、逐次私にくれるんだろう? ならばパピルサグXのリソース全部、対クローディアスにつぎ込むまで」
 説明は行動で示すが早い。 ルナリリルの設計思想。夢中になって観た映像ソフトに『彼』が居た。異形の汎用機を駆り、柄じゃないと嘯きながら、敵艦隊を漸減せしめる無名のエース。並外れた生存性をもつ彼の愛機こそ、ルナリリルが名前を借り理念を体現するパピルサグ。
「そこか!」
 高速演算が機銃を追う。かまわず飛び出すルナリリル機に早速、機銃からの洗礼。深紅の塗装に小さい火花が散って、傷ひとつつけずに消える。刺し違えて機銃直上のVOIDが揺らぐ。
「大丈夫だ。伊達に装甲は鍛えていない」
 マリィア機が同じく無傷で自機に続くのは把握済だ。遙華機がクローディアスを引きつける隙、もう片舷から一気に後部に取り付く。
「砲戦型デュミナスかぁ。弄りの極み、良いモン見たわ」
 うちのmercenarioも調整は負けてないけれど。マリィア機の肩部からマント状の光彩。
 送受信データに混ざり遙華から喫緊の警報。
「ダメっ。クローディアスが回転を始めた! 央崎機、距離を詰めに参りますっ」
 270度の散弾。死角というのは射程距離と有効角度だけではない。開発局提供データに着弾観測、遙華の計算では開発ベースとなったロングレンジマテリアルライフルより、最低有効距離(つまり間合い、だ)は使い勝手が悪くなっている。
「好機好機。敵は回転中のロス出してるんだから」
 ガンスミスはその隙逃さず位置転換と次発装填に余念ありませんよ。マリィア機が走る。ルナリリル機、遙華機が走る。目標、敵の懐。

 マテリアル弾を受けたルナリリル機の魔刃が骸骨の軋みをあげる。
「ちぃっ……なんて攻撃範囲だ」
 ダメージデータは遙華機と共有更新済だ。マリィア機から応答。
「大丈夫、アラート煩いけど」
 派生する帯電は宇宙対応機の警報鳴らす程度、か。対ギルデンスターン班も全員が対応機のはずだ。
「さて。レイターコールドショットは私の得意技でね」
 つまりmercenarioの得意技でもあるわけだ。放たれる実弾! 実弾! 実弾!
 沈め沈め沈め! リロードが速い。マリィア機の位置はローゼルクランツ真後ろ。
「両舷の機銃で狙ってるつもりで、実は狙われてる。なによりエネルギーパック積んだ格納庫が丸裸、なのだわね」

 ついに3機のCAMの腕が、ローゼルクランツ構造部を掴む。CAM重量を錨代わりにして引き摺られる。演習場に入って300mほど。このまま速度を落せるか……?
「ギルデンスターンとの距離稼ぎ、どこまでいけますか……」
 暫く前、遙華機の魔砲「天雷」がクローディアスに憑くVOIDを落して、しかし消滅に至らず。なにより自爆装置に憑くVOIDは未だ不明。
「そのまま艦橋狙って、パピルサグにも照準合わせて見張ってて」
 白兵行くから。ルナリリル機のコクピットが開く。生身で甲板を艦橋内、自爆装置コントローラへ駆けて行く姿に、マリィアの問い。
「CAMに?」
 すぐ分かるからと手を振る。マリィア機の展開するイニシャライズフィールド残り1回、接近戦時に温存した最後の何十秒間。
 不意にルナリリルの怒号が響く。いや、遙華とマリィアへの攻撃管制のためだ。
「あれを乗っ取ってみろVOID。英国面を超えた機体だぞ!」
 小型狂気を引き剥がし艦橋外へ蹴り出して、ルナリリルはコントロール奪回に専念する。始末はマリィアが私より上手くやるだろう。VOIDめ、パピルサグという最高の餌に食いついたが最後だ。

 十数秒のち──
 全機退避を見届けて、遙華の魔砲が自爆コントロールを取り戻したローゼルクランツを貫いた。



 ローゼルクランツ自爆からしばらく遡る。

「マルチロックオンあと3。後続のローゼルクランツ主砲より、ターゲットを全てギルデンスターン主砲ならびに機銃へ移行。……大丈夫です。確実にクローディアスの威力は削がれています」
 かの船ギルデンスターン。忌々しい散弾マテリアルライフルの無駄撃ち、既に10オーバー。クオンは遙華機からローゼルクランツ主砲引き受けの報を受けると、自機Phobosの高速演算リソースを確認する。全ての砲に向けクオン機から射撃が放たれるプレッシャーを、ギルデンスターンが間に受け続けてくれれば良い。──しかし、そう簡単に遠距離支援は気取らせてはくれまい。
 アワフォード社パイロットに聞いたのだ。防衛対象の無傷、を目標とするなら自爆装置の作動は演習場中心までが限界だと。開発局の精密機器に一般人住居。無傷に拘るなと言われれば、逆に文字通り完璧に拘るのが便利屋魂だ。
「主砲漸減後、コントロール奪取までは最大火力の弾幕にて進行を押し留めます」
 クオン機のすぐ後ろにボルディア機。
 彼女はギルデンスターンの腹の中。自爆装置を睨んでいる。
「横腹から狙う手もあるんだけどよ、俺ぁちゃぁんと真正面から引導を渡したいんだ。ぶすぶすと燻る火じゃねぇ、炎帝の焔であの船を焼く」
 可変機銃「ポレモスSGS」を盾に、Mライフル「イースクラW」を構えて。
「なぁに、クオン。そっちの得物は使わせねぇよ!」
 ははっ! 笑い飛ばしてボルディア機が走る。
 突入支援もかねて、クオン機が、ツインカノン「リンクレヒトW2」が2つの発射口を唸らせて追う。
(腰の後ろしか装着できなかったのですが、やっぱり使う局面は避けたいですよね……)
 予備にと携えたクオン機腰部の魔導砲。尊敬するトマーゾ教授でも何故OKを出したか不明なソレはキヅカキャノン……。

「ンだらぁっ! 弾幕からの対空砲かっ喰らいやがれぇ!」
 ほらほらポンコツぅ、前方のクオン達と後方のあたし、どっちを撃つかはっきりさせてやろうじゃないの?
 美亜機を一見すれば、尾部スタビライザーに加えて大型化した椀部も相まり、五脚砲台型魔導アーマーと判断してしまうだろう。その印象を裏付けるのは、肩部にマウントされ立て続けに吼える対空砲CC-01と30mmガトリングガン。
「……無視かぃ。固定砲台違うんだぞ。それになぁ、みんなゴリラを鈍重だと誤解してるけど、本当は超ッ速なんだからね!?」
 近接特化切り替えは即時。クオン機ボルディア機の全力射撃がギルデンスターンの鼻先を押し留めるを幸いと、美亜機GーCustomが駆けて跳んだ。
 跳んだというのは正確ではない。事態はもっと凶悪だ。ギルデンスターン後方側面、整備用の突起類を鷲掴み、ぐい、と体躯を持ち上げる。漸く事態に気付く機銃に憑いた歪虚が台座を旋回するが至近距離すぎて対応不可能だ。ただ、美亜機肩のガトリングに消える。
「へへーん。っと、ローゼルクランツ組から入電してたっけ……自爆コントロールが艦橋の中の操作盤、ね」
 白兵用意していないから仕方ないよね? 答えの決まっている自問自答後に、伸張した機体の腕を艦橋に突き込み殴る。──手応え。対峙の感覚でも分かるのだろう。「退避しろ」とボルディア機の外部スピーカが伝えている。

「還ってきたか、ローゼルクランツとギルデンスターン。いくぜ、炎帝……あいつを自らを弔いの炎で火葬させてやる。出来なかった、汚された自決を今度こそ、だ」
 ボルディアは小声でありがとな、とクオン機に呟く。身を盾に弾薬を全て投じて、ボルディア機に温存させてくれたのだ。葬送のための火を。
 後続ローゼンクランツから閃光が奔る。
 続けてボルディアのマテリアルライフルが、ギルデンスターンの船体を貫いた。


 引き撃ちで遠ざかりながら、遙華が、ボルディアが、いや全員が胸中で呟く。
 さようなら。使者の船、ギルデンスターンとローゼルクランツ。



「結局、お蔵入りですか」
 手土産の紅茶を受け取り、CW側のメカニックが肩をすくめる。
 ハンター達が、平身低頭のアワフォード社から貰った優先紹介状で、傷だらけの愛機をドックへ修理持込したときの会話だ。
「悲劇と喜劇の格言を思い出す話ですが、しかし……いずれそんな兵器ですら投じなければならぬ時が来るのでしょうなぁ」

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参加者一覧

  • 課せられた罰の先に
    クオン・サガラ(ka0018
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    フォボス
    Phobos(ka0018unit001
    ユニット|CAM
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    エンテイ
    炎帝(ka0796unit003
    ユニット|CAM
  • 能力者
    美亜・エルミナール(ka4055
    人間(蒼)|20才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ヘイムダル ジーカスタム
    ヘイムダル GーCustom(ka4055unit001
    ユニット|魔導アーマー
  • 竜潰
    ルナリリル・フェルフューズ(ka4108
    エルフ|16才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    パピルサグイクス
    パピルサグX(ka4108unit001
    ユニット|CAM
  • 雷影の術士
    央崎 遥華(ka5644
    人間(蒼)|21才|女性|魔術師
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    メルセナリオ
    mercenario(ka5848unit002
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2017/04/15 20:29:10
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/04/12 07:48:55