火輪の照光

マスター:鷹羽柊架

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/05/12 09:00
完成日
2017/05/19 06:16

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 要塞近郊の町にて、エーノス族の若い女達が売られたという事実がハンター達の手によって確かめられた。
 当該地域に売られた女たちは誰一人としていなかった模様。
 エーノス族の生き残りであるルックスは逸る気持ちを抑えながらも続報を待つことにした。
 部族なき部族のメンバーが数人町の中に潜り込んで情報収集を行う。内容はエーノス族の女性たちの事もあるが、前回ハンターが遭遇した中性的な美貌の青年のこともあった。
 調査を続けていくと、その青年は時折この町に現れることがあるそうだ。
 更に町中で初めて見かけた時期は部族なき部族のメンバー達に心当たりがある。町の外で待機して話を聞いたメンバーである山羊はため息をつく。
「似たような覚醒者だと思っていたんだがな……」
「海狸が引き続き調べると言っていたよ」
 茶の髪に黒い眼の女が山羊に言えば早口で頼むと返した。
「最終的には接触を考えるよ。あの時、何があったか確かめないと……」
 女が呟けば、山羊は一つ頷く。


 テトとルックスは街の者達に顔を見られているので、要塞にあるドワーフ工房にて待っていた。
 ドワーフ工房に出向しているカペラがテトの話をファリフより聞いており、彼らの逗留先として提供してくれた。
 ただし、衣食住を提供する代わりに労働をしてもらっている。
「なんで俺も聞き込みしたらダメなんだ?」
 不満を顕にした表情でテトへくいつくのはルックスだ。
「ルックスはあの町の連中に顔を見られてますにゃ。ハンターを使ってストルを探していることを元締めにばれておりますし、町を疑っているような行動を我々が行うのは、話をつけてくれたハンター達に失礼ですにゃ」
 淡々とテトが言い聞かせていると、ルックスは言葉に詰まってしまう。
「テト嬢の言うとおりだ。ハンターは我々帝国……要塞管理官の依頼にも受けることはあるし、要塞の治安部隊が出て来る事を警戒して君達へ情報を出し渋ることになる。ストル嬢の行方も途切れる可能性がある」
 更に言葉を補足したのは今いる部屋の主、工房管理官のアルフェッカだった。
「というか、何で君たちが執務室にいるんだ?」
 呆れ声のアルフェッカが言えば、「そう言うんなら、ちったぁ働け」と休憩中のシェダルが茶々を入れる。
 きちんと仕事はしてるのに、仕事したくないとだらけるので時折突っ込まれる。
「それは……」
 テトが理由を告げようとした瞬間、ドワーフ工房の女性技師であるフォニケがドアを開けて入ってきた。
「テトちゃんとお肉がここにいると聞いて!」
「にゃんでわかりましたにゃぁあああ!?」
「つぅか、お前の肉はさっき食っただろうが!」
 フォニケは一歩踏み出した瞬間に全速力で駆け出し、間合いを詰めた。
 自らを庇うように手を突き出したテトの腕を軽く払って一気に身軽なテトを抱き締める。
「まだまだ、試着はあるのよー!」
 そのままお持ち帰りされたテトの後姿を見てからルックスはアルフェッカの方を向く。
「どうして、治安部隊は動かないんですか?」
「証拠がないから。事実はあっても、現行犯逮捕じゃないとね」
 肩を竦めるアルフェッカにルックスは「そうですか」と呟いた。


 満月へと向かう三日月の夜でもあの町は喧騒が絶えない。
 朝も晩もなく、住人たちは怠惰な時間を過ごす。
 部族なき部族のメンバーも夜の闇に溶け込むように町の中を歩いている。
 海狸というコードネームを持つメンバーは町の者に気づかれないように陰を歩いていた。余計な摩擦を生まないように。

「……   ……」

 喧騒の中、確かに聞こえた。
 自分以外いなくなった部族由来のコードネームではなく、本当の名前を。
 その声を海狸は知っている。
 振り向いて確かめようとしたが、その術はなかった。


 翌日、部族なき部族のメンバーである海狸が死んだことが判明された。
 他殺だろうと断定された。
 致命傷は喉へ一直線に切られた傷。
 争った形跡が見受けられず、隙をついて殺されたのだろう。
「海狸の姉さま……」
 大粒の涙を零してテトが彼女の死を悲しんでいた。
 そんな彼女の姿を見て、ルックスは少し動揺している。
 辺境にとって、人の死は当たり前にあり、悲しむ者はあまりいない。
 生を失ったその魂は生きている者と共にあるという考えを持つといわれている。
 しかし、テトは仲間の死に敏感であり、戦いにとても臆病だ。死という隔たりで二度と会えない寂しさを悲しむ。
 当のルックスは自分が関わることで更に死人が出たことに衝撃を隠しきれなかった。
 自分が頼んだことがどれだけ危険が分からなかったといえばそうかもしれない。人の命が奪われる事の重さに足元から崩れそうだと感じてしまう。
 山羊がルックスの肩をしっかり掴んだ。彼が自分を見失わないように。
「……ハンターを呼んでくださいにゃ……」
 しゃくりあげつつ、涙を流したまま呟いたテトの言葉をメンバーは静かに受け止めた。

 集められたハンターにはそれからのエーノス族の行方の進歩状況や町で潜入調査で部族なき部族のメンバーである海狸の死を伝える。
 エーノス族のその後の足取りは分からなかったが、ストルだろう少女を買った人物の推測を口にする。
「ストルを買ったのは、ビスという男の可能性がある。先日のハンター達の調査で彼とよく似た男と遭遇した、覚醒するときの特徴もよく似ていた」
 山羊の言葉に、ハンターの一人が疑問をぶつける。
 何故、その時に教えてくれなかったのか。
「それは、彼は調査任務中に死んだと思われていたからよ。コードネームは黒犬と呼ばれていたわ」
 死体は一応あったが、よくわからなかったというのが真相だ。
「……死体を偽造し、逃亡という可能性がありましたにゃ……生きている可能性は無きにしも非ずですにゃ……」
 しゅんとした様子のテトが言えば、場が静かになった。
「再び、あの町に行って、黒犬の兄さまをがいたか調べてくださいにゃ……」
 テトの言葉にハンター達は承知してくれた。

リプレイ本文

 要塞都市【ノアーラ・クンタウ】……切り立った崖の上にそびえ立つ大きな城壁に護られている都市。
 今いる場所でも視界に捉えることが出来る城壁をエアルドフリス(ka1856)は見つめていた。
 彼の蛇の弟子猫と会うのはいつぶりだろうか。
 ハンター達はドワーフ工房へと向かえば、部族なき部族のメンバーであるテト、ルックス、山羊の三人が待っていた。
 彼らの様子はやはり重たい雰囲気。
「にゃぁ……皆さん、お疲れ様ですにゃ」
 テトは笑顔を浮かべつつも、ハンターを労わる言葉をかける。
「……テト君……」
 切なそうに呼ぶのアイラ(ka3941)声にテトは「大丈夫ですにゃ」と返す。
 その姿がとても健気ではぎゅっと、テトを抱きしめた。ゆっくりと、テトが離れて涙が滲んだ金の瞳がアイラを見上げる。
「正直、今よくわからないのですにゃ……にゃんで、死んだと思われる黒犬の兄様とにた人が今になって現れたのか……」
「なんで部族なき部族のメンバーがメンバーと思われる人間に殺されたってことになるんだ?」
 そう言ったのはだ。彼オウガ(ka2124)はどこか所在無さげというか、少し遠慮したように頭を掻く。
「結構、あんたらの事情に突っ込んだと思ってるんだが……ビスの事を聞いてもいいか?」
 オウガの言葉にテトが頷く。
「ビス……黒犬の兄様は、シバ様が懇意にしていた部族の生き残りと聞いてますにゃ……部族が歪虚の侵攻に遭い、一人逃げ延びていたところ、シバ様に引き取られたと……」
 そこまで言うと、テトは頭を下げて俯いてしまう。
「黒犬の兄様には本当によくしてもらいましたにゃ……斥候の仕事を教えてくれた一人でしたにゃ……」
「海狸が随分気にかけていたと聞くが」
 ロニ・カルディス(ka0551)の言葉に山羊が説明を引き継ぐ。
「黒犬が最後に受けていた長期にわたる任務に同く就いていた。奴のミスが原因で相手の歪虚達と戦闘になってな……海狸は命からがら生き延びたが、黒犬は死体はあったが損傷がひどくて黒犬かもしれないという状態だった」
「その後は急いで撤収するしかにゃく、敵にはダメージを追わせることが出来ましたが、詳しく調べることはできませんでしたにゃ……」
 テトがしょげながら呟けば、「とりあえず向かおう」と鞍馬 真(ka5819)が促した。


 町へ移動する中、は星野 ハナ(ka5852)こっそりテトに近づく。
「もしかしてぇ、二人に確執とかありましたぁ?」
 ハナの言葉にテトは首を横に振るだけ。
「どうしてそう思ったんですにゃ?」
「あの人はとても丁寧に私を運んでくれましたしぃ、私が調査していることも把握してとかとぉ。テトさんに気づいていると思いますぅ。もしかしたら、帰れない理由があるかもしれませんよぉ」
 素直に疑問をぶつけてきたテトはハナの回答に納得する。
「両手が塞がっていても黒犬の兄様なら何とかできるからですにゃ……超聴覚で聞いていたかもしれませんですにゃ」
 思案していたテトが何かを思い出す。
「途中、ドワーフ工房の休憩用詰所に寄りますにゃ。そこには部族なき部族のメンバーが待っておりますにゃ。その時に聞いたらよろしいと思いますにゃ」
 テトの言う通り、そこで待っていたのは部族なき部族の女性メンバーだ。
「あ」
 アイラとオウガは顔を見たことがあるメンバー。
 以前、部族なき部族のメンバーが使用しているガテーという洞穴でテトと一緒に隠れていた女メンバーだった。
「花豹の姉様ですにゃ」
 太陽に焼けた赤茶の髪に褐色の肌の女性は涼し気な瞳をしている美人だ。
「テトとルックスが世話になってるね。宜しく頼むよ」
 花豹が挨拶をすると、しばし休憩となる。
 ハナは花豹に黒犬と海狸の話を振ると、彼女は話してくれた。
「黒犬も海狸も互いにも他の面子にも確執なんかは特にないかなって思うよ。ただ」
「ただ?」
 ハナが言葉尻をオウム返しに言えば、花豹は一呼吸置く。
「海狸は黒犬に好意はあったと思う。一部にはバレてて、正直シバ様も気づいていたんじゃないかな。黒犬は分からないけど」
 そこまで言えば、テトはただでさえ大きな目を丸くしていた。
「あの任務で黒犬が死んだか、脱走したか分からない状態でどうにしろ、海狸は落ち込んでてねぇ……今、私が分かるのは、最後に黒犬が生きているところを見たメンバーは海狸ということ」
 息をついた花豹は再び口を開く。
「海狸が殺されたのが脱走の隠蔽だとしたら、私達もまた、黒犬に狙われることになる。申し訳ないけど、テトとルックスを守ってほしい」
「強いんですね」
 ハナが確認するように言えば花豹は一つ頷いた。
「身内で納めることが出来れば……御の字だね」
 その表情は暗いものだ。


 町に入ったハンター達はそれぞれの調査へと向かう。
「ルックス」
 分かれる際にオウガがルックスの名を呼ぶ。
「はい」
 ルックスは先ほど合流した時より落ち着いているが、どこか気分が下がっているような雰囲気を察する。
「お前のせいじゃねえよ。また、情報仕入れてこようぜ」
 まだストルの情報もまだ途切れていない。
 力強いオウガの言葉にルックスは二人分の首飾りをぎゅっと握り締めた。

 スキップでもしかねない様子で入って行ったのはハナ。
「さ、旦那様はどこかしら~☆」
 どこか茶目っ気も含んだ声音で前回同様に裏道へと踊り込む。
 ハナの後姿を横目で見送ったエアルドフリスと真だ。
「前回、黒犬に助けられたハンターは彼女か?」
 エアルドフリスの言葉に真が「そうだ」と返す。彼らが歩いているのは大通りであり、真は一度歩いた道なので、エアルドフリスの道案内も兼ねている。
「黒犬の顔をしっかり見たのは彼女だけだが、それ以外にもやりようはある」
「そうだな」
 エアルドフリスが顔を上げると、二階建ての宿を兼ねた飲み屋が見えてきた。
 中に入ると、前回同様に埃っぽいような薄暗い店内が二人を出迎える。
 真が目的の商売女を探すと、店の奥で接客中。その相手に真は見覚えがあった。
「仕事中か?」
 ふむと、呟いたエアルドフリスが様子見にカウンターの方へと視線を向ける。女は接客していた男に「じゃぁね」と言って立ち上がる。
「彼女はあの男の情婦のようだった」
「あの調子だと返り討ちか」
 小さな声で真が言えば、エアルドフリスが男の様子を見て同じトーンで返す。真は無言で肯定した。
 年齢を隠すような化粧をした女は真を覚えており、どこか嬉しそうな笑みを浮かべている。
「すぐに会えたのね」
「ああ。いいのか?」
 真が尋ねたのは彼女の背後で睨みつけている男。
「いいのよ。前回、貴方に失礼なことをしたんだもの。今日は別のお友達なのね。あの坊やは元気?」
 女の問いに真は一度頷いた。
「ある男を探しているんだ。姐さん、知っていれば教えてほしいんだが」
 エアルドフリスの穏やかな声音に女は「あら」と気をよくする。向こうでは男が歯噛みしていた。
 黒犬の容姿に女は聞いたことがあると、後ろを振り向いて「あんた、知ってるでしょ」と男に声をかけた。
「知らねぇよ」
 へそを曲げた男はそっぽを向いてしまう。どうやらやきもち妬きのようだ。真としては既知を頼りに来ただけであり、下心はない。
 情報を貰うのだから、情報料として彼女の売り上げに貢献しようかなというくらいだ。
「兄さん達にも話を聞くか。一杯飲もうか」
 カウンターで酒瓶を買い取ったエアルドフリスが近くのテーブルに座っていた男達にも誘う。
「ただ酒か」
「飲めよ。あんたはこのコップだ」
 いつの間にか、テーブルの上に数枚のコインが重ねられ、上にコップが載っている。それは商売女の愛人である男の前に置かれた。
「……多分、時折競りの時に現れる奴だろ」
「有名なのか?」
 真がコインを指先で男の方へと滑らせると、当人は鼻を一つ鳴らす。
「何年か前から来ている。あの見かけだろ? 身ぐるみ剥ごうとした連中を軽々と返り討ちにしちまった。覚醒者もいたのによ。それ以来、いちゃもんつける奴はいるが、本気で戦う奴はいねぇよ」
 強さについては町の者達が知るところだろう。
「用途は聞いたことあるか?」
「基本的にそういった話に応じる奴じゃねぇよ」
 エアルドフリスに酌をしてもらった男はコップの酒を一口飲んで顔を顰めてから答えた。すぐに自分の情婦へ顔を向ける。
「おい、やっぱり酌は女がいい」
 そう言うと、「わからんでもない」とエアルドフリスが笑う。


 アイラとオウガはまずは元締めの店へ向かった。
 店の前に立つと、老人がちらりと来客者を見やると、「お前達か」と楽しそうに笑う。
「また面白いことをしにきたか?」
 にやにや笑う元締めに「面白くないから」とアイラが律儀に返す。
「儂は見れんかったが、中々面白い状況だったなぁ」
 小競り合いが絶えない町であるが、前回のようなことは滅多にないという。
「あいつらはよく少数でつるんではこの町に居座らん奴らにちょっかいをかける」
「前回、俺たちの連れを抱き上げて走っていった奴にもか?」
 オウガの言葉に元締めは頷く。
「あの綺麗な顔じゃろう? 商売してる女達には人気なんだが、女を買わん。男が好きなのかと最初にからかった奴はその場で血の海に沈んだ」
 それからはからかっても反応しなくなったので、見せしめだったのだろう。いつでも戦えるぞという意思表示で。
「またここ数日、この町にいると聞いておる。また楽しみにしてる」
 笑う元締めに呆れつつ、二人は目的の酒場へと向かう。

 裏路地の更に細い道に入り込んだロニは真からの伝話を受けていた。
「先ほど、オウガ達からも連絡を受けた。奴はこの町にいるようだ。……ああ、気を付ける」
 視界の端にいるルックスは伝話が珍しいようだ。
「さて、行くか」
 通話を終えてロニがルックスに声をかけると、ルックスは小さく返事をしてフードを目深に被り直す。
 着いた場所は攫われたエーノス族の女性達が競りにかけられた店。
 広いホールを中心に客席が囲むようにいくつかのテーブルがあり、奥にはソファー席がある。
 店主である商売女がバーカウンターに座っていた。
「お客?」
 足音に気づいた店主が顔を上げる。
「飲ませてくれるなら」
 ロニが返すと、店主は「入りな」とカウンターの中へと入り、蒸留酒を棚から取り出す。
「ボウヤは……酒じゃない方が」
「……成人はこの間、してる」
 そう答えたルックスに店主はロニと同じ酒を渡す。
 話を切り出したロニは黒犬の容姿を伝え、心当たりがないか尋ねた。
「現れたのは数年前かねぇ。ここで競りがある時はよく来ているよ」
「この間も競りがあったそうだな」
 ロニが言葉を差し込むと、店主は「その時も買っていったわ」と返す。
「一番若くて、一番高値の子ね。少女趣味の客がいて、競り負けた方は随分悔しがっていたわ」
「若いのが好みなのか?」
 お代わりを所望したロニの問いに店主は「違う」と言う。
「競りにかけられるのは若いのが多いけど、男も女も買ってる。あの人はいつも毅然とした人を買うわ」
 酒のお代わりを受け取ったロニは不思議そうな顔をする。
「捕まっていて、これからどうなるか分からないのに、取り乱したりしない人を買うの。この間買った子も震えていたけど、毅然としてたわ。他の女達は泣き怯えてたのに」
 店主の言葉をルックスは拳を握りしめ堪えている様子をロニは視界の片隅に入れていた。


 ロニより伝話を受けていたアイラ達は小さな声で会話をしていた。
「毅然とした奴か」
 ぽつりとオウガが呟く。
「どんな苦境にも屈せず、向かうって難しいよね」
 辺境の厳しい環境故に誇り高くあれと辺境に生まれた者はそう躾けられる事が多いが、躾と実践は違う。
 オウガもアイラもまた戦士として強く、誇り高くありたいと精進している。
 歩いていると、声をかけられた。
 ここの住民なのだろうか、路地に座り込んでいた男が二人に近寄る。
「お前達、この間の騒ぎを起こした奴の仲間だろ」
「だから何」
 低くアイラが答えてレイピアに手をかけるなり、男は両手をあげて後ろに下がる。
 オウガは男を酒場に誘った。二人で行くより、飲める奴がいた方が調査の引き出しにいいと思ったからだ。
 男の話を聞けば、数人で標的にした奴の持ち物をはぎ取るという連中でけち臭い話だ。
 この男、よく競りの手伝いをするらしい。
 そこそこ動くのが得意で競りの中でトラブルが起きないか監視する役をしていた。
 当然のことながら、黒犬だろう男のもよく見ていたという。
「去年の春、雪が融けた頃か……三人くらい買っていった。覚醒者ばっかり。珍しかったなぁ。この間の秋も」
 この町では、競りに出された人間は主に下働きの労働や使い捨ての愛玩物として買われるという。覚醒者は反抗された時に面倒だからだ。
「覚醒者……どうしてかしら?」
 怪訝そうな表情のアイラの呟きに男は「皆驚いてた」と返した。


 身ぐるみ剥ぎのグループの一人がハンターに酒を馳走になっているころ、残りのグループの連中はハナにいちゃもんを付けていた。
「おい姉ちゃん! この間はよくもやってくれたな!」
 キャンキャンうるさい子犬には興味はない。
 今のハナにとって目的はただ一人。
「私、旦那さまを……ビィさまを探してるんですぅ」
 小首を可愛らしく傾げるハナだが、彼女の実力を知っているので、怖いしかない。
「ピンチの私を助けてくれて……」
 そっと吐息を吐くハナに追い剥ぎたちが驚く。
「何! あいつの嫁か!?」
「そうなのか!」
 強さはこの町の人間が知る所、更に嫁までもと狼狽える。
「嫁などいない」
 強い否定の言葉が奥の路地から聞こえ、薄暗い路地から端正な顔が浮かび上がり、彼らの前に立つ。
 一気にテンションが上がったハナは男に抱きつく。
「前回、お会いした時から惚れました! 嫁にしてください!」
「は、離せっ!」
 覚醒後のものすごい力でハナは男から離れない。
「部族なき部族の連絡役になりますよ? ビィ様」
 ハナが言えば、男は瞬時に周囲を窺う。
「テトに伝えろ」
 トーンを高くして男は……部族なき部族のコードネーム黒犬こと、ビスが宣言する。
「俺は……お前がシバの弟子、シバの後継者とは認めない。俺こそがシバの後継者だ」
 その言葉に反応したのは物陰に隠れていたエアルドフリスだ。
「テトを認めてないのは理解したが、お前が何故、後継者だと?」
 眠たげな様子が消え、エアルドフリスの灰の瞳が静かにビスを見つめる。
 店を出た後、シンと一緒にハナを追っており、道一本向こうにシンも隠れていた。
「俺は、シバの息子だ」
 断言したビスはハナの隙をついて彼女から離れ、消え去る。
「驚いたな……」
 真が物陰から出てくると、エアルドフリスも「とんでもない飛び道具だった」と返した。
 赤き大地の戦士シバは今もなお、影響を残していたと思い知らされる。

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重体一覧

参加者一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 援励の竜
    オウガ(ka2124
    人間(紅)|14才|男性|霊闘士
  • 太陽猫の矛
    アイラ(ka3941
    エルフ|20才|女性|霊闘士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
鞍馬 真(ka5819
人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2017/05/11 22:27:52
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/05/09 00:39:50