• 血盟

【血盟】知追う者、過去を覗き涙する

マスター:狐野径

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/05/15 22:00
完成日
2017/05/20 13:43

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●陰陽寮
 精霊のこと、ライブラリで見られるデータのことなどを大江 紅葉(kz0163)は知ってしまった。
 最近まじめに自分たちが住んでいた里の未来を考えいたため、世のなかの動きに疎くなっていたから今反応する。
 ため息とともに、エトファリカ連邦国、天ノ都の陰陽寮の机の上に突っ伏す。
「どうした? 食あたりか? 熱中症か?」
 上司は一応尋ねる。たぶん違うなと思いつつ、体調を気遣う良い上司を演じる。
「行ってまいりますっ!」
「はっ?」
 紅葉は申請書類を取り出すと書き始めた。
「明日から二日間、(たぶん)リゼリオに行ってきますっ!」
「は?」
 紅葉の突然の行動になれている上司もきょとんとする。
 かすかに「たぶん」と聞こえた気がする。
「ハンターオフィスに行くんです。神霊樹のライブラリっていうのが気になるのです」
 職場内にいた人たちに「出た」「とうとう行くか」という表情が浮かぶ。
「ああ、まあ、行ってくればいい」
「はい」
 鼻歌交じりで仕事を片付け始めた。

●ライブラリ
 神霊樹のライブラリ。
「……つまり、行っているけど行っていない。夢のようで夢ではない?」
 紅葉はそこで職員を質問攻めにする。
「例えば、私が行ってみたい、というのがあれば行ける可能性はあるってことですね」
「行くというか、見るって言わないあたりがすごいですね」
 応対する職員は苦笑する。
「大江の里に、うちの先祖が住み始めたころか……もう一度、私が生まれた前後の里をみたいですねぇ」
「すごくピンポイントですね」
「ま、まあ……」
 紅葉はズキリと胸が痛む。なぜか後ろめたい気持ちになっていた。
「で、でも、行っちゃいけない気もします」
「好奇心だからですか?」
「はい」
「……体に負担はないということにはなっていますけどね」
「でも、見るということは意識には作用しますよね」
「いくらライブラリで過去が変っても、現実の、今は変わりません。あくまでライブラリでの未来は別……あくまで『if』です」
「……そうですよね」
 紅葉は迷う。
 現実の里は再建はじわじわである。紅葉もそろそろ土地の浄化を勝手に行わないとと思っている。
「どうします? 迷うなら、やめます」
「……迷うからこそ、見てきた方がいいってこともありますよね?」
「そういうのもあります」
 職員は勧めながらもだんだんと不安が押し寄せる。紅葉の様子が思いつめてきているからだ。
「なら、私が生まれた前後の……若葉が生まれたころ……」
「え?」
 資料によれば紅葉の妹の名だ。職員は胸騒ぎが強くなる。
「この辺りですね」
「はい……」
「あ、手すきのハンターさん護衛に来てもらいます?」
「え? でも、私依頼料出せません」
「いえいえ。興味はあるハンターさんもいると思いますよ? それに、危険なところに行かないでしょ?」
「そ、それはどうかわかりません。当時のエトファリカ、妖怪たくさんいましたから」
「……なおさら、お一人は危険ですよ!」
 職員は押し切った。

 職員が声をかけたハンターに次のようなことを言う。
「大江様を一人で行かせるのが不安で。別に、危険とかではないと思いますよ? ああ、もちろん妖怪が出る危険はありますから、普通の危険ですね。いくらシミュレーターとはいえ……妹さんを見たいだけならいいんですけど」
 つまり、連れ戻す係ということかとハンターは問う。
「時間が来れば勝手に戻りますけど……それでいいのかという問題もあります」
 依頼を承諾したハンターは紅葉に要注意というのを肝に銘じる。

 ハンターと紅葉はライブラリに触れた。

●里
 紅葉は里にたどり着いた。
 ハンターが位置を把握している間に、紅葉は走り出す。里に入っていき、ハンターを撒いた。
 紅葉は一人になると、里から海を見る。陸地が見えるが、今は日中で砂地が出ており渡れるが、橋はない。
「結局、橋って以前からないのですね」
 潮が満ちても船着き場はあり、小舟はあるから陸へは上がれるのだが。
「空気が……普通です」
 紅葉は潮の香りに目を細める。
 頭からはすっぽり薄絹をかぶることを忘れない。一応、父母や祖父母など家族や親せきがいることを考えて。
「ねーねー、おばさん、見てみて、妹なの」
 元気がいい声が響いた。
 紅葉はハッとする。
 そちらを見ると、家の前で漬物を作っている女性に、小さな女の子がおぶっている赤ちゃんを見せている。
「あら、姫様……噂の若葉様ですね」
「そうよ! わたし、お姉さんになったのよ!」
「あらあら」
 里の人は大江家の者を見守ってくれていた。
(あれは、私……背中に若葉がいる!?)
 涙があふれる。
 自分のせいで妖怪との戦いに巻き込まれて死んだ妹。
 生まれて、未来があるあの子がいる。
「おおい、紅葉、そんなところにいるのか」
「あー、カセン!」
「ふええええええ」
「あー、若葉が、若葉が」
「あー」
「カセンのせいだよ!」
「違う、俺が何で悪いんだよ!」
 紅葉より年齢が四歳上の従兄弟・華鮮。
 里から逃げるときにはぐれて、生死不明。一族の誰もが死んだと考えている。当たり前だ、紅葉と若葉も一時期、生死不明になっていた。道に迷って予定通りつかなかったのだから。
「あ、冷たいよっ!」
「え?」
「あらあら」
 小さな紅葉は困惑し、里の女性は笑う。
「砦から爺様たちも戻るし、お前も帰るぞ」
「うん。それより、背中冷たいよ、カセン、見てよ」
「んなの見せなくていい! ったく、若葉のおむつから漏れたんだよ!」
「うわああ」
「帰るぞ」
 従兄弟に手を引っ張られ紅葉は急いで坂を上っていた。

「おや、お嬢さん、どこから来なさった?」
 不意に声をかけられ紅葉は驚く。
「え、あ、えと、都から」
「こんなところまで? 帰るなら夜は道がなくなるし、止まるなら、宿はないから……宗家に頼むかしかないぞ」
 宗家、つまり紅葉の実家だ。
「……あ、帰ります。ありがとうございます」
「んー、お姉さん、奥方様の親戚か何かかい?」
「え?」
「声と雰囲気が似ていらっしゃる」
「そ、そうですか?」
「違うのかい。引き留めたら悪いね」
「いえ、御親切に」
 紅葉は急いで立ち去った。
 しかし、里からは出なかった。
 隠れることができるところは知っているから。
 そこでしばらくしてから丘の上に上がろうと考えた。
(でも、見回り考えるとごまかせないですよね……)
 紅葉は繁みの中でじっとしていた。
(ここに、残ることはできるのでしょうか?)

●事件
 大江の住む里や、陸地側の里を守るための砦あたりが奇妙に明るい。それは襲撃があったために明かりをつけたと推測するのに十分だった。
 下手をすれば砦が燃えている可能性もある。
「砦に妖怪が多数」
「援軍と言っても夜だぞ」
 大江家は土地柄、夜は行動不能となる。
「翌朝まで持つか」
「大丈夫だとは思うが」
 小舟では大量の人を運べない。
 砦の状況が気になる。少しでも行くべきか。
 海と空を恨めしく眺めた。

リプレイ本文

●やっぱり
 カーミン・S・フィールズ(ka1559)は転移先をうかがう。
「ここは……ん? あ、クレハ、早っ!」
 護衛対象のはずの大江 紅葉(kz0163)の後ろ姿が遠ざかる。
 ついてきている人たちの思考が追いつく間を与えない見事な行動。
「いや、感心している場合でもないし、怒っている場合でもないわ!」
 過去を見られるなら答えは見つけやすいと、情報屋として考え腹を立てていた。行方不明の父を含め。
 ミオレスカ(ka3496)は東方風の服も念のために持ってきていた。里に行くならその提案も出す前に、事態が動いてしまっていた。
「いつかはやると思っていましたが……足速いですね……。それより、直接自分に会うのは良くないです」
 雪継・白亜(ka5403)は追いかけるために持ち込んだ魔導バイクのエンジンを蒸かす。
「以前行ったことのある里に近い形でいいんだろうか……放置はできまい。追いかける」
「はい、行きましょう」
 ミオレスカが準備する。
 ラジェンドラ(ka6353)は魔導カメラを取り出す。
「俺も行く。里の再建も理由なら、写真に撮ってみようと思うが……無駄か……。今の状況からすると……亡くなったという妹がらみの時代に飛んだ可能性があるのか……」
 不意にグラズヘイム王国であった戦いで亡くなった妹の影が脳裏をよぎり、目を一瞬伏せる。
 八原 篝(ka3104)はここに転移する前に里のことを見ておいた。
「里にいるなら、危険は少ないだろうけど、放っておくのも……。彼女とは初対面だし、顔見知りが探すほうがいい」
 待っているからと告げるとステラ・フォーク(ka0808)がうなずくと口を開く。
「私は紅葉さんと一度会っただけで事情は細かくしらないし……里に大勢で行って下手に刺激しないほうがいいわよね。ここで待ってるわ……」
 里に乗り込む三人はうなずいて、急いだ。

●追いかける
 里に入ると視線が痛いと感じるミオレスカ、白亜、ラジェンドラ。
 まずは何が入ってきたのかという監視。それが人間だと分かると安心するらしく少し暖かい視線になる。それでもどこから来たのか、どこの人間かを見極めるように視線が向かってくる。
 直接声はかけてこない。
「完全にまかれたか?」
 ラジェンドラから溜息が漏れる。
「里自体は、危険が迫っている、といわけではないみたいだな」
「そうですね。紅葉さんを止めることは必要ですけれど」
「まあ、悪いことはしないだろうがな」
 白亜とミオレスカは考えるが、すでに走って逃げている。
「何年前とかわかるか?」
 ミオレスカと白亜は首を横に振る。
「リアルブルーから転移してきたって思わせれば聞けるか」
「大騒ぎになるな」
 ラジェンドラの案を白亜は却下した。彼自身「そうだよな」と苦笑する。
「地の利はあっちにあるからな、隠れられると厄介だな」
 ミオレスカと白亜がうなずく。
「現在の里には行ったことがあるのですが」
「建物がちゃんとあるなぁくらいだな」
 ミオレスカと白亜の感想。のどかな里というのもわかる。
「地形自体はそれほど変わっていないと思います」
「確か、崖崩れみていなのはあったような」
「紅葉さんを追ってみます……?」
「絵に描いてみるか? 何か起これば出てくるか?」
「難しいですね」
 先に進んでみることにする。
「古き良き日本の里って感じか……知らない場所だがな」
 ラジェンドラは写真で見た記憶を引っ張る。写真とは異なり、ここには空気を感じ、音も、匂いもある。人々の息遣いを感じ、居心地はいい。
「おや? さっきの都の人のお付きかい?」
 作業をしていた人が手を止める。
「そうだ」
 ラジェンドラが堂々と答える。
「なら、上の方に行ったよ? 駄目だよ、護衛が振り切られたら」
「そうだな、済まない。そして、ありがとう」
 ラジェンドラは頭を下げた。
「上ってどこまで行ったのか?」
「聞きながら行ってみましょう」
 白亜とミオレスカが不安がる。上だと見晴らしのいい広場と途中道に入ると大江家があるのだった。

●待つ人
 カーミンは周囲を見渡す。
「さて、連絡は?」
「今あった。電波問題で届かなくなるかもれないと……まかれたので追いかけているらしい」
 篝が答える。
「はあ……ミオたちがあった歪虚も関係しているのかしら?」
 友人たちがかかわった東方解放直後の討伐依頼を思い出してつぶやく。
「それは分からない。ただ、一番幸せだった時間、だったのではないか?」
 篝が言う。妖怪に奪われたはずの土地で人間が暮らしているとなると、紅葉もそこに暮らし、妹もいただろう。そうなると、両親やもっと多くの家臣や親族がいて、恐怖もありながらも温かい世界がそこにあったはずだ。
「一番幸せだった時間ね……」
 カーミンは唇を一文字に結ぶ。自分の中の一番幸せな頃とは何だろうかと考える。
 今か、それとも過去にあるのか? もっと未来にあるのかもしれない。
「自動的に戻る前に接触できるといいわよね……」
 カーミンは登れそうな岩にひょいと上がった。一メートルもないが、荒野で遠くを見るのにこれでも十分だ。
「心にしこりが残るのが一番良くないわ」
 ステラは里を見る。わだかまりがあるまま戻れば、また来たいと願うかもしれない。
 潮の香は鼻孔をくすぐり、風は頬を撫でる。穏やかな時間が過ぎる。
「……待つのもつらいというか……」
 カーミンは遠くに砦のような物は見つけた。遠近法で小さいが、南方に位置するそれが妖怪を防ぐためだろうと予想はつく。
「……妖怪が来るかもしれないし、用心はしていたほうがいいよね?」
 ステラは海を見、別のほうを眺める。
「連絡はあったのだが……夜が来そう……」
 篝は溜息を洩らした。まともに行くと合流は朝か、時間切れかのどちらかだろう。
「まあ仕方がないわよね」
 完全に待つ体制だ。

●涙
 白亜は木の陰にうずくまる紅葉を発見した。一瞬、具合が悪いのかと思ったが、彼女の行動で違うと分かる。
 紅葉はカタカタ震えると素知らぬ顔で再びうずくまる。より一層隠れたつもりのようだ。
「紅葉殿」
「うっ」
「紅葉さん」
「うう」
 白亜とミオレスカに呼びかけられて、紅葉は恐る恐る顔をあげる。
「ごめんなさい」
 潮の音で消えるくらい小さな謝罪。
「で、こんなところになんで隠れたんだ?」
 ラジェンドラは問う。
 すでに周囲は闇に包まれ出しているため、他のメンバーと合流は不能。腰を据えて対応することになる。
 紅葉は自分がいたこと、妹や従兄弟がいたことをぽつぽつつぶやく。
「私、ここにいたいって思ってしまいました」
 ミオレスカは黙って紅葉の首に両腕を回し、ハグをする。
「ここは良いと場所……よな、駆け出すのも仕方がない」
 白亜が苦笑する。
「仕方がない、が……ここは演算ではじき出された過去だ。いなくなった人もいる、データにあれば。記憶があれば居心地はいい」
 ラジェンドラは諭すように淡々と言う。
「ううっ」
「紅葉さん、泣いてもいいんですよ?」
「うっ」
「ここは安全です……そうです、帰る前に、大江家の様子を見ていきます?」
「それは……見たいです……でも、兵士多いですよ?」
 意外と冷静な言葉だった。
 ミオレスカは抱きしめている紅葉の表情が穏やかになっているのに気づいた。もう、大丈夫だろうか?
「どっちにしても、この里、紅葉殿を覚えていくのはいい」
「復旧するんですよね? 以前の様子を見ているというのも力が入るに違いありません」
 白亜とミオレスカに諭される。
「ふふっ」
 紅葉が小さく笑った。
「本当、駄目ですね。ハンターさんは私より年下かもしれないのに、私のほうが小さな子供みたいです」
 紅葉は恐る恐るミオレスカを抱き締め返す。
「ありがとうございます」
 紅葉はポンと背中を優しくたたく。
 ミオレスカが離れると、紅葉は茂みから立ち上がった。
「……あんたと同じく、俺も戦いで妹を喪った……辛いのはわかる」
 ラジェンドラはぽつり言った。
「最後にあったのはいつだった、か……会いたいかどうか……ここは計算上の空間だ。そこにいるのは本人じゃない」
 誰にか言い聞かせるような言葉。
 紅葉は目を伏せた。
「そうですね……会ったら……助けられたら……。さっき見た妹、こんなんですよ! 別れたころなんて私より高かったんですよ背!」
 笑うが、頬を伝う涙。
「そりゃ、あんたが飛ぶところ間違ったからだ」
 ラジェンドラは笑う。
 ミオレスカと白亜も小さく笑う。大丈夫だと思える。

 島から離れることはできない時間。暫く海を眺めているしかない。
 突然、里が騒がしくなった。

●戦い
 状況を把握するのは早かった。
「砦の方に歪虚が出たとか」
 白亜が紅葉を見る。
「……いつのタイミングのかわからないです、何度もありましたから」
「援軍として名乗りあげますか?」
 ミオレスカが問う。ただし、今は夜で孤島になってしまっている。
「……行く気はあるのか?」
 ラジェンドラが紅葉に問う。
「計算上で変わらないとしても、行きます」
「分かった、掛け合ってくる。船着き場で会おう。それとあっちに連絡を」
 ラジェンドラが告げるとミオレスカと白亜が了解を示した。

 連絡を受けた篝はどうするか、仲間を見る。
「行くわよ。大体、過去で、データだとかいってもね」
「突然言ったら敵だとみなされないかな」
 ステラは少し不安そうだ。
「それはそれだよ。大江家が学問主体なら、冷静かもしれないし……結構、血の気が多いらしい話があったな」
 篝は少し考えた。
「排除された鬼を最後の最後まで雇うくらい冷静みたいだだから、利害一致や合理的な部分多いかもね」
 カーミンは情報を付け足した。
「そうね、先に心配したところで仕方がないね」
 ステラは立ち上がると、砦のほうを見た。
 そちらは火を焚いているのか非常に明るい。
「大体、可憐な三人の少女を敵とみる?」
 カーミンは明るく言う。
 緊張は程よく緩む。
「先に行くとは連絡入れておく」
 篝が連絡を入れた直後、出発となった。

 船着き場で待っていると、ラジェンドラと島の者が来る。
「……あれは、母の姉妹の夫です」
「一言でいえばおじですよね」
 ミオレスカが思わず言う。
「説明がしっかりしている」
 白亜はよくわかったとうなずく。
 叔父は紅葉を見て告げる。
「都の符術師とお聞きしましたが?」
「はい。私で良ければ助けに行きます。この者たちは、私の護衛です。腕も立ちます」
 紅葉は凛とした声を張る。
「……わかりました。この者が送ります。手を貸していただけるなら……心強い」
「はい」
 紅葉は答える。
 信用されたのかとほっとした。
 ラジェンドラはよくやったという感じで合図を送ってきた。

 LEDライトを手で持つ、体に括り付ける等を光源を確保する。もしも、敵が来た場合、味方になるはずの人間が来た場合、互いが見えるようにという識別の意味も強い。
 光源の中見える砦は掘っ立て小屋に近い建物と、丈夫そうな柵くらいだ。
「そろそろね。刺激しないようにしないと、敵と間違えられたら」
 ステラは武器を捨て、手をあげる心の用意はある。
「まあ、人間同士の戦いではないから不審者には思われても、いきなり攻撃はされないと思う」
「……確かに、それは一理あるわ」
 カーミンの言葉にステラはうなずく。
「砦、これで妖怪防げるかって難しいわね。それって、武家の仕事じゃないの?」
 カーミンは拡声器を準備した。
「ちらりと見た情報だと、大江 紅葉は武家の存在を認識していないようだよ」
「なーんだかな。突いたあたりの情報でも助けてくれた鬼のことや家族のことは武家に関してなかったわね」
 カーミンはふんと息を吐いた。そして、息を吸うと、拡声器を口に近づけた。
「私は大江のゆかりの者よ! こちらの情報があって助太刀するわ!」
 戦闘の最中でも突き抜ける声。歓声が上がったようだ。
「空から来る奴は盾にでも隠れなさい! 行くわよ! 【サザンカ】」
 カーミンはマテリアルを解放すると、敵が範囲内にいると感じた瞬間技を放つ。マテリアルをまとい複数に手裏剣が飛んでいく。
「前に行くよ! 柵を壊されたら困るもの!」
 ステラは近づきつつマテリアルを解放し、己の肉体を強化する技を重ねる。
「眉間が急所かしら?」
 ステラはイノシシ雑魔に狙いを定め銃の引き金を絞った。
「まだ、今ならいけるわね……【ハウンドバレット】」
 篝の放った銃弾が素早く飛び交う。一体が回避したのを見ると次はより冷静な判断がいると心を落ち着かせる。
 空を飛ぶものもいる為、状況を見るなら、上を狙うほうがいいようだ。
「さあ、まだ始まったばかりよ!」
「油断はしない」
 カーミンと篝は空を飛ぶ怪鳥何イツマデを狙う。
 イノシシ型の雑魔に比べ、こちらは厄介だと感じる。
 空を飛ぶから狙いにくいだけでなく、鳴き声が人を不安にさせるからだった。
 けたたましく「イツマデ、イツマデ」と何かを待つかのように。
「皆さん! 妖怪を止めないと、奥に入り込んでしまうよ!」
 ステラは声を張り上げた。
 味方として受け入れてくれている砦の兵士たちには無事でいてほしい。
 イノシシ型のほうは抑えられているようだったが、空のは抜けたモノがいるかもしれない。

 陸地に上がって紅葉たちは砦のほうに急ぐ。
「あれはっ!」
「ミオレスカ殿」
「行きますよ」
 猟撃士二人が射程に合わせた武器ですぐに攻撃をする。
「俺の出番なし?」
 ラジェンドラは苦笑する。茶化すような口調であったが、目は鋭く地上や空中を抜ける敵がいないかを見ていた。
 紅葉は同意を示すように、カードバインダーを取り出してぶんぶん振っている。
「大江殿……」
「殴るつもりですか?」
 白亜とミオレスカがあきれる。
 砦のほうにしばらく進むと、戻ってきた三人と合流した。
「砦は問題ないわよ」
 カーミンが胸を張って言う。
「はい、砦の皆さんの士気は高かったの。私たちは補助ですんだわ。砦の補強は重要かもしれないけれど」
 ステラは微笑む。
「いきなり逃走した護衛対象さん、そろそろタイムアップだと思うわ。良いものは見られた? 里は再建するんでしょ?」
 篝は紅葉が晴れ晴れしているのに気づいている。
「ご迷惑をおかけいたしました。あの……オフィスの人にもお礼を言わないといけませんね」
「そういえばそうですね」
 ミオレスカがもともとの依頼人を思い出す。
「データは真っ新になるからなぁ」
「でも、我々が見たもの聞いたものは残る」
「だな」
 ラジェンドラと白亜が微笑んだ。
「あああ、もう、このデータとかなんとか文句言ってやりたい! 見れば解決するでしょ!」
「万能ではないですよ? パルムが集めないといけないんですから」
「パルムだものね……」
 カーミンに怒りながらも笑みが浮かぶ。
 ――空が白み始めた。

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MVP一覧

  • 弓師
    八原 篝ka3104
  • “我らに勝利を”
    ラジェンドラka6353

重体一覧

参加者一覧

  • 冷静射手
    ステラ・フォーク(ka0808
    人間(蒼)|12才|女性|霊闘士
  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズ(ka1559
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • 冒険者
    雪継・白亜(ka5403
    人間(紅)|14才|女性|猟撃士
  • “我らに勝利を”
    ラジェンドラ(ka6353
    人間(蒼)|26才|男性|機導師

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ラジェンドラ(ka6353
人間(リアルブルー)|26才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/05/15 20:23:12
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/05/14 10:41:55