• 血盟

【血盟】目覚めの春

マスター:樹シロカ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
6日
締切
2017/05/16 19:00
完成日
2017/05/26 20:40

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 同盟領ジェオルジ内にキアーラ川という川がある。
 元々の温暖な気候もあって、流れは沿岸の村々に豊かな恵みをもたらしてきた。
 その上流に広がる森を、分け入っていく一団があった。
 全員が山歩きの重装備だ。
「ずいぶんと暑いわねえ」
 そう言った女はマリナ・リヴェールという、元サルヴァトーレ・ロッソ乗員の学者。専門は地質調査である。
「もうすぐですよ。ほら、あれがさっき言った祠です」
 近隣のシニストラ村の村長の息子、アンジェロが指差す。
 そこには明らかに人工的に置かれた、苔むした岩が見えた。
 マリナが近付き、そっと表面を撫でると、苔の一部がぼろりと取れた。
「あらあ。随分古いものみたいねえ」
「古い記録で名前らしきものは見つけましたが」
 マリナの背後で手帳を広げたのは、ジェオルジの若き領主、セスト・ジェオルジ(kz0034) である。
「マニュス・ウィリディス。古い言葉で、偉大なる緑……というような意味でしょうか」
「鉱山の守り神が緑なの?」
 マリナが振り向くと、道案内役の男が肩をすくめた。
「今となっては誰も由来なんか知らんだろうね。俺の村で一番の長老様のひい爺様の時代には、もう鉱山は閉鎖されてたらしいからな」

 彼らはキアーラ川の上流にある廃坑を目指している。
 マリナ達、ロッソの乗組員が移住したのはバチャーレ村といって、古い時代に打ち捨てられた村だ。
 アンジェロの村は少し離れたところにあるが、やはりキアーラ川の水をひいている。
 このキアーラ川の沿岸では、ちょっと珍しい貴石がとれるのだ。
 石そのものに大した価値はないが、沿岸の村ではお守りなどとして人気があり、まだまだ独り立ちには遠いバチャーレ村にとっては魅力的な資源と思われた。
 そこでマリナは川の沿岸の石を拾いすぎなくて済むよう、鉱脈を見つけようと提案したのだ。
 領主のセストに相談したところ、古い地図と記録書を探し出してくれた。
 そこで近隣の村の者にも立ち会ってもらい、念のためにハンターの護衛も依頼して、春を待っての今回の探検となったのである。


 一同はなんとなく祠を無視して先へ進む気になれず、周囲の草を刈ったり、絡んだツタを取り除いたり、表面を覆う苔を落としたりしていた。
「当時は鉱山で働く人々が、毎日この祠でその日の作業の安全を祈っていたようです。でも廃坑になってからは、この様子では誰も……」
 不意にセストが手を止めて口をつぐむ。
 それから祠をじっと見つめながら、数歩下がった。
「どうしました? 領主様」
「…………」
 アンジェロの問いに、無言のまま手招きするセスト。
 彼の示す通りに下がったところで、全員が息を呑んだ。
 祠の数メートルほど上方の空間に、ぼんやりとした光の塊が浮かんでいるではないか。
「な……何、これ……」
「リヴェールさんにも見えますか。じゃあ僕の目がおかしくなったわけではないのですね」
 セストが淡々と呟く。
 皆がじっと見つめるうちに、それは縦に長くなり、やがておぼろげな人の姿をとり始めた。
 それだけではなく、静かな目でこちらをじっと見つめている。
『……か……』
 風の音に似た音が耳を掠める。
『……騒々しきは……汝らの気配、とは……異なるか……』
 音は、はっきりとした言葉となった。
 呆然と見つめる一同をゆっくりと見回したそれは、寝起きの人間のような風情だ。

 だがのんびりと目覚めを待っている暇はないようだった。
 祠の後方の茂みが不自然な音を立て、ハンターが注意を促す。
 と同時に草むらが割れ、巨大なムカデが姿を現した。
 ガチガチガチ。
 顎を鳴らす音が不気味に響く。
「危ない!!」
 アンジェロが叫んで、咄嗟にセストとマリナに飛び付いた。
 ハンター達はその前に立ちふさがり、ムカデの襲撃に備える。
 だがムカデが飛びかかったのは、光の塊に向けてだった。

 ざっ。
 どさり。

 飛び上がったムカデが光の塊をかすめ、祠の上に落ちた。鋭い爪に掴まれ、表面には深い傷が刻まれる。
 光の塊はゆらりと歪み、人の形が崩れつつあった。

『……目覚めたと思えば、早々に食われるとはの……』

 ハンター達は互いに顔を見合わせた。 

リプレイ本文


 正体不明だが、人語を解するらしい人間の形に似た光と。
 どう見ても天然もののサイズではない、大ムカデ。
「あれは……?」
 アニス・エリダヌス(ka2491)の言葉は疑問の形をした確信だ。
 祠に祀られていた存在ならば、人がそうするだけの理由があるはず。もちろん祟り神の類である可能性も否定できないが、少なくともアニスはその姿を神聖な存在とみた。
 他のハンター達もほぼ同様だった。
 アニスが聖なる盾をかざすと、大輪の花が開くように光がほとばしる。
 ふたたび祠に飛びかかろうとしていた大ムカデは、身を捩って飛び跳ねた。
 それを確認したアニスが一歩下がると、天王寺茜(ka4080)が前に出ようとジェットブーツを履いた脚に力を込める。
「それ以上は、させない!」
「あー、ちっとだけまちな、天王寺ちゃん」
 気付いた鵤(ka3319)が肩を押さえた。
「ほぅれ餞別ってな。期待してるぜ若人ぉ」
「ありがとうございます!」
 『防性強化』で茜の守りを固めて送り出す。
「……さて、これでおっさんのお仕事は8割方終わったと言っても過言じゃねえなぁ」
 そう言いながらも、背後にセスト達を庇うように移動し大ムカデ型歪虚から目を離さない。

 エーミ・エーテルクラフト(ka2225)は敵の狙いが光の塊である理由を考えた。
(弱いから? 視力……あるのかしらね? いいえ、違うわね)
 エーミはセストを振り向くと、手短に言葉をかける。
「領主様、避難の指示を。荷物はあとでいいわ。特に採取した鉱石、マテリアル濃度の高いものは捨てて」
「鉱石……ですか?」
「ええそうよ。急いで」
 光の塊が精霊なら、正のマテリアル濃度は格段に強いはず。歪虚が襲いかかった理由は、おそらくそこだろう。
「そうですよ! キラキラの落し物……あっ、キアーラ石には、まだまだ未知の力が眠っているはずなんです!」
 ノワ(ka3572)が興奮した様子でここぞとばかりに力説する。
「私は、それを起こしてあげられたらいいなあって思っています。医療用鉱物としての価値が高いとすれば……っとと、今はムカデの退治ですよね。大丈夫ですよっ、お任せください!」
 長い機械槍を構え、慌てて茜に続く。

 アニスは自分の背後にセストたち一般人を集め、可能な限り祠から距離をとる。
「皆様、こちらまでお下がりください」
 ディヴァインウィルの結界が、万が一に備えて一同を護る。
 が、アニス一人がカバーできる範囲はさほど広くない。身を寄せ合うようにして屈みこむ一同を、エーミが少し気の毒そうに見やる。
 特に、女性と密着することはあまり得意ではないだろうセストを。
「領主様だけでも、こっちに来る?」
 いざとなれば護ることはできるだろう。だがセストは意味がわからないというように首を傾げた。
「僕が一緒では足手まといでしょう」
 一応はショートソードを抜いているセストだが、自分の戦闘力をあてにはしていない。
「あらそう? ふふ、残念♪」
 からかいの言葉に、ほんの少し混じる本音。エーミは、鈍感すぎる青年が眉間に皺を寄せたのを見て、軽く肩をすくめてみせた。
(我ながら、この緊急時に何を言っているのかしらね?)

 ウェスペル・ハーツ(ka1065)はエーミの隣で足をふんばる。
「ふおおお、セストたちもぴかぴかの光もしっかり守るの!」
 ウェスペルの見たところ、光の塊はとても脆そうだった。
「なんだかぴかぴかは次に攻撃されたら、消えちゃいそうですの」
 心配そうなウェスペルに、神代 誠一(ka2086)が優しく声をかける。
「そうなる前に、空気の読めない大ムカデには早々にお引き取り願いましょうかね!」
 誠一は、祠と大ムカデ双方を見渡せる場所に立ち間合いを計る。
 愛用の眼鏡のブリッジを僅かに持ち上げると、新緑の葉に似た光が誠一の全身を包みこんだ。


 大ムカデは、地面で身をよじり体勢を立て直していた。
 がちがちがち。
 顎をかみ合わせる音が不気味に響き、その敵意は今、最初に痛撃を与えたアニスに向けられていた。
 下草や枯れ枝を一気に踏みつぶす音が、地面をかなりのスピードで移動していく。
 と思った瞬間、歪虚に向けて無数の蔦が伸びてゆくように見えた。
 巨木を足場にして飛び移り、一気に距離を詰めた誠一が、至近距離からリヤンワイヤーを巻き付けて大ムカデの機先を制する。
「どうもそれほど知能が高いわけではないようですね」
 気を取られた物に単純に飛びかかる程度の歪虚なら、扱いはまだ楽だ。

 その隙に、茜は祠に飛び乗り盾を構えた。
「えーと……もしもーし、聞こえますかー? ここで守りますから、祠の上ちょっとお借りします!」
 ふわふわと頼りなく漂う光の塊にそっと語りかけると、茜は改めて歪虚を見下ろした。が、そこで思わず表情がゆがむ。
「うわあ……間近で見たらもっとキツい……」
 無数の足が蠢き、節々がぐねぐねと動く様子は、当然ながらあまり気持ちの良い物ではない。
 だがそうも言ってはいられない。
 誠一の拘束を逃れた歪虚は、素早く地面を走り、祠の陰に隠れようとする。
「ノワさん、落とします!」
 茜が『攻性防壁』で、祠に圧し掛かるように這いのぼる大ムカデを弾き飛ばす。
 近づかないでほしいという切実な思いの分だけ、威力割増のような気もしないではない。
 あわせてノワが祠を回り込み、大ムカデが体制を整える前に槍を繰り出す。
「祠は壊さないようにしないとですね!」
 強烈なノックバックを受けた敵は、辺りの灌木をなぎ倒して吹き飛んだ。

 そこにウェスペルが掲げた燭台から放たれた風が襲いかかる。
「ムカデだったら、毒があるかもですの。近づく人は、気をつけてくださいなの!」
「ありがとう、ウィズ。とはいえ、逃がすわけにもいかないでしょうね」
 誠一は危険を承知で、再び動き出した敵にワイヤーを絡めた。大ムカデは身体の後ろ半分を反らせ、誠一を引き寄せようとする。
「そうはさせ……!」
 力を込めて踏みとどまる誠一。その身体にしなる尾部がしたたかに打ちつけられた。
 誠一の体に激痛が走る。
「くっ……!」
 どうやら尾部に毒針があったらしい。当たった側の腕の力が抜けていく。
「もう充分よ、離れて!」
 大ムカデが身をよじったおかげで、腹側が見えていた。そこへエーミが『アイスボルト』を打ち込む。
「春になって出てきたのかもしれないけれど。これでまた冬眠したくならないかしら?」
 虫なら冷気は苦手なはずだ。

 だがそこでウェスペルが再び注意を促した。
「あの、ムカデだったら半分に千切れても両方動きそうな気がするの……ここは注意なの」
 この予想は正しかった。
 より正確にいえば、ムカデは緊急時に自分の尾部を切り離すことができたのだ。
 ちぎれた尾部が地面をのたうち、頭部から腹にかけての本体が不格好に這う。そして一番近くにいたノワめがけて、思わぬスピードで接近していった。
「ノワさん!」
 祠の上から茜が叫ぶ。
「大丈夫です!」
 ノワが槍を繰り出し、『クラッシュブロウ』で応戦する。だが死に物狂いの歪虚は、ノワの槍を受けたまま尚も止まらない。
「わ、わ、わ!?」
 ずるずると大ムカデに引きずられて行くノワ。
「え? なんか割とピンチって感じ?」
 鵤は後方でビール片手にくつろいでいた(?)が、流石にまずいと加勢に入る。
 銃撃で進路を阻むと、ウェスペルが鼻息も荒く飛び出し、大ムカデの側面に回り込む。
「ふおおお、きけんがあぶないの! ここからはいかせないですなの!!」
 だが敵の動きは先程より随分と緩慢だ。
 ウェスペルの操る風をまともに受けて、ぱっくり開いた傷口から不気味な色合いの体液を流している。
「やっと効いてきたのかしら?」
 エーミがほっと息をついた。『アイスボルト』の冷気が、大ムカデの動きを鈍らせていたのだ。

 動きさえ封じれば、巨体は良い的だった。
 本体と尾部それぞれに痛撃を食らった大ムカデは、ついに長々と地面に横たわることになる。
「なんとかなったみたいね? じゃあ、お邪魔しました!」
 茜は律儀に挨拶をして、祠の岩から飛び降りる。
 ノワが突然、ぽんと手を叩く。
「あっ、そういえば。ムカデは一部で薬としても重宝されているそうですよ。これだけ大きければさぞかし……」
「歪虚を薬にするのですか? それはあまりお勧めできませんね」
 誠一が苦笑しながら辺りを見回す。
 どうやら辺りには他の敵は潜んでいないと確認し、ようやく安堵の息をついた。


 アニスは護りの結界を解き、負傷者の傷を癒す。
 歪虚の攻撃を一部が集中して引き受けたおかげで、他のメンバーとその後ろのセストたちは無傷で済んだ。
「傷はもう痛みませんか?」
 アニスは誠一とノワの様子を確認し、それから祠に顔を向ける。
 光の塊は、相変わらずどこか頼りなげに浮いていた。
「癒しの術は、精霊にも効くのでしょうか」
 手を差し伸べると、両手で包みこむようにして『ヒール』を送る。
「……成程、汝らはこのような術を使うか」
 ゆらりと笑うように光が揺れる。

 誠一には確信があった。これはおそらく、先の大規模作戦で見た精霊と同じものだ。
「……あなたは精霊ですね? その淡く優しい光、星々に似た瞬きには覚えがあります」
 答えるように光が瞬く。
「俺は誠一と言います。名前をお聞きしても?」
 自分達に名があるように、精霊たちにも名があるなら名で呼びたいと思ったのだ。
 歪虚に襲われて歪んだ姿は痛々しかった。その気持ちが伝わるなら、きっと互いの力になる。
「我らは互いを名で区別するものではない。なれど、人間は我らに名をつけたがるようだ」
 ウェスペルが、精霊をまじまじと見つめる。
「はじめましてなの、ウェスペルですなの。精霊さんのお名前は、セストがしってるの! マニュス・ウィリディスなの! 綺麗な女王様みたいな精霊さんにぴったりのお名前なの!」
 その言葉になんだか妙な空気が流れる。
「……ウィズには綺麗な女王様に見えているのですか?」
 誠一が首を傾げた。
「そうなの! 故郷の森の空気みたいに、きらきらしてとっても綺麗なの!」
 ウェスペルの言葉に興味深そうに耳を傾けつつ、誠一が呟く。
「俺には東洋風の衣装を身につけた小さな子供の姿に見えているのですがね」
「わたしには栗色の髪の少女に見えます」
 アニスがそっと微笑む。
 坑道の話を聞いたせいか、出身地の村に伝わる大地の神の姿にそっくりに見えるのだ。
「誕生、勇気、魔術、封印を司る神様です」
「ええと……もしかして、お爺さんに見えているのって私だけかな?」
 茜がおずおずと光を見上げる。
 鉱夫の姿をした小さな老人は、リアルブルーに伝わる妖精のイメージだ。
 ノワにはまた別の姿に見えていた。
「私にはゴーレムさんに見えます! 緑色の鉱石でできた鉱山の番人でしょうか」

「え? もしかして精霊ちゃんの姿は見たもんによって違うのかねぇ?」
 鵤が少し離れた場所でからからと笑いながらビールを開けた。
「おっさんとしてはナイスバディなオネーさんが望ましいわけだが、精霊ちゃんはそんな感じも行けちゃうわけ? ああ、マニュスちゃんの方が良いかしらぁ?」
「汝らが呼びやすければ、その名で呼ぶがよい」
「偉大って方を取っちゃうのー?」
 偶然とはいえ、目覚めて最初にかかわったのも何かの縁。
 鵤は開けたばかりのビールを祠に置く。
「酒はイケる口? ビールはあんまり飲んだことないかねえ。よかったら進呈しようじゃねえの。美味ぇぞ?」
 精霊の放つ光が揺らぐ。
「ほう。懐かしい香りよの」
 かつて鉱夫たちもこうして供え物などしていたらしい。
 精霊は鵤の尋ねるまま、自分のことを語る。
 供え物を直接口にするわけではないが、精気のようなものが力になること。
 同様に、治癒術によっても力が回復するらしいこと。
「我は人の祈りにより名と形を持った故、祈りが絶えれば形を失う。なれど、大精霊の気配と禍々しき気配、いちどきに地に満ちたところに、汝らがやってきたのでな」
「なるほどね~、それで精霊ちゃん、出てきちゃったんだ?」
 鵤はへらへら笑いながらも、さりげなく話を引き出す。
「それじゃあ折角だから、こういうのはいかがかしら?」
 エーミが大きな葉に載せた山菜の揚げ物を祠の前に供える。
 山歩きのついでに、後で皆で食べようと集めていたものだ。簡易式の調理道具までしっかり持参していたらしい。
 精霊は揚げ物を確認するかのように何度か瞬いた。
「お野菜好きですなの? じゃあ、うーは一番大好きなお野菜ジュースをあげますなの!」
 ウェスペルがカバンの中を一生懸命探り、探し当てた野菜ジュースを恭しく祠の前に置いた。

 この間、セストは少し離れて精霊を見ていた。
 エーミが促すと、口を開く。
「精霊が揚げ物を好むとは知りませんでした」
「ここにある物はもともと山霊の恵み。正のマテリアルもあふれてるわ」
 小さく笑った後、エーミは少し表情を改める。
「それで領主様には、どんな風に見えているの?」
「そうですね。とても上品で、綺麗な……」
 ぴくり。エーミの微笑に何かが過る。
「老婦人に見えます」
「……そう。もしかしたら領主様って、おばあちゃん子だったのかしら?」
「……」
 無表情のまま黙りこくるセストであった。

 結局、精霊はどうなったかというと。
「我としては汝らの好むように見ておればそれで良いが」
 などと言いつつ、妙齢の美しい女性の姿を取った。
「久しく忘れておったが、この姿が最も望まれておったように思う」
 考えてみれば、鉱夫たちが祈りをささげた祠である。多少は願望のようなものもあったのかもしれない。

 それぞれにお供えをし、祠の周りを改めて綺麗に掃除してみると、心なしか精霊の輝きは少し強くなったように見えた。
 そこで、恐る恐るという様子でマリナが前に出る。
 リアルブルーの科学者としては、歪虚を目の当たりにしてもなお、精霊という存在を受け入れるのに時間がかかったようだ。
「あの……ですね。この先の鉱山に、この石を探す為に調査に入りたいと思っているのですが。大丈夫でしょうか……?」
 てのひらに乗せたキアーラ石を差し出す。
「好きにするがよい。望む物が手に入るかどうかは、汝らの精進次第ではあるがな」
 それを聞いたノワが、顔をぱっと輝かせた。
「あのっ! 私、もっともっとたくさん鉱石のことが知りたいんです!! がんばります!!」


 一同がその場を立ち去る段になり、綺麗になった祠の上で、精霊マニュス・ウィリディスが言った。
「……そうであった。此度の礼をせねばなるまいな。山を降りた後に荷物を改めるがよい」
 僅かの間に表情が豊かになった精霊は、最後に付け加える。
 ――いずれまた逢おうぞ。

 山を降りる一同の周りでは、まるで手を振るかのように、緑の葉が光を受けてきらめいていた。

<了>

依頼結果

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参加者一覧

  • がんばりやさん
    ウェスペル・ハーツ(ka1065
    エルフ|10才|男性|魔術師
  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一(ka2086
    人間(蒼)|32才|男性|疾影士
  • 解を導きし者
    エーミ・エーテルクラフト(ka2225
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 勝利の女神
    アニス・エリダヌス(ka2491
    エルフ|14才|女性|聖導士
  • は た ら け
    鵤(ka3319
    人間(蒼)|44才|男性|機導師
  • ドキドキ実験わんこ
    ノワ(ka3572
    人間(紅)|16才|女性|霊闘士
  • 語り継ぐ約束
    天王寺茜(ka4080
    人間(蒼)|18才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談スレッド
天王寺茜(ka4080
人間(リアルブルー)|18才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/05/16 00:03:47
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/05/14 07:01:51