• 血盟

【血盟】我が喜びよ、望よ

マスター:朝臣あむ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/05/15 22:00
完成日
2017/05/29 23:57

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●錬金術師組合・組合長室
 クリムゾンウェストの地に顕現した四大精霊。
 その情報は錬金術師組合長であるリーゼロッテ・クリューガー(kz0037)の元へも早々に届いていた。
「各地で精霊の目撃情報も上がっています。これに関して組合内部からは精霊を利用して新たな研究の組み立てをと――」
(精霊を利用する……確かに彼らの力を借りれば錬金術は更なる発展を遂げるでしょう。ですが『利用』する事が本当に正しい事なのか……)
 エルフハイムで目にした浄化の法は命を『利用』した兵器だった。
「組合長?」
 すっかり自分の考えに沈み込んでいたリーゼロッテを心配して顔を覗き込んでくる。それにハッとして顔を上げると、彼女は直ぐに笑みを浮かべて彼の手から報告書を受け取った。
「この件に関しては正博士で話し合った上で意見を下ろそうと思います。もう少しだけ待って下さい」
 この答えに組合員は「わかりました」と返事を寄越して次の案件に移って行く。そうして全ての報告を終えると、組合員は礼を1つ残して部屋を去って行った。
「……疲れた」
 溜息を吐いて椅子の背もたれに背を預けて隠しておいた角砂糖に手を伸ばす。そして流れるように口に運んだところで声がした。
『糖分の摂取量が1日の許容範囲を超えてるよー。それ以上摂取した場合は、お腹への脂肪蓄え率が上昇することも覚悟しないとーです!』
「だ、誰ですか? 隠れているのでしたら出てきてください」
 そう声を上げて立ち上がった時だ。
『あーしは貴女の持っている杖、バンデちゃんですー!』
 確かに普段から杖は持ち歩いている。
 リーゼロッテは僅かに思案した後、訝しむように杖へ手を伸ばした。
「バンデさん……あの、あなたは……」
『バンデちゃんはフロイデの手で宝石に封じ込められた哀れな精霊なのでーす』
「フロイデ……前、院長ですか……?」
『はい。バンデちゃん、フロイデに会いたくて出てきちゃいましたー』
 精霊が各地で姿を見せているのは報告にあった通りだ。
 まさか自分の所にも来るとは予想外だったが、前院長が精霊を研究していた事は知っていた。
 そしてこの杖は前院長ーーフロイデから託されたもの。あながち筋は通っているようだ。
「残念ですが、前院長はもう亡くなっています。あなたもご存じのはずです」
『そうなんですよねー。でも可笑しいんですよ』
 バンデは思案するように間を取ると、自らを淡く光らせて疑問を口にする。
『最近フロイデの気配がするんですー。まあ、今日が命日だからって言うのもあるのかもですけどー……よし! バンデちゃんとお墓参りに行きましょーう。どうせならナーくんも一緒に行きたいですけど……ナーくんご飯ちゃんと食べてますか?』
「さあ……あまり食に興味のない子ですから。もしかすると気になる事に没頭しすぎて疎かにしている可能性はあると思います」
 前院長をフロイデと呼ぶことからナーくんが誰かは容易に想像できる。
 やはりこのパンデという精霊は、随分昔からこの宝石に宿っていたらしい。
 素直に返事を返すリーゼロッテに「うんうん」と頷きながら、バンデは淡く光ったまま外へ行こうと促した。
「あの……今から行くんですか?」
『うん。なんか今でしょー的な感じがするんですよー』
 バンデはそう言うと、笑う様に宝石を輝かせて彼女を外へと導いて行った。

●我が喜びよ、望よ
 前錬魔院長フロイデは帝国領の墓地から僅かに離れた場所に埋葬されている。
 その理由は彼女の死因による所が多く、あまり多くの人間が近寄る事はなかった。けれどリーゼロッテは違う。
 幾度となく前院長の墓を訪れ、何でもない世間話をして帰って行くのが彼女の楽しみの1つでもある。とは言え、それも最近の事なのだが……。
『精霊の好きそうな場所ねー』
 そう言葉を零すバンデが見るのは、墓所へと続く白い花道だ。
「埋葬した時はなかったのですが、誰かが前院長を想って植えたみたいで」
『リーゼちゃんじゃないの?』
「私は……それどころではなかったので……」
 前院長の死は悲しかった。どうしても原因を究明して事実を白日のものにしたいと思い躍起になって動き続けている内に、ナサニエルは前院長の跡を継いでリーゼロッテは院を去った。
 その後は忙しいの一言に尽きる。だから最近まで頻繁に墓参りに来れなかったのだ。
『あ、もうすぐですねー!』
 バンデの声に頷こうとして足が止まった。
 墓所に誰かいる。
 黒衣を纏う細身の女性は、頭に三角帽を被って立っている。その出で立ちは何処かで見たような――
『フロイデ!』
 杖の声に目を見開いた。
 そうだ。あの三角帽は前院長が良く被っていたものだ。
 でも、でも、彼女は。
「その声は~、もしかしてぇ~……バンデちゃん~?」
 振り返った顔に足が引けた。
 目を見開き、何が起きているのか必死に整理する。それでも追い付かない頭は体の動きを奪って停止させた。
「あら~驚かせちゃったかしら~? 大丈夫~?」
 昔と変わらない優しい声に涙が出そうになる。
 彼女はリーゼロッテに優しく微笑みかけると、そっと手を差し伸べて来た。
 その手を見て思う。
 何故生きているのかと。何故ここにいるのかと。何故、
「……歪虚になってしまった、の?」
 ナサニエルは剣機博士が前院長なのではないかと予測して、それを確かめるために剣機博士のいる島へ向かった。そしてその推測からヒントをもらうなら、目の前にいる彼女は歪虚化されたゾンビだ。
 睨むような、挑むような、そんな視線を向けるリーゼロッテに微笑み、フロイデは伸べた手を翳して見せる。
「ええ、そうよ~お母さん歪虚になったの~。お母さんね、いま、と~っても幸せよ~。だって~好きな研究がい~っぱいできるんですもの~」
 フロイデは歪虚の身がいかに素晴らしいかを語りだした。
 その言葉を聞いてリーゼロッテの目頭が熱くなる。そして何かを言おうとした瞬間、目の前が赤くなった。
「バンデちゃ~ん、邪魔したら駄目じゃない~?」
『馬鹿言わないでっ! リーゼちゃんは大事な子なんだよ! 何で攻撃なんてするのー!』
「リーゼも歪虚になれば~錬金術を永遠に研究できるの~。かわいい私のリーゼ……さあ~、お母さんと一緒に逝きましょう~?」
 凄まじい負のマテリアルの波動をバンデの光が弾き返す。
『あ~今のでバンデちゃんは力を使い果たしちゃいましたよー! もう一発も攻撃は防げないのであしからずー! リーゼちゃん、ダッシュで逃げてー!』
 後方ではフロイデが次の波動を撃つ準備をしている。それを振り返らず走り続けると、墓所に集まるハンター達を見付けた。
「お願いっ、です……あの人を……歪虚を“追い払って”下さい――!!」

リプレイ本文

 静寂なる墓所に響き渡る声は、偶然にもここを訪れていたハンター達の耳を打った。
 埋葬の手伝いに墓所を訪れていた守原 有希遥(ka4729)は、聞き覚えのある声に目を見開く。そして雇い主に詫びを入れると一目散に駆け出した。
「今の声はリーゼさんだ……何だ。何が起きてるっ」
 走る足に力が篭る。
 途中何度か躓きそうになりながら、有希遥は声の元へと辿り着いた。
「お願いですッ、お願いですから……誰か!!」
 普段の落ち着いた様子とは打って変わっての取り乱し様。どう考えても普通じゃない。
「リーゼさん!」
 とにかく彼女の今の現況となる存在をどうにかしなければ。そう思い飛び出した所で、別の大きな影が飛び出してきた。
「始末して欲しくない理由なぁ――ま、その顔を見りゃ一発でわかるさ。それに、生かしておけば今後脅威になる、お前の立場でそれを選んだ意味を理解した上での依頼なんだろ?」
 エヴァンス・カルヴィ(ka0639)はそう零しながらリーゼロッテの前に立つ。
 目の前には不気味な笑みを湛えた女が1人。古風な三角帽に纏う負のマテリアルの嫌な気配がぷんぷん漂ってくる。
 それに眉を顰めて剣を構えると、彼の足が更に前に出た。
「あらぁ~? リーゼちゃんとの再会の邪魔をするのは誰かしら~?」
「……無茶を言ってくれる。そもそもあれはゾンビ、なのか?」
 背丈のある雑草を邪魔そうに避けながら姿を見せたのは紫炎(ka5268)だ。その後ろにはアティ(ka2729)の姿もある。
「腐臭、はそこまで……知性はかなりありそうな気もします」
「ああ。知性のある歪虚は油断できるものじゃない。それを相手に手心くわえろとは……何か理由があるのか?」
「確かに気になりますが……今は戦うしかないかと」
 見れば敵の両手に黒い波動が集まり始めている。その威力は見た目から想像するのも容易い感じにヤバそうだ。
「仕方ない。相手をしよう」
 ここで顔を合わせたのも何かの縁だろう。集まりつつあるハンターの姿を視界端に留めた紫炎は前に出る。
 そしてその様子を眺めていた歪虚は、波動を留めた両手を頭上に翳すと双方の弾を1つに纏めて放ってきた。
「――なっ!?」
 予想以上の勢いと速さにエヴァンスと有希遥はリーゼの腕を掴んで側面へ。紫炎とアティもまた彼らとは逆方向に飛び退いた。
「ふむ、これはあのお約束が適応されると見て間違いなさそうね」
「御約束だァ?」
 何だそりゃ。そう零した万歳丸(ka5665)に、ほぼ同時に到着したアルスレーテ・フュラー(ka6148)がヒラリと手を振る。
「倒していけない、追い払うだけ……つまり、仮にこちらが圧倒的に強い状況でも、やり過ぎないよう注意しなければいけないわけだけど……こういうのは大体、倒すつもりで戦って追い払うのがやっとになるのがお約束」
「てーとコイツは倒すつもりで戦って追い払うのがやっと、ってェことか?」
「今の一撃を見る限りでは。だけどね」
 やれやれと肩を竦めるアルスレーテは、恐怖と悲しみ、困惑に顔を歪めるリーゼロッテを見た。
「ふむ、あれが錬金術師組合組合長リーゼロッテ……運動足りてなさそうね」
 そのうちまるまる太って見るも無残な姿になって男が寄り付かなく……と、そこまで考えて首を横に振った。
 今はそれどころではない。と、視線を戻そうとした時、万歳丸がリーゼロッテに歩み寄るのが見えた。
「呵呵ッ!  いい走りっぷりじゃねェか……!」
 トンッと叩かれた肩に目が上がるが、その目は複雑な感情が入り乱れて混乱しており、通常の感情とはかけ離れているのがわかる。
「ワケありなら、それでも良い。誰か知らねェが、未来の大英雄様に任せなァ!!」
 大丈夫。そう言い聞かせるようにもう一度肩を叩いて振り返る。
 そうしてこちらの出方を窺う歪虚を見ると集まった面々を見回した。
 それぞれの役割は持っている武器や様子から判断するしかない。幸いなのは集まった者達が歴戦の戦士だと言うことだろう。
「んじゃま、やるか! 作戦名は『死者はとっとと帰れ!』だ!!」
 正面から突っ込んでゆくエヴァンス。そんな彼に従う様に駆け出した面々。
 それらを見詰めるリーゼロッテは戦闘開始前に有希遥が残していったトランシーバーを握り締めて瞼を落とした。

●フロイデ・カロッサ
「あらあら~逃げるだけなの~? 反撃してきていいのよ~?」
 歪虚は余裕の表情で微笑みながら、先程と同じような弾を左右の手に出現させている。
「何度も同じ技を喰らうと思って?」
「2つも1つもこの人数相手じゃ意味ねぇよ!」
 エヴァンスの背に隠れる形で接近をはたしたアルスレーテは、至近距離にまで迫った歪虚に拳を振り上げる。それに合わせてエヴァンスも刃を振り上げるのだが、次の瞬間、2人の体から鮮血が噴き上がった。
「ウソ……なに今の……ッ」
 吹き飛びかけた腕を押さえて飛び退いたアルスレーテはエヴァンスをチラリと見る。
 彼はわき腹を負傷しているようだ。そしてその顔は「不可解」一色。
「ありゃァ爆弾かァ?」
 左右に作り出した弾が複数に分かれたのを見て足を止めた万歳丸は、弾が2人に触れた瞬間に弾けたのを目撃した。
 しかもその弾は未だに彼女の周りを浮遊しており、今は消える様子を見せない。
「これでは近付くこともままならないな」
 零しながらた聖盾剣を構えるのを止めない紫炎は思案する。
 時間と共に弾が消滅するなら時間の経過を待てばいい。だがそうではなく、触れて破壊しなければいけないのであれば話は別だ。
 それにどうもこの相手。他にも何か隠していると見える。
「威力はすこ~しおさえたの~。だって~、まだ準備段階ですもの~」
「これで準備段階……まだ復活したてだってのか?」
「復活というのは正しくないわね~。正しくは~眠りから覚めた~かしら~」
「だったら戦うより逃げて力を蓄えた方がいいんじゃねぇか? ここで俺らに始末されたら、お前の大好きな研究とやらがもう二度と出来なくなっちまうぜ?」
 腹部の傷はそこまで大きくない。
 勢いであと何度か突っ込めば全部が壊せなくもないが、流石に他の弾の威力も同じかどうか試さない内に突っ込むのは危険だ。
「いざとなりゃやってやるが……」
「流石エヴァンスシールドですね。頼りにしてますよ!」
 よっ! と声を上げたアルスレーテに苦笑しつつ、エヴァンスは持参していたトランシーバーに視線を落とした。その上でチラリと有希遥を見ると彼は頷きを返してくる。
「まあ、まずは時間稼ぎだ。そっちは頼んだ」
 そっち――とは歪虚の事だ。これを受け、紫炎が口を開く。
「名前を、聞かせてもらえないかい? ミセス」
 何とも捻りのない質問だが、逆にこうした質問の方が答えてもらえる場合がある。
 例えば自らを主張し、他者に印象付けさせることが目的の相手の場合は答えてもらえる可能性が高い。
(やはり無理か……?)
 無言で見つめること僅か。歪虚の口角が上がり、何処か楽し気な声が聞こえて来た。
「私は~フロイデ~。フロイデ・カロッサよ~♪」
「カロッサ?」
 ピクリ、と有希遥の眉が動いた。
 確かリーゼロッテの義弟がカロッサを名乗っていたはずだ。と言う事は、この人物は――
『――義母、です……何年も前に、亡くなった……』
「!」
 エヴァンスのトランシーバーから聞こえた声に全員の視線が飛ぶ。
 だが紫炎だけは目を逸らさない。
「成程。錬魔院院長の義母上でありましたか……ではミセス・フロイデ。貴女はどうしたいのかな?」
「私は~錬金術の研究がしたいの~。い~っぱいい~っぱい研究をして~、も~っと錬金術を極めたいの~」
『義母は……義母は……確かに、死んで……だからナサ君は……』
「……これ以上は無理だな」
 有希遥の厳しい視線もあるが、聞こえる声の感じからこれ以上話を聞くのは無理だろう。
 あわよくば他の手段で聞き出せればと思ったが、どうやらそちらは沈黙を保っているらしい。となると、情報は本人に聞くしかない訳だが、
「錬金術の研究をしたいだけなら何故あの人を襲ったんですか? 襲わず去ることだって出来たはずです。だって彼女は娘、なんですよね?」
 アティは盾を構えて問いかける。
 その少し複雑そうな表情を見ながらフロイデは言う。
「だって~リーゼちゃんったら逃げるんだもの~」
 そう言って頬を染めて俯くフロイデに誰もが息を呑む。
 まさか動物の本能の様に、逃げたから追い掛けただけとでも言うつもりだろうか。だがこの声に有希遥が意を唱えた。
「リーゼさんを連れて行こうって魂胆だろ! だったら何が何でも邪魔してやる!」
 牽制を込めて放った弾がフロイデの頬を掠める。その事に目を細め、フロイデは口角を艶やかに上げると歌う様に囁いた。
「リーゼちゃんも~ナサ君も~と~っても優秀な錬金術師よ~。1人くらい持って帰っても~いいかな~って♪」
「良い訳あるかッ!」
「オレ等も行くぜェ!」
 飛び出した有希遥に合わせて万歳丸やエヴァンス、アルスレーテが飛び出す。
 それを目にしたフロイデは負のマテリアルで出来た黒い杖を召喚。アティと紫炎が飛び出すのを見計らって何事かを唱えた。
「させるかぁーー!!」
 真正面から叩き込まれたのはエヴァンスの剣だ。
 肉厚の重量のある剣がフロイデの杖をぶつかる。そして側面では紫炎とアティがほぼ同時に弾と衝突した。
 弾は放った直後よりも質量を増し、威力も増した状態で2人の盾を弾き返す。
「――ッ!」「くッ……!」
 爆発の勢いで地面を転がった2人に肩眉を顰め、万歳丸は連撃を放とうとした。が、その瞬間、彼――そしてエヴァンスに異変が起きる。
「なん、だ?」
「ッ、力が」
 武器を合わせていたエヴァンスは膝を折って武器を下ろし、万歳丸は攻撃を叩き付けようとした直後に危険を感知して飛び退いた。その結果、僅かに疲労感を覚えただけで済んだのだが、
「如何いうことだ?」
 訝しむように眉を顰めて手を握ったり開いたりする。
 攻撃を受けていないのに、ダメージを受けたような疲労感がある。例えるなら力を抜かれたような違和感。
「錬金術はマテリアルを使う魔法~。私は~あなたのマテリアルを私がいただいただけよ~♪」
「マテリアルを? そんなこと……あ、でも吸血鬼が血を吸うイメージでいいのならなんとなくは……って、まさかあなた、吸血鬼だとでも言うの?」
「うちは見てたが血を吸うような動きはなかった」
 アルスレーテの言葉に否を投げた有希遥だが彼女の言葉を完全に否定する事は出来ない。
 そもそもどうやって他者の力を抜くなど出来たのか。そのカラクリが見えない。
「考えられるとしたらあの杖だが……」
「ねえ~そろそろ飽きてきちゃったわ~」
 杖を眼前に構えたフロイデにドキリとする。
 先程まで唇に湛えていた笑みが消えていたのだ。つまり遊びはそろそろ終わりにして本番を開始しよう。そう提案しているに他ならない。
 だが少し手を交えただけでわかる。
 この歪虚はまともに相手をしたら危険だ。何か策を練って、厳重に対策しなければ勝つ事は出来ない。
「全力で行けば追い払うくらいなら……」
「否、ちィと待ってくれや」
 前に出ようした面々を制して足を踏み出した万歳丸にフロイデの目が細められる。
「花が、よ。潰れちまうだろ」
 ピクリ。とフロイデの表情が動いた。
「気になってたンだ。誰が整えたかわかんねェ花道……すげェ綺麗だろ?」
 ハンター達がいるのは墓所から少し離れた場所。
 森の奥にある唯一の墓に繋がる花の小道だ。綺麗に咲き並ぶ白い花は明らかに故人を想って植えたもの。
 誰が植えたのか、何のために植えたのか、容易に想像する事が出来る道。
「女。俺ァ此処を滅茶苦茶にしたかねェ」
 花道を示しながら言う万歳丸の声に、今まで花を意識せずに戦っていた者達の視線が落ちる。そしてフロイデの目もまた、花道へ――
「アンタだって、【死んでも】此処に来るくれェだ。小さくても、縁の一つや二つ、あるンじゃねェか?」
「……この花は、『あの子』が植え始めたの。とても不器用で、優しい子……」
 フッと優しい笑みが口元に浮かんだ。
「仕方ないわね~今回は~そこの可愛い坊やの言葉に免じて~退いてあげる~。でも諦めないわ……私の可愛い子供……あの子たちと共に錬金術を――」
 瞬間、激しいまでの風が引き荒れハンター達の目を奪う。そして目を開けた時にはフロイデの姿はなかった。
 残されたのは僅かに繰り広げた戦闘の痕跡と、無傷で咲き誇る白い花たちだけだった。

●錬金杖の精霊・バンデ
「――以上が今回の顛末だ。何かあれば聞くけど……」
 嘘偽りなくフロイデの言動を報告した有希遥は、リーゼロッテから罵られることや殴られることを覚悟していた。
 けれどリーゼロッテの反応は淡白で。
「ありがとうございました」
 静かに頭を下げたリーゼロッテの表情は喜びも怒りもしておらず、逆にそれが違和感を覚える。だがそれを問いただす事は出来ない。
 何故なら彼女が放つ雰囲気がそれを許していないのだ。
「リーゼさ――」
「この度は私の不用意な発言で、皆さんを危険な目に合わせてしまい申し訳ありませんでした。皆さんに言われた通り、どれだけ動揺していたとしても、組合長と言う立場の人間がする発言ではありませんでした」
 申し訳ありません。もう1度下げられた頭にエヴァンスの死線が泳ぐ。
 それを見て取ったアルスレーテがわき腹を突くが、エヴァンスは言葉の訂正やフォローはしないつもりらしい。
 なんとも重苦しい空気があたりを包む中、不意に明るい声が響いてきた。
『今回の事はちゃーんと組合に報告するですー! あ、そだ! 今回の件なんですけどー……って、なにするですかー!?』
「あ、ごめんなさい。杖が喋ってたものでつい……」
 思わず杖を撫でてしまったアティが慌てて謝罪する。それに『ま、いーですけどー』と返して、杖ことバンデは続ける。
『今回のことは錬魔院には報告しないでくださいー』
「何故です、レディ?」
 疑問を口にしたのは紫炎だ。
 そもそもフロイデはリーゼロッテとナサニエルの義母だ。その報告を彼のいる場所にだけしないというのは不自然極まりない。
「私が……報告しなくて良いと判断しました。ナサ君……錬魔院長には伝えたくないんです」
 ギュッと唇を引き結んだ姿に有希遥の眉間に皺が刻まれる。
『まー、長い人生いろいろあるですよー! それとあーしはバンデちゃんって言うですー。よろしくですよー!』
「ばんでか。まァ報告は任せるぜ! イイ感じにしといてくれ」
『りょーかいですー!』
 敬礼するかのような声を上げたバンデにニッと笑って万歳丸はリーゼロッテを見る。
 思案気に視線を落とした彼女は何かを決意したような、迷っているような、微妙な色を覗かせていた。

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MVP一覧

  • パティの相棒
    万歳丸ka5665

重体一覧

参加者一覧

  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • エクラの御使い
    アティ(ka2729
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 紅蓮の鬼刃
    守原 有希遥(ka4729
    人間(蒼)|19才|男性|舞刀士
  • 聖盾の騎士
    紫炎(ka5268
    人間(紅)|23才|男性|舞刀士
  • パティの相棒
    万歳丸(ka5665
    鬼|17才|男性|格闘士
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラー(ka6148
    エルフ|27才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/05/12 07:22:37
アイコン 質問卓
守原 有希遥(ka4729
人間(リアルブルー)|19才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2017/05/14 09:27:38
アイコン 相談卓
アルスレーテ・フュラー(ka6148
エルフ|27才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2017/05/15 22:03:54