• 郷祭1014

【郷祭】未知との遭遇?

マスター:村井朋靖

シナリオ形態
イベント
難易度
やや易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/10/24 22:00
完成日
2014/11/04 19:51

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 冒険都市リゼリオの沖合に停泊する巨大宇宙戦艦サルヴァトーレ・ロッソの前に、片眼鏡をかけた細身の壮年男性が立っていた。
 その体躯に合わぬ大きなリュックを背負ってはいるが、ここに搭乗して生活している民間人ではない。それを証拠に、彼は珍しそうに戦艦を眺めていた。
「ふむ。この巨体が、空を遥かに越える高さを飛ぶというのか」
 待っている間、頑強な外壁を丁寧に擦ったり、拳でコンコンと叩いたり。その後は熱心にメモを取るが、独り言が止む気配はない。
「しかも、この中は居住空間も備えているとは……いったいどういうことだ」
 そう唸りながらペンを走らせる男の元に、警備の者が駆け寄った。
「ルーベン・ジェオルジ様ですね、お待たせしました。搭乗許可証の確認を行いましたので、どうぞ船内へ」
「ご苦労様。これは私の畑で取れたオレンジだ。後で食べるといい」
 彼はリュックから拳大のオレンジをひとつ取り出し、それを迎えに来た男に手渡す。それはとても瑞々しく、誰の目にも高級品に映るほどのものだ。
「あ、ありがとうございます。あの、これ、本当にいただいてよろしいんですか」
「構わん。ところで、他の者も入っていいんだな?」
 このルーベンなる男には、多くの付き添いがいた。彼らはこの男のお守りを頼まれたハンターである。

 ルーベン・ジェオルジ、59歳。
 その名が示すとおり、農耕推進地域ジェオルジ一族の長にして、前領主でもある。すでに領主の座は息子・セストに譲り、現在は農業研究家として活躍。この分野においては「稀代の天才」と呼ばれ、新種発見から品種改良まで行い、世に出した論文は常に最高の評価を受けている。
 しかしその頃から、領主の仕事に興味を失い始め、そのほとんどを妻・バルバラに押し付けていた。それでも研究する時間が惜しかったらしく、息子が15歳になった日に「お前への誕生日プレゼントは、領主の座だ!」と恥ずかしげもなく宣言。これには家族のみならず、領内の人間を大いに呆れさせた。その時、バルバラは鬼の形相で「交代させてあげるから、一度殴らせて」と言い、片眼鏡がめり込むほどの右ストレートを見舞い、夫が倒れこんだところを馬乗りになって、相手が気絶するまで殴り続けたという。姉・ルイーザは、父が気絶した直後に母を止めるという空気の読みようであったらしい。
 この事件が決定打となり、ルーベンは「自由都市一のダメ人間」としても名を馳せることになった。なお、積年の恨みを晴らしたバルバラとはその日のうちに和解しており、家族関係は至って良好である。まぁ、この点もおかしいといえば、おかしいのだが。

 妻・バルバラが農業研究に専念させたのには、理由がある。いかに変人であろうとも、ルーベンの研究は金を生む。悲しいかな、それはジェオルジの運営には欠かせない要素なのだ。
 無論、夫にもジェオルジの信念は刻み込まれている。それは一族の悲願である「クリムゾンウェストの食卓を支える」という壮大な目標だ。だから金にならない研究は後回しにするくらいの理解はあるし、それが金儲けになるよう交渉するくらいの甲斐性はある。
 今は「辺境地域に根付く作物や花卉の開発」に熱を入れているというルーベンだが、今後の研究材料を得るため、今回はリゼリオへと足を運んだというわけだ。
「では、ハンター諸君。案内してくれたまえ。ああ、私が何かに熱中したら、適当に引っ張ってくれよ」
 彼は「誰もがこの中を知ってはいないと思うが、その時はいろいろ見つけて私に知らせてくれ」と言い添えた。

 かくして、サルヴァトーレ・ロッソの農業探検が始まった。

リプレイ本文

●温室栽培の見学
 ガイド役の軍人のすぐ後ろを歩くのは、蒼界からの転移者・時音 ざくろ(ka1250)だ。
「実際、ロッソに乗せてもらうの初めてで、楽しみだもん! 冒険家としては放っておけないよね」
 そんな彼の胸は、かつて自分が見た懐かしい物との遭遇に期待を膨らませていた。
 その背後ではエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)が歩きながらも、実に熱心にスケッチブックに筆を走らせる。紅界出身の彼女にはすべてが目新しく、何もかもが刺激的だ。その表情も活き活きとしている。今回は商会を営むルイーズ・ホーナル(ka0596)と一緒に見学だ。
 エヴァと同じく、ロッソ内部に入って落ち着きがないのは、一応の依頼人であるルーベン・ジェオルジも同じ。すでに艦内の空調を肌で感じ取り、「うーん」とあごに手をやって唸っていた。

 ガイドが天井の高く、広い一室に皆を招き入れる。ここには部屋の中に部屋が存在した。彼は「ここが温室栽培を行う施設です」と紹介する。とはいえ、部屋そのものの面積はわりと手狭だ。
 しかしルーベンは片眼鏡を触りながら、すぐさま「別の部屋に行ってもいいんだろう?」と尋ねた。ガイドは説明の先を越されて驚いたのか、戸惑いながらも「ええ」と答える。
 このやり取りを聞いていたルイーズは「なぜ部屋が複数あると思ったの?」と尋ねた。
「この艦内では、民間人が大広間で寝泊りしているわけではないはずだ。暑がりもいれば、寒がりもいる。野菜や花も同じで、それぞれに特徴がある。その辺を考慮して育てているとなると、同様の部屋がいくつかあると推測できる。居住区も部屋ごとに区切られ、空調の具合を調整できるはずだからな」
 農業のことになると、突然として口数が増えるのが、ルーベンの特徴だ。
「で、半透明の布に囲われたアレはなんだ?」
 ルーベンは周囲を見渡し、誰かに説明を求める。そこで前に出たのは、黒スーツ姿の米本 剛(ka0320)だ。
「あれはビニールハウスです」
「ビニール? なんということだ……」
 自分の聞いたことないものが出てくると、とにかく調べたくなるのが研究者の性。どんな素材かわからないので、とりあえずそーっと触れてみる。
「とても薄い膜のようなものか」
「ええ、ガラスよりも薄くて、柔軟性があります」
 剛は入口を見つけ、ルーベンらを中に誘う。そこは暖かい風が循環する場所だった。
「なるほど。内部の温度を保つことで、時期を選ばず収穫ができるわけか」
 続けて入ったイェルバート(ka1772)も、珍しそうに内部を見渡す。
「寒冷地や真冬でも作物を育てられるって事だよね。すごいなぁ……!」
 剛は「ビニールは上からの重みに耐えられないので、設置は雪が積もらない場所に限りますね」と解説を付け加える。
 イェルバートは続けた。
「温度以外に光や土、収穫も機械なる装置で管理してるのかな?」
「光については、ハウスの上から遮光ネットをかけて調整します。収穫は人の手で管理が基本ですかね」
 蒼界の田舎に住んでいたという剛の話を聞き、ルーベンとエヴァは必死にスケッチを取る。
「ここでなら湿度の調整も可能か。何とも合理的な育成法だ……」
 そんなルーベンの肩をツンツンと突き、エヴァがスケッチブックを見せる。
『効率を求めた造形、整然としていてとても好みよ』
 彼女が文字を指差すのを見て、ルーベンは事情を察しつつ「そうか、君にもわかるか」と喜びの声を響かせる。
『植物の病気が出たら、この閉鎖空間の中だとすぐに蔓延しそうね。というより、私たちの世界にはない病気も出そう』
 エヴァの懸念を読み、研究家は「まさにその通り」と頷く。
「しかし、それらと日々戦うのが私の使命。研究すべき内容が増えるのは大歓迎だ」
 その意欲をエヴァの隣で聞いていたルイーズは「ご立派ー!」と感心した。

 ざくろはしばしハウス内を探検し、自分の名と同じ果物を発見する。
「ざくろと同じ名前の果物だ……美容にいいらしいんだよ」
「うちの娘と同じ事を言うな。いかに少女でも、その分野に興味があるなら積極的に摂取すべきだ」
 ただでさえデリカシーのないルーベンの発言だが、ざくろにとってはもっと失礼でもあった。
「ざくろ、男、男だから」
 顔を真っ赤にして一部内容を否定する彼を見て、この時ばかりはルーベンも「すまん」と謝った。
 この時、Uisca Amhran(ka0754)が、果物にそれぞれが違うビニールのフィルムに包まれているのを発見する。
「これも植物毎に違う、ということでしょうか?」
「気温や湿度は同じ条件でも、光を遮った方がいい場合は個別で包むわけか」
 ルーベンはまたメモを走らせる。その後ろで、ジルボ(ka1732)が感想を述べた。
「さっきのガイドに聞いたら、イチゴもこんな風にすんだってよ。真っ赤なイチゴは誰もが喜ぶからな。相当な儲けが出るんじゃないか?」
 彼の言葉も一緒にメモへ書き足した後、ルーベンは「儲けは妻が心配することだ」と真顔で言い放ったが、イチゴ作りへの挑戦についてはまんざらでもないようだった。ジルボは「そこまで悟れたら、幸せになれそうだな」と自虐的に笑うと、ウィスカがきょとんとした表情で「そうなんですか?」と小首を傾げながら問う。彼は「あ、エルフもあんま金儲けに興味ねーか」と思わず嘆息した。

 料理が得意だという蒼界のハンター、藤堂研司(ka0569)は自由に歩き回るルーベンを捕まえて話す。
「宇宙じゃ食糧が期待できないので、こういう形で作ってくんです」
「空の上か。ずいぶんと大変な場所だな」
 地面もないのでは住み難かろう、とルーベンは語る。
「だからほぼ年中、あらゆる食料を摂取するんです。オクラとホウレンソウのソテーとか、夏冬合体料理も」
 なんでも育てられるということは、料理にもバリエーションが増えるということ。時期を気にせず栄養を補給できるというのは強みだ。
「なるほどな……ん、どうした、君?」
 ルーベンはメモを覗き込む浅黄 小夜(ka3062)に声をかける。
「あ、そ、その……今回、ここを見学でけるのは……ルーベンのおじちゃんの、おかげ……ありがとぉと……よろしくを……」
 この少女もまた、蒼界から来訪したハンターだ。どうやら家に帰る手段を探しに来たが、それが現実的でないこともわかっているらしい。だから住んでいた所の食材を手に入れ、少しでも故郷に近づきたいという。
「大豆や麹があれば……お味噌やお醤油が作れる……」
「もし製造法を提供してもらえるなら、それを作れるかもしれん。そうでなくても同等品ができるかもな。後で詳しく聞かせてくれるかな?」
 ルーベンの返答を聞き、小夜が頷き「よろしゅうお願いします」と頭を下げた。これで故郷に少しでも近づけるか。これには研司だけでなく、剛なども実現に期待を寄せた。

●水耕栽培と貯蔵施設
 いくつかのハウスを回るうち、ルーベンは紗耶香(ka3356)に連れられて水耕栽培を行う一角へと誘われた。
「オッちゃん、これがあったら土がないところでも野菜作れるんやで。すごいやろ」
「これは……いい水の出る山間の土地でなければ、難しいかもしれんな」
 魔術師が用いる魔法に、ズバリ「水の浄化」が存在するが、それを延々と施すのは骨だ。それなら湧き水を引いて行う方がよいと、ルーベンは考える。
「土は連作障害を気にせんとあかんからなぁ。そういう意味でも、これはオススメやで」
「いくらでも土地はあるとはいえ、どれも耕してばかりでは追いつかないのも事実だ。こういう手法も検討すべきか」
 ルーベンが頷くと、今度は坂斎 しずる(ka2868)が近くにあった貯蔵施設へと案内する。ここもいくつかの部屋に分けられており、ビニールハウス同様、温度や湿度、光の具合が調整されていた。
「既存の品種でも、適切に熟成させる事で美味しくなるのよ」
「輸送を逆算して考えるだけではなく、その間に最高の味に仕上げるということか」
 この施設をなんとか小型化し、実用できれば面白いとルーベンは語る。しずるも「面白いんじゃないかしら?」と同意した。
「いい奥様をお持ちね、ルーベン様は」
「ああ、よくできた妻だ」
 こともなげに言うルーベンに対し、しずるは「うちの母にも見習って貰いたいところね……」と意味深な言葉を呟くのだった。

 この施設の見学も終わりに差し掛かった頃、ルーベンはデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)からきのこの原木栽培について説明を受けていた。
「しいたけ、まいたけ、しめじにまつたけ……世界は違っても、人はきのこを求めずにはいられない性質を備えてるからな」
「こちらの世界では野生のきのこを取ってくる習慣があるが、どうしても危険な毒きのことの遭遇は避けられない。その点、栽培は安心感があるな」
 ルーベンの分析に、デスドクロも満足の表情を浮かべる。
 しかし、彼の野望はこれで終わらない。
「クリムゾンウェストできのこって言ったら何だ……そう、パルムだ。パルムの幼生体を温室で育て、言語を操る少年少女型まで一気に育成させる。いわばエリートパルムを人為的に創り出す、禁断のプロジェクトよォ! グハハ、神霊樹ネットワークの新時代が今、幕を開けようとしてるぜ!」
 公開された計画があまりに壮大すぎたのか、それとも農業とあんまり関係なかったのか、ルーベンは極めて冷静に返答する。
「その計画、先に神霊樹に持ってかれると困らないか? そこにいたパルムが今の話、全部聞いてたぞ?」
「な、なんだってー! ま、待て! これはまだ機密事項だ……!」
 情報を得るのが仕事のパルムは、しばしデスドクロとの追いかけっこに興じた。

●食料品の加工工場の見学
 サルヴァトーレ・ロッソの航海は、宇宙という環境を考慮し、食料品の保存にもさまざまな工夫を用いている。その秘密がこの工場に存在すると聞き、海賊の末娘レベッカ・アマデーオ(ka1963)も興味津々だ。
「こんなでっかい鉄の塊が飛ぶんだろ? それがこんな未知の技術の塊だって言われたら、誰だって浪漫って奴を感じるよね」
 その言葉に同意するのは、アシェ・ブルゲス(ka3144)。彼の趣味は、蒼界と紅界の素材を混合させた廃材アート。あわよくば廃材を……と考えてはいるが、今はリアルブルーの文化に触れられる興奮の方が勝っているようだ。
「加工工場って、どんなのを作ってるのかなー♪」
 そんな彼らを待っていたのが、まずはレトルトパウチという技法だった。
 レベッカは差し出された銀色の袋を掴み、不思議そうに眺める。
「……何、この銀の袋」
 ガイドの軍人が「その中に食料が入ってます」と答えると、彼女は大いに驚く。
「保存食?! これが?」
 これだけの軽さで満足な食事ができる上、燻製や塩漬けより長持ちするなら、航海や長期輸送での交易に便利だ。
 ここで、ざくろが知識を披露する。
「学校の社会見学で工場に行った時と同じだ。懐かしい……熱を加えて悪い菌を殺してから密封するんだよね?」
 ガイドは笑顔で「そうです」と頷き、「よく勉強されてますね」と讃えた。
 それを聞いた高山出身のラプ・ラムピリカ(ka3369)はレトルトを見て、ただただ感心するばかりである。
「コレがあれば、オイラの村にも美味しいもの持って帰れそうだなぁ……」
 ラプはロッソの壁を叩き、「こんな素材で作ってんのかな?」と考えを巡らせた。すると、アシェが破損したパウチを見つけ、許可を得た上で触れる。ここにラプも顔を覗きこませた。
「中も同じ素材だなぁ……コレの作り方、教えてくれねぇかなぁ? ダメかなぁ?」
「あ、この破れた袋、貰っていいですか? え、再利用するからダメ?」
 そんなふたりの間に、ルーベンが割って入る。
「この手の素材はジェオルジではなく、蒸気工場都市のフマーレに持ち込めばいい。あそこなら何とかするだろう。施設も整ってる」
 それを聞いたレベッカは腕組みしながら、「海賊の夢と一緒で、どんどん広がっていくわね」と頷く。ラプも「もし作れるならいいな!」と安堵の表情を浮かべた。

 続いて、干し肉が透明なシール状のものが貼り付いたかのようなものが出てくる。
「これが真空パックです。空気との接触を断つことで、食材の変質を防ぎます。使い切れなかった食材の保存にも便利です」
 辺境住まいの上泉 澪(ka0518)は、実際に手にとって眺めた。
「見た限り、道具をうまく利用して更なる利便を図る感じですか。機材などの用意や維持費を考えると、決して安くはなさそうですね」
 それを聞いたルーベンもおおむね同意らしく、「開発するまでは高いだろう」と分析した。澪は「私は主に買ったり、世話になる方になりそうですから、ぜひ安価にしていただけると助かります」と言うと、レベッカやラプも「それがいい!」と同調する。
 するとそこへ、ジャック・J・グリーヴ(ka1305)が「まぁ、そうだな」と話に混ざってきた。
「俺もレトルトパウチのカレーを食った事があるが……ありゃ画期的だ。火と水さえありゃ調理をする必要が一切ねぇ。それに、美味い飯は兵士の士気を高める」
 彼はふと遠くを見るような視線を向けたが、すぐにルーベンへと向き直った。
「それによ、この加工工場を各地に建てられりゃ仕事も増える。つまり貧民が減るんだ……夢のような話じゃねぇか。リアルブルーの技術者とこれからも定期的に技術交流してけな、俺としては」
 これを聞いたルーベンは「正直、私一人で来たのは失敗だったと思っている」と頭を掻いた。
「なぁに、また来りゃいいんだ。ルーベンのおっさんよ。俺様の信念はな、貧しさで死ぬ奴を減らすこった。おっさんの信念も、つまるところ平民の幸せだろ? これからもいろいろと協力させてくれや」
「それは買い被りというものだ。私は自分が好きで農業の研究をやっている。それだけだ。そういう難しいことは、妻と息子に任せている」
 しかし、ルーベンの肩書きは前領主。それを意識していないはずはない。エイル・メヌエット(ka2807)は、微笑みながら語りかける。
「その気のない人がそんな返事するかしら。それはともかくとして、リアルブルーの食糧供給テーマは『いつでもどこでもどなたでも』みたいね。諸国を流れる旅人をターゲットに、栄養価を計算したジェオルジ特製レトルトセットをロッソとルーベンさんで共同開発できないかしら?」
「もしそんな話ができたら、同盟の商人が諸手を上げて協力することだろう。不安の種は舵取りくらいか」
 商魂逞しい自国の人間を引き合いに出し、ルーベンは苦笑いを浮かべる。一方、エイルは「いいことではありませんか」と言った後で、わざとらしく「ああ、ルーベンさんの研究する時間がなくなるかもしれないですわね」と本心を暴露すると、周囲のハンターは「なるほど、そういうことか」と笑い合った。

●待望の自由時間
 その後は短いながら、自由時間となった。
 最初から今までずっと大はしゃぎのシルヴェーヌ=プラン(ka1583)は、親友のクリスティア・オルトワール(ka0131)の手をグイグイ引っ張って歩き回る。
「食物の保存技術……密閉された包装技術の他に、何か日持ちが向上する物を入れておるのかのぅ?」
 その疑問を解消すべく、今も探検を続けるシルヴェーヌだが、引っ張られる親友はそれどころではない。もうひとりの同行者で、知人のキー=フェイス(ka0791)を見張らなければ、大変なことになってしまうのだ。ついさっき、キーが女子更衣室に入ろうとしたところをファイアアローで止めたばかり。ズボンが寒色でなければ、不審者として叩き出されていただろう。
「ふぅ、自分のファッションセンスに救われるとは……さすがは俺」
 見学時は缶ビールを眺めて「これ、どうやって作ったんだ?」と大人しくしてたが、今ではすっかり自由人。軍人のお姉さんを見つけてはデートの誘いを繰り返し、その度にツッコミの火矢を食らっている。それでも彼が元気に戦い続けていられるのは驚くなかれ、戦闘でもないのにマテリアルヒーリングで回復しているからだ。
「うーむ、やはり軍人はガードが固くていかん。あ、そうか……忘れていた」
 キーが何かを思い出した。その表情を見たクリスティアは、直感的に「あれは危険です!」と察知。警戒を強める。
「やはり、本命はシルヴィか。今まで散々ナンパをしていたが、誰が何と言おうと予行演習だったのだ。よし、今こそお前を口説く時……」
「何を言いますか……いえ、何を考えてますかっ! 今こそあなたを黒焦げにする時です!!」
 ここで手加減なし、渾身のファイアアローがナンパ野郎のどでっ腹に炸裂する。
「ふんぎゃあぁーーーっ!」
 キーは全身を燃やされ、周囲に焦げた匂いが充満した。シルヴィの知らぬ間に被害を食い止め、クリスティアはホッと胸を撫で下ろす。
 ここでシルヴェーヌは、無邪気に声をかけた。
「やはりここに来てよかったのじゃ! のぅ、ふたり共?」
 そう言って振り向けば、黒焦げのキーと満面の笑みのティアがいる。
「ぐぐ……ぷすぷす……」
「ええ、楽しいですね!」
 シルヴェーヌは「何があったかのぅ?」と小首を傾げるも、無情にもそのまま探検を続行。なお、この悲鳴をアシェが聞いていたが、廃材の持ち帰りの交渉に忙しく、気にしただけだったそうな。

 自由行動を待ちわびていたかのように、ネフィリア・レインフォード(ka0444)はロッソ内部に繰り出す。もちろん可愛い妹のブリス・レインフォード(ka0445)も一緒だ。
「ブリスちゃん、探検に行くのだ♪ いろいろと見て回るのだー♪」
 そういってあちこち覗くネフィリアだが、ブリスはしっかり見学を楽しんでいた。しかしネフィ姉様はずっと退屈そうにしてたので、今になって元気になったのが素直に嬉しい。
 ネフィは居住区の空き部屋に入ってベッドに寝そべってみたり、食堂を見つけるとどれだけ広いか走って確かめてみたりと、とにかく元気。普段から大人しいブリスがそれに付き合うのは難しいが、なんとか後ろについていく。なお、この食堂では 研司がわずかながら糠床を手に入れ、小夜に和食をご馳走しようと奮闘していた。
「待って、ネフィ姉様……置いてかないで……」
 一方、姉妹は食堂の端にあった別の扉を抜け、別の通路へと進む。
 どんどん先へ向かうが、ここでネフィが重大な事実に気づいた。
「あれ? 迷っちゃったかな? かな?」
 民間人を収容するほどの艦内は非常に広く、長く住んだ者でも内部構造がなかなか理解できない。そこに姉妹が迷子になった。
 その事実を敏感に察知したブリスは、全身でドキッとする。いったい何処をどう来たのか、彼女も一生懸命すぎてよく覚えていない。いろんな感情が湧き上がり、不意に涙が出そうになった。
 しかし、ネフィといえば、あっけらかんとしたものだ。
「まあでも、適当に歩いていれば、きっとなんとかなるのだ♪」
 ネフィは不安に押し潰されそうな妹の手を握り、迷わず前へ歩き出す。この先は正しい道なのか、その根拠はない。それでも姉は元気よく歩いた。
 立ち止まることが悪いことではない。ただ前へ進むことも、決して悪いことではない。姉妹とは、いやハンター同士もそうだ。みんな、こうして生きているのだろう。
 ブリスはネフィに元気を貰い、小さく呟いた。
「……ネフィ姉様のそんなトコ、好き……」
「ん、何か言ったのだー?」
 ブリスは「……何でもない、早く行こう……」と促し、また歩き出した。

 ルイーズとエヴァは念願のアイスバーを発見し、1本ずつサービスしてもらった。
「これこれ! やっぱり甘いものは需要あると思うんだよねー」
 エヴァも『暑い季節は氷一つ手に入れるのも難しいから』と書き、全部食べた後に『手軽にそういう類のものが口に入るなら、とても嬉しいわ』と答えた。
「さ、エヴァちゃん! 珍しいものを見つけたら教えてね!」
 エヴァは『了解』と返し、ふたりはまた意気揚々と歩き出す。そこにエイルとレベッカが通りがかった。
「あ、何か珍しいもの見なかった?」
 さっそくルイーズが確認すると、エイルからは医療についての話が聞けた。
「工場で見た真空技術、もしかして医療にも活かしてるのかしらと思って調べたら、やっぱりそうだったわ。救える命が増えるなら、どんなことでも知りたいの」
 レベッカは「研究熱心な人だね」と賛辞を送りつつ、自分のことも話す。
「あたしは操舵室とか動力室に入りたかったんだけど……さすがにダメだってさ」
「あらあら、それは残念ね」
 海賊からハンターに転身したとはいえ、やはり海に出る夢は諦め切れない。そこで「話だけでも!」と動力に関して説明してもらったが、チンプンカンプンもいいところ。なんとか「この船の動力は巨大すぎるので、船などに転用する場合は小型化が前提」ということはわかった。
「今回は農業の訪問だけど、動力源にも着手してほしいなぁ」
 そんなレベッカの話を、ルイーズとエヴァはしっかりとチェックしていた。商魂逞しいとは、まさにこのことか。

 ジルボは「リアルブルーの歌に興味がある」というウィスカと共に、艦内に保管されている閲覧可能な映像記録や映像作品を見ようと視聴覚室へと向かう。その途中で過去を懐かしみたいという剛が合流し、彼が適当に内容を選んだ。
「音楽というと、やはり演歌でしょうか」
 剛は出身国の代表的な曲ということで演歌を紹介したが、これがウィスカのツボにハマったらしい。特にこぶしの効かせ方が気に入ったようだ。
「あわわ、歌にこんな技法があったんですね」
 彼女とは違い、映像として楽しんでいたジルボは「何とも濃い味付けの演出だな」と率直な感想を述べた。
 なお、ウィスカはラップにも興味を覚えたが、男二人は「わりと選り好みしないんだな」と、その姿勢を評価。彼女は「それほどでも」と謙遜してみせる。
「しかし、この絵が動くアニメってのはなかなかだな」
「ええ、懐かしいです。テレビという装置をつけたら、いつでもやってましたからね」
 3人の鑑賞会は、この後も賑やかに続けられた。

●退出の前に
 ルーベンが書き散らしたメモと睨めっこをしているところへ、妖艶なエルフ・クローソー(ka3295)が近づいた。
「いやー、美味い! ルーベン殿も飲んでみろ。まったく新しい感覚のエールだぞ。冷やしたエールは美味いな」
 彼女はすでに缶ビールを開け、ご機嫌になっている。ルーベンも「物は試しに」とばかりに、缶ビールを飲み始めた。
「うむ、鮮度がいい」
「この缶という技術は素晴らしい。野菜や果実、調理した魚や肉さえ長期保存できる。食糧の乏しい冬に備えたり、遠くまで食物を送ることもできる。何より美味い酒が飲めることは幸せだ」
 ルーベンは「最後の下りは大事なことらしいぞ」と言うと、クローソーは「あら、他人事のように言うのね」と返す。
「俗に言う、ザルという奴だ。いくら飲んでも酔えない」
「じゃあ、私が酔い潰れたら介抱してくれるかしら?」
 クローソーがそんな冗談を言っていると、ルーベンの傍にイェルバートがやってきた。
「そろそろ退艦の時間です」
 酒が入っても酔わないとはいえ、何かに熱中すると周りが見えなくなるというルーベンを案じて、イェルバートは少し前からルーベンの近くに控えていた。その配慮に気づいたルーベンは「面倒をかけるな」と短く礼を述べると、ガイド役の軍人にあることを申し出る。
「私はもちろん、ハンター諸君も大変に有意義な時間を過ごせたと思う。本当にありがとう。しかし思ったより面倒をかけてしまったかも知れんので、彼らへのお土産を用意してもらいたい。艦内で流通している庶民的なもので構わない」
 そう言いながら包みを差し出すルーベンは、ガイドの耳元で「気取った記念品よりも、気軽に使えるものがいい」と言い添えた。
「わかりました、適当に見繕ってきます」
「中で迷子になってるハンターがいると困るから、点呼を兼ねて退出口で渡してほしい」
 彼がそう言うと、ガイドは準備しに走る。
 話の成り行きを聞いていたクローソーは、ビールを煽りながら話した。
「なんで自分で渡さないんだ? 素直じゃないな」
 ルーベンは答える。
「そういうのは息子の仕事だ」
 それだけ伝え、彼は酒を煽る。イェルバートはこの男がどこまでが偏屈なのか、少しわからなくなっていた。

 こうして、サルヴァトーレ・ロッソの農業探検は幕を閉じた。

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重体一覧

参加者一覧

  • 完璧魔黒暗黒皇帝
    デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013
    人間(蒼)|34才|男性|機導師
  • 雄弁なる真紅の瞳
    エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029
    人間(紅)|18才|女性|魔術師
  • 古塔の守り手
    クリスティア・オルトワール(ka0131
    人間(紅)|22才|女性|魔術師
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛(ka0320
    人間(蒼)|30才|男性|聖導士
  • 遙けき蒼空に心乗せて
    ユキヤ・S・ディールス(ka0382
    人間(蒼)|16才|男性|聖導士
  • 爆炎を超えし者
    ネフィリア・レインフォード(ka0444
    エルフ|14才|女性|霊闘士
  • ヤンデレ☆ブリス
    ブリス・レインフォード(ka0445
    エルフ|12才|女性|魔術師

  • 上泉 澪(ka0518
    人間(紅)|19才|女性|霊闘士
  • 龍盟の戦士
    藤堂研司(ka0569
    人間(蒼)|26才|男性|猟撃士
  • ホーナルキャラバン店長
    ルイーズ・ホーナル(ka0596
    人間(蒼)|15才|女性|機導師
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士

  • キー=フェイス(ka0791
    人間(蒼)|25才|男性|霊闘士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • クリスティアの友達
    シルヴェーヌ=プラン(ka1583
    人間(紅)|15才|女性|魔術師
  • ライフ・ゴーズ・オン
    ジルボ(ka1732
    人間(紅)|16才|男性|猟撃士
  • →Alchemist
    イェルバート(ka1772
    人間(紅)|15才|男性|機導師
  • 嵐影海光
    レベッカ・アマデーオ(ka1963
    人間(紅)|20才|女性|機導師
  • 愛にすべてを
    エイル・メヌエット(ka2807
    人間(紅)|23才|女性|聖導士
  • シャープシューター
    坂斎 しずる(ka2868
    人間(蒼)|26才|女性|猟撃士
  • きら星ノスタルジア
    浅黄 小夜(ka3062
    人間(蒼)|16才|女性|魔術師
  • 不空の彩り手
    アシェ・ブルゲス(ka3144
    エルフ|19才|男性|魔術師

  • クローソー・マギカ(ka3295
    エルフ|27才|女性|魔術師
  • 弔いの鐘を鳴らした者
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    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 一夜の灯り
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    ドワーフ|14才|男性|魔術師

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浅黄 小夜(ka3062
人間(リアルブルー)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2014/10/23 23:37:09
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/10/24 18:29:11