• 黒祀

【黒祀】緑の地獄で狂気は無邪気に踊る

マスター:稲田和夫

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
3日
締切
2014/10/24 19:00
完成日
2014/11/01 14:30

みんなの思い出

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オープニング

「聖堂戦士団員ミシェル到着いたしました!」
 グラズヘイム王国西部リベルタース地方。
 最前線にある野営地からは少し後方にある拠点の陣幕。そこに、まだ声変わりもしてない少年の初々しい声が響いた。
「私は王国騎士団のガエタンだ。今回はよろしく頼む」
 そう挨拶を返したのは壮年の王国騎士団員だ。
 逞しい体格や身に纏う雰囲気からもこの男性が騎士としての経験を積んでいる事、そして王国騎士団員としての誇りを強く持っている様子が伺える
「我々の任務は、例の野営地から少し離れたこの地域を巡回しもし逃げ遅れた者がいれば救助すること。同時に歪虚と遭遇すればそれを排除することだ」
「はいっ! 聖堂戦士団の一員として恥ずかしくないよう微力を尽くしますっ!」
「ああ、頼むぞ。……だが、無理はするな。万が一強力な歪虚に遭遇したのなら、生きて帰って情報を味方に伝える事も大切な任務だ」
 ミシェルは笑顔で頷いた。ガエタンも、麗に整えられた口髭の奥で微笑するが、ふっと暗い表情になり続ける。
「……さて、知っての通り、現在王国の戦力は不足している。特に我々王国騎士団や聖堂戦士団は、多数の団員を一箇所に集中することが難しい状況だ。故に、今回の任務は外部の人間と協力して当たるよう通達されている」
「ハンターの方々ですね!」
 聖堂戦士団員にとって、ハンターは特に対立するべき相手ではない。状況次第では彼らもハンターのような行動を取る事すらある。
 だが、ガエタンは苦々しげな様子で首を横に振った。ミシェルがそれを訝しんだ瞬間、陣幕が真っ暗になった。そして、周囲に響く鳥が羽ばたくような物音。
「飛行型の……歪虚!?」
 メイスを引っ掴んで陣幕の外に飛び出すミシェル。一方のガエタンは忌々しそうな表情で吐き捨てた。
「帝国兵……!」
 
 陣幕の前に着地してじっと蹲る生き物に、ミシェルは呆然とした。鷲の上半身と翼、そして獅子の下半身。グリフォンと呼ばれる幻獣だ。勿論、野生の物ではない。
 グリフォンの上から騎乗している者のきいきい声が響く。
「ゾンネンシュトラール帝国第五師団ヒンメルリッター所属、小鷲。担当区域の偵察を完了させて帰還したヨ~! 全く、ついこの間帝都で剣機の相手をしたと思ったら王国への派兵だなんて、グライシュタットで『羽を伸ばす』暇もないヨ! ねえ、イェンロン?」
 乗り手の文句に、グリフォンは鋭く鳴いた。

●呉越同舟……?
 やや日が傾きかけ、逢魔が時が近い時刻。西方に海の水平線を望む上空。
「それでネ、ピ-スホライズンでお菓子一杯食べられると思ってたんだケド、この人がやたら急かすんだヨ~」
「僕に話しかけないでくださいっ!」
 小鷲の後でグリフォンに掴まるミシェルは一喝した。
「すまないが、今は王国の緊急事態なのだ」
 その後ろのガエタンも礼節はあるが何処か余所余所しい。
「呉越同舟……ううん、呉越同「鷲」とは行かないみたいだヨ~……」
 溜息をつく小鷲を無視して西の空を眺めるガエタンが険しい表情を見せた。
「妙だな……何時もと様子が違うような……もう少し高く飛べないのか?」
「是是(シーシー)! イェンロン高度上げるヨ~」
 ガエタンも、王国生まれのミシェルも帝国師団兵に良い感情は持っていないのだろう。
 帝国側もその辺りの事情は充分に理解しており、今回も同盟における狂気の眷属を巡る騒乱の時の様に、師団規模での派兵は避けていた。
 小鷲が単騎で派兵されたのは、歪虚勢力の大規模な動きについて情報が欲しい帝国と、少しでも戦力が必要であり、また各国に対して度量のある所を見せておきたい王国の利害が一致したためである。
 無論、空中からの偵察が有効なのは言うまでもないが帝国の兵士に国土の上空を通過されるのは、王国上層部にとっては許し難い。
 そのため、ガエタンは小鷲が予め王国側が決めたルート以外を飛ばないよう監視役としてピースホライズンから彼に同行していた。
 小鷲が口を尖らせたとき、ミシェルが叫んだ。
「止まってください!」
「私にも見える! 民間人が……くぅっ!?」
「きゃあっ!?」
 小鷲がいきなりグリフォンを急降下させ、二人は悲鳴を上げた。

●Insanity Green Inferno
 必死に逃げていたらしい少女が何かに躓いて緑色の巻き毛が揺れる。背後から長柄で片刃の斧を構えた歪虚が迫る。
 その体毛は少女の巻き毛に良く似た色合いの緑。額には傲慢の眷属を象徴するかのように、宝石の翡翠が禍々しく輝く。
 頭部は羊ではなく羚羊(アンテロープ)を模していた。
 なす術も無く震えているように見える少女に向かって、容赦なく斧が振り上げられる。だが、直後鋭い金属音が鳴り響いて斧が弾かれる。その衝撃で羚羊はよろめいた。
「やはり貴様らか……」
 真っ先にグリフォンから飛び降りて、羚羊の斧を弾いたガエタンがじりじりと敵との間合いを測る。
「もう大丈夫です。我々聖堂戦士団と王国騎士団が歪虚があなたを守りますっ!」
 ミシェルは怪我の具合を見ようと、少女に駆け寄る。
「帝国師団もいるんだヨ~……」
 グリフォンに乗ったまま拗ねたように呟く小鷲だったが、突然、何かに気付く。
「……殺気?」
 それは、実際に何かを感じたというよりは、直感に等しいものだった。そして、奇妙なことにそれはガエタンと対峙する羚羊から感じるものとは異なっている。
「その子から離れるんだヨ!」
 小鷲の声に咄嗟に反応したのは経験豊富なガエタンのほうだった。小鷲同様の直感が働いたのか、考えるより先に横に飛び退く。
「え……?」
 だが、ミシェルは緑の巻き毛の少女の側に屈みこんだまま呆けたように振り向いただけだ。
「イェンロン!」
 間髪入れずグリフォンが駆ける。小鷲は頭上で戟を振り回すと、それをミシェルの襟に引っ掛けて、その体を空中へ放り投げる。
 直後、緑色の光が大地を薙いだかと思うと、直前までミシェルがいた場所の地面が無残に抉り取られ、土や草の破片が降り注いだ。

「にひっ!」

 緑の巻毛の少女が笑った。
「悔しいなあ! もうちょっとだったのに!」
 沈まぬ太陽のような、そして無邪気な狂気を孕んだ声色。
「あれっ? 誰か来るねっ?」
 少女と小鷲らは同時に道の向こうから現れたハンターたち、つまり貴方たちを見た。貴方たちは、別の任務で野営地に向かう途中でこの場面に遭遇したのだ。
「ひいふうみい……嬉しいなあ、クラベル。ちょっとお散歩するだけのつもりだったけど、これだけ殺せば一杯褒めてくれるよねっ。……さあっ、フラベルと踊ろうよっ! にひひっ!」
 少女、フラベルはそう言ってゆっくりと手を伸ばす。それに呼応するように西の海上の空が不吉な色に染まり始めた。

リプレイ本文

「どうどう……」
 セレン・コウヅキ(ka0153)は馬に乗ったまま怯えるもう一頭の馬を宥めていた。怯えるのは飼い主が近くにいないせいもあるが、例えいたとしても変わらなかったかもしれない。
「緑の髪で巻き毛……本人が名乗っていたことからも、間違いなく5年前に確認されたフラベルですね……少しでも情報が欲しい所ですが……」
 ライフルのスコープを覗きながらセレンが呟く。強力な歪虚の存在を、馬も感じているのかもしれない。
「ですが、今はこちらを優先しましょう」
 セレンがスコープを動かした先には少女と同じ色合いの体毛に覆われた羚羊が映る。照星に羚羊の脚を捕え引き金を引いた。だが、羚羊は弾丸が飛来する直前、僅かに体を逸らす。地面に着弾した弾丸が土煙を上げた。
 直後、彼女の耳にシルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)が発した警告の叫びが届く。
「セレンさんっ!」
 セレンの方を見ながら、尊大にその手を羚羊に差し伸べるフラベルと彼女に恭しく自身の斧を差し出す羚羊。
 そして、フラベルはにひっと笑い斧をセレンに向かって思いっ切り投げつける。
 シルヴィアには、セレンが自分で馬から飛び降りたのか、回転する斧を受けて馬から落とされたのかの区別はつかない。
 その後、ブーメランのように戻って来た斧を受け止めた羚羊に上泉 澪(ka0518)が切り掛かる。
「参ります……!」
 羚羊の振り降ろした斧と、澪の振るう斧が激しく打ち合う。
「セレンさんのことも心配ですが……今は!」
 シルヴィアも味方に注意しつつ、素早く銃身を羚羊に向けて発射。だが、乱戦状態では小さな目標を完全に狙うのは困難であり、弾丸は惜しい所で外れてしまう。
 一方、澪は隙を見て脚を狙う。だが、澪が攻撃しようとした瞬間、斧が振り降ろされ血飛沫が上がる。
 羚羊とて低位とは言え七眷属である。人間が執拗に自分の脚を狙っている事ぐらいは気付いていたのだ。
 前衛である澪が戦闘不能にされては一気に不利になる。
 Uisca Amhran(ka0754)(以後愛称に従いイスカと表記)は咄嗟にホーリーライトを放って羚羊を牽制すると、近くにいるミシェルを叱咤激励する。
「騎士様っ!」
「は、はいっ!」
「この場で、癒しの力を使える者は限られています……どうか!」
 ミシェルは聖堂戦士としての自覚が甦ったのか、拳を握りしめると澪に向かって自身のマテリアルで働きかける。
「これは……?」
 地面で倒れていた澪は傷の治癒するスピードが速まったのを感じて、辛うじて体を起こす。
「敵を……抑えなければっ!」
 再度、斧を握りしめる澪。しかし、彼女の目に映ったのは、彼女が一時的にダウンした隙をついて後衛に襲い掛かろうとする羚羊の姿であった。
 奇しくも、イスカの言葉通り重要な回復役を務めるミシェルを先に潰そうと目論んだ訳である。
「ここまで知恵が回るとは……厄介ですねっ!」
 咄嗟にその場を飛び退くイスカ。しかし、彼女は動こうとしないミシェルに気付く。
「騎士様!」
「僕の役目……ハンターを、人間を守る……!」
 まだ若いミシェルは味方の支援に夢中になり過ぎて、羚羊の動きに気付いていない。
 直後、イスカと聖堂戦士の間に羚羊の斧が叩きつけられた。
 身構えていたイスカは凄まじい衝撃を全身に受けながらも、何とか直撃は避けた。だが、回復に集中していたミシェルは間に合わない。
 大地を抉りながら広がる碧色の爆風が、ミシェルの身体を飲み込もうとする。

「回復ぐらいは出来るかと思ったら、コレかよ……! もっと周りを良く見やがれ、新米!」
 その瞬間、飛び込んで来たヴィルナ・モンロー(ka1955)が柄でミシェルをぶっとばした。
「あうっ!?」
 情けない声を上げて吹き飛ぶミシェルだが、辛うじて爆風の直撃は避けた。
 ヴィルナは羚羊に、不敵に笑う。
「さぁて……お前のご主人サマはなかなか面白そうだが、お前は私を楽しませてくれるか?」
 羚羊は斧を構えてヴィルナに飛び掛かろうとするが、そこに再びライフルの弾丸が降り注ぐ。それも、二方向からの攻撃だ。
 攻撃したのは、シルヴィアともう一人。
「不覚を取りましたが……今度こそ! 澪さんっ!」
 直撃は避けていたセレンは馬から降り、地面に伏せた伏射の姿勢で羚羊を狙う。位置が高くなる騎乗した状態での狙撃では足が狙いにくくなるという判断だろう。
 セレンが無事であった事に安堵した澪は再び斧を構える。
「脚が狙えないなら……!」
 澪は羚羊の首筋目がけて斧を叩きつける。これを自身の斧で受け止める羚羊。その脇腹に向けて小鷲の戟が突き出される。
 浅い。しかし、ハンターたちの攻撃はまだ終わっていなかった。
「五年前の……ホロウレイドのような事態を繰り返させないためにも、ここで!」
 イスカが再度光の弾丸で攻撃。と、この時羚羊の全身が不気味な碧色に輝き始めた。
「例の魔法か!? だが……」
 ヴィルナが笑う。
「ここまで来て止まる訳にはいきませんね」
 澪も、ヴィルナと視線を合わせてお互いに頷く。そして、二人は躊躇なく羚羊に向かう。
 咆哮と共に羚羊の周囲に細い光の輪のようなものが広がって行く。そのマテリアルに全身を焼かれながらも、澪は斧を羚羊の胴体に叩きつける。碧光陣を放った直後の隙が災いしたのか、羚羊は胴体に刃を受け悲鳴を上げる。
「今なら!」
 セレンの弾丸が再度発射された。安定した体勢で、敵の隙をついて放たれた弾丸は今度こそ羚羊の膝に命中した。
 羚羊は、がっくりと膝をつく。
 そして、ヴィルナは、武器を振り上げると渾身の力でその刃を、斜め上から羚羊の膝頭に叩きつけようと振り被った――!
「このまま、膝をへし折る! 脚の外側は上からの衝撃には弱いからな!」

「にひっ♪」

「!?」

 ヴィルナの目が驚愕に見開かれる。振り降ろした腕が途中で止められたのだ。

「今度は私が躍ってあげるね!」
 フラベルはヴィルナの腕を掴んだまま、その細い腕からは到底想像できない凄まじい力でヴィルナの体を振り回し、地面に叩きつける。
 ヴィルナは激痛に声を発する事すらできず、そのまま気絶。


 時間は少し戻る。
 この時、星輝 Amhran(ka0724)はフラベルを挑発しつつ、仲間の支援を受けながらその攻撃を避け続けていた。
「おぉ、めんこい歪虚じゃ! それに、中々やんちゃじゃのぅ!」
「メンコイ? どういう意味かな? でも、悪い感じじゃないね!」
 碧色の光を帯びたフラベルの拳を紙一重で躱す星輝。拳の当たった地面が、轟音と共に抉れる。
「おやおや、乱暴じゃのう……ほれ、ご所望の通り舞うておるのに!」
 星輝は余裕を見せようとしているが、その微かに強張った表情からは彼女が必死に戦っていることが解る。
「ダンスがお望みってか? だがな、子供はそろそろお家に帰る時間だぜ!」
 敵を牽制すべくアーサー・ホーガン(ka0471)もフラベルに銃撃。しかし、フラベルは大した隙も見せず、ひらりと踊るように弾丸を回避する。
「にひひ!」
「まったく……歪虚が人の形をしてるだけで不愉快な気分になるわね」
 セリス・アルマーズ(ka1079)は苛立ちを露わにする。
「この世界から、完全に浄化してやるわ! ……と言いたいところだけど、準備不足だし、ここは隙を見て一旦退いたほうがよさそうね」
 冷静なセリス。実際、ハンターたちは徐々にではあるがフラベルの攻撃で体力を削られセリスも回復に手一杯である。
「王国は必ず守る!」
 ガエタンも、凄まじい気迫で攻撃を加えるが、フラベルはこれも余裕で避ける。
「頑張ってるね! でも、無理だと思うよ?」
 今この時点で彼らがフラベルの抑えという役目を果たせているのは、単にフラベルが遊んでいるからに他ならない。
 フラベルが羚羊の方に関心を向ければ一気に戦況は不利になるのだ。
「お主、何故このような所で、油を売っておる? 褒めて貰うなどと口にしておったが、誰の命令じゃ?」
 星輝は少しでも、この歪虚についての情報を引き出すべく、誘導尋問や挑発を繰り返していた。
「まだ、秘密だよっ」
 しかし、彼女の誘導尋問は漠然としており中々フラベルの関心を買う事が出来ない。
 星輝の内心の焦りが更に大きくなった時、遂にフラベルはそれまで放置していた羚羊の方を見る。
「あれ、まだ一人も殺せてないの?」
 この時、星輝は咄嗟に相手を挑発する。
「素晴らしい膂力じゃがな! しかし当たらねば小枝も折る事叶わぬぞや?」

「……」

 フラベルはゆっくりと振り向く。その表情は残忍な歪虚そのものだ。
「……じゃあ、当ててあげるね?」
 星輝は疲労しているとはいえ、味方の援護も受けており決して無防備な状態ではなかった。
 自身のマテリアルで速度を上昇させ、更にセリスのマテリアルで防御も固めていた。
 
 なのに、星輝は突然目の前の敵が消えたようにしか認識できず、視界に碧色の光を、腹部に強烈な衝撃を感じたのを最後に、只の一撃で意識を刈り取られた。

「姉さまっ!」

 こうして、イスカが見たのはフラベルの一撃を受け昏倒する星輝の姿であった。


 そして、ヴィルナが気絶させられハンターたちは、瞬く間に二人の戦力を失ったのである。
「にひひっ、やっぱりダンスは楽しいなあ!」
 二人の人間を倒したことで、再び上機嫌になったフラベルが笑う。
「ダンス……? 貴女は本当に踊りに来ただけなのですか? ベリアルさんから、何か言われて来たのではないのですか?」
 姉をやられた動揺も怒りも押し殺して、イスカは問う。せめて情報だけでも入手しようというのだろう。
 一方のフラベルは首を傾げ、指を唇に当てる。
「秘密だよっ! でも、もうすぐ解っちゃうかなっ?」
「何がですか?」
 なおも食い下がるイスカに、フラベルは西の空を手で指し示した。

「ベリアル様のご親征だよっ!」
 その瞬間、逢魔が時の色に染まった黄昏の空の一画、西のイスルダ島の上空に黒い煙が立ち昇ったように見えた。
 だが、それは煙では無く歪虚の夥しい群れだ。
 それは瞬く間に広がり、空を覆いつくし、そして王国の空へと押し寄せる。
 人々は、後にその光景をこう形容した。
 黒い波濤、と。


「退くぞ……!」
 最初に、そう言ったのはガエタンだ。噛み締めた唇から血が流れるのを見れば、彼が屈辱を感じているのは明らかだ。
 セリスも即座に同意する。これ以上戦い続けても戦況が好転するとは思えない。
 何より、この緊急事態では帰還が優先される。
「イェンロン!」
 小鷲はグリフォンを呼び寄せる。
「早く行け! ……お嬢ちゃんの相手は俺がする!」
 アーサーはフラベルにありったけの弾丸を撃ち込んで牽制。その間に小鷲は星輝とヴィルナを強引にグリフォンの背に乗せて飛翔した。
「心残りですが……ここは生き延びなければ」
 続いて、羚羊の相手をし続け、ダメージが蓄積した澪が素早く後退を図った。
「あれあれ? まだダンスは終わってないよっ?」
 再びフラベルが迫るが、そこにセリスが立ちはだかった。
「掛かって来なさい! 汚らわしい歪虚! 鉄壁ヒーラーを舐めない事ね!」
 攻撃に備えるセリス。
「じゃあいっちゃうね!」
 フラベルの拳が、セリスの鳩尾に深々と突き刺さる。
「ぐうぅぅぅぅぅっ!」
 その凄まじい衝撃に呻くセリス。全身を覆うマテリアルの光が激しさを増した一瞬、セリスはふと誰かの声を聞いた気がした。

 ――守りが堅いからってよく無茶するからな。ケガとかしてなきゃいいが……

「安心して……私は、そう簡単にはっ!」
 気合と共に、フラベルの攻撃を受け切るセリス。かなりのダメージを受けたが、それでも、仲間が後退する時間を稼ぎ、自身も力尽きてはいない。
 このまま、味方は整然と撤退に成功するかと思われたが、羚羊が斧を振り上げてセリスに止めを刺そうとする。
「やらせんっ!」
 しかし、ここでガエタンが羚羊の斧を盾で受け止めた。
「これ以上貴様らに……ぐぅ!?」
 だが、セリス以上に消耗していたガエタンは羚羊の攻撃を抑えきれず、盾を弾かれ、胴体に強烈な一撃を受けた。
「私に構うな! この事を本陣に知らせろ……!」
 がっくりと膝をつきながらも、必死に叫ぶガエタン。
「こんな所で、一人も死なせない……! 皆で生きて帰るんですっ!」
 シルヴィアが叫びと共に放った弾丸が、ガエタンに止めを刺そうと斧を振り上げた羚羊の頭部に着弾。眉間を撃ち抜かれた羚羊は、斧を手から落とし、地面に倒れ、黒い霧となった。
「ナマイキッ!」
 頬を膨らませたフラベルはガエタンに止めを刺すべく、ゆっくりと歩く。
 この時、かなり遠い位置から狙撃を行っていたセレンとシルヴィアは何とか逃げ切れる位置にいた。これは、既に後退を始めていた澪や、イスカ、ミシェルも同様である。
 小鷲に救助された二人は尚更だ。
 そして、アーサーとセリスも何とか逃げるだけの余力は残している。
 つまり、ガエタンだけが犠牲になる。
「くそっ……」
 アーサーが歯噛みしたその瞬間、再び小鷲の声が頭上から響いて来た。
「何でこの子を放っておくんだヨ! もう少しで逃げちゃう所だったヨ!」
 アーサーが見たのは、セレンの側に繋いでいた筈の馬が、低空飛行する小鷲のグリフォンによって追い立てられ自分の方に走って来る光景であった。
「奇遇な所で会ったと思ったが、今回も借りを作っちまったな! 後で一杯奢るから、許してくれや……!」
「ボクは未成年だヨ!」
 アーサーは咄嗟に馬に飛び乗り、ガエタンの方に走らせた。
「かたじけない……!」
 そして、アーサーはガエタンの腕を掴んで引っ張り上げると同時に、馬を旋回させ、一気にフラベルから離れる。
「ずらかるぞ! 援護を頼む!」
 アーサーを援護するためにハンターたちが放った集中砲火を浴びながら、フラベルは肩を竦めた。
「ちぇっ、つまんないっ! ……でも、ベリアル様の仰る通り、盛り上がるのはこれからだもんね! にひひひひひっ!」

 ――ブシシシシシシッ!

 と、必死にフラベルの笑い声から遠ざかろうとするハンターたちの耳に、フラベルの笑いに良く似た、しかし、より高慢な声が重なる。

 その日王国に居た人々は声を聞いた。
 脳裏に直接響くような、高慢な声音。
「おはよう、諸君。心地よい夜が訪れるな。復活に相応しい夜よ」
 声の主は軋むように笑い。
「私は黒王たるイヴ様の一の臣。諸君ら王国と、王の娘に破滅を齎す者」
 そう、名乗りをあげた。
「鄙俗な王国も、娘の純潔も、この私自ら無に帰して差し上げよう。それが私の復活祭の――フィナーレだ」
 ブシシと声は嗤う。それは次第に金切声のようになり、そして――唐突に、消えた。

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MVP一覧

  • 凶獣の狙撃手
    シルヴィア=ライゼンシュタインka0338
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガンka0471
  • 紫暗の刃
    ヴィルナ・モンローka1955

重体一覧

参加者一覧

  • 蒼の意志
    セレン・コウヅキ(ka0153
    人間(蒼)|20才|女性|猟撃士
  • 凶獣の狙撃手
    シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338
    人間(蒼)|14才|女性|猟撃士
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人

  • 上泉 澪(ka0518
    人間(紅)|19才|女性|霊闘士
  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 歪虚滅ぶべし
    セリス・アルマーズ(ka1079
    人間(紅)|20才|女性|聖導士
  • 紫暗の刃
    ヴィルナ・モンロー(ka1955
    エルフ|23才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/10/21 20:20:31
アイコン 仮アクション
セリス・アルマーズ(ka1079
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2014/10/23 21:51:35
アイコン 相談用スレッド
Uisca=S=Amhran(ka0754
エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2014/10/24 07:56:39