• 血盟

【血盟】妖精に託された40年の想い

マスター:真太郎

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2017/05/24 15:00
完成日
2017/06/01 00:34

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 リアルブルーの女性『ケイト』は自室のベッドに座って夕飯の献立を考えていた。
 だが突然、目の前の風景が森に変わった。
「え?」
 背の高い木々と草が生い茂り、獣道さえなく、人の手が全く入っていないような鬱蒼とした森。
「何、ここ……」
 驚き困惑しながら周囲を見渡すと、何かがたくさん飛んでいるのが見える。
 それは体長20cm程の背に羽の生やした子供のような生物だった。
「……よ、妖精?」
 目をこすった。
 消えない。
 夢かと疑って頬をつねる。
 痛い。
 こうなると疑わしいのは現実か、もしくは自分の頭だ。
(頭は正気だと思うのだけど……)
 ならば現実という事になるが、目の前の光景はあまりに現実離れしていた。
『オォォォーーン!』
 更に雄叫び声も聞こえた。
「こ、今度は何!?」
 見ると、犬のよう風貌だが遥かに大きくて凶暴そうな四足の獣がいた。
「お、狼……」
 ケイトは恐怖で震えた。
 素手の人間が野生動物に襲われて無事で済む訳がない。
 しかもケイトは事故の後遺症で下半身が不自由なため、逃げる事すらできないのだ。
(こ、来ないで……)
 ケイトは狼に見つからないよう身を縮めて祈った。
 狼は不意に跳躍し、妖精の1体の牙で捕らえてグシャリと噛み潰した。
(し、死んだ……)
 狼は妖精を死骸を捨てると他の妖精を値踏みし始める。
(食べない、どうして?)
 一方、妖精も狼に攻撃を仕掛けた。
 しかし妖精は投石や木の枝の槍で刺すなどの原始的な攻撃しか出来ず、決定的なダメージを与えられない。
(ダメよそれじゃ、逃げて!)
 ケイトが心の中で訴える。
 しかし妖精達は必死に攻撃し続け、狼に殺戮され続ける。
(この狼、普通じゃない。なんか、物凄く、気持ち悪い……)
 ケイトは吐き気を催した。
 それは残酷な殺戮劇を目の当たりした事と、狼の纏う禍々しいオーラのようなものに当てられたからだ。
(このままじゃ妖精さんがみんな殺されちゃう。誰か……誰か助けて)
『―――』
 ケイトの願いに応えたモノがいた。
(え?)
 何を言っているかは分からない。
 そもそもソレは声ではない。
 何かの意志から意味だけが頭の中に入り込んできたような感覚だ。
 ソレは『力を貸し与えるから我らを助けよ』と言っているようだった。
「わ、わかったわ」
 ケイトが了承した途端、何か大きな存在と精神の深いところで繋がったような感覚の後、自身に何か力が宿るのを感じた。
 下半身は相変わらず不自由で動かない。
 しかし今宿った力なら妖精を助けられる。
 ケイトは妖精の1人に自らの力を分け与えるようなイメージで何かを発動させた。
 すると妖精の持つ木の槍が狼の皮膚を貫いて刺さった。
『ギャン!』
 狼が苦鳴を上げる。
 初めて明確なダメージを与えられて妖精も驚く。
 ケイトは同じ要領で他の妖精にも力を与えていった。
 妖精達の波状攻撃で狼は徐々に傷つき、やがてその場に倒れ伏した。
 そして絶命した狼は体を黒い塵となって消滅した。
「消えた? あれはいったい……」
 ケイトはその狼がこの世ならざる物のように思えた。
 だが問題は狼の正体ではなく、自分を興味深そうに見ている妖精達だ。
「あの~……」
 ケイトが不安そうに声をかけると、妖精達が笑顔で群がってきた。
「わっ!」
 妖精は自分達を助けてくれたのがケイトだと分かっているらしく、歓待してくれる。
 そしてケイトは救世主、もしくは神の使い的な扱いを受け、妖精と共に暮らす事となった。

 妖精達は言葉が話せないため、意思疎通は物凄く大変だ。
 けれど水や食べ物はケイトが何も言わなくても妖精達が集めてきてくれる。
 足の不自由なケイトにはそれだけでも有り難い事だった。
 妖精達がいなければ餓死していた事だろう。
 ケイトは自分の世話の対価として、悪しき物が現れた時に妖精達に力を貸した。
 悪しき物は狼だけでなく熊や見知らぬ生物など、様々なものがいた。
 悪しき物は殺戮だけを求めて現れ、死ぬと一様に塵となって消えた。
 そんな生物は見た事も聞いた事もない。
 だから分かった。
 ここは自分が元いた世界とは全く別の世界だと。
 動けないケイトがこの世界について知れる事は少ない。
 自分以外に人間がいるかどうかも分からない。
 不安はある
 寂しくも思う。
 でも優しくて可愛い妖精達がいてくれた。
 だから生きていけたし妖精達のために生きた。

 そして40年の時が過ぎたある夜の事。
『―――』
 ケイトは声を聞いた。
 この世界に来た時に自分に力を授けたあの声だ。
 もう遥か昔と思える程の過去に聞いた声。
 懐かしく思うと同時に訝しくも思う。
 どうして今になってまた声を掛けてきたのか。
 声はこう言った。
『大精霊より人間に力を貸すよう賜った。お前は更なる力を望むか?』
 と。
(大精霊? 更なる力?)
 この世界の事を何も知らないケイトは声の主に尋ね返すと返事を貰えた。
 そしてケイトは40年目にしてようやく世界の様々な事を知った。
 声の主がこの地に住む精霊と呼ばれる存在である事や、自分以外にも人間がいる事を。
「やっぱり、いたのね……」
 ケイトの瞳から涙が溢れる。
 自分はこの世界に1人ではない。
 孤独ではない。
 その事が嬉しくて涙が出た。
(会いたい!)
 激しい衝動が胸の内から湧き上がってくる。
 それは当然の想いだった。

 その日からケイトは他の人間と会う方法を模索し始めた。
 様々な方法を考えた末、ケイトの取った手段は『手紙』だった。
 植物の繊維で紙に似たものを作り、そこに血で文字を書いた。
 妖精達はケイトの願いの篭った手紙を持って森の外へと飛んでくれた。
 しかし多くの妖精は手紙を手にしたまま戻ってきた。
 そして帰らぬ者もいた。
 おそらくこの地は人里離れていて、周囲には悪しき物『歪虚』が跋扈しているのだろう。
 妖精がこの地を離れるのは危険な事だったのだ。
「妖精さん、ごめんなさい……」
 ケイトは自分の我儘で妖精達を危険に晒した事を後悔した。
 
 ほとんどの妖精は手紙に配達に失敗したが、奇跡的に一人だけ人里に辿り着いた者がいた。
 しかし手紙はケイトの母国語のフランス語で書かれており、誰も読めなかった。
 しかも変な紙に書かれた判読不明の血文字の手紙だ。
 見せられた者の大半は不気味な物としか思えず、忌避された。
 それでも妖精は挫けず出会う人に手紙を見せ続けた。
 村から村へ。
 町から町へ。
 それは妖精にとって辛い長く旅路だった。
 しかし遂に2度目の奇跡が起こる。
 偶然にもフランス語の読めるリアルブルーからの転移者のハンターと出会ったのだ。
 ケイトの存在を知ったそのハンターはその手紙をハンターオフィスに持ち込んで内容を語って聞かせた。
 そして数十年の孤独に耐えてきた同郷人の心を救うべく、彼女の元へ行ってくれるハンターを募うよう働きかけたのだった。

リプレイ本文

 その日の昼頃、ケイトが住まいで草を編んでいると、妖精が大慌てて飛んできた。
「どうしたの妖精さん?」
 妖精の身振り手振りから、見知らぬ何かが近づいてきてるのだと判読する。
「また歪虚が現れたのね」
 そう判断したケイトは妖精達を集めると、息を潜めた。
 遠くから草をかき分ける音が近づいてくる。
「ホントにこの道で合ってんだろうな?」
 声が聞こえた。
(えっ!? 嘘……)
 俄には信じられなかった。
「何も喋りゃしねえんだから聞いても無駄か」
 また聞こえた。
 間違いない。
 誰かが近くにいる。
(あわわわわっ! ななんて声を掛けたらいいかしら? え~とえ~とえ~と……)
 何の心積もりもしていなかったケイトは焦りまくった。
「あのっ! もしもしっ!」
 ようやく出た言葉はそれだった。
「今声が」
(気づいてくれた!)
 やがてケイトの前に6人の男女が姿を見せた。
(本当に人がいた……やっと会えた……)
 ケイトが感動で胸が詰まらせる。
「あなたがケイトさん?」
「はい、そうです」
 グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が尋ねると、ケイトは少し緊張した様子で答えた。
「あなたの手紙、受け取ったわよ。会えて嬉しいわ」
 アイビス・グラス(ka2477)がケイトの手紙を見せる。
「まさかその手紙を読んで来てくださる人がいるなんて……」
 切った様子のない長い髪、草を編んだらしい衣服、草で出来た粗末なテント、そして動かない足。
 ケイトは本当に手紙通りの人物なのだと一目で分かった。
「あ! やだ私ったらこんなボサボサの髪にこんな服で。お客様が来るって分かってたらもっと身奇麗にしてたのに……」
 ケイトが自身の見窄らしい格好に恥じ入る。
「それに折角のお客様にお茶も出さず……あ、でもここにはお茶なんてないわ……あぁそうそう今朝絞ったジュースが……でもコップが1つしかないわ!」
 それから焦った様子でもてなしの準備を始めた。
「これを使ってよ」
 鞍馬 真(ka5819)は持参した祝福の水筒を手渡した。
 他の者達もコップ代わりになる物を渡す。
「あら、すみません。もうバタバタしちゃってごめんなさいね。私ったら今ちょっと舞い上がってちゃってて」
 ケイトは照れくさそうにしながらジュースを配った。
「いただこう。ここまで歩き通しだったから飲み物はありがたいぜ」
 文月 弥勒(ka0300)が魔道面をズラして器用に飲む。
 程よい酸味と甘味。
 それに川で冷やしてあったのか、意外な事に冷たい。
 素直に美味かった。
「とても美味しいわ。それに新鮮……あなたの肌が綺麗な秘訣ね」
 リシャーナ(ka1655)がお世辞抜きの感想を言って微笑みかける。
「あらそう? うふふ、ありがとう。でもあなたの肌の方が白くて素敵」
 そう受け答えしながらも嬉しそうにケイトが微笑む。
「本当に美味しいジュースです。お礼にこれを。お茶請けにどうぞ」
 保・はじめ(ka5800)が持参したクッキーとプレミアムチョコレートを差し出す。
「まぁ! それお菓子? まぁまぁまぁお菓子なんて何十年ぶりかしら? 嬉しいわ!」
 ケイトは感激の面持ちで受け取り、すぐに食べた。
「ぅ~~~っ!! おいっしいっ!! またお菓子が食べられる日が来るなんて思ってもいなかった。本当にありがとう」
「いえ、そこまで喜んでもらえるとこちらも嬉しいです。もっと持ってくればよかったですね」
「いいえ、これで十分よ。……あ、そういえば自己紹介もまだだったわね。私はケイト・ベルナール。リアルブルーのフランス人よ」
 ハンター達もそれぞれ名乗ると、ケイトはリアルブルー出身者が4人もいる事に驚いた。
「私のように転移している人はたくさんいるのね」
「ケイトさんは何時ここに?」
「さぁ、正確に数えてはいないけれど、おそらく40年は経っていると思うわ」
 グリムバルドの質問にケイトは遠くを見るような目をして答えた。
「40年……」
「……ちゃんと人がいる場所に転移できた私は、幸運だったのだろうな」
「下手すれば私もそうなってたかもしれないのね」
 40年という時の重さと孤独の長さに鞍馬とアイビスは心を痛め、同時に自らの幸運を噛み締めた。
 それでもケイトの周りには妖精がいて、真の意味で孤独ではなかった事は救いに思える。
 保はケイトの境遇に、先祖返りで鬼として生まれたため冷遇された自分自身を視た。
(自分以外の人はいないが、人ならぬ家族がいた彼女。人はいても、家族と呼べる家族などなかった自分。一体、どんな違いがあるのか……?)
 どちらがより孤独か? どちらがより幸せか?
 決して測れるものではないが、そこに大きな差はないように保には思えた。
「40年前って事は、まだ歪虚も確認されてねえ時代だな」
 ケイトは弥勒の言葉に引っかかりを覚えた。
「40年前は確認されてない……。という事は今は? 今リアルブルーは、フランスはどうなってるの?」
「今はリアルブルーでも歪虚が確認されてるわ」
 アイビスはフランスの隣国イギリスではスノードニア国立公園で歪虚の残党殲滅・自然保護の為定期的に転移が行われており、公園の環境変化の調査等も実施されている事を話した。
「あの悪しき者がリアルブルーでも……」
 故国の家族の事を思ったのか、ケイトの表情が曇る。
「そうだケイトさん、指を出して」
 重くなりそうな空気を払拭するようにアイビスは明るい声音で話題を変え、ケイトの指に着火の指輪を嵌めた。
「あら、綺麗な指輪」
「それは火を起こす事ができる魔法の指輪。私の言う通り呪文を唱えてみて」
 言われたとおりにすると指先に小さな火が灯り、驚いたケイトは可愛らしい悲鳴を上げる。
「ここじゃ火熾しも大変だろうと思って持ってきたの。どう、気に入ってくれた?」
「もちろんよ。魔法が使えるなんて凄いわ」
「他にも色々あるわよ」
 アイビスは浄水の木筒、魔導機式術用護身短剣「銀」、バトルスキレット、お酒のシードル、毛布を荷物から取り出した。
「俺も色々持ってきたぞ」
 グリムバルドがペティナイフ、携帯用高級羽ペン、軍用ツールボックス、セーター、魔導ライト、毛布が詰まった巡礼者のかばんを渡す。
「僕からはこれを」
 保はコンバットヘルメットと魔導鋏を渡す。
「あの……えっと、これはいったい?」
 ケイトは唐突に目の前に積み上がったプレゼントの山に目を白黒させる。
「人里離れた山奥での一人暮らしは不便だろうから、皆で手分けして色々持ってきたんだ」
 グリムバルドが代表して答えた。
「俺の携行品も全部やるよ」
 弥勒はナイフ、巡礼者の弁当箱、ティピー、フェアリー・テイル、桃のコンパクト、そしてデリンジャーを渡す。
「リボルバーもやるよ。弾は箱に入れとけば風化を遅らせれるだろう」
「こんな物まで……」
「俺が転移する前に拾った物だ。お守りみたいなもんだと思って持っとけ」
「そんな! 大事な物なんじゃ」
「いいんだ。俺もいい加減、こんなものに縛られるのはやめたいんだ」
 弥勒は自身の過去の一部をケイトに譲り渡した。
「私からは保存食と時計。それともう一つ」
 リシャーナはナッツ、干し肉、魚の干物、懐中時計を渡すと、プレゼントの中から鋏とコンパクトを手に取った。
「ヘアカットして差し上げたいのだけど、いいかしら?」
「え!」
 思ってもいなかった提案にケイトが目を丸くする。
「えぇ、是非お願いしたいわ。ずっと髪を切れなくて困っていたの」
 しかしすぐ丸くしていた目を輝かせた。
「それじゃ、男性の目の届かない所に行きましょうか」
「私が運ぶわ」
 アイビスがケイトを抱き上げ、リシャーナと共に水場に向かう。
 そしてケイトの要望通り髪を肩の上辺りで切り、長さも揃えるとバレッタで止める。
 更に事前に買って持ってきた化粧道具を使ってメイクも施した。
「さあ、鏡を見てみて。とっても綺麗よ」
「あらあらまぁまぁ、うふふふっ」
 ケイトが驚きと共に笑みを浮かべる。
「ホント凄く綺麗になってる。妖精さんが誰か分からなくて驚くかも」
「あなたはこんなに綺麗なんだもの、これから恋をしてみるのはどう?」
「え? いやだわそんなの無理よぉ。私もうおばあちゃんだもの」
「年は関係ないわ。女は生きてる限り女なのよ。それに私なんて80歳よ」
 リシャーナがいたずらっぽくウィンクする。
「またそんな冗談……」
「冗談じゃないわよ。私はエルフなの。だから本当に80歳」
「……え? えぇ!?」
「さ、服も着替えましょ。私とお揃いのワンピースよ。きっと似合うわ」

 そうして身奇麗になったケイトが男性陣の元に戻ってきた。
「お、見違えたな」
「すごく美人になった。いや元から美人だったが更に美人になった」
「30歳は若く見えますよ」
「えぇ、とても綺麗です」
「うふふっ、ありがとう。でも恥ずかしからあまり褒めないで」
 褒めちぎられたケイトが照れくさそうにはにかむ。
 ふとケイトの目が驚きで見開かれた。
「まぁ! 家がっ!?」
「俺達でリフォームしたんだが、どうかな?」
 グリムバルドが得意気に胸を張る。
 単なる雨避けでしかなかった草のテントは布製の丈夫なティピーに変えた。
 ただの焚き火だった場所にはカマドを2つ作った。
 スキレットを使う炒め物用と、コンバットヘルメットを鍋にした煮炊き用である。
 テントの天井部には魔導ライト「おでこぺっかりん☆」を設置。
 立ち上がれないケイトでもロープを手繰る事で楽々手元に引き寄せて充電が可能という配慮に匠の技が光る。
『なんということでしょう』
 というナレーションが入りそうな出来栄えだ。
「どうでしょうかケイトさん?」
「ぅ……うぅ……」
 不意にケイトが大粒の涙をボロボロと零した。
「え! 気に入らなかった?」
「すみません! すぐに元に戻します」 
「ち、違います」
 うろたえだした男性陣をケイトが制する。
「嬉しいんです。とても嬉しいんです。でも、私なんかのためにこれだけの事をしていただいたのに何のお返しも出来ない自分が情けなくて、心苦しくて……」
 ケイトの声が震え、更に涙が溢れる。
「卑下する事などない」
 そんなケイトに弥勒は厳然と告げた。
「足の動かぬ身で歪虚のいる森で40年生き延びる。誰にでもできる事じゃないだろう。今までを孤独に闘い抜いた精神力には敬意すら抱いてる。もっと自分を誇っていい」
「そうだケイトさん」
 鞍馬も優しく諭し始める。
「私達は40年間ずっと艱難辛苦に耐えてきたケイトさんの力になりたくてこうしているだけなんだ。喜んでくれればそれが何よりのお返しになる。そしてこれからは幸せだけが訪れて欲しい。そう願っているんだ」
 その言葉と共にミュゲのドレスを贈った。
 『幸せが訪れますように』という祈りと想いを込めて。
「ぅ……ぁ……」
 ケイトは『ありがとう』と言いたかったが言えなかった。
 嬉しさのあまり溢れた涙で嗚咽しか漏れなかったからだ。
 しかし言葉はいらなかった。
 誰もがケイトの涙は歓喜の涙だと分かっていたから。

 やがてケイトの気が落ち着くと、今度はこの世界の事を尋ねてきた。
「気候風土はあまりリアルブルーとは変わらないそうですよ。ただ生態系はかなり違うそうです」
 保はそう前置きして自身で撮った生物の写真を見せ始める。
 イェジド、リーリー、ユキウサギといった幻獣。
 コボルドといった野生生物。
 様々な写真があるが、ネコ科動物やユグディラが妙に多い。
 保の嗜好の現れだろう。
「南方には人に友好的なコボルドと人に敵意を持つ竜達がいたよ」
 グルムバルドが地面に地図を書きながら自身の体験談を話した。
「ここは本当に御伽噺の世界なのねぇ……」
 世界の違いを見聞きしたケイトが感心する。
「それにしてもどの写真も上手く撮れてるわ。保さんは動物写真家なのかしら?」
「いえ、本職は符術師です」
 訂正しつつも写真を褒められて嬉しい保だった。
「符術師?」
「実演しましょうか」
 保は『瑞鳥符』で光る鳥を呼び出した。
「わっ! これも魔法なのかしら?」
「その一種ですね」
「俺のも見せよう」
 弥勒も幾つかスキルを使って見せ、覚醒の仕組みや使い方を指南した。
「ねぇ、話してばかりで喉も乾いたし、シードル飲まない? フランスではよく飲むのよねケイトさん?」
 アイビスがシードルの瓶を手にして尋ねる。
「えぇ、懐かしいわ」
 シードルを空けてコップに注ぐと、匂いに釣られたのか妖精達と寄ってきた。
「飲みたいの?」
「妖精さん甘い果汁が好きなのよ。よければこの子達にも飲ませてあげて」
「そうだね。あなた達が頑張ってくれたお陰でケイトさんとの縁を繋いでくれた訳だし、ありがとうね」
 アイビスが妖精達の分を別の器に注いであげると、たちまち群がって飲み干してしまった。
 そして『もうないの?』『もっとちょうだい』という目で見てくる。
「……あげてもいいかな?」
 イノセントな瞳の催促に抗えなかったアイビスがケイトに尋ねる。
「どうぞ」
 結局シードルはほとんど妖精に飲まれてしまった。
 酔って赤ら顔になった妖精達は『甘い』『美味い』『優しい』『ありがとう』『好き』というオーラを出しながらアイビスにくっついてくる。
「好いてくれるのは嬉しけど、これじゃ動けないわ……」
 頭や背中で寝ている子までいたため、アイビスは身動きできなくなってしまった。
「あら? そういえば異世界なのに言葉が通じてるわ。どうしてかしら?」
「それは精霊が言葉を通じるようにしてくれてるからだよ」
 ケイトの疑問に鞍馬が答える。
「そうだったの。精霊さんって便利なのねぇ~」
「あと元の世界……リアルブルーからは結構な人数がこっちに転移してきていて、最近限定的とはいえ向こうに戻る手段もできたんだよ」
「え! 帰れるんですか?」
「そうよ。帰る事もできるし、これからも人と接していきたいのなら妖精達と共に引っ越す事だってできると思う。草で服を編める器用さがあるなら織物で生計を立てられるでしょうし」
 リシャーナはケイトにも様々な未来がある事を示したのだった。

 楽しい時間もいずれは終わり、別れの時は訪れる。
「今日は本当にありがとう。この事は一生の思い出よ」
「今生の別れのような事言わないで。手紙の届く所だと文通も出来るし、また会いにも来るわ」
 リシャーナが別れのハグをする。
「うん。ありがとう」
 ケイトも抱きしめ返した。
「手紙にはこれを活用して下さい」
 保が人里との連絡の円滑化のため、想定される要件の文例集をケイトに渡す。
 その時。
『覚醒者よ。お前たちは更なる力を望むか?』
 ハンター達は意味だけが脳に送り込まれたような『声』を聞いた。
「今のはいったい……」
「この地の精霊さんよ。あなた達ならその力をきっと役立てられると思うわ」
 6人はそれぞれの理由から精霊の力を望み『イクシード・プライム』を授かったのだった。

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重体一覧

参加者一覧

  • 壁掛けの狐面
    文月 弥勒(ka0300
    人間(蒼)|16才|男性|闘狩人
  • 慈眼の女神
    リシャーナ(ka1655
    エルフ|19才|女性|魔術師
  • 戦いを選ぶ閃緑
    アイビス・グラス(ka2477
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 友と、龍と、翔る
    グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
    人間(蒼)|24才|男性|機導師
  • ユグディラの準王者の従者
    保・はじめ(ka5800
    鬼|23才|男性|符術師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人

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グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
人間(リアルブルー)|24才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/05/21 09:41:01
アイコン 手土産リスト(使用自由)
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
人間(リアルブルー)|24才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/05/23 16:41:23
アイコン 相談卓
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
人間(リアルブルー)|24才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/05/23 17:27:12
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/05/20 23:41:17