• 血盟

【血盟】知追う者、橋がない理由探る

マスター:狐野径

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/06/05 22:00
完成日
2017/06/11 18:02

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●再びライブラリにやってきた問題の人
 ライブラリを見たい、と大江 紅葉(kz0163)が来た瞬間、職員の頬の神経がピクリと動いた。
 今回もやはりきらきらと輝くオーラとともにやってきている。
「ここに、大江様禁止って貼りますかね?」
「うっ、も、申し訳ありません」
 紅葉はばっと後ろに飛びのくと、土下座した。
「……うわあああ、やめてください、それは、それだけは!!」
 職員のほうが慌てた。周囲の職員やハンターたちの目が痛い。思わず野次馬したくなる光景になってしまう、土下座というものは。
「許してください」
「脅迫ですよその動作!」
 びしっと指摘され、紅葉は立ち上がる。
 周囲の視線もどうやら解決したらしいと去っていく。
「そうですね……すみません」
「まったく……今回は前回みたいなことはないですね」
「ありません!」
 きっぱりと言った。
「分かりました……で、その荷物なんです?」
「ライブラリは精霊も絡んでいるとか? であれば、現地でいろいろ観察できるのかと思いました」
 キャンプ道具と水辺の調査に必要そうなシュノーケル付ゴーグルなど。
「何時を見てきたいのですか?」
「里に何もなかったころ」
「……万能じゃないってわかってますよね?」
「一応調べてくださいよ」
「はいはい……里ができてからですよ、あっても……って、あれ? この年号でその近辺の記録ありますね」
 職員は驚いた。
 たまたまパルムがいたにしても、好奇心旺盛なパルムたちの興味を引くことだったのかという問題だ。
「行ってみます、行ってみます」
 わっくわっくとしている紅葉はすでに自らの手でハンターの手配もしていた。
 職員の目から見てピクニック気分だと思われる。
「だって、当時なら、そんなに妖怪いないはずですよ? じっくり島の観察ができます。同じ形か分かりませんけどね」
 自然のものはじわじわと自然に変化する。その上、人の手が加えられるとまた大きく変わる。
 紅葉が選んだ時代は妖怪がいたとしても大したことがないか問題か極端な状況。まだ、人間の手にあったころなのだから。

●一首詠めそうな風光明媚なところ
 現地について一言いえば、ありのままの自然がそこにあった。
 海岸線沿いには砂浜があり、少しして草木が生える、自然豊かな海岸線の風景。その草木が生えたあたりの松林にいる。
「あ、あれええ?」
 陸地に関して紅葉の記憶は荒地。島も現在についてははげ山、住んでいたころはまだ緑はあった。
「ええええ」
 双眼鏡を手に見渡す。
「とりあえず、れっつらごーです」
 どこで覚えてくるのか変な言葉でハンターを激励する。林を抜け砂浜に出る。
 そうすると「大江が住んでいた里」のある島が見えた。誰か住んでいる様子はないようだ。
「緑の小山ですね……渡れるのでしょうか……え? 橋があります」
 現在であれば日中に潮が引いて作られる砂地の当たりに立派な橋があるのだ。長い橋であり、手すりもきちんとあって危なくない橋だ。
「……昔はあったということですね」
 なら、現代の里にも橋を建築するということを念頭に入れていいこととなる。
「その割には、ずーとありませんでした」
 紅葉の記憶にも、それより長生きしている家臣も橋の記憶はない。
 ひとまず渡ってみることになり、一行は橋の入り口に移動する。

 何か大きなものが島のほうで飛んだようだったし、海の中を巨大な影がよぎったような気がした。
 はっきりわからないが、ハンターは心に留める。

 陸地側……現在でいえば天ノ都がある方向から人が来ているのが見えた。ハンターは紅葉を止め、かばうように立つ。
「おや、こんなところに珍しい。どこの国の方かな?」
 妙に明るい声、青年が現れた。肩にはパルムを載せている。
(こ、この人が記録を残した人?)
 ハンターの陰で紅葉は唐突の出会いに慌てる。何も言い訳を用意していなかった。
「えと、探検です! この辺りに変わった地形の島があると聞いてきました」
「変わった? まあ、そこの島は行けそうでいけない島だが、最近橋はできた」
「そそそうみたいですね!」
 男は「そんなことも知らないのか」という顔になるが、鷹揚に構えると、教えてくれる。
「俺は、政府に言ってきた。俺があの近辺に居座る妖怪を倒して、島は俺のものにすると!」
「へええ、すごいですね」
 紅葉は目をぱちくりさせる。
「まあ、今日は下見だからなぁ……どんな妖怪かわかりもしないで、突撃をかけるは愚の骨頂」
「どんな妖怪かわかっていないのですか?」
 紅葉が興味をそそられて問う。
「テングともう一つは女の姿で蛇とか言われている」
「テングでもいろいろありますよね……あ、狐の妖怪かもしれないです!」
「ん? あんた、結構……」
 男は何か言おうとして口をつぐんだ。探るような視線が一行に注がれる。
「どこの国の者だ?」
「都のほうから来ました」
 下手なことを言えない。
 時代区分が曖昧で、エトファリカ連邦国前なのか後なのかわからない。濁して会話することを紅葉は選んだ。
「ふーん」
 疑いの眼なのは間違いない。
「変わった服装だよな? 西があるとは聞かない。転移者か、実は知らない西とのルート、違う世界があるのか?」
「ないですよー」
 紅葉、すごく棒読み。いや、転移者で通せばよかったのではとハンターはツッコミを入れたかったが入れるタイミングではなかった。
「……そうか。まあ、悪人ではなさそうだ。それより、俺は……君が気になる」
 青年は、ひとりに視線を注ぐ。
「妖怪退治の後、付き合ってくれないかな?」
「はい?」
「そして、妖怪を倒して、あの島への居住権を得た俺と、結婚してほしい」
「……」
 紅葉はおろおろする。
「俺の名は大江 匡平。今、仕える殿には『文武の誉』と言われているぞ!」
 この瞬間、紅葉は目を見開いた。
(ご先祖様ですううう。島に居を構えた人です)
 来た時代は間違っていないが、ややこしい状況だということは間違いなかった。

リプレイ本文

●求婚、拒否
 大江 匡平に興味を持たれた柊 春菜(ka6507)は丁重に断固拒否をした。
「申し訳ございません。今会ったばかりの方とお付き合いさせていただく、というわけにもいきませんので、お断りさせていただきます」
「ということは、この後、お知り合いになれば良いのだな!」
 にこりと匡平が告げる。
 ディヤー・A・バトロス(ka5743)は匡平を曇りなく、キラキラした目で見上げる。
「おっちゃん! いや、匡平殿! 一島のあるじとなり一族を興隆する夢、助力は惜しまぬぞ!」
「おっちゃんはやめろ!」
 即訂正要求が出た。
 守原 有希弥(ka0562)は女性めいた外見を気にしていたが、匡平の視線が過ぎてほっと胸をなでおろす。そのまま考えることに集中した。
(この橋が長期にわたり作られない……状況は不明。ライブラリを使いたくもなるわけです……)
 架かっている橋は立派だ。それは他の仲間も感じているようだ。
 雪継・白亜(ka5403)は現在の風景も知っているため、不思議な気持ちでいっぱいになっている。
「それにしても……なんで橋が先にあるんだ? 人があと?」
 人がいるから移動のために作るほうが自然な成り行きのように感じたのだった。
 サクヤ・フレイヤ(ka5356)は状況を見て、橋の下や島の方に何かあるのか確認したいと考える。
「そうだね、よくわからない状況だね。調査を進めるにも障害となる妖怪は退治しないといけないね」
 龍崎・カズマ(ka0178)は内心「くだらない理由だったりするかも」と考えつつ、橋に突撃かけそうな大江 紅葉(kz0163)のリュックをつかむ。
「依頼主、いきなり突撃するのはやめてくれ」
 匡平が紅葉に興味を持ってくれるほうが楽だったのかもしれないと思った。

●さあ、戦闘の時間だ
 有希弥は匡平に状況を問う。
「島の保有の約定を結んだ貴君の意見をまずうかがうべきだとうちは思うのです」
「その状況確認に俺も来たわけだが、一応は知っている。橋にいる奴、島に住む奴……このまま放置して妖怪の足掛かりにされても困る」
 防衛もかねて住むつもりと匡平は続ける。
「そもそも、なぜ、あのような橋を架けた? 住んでからでいいのではないか? 非常に立派であるし、いつ、だれが、何のために?」
 白亜が疑問を投げかける。手の込んだ橋というのが引っかかる。
「嬢ちゃん……複雑に考えなくてかまわないぞ? 開いている土地がある、なら住もう。住むつもりだし先に橋架けよう……その結果が今」
 匡平は溜息をもらす。
「なぜ妖怪がそこにいるのかだよね」
「まずは近づいてみないといけませんね」
 サクヤと春菜は戦闘準備をする。イソオンナの姿は見ないが用心は始めて遅いことはない。
「橋を通ると来るなら……俺が通ってみて確認してみていいか? テングの行動も絡んでいるんだろう?」
 カズマの問いかけに匡平がうなずきかけ、はっとした。
「まあ、いいが……かっこいいところを見せるつもりか」
 匡平は春菜を見る。
「違う」
 カズマは間髪入れず否定し、紅葉を見る。いいのか、これが先祖でというような視線。
「……蚊帳の外ですのでご安心ください」
 紅葉はよくわからないことをつぶやいてカードバインダーを取り出しぶんぶん振り始める。
「いや、なぜ、カードバインダーでたたく気満々なんだ」
「結構このカードバインダーは痛いんですよ」
 確かにカードバインダーの角がとがっているがため、事実を彼女が述べているだけに過ぎないのは理解できる。
「それがあれば符が切れても何かできるということですね」
 春菜は純粋に駆け出し符術師として言ったのを、カズマが首を横に振った。間違っていないが、符術師が前に出ている時点でいろいろい危険な状況なようであるが。
 だんだんカズマはよくわからない疲労がたまってくる気がするが気を取り直す。
「さて、戦闘になった場合、匡平はテング、紅葉はイソオンナの相手を頼むぞ」
「はて? 俺は近接が得意なのだがな」
 カズマがいうと、匡平は腰に下げている刀に触れる。
「いや、まあ……出会ったばかりの女性に求婚申し込んでいるのを初対面なうちらからすれば、ナンパ男に見えるため用心したくなるのです」
 有希弥がずばりと丁寧に告げた。
「……? 俺がナンパ? ククク……いや、面白いな。まあ、そうだな」
 意外だったらしく匡平は盛大に笑った後、真顔になる。
「さて、春菜殿の心をひくために、頑張らねばならぬな」
 春菜はあきらめられていないと改めて知ることとなった。
「匡平殿がやる気を見せる! ワシはせっかく持ち込んだウキワと水着のためにも……ねーちゃんの荷物見て決めたんだ」
「……え? これは、水の中見る為ですよ! それと長丁場だったら困るので!」
 ディヤーの視線から自分だと気づき、紅葉は慌てて説明をした。

 橋の上をカズマは歩く。武器は見せず一般人装い通る。
 つられて出てくるのか否か。
 そもそも、どちらが来るのだろうか? イソオンナだろうが、空から見つけたと来るのだろうか。

 橋の入り口で待機するハンターたち。
「必要なら【ウォーターウォーク】かけるぞ」
 ディヤーが告げると匡平が「落ちたときあると便利だな」と答える。
「まずは【結界術】ですね」
「ふむ、春菜殿のへの思いがあれば、抵抗は簡単であろう」
 匡平がさわやかに言ってのける。
 白亜は気づいた、隣にいる紅葉が小刻みに震えていることに。
「紅葉殿」
「……白亜さん、これ、さぶいぼです」
 手首を見せる紅葉の背を白亜はぽむぽむとたたいた。
(ナンパ男と断じるには、実際は非常にいろいろ見て判断していますね……まず、うちのこと)
 有希弥は見方を変えていた。匡平は軽口をたたいているが、視線は鋭くカズマが行く先を見ているし、何かあれば動けるようになっている。
「テングが来ると結構迷惑だけど……あ、あれは」
 サクヤが指さす。海の中に長い影ができたのだった。

 ――のうのう、妾の可愛い子は知らぬかえ?

 カズマに声とともに水滴が大量に落ちてくる。
 進行方向をふさぐように濡れた女の上半身がある。橋の上に足はなく、上半身の続きは海の中に向かう。
 一瞬、目が合ったようだった。頭がくらりとしたが、カズマは抵抗する。
「そんなの効かねぇな」
 背後から来る仲間のためにすり抜けられるうちに抜け、テングの動向を意識する。

 白亜は山が見える、狙いやすいところに移動しつつ、イソオンナを狙う。
「水の中なら銃を替えるが、様子を見てこのままで良かろう」
 距離も考えるとライフルの方が良い。イソオンナは外に出ているのだ。
 銃声の直後、匡平が鯉口を切り走り出す。
「まあ、どっちにせよ、俺は向かうわけだ」
「あっ! 【結界術】使った方がいいですよね」
 春菜は追いかける、全力で。
「……これはなし崩しと言いますね」
 有希弥は冷や汗を感じる。イソオンナとは距離を置きたいところである。
「巻き込むものがいぬうちに、【ファイアーボール】」
 ディヤーは少し移動後、魔法を放った。炎はイソオンナを巻き込み炸裂した。
「接するには距離が微妙よね」
 サクヤは相手の出方をうかがいつつ次動けば攻撃できる位置まで行った。

 イソオンナはディヤーをにらむ。そのあとにたりと笑いながら、尻尾を動かした。水の弾が浮かび、ディヤーに突き進む。
「そのくらい避けよう!」
 ひらりと避ける。

「山の上に影があるぞ!」
 白亜が注意を促し、イソオンナに攻撃をする。影は距離からすると、まだ時間はある。指をくわえて見ている必要もない。
「ああ、分かった」
 カズマはちらりと確認後、流星錘でイソオンナを攻撃した。そのまま離れ、島の方に近づく。
「さて、様子見のはずが、こう運よく進むならやらねばならぬ」
 匡平はひらりと舞うように鋭く斬りつける。
「範囲から出ないでほしいです」
 符を構えると春菜が【結界術】を使った。
「精神に来る魔法が困りますからね……弓で行きます」
 有希弥はイソオンナの足元を狙う。うまい具合に上がられて、巻き付かれるのを警戒した。
「其は紙にあらず陽たる光、蝶舞うがごとし」
 紅葉は符を放つがよけられた。
 サクヤはウィップを手にイソオンナの脇をすり抜ける。
「テングも来るなら位置は重要だね。隙を見て拘束を狙えれば」
 カズマがいるほうに位置をとった。

 ハンターが勢いに乗り、イソオンナを撃破した。
 休む間はない、空から攻撃を受ける。テングが扇を振うと、突風が吹き、鋭い刃となって飛ぶ。
 匡平は軽々避けた後、さりげなく春菜にアピールのウインク。
「……く、紅葉殿」
「寒いです」
「なぜ好かれているのかわかりません」
 白亜が紅葉をなだめ、春菜が途方に暮れる。

 テングは羽ばたきながらハンターを見下ろす。
「去れ、ここは我が土地ぞ!」
 相手は人語を解するとはいえ、交渉できる相手ではない。
「引きずり降ろさないとならないわけか」
 カズマは頭上を見て、流星錘で攻撃を仕掛ける。
「ふむ、先住権は一理あるとはいえ、歪虚に渡す土地はない」
 白亜はカービンを構え確実に狙う。
「おっちゃんの夢のために」
 ディヤーがファイアーボールを打ち上げる。
「符よ、燃えよ【火炎符】」
「【胡蝶符】」
 春菜と紅葉から符を使った攻撃が飛ぶ。
 攻撃の連続でテングは避けつつ高度が下がってくる。
「島にいれば人が来ますし、歪虚にとって食料が来るのと同じですか」
 近接には向かない距離であるため有希弥は弓を放つ。歪虚が住み着いた理由、人間との距離感が力をつけるにはちょうどよかったのだろう。
「近づいて攻撃するだけが攻撃じゃないものね」
 スローインカードを持ったサクヤは距離を測る。
 これがとどめとなり、テングは近づく間もなく霧散して消えた。

●上陸
 カズマは他に敵がいない保証もないと、先に橋を渡り切り島の入り口に立つ。
 その間に仲間たちは橋の周囲を見て回る。
 紅葉は橋から海を眺め、そのまま島まで渡る。
 橋や土台に変わったことはないと有希弥は考える。
 試しに春菜とともに魔導短伝話を使ってマテリアルの不安定さを調べた。普段通り使える。
「問題がないというのは、困まりますよね」
 有希弥が首をかしげる。
「橋があるとイソオンナが復活するとか、また新しいイソオンナが来るとか……?」
 春菜は推論する。橋の下は若干浅いようだ、砂の動きが見える。
「妖怪の復活というのは聞かんな。そもそも、新しいのが来るのはありうる。ここだけ水深は浅いからな」
 匡平が同意した。
「確かに……里……候補地を見てみよう」
 白亜はここに日中砂地が現れるほど砂がたまると思うと感慨深いと眺めていた。
 サクヤはディヤーに【ウォーターウォーク】をかけてもらって橋と陸をつなぐ部分を見る。
「おねーさん、何かあるか?」
「うーん、ない。普通。橋の付け根。崩れているということもないけど……」
 サクヤは確認後、首をかしげる。
 島には妖怪が住んでいたということもあり、何か起こる可能性もあるため用心は引き続きいるだろう。
 紅葉はとことこ歩く。獣道を少し立派にしたような道しかない。
「……これはっ! 本格的にまっさらな土地です」
 紅葉はうめく、必要な荷物は山登り道具だったのだ。
 白亜は植物を見てつぶさに手を動かす。スケッチブックにそれらを記載する。
「おねーさん、この状況から今の状況になる理由は分かっているのか? 地脈が枯れたとか、土地に住まう精霊が離れたとして?」
 ディヤーは匡平から離れたところで紅葉に問う。
「歪虚に乗っ取られてましたから。普通に汚染されて自然に治るの待っている状態ですね。私がやれば終わるんですけれど」
 春菜が登ってきた。匡平がいないことを確認後口を開く。
「儀式ですか?」
 紅葉はうなずいた。
「さっさとやればよかったんじゃないのか?」
「……ぐっ」
 カズマの指摘に紅葉は目を泳がせた。
 別ルートを見てきた有希弥とサクヤがやってきた。
「この辺が枯れているのは、テングがいたからですね」
「見晴らしいいーとは言えない鬱蒼さだね」
 登ってこられたのは一応道があるからであるが、木々は見事に茂っている。
「おおい、お嬢さんたち、野生動物にも気をつけないとまずいからな」
 匡平の声が聞こえた。
「おっちゃーん、親切に」
「だからー」
 ディヤーが答えた後、律儀に訂正を申し入れる声がした。

●橋ができない理由
 紅葉は山を一周後、目をぱちくりさせる。特に異変を感じることはない。
「本来の歴史の情報が得られなくなるかもしれないから、俺はとやかく言わないが」
 カズマは紅葉に訥々言う。
「架けない理由がさっぱりわかりません」
「それは思う」
 カズマはうなずく。
 あちこちでスケッチした白亜に紅葉が「消えちゃいますよ?」と静かに告げる。
「ここはあくまで体験です。現実に近いけど夢です。だから、すべて元に戻る……今のところ」
「だから、心の目で覚えるしかないのか」
「そういうことです。でも、あなたは描くことで、ここの植物のことは見ました」
「……それはそうだが」
 記憶が消えるわけではない。
「この植物は咲くのか?」
「歪虚の影響がなくなれば……」
 紅葉は微笑む。
「よし、決めたぞ!」
 やや壊れた橋を渡りながら匡平が言う。
「干潮による道はできるのはまだまだ時間はかかりそうだが、橋がなければ妖怪はそうそう来ない」
「……作らないというのですか?」
「そうだ。春菜殿、素晴らしい見立てだ!」
 春菜は恐る恐る紅葉を見上げる。理由は分かったが、意外と思い付きではないかと。
 紅葉は乾いた笑いを漏らしている。
「余った時間で遊んでいいか!」
「おお、わっぱ、遊んでかまわぬ」
「おっちゃん、わかる!」
「だから!」
 ディヤーに言われて苦笑しつ匡平が応じる。
 様子を見るサクヤは終わってみればあっさりする内容に拍子抜けする。
「大江家、初代の言ったことを守っていたのね」
 有希弥は匡平の行動を見てうなずく。
「橋があれば便利。一方で妖怪も行き来可能……テングについては飛行で来られたら終わりですけど」
 外敵は減るのは間違いない。
「あとは紅葉さんがどうするかなのよね、現実に」
「そういうことになるんですね」
 二人の視界で匡平はディヤーと水遊びをし、春菜に何かアピールしている。
 紅葉は海辺で海水をつついている、楽しいのかわからないが。
「平和ですね」
「本当、そうだね」
 静かに残りの時を過ごしたのだった。

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MVP一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマka0178
  • 冒険者
    雪継・白亜ka5403

重体一覧

参加者一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 渾身一撃
    守原 有希弥(ka0562
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • 先輩疾影士
    サクヤ・フレイヤ(ka5356
    人間(紅)|20才|女性|疾影士
  • 冒険者
    雪継・白亜(ka5403
    人間(紅)|14才|女性|猟撃士
  • 鉄壁の機兵操者
    ディヤー・A・バトロス(ka5743
    人間(紅)|11才|男性|魔術師

  • 柊 春菜(ka6507
    人間(紅)|18才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/06/01 17:16:06
アイコン 相談卓
柊 春菜(ka6507
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2017/06/05 21:45:35