• 陶曲

【陶曲】彩光の襲撃

マスター:真柄葉

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~3人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/06/14 09:00
完成日
2017/06/23 01:54

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●ポルトワール
 港町ポルトワールの朝は早い。陽が東の山裾から顔を出すと時を同じくして、居住区の煙突からは次々と煙が吐き出される。
「ふあぁ……いってくらぁ」
「しっかり稼いでくるんだよ!」
 筋肉の隆起した腕で眠い目を擦り、恰幅のいい嫁さんに送り出されるのもいつもの景色。
 港町ははいつもと変わらない平穏な夜明けが訪れる――はずだった。
「な、なんだこりゃぁ!!」
 まだ人もまばらな大通り。先ほどの男が夜明けの鶏よりも大きな声で叫ぶ。

 カシャン、カシャン――。

 愕然と立ち尽くす男の目の前を、一糸乱れぬ足音が通り過ぎる。
 朝日の光を浴び、体を七色に輝かせる兵団が街を闊歩していた。
「ヴォ、歪虚だぁぁ!!!」
 再びの大絶叫に、街はいつもより少し早い朝を迎えた。


 この報はすぐに軍司令部へ伝えられた。
「西の居住区画に歪虚が出ただと!? 一体どこから現れたんだ! 見張りは何をやっていた!!」
 同盟海軍少将モデスト・サンテ(kz0101)は、大きな体を揺らし報告に来た伝令を叱責する。
「少将、この者の責ではありません。お気を静めてください」
 白熊の異名をとる偉丈夫からの𠮟責に縮み上がる伝令を、参謀の男が背に隠した。
「くそっ! それで被害は! 歪虚はどんだけ殺った!」
 ついた悪態は伝令へのものか、それとも自責か。モデストはまくし立てるように唾を飛ばす。
「――報告では現れた全身ガラスの歪虚兵団が、西の居住区画を襲撃しました。しかし、今の所人的被害は0との事です」
「0……だと? 一体どういうことだ」
 歪虚とは命の仇敵。歪虚にとって餌とも等しい人の命が捨て置かれている。モデストは不信をもって問いかけた。
「ガラスの兵団は確認できているだけで100を超えます」
 上官からの視線にひるむことなく、参謀は手渡された報告書をゆっくりと読み上げる。
「中でも5mを超す巨大なガラス人形――仮に硝巨兵と呼称しましょうか。それが3体確認されています」
「名前なんてどうでもいい。……くそっ、大型まで居やがるのか……だが、そもそも、そんな大きさの歪虚の進入をなぜ気付けない」
 ようやく冷静さを取り戻したのか、モデストは冷めた珈琲で喉を潤し、参謀に問いかけた。
「早朝に姿が確認されておりますので、侵入は深夜でしょう。そして、報告によれば歪虚達の姿は王宮で使用されるような見事なガラス――透明であったとあります」
「透明……透けて見えなかったということか?」
「不幸にも昨夜は曇天。風が強く吹いていました」
「……闇夜に紛れ、風音に足音を消した、ってわけか」
 大きな都市といっても、それはクリムゾンウェストレベルでの話。
 リアルブルーの様に、煌々とした明かりが街を照らしているわけではない。
「御明察恐れ入ります」
「くそっ、歪虚どもめ! この間の陶器人形といい、今回のガラス人形といい、ポルトワールで人形劇なんかしてんじゃねぇぞ!」
 振り上げた腕を机にたたきつけたモデストは、伝令所へと通じるトランシーバーを手に取った。
「各兵士詰所へ伝令! 尉官以上の者は部下を率い西居住区へ向かい歪虚に当たれ! いいな、人命最優先だ! 西の居住区画の住民の避難を優先させろよ!」
 飛唾など気にもせず、トランシーバーに怒鳴り散らしたモデストは、机脇に掛けてあった軍服を乱暴に手に取ると。
「俺も出る! 着いて来い!」
 こくりと無言で首肯した参謀を連れ、執務室を後にした。

●居住区画
 大型の馬車が2台は並んで通れるほどの門は、隙間なく整列したガラス人形により封鎖されていた。
「くぅ、なんて硬さだ……!」
 突き立てた槍は歪虚に微かな傷を残すだけで弾かれる。
「銃も効かないのか!」
 一斉射による銃撃も、僅かな傷跡を残すだけ。
「一体どうすればいいんだ……」
 透明なガラス人形の体を通し、街中で怯える住民達の顔がよく見える。
 先行して駆けつけた兵士たちは、効果の見えない攻撃と助けを求める市民との板挟みに困惑していた。
「状況を報告しろ。簡潔にだ!」
 そこへモデストが巨体を揺らし駆け付けた。
「はっ!」
 責任感からの解放か、場を仕切る中尉は安堵の表情と共に報告を始める。
「……」
「――なるほど、では打撃の方はどうでしょう?」
 黙して報告を聞くモデスト。対照的に細かく質問を挟む参謀。
 中尉は緊張からか何度も詰まりながらも、事細かに報告した。
「わかりました。引き続き歪虚の壁を突破する手段を探ります。攻撃の手は休めず、多様な手段を試してください」
 報告を終えた中尉に、参謀は次なる指示を伝える。
「……船から大砲を下ろして来い」
「少将、それでは街にまで被害が……」
「縄梯子もだ! 船から引っぺがして来い!」
「……承知しました。すぐに工作兵を招集してください」
 それ以上何も言わず承諾した参謀は、すぐに控えていた伝令に命を下した。その時。
「しょ、少将! 報告します!」
 息を切らした一人の伝令兵がモデストの前で敬礼する。
「聞こう」
「はっ! 歪虚の先、大通りの奥をご覧ください!」
「なに? ……む、あれは」
 何処か声の弾む伝令兵の指に釣られるように、モデストは通りの先に視線を送る。
 多少歪んで見えるが、歪虚越しに見える大通りの先、報告であった巨大なガラスの巨兵がいるであろう広場で何やら動く者が見えた。
「ハンター……なのか?」
 ガラスでできた歪虚兵が視界に先にある為、裸眼による確認しかできないが、確かに一般人の動きではない者が、広場で戦闘を繰り広げているように見えた。
「幸いというべきか、不幸というべきか。どうやら、区画内に残されたハンターが居たようですね」
「そのハンター達が交戦しているというのか?」
「私にはそのように見えます」
「……ならば我々ものんびりしているわけにはいかんな」
 そう呟いたモデストは、大きく胸を膨らませると――。
「聞け同胞達よ! 今、ハンター達が区画の中で孤軍奮闘している!」
 モデストの大声にざわつく兵士達。
「先の戦いでも、ハンター達には多大な恩義がある。その恩義に報いる前に更なる恩義を受けるわけにはいかん! 何としてでも、歪虚の壁を突破するぞ! いまこそ同盟海軍の意地を見せてやれ!!」
「「「おおぉぉーー!!」」」
 モデストの号令に兵士達は鬨の声を上げた。

●襲撃より遡る事数時間前――
 ポルトワールを一望できる小高い丘の上。
『さぁて、今回の演出は気に言って頂けるでしょうかねぇ』
 クラーレ・クラーラ(kz0225)は口元を醜く歪ませる。
『さぁ、光の勇者の皆さん。今回も華々しい活躍を期待いたしますよぉ』
 誰にも届くことのない声は、春の狂風に吹き消された――。

リプレイ本文

●広場
 東の稜線から朝日が昇り、広場に差す影も随分と短くなってきた。
「はぁぁ! これでお終いよ!!」
 八原 篝(ka3104)の振り下ろした超重刀の一撃が大地を揺らす。
 パキンっと小気味のいい音を響かせて真っ赤な球体が割れると同時に、巨大なガラスの虚像は破片を派手にまき散らせながら爆ぜた。
「予想通り! 紅いのが核よ! 皆、核を狙って!」
 篝は地面にめり込んだ超重刀を引き抜きながら、朝日に佇む残りの虚像を睨み付ける。
「残り二体、集中して倒してもいいが、住民へ矛先が向く可能性があるのが厄介だな」
 篝と背を合わせるカイ(ka3770)が武器を構えつつ囁いた。
「――みんな聞いてくれ! 倒した一体である程度の実力は解った! 奴らの実力を鑑みても、一体3人でさばけると思う! 連携し、分担して敵に当たろう!」
 偶然この広場に居合わせたハンターの数は6人。カイは個々に戦いを繰り広げるハンター達に声をかけた。
「……残り二体か。バラバラに戦って悪戯に被害を出すわけにはいかない、か。わかったよ。僕は指示に従う」
 高機動を武器に硝巨兵の一体を翻弄していた樹導 鈴蘭(ka2851)がカイの呼びかけに答える。
「え!? 一体倒したからおっさんはお役御免じゃないの!? おっさん、もうアルコールがエンプティなんですけどぉ」
 爆散した一体を肴に、仕事後の一服に勤しんでいた鵤(ka3319)が、悲壮な表情を浮かべた。
「リリス、どうしたらいい?」
「……そうね。相手は歪虚。このまま放っておけば住民に被害が出るわ。そして、それを阻めるのはハンターしかいない」
 ウェグロディ(ka5723)の額に自らのそれを当て、アマリリス(ka5726)が囁いた。
「誰かがやらないといけない……わかった。僕がやる」
「これは依頼でもなんでもないわ。それでもやるというの?」
「このままじゃ、リリスに危害が及ぶから」
「ふふ、嬉しいこと言ってくれて」
 息もかかる距離で聞こえる頼もしい言葉に、アマリリスは優し気な笑みを浮かべると。
「――貴方が怪我でもしたら大変。だから、これはお守り」
 ウェグロディの胸元にそっと手を当てた。
「あまり子供扱いしないで。僕一人だって、リリスを守れるから」
「ふふ、そうね。貴方は強い子だものね」
 囁きと共にほほ笑んだアマリリスは、すっと額を離した。
「私にかっこいい姿を見せてね、ロディ」


「はいはい、そこ出ないー。怪我したくなかったら、そこで大人しく見といてよぉ」
 滅多に見られないハンターと歪虚の生のバトルに、住民達の中には興奮し身を乗り出す者がいる。
 熱に浮かされた住民達に、鵤は根気よく声をかけて回るも、数が数だけにきりがない。
「お、あれは――あー、君君」
 と、鵤は偶然見つけたハンターらしき少年――ウェグロディに歩み寄ると。
「何か用かな? 僕は『護る』ので忙しいんだけれど」
「ん、ああ? まぁ、忙しいとこ悪いね。ちょっと、そのお腰に下げる奴で一発かましてくんね?」
 ウェグロディの腰に下がった拡声器を指さした。
「なるほど、そうね。確かにそれならみんなに聞こえるわ。ロディ、やってくれる?」
「リリスがそう言うなら、わかったよ」
 アマリリスのお願いにウェグロディは小さく頷くと、拡声器を手に取る。
『住民の皆さん! 歪虚の襲撃は僕達ハンターが対処します。皆さんはできる限り一か所に集まり、互いの身を守ってください! 落ち着いて行動を。歪虚は僕達が必ず倒します!』
 住民達の集まった広場にウェグロディの凛とした声が響いた。
 最初は何の事だと互いに顔を見合わせていた住民達も、ウェグロディの声に表情を引き締め指示に従いだした。
「ふふ、舞台を思い出すわね」
 ふぅと息を吐いたウェグロディにアマリリスが微笑みかける。
「いつの話だよ。もう声変わりもしたんだから」
「そうだったわね。つい懐かしくなっちゃってね。もちろん、今の声も大好きよ?」
「……あ、ありがと」
 照れ隠しか、視線を逸らせた弟の髪に指を這わせたアマリリス。
「それじゃ、有言実行と行きましょうか」
 二人は前線と合流すべく中央へと駆け出した。

 住民の退避と注意の喚起を終えた三人が合流し、広場にのさばる二体の硝巨兵に向かう。
 カイ、鈴蘭、鵤が西の硝巨兵に当たり、残りを篝、アマリリス、ウェグロディが受け持った。
 示し合わせてこの場に立っているわけでもないにもかかわらず、ハンター達は即席で連携を行い硝巨兵に対していく。
「律儀に見た目と性質を合わせたのは失策だよ!」
 体内で練った気を右足へと導き、ウェグロディは硝巨兵の右肩に向け鋭い蹴りの一撃を見舞った。
 面ではなく点で穿たれた蹴りに、硝巨兵の表層装甲はひび割れ破砕した。
「堅いだけの鈍重は、這いつくばって地でも舐めているといいわ」
 ウェグロディの蹴りに状態をのけ反らせた硝巨兵の足元に潜り込んだ篝。
 愛銃の銃口を硝巨兵の関節部分に押し当てると、引き金を引いた。
 アマリリスを後衛に据え、二人は連携しながらガラス装甲の一枚一枚を確実に剥がし取っていく。

「あっちはうまいこといってるみたいだな」
 隣の戦況を横目に確認し、カイが呟いた。
「……三度投げて一枚、か。あんまり効率よくないなぁ……どうしようか。このまま続ける……?」
 手元に返ってきた剣を再び投擲し、鈴蘭がカイに問いかける。
 隣と違いこちら側は思いのほか苦戦していた。
「そうだな、少し手を変えないといけないか……よし。鈴蘭、しばらく任せていいか」
「構わないけど……僕じゃ決定打にかけるよ?」
「それは俺も同じだ。だからこそ時間が欲しい」
「……よくわからないけど。わかった」
「それと、合図したら――」
「……? そんなことして何の意味が?」
「まぁまぁ、そのうちわかるって。それじゃ任せたぜ!」
 と、鈴蘭を残し民衆の方へと駆けていくカイ。
「さて、と。君はもう少し、僕の相手をしてよね」
 鈴蘭はそんなカイを見送ると、硝巨兵を挑発した。

 一方、鵤はというと――。
「はぁ、うまい」
 紫煙を吐き出し一服していた。
「あ、あのぉ……戦わないんですか?」
 住民に混じり観戦を決め込む鵤に、住民の一人が不安げに問いかける。
「おっさんってば真打なわけ。だから、出番が来るのを耐え忍んで待ってるのよ」
「は、はぁ……」
 尤もらしい言訳をかまし、再び煙草に口を付ける鵤に――。
「ほい、おっさん」
 いつの間にか傍に居たカイが、一本のロープを手渡した。
「うん? んんん?」
「そろそろ耐え忍ぶのも飽きてきただろ? ――鈴蘭、そっちはどうだ!」
「いつでも準備はできてるよ」
 カイの声に答える鈴蘭。
 一人相手を任されていた鈴蘭は、持ち前の高機動により硝巨兵を翻弄し、わざと場を『荒らした』。
 何度となく踏み荒らされた石畳は、鋭い切っ先をいくつも空に向ける。
「よし、いくぞ!」
「え? ちょっと、これなんなのよ……とっても嫌な予感しかしないんですけどぉ――」
「今だ、引け!!」
 戦々恐々する鵤を横目に再び叫んだカイの声に、住民達は握る綱を一気に引いた。
「う、うおっぅおおぅい!? ――あ、やば、腰やった」
 当然反対側を任された鵤の綱に巨大な引力が働くわけで――ピキリと耳障りが非常によろしくない音を聞き、鵤の顔から血の気が引く。
「もっとだ! 力いっぱいひけぇ!」
 名誉の負傷を負った鵤の事など気にもせず、カイは叫ぶ。
 住民達と鵤が支える綱は広場を横断し、鈴蘭が対する硝巨兵へと纏わりつくとその足を絡めとった。
「追加だよ」と鈴蘭が見舞った後頭部への蹴りを決定打に、硝巨兵の体は徐々に傾いでいき――遂には轟音と共に地面へと倒れ伏した。
「成功だ! みんな、よくやった!」
 ハンターとしてのスキルを使わず、その場にある『道具』を駆使して作り上げたトラップだった。
 カイは本来ハンターのものであるはずの戦いの場を、住民達への教練場へ変えているのだ。
「恐れることは何もない! 例え力がなくたって、こうやって歪虚を倒せるんだ! 力こそ違うが、お前達の知恵はハンターと変わらないだろ?」
 ニッと口元を釣り上げたカイの言葉に、不安と恐怖に彩られていた住民達の表情が、自信と興奮に染まっていく――。

●遠く離れた丘の上
『あぁ……違う、違うんですよぉ。そう言うのは期待していない』
 閉じていた片目を開け、クラーレは大仰に嘆息する。
『ふぅむ、これ以上、観客に登壇いただくのはあまり好みじゃないんですが、仕方ありませんかねぇ』
 クラーレは四腕の二本を使い、パンパンと二度手をたたいた。
『――光の勇者の皆さん、貴方達は『英雄』であらねばならないのですよ』
 そう呟いたクラーレは、再び片目を閉じた。


「くっ! こいつら急に動きが機敏に……!」
 今までサンドバックだと言わんばかりに鈍重であった硝巨兵の動きが目に見えて変わった。
 振り下ろされた重い一撃を篝は刀で受け流し、距離を取る。
「装甲剥がして、身軽にでもなったのかな……」
 硝巨兵の変化に、鈴蘭も眉を寄せた。
「なにかやってくるかもしれないわね。皆気をつ――」
 アマリリスが不穏な空気を感じ、皆に注意を喚起しようとした、その時。

 広場全体がキラリキラリと二度光った。

 瞬間、眩い閃光が広場を囲む建物の一つを貫き、崩れ落ちた瓦礫が住民へ襲い掛かる。
「おいおいおいおい、おっさんに仕事させてるんじゃないってぇの!」
 雨の如く降り注ぐ礫は、鵤が瞬時に展開した見えない壁が何とか弾き飛ばした。
「ったく、おい、怪我はないか!」
 鵤はすぐさま住民達の安否を確認するが――。
「まずいわね、このままじゃ恐慌状態に陥るわ」
 戦場外から聞こえてくるざわめきに、視線を向けたアマリリス。
 今まで住民に危害を加えるそぶりも見せなかった硝巨兵の矛が自分達に向いたことに、興奮に沸いていた住民達の顔が再び恐怖の色に染まっていた。
『住民の皆さんは、建物の影へ! 敵から見えない位置まで退避してください!』
 だが、住民の不安が拡散する前に、ウェグロディが動いた。
 再び拡声器を手に取ると、住民達に注意を喚起する。
「ありがとうロディ」
「うん。でもこの程度じゃ……」
 避難勧告はあくまで対処でしかない。ウェグロディは声を曇らせた。

「虫眼鏡の要領という訳ね。なかなかやるじゃない。でも、運は私に向いてるわ」
 住民達の情緒が不安定になる中、篝が銃に新たな弾丸を込める。
「光線を封じるわ! 皆、核の位置をしっかり覚えておいてよ!」
 次の瞬間、篝の銃口は天を指し、引き金が引かれた。
 空へと打ち上げられた弾丸は天頂を指すと同時に分裂、無数の銃弾の雨となって硝巨兵に降り注いだ。
 無数のペイント弾が硝巨兵の透明な体を塗りつぶす。
『もう光線は来ません! 安心してください!』 
 塗りつぶされた硝巨兵の姿を確認し、すぐさま響くウェグロディの声。
 住民達はハンター達の迅速な行動に、不安な表情を湛えながらも互いに励まし合い始めた。
「いい判断よ、ロディ。とはいえ、これ以上、悠長なことをしてられないわね。皆、一気に決めましょう!」
 弟の頬にそっと手を添え微笑んだアマリリスは、すぐさま他の者達へと向き直り声を上げた。

「とりあえず、動けないようにすればいいんでしょ?」
 鵤は痛む腰を摩りながら立ち上がると、機敏になった硝巨兵の足元に狙いを定める。
「さて、ひっくり返しますかね」
 鵤の言葉に呼応するように、石畳の一部が鏡へと変化する。
 そして、現れた鏡面と巨兵のガラス面が交わったその瞬間。
「爆ぜろ」
 鏡は無数の破片となり砕け散る。
「写せ」
 小さく囁かれた鵤の声を合図に、鏡面に加えられたエネルギーが暴発。
 まるで地面から砲撃でも喰らったかのように、ガラスの巨兵は片足を弾き上げられ、もんどりうって倒れた。

「ロディ!」
「わかってる!」
 アマリリスの声に、ウェグロディは硝巨兵を足場に一気に後方へと飛び退った。
 突然の目標消失に辺りを探った硝巨兵だったが、逃げ行くウェグロディの姿を捉えると、すぐさま追跡を開始する。
「やっぱり、おつむの方はお察しのようね」
 ウェグロディが向かう先。そこには最愛の弟とそれを追う巨兵を見つめるアマリリスの姿。
「蔓を牙に、棘を爪に」
 アマリリスが小さく呟くと、ウェグロディが通り過ぎた石畳が突然、光を湛えた。
「――縛れ虚像の歩路!」
 瞬間、光は無数の茨へと変化し、硝巨兵の脚に絡みつく。
「あとはわかるわね?」
「もちろん」
 そう短く答えたウェグロディは瞬時に踵を返すと幻茨に囚われる硝巨兵の頭部に向け、渾身の蹴りを見舞った。

「また立たれると厄介だから……封じさせてもらうよ」
 折り重なるように倒れ込んだ二体の硝巨兵を逃がすまいと、鈴蘭の炎の鞭が二体を絡めとった。
「性質がそのまま性能ならば、これで溶けなさい」
 追撃だとアマリリスの火炎符が、動けない硝巨兵の体に降り注ぐ。
「赤熱してる……なら!」
「お、そういうことね」
 篝、そして鵤が放った銃弾は、着弾と同時に辺りの熱を急激に奪い去った。
 加熱からの冷却。急激な温度変化に、ぴきっと小さな音を立て、硝巨兵の体にひびが入る。
 ひびはすぐに体中に広がったかと思うと、硝子の虚像はまるで飴細工の如く脆く崩れ去った。


「リリス、怪我はない……?」
「ええ、平気よ。貴方は?」
「大丈夫。『穢れて』ないよ」
「……そう」
 アマリリスは埃一つついていないウェグロディの綺麗な両手を自分の手で包み込んだ。

「意外とあっけなかったわね」
 コロンと転がる二つの核を見下ろし、篝が呟く。
「相手は歪虚だ、完全に塵に還るまで油断するなよ」
 そう言いつつカイは紅玉を串刺した。
 ハンター達、そして住民達が見守る中、二つの核はゆっくりと崩壊し、塵と消えた。

 広場にはハンター達を湛える賞賛と歓声がいつまでも響いている。
「しっかし、なんだったんだこの状況は」
 背後に歓声を聞きながら、鵤が紫煙を燻らせ呟いた。
「住民を襲うわけでもなく、わざわざ封鎖した中でハンターと一騎打ち? コロシアムじゃねぇっての」
「コロシアム……?」
「なにか気にかかる事でも……?」
 鵤の呟きに考え込んだ篝に、鈴蘭が問いかける。
「『舞台は整えた。邪魔は入らない。公平なゲームをしようか』」
 篝は答えとばかりに、芝居がかった仕草で両腕を広げた。
「誰の真似だよ」
「さぁ? どこかでほくそ笑んでるガラスの指揮官、かしらね」
「指揮官……いるのか? いや、確かにこの一連の襲撃、組織立ってたな。居ると考えるのが妥当か」
 返された篝の言葉にカイは思案に沈む。
「まぁ、何にせよ面倒はこれっきりにしてもらいたいもんだねぇ」
 そんな鵤の呟きを掻き消す様に、大通りの先で大砲の弾丸がガラスを粉砕する音が響き渡った。

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MVP一覧

  • は た ら け
    ka3319
  • 星朧の中で
    アマリリスka5726

重体一覧

参加者一覧

  • 世界の北方で愛を叫ぶ
    樹導 鈴蘭(ka2851
    人間(紅)|14才|男性|機導師
  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士
  • は た ら け
    鵤(ka3319
    人間(蒼)|44才|男性|機導師
  • 情報屋兼便利屋
    カイ(ka3770
    人間(紅)|20才|男性|疾影士

  • ウェグロディ(ka5723
    鬼|18才|男性|格闘士
  • 星朧の中で
    アマリリス(ka5726
    鬼|21才|女性|符術師

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
八原 篝(ka3104
人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2017/06/10 21:09:16
アイコン 相談卓
八原 篝(ka3104
人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2017/06/14 00:08:42
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/06/09 21:04:22