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【血盟】臆病者のラブ・ソング2【交酒】

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/06/13 12:00
完成日
2017/07/01 20:33

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「というわけで、エルフハイムのシードルを大量に売りさばくことにした!!」
 ハジャ・エルフハイム長老代理が両腕を広げて宣言するのを、巫女たちは彼を取り囲むように足を抱えて座りながら見つめていた。
 森都エルフハイムは、神森事件で氷漬けになった後、色々あって少しずつ開かれた街に変わりつつあった。
 特に錬金術師組合の助力は大きく、自由に未来を選べる学び舎の登場により、子供たちは消耗品ではなくなった。
 だがそれでもなお人気の職業――それが浄化の巫女であった。
「君たちにはリゼリオに行って、このシードルを売りさばく売り子になってもらう!」
「ハジャさまー、お泊りですか?」
「そうだ、お泊りだ。ついでに存分にリゼリオを見学してくるといいぞー!」
 わっと湧き上がる子供たちの歓声を前に高笑いするハジャ。その様子を浄化の器はタングラムと共に眺めていた。
「ハジャのやつ、意外と長老職が板についているですね」
「思考の程度が子供と同じレベルなのよ」
 鼻で笑い、眉をひそめるようにして笑う器。ハジャは子供たちと一緒に酒瓶をラッピングする作業の最中だ。
 子供たちが作った草花の冠は色も形もまちまちだが、どれひとつとして同じものはない。
 リゼリオまでの旅路はかなりのものだ。ピースホライズンから王国領を経由し、陸路でリゼリオに向かう旅路。その案内役として名乗り出たのが、帝国ユニオンであった。
 タングラムはこのまま子供たちの旅路に案内兼護衛役として同行する。無論、元執行者の薄暗い連中も護衛につく。
「護衛なんてタングラムだけで十分でしょ……あんな血なまぐさい連中つけなくても……」
「今は外部機関の手助けを受けているこの都も、いつかは自立する時が来るですよ。その時になって昔のままじゃ困ってしまうですからね」
 黒い外套に包まれた男に一人の少女が駆け寄り、花の冠を差し出す。男は戸惑った様子で膝をつき、まるで割れ物に触れるかのように慎重な仕草で冠を受け取る。
 少女たちは何も知らない。この森に古くから続く呪いなど、最早関係のないことだ。
 血に染まった因習は、先の事件で一掃された。ヨハネ・エルフハイムの意図がどうあれ、外部に輸出され始めた第一世代の巫女たちは、社交的で好奇心旺盛で、何より無垢だった。
 人殺ししか知らなかった執行者の指が静かに花を手折り、満面の笑みを浮かべた少女と肩を並べる様子を器はじっと見つめる。
「君も一緒にリゼリオに向かってもらうですよ。まだ哀像事件が片付いて間もないですし、念のためです」
 各地で発生する剣機の事件に、第十師団マスケンヴァルに所属する器もまた駆り出されていた。
 剣機博士の島やアルゴスとの戦いにこそ参戦しなかったが、特に同時期に発生した元エルフの吸血鬼が起こす事件に対処していたのだ。
 そしてその後、念のためエルフハイムの監視という名目でこの街に滞在していた。
「おーい、アイリス! ……あー。小さい方のアイリス」
「「どっちじゃ!」」
 タングラムと器が同時に突っ込むと、ハジャは頬を掻きながら苦笑する。
「ややこしいんだよお前ら……。器ちゃんの方だ。お前もリゼリオで酒売ってくれよ。今が商機なんだ」
「私は帝国を滅ぼしかけた重犯罪人よ? それが酒売っていいわけ?」
「そいつは帝国領内の話だろ? リゼリオは同盟領だ。それに、お前の家だってある。ゼナイドにはもう話をつけてあるんだ。よろしく頼むぜ?」
 ウィンクするハジャの笑顔から目を逸し、器は逃げるようにその場を後にした。

 夜、誰もが寝静まった頃。器は一人で荷馬車の傍に座り込んでいた。
 明日の夜明けには子供たちとたくさんのシードルを乗せて馬車はリゼリオを目指すだろう。
 だが、その前に器には解決すべき問題があった。
 夜な夜な広場に姿を見せたのは巫女の子供たちだ。少女らは寝間着のままおぼつかない足取りで森の奥に進んでいく。
 それを黙って器は追跡する。彼女の「監視」任務の焦点はここにあった。
 ――エルフハイム内で密かに発生し始めた事件。
 誰もが寝静まった夜に、子供たちが何処かへ消える。そして、明け方にはひょっこり戻ってくる。
 器は夢遊病のように徘徊する少女たちを追跡する。
 今日が初めてではない。最初は出歩く少女を捕まえて無理矢理寝床に戻していた。
 だが、何度戻しても翌日には何人かが目覚め、夜中に森の奥へ向かってしまう。
 明日にはこの街を去る事になっている。故に今夜こそ、元凶と対話し、問題を解決するつもりだった。
 少女たちが歩いてゆく先、そこに聖域と呼ばれる場所があった。
 かつて多くの巫女が犠牲になり、そしてその最後の犠牲者が滅び去った場所。
 神霊樹の麓に、子供たちは膝を抱えて座っていた。その頭上にはおびただしい数の蒼い蝶が舞う。
 その蝶の向こうにそれはいた。白いドレス――浄化の巫女の正装を身に纏った女。
「どこのどいつか知らないけど、いい加減にしなさい。化けて出るには遅すぎる」
 この森の呪いは解き放たれた。故にこれはきっと邪悪なものではない。
 だが、子供たちを連れていくというのなら話は別だ。腰から提げた剣を抜き、女に突きつける。
『まあ、新しいお客様ね? あなたはどんなお茶が好きかしら?』
 女に顔はない。そして足もない。なのに随分と軽やかに語りかけてくる。
『さあ、お話をしましょう。あなたの物語を聞かせて頂戴。大丈夫、まだ夜は長いわ。楽しい時間にしましょう』
 冷や汗を流し、戸惑う器。
 彼女は知らなかった。血盟作戦の後、この世界にもたらされた変化。
 精霊の顕現と、その気まぐれがもたらす事件のことなど――。

リプレイ本文

「ちょっと落ち着け、アイリス」
 神妙な面持ちで剣を構えたアイリスの手に自らの掌を重ね、ソフィア =リリィホルム(ka2383)は切っ先を下ろす。
 少なくとも精霊と一戦交えるべきではないというのがハンターらの共通見解である。
「必殺猫仲裁、です……相手が怒らなかったとしても、何をしてもいいというわけではないでしょうから……」
「そうやって困ったらすぐ暴力に訴えようとしているうちは“器”だぞ」
 精霊との間に入り猫を構えるシュネー・シュヴァルツ(ka0352)に器がたじろぐと、アウレール・V・ブラオラント(ka2531)が腕を組みながら諭す。
「それに、立場と前科を思えばそういった言動はマイナス評価につながりかねない。少しは外聞を気にしろ」
「別に他人の承認なんて要らないわよ。ていうかその格好で言われても説得力ないし」
 一応刃を鞘に収めつつも器はニマリと笑う。視線の先に立つアウレールは、ミュゲのドレスを着用していた。
「知らぬのか? このドレスはエルフが花を配って練り歩く行事の格好で、森の住人にも馴染み深く……」
「“彼女”は子供が好きみたいだね。相手の望む子供を演じてみるのも、悪くはないかもしれないよ」
 ジェールトヴァ(ka3098)がそう説明すると、器は少し納得したように手を打つ。
「ただの女装趣味じゃなかったのね」
「向こうは交戦の意思がないようだし、友好的だし、まずは話し合いで解決してみよう。そしてせっかくだから、楽しんでしまおう」
 楽しんでしまおう――それは、器にとって印象的な言葉だ。本来そういう発想は器に存在しない。
「さあ、アイリスさんの好きなお茶は何かな?」
 ソフィアが器の頭を撫でて着席を促す様子を、神楽(ka2032)は少し距離を置いて見つめていた。
 そしてそんな神楽を、北谷王子 朝騎(ka5818)は横目で覗うのだった。

 こうして真夜中のお茶会がはじまった。
 聖域にポツンと用意された木製の卓の周りには、ここまで呼びつけられた子供たちがぼんやりした様子で佇んでいる。
「どうやら催眠状態にあるようだね」
 ジェールトヴァの言う通り、子供たちは目覚める気配がない。起きてはいるが、正気でもないのだ。
 朝騎は子供を起こしてみようと試みたが、ちょっと揺らしたり声をかけた程度では目覚めそうにもない。
「夜中のお茶会なんて子供の成長に悪いでちゅ。親も心配するでちゅし、メー! でちゅ」
 朝騎が人差し指を立てて注意するが、精霊は無表情に――というか顔がないのだが――笑い声を上げるだけだ。
「……のっぺら顔はなんとかなりまちぇんかねぇ?」
「しかし、ハジャさんとタングラムさんは熟睡しているのに、私達やアイリスさんが起きていられるのは何故だろうね?」
「種族の問題か……それとも森で過ごした時間化……クソ、どちらにせよ嫌な感じだぜ」
 ソフィアは虫の居所が悪い様子だが、徐に自前の酒瓶を取り出した。少なくとも精霊に付き合う意志はあるようだ。
「お茶会なら手土産は必要でしょうか……という事でマシュマロとクッキーしかありませんが……大丈夫です、ちゃんと既製品です」
 シュネーがごそごそと荷物を取り出し始めると、全員で用意していた飲食物を列挙し始める。
「場に相応しい選択というものがあろうに、酒とはな……子供と言えば甘味だな」
「俺もカメラを……じゃなくて、お菓子を持ってきてるっす~」
「怪しいでちゅね……それよりアイしゃん、このパルムケーキを一緒に食べるでちゅ。はい、あーんでちゅ~」
「すごく久しぶりに見たけど、相変わらずどっかおかしいわね……」
 そう言いながらも朝騎のケーキを食べる器。神楽はそちらから精霊へ視線を移す。
 彼はどうも、この精霊の存在に引っかかるものを感じていたのだが、それがハッキリ思い出せずにいたのだ。
「でも……食べられるのでしょうか?」
 シュネーの一言に全員の視線が精霊に集まる。
 明らかにこの中で一番デカいこの精霊には顔がない。のに、「うふふ」とか「あはは」とか笑い声が響いている。
 さっきからティーカップをつまむようにして持ってはいるが、一度もそれを口元に運ぶ気配はない。
「もしかして何も食べられないんじゃないでちゅか……?」
「そもそも実体なくねっすか?」
 顔を見合わせ困惑するハンター達。アウレールは溜息をひとつ。
「こういった森の変なのにもいい加減慣れた。常識を説いても仕方ないとは思うが、ここは一つ説得する他ないだろう」
「そもそもまずは自己紹介から始めるべきでちゅ」
「そうだね。精霊さんにお名前はあるのかな? 好きなこととか……」
『ナマエ……? ナマエ……ナ、ナナナナナマ??』
「ああ……ええと、無理に答えなくてもいいんじゃないかな?」
「――いいや、答えてもらうぜ。まず、お前は森の神……神霊樹の精霊でいいのか? 以前、ホリィとアイリスと契約してたという記憶、いや記録か。それはあるのか……」
 ソフィアは前のめりに問い続ける。だが、精霊は首から上だけ高速で左右に揺れるばかりで返答はない。
「これ……大丈夫なんでしょうか?」
「きもい」
 青ざめる器に寄り添い、そっと猫を膝に置くシュネー。やがてピタっと精霊は動きを止め。
『わからないわ。私は誰なのかしら?』
「……つまり、剣妃と共に森の呪いが消え去って、そこに新たに生まれた精霊って考えていいのか? ……もう、こいつらやジエルデのような奴は、生まれなくていいのか? 私はな、お前がそれにウンと答えてくれりゃあ、それでいいんだ」
『残念だけれど……ごめんなさいね、わからなくて』
 なんとも締まらぬ答えに溜息を零すソフィア。だが、少なくともそんなに悪いモノのようには思えなかった。
「どうして……子供と話をしたいと思ったのでしょうか?」
 シュネーがふと呟く。眼前の精霊は確かに人知の及ばぬ相手。だが、悪意は感じられなかった。
「むしろ、お母さん的……? 親戚のお姉さんのような……」
 ちらと視線を向けたのは器。シュネーにはもう一つ気になる事があった。
(アイリスさんが……緊張している?)
 器にとって森の精霊との因縁は深いものだ。だが、それだけではないような気もした。
 ばつの悪そうな……憎しみではない。もっと曖昧な感情……。
「大丈夫です、多分……今のところは」
 小声で語りかけると、器は眉を潜め、そっぽを向きながら頷いた。
「いつまでも睨み合っててもしょうがねっす。確か、物語を聞かせてほしいんすよね? なら、俺が主役じゃないけど面白い物語があるっす」
 神楽はそう言って精霊に語りかける。実際、睨み合っていては茶も進まない。
「諦めを知らない馬鹿とコボルトの勇者の英雄譚と、英雄でも怪物でもないただの少女が主役の物語っす!」

 こうしてハンターを語り部に茶会は進んでいく。
 神楽の熱弁に精霊の反応は上々で、割りと大げさに話したほうがウケがいいと分かる。
 それに続き、シュネーも記憶を頼りに童話を語る。神楽と違って辿々しかったが、精霊はじっと話を聞いてくれた。
「むむむむ……くぁーっ! でちゅ!」
 座禅を組んだ朝騎がくわっと目を開くと、草むらから飛び出た黒い物体が神楽の顔にくっついた。
「ふふん、実はこれ、式符で操作した呪符でちゅ。どうでちゅ、吃驚しまちたか?」
 と言っている傍から遠巻きに見ればGに見えなくもない物体を器が鷲掴みにした。
「えっと……虫、平気なんですか?」
「可愛くない?」
 少し以外な答えに、シュネーは頷くべきかしばし考え、とりあえず曖昧に頷いておいた。
 ちなみに精霊の反応はイマイチで、もっと派手でわかりやすい方が良いらしい。
「仕方ないでちゅね……ここは敵味方識別可能な五色光符陣による発光芸を……」
「なんで俺の方を見ながら言うんすか!?」
 にわかに賑やかになるテーブル。アウレールはカップを片手に精霊に問う。
「……で、今までダンマリだった神様は何がお望みかな? 仰々しい儀式には顔を出せない理由が何かお有りか」
『望み……私の望み。わからないわ。でも、知りたかったのかも』
 精霊は少し考え、それから言葉を続ける。
『私はどうやらこの森に住む者たちと繋がっているようなのだけれど、私には覚えがなかった。だから、まずは知る事から始めようかと』
「つまり……新しい自意識ってことか?」
 恐らくソフィアの分析は正しい。この精霊は見た目よりずっと無知で無自覚だ。
 自分自身の事もよく分かっていない。だからヒトに……特に森の精霊と契約した巫女、それも純粋な子供達に呼びかけたのかもしれない。
『これからどうしようかしら』
「子供が好きなら昼間に堂々と会って楽しい思い出を残してやれ。記憶に残らぬでは只の自己満足ではないか。それとも“夜の子供達”しか知らぬと言うのではあるまいな」
 アウレールの言う通り、精霊が子供たちと会うのは夜だった。先日行われた儀式も日が暮れてから。そこには関連性が見える。
「ガキ共を夜中に連れ出すのはやめてやってくれないか。保護者達に心配をかけるし、森の神を危険視する奴が出るかもだしな」
『そう……。とりあえず、次は昼間にするわ』
 あっさり承諾してくれたのは少し肩透かしだった。ソフィアはグラスを煽り苦笑する。
 世間知らずで、やってることは少しズレているが、言えば素直に修正してくれる。まるで――。
「よかったら朝騎の顔をコピーしてもいいでちゅよ?」
 自分の頬を指先で突きながら提案するが、精霊は自分の顔をぺたぺた触り。
『顔……ない……』
「なんで足もないでちゅか? “ぱんつがないから恥ずかしくないもん”じゃないでちゅよ」
『無いと困るのかしら?』
「困るっていうか、ヒトに近い方が親しみが湧くでちゅ。ぱんつがないなら予備のをあげまちゅよ」
 ソフィアは頬杖を突きながら精霊のつるつるの顔を見つめる。
 まあ、実際この図体で顔だけ変わったら、それはそれで不気味かもしれない。
「ん~、それで思い出したんすけど……前に俺たちの夢に来なかったっす?」
 その記憶は既に神楽にとっても曖昧だった。だが、確か森都の事件が起こる前、不思議な夢を見たことがあった。
 夢の中で見知らぬ誰かが、自分たちに向けた警句……。
 目の前の精霊とその時見た夢の中の女性の姿は似ている……が、少し違う。具体的にはこう、サイズ感が。
「でも、実際に話してて思ったっす。たぶん俺たちは前に会ったことあるっすよね?」
『……そうなのかしら? ごめんなさい、わからないわ。でも……確かに、あなたの物語は前に聞いたことがある気がするの。どこか懐かしいような……』
 そこでソフィアは自分の予想が少し外れていた事を認識する。
「ジエルデ……」
 何故なら、あそこには彼女もいた。
 そして、ソフィアも――。
(つまりこいつは……ジエルデじゃないんだ)
「そういえば、精霊さんはどこから来たんでしょう? お帰りいただくようにと言われているのですが……そもそも元いた場所ってどこだろう?」
『それならあそこよ。私はあの樹から生まれたの』
 シュネーの問いに、精霊は森都の聖域に聳える神霊樹を指差す。
『そんなつもりはなかったのだけれど、迷惑だったようね……一度帰って、少し考えてみるわ』
「あ、いえ……はい。それがいいと思います」
 こうして概ね目標は達成された。精霊がそうしたのか、子供たちも自分の足で歩いて帰っていく。
「精霊さん、今夜は楽しい夜会にお招きありがとう。次は是非日中に会えるかな?」
『ええ。また会いましょうね』
 笑い声を空中に残しながら、ジェールトヴァに手を振り精霊はその場から消え去った。
「完全に消えたでちゅ!?」
「結局フリだけで飲食もしていませんでしたね……」
 色々とおみやげもあげようと思っていたのだが、シュネーの言う通り、精霊には実体がないらしい。
 何かを渡そうとしても、消えてしまっては持ち帰れない。
 つまりこのお茶会は――ヒトにとってのもの。彼女なりの歩み寄りの形だったのだろうか。

「精霊とわかり合う方法ってあるのかな」
 帰り道、ふと器が呟く。
「アウレールの言う通り、私、最初からあいつをやっつけるつもりだった。それしか解決法がないと思ったから」
「……難しい話だな。精霊に限らず私達は常に様々な壁に隔たれている。だが、暴力と抑圧で解決できる事は、実は少ない」
 この森の事件を振り返れば明白な事実だ。暴力だけで何かを変える事はできない。
「世界を見よ、聞け、学べ。斬る以外の方法が何処かにある、きっと。……尤も、私も探しているところだがな」
「そっか。じゃあ、見つけたらアウレールに教えたげるね」
 二人のやり取りにジェールトヴァは目を細める。今度は器が振り返り、こちらに声をかけた。
「私達みたいな連中って、許されたほうがいいのかな?」
 意外な問いかけだ。許されるのか、ではなく、許されたほうがいいのか、とは。
「許すことができない人もいるだろう。人の命は取り返しのつかないものだ」
「前におじいさんは別に許されなくたっていいって言ってたじゃない。私もそうだなって思った。でも私達が許されなかったとして、それってつまり、私達をずっと憎み続けないといけないひとがいるってことじゃない」
 少女は足を止め、眉をひそめる。
「それっていいのかな?」
「ふむ……なるほど。確かにアイリスさんの言い分は一理あるね」
「なんかさ、うまい感じに許される方法、考えといてよ。お願いね、おじいさん」

「なんでわざわざあんなことを言ったんでちゅ?」
 こんなこともあろうかと地縛符を仕掛けていた朝騎は、縄で縛った神楽の前に屈んで問う。
 周囲は既に早朝。精霊も消えて徐々に目覚め始めた者たちが、リゼリオへ出発の準備を進めている。
「何のことっすか?」
「アイしゃんのことでしゅ」
 この機に女性にイタズラする者がいると踏んだ朝騎は神楽に目をつけていた。
 そこで目撃したのは、神楽と器が向き合って話していた事だ。

――俺はまだお前を許してねっす。まぁ、半ば逆恨み何で気にするなっす。互いに不愉快な思いするだけだから俺の近くに寄らん方がいいっすよ。

「聞いてたなら文字通りの話っす。正義の味方になるなら恨まれるのには慣れた方がいいっすよ。何せ正義の味方の仕事の半分は助けられなかった被害者と倒した悪の遺族から恨まれる事っすからね」
 朝騎は腕を組み、溜息を零す。
 責めるつもりはなかった。何せその話を終えた時に器は、落ち込むどころかむしろ瞳をキラキラと輝かせていたからだ。
 神楽が去ったあと、声をかけた朝騎に器は言ったのだ。

――なんか安心したんだ、カリンのことを覚えてる人がいて。それに――目標があるっていうのは、いいことだよね?

 森都に木漏れ日が差し込む。
 何度繰り返したかわからない、しかし新しい朝が、商隊の門出を迎えようとしていた。

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MVP一覧

  • 大悪党
    神楽ka2032

重体一覧

参加者一覧

  • 癒しへの導き手
    シュネー・シュヴァルツ(ka0352
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 大工房
    ソフィア =リリィホルム(ka2383
    ドワーフ|14才|女性|機導師
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 大いなる導き
    ジェールトヴァ(ka3098
    エルフ|70才|男性|聖導士
  • 丘精霊の配偶者
    北谷王子 朝騎(ka5818
    人間(蒼)|16才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談しましょう!
ソフィア =リリィホルム(ka2383
ドワーフ|14才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/06/10 01:09:58
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/06/08 22:48:59