ゲスト
(ka0000)
秘密基地のたからもの
マスター:窓林檎
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/06/18 19:00
- 完成日
- 2017/06/27 00:00
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
とある農村。
豊かな緑色が広がる野菜畑の畦道に、一組の少年少女が座り込んでいた。
金髪の少年に、赤髪の少女。典型的な田舎の農村育ち、と言った出で立ちの二人の雰囲気は、何気ない一言に傷ついた直後のように沈鬱としている。
「どうせ、そのうち捨てるつもりだったんだ、あんなガキの遊び場なんて」
金髪の少年がつまらなそうに吐き捨てたその言葉に、赤毛の少女はワンピースの裾をギュッと掴む。
「大体、最近あそこで遊んでたのってもうお前くらいだったろ? 遅かれ早かれ、誰も寄り付かなくなってたっての」
「……リュークが、一緒にいてくれてたもん」
涙声にさえなっているその言葉に、リュークは呆れたようなため息をついた。
基本的にこの少女、リリィは内気で、ふわふわと自分の世界を生きてるような少女だ。だからこそなのか、たまにこんな風に頑なになって、自分の意見を曲げようとしない時がある。それ故にどこか危なっかしいし、家も隣で、自分の方が一つ年上だから、仕方なく面倒を見てやっている――と、少年自身は思っている。最近、彼女のふんわりとした横顔を見ていると、妙に顔が熱くなる気がするのは、きっと気のせいなんだと思っている。
「大体、俺たちもう秘密基地って年でもねえだろうが」
「だって、あそこには、たからものがあるから……」
「宝物って……」
リュークはいよいよ呆れたように頭を掻く。
「なあ、俺、もう十二歳だぜ? リリィは十一歳だろ?」
「うん……」
「お前、まだ『あんなもの』を大事にしてんのかよ?」
大きめの枝で出来た『勇者のつるぎ』。
土塊で作った『ファイアーボール』。
ちょっとキレイめの石を集めて言い張った『宝の山』。
他愛のない場所に続いている『たからものの地図』。
要するに、幼い子どもが作るような秘密の隠れ家であり、幼い空想の下に作るようなおもちゃの数々である。
リュークにしてもリリィにしても、いい加減「卒業」して然るべきな児戯に過ぎないものである――のだが、そう言うと、リリィは悲しそうな表情をするので、仕方なく付き合ってやっている――他意はない、他意は。
「……なんにしても、俺たちじゃゴブリンやらコボルドやらなんて、どうしようもできねーだろ?」
「そう、だけど……」
「しっかしあいつらも何だってあんなガキ見てえな場所に巣を作るかねえ……あんなところで威張って喜んで許されるなんて、十歳までだっつーの」
「…………」
「村のおじさんが言うには、ハンターたちがどうにかしてくれるらしいしな。深刻に考えすぎなんだっつーの、リリィは」
宝物だって、きっと取り返してくれるに違ぇねぇって。
そう言って気楽そうにケラケラ笑うリュークに、リリィはいよいよ悲しい気持ちになりながら、ポツリと呟くのだった。
「……リューク、やっぱり覚えてないんだ」
『たからもの』がある、「あの場所」のことを。
「ん? なんか言ったか?」
「……ううん、なにも」
私、帰る。
その一言だけ言い残して、リリィは振り返りもせず、逃げるように去っていった。
※
なあに。他愛のない、亜人退治ですよ。
そう言ってハンターオフィスの職員は半笑いで言う。スーツをカジュアルに着こなし、髪をオールバックにかっちりと決めている二十代後半の男。仕事自体は有能なのだろうが、それを鼻にかけている様子も露骨に出ている。
「某農村の山間部にコボルドの集団が出現しました。どうやらゴブリンも絡んでいるみたいで、行動も一定の組織性を帯びているようです」
まっ、所詮は低能な亜人どもの集団ですがね。
職員は、「低能な亜人」に対する蔑みを隠す様子もなく、ヘラヘラと笑う。
「通報者の報告によると、通報時点でコボルドどもを確認したのは五日前だそうです。数は、確認出来ている限りで、コボルドが十前後に、ゴブリンが一体。コボルドはともかく、ゴブリンは槍と鎧による武装が確認されており、奴らの実質上の頭目と化しています……まあ、今のうちに叩いてしまおう、といったところでしょうね。あの低能どもはガキを作る能力だけは旺盛だ」
おっと、そろそろ時間だ。いや、なに、別の依頼の案件も抱えていましてね、と職員は特に悪びれる様子もなく頭だけは下げる。
「まあ、敢えて言うなら、山中での戦闘にはなるはずなので、その辺の準備だけは抜かりがないようにしておいて下さい。視界も足場もよくはないでしょうし、変に不意をつかれちゃあ厄介なのは事実でしょうしね。依頼先の、コボルドが巣食った当該地域の地図については、一応こちらにも簡単なものはありますが、詳細は現地の人間に聞いたほうがより正確に把握出来ると思われます……じゃあ、依頼を受けるなら、ここにサインをお願いしますよ」
※
「なあ、リリィ、お前マジで考えなおせって……!」
村の入口。木陰の下に腰掛け、思い詰めた表情で入口の方へとジイっと目を光らせるリリィと、そんな彼女をハラハラしながら見つめるリューク。
あれから数日が経って、ハンターたちが討伐に来てくれることになった。
これでリリィの奴も気が済むだろうと思っていた矢先、リリィはそれを聞いた翌日からこの場所に来て、それからほとんど一日ジィっと入り口を見張り始めたのである。
それで一体何を言い出すかと思えば――
「やだ、私も一緒に行く……!」
「お前、自分が何言ってるか分かってんのか? 悪いこと言わねえから、ハンターに任せとけって!」
「そんなわけには行かない……!」
「お前なあ……!」
「あの辺りって迷いやすいから、案内だって必要に決まってるもん……」
あの辺りのことは、大人たちよりよっぽど私の方が詳しいから。
出し抜けに飛んできた一理ある言葉に、一瞬リュークの言葉が詰まる、が……。
「そんなのハンターとか、大人たちの問題だろ? どっちにしても、お前がそこまでする意味が分からねえよ!」
「意味ならあるよ!」
『たからもの』がある「あの場所」を、壊されたくないから。
あくまでそう言って聞かないリリィに、いよいよリュークは参ったように頭を抱えた。
大体、そうやって強弁している癖に、リリィの身体はずっと震えっぱなしで、これじゃあゴブリンやらコボルドが巣食う場所に行くどころか、いざハンター達がやって来た時に自分から声をかけられるかどうかも怪しいものだ。
「……リュークには分からないもん。『たからもの』のことを平気で忘れられる、リュークになんて」
それっきり、リリィはリュークが何を言っても、返事をしなくなってしまった。その身体を、決してリリィが無視出来ない恐怖に震わせながらも。
「……大体なんなんだよ、宝物って」
よっぽど、あんなガラクタの山が恋しいのだろうか?
リリィと自分自身の口にする、言葉の実感の軽重のただならぬ差異に戸惑いながらも、リュークはリリィの隣に座り続けるのだった。
豊かな緑色が広がる野菜畑の畦道に、一組の少年少女が座り込んでいた。
金髪の少年に、赤髪の少女。典型的な田舎の農村育ち、と言った出で立ちの二人の雰囲気は、何気ない一言に傷ついた直後のように沈鬱としている。
「どうせ、そのうち捨てるつもりだったんだ、あんなガキの遊び場なんて」
金髪の少年がつまらなそうに吐き捨てたその言葉に、赤毛の少女はワンピースの裾をギュッと掴む。
「大体、最近あそこで遊んでたのってもうお前くらいだったろ? 遅かれ早かれ、誰も寄り付かなくなってたっての」
「……リュークが、一緒にいてくれてたもん」
涙声にさえなっているその言葉に、リュークは呆れたようなため息をついた。
基本的にこの少女、リリィは内気で、ふわふわと自分の世界を生きてるような少女だ。だからこそなのか、たまにこんな風に頑なになって、自分の意見を曲げようとしない時がある。それ故にどこか危なっかしいし、家も隣で、自分の方が一つ年上だから、仕方なく面倒を見てやっている――と、少年自身は思っている。最近、彼女のふんわりとした横顔を見ていると、妙に顔が熱くなる気がするのは、きっと気のせいなんだと思っている。
「大体、俺たちもう秘密基地って年でもねえだろうが」
「だって、あそこには、たからものがあるから……」
「宝物って……」
リュークはいよいよ呆れたように頭を掻く。
「なあ、俺、もう十二歳だぜ? リリィは十一歳だろ?」
「うん……」
「お前、まだ『あんなもの』を大事にしてんのかよ?」
大きめの枝で出来た『勇者のつるぎ』。
土塊で作った『ファイアーボール』。
ちょっとキレイめの石を集めて言い張った『宝の山』。
他愛のない場所に続いている『たからものの地図』。
要するに、幼い子どもが作るような秘密の隠れ家であり、幼い空想の下に作るようなおもちゃの数々である。
リュークにしてもリリィにしても、いい加減「卒業」して然るべきな児戯に過ぎないものである――のだが、そう言うと、リリィは悲しそうな表情をするので、仕方なく付き合ってやっている――他意はない、他意は。
「……なんにしても、俺たちじゃゴブリンやらコボルドやらなんて、どうしようもできねーだろ?」
「そう、だけど……」
「しっかしあいつらも何だってあんなガキ見てえな場所に巣を作るかねえ……あんなところで威張って喜んで許されるなんて、十歳までだっつーの」
「…………」
「村のおじさんが言うには、ハンターたちがどうにかしてくれるらしいしな。深刻に考えすぎなんだっつーの、リリィは」
宝物だって、きっと取り返してくれるに違ぇねぇって。
そう言って気楽そうにケラケラ笑うリュークに、リリィはいよいよ悲しい気持ちになりながら、ポツリと呟くのだった。
「……リューク、やっぱり覚えてないんだ」
『たからもの』がある、「あの場所」のことを。
「ん? なんか言ったか?」
「……ううん、なにも」
私、帰る。
その一言だけ言い残して、リリィは振り返りもせず、逃げるように去っていった。
※
なあに。他愛のない、亜人退治ですよ。
そう言ってハンターオフィスの職員は半笑いで言う。スーツをカジュアルに着こなし、髪をオールバックにかっちりと決めている二十代後半の男。仕事自体は有能なのだろうが、それを鼻にかけている様子も露骨に出ている。
「某農村の山間部にコボルドの集団が出現しました。どうやらゴブリンも絡んでいるみたいで、行動も一定の組織性を帯びているようです」
まっ、所詮は低能な亜人どもの集団ですがね。
職員は、「低能な亜人」に対する蔑みを隠す様子もなく、ヘラヘラと笑う。
「通報者の報告によると、通報時点でコボルドどもを確認したのは五日前だそうです。数は、確認出来ている限りで、コボルドが十前後に、ゴブリンが一体。コボルドはともかく、ゴブリンは槍と鎧による武装が確認されており、奴らの実質上の頭目と化しています……まあ、今のうちに叩いてしまおう、といったところでしょうね。あの低能どもはガキを作る能力だけは旺盛だ」
おっと、そろそろ時間だ。いや、なに、別の依頼の案件も抱えていましてね、と職員は特に悪びれる様子もなく頭だけは下げる。
「まあ、敢えて言うなら、山中での戦闘にはなるはずなので、その辺の準備だけは抜かりがないようにしておいて下さい。視界も足場もよくはないでしょうし、変に不意をつかれちゃあ厄介なのは事実でしょうしね。依頼先の、コボルドが巣食った当該地域の地図については、一応こちらにも簡単なものはありますが、詳細は現地の人間に聞いたほうがより正確に把握出来ると思われます……じゃあ、依頼を受けるなら、ここにサインをお願いしますよ」
※
「なあ、リリィ、お前マジで考えなおせって……!」
村の入口。木陰の下に腰掛け、思い詰めた表情で入口の方へとジイっと目を光らせるリリィと、そんな彼女をハラハラしながら見つめるリューク。
あれから数日が経って、ハンターたちが討伐に来てくれることになった。
これでリリィの奴も気が済むだろうと思っていた矢先、リリィはそれを聞いた翌日からこの場所に来て、それからほとんど一日ジィっと入り口を見張り始めたのである。
それで一体何を言い出すかと思えば――
「やだ、私も一緒に行く……!」
「お前、自分が何言ってるか分かってんのか? 悪いこと言わねえから、ハンターに任せとけって!」
「そんなわけには行かない……!」
「お前なあ……!」
「あの辺りって迷いやすいから、案内だって必要に決まってるもん……」
あの辺りのことは、大人たちよりよっぽど私の方が詳しいから。
出し抜けに飛んできた一理ある言葉に、一瞬リュークの言葉が詰まる、が……。
「そんなのハンターとか、大人たちの問題だろ? どっちにしても、お前がそこまでする意味が分からねえよ!」
「意味ならあるよ!」
『たからもの』がある「あの場所」を、壊されたくないから。
あくまでそう言って聞かないリリィに、いよいよリュークは参ったように頭を抱えた。
大体、そうやって強弁している癖に、リリィの身体はずっと震えっぱなしで、これじゃあゴブリンやらコボルドが巣食う場所に行くどころか、いざハンター達がやって来た時に自分から声をかけられるかどうかも怪しいものだ。
「……リュークには分からないもん。『たからもの』のことを平気で忘れられる、リュークになんて」
それっきり、リリィはリュークが何を言っても、返事をしなくなってしまった。その身体を、決してリリィが無視出来ない恐怖に震わせながらも。
「……大体なんなんだよ、宝物って」
よっぽど、あんなガラクタの山が恋しいのだろうか?
リリィと自分自身の口にする、言葉の実感の軽重のただならぬ差異に戸惑いながらも、リュークはリリィの隣に座り続けるのだった。
リプレイ本文
――なあ、お前に良いもん見せてやるよ!
あの日、自信に満ちた笑顔と共に、私の手を引いた金髪の少年。
導かれるままに訪れた『秘密基地』――掛け替えのない『たからもの』。
だけどその金髪の少年――リュークは違うかもしれない。
私はそれが、とても悲しかった。
――貴方の思い出、聞かせてくれませんか?
徐に飛んできた言葉に、私はハッと振り向く。
穏やかな笑顔と、刀を持つ姿が印象的なマリエル(ka0116)さん。
「私、大切な思い出の話を聞くのは好きなんです」
「……別に」
隣のリュークが無愛想に応える。顔が赤くなって可愛いと思う一方、胸がモヤッとした。
「リュークね、この前背中に枝を引っ掛けて服を破いたのに気づかないで……」
「リリィ!」
私の意地悪に慌てるリュークが楽しい。これから怖い亜人と戦うために山を歩いてるのに……。
「お二人を見ていると、昔の私を思い出すのです」
ライラ = リューンベリ(ka5507)さんが話に入ってくる。メイドさんの格好をしたハンターだ。
「……私も、懐かしい……」
リュラ=H=アズライト(ka0304)さんもポツリと応える。金混じりの銀髪がキレイな人。ライラさんは満足そうに頷いた。
「貴方達はそのままの貴方達でいてくださいね」
貴方もそう思いません?
ライラさんが、前方を歩く龍華 狼(ka4940)さんに声をかける。
露骨に迷惑そうな表情で振り向いたけど、すぐ笑顔を作った。
「そうですね、思い出は何よりの宝物ですよね」
それだけ言って、前を向いてしまった。
リュークと同程度の背丈だけど、リュークの視線に「こう見えてもそれなりに死線はくぐってますのでご安心を」と目の笑ってない笑顔で応えていた。
「……別に羨ましいとか思ってねぇし」
そんな言葉が、聞こえた気がした。
結局、私は自分から声をかけられなかった。
「ゴブリンたちの位置を知りたい。案内できる者はいないかの?」
――特にそこの子供ら何かあるのじゃろ? 言ってみなされ。
ゴーグルのついたキャップを被る女性、レーヴェ・W・マルバス(ka0276)さんが声をかけてきた。
私は思わずビクッとして、リュークの後ろに隠れてしまう。
「こんにちは……何かざくろ達にご用かな?」
そんな私たちに、女の人(実は男の人なのだそうだ)時音 ざくろ(ka1250)さんが、微笑みながら歩み寄る。
「……実はゴブリンが巣食ったの、俺たちの秘密基地だった――」
「お願いします! 道案内しますから、私も一緒に連れて行って下さい!」
真っ白い頭でそう言うのが精一杯だった。
「人の場所を奪う奴は気に入らないな……」
息が詰まりそうな沈黙の後、鈴胆 奈月(ka2802)さんの呟きが聞こえた。
無表情な人だけど、遠い目をして呟いた言葉には実感が篭っていた。
さらに、レーヴェさんも快諾してくれた。
「大人に負けず案内に名乗り出た諸君らの勇気を買うぞ。是非お願いしたい」
「い、いいんすか?」
「そういう理由なら……あっ、でもざくろ達の言う事はよく聞いて、絶対みんなから離れない様にしてね」
ざくろさんの頼もしい言葉に、リュークは言葉もなくペコペコと頭を下げた。
「あ、ありがとうございます!」
――ただ。
一緒に頭を下げる私の頭上から、凛とした声が降って来る。
緑色の髪と瞳のエルフのお姉さん――ウィーダ・セリューザ(ka6076)さんだった。
「守りはするけど、守り切れる保証はない。怪我はするだろうし、最悪死ぬ。それでもよければ……ね」
厳しい言葉に、縋るようにこちらを見るリューク。
「……お願いします」
それでも私は精一杯の勇気を出して、ウィーダさんの目を見てそう言った。
気のせいかもしれないけど、ウィーダさんが微笑んだ気がした。
※
――リュークには分からないもん。
心底悲しそうな、リリィの声。
リリィの言う『たからもの』は、今でも思い出せないけど。
それでも、俺がリリィを傷つけてることくらいは分かって。
俺はそれが、とても辛かった。
「……なるほど、その地図に『たからもの』の場所が書かれてるんですね?」
「うん……すごく大事な場所」
地図? 場所?
俺は何かを思い出しそうになったが、その前に先行していたウィーダさんが皆を制した。
「前方にコボルドが二匹。かなり油断してるね」
ウィーダさんの言う通り、コボルド達は警戒心の欠片もなく、呑気に道の真ん中を下っていた。
ウィーダさんとレーヴェさんが、狙撃することになった。
「ボクはいつでも良い、そっちのタイミングで」
「承知した、今から三を数えた後に――三、二……」
――!
悲鳴が同時にあがる。
二人の放った矢はコボルドの胸に突き刺さり、絶命した。
「すげえ……」
「別に――ここからが本番だよ」
先の悲鳴に呼応するように、獣めいた雄叫びが響いた。
そして現れるコボルドたち――前方に四匹、後詰が二匹。
「ひっ!」
「大丈夫ですリリィ様」
悲鳴をあげたリリィに落ち着き払ったライラさん。俺も足が震えてる。
戦いの火蓋を切ったのは、ざくろさんだった。
「待ってて、基地は絶対取り戻すから……」
――着装! 魔力フル収束!
ざくろさんの全身に光が集まり――光の爆発と共に駆け抜けた。置き去りにされた形のコボルド達に動揺が走った。
「よそ見しないでよ」
「――デバイス駆動」
ウィーダさんと鈴胆さんの声が聞こえて――次の瞬間、コボルドが吹き飛んでいた。
ウィーダさんの放った力強い矢は後詰のコボルトを吹き飛ばし、鈴胆さんの懐の――ライト? から放たれた三角形の光がコボルドたちを貫いた。
一瞬で、二匹のコボルドを倒し、一匹を虫の息にしてしまった。
「……このライトは、その、昔やってたゲームで……」
謎の言い訳を始めた鈴胆さんを尻目に、コボルド達に恐怖が伝わるのが分かる。
後は、あっという間だった。
「高低差? 悪いな、あんま関係ないんだわ」
一気に間合いを詰めて、瀕死のコボルドを貫く龍華さん。
「地の利を得たつもりでしょうけど、それがあるのも一瞬の事です」
投げた武器と共に一瞬でコボルドの目の前に現れ、鞭状の剣を頭に振り下ろしたライラさん。
「遅い……これくらいなら……顕現せよ、レーヴァテイン……!」
猫のように俊敏な動きで爪を避けながら、炎のように赤く光る刀身の剣で斬り刻むリュラさん。
「すげえ……」
瞬く間に、前線のコボルドが全滅――。
「ほれ、速く逃げねば死んでしまうぞ?」
さらにレーヴェさんが、残る後詰のコボルドに冷気を込めた矢を放つ。脚に当たり、コボルドの動きが目に見えて鈍くなる。
「リューク……」
「な、だから言ったろ? ハンターが――」
震えるリリィに、俺が笑いかけたその時だった。
「ガキども!」
龍華さんの怒鳴り声――俺の視界が捉えた、樹の上から襲撃するコボルド――!
「リリィ!」
声すらあげられないリリィ――声をあげることしか出来ない俺。
だけど――そんな俺たちを包んだ光が、コボルドを阻んだ。
「まだ樹の上にいる!」
「モフロウ、行って……!」
すぐさまウィーダさんが矢を、リュラさんが連れていたモフロウに符を持たせて放ち、二匹撃ち落とした。
そしてマリエルさんが、先の光にたたらを踏んだコボルドの前に立ちはだかる。
「擬似接続開始。コード『天照』」
マリエルさんの周囲の光がコボルドを襲い――吹き飛んだコボルドは、二度と動かなくなった。
「怖い思いをさせてごめんなさい」
申し訳なさそうに頭を下げるマリエルさん。
「……リューク、ありがとう」
「? 何言って――」
守ってくれたのはマリエルさんだ。
「ええ、立派ですよ、リュークさん」
クスクスと笑うマリエルさんを見て、やっと気づいた。
俺はリリィの前に庇うように立っていたのだ。
すげえ恥ずかしくなって顔が熱くなり――そんな俺を尻目に、雌雄は決しようとしていた。
「んじゃあ、トドメだな」
龍華さんは、残るコボルドに対して獰猛に笑う。
「――さて、私も仕上げと行くかのう」
レーヴェさんはのんびり言うと、ゆっくり弓を引き絞った。
その先には――。
※
この戦いを見下ろしていたゴブリンは、敵の桁違いの力に戦慄していた。
自分の周囲に侍る三匹のコボルドにも動揺が見られる。このままでは――。
――!
自分だけ逃げるべくコボルドを突撃させようとしたその時、凄まじい速度でこちらに駆ける人間の姿が見えた。
ゴブリンは慌てて投石するが、ちっとも怯まない。
その人間は高く飛び上がり――三匹のコボルドに三角形の光を放った。
二匹のコボルドは光に貫かれて即死した。残りの一匹も時間の問題だろう。
「誰にもある大切な物……そんな宝物を取り戻す、力になって挙げたいから」
だからざくろは、お前を倒す!
少女のような少年――時音ざくろは力強く宣言した。
――!
観念したか、ゴブリンは雄叫びと共に突撃する――が、それすらも満足に出来なかった。
その足下に一本の矢――レーヴェが放った威嚇射撃の矢が突き刺さったためだ。
その一瞬を、ざくろは見逃さなかった。
「想いの場所を護る為、伸びろ光の剣!」
ざくろの振るった光の剣は、ゴブリンの胴を斬り裂いた。
※
「いいですよ! どうせガキの遊び場なんですから!」
「いや、『秘密』基地なんだから目立ち過ぎないようにしないとな」
近所のおばさんからお菓子を貰いすぎた、みたいな困り方をしてるリューク。
というのも、荒らされた秘密基地を、鈴胆さんが先導して修理してくれることになったからだ。
「ねえリュラ、あの職員、子を残すためのつがいを見つけるのに苦労しそうな性格じゃない?」
「……うん、低能って、言うなら、あの人も、同じ……」
「皆様、口ではなくて手を動かしましょう。ほら、龍華様も」
「はあい! ……ったく、なんで俺がこんなことを」
「おい龍華、なっとらんぞ。そこはこうやって――」
正直、戦っている姿はちょっと怖かったけど、やっぱり、本当に良い人たちだと思う。
「リューク、リリィ、秘密基地の様子はどうだい?」
周辺を掃除していたざくろさんが、私たちに笑いかけてくる。リュークはいかにも照れくさそうに、顔を赤くして「いいと思います……」なんて言ってる。ざくろさんは男なのに、女の子にデレてるみたいだ……モヤッとする。
「リュークのバカ」
「はあ? なんなんだよ、リリィ」
なんなんだろう、私……思わず苦笑してしまう。
結局、秘密基地は取り戻せても、リュークは『たからもの』のことを忘れたまま。
「一番大切な宝ものは、いつも直ぐ側にあるのかも知れないね」
ざくろさんの言う通りだ……それは、分かってる。
だから私は、はいと応えようと――。
「貴方の思い出、聞かせてくれませんか?」
ニコニコと笑いながら、マリエルさんが声をかけてくる。
「例えば、この『たからものの地図』の話とか――ね? リュークさん」
マリエルさんが持つ、一枚の地図――『たからもの』の場所に続く大切な地図。
リュークも思い出しかけたのかも知れない。リュークの表情が情けなくなる。
「リリィ……」
「リューク、来て!」
胸のモヤモヤが抑えられなくて、私はリュークの手を引いて走り出した。
「へえ……なかなかすごいや」
感心した様子のざくろさんに、リュークは気まずそうに俯く。
「これが、リリィの『たからもの』なんですね」
私は頷くと、久々に『たからもの』の風景を眺めた。
深い緑が映えて、山々が美しく、キレイな川が流れて、それらがどこまでも続きそうな程に雄大で――それが『たからもの』の場所。
七歳の時、この村に引っ越してきたばかりの私を、リュークが導いてくれた場所。
「リュークさん、何でここを忘れたんですか?」
「……父さんと母さんに、ガキっぽいって言われたから」
「それ、秘密基地のことだったんじゃない?」
ざくろさんの指摘に、リュークはガックリと肩を落とす。
「……ごめん、リリィ」
「ううん、いいの。思い出してくれたから」
そう、それだけで良かったのだ。秘密基地もここも大切だけど、それ以上に――。
「ねえリューク、私――」
「おーい、秘密基地の修繕終わったよ」
鈴胆さん達がやって来た。
「ちょっと、空気読んでよ……!」
「へえ、いい場所ね」
文句を言うざくろさんを尻目に、ウィーダさんは素直に感心していた。
「この場所から見る景色もきっと思い出の詰まった良いものでしょうね」
「幾つになっても思い出は大事にしたいものじゃ」
ライラさんもレーヴェさんもしみじみと呟いた。
「で、この絶景は何?」
「リリィさんとリュークさんの『たからもの』です」
ふーん、そっか……そう言って、また遠い目になる鈴胆さん。
「秘密基地に宝物……か。なんだか懐かしい気分だな」
寂しそうな鈴胆さんの目は、風景じゃなくて、私たちに向けられていた。
私たちに何を見てるのかは、分からない。
私たちを見ていたリュラさんが、何かを決意したように歩み寄る。
「色々、見てきたけど……やっぱり、懐かしい……」
そう言って、リュラさんは私たちにあるものを差し出した。
「もし、ハンターに憧れるなら……これ、託しておく……」
それは、ナイフと杖――ハンターの武器。
「わたしも昔……大切な場所を、故郷を、奪われたから……」
正直、憧れかと言われると分からない。
でも――
「リリィ!」
リュークは杖を受け取った私に怒鳴った。
「こればかりは絶対反対だぞ! ハンターってお前……!」
「だって、大好きなんだもん!」
私は思わず叫んでいた――あるいは、泣いていたかもしれない。
「秘密基地も、たからものも――リュークも!」
リュークは顔を真っ赤にして絶句する。
「私、守りたいの、この思いを――大好きを。だから、怖いけど、それ以上に欲しいの、その為の……その為の――」
今度こそ、私は泣いてしまった。
嬉しくて、怖くて、興奮して、悲しくて――思いっきり、わんわんと。
欲しいの、欲しいの、と。
「……リュラさん」
リュラさんからナイフを受け取って、リュークは私のことを思い切り抱きしめた。
「分かったよ……俺も一緒に守るから、俺も大好きだから、だから、泣くなよぉ……」
結局私たちは、二人して思い切り泣くことになった。
まるで、何か、大切なものに別れを告げるように。
耐えかねたように、龍華さんが咳払いをした。
「思い出は大切な宝物です。ですがそれにばかり縛られていてはいけませんよ」
言葉を連ねる龍華さんは、照れくさそうだった。
「これからは思い出を力に気持ちを世界に向けてみては如何ですか? きっと素敵な宝物が増えると思いますよ」
「はい、そうします――そのために、ハンターになります」
ね、リューク?
そうリュークに笑いかけると、リュークは、とても照れくさそうに、一度、コクリと頷いた。
あの日、自信に満ちた笑顔と共に、私の手を引いた金髪の少年。
導かれるままに訪れた『秘密基地』――掛け替えのない『たからもの』。
だけどその金髪の少年――リュークは違うかもしれない。
私はそれが、とても悲しかった。
――貴方の思い出、聞かせてくれませんか?
徐に飛んできた言葉に、私はハッと振り向く。
穏やかな笑顔と、刀を持つ姿が印象的なマリエル(ka0116)さん。
「私、大切な思い出の話を聞くのは好きなんです」
「……別に」
隣のリュークが無愛想に応える。顔が赤くなって可愛いと思う一方、胸がモヤッとした。
「リュークね、この前背中に枝を引っ掛けて服を破いたのに気づかないで……」
「リリィ!」
私の意地悪に慌てるリュークが楽しい。これから怖い亜人と戦うために山を歩いてるのに……。
「お二人を見ていると、昔の私を思い出すのです」
ライラ = リューンベリ(ka5507)さんが話に入ってくる。メイドさんの格好をしたハンターだ。
「……私も、懐かしい……」
リュラ=H=アズライト(ka0304)さんもポツリと応える。金混じりの銀髪がキレイな人。ライラさんは満足そうに頷いた。
「貴方達はそのままの貴方達でいてくださいね」
貴方もそう思いません?
ライラさんが、前方を歩く龍華 狼(ka4940)さんに声をかける。
露骨に迷惑そうな表情で振り向いたけど、すぐ笑顔を作った。
「そうですね、思い出は何よりの宝物ですよね」
それだけ言って、前を向いてしまった。
リュークと同程度の背丈だけど、リュークの視線に「こう見えてもそれなりに死線はくぐってますのでご安心を」と目の笑ってない笑顔で応えていた。
「……別に羨ましいとか思ってねぇし」
そんな言葉が、聞こえた気がした。
結局、私は自分から声をかけられなかった。
「ゴブリンたちの位置を知りたい。案内できる者はいないかの?」
――特にそこの子供ら何かあるのじゃろ? 言ってみなされ。
ゴーグルのついたキャップを被る女性、レーヴェ・W・マルバス(ka0276)さんが声をかけてきた。
私は思わずビクッとして、リュークの後ろに隠れてしまう。
「こんにちは……何かざくろ達にご用かな?」
そんな私たちに、女の人(実は男の人なのだそうだ)時音 ざくろ(ka1250)さんが、微笑みながら歩み寄る。
「……実はゴブリンが巣食ったの、俺たちの秘密基地だった――」
「お願いします! 道案内しますから、私も一緒に連れて行って下さい!」
真っ白い頭でそう言うのが精一杯だった。
「人の場所を奪う奴は気に入らないな……」
息が詰まりそうな沈黙の後、鈴胆 奈月(ka2802)さんの呟きが聞こえた。
無表情な人だけど、遠い目をして呟いた言葉には実感が篭っていた。
さらに、レーヴェさんも快諾してくれた。
「大人に負けず案内に名乗り出た諸君らの勇気を買うぞ。是非お願いしたい」
「い、いいんすか?」
「そういう理由なら……あっ、でもざくろ達の言う事はよく聞いて、絶対みんなから離れない様にしてね」
ざくろさんの頼もしい言葉に、リュークは言葉もなくペコペコと頭を下げた。
「あ、ありがとうございます!」
――ただ。
一緒に頭を下げる私の頭上から、凛とした声が降って来る。
緑色の髪と瞳のエルフのお姉さん――ウィーダ・セリューザ(ka6076)さんだった。
「守りはするけど、守り切れる保証はない。怪我はするだろうし、最悪死ぬ。それでもよければ……ね」
厳しい言葉に、縋るようにこちらを見るリューク。
「……お願いします」
それでも私は精一杯の勇気を出して、ウィーダさんの目を見てそう言った。
気のせいかもしれないけど、ウィーダさんが微笑んだ気がした。
※
――リュークには分からないもん。
心底悲しそうな、リリィの声。
リリィの言う『たからもの』は、今でも思い出せないけど。
それでも、俺がリリィを傷つけてることくらいは分かって。
俺はそれが、とても辛かった。
「……なるほど、その地図に『たからもの』の場所が書かれてるんですね?」
「うん……すごく大事な場所」
地図? 場所?
俺は何かを思い出しそうになったが、その前に先行していたウィーダさんが皆を制した。
「前方にコボルドが二匹。かなり油断してるね」
ウィーダさんの言う通り、コボルド達は警戒心の欠片もなく、呑気に道の真ん中を下っていた。
ウィーダさんとレーヴェさんが、狙撃することになった。
「ボクはいつでも良い、そっちのタイミングで」
「承知した、今から三を数えた後に――三、二……」
――!
悲鳴が同時にあがる。
二人の放った矢はコボルドの胸に突き刺さり、絶命した。
「すげえ……」
「別に――ここからが本番だよ」
先の悲鳴に呼応するように、獣めいた雄叫びが響いた。
そして現れるコボルドたち――前方に四匹、後詰が二匹。
「ひっ!」
「大丈夫ですリリィ様」
悲鳴をあげたリリィに落ち着き払ったライラさん。俺も足が震えてる。
戦いの火蓋を切ったのは、ざくろさんだった。
「待ってて、基地は絶対取り戻すから……」
――着装! 魔力フル収束!
ざくろさんの全身に光が集まり――光の爆発と共に駆け抜けた。置き去りにされた形のコボルド達に動揺が走った。
「よそ見しないでよ」
「――デバイス駆動」
ウィーダさんと鈴胆さんの声が聞こえて――次の瞬間、コボルドが吹き飛んでいた。
ウィーダさんの放った力強い矢は後詰のコボルトを吹き飛ばし、鈴胆さんの懐の――ライト? から放たれた三角形の光がコボルドたちを貫いた。
一瞬で、二匹のコボルドを倒し、一匹を虫の息にしてしまった。
「……このライトは、その、昔やってたゲームで……」
謎の言い訳を始めた鈴胆さんを尻目に、コボルド達に恐怖が伝わるのが分かる。
後は、あっという間だった。
「高低差? 悪いな、あんま関係ないんだわ」
一気に間合いを詰めて、瀕死のコボルドを貫く龍華さん。
「地の利を得たつもりでしょうけど、それがあるのも一瞬の事です」
投げた武器と共に一瞬でコボルドの目の前に現れ、鞭状の剣を頭に振り下ろしたライラさん。
「遅い……これくらいなら……顕現せよ、レーヴァテイン……!」
猫のように俊敏な動きで爪を避けながら、炎のように赤く光る刀身の剣で斬り刻むリュラさん。
「すげえ……」
瞬く間に、前線のコボルドが全滅――。
「ほれ、速く逃げねば死んでしまうぞ?」
さらにレーヴェさんが、残る後詰のコボルドに冷気を込めた矢を放つ。脚に当たり、コボルドの動きが目に見えて鈍くなる。
「リューク……」
「な、だから言ったろ? ハンターが――」
震えるリリィに、俺が笑いかけたその時だった。
「ガキども!」
龍華さんの怒鳴り声――俺の視界が捉えた、樹の上から襲撃するコボルド――!
「リリィ!」
声すらあげられないリリィ――声をあげることしか出来ない俺。
だけど――そんな俺たちを包んだ光が、コボルドを阻んだ。
「まだ樹の上にいる!」
「モフロウ、行って……!」
すぐさまウィーダさんが矢を、リュラさんが連れていたモフロウに符を持たせて放ち、二匹撃ち落とした。
そしてマリエルさんが、先の光にたたらを踏んだコボルドの前に立ちはだかる。
「擬似接続開始。コード『天照』」
マリエルさんの周囲の光がコボルドを襲い――吹き飛んだコボルドは、二度と動かなくなった。
「怖い思いをさせてごめんなさい」
申し訳なさそうに頭を下げるマリエルさん。
「……リューク、ありがとう」
「? 何言って――」
守ってくれたのはマリエルさんだ。
「ええ、立派ですよ、リュークさん」
クスクスと笑うマリエルさんを見て、やっと気づいた。
俺はリリィの前に庇うように立っていたのだ。
すげえ恥ずかしくなって顔が熱くなり――そんな俺を尻目に、雌雄は決しようとしていた。
「んじゃあ、トドメだな」
龍華さんは、残るコボルドに対して獰猛に笑う。
「――さて、私も仕上げと行くかのう」
レーヴェさんはのんびり言うと、ゆっくり弓を引き絞った。
その先には――。
※
この戦いを見下ろしていたゴブリンは、敵の桁違いの力に戦慄していた。
自分の周囲に侍る三匹のコボルドにも動揺が見られる。このままでは――。
――!
自分だけ逃げるべくコボルドを突撃させようとしたその時、凄まじい速度でこちらに駆ける人間の姿が見えた。
ゴブリンは慌てて投石するが、ちっとも怯まない。
その人間は高く飛び上がり――三匹のコボルドに三角形の光を放った。
二匹のコボルドは光に貫かれて即死した。残りの一匹も時間の問題だろう。
「誰にもある大切な物……そんな宝物を取り戻す、力になって挙げたいから」
だからざくろは、お前を倒す!
少女のような少年――時音ざくろは力強く宣言した。
――!
観念したか、ゴブリンは雄叫びと共に突撃する――が、それすらも満足に出来なかった。
その足下に一本の矢――レーヴェが放った威嚇射撃の矢が突き刺さったためだ。
その一瞬を、ざくろは見逃さなかった。
「想いの場所を護る為、伸びろ光の剣!」
ざくろの振るった光の剣は、ゴブリンの胴を斬り裂いた。
※
「いいですよ! どうせガキの遊び場なんですから!」
「いや、『秘密』基地なんだから目立ち過ぎないようにしないとな」
近所のおばさんからお菓子を貰いすぎた、みたいな困り方をしてるリューク。
というのも、荒らされた秘密基地を、鈴胆さんが先導して修理してくれることになったからだ。
「ねえリュラ、あの職員、子を残すためのつがいを見つけるのに苦労しそうな性格じゃない?」
「……うん、低能って、言うなら、あの人も、同じ……」
「皆様、口ではなくて手を動かしましょう。ほら、龍華様も」
「はあい! ……ったく、なんで俺がこんなことを」
「おい龍華、なっとらんぞ。そこはこうやって――」
正直、戦っている姿はちょっと怖かったけど、やっぱり、本当に良い人たちだと思う。
「リューク、リリィ、秘密基地の様子はどうだい?」
周辺を掃除していたざくろさんが、私たちに笑いかけてくる。リュークはいかにも照れくさそうに、顔を赤くして「いいと思います……」なんて言ってる。ざくろさんは男なのに、女の子にデレてるみたいだ……モヤッとする。
「リュークのバカ」
「はあ? なんなんだよ、リリィ」
なんなんだろう、私……思わず苦笑してしまう。
結局、秘密基地は取り戻せても、リュークは『たからもの』のことを忘れたまま。
「一番大切な宝ものは、いつも直ぐ側にあるのかも知れないね」
ざくろさんの言う通りだ……それは、分かってる。
だから私は、はいと応えようと――。
「貴方の思い出、聞かせてくれませんか?」
ニコニコと笑いながら、マリエルさんが声をかけてくる。
「例えば、この『たからものの地図』の話とか――ね? リュークさん」
マリエルさんが持つ、一枚の地図――『たからもの』の場所に続く大切な地図。
リュークも思い出しかけたのかも知れない。リュークの表情が情けなくなる。
「リリィ……」
「リューク、来て!」
胸のモヤモヤが抑えられなくて、私はリュークの手を引いて走り出した。
「へえ……なかなかすごいや」
感心した様子のざくろさんに、リュークは気まずそうに俯く。
「これが、リリィの『たからもの』なんですね」
私は頷くと、久々に『たからもの』の風景を眺めた。
深い緑が映えて、山々が美しく、キレイな川が流れて、それらがどこまでも続きそうな程に雄大で――それが『たからもの』の場所。
七歳の時、この村に引っ越してきたばかりの私を、リュークが導いてくれた場所。
「リュークさん、何でここを忘れたんですか?」
「……父さんと母さんに、ガキっぽいって言われたから」
「それ、秘密基地のことだったんじゃない?」
ざくろさんの指摘に、リュークはガックリと肩を落とす。
「……ごめん、リリィ」
「ううん、いいの。思い出してくれたから」
そう、それだけで良かったのだ。秘密基地もここも大切だけど、それ以上に――。
「ねえリューク、私――」
「おーい、秘密基地の修繕終わったよ」
鈴胆さん達がやって来た。
「ちょっと、空気読んでよ……!」
「へえ、いい場所ね」
文句を言うざくろさんを尻目に、ウィーダさんは素直に感心していた。
「この場所から見る景色もきっと思い出の詰まった良いものでしょうね」
「幾つになっても思い出は大事にしたいものじゃ」
ライラさんもレーヴェさんもしみじみと呟いた。
「で、この絶景は何?」
「リリィさんとリュークさんの『たからもの』です」
ふーん、そっか……そう言って、また遠い目になる鈴胆さん。
「秘密基地に宝物……か。なんだか懐かしい気分だな」
寂しそうな鈴胆さんの目は、風景じゃなくて、私たちに向けられていた。
私たちに何を見てるのかは、分からない。
私たちを見ていたリュラさんが、何かを決意したように歩み寄る。
「色々、見てきたけど……やっぱり、懐かしい……」
そう言って、リュラさんは私たちにあるものを差し出した。
「もし、ハンターに憧れるなら……これ、託しておく……」
それは、ナイフと杖――ハンターの武器。
「わたしも昔……大切な場所を、故郷を、奪われたから……」
正直、憧れかと言われると分からない。
でも――
「リリィ!」
リュークは杖を受け取った私に怒鳴った。
「こればかりは絶対反対だぞ! ハンターってお前……!」
「だって、大好きなんだもん!」
私は思わず叫んでいた――あるいは、泣いていたかもしれない。
「秘密基地も、たからものも――リュークも!」
リュークは顔を真っ赤にして絶句する。
「私、守りたいの、この思いを――大好きを。だから、怖いけど、それ以上に欲しいの、その為の……その為の――」
今度こそ、私は泣いてしまった。
嬉しくて、怖くて、興奮して、悲しくて――思いっきり、わんわんと。
欲しいの、欲しいの、と。
「……リュラさん」
リュラさんからナイフを受け取って、リュークは私のことを思い切り抱きしめた。
「分かったよ……俺も一緒に守るから、俺も大好きだから、だから、泣くなよぉ……」
結局私たちは、二人して思い切り泣くことになった。
まるで、何か、大切なものに別れを告げるように。
耐えかねたように、龍華さんが咳払いをした。
「思い出は大切な宝物です。ですがそれにばかり縛られていてはいけませんよ」
言葉を連ねる龍華さんは、照れくさそうだった。
「これからは思い出を力に気持ちを世界に向けてみては如何ですか? きっと素敵な宝物が増えると思いますよ」
「はい、そうします――そのために、ハンターになります」
ね、リューク?
そうリュークに笑いかけると、リュークは、とても照れくさそうに、一度、コクリと頷いた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 ウィーダ・セリューザ(ka6076) エルフ|17才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2017/06/16 20:55:40 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/06/15 00:11:39 |