• 血盟

【血盟】ドラグーン・ブルース3

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/06/19 19:00
完成日
2017/07/09 05:58

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 南方を飛び去った強欲竜たちは、空の彼方にある北方王国を目指した。かつて彼らの王と精鋭たちがそうしたように。
 実際のところ、彼らも頭では理解していたのではないか? エジュダハはそう考える。
 既に王はいないし、王はきっと答えを得て満足して散ったのだと。
 ニンゲンが第二次龍奏作戦と呼んだ星の傷跡での戦いで、強欲王メイルストロムは完全に討滅された。
 世界最強の歪虚の一体が滅び去ったのを、エジュダハは遠い大地で感じていた。
 蒼乱作戦において黙示騎士マクスウェルに瀕死の重傷を負わされたエジュダハは力の多くを失った。
 それでもヒトとの対立を好まない強欲竜らを統率し、時にヒトを襲う強欲竜と密かに戦い続けていた。
 その身が歪虚である以上、いつかはこの世界から消えねばならない。
 星の守護者として、王に仕えた近衛の戦士として……その誇りを思い出させてくれたハンターのため。
 だから、この事件が起きた時、今がその時なのだと直感した。
 醜く生き永らえた臆病者の自分が。王やザッハークについて、北方に行く事を拒んだ自分が。
 今こそ、彼らの誇りの為に戦い――そして命を投げ打つ時なのだと。

 龍園に話を伝えた後、エジュダハは一足先に戦場へ向かった。
 いくら龍園がヒトと龍が共存する都市だとしても、歪虚の自分が歓迎されるはずもない。
 危機を伝えた時、自分の役目は既に終わった。後は一体でも多くの強欲竜を迎撃するだけだ。
 雪原に降り立ち、押し寄せる同族を見つめながら思い起こすのは、龍園の景色だ。
 龍とヒトが共存する都市。素直にそれを羨ましく思った。
(僕達は……星の自浄作用を持つ南方のマテリアル火山を。そして彼らは大精霊にも通じる北方の聖地、星の傷跡を守護した)
 その二つが逆だったら……自分たちもニンゲンと共存できたのだろうか?
 青龍は神としての支配によりヒトを律した。赤龍も神として戴かれたのは同じなのに、彼はそれを望まなかった。
 北方と南方。二つはよく似ているのに少しずつ違って……結末が大きく変わってしまった。
(でも、いいんだ。アレは可能性なんだから)
 いつかのもしも、あんな風に生きられたのなら。
 それだけでいい。その希望を見つけたから、きっとメイルストロムもザッハークも最期には辿り着いた。
「僕も追いついたよ、ザッハーク。僕達の答えは、ここにある……!」
 龍園の人々に怪しまれたって構わない。怪しいやつが来た時点で警戒を強めるに違いない。
 背中から撃たれたって構わない。自分の出した答えを信じているから。
「我が名はエジュダハ! 偉大なる王、赤龍様にお仕えする近衛の戦士なり! 僕を倒さぬ限り、ここは通れぬ物と思え!」
 光の翼を広げ、掌に槍を作って飛翔する。脳裏に過るのは、遠い過去の記憶だ。
『まったく……エジュダハ、お前には気迫が足りないのだ。王の近衛としての力を授かりながら、何故戦いを恐れる?』
 ニンゲンで言うなら、兄弟……あるいは幼馴染と言ったところだろうか。
 自分と同じ姿形、色がちょっと違うだけのザッハークは、自分と違って勇敢だった。
 その姿にいつも憧れた。彼はエジュダハの誇りだった。
『僕はね……怖いんだ。仲間がいなくなるのが。戦いなんかなくなればいいのになあ』
『お前は馬鹿か? 龍にとって星を守護し討ち死にするのは誇らしいことだ。立派なことなんだよ』
『それはわかってるけど……でも、嫌なんだ。だって僕らが死んだら――メイルストロム様が悲しむじゃないか』
 光の翼から無数の光線を降り注がせる。爆散する衝撃が強欲竜を薙ぎ払う。
 マクスウェルから受けた傷は修復されていない。構うものか、残りの命を全てここで使い切るつもりで――。
『腰が退けているぞ! 攻撃には気合を入れろ! 龍というのは咆えるものだ!』
『お、おおー!』
『馬鹿、なんだそれは!? そんなだから他の守護龍になめられる! いいか、雄叫びというのはだなあ……こうやるのだ!』
『「オォォォォオオオオオオオオオオオオ――――ッ!!」』
 口元に集束させた光を一気に解き放つ。ブレスは小さな強欲龍を蒸発させながら巨大な龍の腹を吹き飛ばした。
(ごめん、ごめんよ、我が同胞。君たちだって本当は戦いたくなんかないんだろう?)
 その両目から涙を流しながら、それでもエジュダハは戦いを止めない。
 反撃のブレスが、そして翼竜たちが次々と群がり牙を立てても怯むことはない。
「この先にあるのは……光だ。僕らが切望し、決して届かなかった希望だ! だから! それだけは決して“君たちの手で”潰させるわけにはいかない!」
 だって――君たちだって欲しかったはずだ。この未来が。
 尊く思ったはずだ。妬ましく思ったはずだ。
 それを歪虚化の影響で破壊させたくない。だってそれじゃあ報われない。君たちが、救われない!
 他者がそれをどう思うかは関係ない。少なくとも彼は、こんなになってもまだ、誰かの為に、仲間の為に闘っていた。
 戦いの最中、傷口が開き血が吹き出す。身体がよろけると好機と見た火竜がブレスを叩き込んだ。
 光の翼が消え、雪原に墜落する。そろそろ限界かもしれない。でも、まだだ。
 彼らを救いたい。自分はどうなってもいい。ただもう一度だけ飛びたい。憧れた親友のように、勇敢に――。

「エジュダハ!」
 背後からの声に視界が開けた。上体を起こし振り返ると、駆けつけるハンターの姿があった。
 その中には以前共闘した者の姿もある。篠原神薙はエジュダハに駆け寄ると、その傷を見て顔をしかめる。
「マクスウェルから受けたダメージが回復していないのに……無茶をしたね」
「来てくれたんだね……ハンターたち」
「もう少し待ってくれれば……でも、エジュダハが先行してくれたお陰で時間が稼げた。俺達は全力で迎撃できる。ありがとう、エジュダハ」
 肩を借りて立ち上がる。その体に残された負のマテリアルはもう多くない。
 でも大丈夫だ。まだ飛べる。だって、“仲間”が来てくれたから。
(見えるかい、ザッハーク……見てくださっていますか、メイルストロム様)
 立ち並ぶ勇敢なハンター達、そして駆けつけた龍園の戦士たち。
(この世界は大丈夫だよ。守護者の誇りは受け継がれていく。僕達の命に――意味は在ったんだ)
 もう一度光の翼を広げる。戦いはまだ、はじまったばかりだ。

リプレイ本文

●託すもの、託されたもの
「エジュダハ! 待たせた!」
 相棒のイェジド「ウォルドーフ」に跨り、岩井崎 旭(ka0234)は膝を着いたエジュダハの隣に並ぶ。
「やはり来てくれたのは君たちだったか……!」
 ハンターの姿を確認し、エジュダハは嬉しそうにしきりに頷く。
「へへ、どうやら本当に待ってくれてたみたいだな。でも、来たのは俺だけじゃないぜ?」
 鼻頭を擦る旭の言葉に続き、雪煙を巻き上げながらCAMが次々と迫ってくる。
 近衛 惣助(ka0510)は視界に表示されるエジュダハの様子を確認し笑みを浮かべる。
 彼とは一度共闘した。その時はこんな凍土とは正反対の砂漠だったが……。
「君の命がけの行動に報いるとしよう。ここからは俺達に任せておけ」
(エジュダハ……あんなにボロボロになって……それなのに戦い続けるなんて)
 レホス・エテルノ・リベルター(ka0498)の胸中にはまだ迷いがあった。
 彼はこのまま戦えばきっと命を落とすだろう。それはレホスだけではなく、彼本人が一番理解しているはず。
「これがキミの選んだ道なんだね。ここがキミの、最期の……」
 頭を振って操縦桿を握り直す。
 まだ、レホスは迷ってばかりだ。どんな道が正しいのかなんてわからない。わかるはずもない。
 でも、あの時の言葉を嘘にはしたくなかった。
「友達が戦ってるんだ。ボクは……キミの隣で戦うよ。それが、今のボクの答えだ」
 勿論、誰もがエジュダハを信用しているわけではなかった。
 彼は明確に歪虚だったし、何より高位の力を持つ歪虚だ。弱っていようがなんだろうが、脅威に違いない。
(だが……惣助の太鼓判もある。今不和を煽るのは得策じゃないネ)
 あの歪虚が味方を裏切った経緯をフォークス(ka0570)は知らない。
 だが、今回同行するハンター達の話を聞けば、少なくとも積極的に攻撃を仕掛けるべきではないと判断できる。
(それに、あの深手だ。警戒さえ怠らなければ、十分に対処できる)
 その時はまとめて照準に入れてしまえばいいだけのこと。
 友好的な態度を示し、疑う事をしないお人好しが多いのなら、自分が目を光らせておけば良い。
「それに、エジュダハは歪虚ですから、それよりは神薙さんたちが生きて帰ることの方が大事です!」
 水城もなか(ka3532)の言葉に神薙は苦笑を浮かべる。
「俺も高位歪虚との戦いを経験してるし、大丈夫ですよ?」
「そこは個人的な拘りの話ですので、元統一地球連合宙軍所属としてほっとけませんよ! まあ、エジュダハを積極的に攻撃する理由もありませんけど」
 「EWACデュミナス」のコクピットからエジュダハを見下ろすもなか。
 彼女はフォークスとはまた少し異なる視点でエジュダハに懸念を持っていた。
 あの歪虚は見るからに長くない。だが、彼が実際にこの戦場で力尽きる時……彼と縁のあるものたちは、何を思うのだろうか。
 その時、エジュダハを優しい光が覆った。レイレリア・リナークシス(ka3872)と銀 真白(ka4128)の連れたリーリーの放った回復魔法だ。
「エジュダハ様は命を削って危機を伝えてくださった“味方”……そう簡単に死なせはしません」
「歪虚は敵だ。だが……龍と人の為、命を張っている相手を信じられない程、腐ってもいない」
 二人の言葉に呼応するように、旭も自らの身体に光を集める。
 自分への回復効果を他者にも発揮する、コンバートライフと呼ばれる新たな技で、エジュダハを回復したのだ。
「ザッハークの時には、まだ出来なかったな……」
 思えばあの竜もまた、最期にはヒトと肩を並べて戦った。
 あれからあっという間に月日が流れた。それを懐かしく思う。
「皆、ありがとう。歪虚である僕の為にここまでしてくれて……」
 しかしレイレリアは気づいていた。これ以上、彼の傷は大きく癒えないだろう。
 歪虚だからなのか、それとも“重体”だからなのか……回復自体は効果を確認できるが、傷を癒やしきる事は難しい。
「エジュダハと神薙殿には飛竜への対応に助力願いたい」
「今の僕に出来る事は限られているからね。せっかく癒やしてもらった傷を増やすようじゃ、本末転倒だ」
 頷きながらエジュダハは光の翼を広げる。それは彼にとっては弓でもある。
「力を全て攻撃に回すよ!」
 頷き返す真白。彼はハンターを信頼している。そしてその行動に報いようとしている。
 CAMのコクピットでそれを確認し、リュー・グランフェスト(ka2419)は目を瞑る。
「エジュダハ……メイルストロムの部下、か」
 ならば、自分にはきっと義務がある。
 彼の王に託されたもの。その一つに、きっとエジュダハも含まれているだろうから。
「俺はリュー。リュー・グランフェストだ。愛機、“赤龍”に乗り、歪虚に堕ちた誇り高き龍を援護しよう!」


●龍が奏でる哀の歌
「速攻で決めるぜ、みんな!」
 リューを乗せたCAMが雪を巻き上げながら突撃を開始する。
 今回、龍園を目指して進軍する敵の数はかなり多い。
 特にワイバーンの数はかなりのもので、一体ずつの戦闘力が低かったとしても侮れない。
 また、数は五体と少ないが、サイズ4の巨大なフレイムドラゴンも襲ってくる。
 こちらは個体当たりの戦闘力が非常に高く、数を埋めて余りあるだろう。
 ハンターはこれに対し、飛竜と炎竜それぞれに対応を振り分ける。
 どちらかと言うと飛竜方面に人数が多いのは、こちらを先に片付ける寸法だろうか。
「来い、赤の竜!赤の龍王の眷属たち! あんたらの無念も! 怒りも! 悲しみも! 全部ここにぶつけに来やがれ!!」
 駆けるウォルドーフの背から叫ぶ旭。飛竜たちは空中から次々に火炎弾を降り注がせる。
 問題なく回避するウォルドーフだが、今のところ敵の軍勢は全て空中から攻撃を仕掛けている。長射程の攻撃がないと不利だ。
「かなりの数ですね……まともにぶつかると厄介そうです」
 デュミナスに搭乗するもなかは、並走する真白のリーリーを一瞥する。そこには神薙も同乗していた。
 真白のリーリーは二人乗りの訓練を受けている。故に、神薙を乗せても性能は低下しない。
「神薙殿と共に龍を追うのは二度目だな。此度も頼りにさせて頂く」
「はは、そうだね。いつも乗せてもらって悪いけど、その分頑張るよ!」
 力強く返す様子に真白は頷き、小さく笑う。
「……うむ。どうやら切り替えは出来ているようだな」
 リアルブルーでの戦いでは色々と悩んでいた様子だったが、今はそんな気配は微塵もない。
 良くも悪くも今は他人の都合を優先しているのだろう。そういう性格なのはなんとなくわかってきた。
「見ての通り、空を行かれては中々手が出せぬ故な。敵を地上に引きずり落とす……!」
 弓を構える真白。同時に神薙もスキルを発動する。
 デルタレイの光と真白の矢が飛竜めがけて飛んでいく。それにもなかも合わせ、アサルトライフルのトリガーを引いた。
「いざという時は私の後ろに隠れて下さい。シールドで防御します!」
 サイズ3のCAMは、味方への射線を防ぐことができる。危険を感じたら盾になるつもりだ。
「こんだけの数だ、チマチマやっててもキリがないからな。まとめて叩くぜ!」
 リューはスキルトレースの力でソウルトーチを発動しながら疾走する。
 ソウルトーチは必ずしも全ての敵の注意を引けるわけではないが、10体程がリューに狙いを定めたようだ。
 しかし誤算があった。リューは飛竜をまとめたかったのだが、炎竜まで反応してしまったのだ。
「げっ」
 炎竜のサイズは4。それほどの大きさになると、やはり射線を防いでくる。
 大型竜の影にワイバーンが隠れてしまうと、一網打尽に出来ないどころか、集中攻撃を受けかねない。
 だが、そうはならなかった。リューを追跡する炎竜に惣助とフォークスの駆るCAMが銃撃を仕掛けたのだ。
「この雪原で片を付けるぞ! ここが奴らの終点だ!」
「幾らなんでも欲張りすぎだヨ」
 二機のCAMによる射撃は、攻撃を目的としたものではない。
 スキルトレースで巧みに再現された射撃技術による、牽制や制圧を目的とした射撃。それも特に炎竜を狙ったものだ。
「戦場のリズムってやつを教えてやる」
 炎竜の足が止まれば、当然ながら飛竜からは分断される。そして動きを封じようとする二人を、炎竜が無視できるはずもない。
 多数の竜種が飛び回るこの戦場において飛竜と炎竜を分断するというのは、口にするのは容易いが工夫が必要だ。
 敵戦力の分断において、この二機の活躍は大きかったと言える。
「デカブツが離れた! サンキュー、二人共……今なら行けるぜ!」
 スラスターで前進しながら背後へ銃口を向けたマテリアルライフルの引き金を引く。
 ソウルトーチの効果でリューを追従する翼竜たちを閃光が貫いた。
「っしゃ、連中の高度が下がった! 行くぜウォルドーフ!」
 旭はその背中から飛び降りると、空中に幻影の腕を伸ばす。ファントムハンドだ。
「おおおおおらああああっ!」
 そして飛竜を捉えると、自分に向かって引き寄せハルバードを叩き込んだ。
 同時に空中に跳躍したウォルドーフは飛竜に飛びつき、地上へ引きずり下ろす。マウントロックを空中で食らっては、当然の結果だ。
 旭は対空攻撃手段には優れていない。だが味方の対空攻撃で高度が下がれば、それを地上に引きずり下ろす手段には優れていた。
「すごい力技だなあ~……」
「だが、有効な戦術でもある。岩井崎殿の爆発力は頼りになる。このまま敵の高度を落とし、彼の遊撃を支援しよう」
 真白は旭の方へリーリーを走らせながら、自らもソウルトーチを発動する。
 炎竜はCAM隊がうまく引き受けてくれている。今度は引っ掛けてしまう心配はなさそうだ。
 空中から飛竜が放つ火炎弾が降り注ぐ。これに神薙は防御障壁で守りを厚くする。
 真白は元々ソウルトーチのリスクは承知の上で、自衛手段を用意している。それも合わせれば、猛攻にも耐えられそうだ。
「マテリアルの波動で歪虚を誘導しているのか。ニンゲンの技は不思議だね」
 リーリーに並走するように飛行するエジュダハは、神薙と息を合わせ、閃光を発射する。
 次々に炸裂する光がワイバーンの翼を食い破る。当然黙っていない飛竜による反撃を、今度はもなかのCAMがシールドを広げて防御する。
「お返しです!」
 手にしたアーマーダガーを投擲する。刃は狙い通り飛竜に突き刺さった……が、もなかは首をひねる。
「あれ? おかしいですね……」
 本来ならばマテリアルで投擲をコントロールするスキル、「広角投射」により、回転するように投げたダガーがブーメランのように次々に飛竜を食い破る予定だった。
 だがスキルトレースシステムは完全ではない。“習得レベル”が低いスキルでなければトレースできなかったのだ。
「うーん、CAMの扱いはまだ不慣れですね……分かっていたことですが。でも、防御力は十分です」
 シールドで防御すれば、飛竜の火炎弾を受け続けても問題はない。射線を防げば、ソウルトーチで真白が敵を引きつけすぎてもダメージをコントロールできる。
 作戦としては、ここはペアで動きつつ――旭やリューのいる方へ敵を誘導するのが得策だろう。
「ガンガン行くぜ!」
 リューはマテリアルライフルを4発撃ち切るように放ち続ける。
 今のところ飛竜班の対空攻撃としてはこれが最大効率で、威力もかなり高い。
 だがマテリアル兵器やそのスキルの使用可能回数はまだまだ少ない。故に、全ての飛竜の高度を下げる前に打ち止めとなってしまった。
「しゃあねぇ、ジャンプすっかぁ!!」
 アクティブスラスターでの跳躍から、空中で繰り出す斬機刀。その動きはリューの刺突一閃を再現する。
「紋章剣『天槍』! どりゃあああ!!」
「俺達も行くぜ、ウォルドーフ! 堕ちやがれええ!」
 空中で格闘戦という大胆な挙動をするリューに、敵を引きずり下ろしてぶっ叩くという旭。
 だいぶ対空戦闘としては大雑把だが、それを可能にできるだけの強さがあるのだから仕方ない。
「あそこに敵連れていくのちょっと可哀想だな」
「まだまだ敵の数は多い。包囲されぬように調整しつつ、撃ち落としてゆくぞ」
 神薙はうなずき返し、デルタレイを放つ。それに続き真白も側面から迫る竜へ、長弓より矢を放った。

 炎竜の放つ火炎弾は、強力な魔術師のファイアーボールのようだ。
 狙いはそこまで正確ではないが、爆発範囲が広く、直撃せずとも空爆としての圧力は十分にある。
 これに対抗できた大きな理由として、火属性への対策があげられるだろう。
 惣助もフォークスも火属性攻撃を防ぐ準備を怠らなかった。“フレイムドラゴン”、つまり炎の竜なのだから、必然的に攻撃属性は予測される。
 爆炎に対し惣助は耐熱素材を用いたシールドで防御。フォークスは同じシールドに加え、耐熱マントの二段仕込みだ。
「戦場で盾になるのが俺の仕事だ。要塞砲にも耐えた機体だ、容易く倒れはしない!」
 高熱の爆炎で吹き飛ぶ雪が蒸発する湯気を突き破り、フォークスはアサルトライフルでの迎撃を続ける。
(ブレス攻撃じゃあたいらは倒せないヨ。そろそろ気づいた頃か?)
 執拗に爆撃を繰り返していた炎竜達の高度が下がってくる。
 フォークスの読み通り、ブレスが通用しないと気づけば、当然ながら高度を下げての格闘戦を挑んでくる。
 その動きから味方の攻撃へつなげるため、距離を意識した戦闘が功を奏してた。
「南方で同じような敵と戦ったときは硬い鱗に弾かれたけど、強化した四連装カノン砲の威力ならどうかな!」
 後方ではどっしりと構えたレホスの「射撃支援型ドミニオンMk.IV」が200mm4連カノン砲を構えていた。
 さっきから敵の飛行軌道は爆撃の為にワンパターンだ。さほど神経質にならずとも、撃てば当たる。
 引き金を引くと同時、爆音が轟いた。そして砲弾が次々に炎竜の脇腹に直撃する。
 炎竜の悲鳴、そして飛び散る鱗……。レホスは攻撃が有効であることを確信する。
「よし……やれる。今のドミニオンなら……!」
 だが、安全圏からの砲撃など炎竜が容認できるはずもない。であれば、即座に攻撃に移るのが妥当。
 しかしそれを惣助とフォークスがさせない。制圧射撃、牽制射撃で動きを封じてくる。
「リベルターはやらせん!」
 そして、飛行する敵への牽制や制圧で動きを止めるというのは、そのまま敵を墜落させることに繋がる。
 飛行というのは簡単ではない。飛び続けるためには揚力を得続ける必要があるし、そのために必要な羽ばたきのリズムというものがある。
 例えばレシプロをうまく回せなくなった飛行機が墜落するように。自在に空中を飛び回る竜種とて、じわじわと自由を奪われていく。
(お二人の攻撃が炎竜を封じている。飛行する敵への対処としては最善手……同意見ですね)
 リーリーで地上を走るレイレリアはその機動力を活かし、敵の足元をすり抜け、ちょうど二機のCAMと炎竜を挟んで反対側へ。
 敵は小さなリーリーよりも自分たちに取って邪魔な二人のCAMを優先する。当然のように死角に入り込めた。
 そして、スタッフを振るい魔法を放った。紫色の光がほとばしり、炎竜を飲み込んでいく。
 狙いは炎竜を地上へ叩き落とすこと。敵を墜落させるなら、「行動不能」より「移動不能」がいい。
 移動――羽ばたきながら前進するという機能を翼から奪ってしまえば、あとは落ちるしかないのだから。
 雪を巻き上げながら一体の炎竜が墜落する。
「撃ち落とした敵から、各個撃破……!」
 墜落の衝撃で悶える炎竜に照準を合わせ、レホスは砲撃を繰り出す。
(強欲の歪虚。地球で戦った狂気のVOIDとは違う。照準の先に居るのは、この星のために戦った者たち……だけど、引き金を引くのに躊躇なんてしていられない)
 自分たちが背にしている龍園と呼ばれる都市は、龍とヒトとが共に歩む都市。
 それこそ、彼らが本来守ろうとした世界そのものだ。
「だから……私は、貴方達を止めるんだ。それが彼の……友達の願いでもあるんだから!」
「慣れない装備だが、そうも言ってられないか!」
 惣助のCAMは大太刀「蒼水月」 を抜き、墜落した飛竜へと加速する。
「アグレッシブ・ファング起動、こいつで畳み掛ける! アサルトダイブ……行くぞ!」
 突進と同時に繰り出す突き。この太刀の属性は水、これも炎竜への対策として持ち込んだものだ。
 もちろん、効果は抜群。突き立てた刃を振り抜くと、首筋から大量の血が吹き出した。
「やはり水属性は有効ですね……では、次はこちらです」
 リーリーで走りながらレイレリアは次にブリザードを放つ。
 彼女の魔法は元々強力だが、敵が大型ならば更にその威力はます。巨体は冷気の嵐をモロに受けてしまうのだ。
「逃しはしません……この極寒の地で、雪と氷に包まれ眠りなさい」
 この、対炎竜班の特筆すべき点として、とにかく敵の行動を許さないことがあげられる。
 行動阻害や移動阻害でペースを掴み、属性攻撃で一気に攻め立てる。
 五体の炎竜は、一体一体の戦闘力だけでいえば、CAMをも上回る。一体の飛竜を相手に、本来なら二機ほどのCAMを当てたいような相手だ。
 それを四人だけで優位に持ち込み、ほぼ一方的な展開になったのは、戦術がきっちり噛み合っていた証拠だろう。
「おっと。そっちにゃ行かせないヨ」
 特にフォークスはこの班のペースメーカーとして機能していた。
 射撃戦でおざなりにしがちなリロードもスキルトレースで高速化出来ている。
 足を止めれば当然距離感が狂ってしまうので、まともにリロードしながらではうまく敵を抑えきれなかっただろう。
 レイターコールドショットによる射撃も、属性を合わせ威力が上がっている上に強力な行動阻害で攻防の要となる。
「ハ、いい子チャンだ。そのままノロノロついてきな!」
 炎竜たちが放つブレスをシールドで薙ぎ払い、Mハルバード「ウンヴェッター」を繰り出す。
 収束するマテリアルの光は、マテリアルライフル発射の予兆。
 まるでハルバードを振るうようなモーションで放たれた閃光は、鋭い一条の槍のように炎竜を貫いた。
「ドラゴンステーキの出来上がりだ。付け合せに潰れたトマトいかが?」

「すごい、炎竜側は有利みたいだ」
「うまく敵を翻弄しているな……こちらも負けてはおられん」
 ソウルトーチを発動して走る真白。それに追従し、アサルトライフルで敵を迎撃しつつ、真白への攻撃を遮断するもなか。
 そして、神薙とエジュダハによるデルタレイで飛竜の翼を撃ち抜き、高度を落としながらリューと旭の元へ導く。
 こちらも作戦としては順当な流れで――まあ、リューと旭の凶暴さに周りが合わせた形だが――敵殲滅は順調だ。
 策を練って集団行動するという点において真白ともなかは十分に役割を果たしていた。そして……。
「やっぱ赤の竜はカッコイイなぁ。最高だ。だからこそ……負けられねぇよなァ!」
 奥義を発動した旭が幻影の鎧を纏い巨大化する。更に延長されたハルバードの射程で飛竜をねじ伏せていく。
『オォオオオオオオオ!!』
 その様はまさに荒れ狂う嵐のようで、とても飛竜に耐えきれるような威力ではない。
 それにあわせ、ウォルドーフも脇に装備した鎌を展開し、飛竜へ飛びかかる。
 イェジドは敵の動きを封じたり、牽制したりする能力にも長けている。元々の高い移動力にそれらを駆使すれば、飛行する敵を捉える事は十分に可能だ。
「おらおらおらぁ! 俺はここだぜ、かかってこい!」
 CAM搭乗状態で刺突一閃を連発しながらソウルトーチを灯すリューも、なんだか掃除機のような動きをしている。
 当然こんな連中に近づきたくないので空中からブレスで攻撃するが、こいつらはピンピンしてるし、そちらに注意を向けると真白やもなかに挟撃される。
 真白は矢を番え、そして放つ。狙いは翼で、無理に敵の撃破までは望まない。
 撃ち落としさえすれば、あとはあの二人がやってくれるのだ。丁寧に仕事をすれば、勝利はそう遠くない。
 実際、ワイバーンの数はみるみる減っていた。とっくに半数を切り、残すところは六体ほどだ。
「既に敵は総崩れです! 一気に片付けましょう!」
 もなかの機体がアサルトライフルでまた一体の飛竜を撃ち落とす。
 ここまで数を減らされれば、戦力差は圧倒的だと理解できるはず。通常の生物の本能で語るなら、逃亡を開始すべきだろう。
 だが、まるで狂気に駆り立てられるように飛竜は攻撃をやめない。
「彼らにはもう、帰る場所もない。奪うという行為は、本来何かを欲するが故に在る。だが、彼らの胸にはもう、欲する心すら無いんだ」
 エジュダハが寂しげに呟く。もとより敵は決死隊。完全にどちらかが滅び去るまで戦いは終わらない。

 暴れ狂う炎竜の翼に打ち込まれたレイレリアのアイスボルトは未だに束縛を続けている。
 動きを止めて地に堕ちた竜へ惣助は接近し、その口にランスカノンを突き立て、続けて引き金を引く。
 竜の腹が爆ぜ、血が吹き出す。呻くような悲鳴と共に、二体目の炎竜も崩れ去った。
「直ぐに仲間の所に送ってやるヨ」
 フォークス機はレイターコールドショットで炎竜を撃つ。
 その凍結の影響を受けながら突撃してきても、回避はまったく容易い。
 すれ違い様にマテリアルハルバードを振るい翼を斬りつけると、レホスのスラスターライフルが飛竜の頭部に次々に着弾する。
「残り一体……!」
 レイレリアが最後のブリザードを放つ。それに合わせ、三機のCAMが集中砲火を浴びせると、最後の炎竜も呆気なく地に堕ちた。
「よし、全ての敵を倒した。……が、こっちにはまだ余裕があるな」
「モタついてる龍騎士隊の手伝いでもしてやるかネ。勿論、追加報酬はもらうケド」
 惣助の言葉に笑みを浮かべるフォークス。
 そう、この戦域ではハンターに任された敵以外も存在している。
 そちらは龍騎士隊や他のハンターが交戦しているが、まだ決着は着いていない様子だ。
「私もまだアイスボルトが使えますね……友軍との共闘であれば十分でしょう」
「ワイバーンの方も終わってるみたいだしね。うん……行こうか!」
 戦いが長引けば龍騎士隊にも被害が出てしまう。
 青の龍と赤の竜が殺し合う……それはレホスにとってもあまり見たい光景ではない。
「おっ? あっちも終わったみたいだが……龍騎士隊を助けに行くみたいだな」
「いいね! まだ暴れ足りないと思っていたところだぜ!」
 飛竜対応班もその動きに気づき、後に続く。
 空中では飛竜に跨る龍騎士が多数のワイバーンに包囲されていた。
「エジュダハ、まだ飛べるか?」
「君たちが守ってくれたからね。僕もまだ行けるさ!」
 エジュダハの言葉に頷き、真白はリーリーを反転させる。
 戦闘になれない年若い龍騎士もいるのか、戦況は互角といったところだ。しかし、そこへハンター達が援護に入ってくる。
「もうあの大軍を片付けたのか!? 流石は噂に聞く、新たな星の守護者たちだ。龍騎士隊も彼らに続け!」
 こうしてハンターたちは自分たちの仕事だけではなく、龍騎士隊の支援まで行う事になった。
 その結果として、龍騎士隊の被害を最小限に抑えての敵殲滅に成功。
 龍騎士隊と彼らの駆る青のワイバーンは、一騎も命を落とすことなく、この戦いを終えたのだった……。


●トモダチ
 全ての強欲竜が撃破されると、雪原に静寂が戻った。エジュダハはそれを確認すると、これまでの疲労が一気に出たのか、その場に膝を着いてしまう。
「エジュダハ!」
「……あれはもう長くないネ。行ってやりなヨ、周辺警戒は引き受けるからさ」
 焦るレホスの声にフォークスは答え、促すようにCAMの手を振る。
 あの状態からではエジュダハが悪さをすることはないだろう。
「あたいにお涙頂戴は似合わないんでネ」
 それに、実際のところ周辺警戒は必要だ。その“理由”にもフォークスはちゃんと気づいていた。
 CAMを降りたレホスが弾かれるように雪原を走る。それは他のハンター達も同じだったようだ。
「エジュダハ! ったく、無茶しやがってよ!」
 駆けつけ、エジュダハの傷を見て旭は眉を潜めた。
 元々、黙示騎士マクスウェルに受けた傷は致命傷に近かった。
 生半可な歪虚なら消し炭になるほどの一撃を、エジュダハはうまく防いだから耐えられた。
 それでも傷は癒えなかったからこそ、エジュダハは表舞台に立たず、裏で南方の強欲竜たちを人里から隔離する方法を模索していたのに……。
「エジュダハはこうなることを承知の上でここに来たのだ。戦士が命の賭け所と定め、その志を果たした結果だ」
 真白はリーリーから降りると、そう言ってエジュダハを見つめた。
 彼は最初から死ぬつもりだった。それでも最後まで生きて、そして多くを救った。戦士としての本懐を遂げたのだ。
「見事であったな」
 それ以上に真白からかける言葉はなかった。
 歪虚の武功を称えるなんて奇妙な話だ。東方の武人としてあるまじき、かもしれない。
 だが、東方の武人だからこそ――武と義に生き、そして死のうとしている眼の前の歪虚を侮辱することは出来なかった。
「ボクも……最初からわかってたよ。エジュダハがもう長くないって……」
 レホスは胸の前で手を組み、息も絶え絶えな強欲竜を見る。
 だが、強欲竜の瞳には強い光があった。流す血が塵となって消えていく。それは消滅の予兆だ。
 それでもエジュダハは満足そうだった。竜の表情などわかるはずもないが、少なくともレホスには穏やかに見えた。
「ありがとう、ヒトの友よ。世界の新しき守護者たちよ。僕は後悔していないよ。むしろ、とても嬉しいんだ」
 エジュダハはそう言って、大きな、無骨な手でレホスの頭を撫でる。
「僕はたたそこにいるだけで負のマテリアルを放ってしまう高位歪虚だ。世界の為に消えなきゃいけない」
「……ごめんなさい。私は貴方の救い方を知らない。貴方が生きる道を、見つけてあげられなかった……」
 レホスもわかっていた。エジュダハを救う方法など存在しないと。
 これまで何千年も、それこそ紀元前からこの世界は歪虚と戦い続けてきた。
 もしも共存する道があるのなら、きっと誰かがそうしただろう。でも、正負に分かたれた存在は根本的に同じ空気で生きられない。
 どちらかが存在すればどちらかが息苦しくなる。この戦争は――そう、“戦争”は。生存権という、譲れない価値を賭けている。
「もっと早く出会いたかった。もっと早く友達になれたら、私たちは……もっと一緒に笑いあえたのに……!」
 涙を流すレホス。そのレホスの頬に指を当て涙を拭い、エジュダハは首を横に振る。
「それは違う。君たちのお陰で僕は、やっと笑えたんだ」
「え……?」
「僕は世界から消えなきゃいけなかった。でも怖かった。恐れていたんだ……。何の意味もなく消えることを。誰の心にも残らぬまま、意味すら刻めぬまま、ただ消えていなくなることを……」
 “龍”は死を恐れない。
 それは、龍は精霊種としての性質も持ち合わせる生き物だからだ。
 彼らは死んでも星に還り、転生する。死はひとときの夢に過ぎない。世界が存続する限り、彼らの命は舞い戻る。
 だから、彼らは“本当の死”である星の終わりを恐れる。そして、“仮初の死”を恐れない。
「でも、歪虚は死んだら無に還る。僕は……仲間たちの所には、行けない。それが怖くて仕方がなかった。でも、君たちが僕の生に意味をくれた。僕は最後に、自分の夢を叶えたんだよ」
「エジュダハ、君に感謝と敬意を。君は歪虚だが、俺の仲間だ」
 惣助はそう言って敬礼する。地球統一連合宙軍の、正式な敬礼だ。
「後ろを見てみるといい。君が守った未来が、そこにある」
 ――もし、ハンターが戦闘に苦戦すれば、こういうことにはならなかっただろう。
 龍騎士隊はエジュダハから一定の距離を置きながらも、青のワイバーンから降り、整列していた。
 彼らに死者はいない。負傷も軽度なものだ。故に、こんな余計なことをしている余力があった。
 ハンターが事をスムーズに成し遂げたから、彼らが実際にエジュダハと共闘する僅かな時間が作られた。だが、それだけで十分だ。
「ありがとう、赤の守護竜よ。貴殿の活躍で、我らは龍園を守り抜くことができたのだ」
 フォークスはその様子をカメラで捉え、苦笑を浮かべる。
「全員降りちまって、警戒はどうするんだヨ。これだからシロートは……」
 エジュダハはとても満足そうに頷いた。そして目を閉じ、遠き月日に想いを馳せる。
「ああ――僕はやったよ。我が王メイルストロム様……僕のトモダチ、ザッハーク。僕はやったんだ……」
「俺は、メイルストロムの最期に立ち会った」
 リューはそう言ってエジュダハを見つめる。
「王の最期に……?」
「ああ。あいつはとんでもなく強かった。そして哀しい目をしてた。でも最期には、俺達を導いてくれたように思う」
 あの星の傷跡で対峙した王は、まさに威風堂々、王としての姿を見せてくれた。
「そして言ったんだ。あとは頼む……そう、あの龍は俺に、俺達に告げた。だから、あんたの思いも俺らに託しちゃくれないか?」
「ああ……」
 安堵したように、エジュダハはしきりに頷く。
「そうなのですね、王よ。辿り着いていたのですね……あなたも、答えに」
 龍は死んでも転生する。だから死を恐れない。
 彼らは本質的に、“継承する生物”なのだ。
 自分が死んだあとも、この世界は残っていると信じられるから、死を恐れず勇敢に戦える。
 誰にも告げぬ、継げられぬ想いを抱えた王。だが、遥かな時を超え――答えにたどり着いた。
「僕は死んだら無に還る。でも、僕は終わらない。こんなに嬉しいことはない。僕の魂を継いでくれるんだね。君たちこそ、世界の守護者。龍の嘆きを埋める者だったんだ――」
「……せめて、傷だけでも塞いで送ってやろうぜ。なあ、みんな?」
 旭の言葉に応じ、真白とレイレリアがリーリーに回復を指示する。
 といっても、簡単な傷が消えるだけで、マクスウェルから受けた傷は塞がらない。
「私はエジュダハ様のことはよく存じ上げませんが、その勇敢な行動に感謝と敬意を……。知らせがなければ、今頃龍園が戦場になっていたかもしれないのですから」
「まったくだぜ。ありがとう、エジュダハ。未来は、任せろ。安心して見ていてくれ。……ああ、くそっ、本当はもっと色々、言いたいことがあるのに!」
 レイレリアの言葉に続き、わしわしと頭を掻く旭。
 ふと、そこへもなかが歩み出る。そして短剣をエジュダハに突きつけた。
「死の苦しみの中、しかし死ねないというのは苦しいものでしょう。介錯は必要ですか?」
 それは、傷を癒やしたいと言った旭にもわかっていたことだ。
 エジュダハはずっと死の苦しみと共にある。そして消滅は今更免れない。
「顔見知りの方々には情があるでしょう。私もその気持はわかりました。初対面ですが、共に戦った方へのせめてもの情けです」
「……ああ、そうだな。それがいい。せめて君たち、新しい守護者の手で送ってくれないか?」
「エジュダハ……でもっ」
「はぐれた歪虚は守護者に討たれ消える。これで悲劇は終わる。新しい、龍とヒトの物語がはじまるんだ」
 戸惑うレホスだが、もしかしたらエジュダハは最初からそう頼むつもりだったのかもしれないと思った。
 歪虚に堕ちた身だからこそ、その結末は勇者に討たれるべきなのだと。
「……わかったよ。それが望みなら、ボクも手伝う」
 レホスだけではなく、ハンターたちは苦悩しながらも武器を構える。
 結局のところ苦しませないためには、一撃で彼を眠らせるには相応の火力が必要だ。
「おやすみ、エジュダハ。ボクの友達……」
 構えた拳銃のトリガーに指をかけ、涙を流しながらレホスは笑う。
 歪虚は目を細め、確かに笑った。
 銃声をまさに引き金として、ハンターたちの一撃がエジュダハを討つ。
 そして、塵に還っていく。その魂が還る場所は、星の海ではない。
 彼を知り、そして最期を見届けた次代の守護者たちの胸に――。
「どうか貴方に、安らかな眠りがありますように……」

 龍園に、埋葬という概念は深く根付いていない。
 彼らは死ねば星に還り、肉体はただのモノになると信じているからだ。
 そもそも龍は死ねばマテリアルに還る。つまり、墓標は必要ない。
 だから、それはただの自己満足。
 龍園の端に、小さな墓標が作られた。その前に立ち、旭は空を見上げる。
「見えるかい? あんたの王も見上げた青空だ」
 かつてヒトに裏切られ、歪虚になっても、それでもヒトを守ろうとした。
 そんな誇り高い守護者の名を刻まれた墓標は、分厚い雪雲の隙間から差す日差しに照らされ、光を返した。

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  • SUPERBIA
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参加者一覧

  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ウォルドーフ
    ウォルドーフ(ka0234unit001
    ユニット|幻獣
  • 理由のその先へ
    レホス・エテルノ・リベルター(ka0498
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ランチャードミニオン
    射撃支援型ドミニオンMk.IV(ka0498unit001
    ユニット|CAM
  • 双璧の盾
    近衛 惣助(ka0510
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    シンカイ
    真改(ka0510unit002
    ユニット|CAM
  • SUPERBIA
    フォークス(ka0570
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    アールセブンエクスシア
    R7エクスシア(ka0570unit003
    ユニット|CAM
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ロート
    紅龍(ka2419unit003
    ユニット|CAM
  • 特務偵察兵
    水城もなか(ka3532
    人間(蒼)|22才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    イーワックデュミナス キャッツ
    EWACデュミナス Cats(ka3532unit001
    ユニット|CAM
  • 六水晶の魔術師
    レイレリア・リナークシス(ka3872
    人間(紅)|20才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    リーリー
    リーリー(ka3872unit001
    ユニット|幻獣
  • 正秋隊(雪侍)
    銀 真白(ka4128
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ワカミドリ
    若緑(ka4128unit001
    ユニット|幻獣

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
近衛 惣助(ka0510
人間(リアルブルー)|28才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2017/06/18 11:44:07
アイコン 相談卓
近衛 惣助(ka0510
人間(リアルブルー)|28才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2017/06/19 00:50:20
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/06/14 21:45:05