• 血盟

オーラン・クロスの受難 ―プラト院―

マスター:ムジカ・トラス

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/06/18 19:00
完成日
2017/06/25 22:09

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


「へえ、これは……想定以上に進んでるんだね」
 長い時の流れが糊塗された重厚な石造りの建物の一室に、男の声が染み込んでいく。
 軽薄さの滲む声だが、表情にはたしかに、驚きの気配が滲んでいる。
 ヘクス・シャルシェレット(kz0015)。木製の椅子に腰掛けた青年は、手元の分厚い資料を興味深げに眺めている。
「解るのかい、それ」
 彼の眼前には、二人の男性がいた。方や、オーラン・クロス。聖堂教会所属の、法術陣――曳いては『巡礼陣』の専門家。ぼさぼさのくすんだ金髪は相も変わらずだが、少しばかり無精髭が目立つようになっている。げっそりとやつれた顔は――これも、以前の通りか。
「どうだろうな。ヘクス卿にとっては冗句の一貫、あるいは布石かもしれん」
 もう一人は、アダム・マンスフィールド。オーランとは対称的に筋肉質な壮年男性だ。容姿は前衛戦士の装いであるが、身に纏うローブだけが魔術師らしさを遺している。禁術指定されて久しい刻令術を研究し、その自律性は限定的ではあるものの実用化にこぎつけた鬼才である。
 ヘクスは資料を鞄に詰め込むと、人を食った笑みを浮かべる。
「刻令術のところなら少しは、かな。法術陣そのものはさっぱりわからないけれど、目的はまあ、解るね」
 返答に、オーランとアダムは顔を見合わせた。笑うべきかどうかをお互いに探り合ったと見えて、ヘクスは吹き出してしまう。
 彼ら二人は、どちらかといえば理論家だ。となればすでに、"仕事"は終わっている。だからこそ、ヘクスの評価など必要としていないのだろう。
「いや、凄いな。正直なところ、もう少し時間がかかると思っていたよ。これはボーナスを考えなくちゃいけないなあ」
 ヘクスは先ず、アダム・マンスフィールドの煤けた瞳を真っ直ぐに見つめた。
「アダム。君が刻令術の技術的限界を指摘したときはどうなるかと思ったけれど」
「…………私としては、最初から説明義務を果たしていたつもりだったがね」
「確かに、ね。けれど、ナサニエル・カロッサ(kz0028)の元へ留学し機導術を学んだ結果、Gnomeと……Volcaniusの開発にこぎつけた。随分と、金は掛かったけどね」
 もっと売れないかなあ、とぼやくヘクスを前に、話の流れが読めてきたアダムは不快げな顔をした。
 一方で、事情が解らないオーランとしては呆気に取られるしかない。
「一体、なんの話をしてるんだい?」
「や、今回の結果は、それぐらい重要なことだったんだ。刻令術ゴーレムが抱える問題点は、その命令精度や攻撃性の程度……なんかじゃなくてね。もっと運用面の問題だったのさ。具体的には、ゴーレムを動かすためのマテリアルを調達するための金、コストなんだけど」
「金……?」
 聖堂教会からの資金もあり金に困ったことのない研究者であるオーランは小首を傾げたまま、言う。
「だからこそ、アダムが法術陣に目をつけたのはある意味で自然な流れだったわけだ」
 気づけば、ヘクスはオーランを見つめていた。静かで、深い目で。

「結果として"刻令術と法術陣は組み合わせることが出来た"」

 ヘクスはそのまま、今回の成果を端的にまとめた。
「小規模な法術陣を使い、魔具にマテリアルをプールする。機体を必要稼働時間分動かすためのプールを果たしさえすれば、ゴーレムは動かせる。それはいい。けれど――問題は、君だ。オーラン」
「……?」
「何故、協力したんだい? 何故君はアダムの提案を受け入れたんだい。小規模化は出力の低下とほぼイコールである以上、法術陣の本来の目的とは相容れない方向性だよね。法術陣はそもそも、人の身ではなし得ないような未踏の偉業を成し遂げるための術理のはずだ」
「…………」
 たとえば、古の塔のアーティファクトのような。たとえば、巡礼陣のような。小規模に何かを達成するならば、他の技術でも代償できるものだ。法術陣を使わなくてもいいもののはずだ。
「それを"わざわざ"小さくしようとした理由を、知りたいんだ。こんなに早くしあがったのには、理由があるんだろう、オーラン」
「それは……」
 言い淀んだオーランを、ヘクスは見つめたまま応えを待つ……が。

「ゴチャゴチャ五月蝿ァーーーーーーーーーーーい!!!」
 想定外の闖入者の声で、ご破産になった。



「セッセェイ!」
 という声と共に現れた巨大なソレを前に、ヘクスを含めて三人の男たちは一様に唖然としていた。
 知る人ぞ知る、節制の準大精霊、プラトニスである。
「え。え? なんだこれ?!」
 驚愕するオーランをよそに、他の二人――ヘクスとアダムは頭を抱えている。
「あ、あれ!? お知り合いなのかな?!」
「…………昨夜会った程度だがね」
「ぬはは! あれはよい語らいであった! ところでヘクス! お主は相も変わらずそのような問答を……!」
「……………………」
 オーランの問いに渋い表情で応えるアダム。一方で、頭を抱えたまま何事かを呟いているヘクスであったが、
「ん?」
 ふと、何事かに気づいたか、そのままさっと立ち上がると、
「あ、僕、不意に用事を思い出して勤労意欲が湧き上がってきたので、仕事に行ってこようと思う。じゃあ、これで!」
「む! そうか! ならば気をつけて行くのだぞ! ヘクスよ!」
「うんうん、そうするね! どうぞごゆっくり!!!!」
 さらば! と片手を挙げたまま、疾影士もかくやという速度で消えていった。

「…………」
「………………」
「む?」

 後には、オーランとアダムと、プラトニスが残された。
 プラトニスはともかく、オーランとアダム二人は、現状を良く理解していたのだ。

 つまり――話の結末よりも、プラトニスを押し付ける好機であることを優先して、ヘクスは逃亡したのだと。



 オーラン・クロスは運が悪い。
 じゃんけんで負けた結果、プラトニスを引き取ることになった。
 アダムは今後、刻令ゴーレムを製造しているスタッフ達への教導や技術的な実装に向けて動くことになる。
 対して、オーランは、というと。
「これから何をするのだ?」
「実験、ですね……」
 聞けば、水と光の属性を兼ね備えた精霊とのことで、畏れ多さに身が縮む思いである。
「実験ンンン?」
「……ええ、まあ」
「ハンターたちと、か?」
「そうなります……」
「ほっほぅ……やはりか」
 ふむ、と髭をさするプラトニスに、嫌な予感を覚えた。
「ですので、プラトニス様はこちらでゆっくり」
「なぁに、我輩も行こう!」

 そういうことになってしまった。

リプレイ本文


 ちゅんちゅん、と。爽やかな鳥の囁きが耳に優しい。
「法、術陣……魔術師としては凄く、興味が……ありますね……」
 両目を充血させたアシェ-ル(ka2983)の呟きは、この日の為に徹夜明けで臨んだためあまりに小さい。
「おじいさん」
 ふわ、と。淡い香りが届いた。香りの先に、雨音に微睡む玻璃草(ka4538)。
「あのね、おじいさん。雨の季節で二十日鼠が微睡む季節。雨恋の花が頬染めて、紅茶には角砂糖が3つも入ってるの」
 軽やかな声でそんなことを言うものだから、アシェールは思わず自らの頬をつねった。
 ――なにを 言って いるんだろう?
「ミルクを一掬い零したら、綿毛は何処に行っちゃうのかしら? おじいさんはそう思う?」
「や、どう、かな。……参ったな」
 困り果てているオーランを見て、少女が安堵を抱く中。
「新技術♪ 新技術♪ やっぱりワクワクしますねー! 掘り尽くすぞー!」
「……新しい技術というのは、こういう努力の上にあるのだなあ」
 クレール・ディンセルフ(ka0586)の快活な声に、鞍馬 真(ka5819)は微かな驚きを添える。
「マテリアルのプール……ってことは、色々悪さができるってことかな?」
「出来るといいですね!」
 金砂のごとき煌めきを放つ長い髪を嬉しげに揺らして、ステラ=ライムライト(ka5122)が言えば、クレールも楽しそうに笑った。
「……プラトニス、か」
 クローディオ・シャール(ka0030)が筋骨隆々な精霊を見てその名を呟くと、フワ ハヤテ(ka0004)は同じものをみて、「ははあ」と興味深げに口の端を釣り上げた。
「彼が噂の精霊かい? 話は聞いてるよ。愉快な奴なんだろう?」
「……愉快、だろうか」
 すこしばかり渋い顔になったクローディオの脳裏で、記憶が蘇る。

『やはり実験か……いつ出発する?
 俺様も参加しよう』

 そう言っていた漢は、今――。

 視線を辿ったハヤテは、ころころと笑った。
「………やっぱり、愉快じゃないか」
 漢、ジャック・J・グリーヴ(ka1305)は、広々とした実験場の中でただひとり、ビキパン一丁姿で参戦していた。プラトニスと向かい合う、この漢。道中もこの格好で来たらしく。

 完全に、危ないサイコ野郎だった。

「…………」
 威風堂々たる姿で馳せ参じた漢は。
「――ぷふぅ」
 鼻血を流して気絶した。


●一方その頃
「お洋服を着るんだから、まずは服を脱がなくっちゃ!」
「ちょっ、き、君、フィリア、待ちなさい! こらっ!」



「では、私は少し運動をしてこよう」
 クローディオは右手をすらりと上げて、ヘルメットの紐を硬く締めた。非覚醒状態の吸収量の確認をしたいらしい。
「往くぞ、ヴィクトリア」
 と鈴の音を鳴らしながら、漕ぎ出した。
「み、みなさん、模擬戦、とかは……」
「あー」
 見送ったアシェールが憔悴しきった表情でいうものだから真は困り顔で周囲を見渡した。
 クレールに、「どうする?」と視線で問いかけると、やる気に燃え上がったクレールは、
「後で協力してください! い、く、ぞぉぉぉぉッ!」
 と言いながら、全力でマテリアルを放出し始めた。
「……あり、がとう……ごじゃ……す……」
 それを見届けたアシェールは覚醒だけをして、眠りについた。
「睡眠、しながら……プール出来れば……効率、良いと、思うの、で、す……むにゃ……」
 少女は瞬く間に夢の世界に飛び立った。

「ぬっはっは、興味深いがそれは断る!」
「そっか……なら、仕方ないな」
 プラトニスに何事かを打診していたハヤテだが、断られたらしい。
「何の話を?」
「や、大したことじゃないさ」
 同じくプラトニスに話しかけようとしていた真の問いを、ハヤテは軽く笑って留めた。
「さて。そなたはどうしたのかな?」
「ああ」
 歩き去るハヤテを楽しげに見つめたプラトニスは真へと視線を戻した。
「出来れば、手合わせを、と」


「うわあああああああんっ!」
 大号泣が響いた。声の主はクレール。
「え、ちょ、どうしたの?!」
 その隣でマテリアル放出の調整をしていたステラの驚きも宜なるかなで、突然爆発したように泣き始めたのだ。
「ううぅぅぅ、私だって成果出なきゃ傷つくし悩む普通の乙女なんだぁぁぁっ」
「え、え?」
「グスッ、えぐっ」
 ステラは周りに助けを求めるが、オーランはフィリアのお使いに出払っており、プラトニスは真の剣で切られっぱなしである。
 助けは――無い。
「あー! 私殴ったプラトさんー! 泣きますよ!!」
「クレールちゃん、もう泣いてるよ……!?」


「……っ!」
「ぬははっ!」
 木刀はすぐに折れ、プラトニスの許しもあり魔導剣に持ち替えての手合わせとなった。
 突き。切り。なぎ払い。そして刺突。いずれもスキルを用いながらの、正真正銘の全力戦闘であった。
「疾……ッ!」
 全力の刺突一閃はプラトニスの大胸筋に弾かれる。振ってきた「良い一撃だ!!」という快活な声に、意気が引き上げられた。
 ――気分は、いい……!
 こうやって大精霊に準ずる存在と拳と刃を交わしている。もっと、戦っていたい。
 と思っていたそこで、限界が来た。薄闇が掛かってきたかのような眠気に、脚が揺れる。
「スキ在り! セッッッセェイ!!!」
「――ッ!」
 腹部に、衝撃。酩酊にも似た感覚の中、真は彼方まで吹き飛ばされた。



「♪〜」
「はい、どうぞ」
 鼻歌を歌っていたフィリアの眼前のテーブルに、持ってきたクッキーと牛乳の入ったグラスを2つ。それからメープルシロップを置いたオーランは、盛大に寝息を立てるアシェールを横目に困り顔を見せた。
「ん……」
 近くに来た気配を察したのか、アシェールがオーランの脚に手を回し、胸元に抱き寄せたのだ。
「……すぅ」
 安堵を抱いたように眠り続けるアシェールにオーランは苦笑し――それから、正面に座った少女の髪や肌が淡い雫に濡れていることに気づいた。覚醒を示す兆候に、実験には協力してくれているのだと知る。
「牛乳にメープルシロップを入れるのさ。美味いよ」
 オーランの勧めに従い、フィリアは香りを味わったあと口元へと運んだ。こくりと嚥下して微笑むと、
「――きっと注いだら良いんだわ、『雨音』に耳を澄ますように」
「あんまり、無理しすぎないようにしてくれよ」
 と、言いながら、オーランはクッキーとミルクを堪能したのだった。



 一旦、途中経過報告と相成った。
「お。そろそろそっちをするかな?」
 どこからか戻ってきたハヤテであったがその姿を見てステラは目を見開いた。
「ちょっ……あ、脚、大丈夫?!」
「大したことじゃないさ。治療もできてる――尤も、治療効果には余り寄与しなかったみたいだけど」
 血に濡れた装束を何事も無かったように言うハヤテに、目を見張る者も居た。小一時間かけて痛みに耐えていた、ということかと。
 なお、単位時間辺りの蓄積量はクレール>>フィリア>真、ジャック>ステラ(被運動強化中)>クローディオ(覚醒+運動)>アシェール>ステラ(無気力化)>>クローディオ(非覚醒+運動)だと教えてくれた。量については、クレールとフィリアに大きな差は無かったようだ。存外細やかなクローディオの検証のお陰で、細かい確認が出来た。
「覚醒状態で能動的に行動しておくか、スキルを使用、または受けていたほうが良い、ということか」
 クローディオが言うと、ジャックがフィリアの方を向いて、言う。
「結構溜め込んでたみてえだが、なにしてたんだ?」
「注いでただけだわ。色んな人が『ソレ』を誰かと繋げるように。だって絵本を読みながら紅茶を淹れるだなんて、蜂鳥が七竈の実を啄むより難しいもの」
「集中してマテリアルを注入する、って感じかな」
「……ああ、なるほど」
 フィリアの返答に、戸惑うジャック。オーランの助け舟に納得したのは、同じく首を傾げいてた真である。
「――ってこたァ、スキルを使わなくてもそれだけに集中してりゃ、弱い奴でもそれなりに貯まるってこと、か」
 と、ジャックが呟いた、その時だ。
「ね、ね。これって貯めた分をそのまま威力に転化したりすることはできないの?」
 ステラの問いに、オーランは少し考えた後、こう答えた。
「可否でいったらイエス、かな。ただ、今すぐは無理だ。これは、RB風に言うとただの【電池】みたいなものでね」
「このあとの模擬戦中では難しいかな?」
「すまない……」
 そこで、クローディオがオーランを見据えた。
「時間経過での減少についてはどうなっている?」
「限りなく遅くしてるね。少しいじれば蓄積できる量は多くできそうだけど……」
「なら、今日が昨日になって明日が今日になる時に注げば良いんだわ」
「……ああ」
 クローディオの頷きに、鼻歌を歌いながらミルクを飲んでいたフィリアが、オーランたちの方を見ること無いままに、華やぐ声でそう言った。オーランはアシェールを見下ろしたのち、「覚醒した状態で寝てもそれなりに蓄積される、っていうのは知見だったね」
「はっ!」
 視線を感じたか、予想以上の本気の就眠に我に返ったか、アシェールが目を覚ました。
「?!」
「だ、大丈夫ですか?!」
 ただならぬ形相のアシェールに、クレールが心配げに問う、と。
「な、なんだか、夢で凄い筋肉が……!?」
「!」
 一同は一斉にプラトニスを見た。プラトニスは快活に笑いながら、
「ぬはは! いい夢が見れたようじゃないか!」
 と誇らしげに胸を張った。



「むむむ……っ!」
 手を繋いで輪になったハンター達の中、クレールは苦悶の声をあげた。スキルの感覚を意識しようとしているが、どうしても"つながらない"。
「ぷはっ! ごめんなさいー!」
 クレールは詰まっていた息を吐くと、ずしゃりと跪いて謝罪した。これは、無理だ。吸い上げられたマテリアルは引き出す事すら困難だ。どこかに移し変えたり、プール間での共有を図るのはほぼ不可能に近い。
「機導術でプールの補助もできたらいいなあと思ったんだけど……」
「ずびばぜん……」
「ま、また泣いてる! だ、大丈夫だよっ?!」
 ステラのコメントに、クレールはまたも号泣した。
「なるほど、機導術のようなアプローチか……アダムにでも……」
「な、何か、ヒントになりましたでしょう、か……!」
 オーランの声に、這々の体で、クレールが言う。
「機導術を絡めたら色々構成を楽にできる……かもしれない、かな。ありがとう」
「そうですか……よかった……」
 なお、浄化術も同様の結果であった。スキルを使った分のマテリアル吸収は得られたが、それだけだ。ハヤテはプラトニスに頼み、強烈なマテリアル酔いに苦しみながら同様の検証を行ったが、やはり、結果は大きくは変わらなかった。


「はー、もーだめ……真ちゃんはまだうごける……?」
「や……俺ももう……限界、だな……」
 方や無気力で苦しむステラに、眠気の余り幻の布団を引き寄せる仕草を見せはじめた真。二人はしばし模擬戦に注力していたが、襲いかかる副作用に苦しめられていた。
「ぬはは! どれどれ……面白いからこのまま放っておいてもよいのだが!」
「助けてよ……」
 などとプラトニスが陽気に騒ぐ中、ハヤテはオーランに問うた。
「実際、どうだろう。このプールしたマテリアルをスキルに回すことで、使えなくなったスキルを使えるようにする、とかは」
「難しいだろうね。これ単体で成立できる術式ならともかく」
「なるほど……となると、負のマテリアルプールが出来るような術式は、どうだい? 汚染なんかを防ぐことは、できないかな」
「負の……」
 オーランの表情が、険しくなる。
「それが引き起こす"結果"が恐ろしいけれど、たしかに……原理・技術的には可能かもしれない。けれど、僕には負のマテリアルの扱い方が解らないし、この陣には馴染まないだろうね」
「そ、か……や、ありがとう。とても面白い話だったよ」
 先行きが楽しみだ、と、魔術師らしい笑みでハヤテは笑った。
 様々なものを用いて蓄積度合いの観測に望んでいたしていたアシェールは、暫くして首を振った。
「色々観測してみたんですけど、中々いい感じにマテリアルを測定する方法が解らないんですよね。表示とか、使用可能内容の目安があれば、使う側はもっと使いやすくなると思うのですが……」
「たしかに……」
 プラトニスは直感的に解るようだが、オーランにしても陣を解析して分かる程度である。わかりやすい"表示"は急務か。
「これ、将来的にゴーレムやCAMのエネルギーに使えるようにするんですか?」
「ああ。ヘクス卿はそれを考えているみたいだよ」
「確かに、それでしたら経済的ですもんね」
 十分貯まれば、ですけど、といたずらっぽく笑うアシェールに、オーランとしては苦笑する他ない。
「枯渇したマテリアルに対して、輸血みたいにつかうのはどうかな?」
 真の言葉に、クローディオが続いた。
「スキル以外なら、覚醒回数に寄与できるなら良さそうだが」
「……それも、難しいかもしれない。マテリアルを渡すとして、受け取る側がそれを補給できるかは別問題だからね」
「そうか……」
「なぁ、それなんだけどよ」
 そこで、おもむろにジャックが口を開いた。
「これ、一般人では使えねえのか?」
「多分、非覚者でも使えるね。これは彼が今日検証してくれたとおりだ」
 だよな、と。ジャックはクローディオをちらと見る。
「この世界で一番多いのは一般人だが……本音言やぁマテリアルプールさせる仕事を作る事は出来ねぇかと思ってよ。……今の世の中じゃ戦災孤児やら多いだろ。少しでもいいんだ」
「……」
 言葉に籠められた思いの深さに、オーランは言葉を呑むほか、ない。
「金なら――」
「……解った。その件は僕が預かるよ。まあ、少しくらいはお目こぼししてもらえるかもしれないし、ね」
 ――これ、滅茶苦茶高いけど……。
 という言葉は、呑み込んで。オーランはそう応じた。



 収穫があった。ありがとう、という言葉で解散の運びとなった。
 去り際。フィリアは振り向いて、オーランをじっと見つめた。
「もうすぐ影が卵のように腰掛ける季節だから、おじいさんはソレをちっちゃくして鞄に入れてお出掛けしたかったのね。怒られなかった?」
「……」
 この娘との会話は少しばかり、時間が掛かる。主たるところは彼女が言いたいことを拾うのにだが。
「そうだね」
 応じたのは、彼女が言いたいことが『合っている』と感じたから。あの日以来、オーランの内に【影】は蔓延り続けている。
 ――だから、彼がこの開発に取り組んだのは当然のことだった。
「ねえ、おじいさん」
 フィリアはそのまま、こう結んだ。
「おじいさんはナニを作りたいの?」
 ほう、と息を吐く。今日一日で考えるべき事が増えすぎて茹だった頭を冷やすように。
 興りは、シンプルな事なのだ。だから、素直に、こう言った。

「君たちを、護れるようなもの、かな」

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MVP一覧

  • フューネラルナイト
    クローディオ・シャールka0030
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴka1305

重体一覧

参加者一覧

  • THE "MAGE"
    フワ ハヤテ(ka0004
    エルフ|26才|男性|魔術師
  • フューネラルナイト
    クローディオ・シャール(ka0030
    人間(紅)|30才|男性|聖導士
  • 明日も元気に!
    クレール・ディンセルフ(ka0586
    人間(紅)|23才|女性|機導師
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 東方帝の正室
    アシェ-ル(ka2983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 囁くは雨音、紡ぐは物語
    雨音に微睡む玻璃草(ka4538
    人間(紅)|12才|女性|疾影士
  • 甘苦スレイヴ
    葛音 ステラ(ka5122
    人間(蒼)|19才|女性|舞刀士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 実験の打ち合わせ!
クレール・ディンセルフ(ka0586
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/06/18 14:56:23
アイコン 【質問卓】教えて☆へクス様
アシェ-ル(ka2983
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/06/16 00:23:52
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/06/15 21:51:04