• 繭国

【繭国】王国展覧会 ―御意見募集―

マスター:ムジカ・トラス

シナリオ形態
イベント
難易度
やや易しい
オプション
  • relation
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2017/06/28 19:00
完成日
2017/07/16 22:30

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 王国歴1017年。この年は、世界各地で転換期を迎える年になったことで知られる。
 しかし、振り返ってみれば、グラズヘイム王国における変化の大きさはなお、際立つものであった。

 同年六月。黒大公ベリアルの討伐に浮足立つ中で、システィーナ・グラハム(kz0020)王女は、王家主導での富国策を執り行うと宣言した。
 千年に渡って蓄えた国庫を開き、各分野に対しての投資や物資調達を大々的に行ったのだ。当時の記録によると、当時の経済規模を思えば常識外の額を動かした王女は、この頃の王国を『蛹』に喩えた。千年を経た自国に対しての評価としては賛否両論あるのも事実であるが、その理由について、 彼女はこう述べたという。

「羽化、したがっているんですもの。それを支えるのが――私の成すべきことだと、感じたのです」

  ――王家の歴史 第24節『システィーナ・グラハム』より。


 王都第二街区の只中にある広大な会議場は、かつてないほどの喧騒に包まれていた。入場するにも長蛇の列で、会場内は人だかりでごった返している。
 もとより人口過密気味な王都イルダーナではあるが、その分裾野の広い都市だ。此処まで濃密に人々が集うことはよほどの慶事でもなければ無い。王都の民のみならず、各地の貴族や富裕層、商人らと幅広い人間がこの会議場に出入りしているらしく、王都の宿の中でめぼしいものは軒並み満員になっているほどの盛況ぶりである。

 大元の原因を辿れば、システィーナ・グラハムが王家の蔵を開き、各分野への資金投入を行うことを決めたことが原因であった。
 それを受けてか、王国各所から主たる産業を担う一団を集めての、大展覧会が催される運びとなった。勿論、発起人はヘクス某である。

 参加している組織は実に多岐に渡るが、特に注目を集めているものは五つ。
 まず、【グラズヘイム・シュバリエ】。王立騎士団の装備をあずけられる、生粋の技術集団。鋳造はせず、一つ一つを鍛造して作成された武具はいずれも質が高く、装飾専門の職人が関わるものであれば貴族が好む華美さも併せ持つ。近年では他業界の技術と連携して特殊な兵装の開発を請け負っている。
 そのグラズヘイム・シュバリエと共同が見られるようになってきた組織の一つが、【聖堂教会】である。法術による儀式を通じて、装備や素材の聖別や特殊な法具開発を行っている。最近では、同組織所属のオーラン・クロスが、法術陣を用いた実験を開始したという。それ以外では、巡礼者を多く抱える性質上、旅装に特化した道具の開発も得手としている。
 会場にあって一際異彩を放つのは【第六商会】であろう。まさかの会場内組み立てによって、同商会が開発した刻令ゴーレム、GnomeとVolcanius――こちらはハルトフォートとの共同開発である――が堂々と立ち上がる様は、往来の関心を集めている。同社は歩兵用の兵装も開発する一方で、こういったゴーレムを農業に転用するなどもあり、貴族から農地管理者まで多数の人間が集まっている。
 続いて、【アークエルス】の面々だ。愉快な仲間たちとも揶揄されることも多いが、エメラルドタブレットの研究にもとづいて開発された術理は、先のグラムヘイズ・シュバリエの武具と合わせて強力な兵装開発に役立てられている。なお、当の研究者達は骨の髄までイカれてるような人物が圧倒的に多く、こういった場は不向きであるため、事務方の人間が馳せ参じている。
 そして――最後の一つ。
「ワン! トゥー! ワン! トゥー!」
 一際異様な空間であった。リズミカルな音楽が響く場内で、ユグディラたちがにゃんにゃん可愛らしい声を上げながら、錬筋杖「キングメイカー」を振っている。知るヒトぞ知る――グラズヘイム王国謹製錬金術協会、通称「練筋協会」。
 インストラクターを務めるムキムキスキンヘッドの男が快活にデモンストレーションをしていた。ラインナップには、これまでにリリースされた、符盾や刀、弓や盾……といった大物に、いくつかの試作品もある。筋トレ用の道具も数多く並べられているが、いずれも"覚醒者向け"と書かれており、常人は触れることすら許されていない。

「いやあ、盛況、盛況」
 そんな光景を【階下】に眺めて、酒を手にしたヘクス・シャルシェレット(kz0015)はへらりと笑った。
 手にした酒は、デュニクスから出店されたワインである。サイドテーブルに数種類置かれたツマミは、王国各地から取り寄せた銘品――チーズや菓子類であるが、その中でひとつ、減りが早いのがあった。
 チョコレート、である。一口サイズに整えられたそれは、【悪】と書かれた割に雑味のない濃厚な味わいで、甘みの強いワインとよく絡むのだ。
「このチョコ、結構イケてるなぁ……ドコのだろ……?」
 チョコと酒と共に、ヘクスはつかの間の自由を味わっていた。
 これまで暫くの間、セッセェイセッセェイと喧しい筋肉精霊に絡まれて、さすがのヘクスも精神的に疲弊していた。
 だから。
「やー、オフっていいなあ……!」
 と、はしゃぎながら、次のワインへと手を伸ばした。


 各所に小規模な店舗が集う一角があった。飲食店や、ヘルメス通信局主催の占い小屋などがあつまったそこには、多数の椅子と机が並べられている。そちらが主な目的な者もいるようで、酒に酔い、食事に舌鼓を打つものたちの陽気な声が響く。
「……なあ、アカシラの姐御」
「なんだい、シシド」
「もう少し、笑いやしょうぜ……」
「………」
 その隅っこに、彼らも居た。アカシラを筆頭に掲げる、傭兵団の面々である。彼らは現在、キャラバンを組んで各地を転々としているようだが、基本的には安全な所に拠点を構え、戦場には戦士たちだけが向うことが今では多い。そんな中では珍しく、今日は鬼の子どもたちの姿もみられた。
「シシドぉ……おれ、もう、手がうごかないよ……」
「あたぃも……」
「お! しょーがねえなあ」
 ボールを抱えてシャカシャカと何かを泡立てていた子供の鬼に、シシドはほれ、と小銭を渡す。
「駄賃だ。好きなモン買ってきな!」
「「わーーい!」」
「……随分と羽振りがいいじゃないか、アンタ」
 走り去っていく子どもたちの姿を見送ったアカシラの言葉に、シシドは得意げな顔を見せた。
「菓子作りも熟れてくりゃ、小銭にも恵まれるもんでね」
 ンなことより愛想振りまいてくださいよ、とバシリと背を叩かれ、アカシラはワサワサと頭を掻いた。
 ――あの子たちの遊ぶ金を稼ぐくらいは、かね。
 と思っていたのもつかの間。シシドが大きな声で、声を張る。
「マイドーー! 鬼印のちょこれぃとだよーー! たっぷり義理が詰まってるよーー!」
「……どうみてもアタシ向きじゃないさね、こりゃ……お、そこのアンタ、興味があるなら試食していきなよ」
 シシドの呼び込みに、アカシラは苦笑しながら、道行くヒトに声を掛けるのでった。

リプレイ本文


 場内を訪れたエアルドフリスは、前髪に風を感じた。暮らしぶりと育ちもあり、これほどの人混みは不慣れであろうにその口もとには笑みがある。
「ほおお……っ!」
 それは、傍らで喝采を挙げている恋人、ジュード・エアハートのおかげか。ジュードの連れは他にも居た。
「にぁっ!」
「いい匂いだね―、クリム!」
 ユグディラの、クリムである。抱きかかえられたクリムは、ジュードに似た表情で周囲を見渡している。
 ――これを邪魔者と取るほど野暮ではない、と思いたい、が。
 唸っていると、ジュードが「エアさんはやっぱり旅装が気になる感じ?」と言う。
「俺はジュードが行きたい所でいいんだが、」
「じゃあ聖堂教会だね! まずそっちに行こー!」
「……ああ」
 エアは頬を掻いた。ことこういった面では太刀打ちできようもない。

 ルベーノ・バルバライン(ka6752)もまた、篭もる熱気に笑みを刻んだ。
「展覧会は絵画でも飾っているのかと思ったのだが……違ったのだな」
 ただの暑さ、ではない。斯く在らんと欲する、躍進のための熱だ。その空気を肺腑へと送り込み、傲然と笑みを浮かべた。
「――ふむ、しかしこれはこれで悪くない」
 そうして、視線を巡らせる。
 行き先は、決まっていた。

「ひゃーん、とても賑やかですのー♪」
 とてとてとユグディラを連れたチョココ。頭の上にパルムのパルパル。迷子にならぬように右手で引くのは、ユグディラのユーグ。
 自らはまるごとゆぐでぃらを着込んでの参戦である。人混みをかき分けるように歩く様は、何かの販促活動のようであるが、勿論、そんなことはない。うおお、と両手を突き上げたチョココは、吠えた。
「美味しい食べ物はどこですのー!」

「暑くないんでしょうかね……」
 マッシュ・アクラシス(ka0771)はきぐるみ少女が駆けぬく得ていく様を眺めて、ぽつりと呟いた。
 もともと、無目的な参加であった。いや、しいて言えば、【観ること】そのものが目的であるといっていい。
 会場の地図を眺めながら、記憶にある武具や道具と、販売元を結びつけていく。
 もとより、マッシュは『使い手』気質が強い。何かを創るであるだとかよりは、有るものを工夫することを好む。
 ――参考になるような意見は、出せなさそう、ですね。
 だからこそ、此度のこれは、見識を深める意味での参加だった。どのような意見がでるか、あるいはどのような物が見られるか、といった。
 そうして、概ねのあたりをつけたところで。

「――テメェ等もっと幻獣用装備を開発しやがれェーー!」

 という、声が聞こえた。



 ボルディア・コンフラムス(ka0796)は乙女である。それも、中々、情に篤い。
「人用装備も大事だぜ。俺だって世話担ってる。ゴーレムだってな。ベリアルやアルゴス戦で大活躍だ」
 傍らには、相棒であるイェジドのヴァンも居る。総合的な意見を受け付ける窓口で言い募るボルティアの横で、人混みを意に介する事なくお座りをしていた。
「CAM装備の充実だって重要だ。そりゃそうだ」
 ダァン! と、大きく足を踏み鳴らした。
「だがしかし!」
 ビシィ! と、背の高いテーブル越しにいる受付嬢に指を突きつける。
「お前等は幻獣という相棒を忘れちゃいねぇか! リーリー、イェジド、ユキウサギ、ユグディラ! コイツ等の武具を専門に作る組織がなんでねぇ!」
「貴重なご意見をありがとうござーー」
「やはり幻獣よな」
 受付嬢が礼と共に意見を書き連ねていると、横合いから、声。
「…………?
 ボルディアを挟んでヴァンの反対側にいたのは。
「妾も同感じゃ」
「紅薔薇」
「しかし、そのままでは無いものねだりになってしまう。征くぞ、ボルディア殿」
「あ? おい、ドコに行くんだよ……!?」
 ボルディアは紅薔薇に手を引かれたまま、何処かへと去っていった。その背を見送った受付嬢は、
 ――幻獣専用装備開発元の提案。
 と、書類の重要事項乱に記し、列に並ぶ次の利用者を呼び込んだ。


「ふー、盛況だねえ……」
 主催者達のために誂えられた別室の窓から会場内を見下ろすヘクスの呟きが、微かに反響した。
 人払いがされたそこが、ハンス・ラインフェルト(ka6750)にとってはいやに広く感じられる。二人きりだ。
 ――親愛なるギルドマスターにして偉大な政治家、精霊に愛されしシャルシェレット卿に是非ご教授願いたいことがありまして。
 ヘクスを見かけて、すぐにそう声をかけた。そして、『他人の耳目があまりない場所で』と添えると、ヘクスは此方へと案内した。
「それで、話ってなんだい?」
 水を向けられたハンスは、こう言った。
「王国にとっては、女王の下と大公の下、1人ずつ聖女が居る方が望ましいのでしょうか」
「……ん?」
 予想外の言葉であったのだろうか。問い返す声に、ハンスは言い添える。
「大公派が接触し始めた聖導士学校にいる鳳雛、イコニア・カーナボン司祭。彼女はあと数年たてば、ヴィオラさまとは違う個性を持った聖女となるでしょう……彼女は概念精霊を生み出した」
 なるほど、と、ヘクスは笑った。話の流れが読めたのか、少しばかり愉快げだった。
「金の話、かい」
「ええ。聖導士学校の寄付依頼に応じたのは、今の所大公派貴族のみ。このままいけば数年後には大公派寄りの聖女が誕生するかと」
「ふむふむ」
「女王派の政治家として、貴方が今の彼女を叩き潰すのは簡単でしょうが、同じハンターとしてあと数年、彼女と丘の上の使徒精霊さまが中立を貫ける力を得るまで、御協力を得られないかと思いご相談しました」
「二つ、訂正しよう。まず、システィーナはまだ『王女』だ」
「失礼しました」
 慇懃に詫びたハンスだが、悪びれた様子はない。特に気分を害した様子もなく、ヘクスは続けた。
「もう一つ、僕は王女派ってわけでもない。ただの一貴族の仕事をこなしているだけの、フラットな立場だよ」
 嘯いたまま、当然叩き潰したりもしないと笑ったヘクスは、目を細めたままハンスを眺めた。
「金を回すのは簡単だ。けど、その要否は考えたい。聖女という『イコン』一つ、金をかけるに足るかどうかをね。どうかな?」
「私見ですが、要らぬ諍いを避ける価値はあるかと」
「そうかも、ね。……"数年"も掛かるようなら、だけど」
「…………という、と?」
「さて」
 そうして、ヘクスは視線を階下へと転じた。
「王国は、熟れつつある。その収穫をいつ、誰がするかを考えたことはあるかい?」
「――」
 解釈の余地を残す言葉だった。語られぬ主語。ほどかれぬ暗喩。それを解するには札が足りない、が。
 故に。ハンスはこう言って、この場を締めた。
「あの学校は子供達の夢が溢れています。1度いらしてみてはどうでしょう」
「お、そっか。それはいいかもしれないね」
 ハンターの勧めがあった、とか言っても良いかもしれないしね。

 けらけらと笑うヘクスに礼を残して、ハンスはその部屋を後にした。何かが起りつつある。そんな予感に、重い吐息が溢れた。



 少女と青年が人混みの中を歩んでいる。二人の距離は近くて、遠い。時折心配げに仰ぎ見る少女の遠慮が滲んでいるようでもあった。
 青年は飄々と歩いているようであるが深手を負っている。本来であれば療養すべき傷だが、ここに来たのは――。
 ――私に気を使って、ですよね。
 俯き加減のルナ・レンフィールド(ka1565)の呟きは、胸の中に落ちて消えた。隣に立つ青年、ユリアン(ka1664)は、決して認めないだろうから。好意と申し訳無さが綯い交ぜになってはいるが――それでもやはり、こうして二人で歩くのは、幸せと呼ぶべきものだった。

 ――ルナさんが付き合ってくれるのは俺を見かねて、かな。
 対してユリアンは、全くの無自覚である。ありがとう、無理はしないからと胸の内で感謝するあたり、気遣いの仕方が似ている二人なのだが。
「にしても、だいぶ、変わったな……家を出てから全然国の役に立ってないけれど」
「ハンターになってから知るようになった事もおおいですしね……あ。あの!」
 通りがかった店先で、奇妙な箱を見つけた。蹴ったり叩いたりすると部位によって音が変わるという楽器と聞いて目を輝かせるルナを見て、ユリアンは改めて、少女の好みを胸に留めることにした。
「このポーチとマント、ユリアンさんにピッタリじゃないですか? 結構収納も多いですよ! あとは見た目がもう少しおしゃれならなあ……」
「仕事道具を入れるには良さそうだね」
 様々な店を回っては少女らしく弾むルナの声に、ユリアンは笑みを零した。彼女が楽しそうなら、それで、よいのだ。



 グラズヘイム王国謹製錬金術協会、通称「練筋協会」。
 鳳城 錬介(ka6053)は、圧倒されていた。
「鍛え方だァ!?」
 筋骨たくましい色黒禿頭髭親父に、熱烈指導をうけていたのだ。

 初めは、なんてことはない、「いつも面白い装備をありがとうございます」という挨拶から始まったのだ。
 今後は『より』重化し、CAMや魔導アーマーの筋肉を鍛えてぇと語る店員に、少しばかり時間があったのもあって、鍛錬法について尋ねることにした。
「例えばこの盾で、どうやって鍛えればいいんですか」
 間違いだった。

 ―・―

 場内を散策していた鞍馬 真 (ka5819)は、奇妙なものを見た。
 提案ごとなどは苦手であったから見聞を広めるために彼方此方移動していたのだが、錬筋協会の会場に奇妙な一団がいたのだ。
 展示物、とは違うのだろうか。ユグディラたちの中に、一人、ハンターがいた。

「ゆっくり上げろ! 普通の持ち方でいい! 大事なのは意識を筋肉に向けることだ!」
「……っ!」
 その中央で、ハンターの錬介が『改良型』と表面に書かれた錬筋盾「バイセプス」を片腕で掲げている。すでに、汗塗れである。
 店員と思しき男が、彼の二の腕を指さした。
「上腕二頭筋!」「上腕二頭筋!」
 周りの店員も唱和している。なんだこれ。続いて、元の店員が別な場所を指し示した。肩から腕にかけて、流していく。
「僧帽筋から三角筋!」「僧帽筋から三角筋!」
 ――なんだこれ……?
 
 ―・―

 ――なんですかこれ……!
 真と全く同様のことを思っていた錬介である。言われた所に意識を向けると、そこの筋肉の働き具合が、解る。しかし、それだけに辛い。
「そう! 戦闘で使う姿勢が大事だ! 鍛えられるのはアッパーだけじゃない! アッペンロウアー!」「アッペンロウアー!」
「……これは、確かに、鍛えられます、が……!」
 と、そこに。
「たーーーのもーーー!!!」
 透き通った、それでいて勇ましい声が反響した。
 会場の入り口に、武者甲冑を着込み、長大な刀を背負った少女、ミィリア(ka2689)であった。

 ―・―

「大胸筋矯正ギブス、いつもお世話になってます」
「おう」
 深々と、礼節を持った示したミィリアに、すっかり暖気した店員は息を弾ませながら応じた。
「このギブス、とっても女子力(パワー)が高くて好きなんだけど……」
 そこで少し、恥じらいを感じた。いや。大丈夫。だって女子力のことだもの。
 他意は無い。
「心なしか胸に女子力があんまりいってないような気がして……正しい着け方とか気合のいれかたとかあったら教えて欲しい、んだけど」
「そりゃおまえ」
「……」
「つまり……」
「つまり……?」

「鍛えすぎて脂肪が減ってんだろ。よくあることだ」

「!」
 ミィリアの女子力回路が巡った。脂肪は減り、女子力は増えている。胸は変わらなくても。
「なるほど!」
 その後、ミィリアは鞘を所望した。投げ捨てると女子力の香り高い音がするような、鞘
「なるほど! 鞘か!! 腰回りも鍛えられるし一石二鳥だな!」
 刀を扱ったこともある同店であったからこそ、盲点だったと唸る。
「アクセサリーでも同じようなのがあるといいかなって!」
「頸周りが鍛えられるな!!」
「だよね!!」
 そういうことになりそうであった。


●シュバリエ
 少女――クレール・ディンセルフ(ka0586)は、緊張していた。
『もう此処には来るな』
 大工房で、老人に言われた言葉が重く響いていたのだ。あの一件は、少女にとっては手痛い出来事であったから。
 けれど。
 ――ここ大工房じゃないもん! グラズヘイム・シュバリエさん!
 開き直れば、怖くない! いや、嘘だ。凄く怖い。もしバレたら今度はどんな扱いを言い渡されるか解らない。
 そこで、少女は変装することにした。
 ――全身を包む、「まるごとうさぎ」! めがね! そしてカツラ!

「よし別人! たのもー!」
 と、腰にカリスマリス・クレールをぶら下げたまま突撃した。
「クレールさんだ。どうしたんだろ?」
 それを見た、ソフィア =リリィホルム(ka2383)は小首を傾げた。当然、変装をしているとは思っていない。
 ――これは、何か起こりそう。
 奇妙な確信を抱いて、ソフィアは後をつけて会場内へと足を踏み入れたのだった。

 ―・―

「無理だな」
「がびーん!!」
 一通り意見を聞いた職人の言葉が、ギロチンのような鋭さで振り下ろされた。

 属性盾を踏まえた上で『無属性』の攻撃をどう処理するか、という所を考えての発案は、『敵の攻撃に属性を付与する』というもの。
『以前私も属性付与鞘を鍛えたことがありますが、それは、属性付与時間が一瞬な上に覆った刀身を殺す問題作でした。
 そこで、考えたんです。覆うのが敵攻撃なら? 例えばパイプ状の属性付与パーツで属性付与しつつ攻撃を殺し、本体の盾で半減して受ける……凄く受けが難しいですが、可能なら有用と思うんです! どーですか!』
 もはや正体を隠す気はZEROな口ぶりであったが、その熱は本物であった。それ故に、斬り下ろした職人は些か申し訳なさそうな顔を見せたが、すぐに職能人の顔で、告げる。
「俺もその道には明るくねえが、そもそもの話、属性鞘とやらでの付与自体が『内向きに篭もらせる』ことで擬似的に達成していただけだろ? 『外からくる攻撃』に対して属性を付与するのは技術的には全く別モンだ」
 ――現実的には、魔法の類の領分じゃねぇかね、という声に、ぐうの音もでなかった。
 ソフィアは轟沈したクレールの様子に苦笑を零した。
 ――面白いこと考えるなあ、やっぱり……。
 故あって正体を隠している(?)ようだから、とぼとぼと帰る背中に声はかけないことにした。見れば、職人も"正体"は解っているようで、苦笑しながら「気を落とすなよー」と声をかけていた。
「あのー。私も、提案、よろしいですか?」
「お! 勿論、歓迎だぜ」
「その……マテリアルの流れを利用したホバーボードとか、無理ですかね……? 地面から少し浮いて滑らかに滑走する感じ、なんですが」
「ん"っ?!」
 困惑が顔にまざまざと浮かび上がっている。少し考えこんだ職人は――じきに、唸りだした。
「――出力を得るには俺らだけじゃ無理、だが……ちと、当たってみるか。それに向いた板なら作れそうだ」
「おー、是非、検討お願いします!」
 用途に対する理解が得られたと見て、ソフィアの声が弾んだ。
「何かしら、既存の技術がありゃぁいいんだろうが……ま、期待しないで待っててくれ……ん?」
 つと、職人の視線が転じた。その先には――。

「たのもーー!!」
 声を張るボルディアと、紅薔薇がいた。周囲の視線を集めながら二人は前進。ずずいと職人の元へと歩むと、紅薔薇が口を開いた。
「お主、猫は、好きか?」
「…………まぁ、好き、だが…………?」
 つとみれば、紅薔薇の隣には、ユグディラがいた。青みがかった毛並みを撫でながら、紅薔薇はこう続けた。
「猫達用装備もブランド化するべきだと思うのじゃ。防具ならなお良い」
「……猫って、そいつか?」
「うむ」
「……ユグディラじゃねえか」
「うむ。錬筋協会に負けず、冒険してほしいのじゃ」
「……錬筋協会、だ……?」
「中々の業物を出しておるぞ? のう、にゃー子」
「にゃーんっ」
「イェジドの分も頼むぜ! お前ら、たしか馬用のヤツとか作ってたよな! 俺のヴァンで体格とか調べてもらって構わねえからよ! 王女だって悪い顔は――」
『あー、分かった分かった。とりあえず中に入んな。詳しく聞かせてもらうからよ……」
 男もまた、職人だった。否やは、無い。
 ――彼らにとって未踏の領域へのアプローチになるのは、この時点で紛れもないことであったから。



●聖堂教会
 大きな祭場とも呼ぶべきそこでは、僅かなりとも信仰の体を示すだけでも辛苦するらしい。エアルドフリスは武具や防具、旅装の"向こう"に僅かばかりの教会らしい誂えを見て、そんなことを思った。
 とはいえ。
「水や食べ物が長持ちする系は重宝するよねぇ……あと荷物がたくさん入る鞄とか、かな。俺もダンジョン攻略でお世話になったなー」
 ジュードは楽しそうだ。なら、それだけで良しとするべきだろう。
「ふむ……」
 旅装には一家言あるエアルドフリスの検分に籠められた色にジュードはニンマリと笑みを浮かべる。
「エアさんも旅用の靴や鞄新調したら? 俺が買おうか?」
 こちらはこちらで、商売人とその他アレソレの血が騒ぐのだろう。胸元のクリムまでニヤリと笑うのは頂けないが――甘えっぱなしも、沽券に関わる。
「何、俺こそ――」
「なにかお探しですか?」
「…………」
 そこに、割って入る声があった。聖堂教会の営業担当と思われる育ちの良さそうな金髪の少年に、エアルドフリスは咳払いを一つ、零す。
「……以前装備力が増える小袋があったと思うが、小物以外で、同様のものが欲しくてね」
 魔術師にとっては小物だと都合が悪くてね、との言に、少年は頷きを返した。
「外套や、インナー、ですかね……なるほど。確かに」
「個人的には隠密効果付マントなんぞも興味があるが……」
 と、そこで、ジュードの側から視線を感じた。
「――――」
 ジュードは何も言わなかった。ただ、「悪巧みカナ?」という殺気のような何かに、言葉を呑む。
 勿論、二心はない。
「師匠……?」
 冷や汗が浮かび始めたころ、知った声が届いた。
「あ、ユリアンさんに、ルナさん! ふたりとも来てたんだー」
「こんにちは!」
 挨拶をするジュードの視線が振り切れた。引きづられるように視線を転じると、ユリアンとルナが、そこに居た。
「どうしたね?」
「あ……その、俺も要望に、と」
「はい!」
 そこで、金髪の少年が目を輝かせた。商機と見たのだろう。
「その……此処でいいかは、解らないんだけど」
 ユリアンが要望したのは、『レンジャーキット』であった。応急手当、水袋、チョーク、背負紐などの一式が詰まったもの。
 ルナはその内容を聞きながら、ユリアンらしいな、と感想を抱く。気遣いの人らしい、と。
「戦場や戦災現場なんかで、使えるように、と」
「ははー……確かにこれは"ウチ"向きですね」
 頷く営業担当は、既に算段をつけているのだろう。思考に没頭する様が見て取れた。
「よっし。じゃあエアさん! もう少し回ろっか!」
「ん? ……ああ、解った。では、な」
 ジュードに引きずられるように去っていくエアルドフリス。じゃあね、と去り際にジュードがよこした笑みに、ルナは胸中で礼をしつつ、ユリアンの手を引いた。
「次、行きたい所があるんです!」


 ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)は黒猫を抱きかかえ、隣にユグディラのトレーネを引き連れて、場内を散策していた。
 目的の場所を探しているうちに迷子になったのもあるが、物珍しさに散策していたのもある。
 兎角、見つけた。ゴーレムが並び立つ、『第六商会』のブースを。 

「我はな」
「はい」
 ハンターと見て寄ってきた執事服の老人に、躊躇うことなく、言う。
「箒で空を飛ぶのが、夢なのじゃ」
「なるほど」
 呆けなかったのは、訓練の賜物だろうか。真顔で頷く老人が続きを促すと、ヴィルマは大層気分が良くなった。この商会は奇異なものを好む――気がする。
「空を飛ぶ、というのは難渋するやもしれんがの。そういう技術が運用された時用に……ほれ、我の、この――『Meteor』のデザインなんかなかなかおしゃれじゃよ?」
 と、空いた手でランタン飾りのついた箒を示すと、そこで初めて、老人は苦笑を零した。
「――なるほど。当商会の開発者であれば、興味を惹く内容かと」
「そうか! それは……良かった」
 案を提示して、相応に色良い返事があったことに安堵を抱く。そのまま箒型の杖はどうか、などと提案し始めたのは、ご愛嬌だろう。

 ―・―

 錬筋協会に続いて第六商会を訪れた真は、給仕服の女性店員に要望を伝えていた。
「フルート「ホライズン」みたいな楽器はこれからも開発を継続してほしいんだ」
 できれば伝統楽器や、難しい楽器でもいいのだけれど、というと、女性は柔らかく微笑んだ。
「ハンターの皆様が戦場に楽器を持っていく、というのは以外でしたが……」
「他にも、誰か?」
「ええ」
 ちらり、と視線を送る先に、ルナとユリアンの二人組がいる。ルナが並べられた楽器を見ては楽しげなさまを、ユリアンは一つ一つ心に留めるように眺めている。
「魔力を高める楽器と、悪環境でも使用可能な楽器を、というご要望を賜りました」
「……なるほど。私も愛用しているので、是非、それら開発を検討してほしい」
「ええ、こちらとしても前向きに検討させていただきます」
 女性の微笑みと言葉に、偽りはないのだろう。真は最後にひとつ、頼む、と告げて、その場を後にした。

 ―・―

「無い、か」
 クローディオ・シャール(ka0030)は落胆していた。展覧会なのに、ママチャリだけ(あくまでもクローディオの主観である)が無い。
 失意のなか第六商会のスペースを通り掛かると、声が掛かった。怪しげなサングラスに指ぬきグローブ、夏だというのに黒いコートを着用している男だ。
 並べられている魔導拳銃シリーズを見て、クローディオはふむ、と唸る。開発者だろうか。
 過ったのは、過日の依頼。
 ――オーランが開発中の法術陣。あれの有効活用について、考えていたな。
 蓄積したマテリアルをどう使うか、という話だった。そこで。
「……ということがあってな」
 かいつまんで説明すると、怪しい男は「そいつぁロックだぜ」と呻いた。
「そこで、貯めたマテリアルを非覚醒者でも安定して扱えるように、魔導銃等にも転用できないだろうか?」
「や、魔導銃はもともとパンピーでも使えるぜ?」
「……何?」
「覚醒していなくたって撃てる。実際、同盟なりのどっかの海軍だか部隊だかは制式にしてなかったか?」
「…………そうなのか」
「まァ、俺の銃ほどイケたヤツじゃねぇが」
「……そうか。非覚醒者でも上手く使える銃があれば、人材や兵力不足を補えると思ったんだが……」
「そうだろ、シビれる程のイケた銃が沢山あればよォ……」
「むう……」
 お互いに話を聞いていない時間が、どれほど続いただろうか。
 おもむろに顔を挙げたクローディオは、最後にこういった。
「それとは別に、魔導エンジンを積んだママチャリはどうだ」
「あ?」

 ―・―

 ――あれ、俺、子供扱いされてないか?
 龍華 狼(ka4940)は少しばかり衝撃を受けていた。2人乗りが出来るバイクが欲しい。大型のバイクとか』というのを幼気な少年風に告げた所、返ってきたのは過剰な優しさと、「バイクがお好きなのですね」という丁寧極まる相づちであった。
 ある意味で意図通りではあるのだが――言っている間に気づいた。
 ――俺の足が届かねえからやんわりと受け流してるのか……?
 衝撃だった。栄養が足りぬ我が身を呪う他ない。これもある意味で自業自得かもしれないが。
 くっそぉ、と胸中で唸りながら、せめて。
「あとは攻撃されたら自動的に電磁防壁を出すみたいなのがあるとカッコイイって思います!」
 というと、余計に子供扱いされてしまった。
 何故だ!! とこれまた胸の裡で眼前の相手を罵るが、やはりこれも自業自得であろう。

 ――くっそァ……"アイツ"はアイツで金蔓にはならなそうだしよォ……やっぱロシュだな……。
 と、視線を向けた先で――奇妙な空間が、出来上がっていた。



 男は、ユグディラとユグディラのきぐるみに、囲まれていた。
「それいけユグディラ隊、ですのー♪」
「……なんだい、これ?」
 チョココに囲まれたヘクス某も、ワインを手にうろたえていた。
「野望かなったりですのー♪」
「……この子からは、僕を護ってはくれないのかな?」
「適用外、ですかね……」
 傍ら、ツインテール姿でメイド風のワンピースを着込んだアシェ-ル(ka2983)は顔を背けて小声で呟いた。
『サチコ様も放置しておくと大変な事する時あるので、貴族には護衛が必要なんです!』
 と意気込んでの護衛であったが、現状は散々なものだった。
「押し掛け護衛じゃなかったの?」
「ご、護衛の一環ですよ! が、害は無い、はず……」
「へえ……」
 困惑するアシェールを肴にすることに決めたらしく、チョココとユグディラたちに囲まれながら、グラスを傾けた。
「そういえば、Gnomeを見ていて思ったんですけど、刻令ゴーレム用の船とかは、どうですか!  櫂を漕ぐ命令与えれば推進は得られそうですし……魔法は便利ですけど、波があると使いにくいので」
「キャタピラと合わせたら推力になりそうだけど……そもそも、海上でゴーレムを使うかな?」
「あー……他のユニットとかの運搬も、と思ったんですが」
「なるほどなあ……ん、美味い。君も飲むかい?」
「えっ! いいんですか!」

 ―・―

 ジャック・J・グリーヴ(ka1305)の心中は、快いものだった。
 王家の蔵を開くと決めたシスティーナ。かつての邂逅と口論が蘇る。
 ――クソガキめ、マジで"王様らしく"なってきたじゃねぇか
 だが、と思う。ソレすらも、越えてやろうじゃねぇか。俺が、この国の光になるんだ、と。

 とはいえ、立場も権力もないジャックには出来ることは乏しい。それもあって、ヘクスを探し――。
「孤児の受け入れ先を増やしてくれ、と」
「ああ。悪い話じゃねェ。てめぇが死んでもガキは安心だって思える環境作りは騎士や戦士のモチベを上げる事にも繋げられると思うワケよ」
「でも、慈善事業だろ?」
「……まあ、そうなる、がよ」
「はは、それはなんとも、『商人』らしくない考えだね」
 クツクツと笑い揶揄するヘクスを、殴りたくなるのを、堪える。
「弔慰金だって出るし、そも騎士や戦士は背景が盤石な事が多いよ。一人倒れた位で"戦災孤児"は生まれないさ」
 そりゃ、大変だろうけどね、と添えるヘクスは、こうも言った。
「働く気があるならウチで雇うよ。教育もね。仕事なんて、腐るほどあるからね」
 困ったら相談してくれと気軽に言うが、慈善事業ではない、という線引きをするヘクスに、ジャックは顎を引いた。
「ソイツらがどうしても頼りてえって言ったら考えてやらねえでもねえ」
「ハイ、ハイ」
「もう一つ」
「なんだい」?」
「騎士団、戦士団、貴族私兵以外にも非正規部隊を作れねぇかね。具体的にゃ貧民や犯罪者を雇う、とかよ」
「どうだろ。貧民は、訓練さえすれば頑張るかもしれないね。"あの子"がするかはわかんないけど。けど、後者はだめだ。死線に、裏切るかもしれないヤツを送るなんて危ない橋は、渡れないよ。出来て後方支援ぐらい、かな」
「…………」
 ジャックは、これまでの戦場を思う。いずれも綱渡りが続く、決死の戦場だった。
「まあ、考えておくよ」
「おぅ」
「……お疲れ様でした」
「…………おぅ」
 余談だが。ツインテールのアシェールに見送られたその顔は、赤面していたという。



「第六商会のファッションブランドがあったんだねー。今後はクリムももっとお洒落できるね?」
「にゃーい!」
 ドレス姿のユグディラは、主の言葉に嬉しげだ。
「ね、エアさん。クリムの服、どんなのがいいかな?」
「――ふむ」
 そこで、エアは言葉に詰まった。女性的な服装には含蓄があるのだが、ことユグディラとなると――。
 ――ジュードの着る物なら判るんだが。
 と、上目遣いのジュードを眺めて思いはするも、言うのは憚れた。
「……そうだ、ジュードとクリムでお揃いにするのはどうかね?」
「あー、そだね。端材とかで揃いの服も作れるし……クリムはどう?」
「にゃい!」
「ふふ、そっかー」
 右手を掲げて楽しげなクリムに、ジュードの頬がほころんだ。エアルドフリスとしても、上手いこと言えて深い充足を抱いた。
「ジュードも歩き疲れたろう。甘いものでも食べに行こう」

 ―・―

「ふああ……」
 ジュードの甘い吐息が溢れた。
「どうだね?」
「や、おいしい……語彙が無くなる」
「にゃぁ……!」
「ね! エアさんも。はい、あーん!」
 無論、賞味した。エアルドフリスの目から観ても、アカシラ達、鬼のチョコレートは練達の域に達していた――が、そこで。

「足りねえ! 足りねえぜ!」
 男の声が響いた。デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)のものである。
「味は確かに、普通に美味いが……世は正に大練筋時代ってわかってるか?」
「……あ?」
 怪訝げなアカシラを意に介することなく、男は続ける。
「カカオ含有量の高い、いわゆる『筋トレ効果を引き出す』……そう、ダークチョコレートも作るってのはどうだ? 練筋協会の連中も巻き込んで、実際に効果の程を確かめてもらったりよ。ノーマルなチョコを敬遠してた層にアピールしていく感じだ」
「そんな訳……」
「あ、姐御」
「ん?」
「その御仁が言ってるのは、ホントでさ」
「……え?」
「俺たち、チョコを食うようになってから訓練で筋肉が付くように……」
「…………へ?」
「ガッハッハ! 言ったじゃねえか! よォし、今から錬筋協会のトコに行くぞ!!」
「あ、こら……!」
 そのまま、デスドクロはアカシラの腕をひっつかんで何処かへと向かっていった。

 ―・―

「……ってことになったんですよぉぉぉ!」
「おう、おう、大丈夫じゃよ。その変装も似合っておる」
「うっうっうっ……ありがとうございますぅ……」
 ヴィルマに声を掛けられ、ミィリアと落ちあい、落ち着く所を求めてたどり着いたそこで甘露に舌鼓を打つに至り――クレールは泣いた。溜まっていたものもあったのだろう。
「大変だったんだね……」
 ミィリアがよしよし、とその背を撫でる傍ら、ヴィルマは店員の鬼に向かってふわりと笑った。
「繁盛しておるのぅ。ほんにそなたらチョコレート作りが上手くなったものじゃて。繊細で心がこもっておる。まさに義理人情のこもった良いチョコじゃて」
「へっへ……鍛錬してやすから」
 シシドは下卑た笑いを浮かべながらも、「また、来てくだせえ」と嬉しげに言った。これには、ヴィルマも苦笑を零し、思わず、こう言ったのだった。
「店でも構えたら、の」



「――というわけで、【強制】対策を考えていただきたいのですが」
「いや、いや、待ってくれ」
 日紫喜 嘉雅都(ka4222)の言葉に、ヘクスは両手を挙げ、こう続けた。
「提案については考えるけどさ。ただ、基本は"装備を整えたらいいだけ"だろう? 実際、クラベル戦ではそれが奏功した筈だよね」
「……まあ、たしかに」
「戦場で重要な人物……非覚醒者のゲオ爺さんとシスティーナ以外は備えてるんじゃないかなと思うよ。多分」
 一応、嘉雅都としてはいくつか提案は伝えたが、大前提はそこだ。自助努力と切り捨てるわけではないだろうが、原則を履き違えるのは下策か。
 法術陣についてプラトニス絡み含めて提案をして渋い顔をされた後、切り出す。
「あと、女王のことですが……」
「ん?」
「……解放する、というのは、無理ですかね」
「僕も、よく知らないけれど」
 ヘクスはワイングラスを揺らし嘯いた後、暫し、黙考した。
「何事もなく終われば、解放されるんじゃないのかな」
「…………それも、そうですね」
 徒に解放を選んで、国が滅ぶような選択は――少なくとも"彼女自身"が望むまい。
 非常に収まりは悪いことではあるが、結局のところ自らの手を托む他、ないのだろう。気分は晴れないが、伝えるべきは伝えた。
 ならば、今日はコレで良しとして、嘉雅都はその場を辞した。



「ゴーレムかあ……」
 無骨な機体を見上げて、私は乗る方が好きかなぁ、と、ウーナ(ka1439)は呟いた。
 第六商会に顔を出したのは此処が機体を取り扱っているから、というのが理由。手近な店員を呼び止めての提案は、
「ユニットに合わせたヒト用の装備とかも欲しいかな。CAMとかのパイロットスーツとか、ゴーレムの、砲兵向けの防護服とか」
「ふむ……効果との兼ね合いが、難しいですな」
「有るだけでも嬉しいものだけどねー。あたしなんかは自作してるけど、専門の人が作ったのがあるとやっぱり嬉しいし」
「なるほど……」
 執事服の老人が真剣に検討する様を眺めて、ウーナは満足を得た。提案をする機会は多かったが、それが実ることはあまりないのが実情だった。
「……専門の人、ですか。デザイナーの算段をつけなくてはなりませんな……」
 何か、別な方向に進んだような気がしたが、そこは、置いておくことにした。
「楽しみにしてるよー」

 ―・―

 Gnome開発者といえばアダム・マンスフィールドであるが、本日は諸般の事情で欠席であった。
 そこで、代理としてたてられた担当者は――消耗していた。
 たとえば、錬介などは良かった。
「Gnomeには大変お世話になっております。最近は農業でもご活躍だとか……農業用の装備もあるなら楽しみですね」
 ――もう少しでVolcaniusも買えそうで今から楽しみです。
 と、業者冥利に尽きる言を残して言った。
 その点では、ソフィアもそうだった。
「靴型装備が、欲しいんです!」
 ――あ、これはゴーレム用じゃないな。
 そう思った。なにせGnomeには足はないし、Volcaniusに至っては足は飾り。
 そこで、ソフィアは上目遣いになった。幼気なドワーフの容姿が、際立つ。
「機導師として重要なスキルをユニットでも、って……」
 思わず頷いてしまったのは男の性か。
 土木作業用などのマルチツールについても頷いてしまったが、気づいた頃には少女はクフフと笑って歩き去っていった。

 ―・―

「妾が思うにゴーレムは装備できる物が少なすぎるのじゃ」
 そういった少女もいた。紅薔薇である。
「おっしゃる通りで!!」
 Gnomeは近接戦闘を想定していなかったと言い訳できるような生易しい空気じゃなかった。そうでなくても新型についての悲憤もぶつけられたばかりであるし、剣呑な空気が漂う。
「というわけで、妾は軽めの全身装甲を所望するのじゃ」
「はい!」
「スキルについても拡張予定があるのじゃな? 強いて言えば、周囲の味方を護る系が欲しいのじゃ」
「…………むむ」
 それは、難しい。ゴーレムは、そんなに器用ではないのだ。
 けれど。
「――善処シマス」
 そう言ってその場を凌ぐしか、無かった。見透かされているかもしれないが。
 だって、怖いんだもの。



 不意に、静寂に囚われた。
 雨音に微睡む玻璃草(ka4538)――フィリアの表情が、きょとんとしたものに転じる。
 天幕を潜ったと思った。すると、こうなった。耳を澄ますも、何も聞こえない。
 けれど。すぐに、音が生まれた。誰かの息遣いだと気づいた直後。

「一つ、占っていかれますか?」

 ―・―

 グランマと名乗ったヴェールを被った占い師は3枚の札を出した。
 『古の塔』『狂気』『時計塔』。
 それぞれ、過去、現在、未来を示す、という。
「?」
 小首を傾げたフィリアに、グランマの口元に笑みが咲く。
「端的に言えば、凄惨な過去、隔絶される現在、そして――転機の訪れ、という所ですね」
「何かが、変わるのかしら?」
「……何かを、変えたいならば」
 静寂が落ちた。無音の空間に、二人の呼吸が微かに響くばかり。
「ねえ、おばあさま。わたしは、『雨音』が好きよ」
「そうですか」
「どんな『雨音』が聞こえるかしら?」
「――その時が来れば、わかりますよ。ただ」
 つ、と『時計塔』の札を示したグランマは、最後にこう結んだ。
「この札は、『良き未来』を暗示する札ですわ」



 アークエルスの技術者たちは、偏屈者が多いと聞いていた。それ故に、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)としては少しばかり驚いたのだ。
「このような場所で、我らの恥部を晒すわけにはいきませんので」
 眼鏡の似合う怜悧な美貌の女性に、アルトは頷く。
「変人の相手をしないで済んだのは朗報かな」
 直截な言い方に、相手の女性は苦笑を零した。それを待って、本題を切り出す。
「基本的に、一芸に特化した武具が欲しい。例えば――法術刻印装具の正統最新作『リア・ファル』シリーズ、だけど」
「ああ……」
「全身鎧なんかも、ほしい所だけど……特に法術脚甲について、正式版を出してほしいところだね。使い勝手がいい脚装備はほとんどないのが現状だから」
 ちら、と。女の視線がアルトの全身を過るのを感じた。
 ――少し、固め過ぎたかな。
 4箇所がアークエルス製である。上客であることを示すには良かったかもしれないが。
「ご意見は、お預かりさせていただきましょう。少し、時間は掛かるかもしれませんが……」
「そう……」
「数ヶ月は見ていただければ」
「……そのくらいなら、大丈夫。準備をして待つよ」
「是非。彼らは気まぐれですが、こと、これにかけては真剣に取り組んでいますから」
 高みを目指す。そのために、足掛かりになるならば何でも使いたい。
 頼む、と言い残して、アルトの展覧会は終わった。

 ―・―

「お前たちがエメラルドタブレットを作ったアークエルスの面々か」
「――いえ、その窓口担当です」
「それでもよい
 ルベーノの言葉をさらりと留めた眼鏡女性であったが、ルベーノにとってはどちらでもよい話だった。
「最近精霊を宿した宝石が歪虚化したり、精霊の名を冠したオートマトンが蘇ったりしていたようだからな。お前たちが今後精霊絡みやオートマトン絡みの製品の開発を行う予定があるのか、話を聞ければと思ったまでだ」
「オートマトン、ですか……」
 事情は抑えているのだろうが、返事は、鈍い。話の行く末を追いきれていないのだろうとアタリをつけ、ルベーノはそのまま、続けた。
「俺にはオートマトンの知り合いがいてな。彼女はハンターになりたいと言っていた」
「はい」
 端的に続きを促す声は心地良いものだ。
「今のところエバーグリーンの遺物でしか彼女の装備は整えられないだろう? せっかくこちらの世界に来たのだ、もっといろいろな装備を、この世界でも整えられればと思ってな」
「……なる、ほど」
 どうだ? というルベーノの視線に、眼鏡女性はどうしたものか、と思案した。
 しかし、意を決したように、かんばせを挙げる。真っ直ぐにルベーノを見据えると。
「恐らくですが、彼女たちでもこの世界の装備は可能かと……」
「………………む?」
 呆気にとられた、とは、斯くのような顔を言うのだろう。
「装備以外、となると話は別かもしれませんが……」
「……そうか、邪魔をしたな」
 気まずげな女の声に、ルベーノはそう言い、踵を返したのだった。


 ―・―

 第六商会に加え、ルナはアークエルスのブースでも楽器の要望をした。
「できれば、リュートが嬉しいんですけど……」
「奏者でいらっしゃるのですか?」
「――はい」
 演奏をすること。その意味を噛み締めながら、そう答えた。眼鏡の女性は眩しいものを見るように、微笑みを浮かべる。
 しかし、すぐに笑みは曇ることになる。
「あ、あと。軽い胸当てとか、欲しいです。少し無骨なものが多いので……お洒落で、頑丈なものだと、いいんですけど……」
「……お洒落、ですか」
 アークエルス的には非常に怪しい領域である。なにせ、見栄えの何たるを考えない人間の方が多いのだ。
「……………外注、しますかね」
 絞り出されたそれは――重く、深い声色をしていた。


「困らせちゃいましたかね……」
「うん……」
 帰り際。落胆と、申し訳無さの入り混じった声に、ユリアンは頷きを返した。
「けど、前向きに考えてくれるみたいだったね」
「……そう、ですね」
 彼が自分を励ましてくれてる、というのは解った。だから、それで十分だ。一日、二人で歩きまわって、楽しかったのだから。
「……そうだ。はい、これ」
「?」
 差し出されたのは、淡い桃色の包装に包まれた、チョコレート菓子。見上げれば、ユリアンが申し訳なさそうな顔で傷だらけの身体を示すように、自らの左腕を撫でる。
「今日は、こんな調子だったから……今度は、俺から誘うよ」
「……」
 溢れた言葉。それを吟味するのに、時間を要した。
 だけど――すぐに、胸の中で音が弾む。返事は、決まっていた。
「……はい。待ってますね!」

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  • 完璧魔黒暗黒皇帝
    デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013
    人間(蒼)|34才|男性|機導師
  • フューネラルナイト
    クローディオ・シャール(ka0030
    人間(紅)|30才|男性|聖導士
  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    クリム
    クリム(ka0410unit002
    ユニット|幻獣
  • 明日も元気に!
    クレール・ディンセルフ(ka0586
    人間(紅)|23才|女性|機導師
  • 無明に咲きし熾火
    マッシュ・アクラシス(ka0771
    人間(紅)|26才|男性|闘狩人
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    ヴァーミリオン(ka0796unit001
    ユニット|幻獣
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ミケ
    ミケ(ka1305unit003
    ユニット|幻獣
  • 青竜紅刃流師範
    ウーナ(ka1439
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 大工房
    ソフィア =リリィホルム(ka2383
    ドワーフ|14才|女性|機導師
  • 光森の太陽
    チョココ(ka2449
    エルフ|10才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ユーグ
    ユーグ(ka2449unit003
    ユニット|幻獣
  • 其の霧に、籠め給ひしは
    ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549
    人間(紅)|23才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    トレーネ
    トレーネ(ka2549unit002
    ユニット|幻獣
  • 春霞桜花
    ミィリア(ka2689
    ドワーフ|12才|女性|闘狩人
  • 東方帝の正室
    アシェ-ル(ka2983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ヨウヘイウサギ
    傭兵兎(ka2983unit003
    ユニット|幻獣
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士

  • 日紫喜 嘉雅都(ka4222
    人間(蒼)|17才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ユキウサギ
    ユキウサギ(ka4222unit001
    ユニット|幻獣
  • 囁くは雨音、紡ぐは物語
    雨音に微睡む玻璃草(ka4538
    人間(紅)|12才|女性|疾影士
  • 不破の剣聖
    紅薔薇(ka4766
    人間(紅)|14才|女性|舞刀士
  • ユニットアイコン
    ニャーコ
    ニャー子(ka4766unit004
    ユニット|幻獣
  • 清冽なれ、栄達なれ
    龍華 狼(ka4940
    人間(紅)|11才|男性|舞刀士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルト(ka6750
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士
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