• 界冥

【界冥】神殺し志願

マスター:韮瀬隈則

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/07/21 15:00
完成日
2017/07/29 07:16

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


「私は神を殺さなければいけないのです。できるだけ多く。手っとり早く殺せる神はどこに居ますか?」

 館神勇希(たちがみゆうき)。リアルブルー日本出身の少女。実家は関東の小さな神社。古来からの氏族と禁足地を護る龍神、いわゆる屋敷神の類だろう。
 受付嬢が検索した彼女の登録情報とハンター仲間の噂では、ロッソ帰還後に戻れぬのを承知でハンター志願した変わり種、らしい。単にその時期に志願した者は他にも居るだろうが、彼女がふるっていたのが開口一番に受付嬢に告げた先ほどのセリフである。

「神隠しの辻に去った親類縁者は還ってこなかった。だから私がいつか来る神を殺す」
「業を重ねねば神殺しにはなれない」

 我が氏族には、いつか神殺しを果たさねばならぬお役目がある。そのための修業だ。
 単純に纏めればそういう話だろう。邪神ファナティックブラッド戦と大精霊との血盟を、おそらく崑崙で滞在したハンター達に聞いたのだ。そこでなにか、己の出自に重なるものでも見出したのか。ならば、と、神を殺す力を得るために、世界を渡った。以降、神と名の付く敵ばかりを探し、オフィスに並ぶ依頼を受けているのだという。ただし、駆け出しの彼女にかなう神、を優先して。



「気に入らないザマス。なにより邪魔にも程がありましょう?」
 ……などとお偉いさんが実際に言ったかは定かではない。
 神奈川県鎌倉七里ガ浜。稲村ガ崎から江ノ島にいたるまでの海岸線は、海水浴場としても砂鉄の浜としても知られている。そこに、鎌倉クラスタから排出されたと見られるバリケードが散見される、とは先ごろ行われた偵察からの付帯報告だ。

 いびつに棘が突き出た鉄球──。
 大型テトラポットというよりは出来損ないのウニのような物体が、バリケードひとつにつき数十個単位で堡塁のように組まれている。
 当然、ただのバリケードであるはずはない。
 先遣隊が敵クラスタからの戦力派遣前の占拠を試み、あえなく撤退を余儀なくされた。
 レーザー照射に加え、突進し体当たりする動的バリケード。攻撃態勢をとり、単眼で一本脚と長い両腕が生えたウニ一つ一つが歪虚、ということだ。
「放置したくとも、仕掛ける予定があるからな。万一、本拠から増援に来られたら面倒だと、江ノ島に近い分だけでもなんとかしろ。とさ」
 それでいま、こうして俺たちが向かっているわけだ。
 現在。ハンターと軍の混成部隊は、江ノ島沖からゴムボートで、対岸である片瀬地区近隣の小動岬を臨む腰越漁港へむけて隠密体制をとりながら移動中だ。漁港上陸後、国道134号を稲村ガ崎方面に移動し、江ノ島攻略戦に影響がある2基のバリケードを無力化する作戦である。


 ──その時。
 双眼鏡を持ったハンターが、「敵だ」と叫ぶ。
「増援の中型狂気か? いや、なんだアレは。一つ目に一本脚、でも……鉄球頭ではない」
「笑うなよ? 俺が連想したのは『一本多々良』ってぇ妖怪だ。ここに出張って来てる以上、バリケードのウニ野郎と無関係たぁ思えねぇが……」
 敵が現れたのは小動神社を超え、すでに腰越海水浴場付近。そこにゆらゆら蠢く中型狂気と思しき影。
 口々に双眼鏡を構え、振り返りリーダーに指示を仰ぐ。

 誰かが雑感を言ったように、CAMより一回りほど小型の、歪な人型狂気。パーツだけを見れば、まさしくウニ型動的バリケードに生えている一つ目と長腕一本足と同じものだ。違いは、頭と胴が鉄球状であるか否か。
 その数、凡そ40体──。

「『一本多々良』? 零落した一つ目の製鉄の神。鉄……鉄です。あの鉄球が無関係であるはずがない。……ほらッ!」
 叫ぶように。
 新米ハンター、館神勇希が指差した先。かの中型狂気が変化した。
 腕で身体を支えて、脚で砂を巻き上げて。その砂を吸い込み取り込み、砂鉄を帯びた磁石のように鉄を放射状に身に纏って。
 一言で言ってしまえば──動的バリケード敷設のまさに現場。
 リーダーは唸る。
 こちらの戦力を考えれば関わる余裕はない。
 見逃す? まさか! みすみす敷設を許して何のための江ノ島攻略か?
「おそらく……急がなければ事態悪化は避けられません。行きます!!」
 ──止める間も無かった。
「本隊は目標制圧に向かってください」
 背越しに館神勇希が放った言葉は、彼女が飛び込む水音でかき消された。



 リーダーが別働隊として追わせたゴムボート1艇が勇希を拾い上げた後も、彼女は急げと急き立てる。
(なるほど。神だの妖怪だのに思い込みの激しい新人だと、リーダーがぼやいていたが……)
 結局、勇希と共に別働隊対応となったハンターが、勇希は何を急ぐのかと敵に目を凝らす。
「やはり……! 鍛冶神が鉄を鍛え始めてしまいました」

 いち早く。既に砂鉄を取り込み終わった2~3体の個体が、両腕を支えに一本足での足踏みをはじめる。
 ゆらり──。
 7月の砂浜に陽炎が立つ。
 暑い夏。海水浴客の足を焼いていたはずの砂浜。
 けれど今の陽炎は、さらに熱く熱く熱く。その陽炎の中に、零落した鍛冶神にも似た異形の狂気。

リプレイ本文


 再度、海に飛び込もうとした館神勇希は、襟首を八原 篝(ka3104)に引っ掴まれてゴムボートのヘりにつんのめった。
「ちょっ! 中二病もいいかげんになさい! ……本気でもいいけれどッ」
 大きく揺れたボートの反動で勇希を掴み上げて、すとんと正座させる。
「神でも妖怪でもアレを倒したいのは皆一緒。あのね、各個撃破って言葉、わかるわよね? コレで殺られたらマヌケなやつ。それやろうとしてんのよ貴女」
 足並み乱してばかりでどうすんのよ? ふぅ……と息をついて、皆も言ってやってよ、と篝は同乗する男性陣を見やる。

「神ィ? ハッ、妖怪区分に決まってるだろ。大量生産にも程がある神様って日本じゃ聞かない話だぜ……と、妖怪の話じゃなかったな」
 岩井崎 旭(ka0234)がほい、と勇希に突き出したのはボートのオールだ。単純機構のモーター駆動ですらも稼げる距離はとっくに過ぎている。急ぐなら全員で漕ぐしかない。それも皆が足並みそろえて、だ。
 話は漕ぎながら聞くから。と言い添えて、旭は続ける。
「鍛冶だの神だので急ぐってのは、根拠があるんだろ? アレは歪虚だが、モチーフに元神様を採用したのには、機能面で理由があるってことだ。好き勝手されるまえに叩っ斬りたいのはこっちも同じでね」
 そういうことだから。私達は貴女を無視しないから、貴女も私達を尊重するの。そう、篝が重々しく頷く。
「こっち! ここ座って漕ぐっすよ! 漕ぎ方分からない? 大丈夫っす。俺が手取り足取り腰取りで密着指導するっすから。こうみえて指導力に定評アリっす。落ち着いて冷静に協調姿勢で。ゴブリンの神とエルフの神を屠った神殺し2段の俺が言うんだから間違いないっす!」
 見事な三下が、バスッバスッと自分の前の座席を叩く。神楽(ka2032)の三下力と小物力が当社比で高まっているのはきっと夏のせいだ。


 ボートは着々と海岸に近づいてゆく。
「いきなり包囲されるってのは避けたいわね」
 篝が早々に龍矢「シ・ヴァユ」に矢を番えて岸を睨む。濡れそぼったコートにかかる黒髪からも雫が滴る。
 勇希の推論と敵状観測を鑑みて、後方支援に徹することが吉と出るか否か。
「速攻厳守。一斉に反撃されない位置に付けるさ。敵さんの作業速度に差があるのは、作業役と護衛役の分担、だな。さらにその中でも時差がありそうだ。護衛専任が今のところ10程度。作業と反撃が排他関係なら大丈夫、5:40にはさせない」
 もちろん、と観測分析し接岸から布陣を策定する旭は、勇希に視線を向け付け足す。
「5:40を5:30に速攻で持ってゆく。次に5:20……いや15。いいか? こっちは一人でも欠けたら撤退ラインなんだ。玉砕覚悟などナンセンスと知れ」

 ──勇希はそれどころではなかった。
「ちょっ……近っ! それと腰にっな……何か当たってるんですけど、えっと」
「あ、俺は神楽。旭に篝。あっちの彼は、本人から聞いたほうがいい反応返ってくるっすね。え? 当たる? そそ、背中に俺を感じるほど「グイッ」っと倒れこんで漕ぐ感じで。っと、勇希ちゃんは熱対策に水被る必要ないっすね。バッチリ! 透けるブラで確認済っす。スポーツブラだから磁力対策で外す必要がないのが残念っす」
 神楽と勇希は二人重なるようにオールで水を掻く。
 さきほどから勇希の背中に当たる、神楽の股間位置の突起は何だろう? 三下の鼻の下が伸びているのも夏のせいだ。



 カイン・マッコール(ka5336)は接岸直後、陽炎に揺れる砂浜より、いや、熱の中に溶鉱炉の輝きを発し始めている数体の歪虚よりも鮮やかにマテリアルの炎を纏って駆け出した。
 背には篝の突入支援射撃。懐には同じく彼女からの、心づくしのミネラルウォーターのボトルが揺れる。
「支援のときは俺に構うな」
「当然! 結局ね……なにも打ち合わせしなくても、目的が一緒なら自然と狙う敵とそのための導線って一致するもの、ねぇ?」
 それをわざわざ言わなくとも話が通じる篝があえて言葉にするのは、そばに勇希が居るからだ。
 カインは口下手で偏屈だ。勇希に気の効いた言葉などかける無駄な努力はしなかった。
 背後で神楽の声が「ゴブリン殺しの自己紹介、始まるっすよ」と聞こえるのは、勇希にカインの背中を示して言っているのだろう。
 ……一見、捨て身の単独行動に見えるカインの吶喊が、堅固な連携のためにあるのだと。
 ゴブリン殺しの異名で紹介されても否定はしない。神殺し志願の少女に自分が何を言えようか。カインの行動のみが、勇希への指導であり餞だと自分でも良く分かっていた。

「旭は、砂鉄取り込み後の発熱準備中のをお願い。私は取り込み中のと護衛専任のを狙ってみる。うーん。足りるかなぁ……スキル。鉄のウニウニ野郎相手と思ったからさ、目玉狙いで予定組んじゃっていたのよねぇ」
 はぁ……。先遣隊の言うとおり、鉄球以外もれなく脆いといいなぁ。
 勇希には自信満々で先輩面したけど、矢が刺さらなかったらゴメン……っ。
 既に謝る心づもりで、篝はカインが放つソウルトーチに反応してきた護衛役と、それが護る砂鉄取り込み機構を動かす歪虚にむけ、ハウンドバレットを載せた矢を放つ。
(当たれ当たれ……)
 ハンターデビュー当時のままお守りに祈ったのは、篝も新人に影響されたものか。
「篝、すぐ位置転換の場所作るから」
 射撃職の鉄則、撃ったら移動、が出来ないのが今回の腰越海水浴場だろう。狭いが障害物のない砂浜。旭が篝に呼びかけた言葉に返事ができたのは、自身が放った矢が敵の手足を大きくよろけさせ、レーザーを放たんと向けた目を射抜くのを確認してからだった。
「ゴメン。いや、ダメなほうのゴメンじゃなくて、余計な心配かけちゃったほうのゴメン……」
(気をもんで損した気分。先遣隊から聞いた以上だわ。脆すぎるでしょう! アレはぁ!)

(敵の強度が杞憂でなにより。しかし数的な不利をコッチの損耗無しに覆さなければならないのは変わらず、だ)
 篝が今度はカインの吶喊支援に切り替えたのを確認し、旭は砂鉄を取り込み大きな頭で砂を取り込み発熱するための足踏みを続ける個体に目標を定める。
「観測分析どおり、やつらは最低限のレーザー防衛以外、手足を使った動きは作業と即応が排他関係か」
 旭は、勇希にちょっかいをかけ続けている神楽に小さく「行くぞ」と駆け出した。
 ──3マンセル。
 旭が砂頭の足を斬り飛ばす。
 神楽が即応にくる護衛の一本多々良にカウンターをかける。
 勇希は斃れた歪虚が起き上がれぬよう仕留める。
(こんなセル組む妖怪が居たな。……ああ、カマイタチか。カマイタチvs一本多々良たぁ面白い構図になったものだ)
「砂頭は面倒なら転がすだけでいい。折角のデカい図体だ。こっちもバリケードに利用しない手はないだろ?」
 ハハッ!
 早速1匹。旭が手近な砂頭の足元に駆け込み、乱気流にもにた連撃を駆けつけた護衛役ごと叩きつける。ゆらり、と揺らぐ砂頭の一本足に取り付けば、あとは老龍固で間接粉砕するのは他愛もないことだった。
 懐に入られれば自身のレーザーは届かず、腕で闖入者を掃おうとすれば酷く安定を欠く。
 どう。と斃れる砂頭の残りの腕を魔斧「モレク」で砕き、旭は篝を擱座した砂頭の陰に呼び寄せる。。
「お待たせ。固定砲台はコレを障害物にしてくれ。距離や配置がマズけりゃ量産すっから」
 さて次は……。細長い腰越海水浴場の砂浜を、東から西へ。鍛冶神の群れを斬り散らして、進む先には灼熱の鉄球。

「貸し1っすよ! 即納払いもローンでもおkっす」
 神楽は危機一髪で歪虚の突撃を避けた勇希を旭謹製の即席バリケード陰に押しやると、旭を追って即応する護衛役歪虚の膝へワンド「雷光錫」をフルスゥイング。強力な打撃によりサヨナラホームラン、とは流石にならなかったが、逆間接となった足はもう、その用を足さなくなっている。
「恒例となりました夏の高校野球! 神楽選手の痛烈な攻撃! チアガールの声援が球場を湧かせます」
 神楽が一人アナウンスし勇希を見遣って声援の催促をする。……違った。ここ、ここ、と指すのはチューをねだる頬の他に、トドメを刺すべき歪虚の目玉。
「は、はいっ」
 慌てて一太刀、突いて斬り上げる勇希を、またすぐに背後に庇い即席バリの陰に押し込む。
「パルムアターック! 神楽選手、見事なピッチングぅ」
 神楽がジーンズのファスナーを下ろし、そこからキノコが発射されてゆく。ボートで背中に当たったモノの正体が、二人を狙っていた大目玉に喰らい付く。
「細かいこたぁ気にせずコレ飲んで」
 さくっと仕留めた神楽が懐から取り出した炭酸飲料2本の片割れ。「振っちまってるけどいいよな?」と勇希に差し出された。
「シャンパンシャワーってやつっす。飲んでかぶって……じゃないと倒れちゃうっす。飲まないなら口移しになるっすけど……熱中症予防にねぇっチューしよ☆」
 三下の口がムニューッと伸びる。
 ひっ! と竦む勇希に文字通り冷水が浴びせられる。──旭だ。
「首筋冷やすなら俺の冷水筒のがいい。飲むのは常温のが吸収いいから、神楽から口移しは良い案だな」

 慌てて水分補給する勇希を愛鳥経由のコンバートライフで癒し、旭は神楽と一瞬の鳩首協議を行う。
「俺達4人で速攻、半数殲滅を変更。3人速攻で8割無力化だ」
「うはwwマジすかww……もっと転がす方向でいいンじゃねっすか?」
 二人の目に映るのは、一際輝くカインの後姿。それを的確に追って歪虚の反撃を妨害する篝の矢──。
(カインは一番厄介な敵を引き受ける気だ。篝はカインを妨げる敵をすべて排除する気だ)
 転がす……殲滅と無力化の違いともいうべきか。
「勇希ちゃん、コツ掴んだっすね? 次からは「戦力外の敵」量産の有効性を知るっす」



 上陸前──。
「天目一箇神の堕ちた姿、か」
 寡黙なカインが珍しく呟く。
 勇希が語った一本多々良。零落した天目一箇神のみならず、世の鍛冶神に共通するのは炉を覗き込み潰れた一つ目と、タタラを踏む一本足。歪虚がそれを僭称する理由が機能性ならば、まさにその一本足こそが、ポンプ構造で電磁力を発生させ、また溶鉱炉機構を備えていると推測された。つまり、一本足を使用する鍛冶作業と防衛は排他、だ。
「ちゃんと順序だてて根拠言えたじゃないか」
 いきなり神だ妖怪だじゃなく、系統立てて具申すんだよ。と旭が勇希に言えば、篝は早速「残る防衛機構の目か作業中の足、ね……」と算段を始める。
「それでも遅い」
 全員の目がカインに向く。盾役が敵を惹きつけなければ厄介な状態の歪虚が増える。
「作業が終われば居るのは砂鉄を溶かす1500度の鉄頭。ますます潰さないと気がすまない」
 溶鉱炉状になる前の奴らを速攻で潰せ。そういうカインにゴブリン殺しの彼を知るものは、意外、と思っただろう──。


(理由? 俺の鎧と同じ名を騙る歪虚が居るのがゲンが悪い……それだけだ)
 ──現在。
 カインが対峙するのは3体の鉄頭。いや、溶鉱炉を体内に抱えた堕落神だ。
「あとどのくらい俺は動ける?」
 自分に問う。【鬼殺】と刻まれた武者甲冑「天目一箇」。軽くはないそれを纏い自身を鉄槌と化し、熱気の中に踊る一本足に大剣を叩きつける。足、という器官は関節が駆動せねばその用をなさない。愚直に身に着けた格闘術は洗練には遠い、が、実戦的だ。
 ゆらり、と頭上の溶鉱炉が揺らぐ。
 作業途中の唯一の防衛手段であるレーザーが、カインを囲む残り2体の灼熱の鉄頭から放たれ、直後、篝の矢にその目が射抜かれた。
「遅れた、ごめん!」
「好都合だ」
 と、多分カインは言ったのだ。カウンターを敵……間接を粉砕した鉄頭を蹴り倒して受け、即座にレーザーの主の懐目掛けて飛び込み大剣で薙ぐ。
 滴る汗が視界を悪くする。荒い息が肺を焼く。

 固定砲台用の障害物は、旭たちが優先して敵を転がし作ってくれた。
(問題は熱気、かぁ……それと回数切れ)
「戦法切り替え! 回数勝負は終わり。帽子への敬礼を止めよ!」
 篝は弓の名手にあやかり燃える頭の目玉を狙う。
 高温の懐に潜り込んだカインはもうすぐ限界のはずだ。それにレーザーからの回避など考えもしない性格だろう。
「遅かった!?」
 放たれたレーザーを取り消すように矢を放つ、また放つ。
 振り向き放つ。どう……。と背後から挟撃を目論む最後の護衛役が急所を貫かれ斃れてゆく。


 神楽は文字通り、地を駆ける獣のようにめまぐるしく一本多々良たちの手足間をすり抜ける。
「当たらなければどうってことない、って故事成語があるっす!」
 にこやかなバッティングにウィンクを捧げる先は、今度は旭と組む勇希だ。元気の源はリジェネレーションだが三下脳も影響しているだろう。
「敵の数で包囲される前に、横撃挟撃を狙うんだ。やられる前にやる。こんな風に!」
 旭の纏う幻影の翼が腕に変わり、神楽に翻弄される歪虚の腕を死角から掴みとる。そのまま引き摺り倒せば関節ごと手足を砕くことなど、旭の得物を煩わせるまでもない。
 ……楽、だ。
 勇希の素直な感想である。
 庇われている自覚、お膳立てされている自覚。もちろん有る、がしかし……的確な作戦と連携の効果がこれほどまでとは!
 既に9割がたの歪虚が転がされ、あるいは崩れ散っていた。無力化優先、殲滅に拘泥無用。
「安心には早いっす、残りが難敵っすから」
 ……! そうだ、カイン!


 最後の敵。たった1体の、だが難敵。鍛冶が終わり、溶鉱炉を頭に頂き突進するウニ頭──。
「鍛冶神でも歪虚でも殺せぬものはない」
 剣を構える。カウンター狙い。愚直にして狡猾、それがカインだ。
 誰だろう? 息を呑む声が不思議と聞こえた。
「足じゃなく目を狙えって……本気で撃つわよ!?」
 アイコンタクトが篝に通じれば、勝機は見えた。カインの視線の先に迫る灼熱の鉄球。
 そして爆発音──。


 たちこめる水蒸気と砂埃。
「カインさん! カインさ……」
 勇希の半狂乱の叫び。盛り上がった砂を除けてカインを探していた旭が、顔を上げ頷く。
「大丈夫、コンバートライフが通る。生きてるよ」
 言外に、いやあからさまに苦い顔。勝算があれども無茶に変わりはないだろう。
 破裂したペットボトルを拾い篝も溜息をつく。
「ボトルを投げて水蒸気爆発を誘発させ、敵の勢いを殺すと同時に砂消火。仕上げに目潰しで突進軌道を僅かにずらし悠々とカウンター……しきれてないわよ、心配させんなコノヤロー」



 バリケード排除は成功をおさめた。
 館神勇希は神を殺し、七里ガ浜江ノ島正面に残るのは、砂山とただ転がるだけの鉄球のみだ。

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重体一覧

参加者一覧

  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士
  • イコニアの夫
    カイン・A・A・カーナボン(ka5336
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
カイン・A・A・カーナボン(ka5336
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2017/07/20 08:50:33
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/07/17 11:32:01