時には優雅な装いでティータイムを

マスター:ことね桃

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/07/22 12:00
完成日
2017/07/31 02:23

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「ああ、もうどうしたらいいのかわからないわ!」
 ある地方都市のアトリエで悲痛な悲鳴が響き渡った。そこから続くのはドタン、バタン、という喧しい音。
「先生、何かございましたか!?」
 声の主に仕えるメイドが慌てて扉を開き、主人の身を案じる。
 そこにあったのは哀れにも床に転がるトルソーと、無数に舞い散る紙、うずたかく積もった布の山、そしてインク塗れという無残な姿になった主だった。

「先生、お召し物は一通り洗いました。ただ、インク汚れはやはり完全には取れませんでしたよ」
 洗濯を終えたメイドがため息混じりに部屋に戻ると、湯上りの主は髪を濡らしたままベッドの上でちんまりと三角座りをして俯いていた。
「……ごめんなさい」
 全身からマイナス感情のオーラを放つこの女性の名はアンナ。この都市では新進気鋭のドレスデザイナーだ。
 15歳から仕立て屋で奉公し、22歳で独立した彼女は、常に最先端の流行を取り入れて周辺地域から名声をほしいままにしてきた。
 今年も彼女のウエディングドレスは好評で、春先から6月の書き入れ時にかけては個人客から衣装屋まで様々な人がこのアトリエに訪れる。
 先日はとある貴族の子女から夜会用のドレスを誂えるよう直接命じられたりと、その仕事ぶりはまさに順風満帆。ますますその辣腕に期待と羨望の目が集まっていた。

 そんな中での突然のスランプ、である。
 6月になってから作業場のデスクに向かってみても何も思いつかない。
 書き入れ時の多忙な接客と営業で疲れたのかもしれない、と思い切って1週間の休暇をとったが、それでも回復しなかったのだから彼女にとっては至極深刻な問題だ。
(……プレッシャーに負けた? 才能の枯渇? 単純な疲れ? そんなもの、今まで何度だって乗り越えてきたじゃない。それよりも新作のアイデアを出さなきゃいけないというのに……!)
 すっかりぬるくなったコーヒーを口に含み、ふらりと立ち上がる。
 自分以外誰もいない薄暗い部屋で窓を開けると、清清しい晴天のもと笑顔がいきかう大通りが見えた。
「ああ、もう昼前なんだ……。また意味のない徹夜をしちゃったなあ」
 ぽつりと後悔の色を含んだ独り言を呟く。
 その時、賑やかな声が聞こえてきた。思わず目をひきつけられる。
 声の主は大通りをゆく年若いハンターたちだった。全員が活気溢れる表情で楽しそうに歩いている。
 それ以上にアンナが気になったのは、彼らの纏っている装束だった。
 いずれも戦いの邪魔にならないように実用的な造りになっているのに、それぞれの魅力を引き立てる意匠が施されており、それがアンナの心を強く刺激したのだ。
(今まで貴族や花嫁のような華やかな人々のことばかり考えていたけれど、これからはもっと幅広く世界を見ていく必要があるのかもしれない……)
 今や王国や帝国の華やかな文化のほかにも、辺境の野性味溢れる風俗や東方の雅やかな伝統、そしてリアルブルーの自由な感性がこの世界では入り混じりつつあるのだ。
(私もうかうかしていられないわ!)
 がばっと立ち上がった彼女は高らかに手を打ち鳴らした。
「カチーナ、カチーナはいる!?」 
「は、はい! ただいま!」
 買い物から帰って来たばかりなのだろうメイドが買い物籠を腕から下げたまま慌てて扉を開けた。
「お願いがあるの。たしかこの街にはハンターが集まるオフィスがあったわよね? あそこでハンターに告知してほしいの。ドレスの試着会を開くから興味のある方に来て欲しいって」
 主人の突然の命にメイドが首を傾げた。
「試着会……? それならば大通りの掲示板や役場で告知するだけでたくさんのお客様が来ると思いますが」
「違うの、ハンター限定よ! ハンターは世界中の文化を知っているでしょう? 色々な話を聞いたり、新しい意匠のアドバイスを貰えたりするかもしれないじゃない」
「なるほど。最近は新しい種族の方がハンターとして活躍しているという噂ですから、私どもの知らない文化をご存知かもしれませんね」
「そういうこと。ああ、ドレスや小物を出すだけじゃダメね。ドレスを着るシチュエーションも大切だもの。……ああ、そうだわ! 試着しながらのお茶会もしましょう。中庭を開放して、花園にテーブルを設けて、色々とお話しする機会を用意しなきゃ……」
 久方ぶりに活力漲る主人の姿に安堵したメイドは笑顔で何度も頷き、ハンターオフィスへ向かう支度を始めるのだった。

リプレイ本文

「この度は当アトリエの試着会にご来場いただき、誠にありがとうございます。素敵なお客様にお会いできてとても嬉しいわ」
 アトリエの主であるアンナが試着会に集まったハンター達へ洗練された所作で一礼した。一行は隙のなさを感じさせるスーツ姿の彼女が柔らかな声を発したことに安堵する。
 アルフィ(ka3254)とスフィル・シラムクルム(ka6453)は大きな瞳を輝かせ、声を弾ませた。
「お招きいただきありがとうございますっ。ボク、アルフィっていいます!」
「私、スフィル。スフィル・シラムクルムっていうのよ。よろしくお願いしますっ」
 グラディート(ka6433)は柔らかな物腰で続いた。
「僕はグラディート、グラディ、ラディ、ディート、お好きに呼んでね~」
 小宮・千秋(ka6272)は丁寧な作法で愛想よく挨拶する。
「この度は御招待誠にありがとうございまーす。今日は思いっきり楽しんじゃいますよー」
 アンナは嬉しそうなハンター達の声に何度も感謝し、試着室へ案内するのだった。


 大きなクローゼットと大きな姿見が誂えられた試着室。
 ヴァルナ=エリゴス(ka2651)はクローゼットに並ぶドレスを眺める一方で、デスクの上のデザイン画に目を留めた。
(有名デザイナーの試着会兼お茶会……これはもしかすると、世に出る前の新作に出会えるかもしれませんね。いえ、新作でなくとも未発表の作品が見られるかも)
 そこにやってきたのはアンナだった。
「テーブルの上の資料は自由にご覧になって……って、あなた、素敵なお召し物ね」
 今日のヴァルナは鮮やかな青のドレスを纏っている。細い腰がコルセットとベルトで強調されていた。端正な美貌と洗練された所作も相まって、深窓の令嬢という言葉がよく似合う。
「ありがとうございます、今日は北方風に纏めてみました」
「まぁ、北方風!? 私、北方の流行に興味があるの。ぜひお話を伺いたいわ!」
「ええ、私でよろしければ。私は普段ドレスを着ている方ではありますけど、ただ純粋に着る機会というのはあまり無いので今日はとても楽しいです」
 ――もしかしたら気が合うかもしれない。互いに淡く微笑んで2人は応接用の椅子に腰をかけた。

 雨月彩萌(ka3925)は落ち着いた色の衣装が並ぶスペースに足を運んだ。
(あまりこういう類は詳しくないのですよね。実用的な服ばかり選んできましたから。……あ、綺麗な花)
 ドレスを探す彩萌の手が止まった。柔らかな黒の絹に菖蒲が描かれたワンピースドレスに心を惹かれたのだ。
 だが彼女の脳裏に「兄」の姿が過ぎる。あの「妹思い」の兄がここにいたら……思わず、身震いする。
 その時、朗らかな声が聞こえた。
「そのドレス、よくお似合いだと思いますよー」
 彩萌が振り向く。そこにはドレスを数着抱きかかえた千秋がいた。
「ありがとう。千秋さんは衣装をたくさん見つけられたのですね?」
「ほいほーい。私まだ子どもなので、大人用の衣装だと大きすぎちゃうんですよー。なのでメイドさんに手伝っていただきましたー。せっかくアトリエの皆さんが用意してくれたんです、楽しまなくちゃ損というものですー」
「……! ええ、良い機会ですものね。学生時代も勉強と部活動ばかりでしたし、何よりあの変態(兄)の監視がない貴重な機会です。色々と挑戦してみます、私も」
 彩萌は「兄」への思いを一旦振り切り、存分に試着を楽しむのだった。

「あの、ボクはそんなに背が高くないし、胸もぺったんこなんですけど、似合うドレスってありますか?」
 アルフィは不安そうな顔でメイドの1人にこう尋ねた。
「はい、ございますよ。お好みの色やデザインはございますか?」
「えっと、好きな色は緑! エルフハイムの森の色だからっ」
 安心した様子のアルフィにメイドは「ただいまお持ちしますね」と応じ、早足で去っていく。
 アルフィは手持ち無沙汰になり、髪飾りを探し始める。その時、傍に白樺(ka4596)がやって来た。
「ねえ、白樺は服を決めた?」
「んー。それはまだひみつ! アルフィは?」
「メイドさんにお願いしたの。ボクは小さいから……」
 顔を赤らめるアルフィ。すると白樺が明るく笑む。
「きっとアルフィには胸元におっきなリボンや花飾りのついたドレスが似合うの。小柄で細身の人じゃないとできない、可愛い特権なのっ」
「かわいい! それボク好きかも!」
 にこっと笑いあう2人のもとに、グラディートも合流する。
「へえ、白樺って服に詳しいんだね。僕にもアドバイスしてもらおうかな?」
「うん、シロで良かったら」
「ありがとう。僕、こういうのって仕事でたまに着るんだけど扇……じゃなかった、センスが無くて」
 グラディートは腕に抱えたものから何着か候補を手に取り、白樺に尋ねた。
「女性ものでも入るんだけど、男の子だとラインが違うから、ふんわり系にしようか悩んでるんだ」
「ラディは細くて綺麗だから、どれも似合うと思うの。このドレスはウエスト周りが自然になりそう。でも思い切ってラインを見せるのも中性的でカッコいいかもしれないの!」
「そっか、格好良い路線もアリかもねえ」
 参考になったよ、とグラディートは大きく頷いた。

「わー、あたしにゃどれがいいか……」
 冷泉 雅緋(ka5949)は無数のドレスを前に感嘆のため息をもらした。
 同行者のスフィルは雅緋の顔を見ると、ドレスを探る手を止める。
「ねえ、雅緋さんには気になる作品ってある?」
「うーん、白樺がマーメイドドレスっていうの? それにスリットが入っているのが似合いそうって言ってくれたから、そんな感じのかな。スフィルは?」
「この間、紫のショートラインのドレスが似合いそうって言ってもらったの」
「紫か。綺麗な色だね、きっと似合うよ」
 雅緋はスフィルがテーブルに並べた数着のうちから一着を手に取った。――スフィルの可憐さをひき立てるやわらかな紫のドレス。白のパニエがスリットから揺れる様も印象的だ。
「あたしはこれがいいと思うな。なんていうか、綺麗で」
 スフィルは雅緋からドレスを受け取ると姿見の前でそれを宛がい、満足そうに微笑んだ。
「雅緋さん、ありがとう。私、このドレス好きになっちゃった! 今度は私が雅緋さんの服を探すの手伝うねっ」
「サンキュ。一人じゃ少し心細いから助かるよ。ねえ、あたしはどんな色が似合うと思う?」
 2人は嬉々としてマーメイドラインのドレスを求めて歩み出した。

 全員が一息ついたところで「皆様、お茶会の準備が整いました」とメイドが中庭に集まるよう一行に呼びかけた。
 中庭に繋がるホールの大きな扉が開かれると南風が花の香りと共に飛び込んでくる。
「豪華な庭だねえ! 花でいっぱいじゃないか」
「本当ね。雅緋さん、後でゆっくりと見てまわりたいわ」
 まず中庭にやってきたのは雅緋とスフィルだった。
 雅緋はたおやかな体をマーメイドラインのドレスで包みこんでおり、その艶やかさに誰もが息を呑んだ。だが彼女はそれを意に介さずアトリエの「おもてなし」へと意識を傾けている。
(季節の花が溢れていると気持ちが華やぐものだねえ)
 彼女はこの機会を自ら経営する旅亭に活かそうとしているのだ。
 その風景の中に、次々とドレスアップしたハンターが集合する。
 ヴァルナは淡いライトブルーのサマードレスを着こなしていた。
 これはアンナと会話するうちに快く提供された最新作であり、ヴァルナは思いもかけず願いが叶ったこととなる。彼女は今、こそばゆいような不思議な嬉しさを感じている。
「避暑地で過ごすお嬢様というイメージで揃えてみたのですけれど、いかがかしら」
 毛先をゆるく巻いた髪を靡かせるヴァルナにメイド達は羨望の眼差しを送った。
 白樺は明らかにアンナの制作したものとは異なる意匠のドレスを着用した。
「試着室の奥に置いてあった未完成のドレス、シロがリメイクしたの。天鵞絨色のロングのチャイナドレスだよー。鳥さんみたいで可愛いでしょ?」
 前後で丈の異なる形状のドレス、シフォンとレースを重ねて作ったアシンメトリのスカート。こだわり抜いた装飾品も相俟って、美しい雉子を想像させる。
 白樺はアンナの反応のみ不安視していたが、それも彼女の絶賛により杞憂に終わった。
「東方の神秘的な小鳥のようで素敵ね。後で詳しく拝見してよろしいかしら?」
 一方、白樺とは別の意味で大きく目を惹いたのは彩萌だった。彼女は燕尾服を模した男性的なシルエットの衣装を着たのだ。
「わあ、かっこいい!」
 アルフィが大きく声を弾ませる。それだけ彩萌の変身は魅力的だった。髪を編み、涼やかな色合いのメイクを施した姿は凛々しく美しい。
「男装が好きというわけではありませんが、たまにはこういったのもいいですね」
 クールな表情だが、好評の声にほんのり頬を上気させる。
(……この場に兄がいないことを神や精霊に感謝します。絶対に見せられません、あの異常者には)
 彼女の兄への複雑な感情はともかく、着飾る楽しみを堪能できたことは彼女にとって大きなプラスとなったようだ。
 千秋は魔導カメラを首から提げ、ひらひらのフリルが目立つエプロンドレス姿で給仕の手伝いを行っていた。
「あ、千秋さんはこっちでもメイド姿なんだー?」
「ほいほーい。でもこっちはこだわりのエプロンドレスなのですよー」
 グラディートに千秋は上機嫌で体を軽く揺らした。するとふたつお下げに結った髪も愛らしく揺れる。普段から犬を模した飾りを身につけている千秋だが、より一層子犬のように愛くるしい。そんな彼は子どもらしい素直な感想を口にする。
「グラディートさんはとっても綺麗なのですー。不思議な感じー」
「ありがと。ちょっと冒険、かな。他にも色々試してみたんだけどたまにはこういうのもいいかなーって」
 髪に留められた大きな花飾りと、引き締まった体のラインを美しく魅せる絹のドレス。それは彼をバレエダンサーのように繊細でしなやかな印象に変えていた。


 お茶会は穏やかな雰囲気で進行した。
 ハンター達の前に並べられたのは地域色豊かな菓子と、誇り高い茶。茶葉は紅茶やハーブのみならず、東方由来の緑茶も用意されている。
 まずはスフィルがアンナに話しかけた。色素の薄い彼女は紫のドレスを纏うことで人形めいた可憐な姿になっていた。まるで童話に登場する月の妖精のようだ、とメイドは小さくため息をついた。
「あのね、私、普段は丈の短いパンツにオーバースカートを着ているの。そんな形のドレスって動きやすくていいなって思うんだけど、どうかしら?」
「いいわね。短いパンツを履くこと前提なら、男の子向けの服にも応用できそう」
 早速の色よい返事にスフィルがはにかむように笑った。
「前にお仕事に行った時にその服で木に登ったら動きやすかったの。もう少しアレンジすれば上品なドレスになると思う!」
 そこに紅茶の香りを楽しんでいた彩萌も加わる。
「ハンターの中には依頼に参加する際にも華やかな装いを好む人もいます。華やかでありつつも戦闘での実用性も兼ね備えたものがあるといいかもしれません」
 真面目な彩萌の意見を記録してアンナは深く頷いた。
「ハンターの中にも華やかな姿で戦う方がいらっしゃるのね。嬉しいことだわ」
 次々と要望が出される中、グラディートはアンナへ逆に問いかけた。
「僕はアンナさんが誰に向けてドレスを作りたいのかが気になるなぁ」
 アンナのペンがぴたりと止まる。彼女は気まずそうに目を伏せた。
「そうね、そこを今悩んでいるの」
 グラディートはマカロンをつまむと、小さく噛んで逡巡した。
「そうなんだ~。あ、着せたい年代やイメージを纏めてシリーズとして出してみるのはどうかな。あと着物をドレスにしてみるのも面白いかも」
 着物、という言葉に雅緋が反応した。
「いいね、着物。あたしも和風なドレスを着てみたいよ」
 和気藹々と盛り上がるハンター達。そこでアンナは再びペンを握ったが、先ほどのグラディートの疑問に即答できなかったせいか表情に精彩を欠いていた。
 そんな時、緑色のノーブルなドレスに身を包んだアルフィが無邪気にアンナに問うた。普段はおさげにしている髪を初々しくアップにし、胸に大きめの花飾りをつけた彼女はまるで妖精の姫君のような愛らしさだ。
「あのねあのねっ、アンナお姉さんはなんでデザイナーになろうって思ったの?」
「私がデザイナーを目指した理由……?」
 アンナが紅茶を一口だけ飲むと、昔を懐かしむように目を細めた。
「昔、親切な仕立て屋の旦那さんが古布や端切れを譲ってくれて。それで小物や服を作っては家族や大切な人達に贈っていたの。皆が喜ぶように好きな色や形を一生懸命調べたわ。それが全ての始まり」
「んっと、ボクのおばあさまが言ってたんだけどね。もしも自分のやっていることがうまくいかなくなっちゃった時は、初心を思い出しなさいって。ドキドキわくわくしたこととか、こうしたいって願った想いが大切なのよって」
 アルフィの言葉にアンナの表情から今までの気取った部分が消えて、瞳が揺れる。雅緋が気遣うように続けた。
「あたしは今日、とっても楽しいよ。スフィルが誘ってくれなかったらきっとこんな時間は過ごせなかったと思うし……何より嬉しかった。ほんとにあんがと、スフィル」
 スフィルが小さく頷いた。そこから雅緋はアンナに視線を移す。
「あたしはアンナも一緒にリフレッシュしてくれたらもっと嬉しいな。切羽詰るのは仕方のないことなのかもしれないけど、無理だけはしないように、ね?」
 その優しい声にアンナは迷いが許されたような気がした。
「そうか、そうねえ……大事なこと、ずっと忘れていた気がする。良いデザインをって意気込んでばかりで……」
 涙ぐむアンナにヴァルナがそっとハンカチを差し出た。
「アンナさんの男性用のドレスってお仕事で作ったものではないのですよね? 売れるデザインも必要でしょうけれど、時には作りたいように作っても良いのでは? 案外、それが新しい流行になるかもしれませんよ」
 もっと自由に、デザインに心をときめかせた昔のように。
 何度も目尻をハンカチでおさえるアンナに、グラディートが明るく声をかける。
「ねえ、せっかく皆でお洒落してるんだし、アンナさんもドレス着てみようよ。作り手さんも楽しまなくちゃ」
 人好きのする笑顔の彼にアンナは「ありがとう、少しだけ待っててくれる?」と尋ねた。彼女に返されたのはもちろん、皆からの笑顔と肯定の言葉。アンナが小さく会釈して、扉の向こうに姿を消す。すると千秋がカメラの具合を確認し始めた。
「千秋さん、どうかなさったの?」
 ヴァルナの問いかけに、彼は満面の笑顔で答えた。
「ほいほーい、アンナさんが戻ってきたら皆さんで記念撮影をしようかとー。きっと素晴らしい思い出になると思いますよー!」

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 7
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 星々をつなぐ光
    アルフィka3254
  • 曙光とともに煌めく白花
    白樺ka4596
  • 思わせぶりな小悪魔
    グラディートka6433

重体一覧

参加者一覧

  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • 星々をつなぐ光
    アルフィ(ka3254
    エルフ|12才|女性|聖導士
  • エメラルドの祈り
    雨月彩萌(ka3925
    人間(蒼)|20才|女性|機導師
  • 曙光とともに煌めく白花
    白樺(ka4596
    人間(紅)|18才|男性|聖導士
  • 静かに過ごす星の夜
    冷泉 雅緋(ka5949
    人間(蒼)|28才|女性|聖導士
  • 一肌脱ぐわんこ
    小宮・千秋(ka6272
    ドワーフ|6才|男性|格闘士
  • 思わせぶりな小悪魔
    グラディート(ka6433
    人間(紅)|15才|男性|格闘士

  • スフィル・シラムクルム(ka6453
    人間(紅)|17才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/07/19 03:40:33
アイコン アトリエ訪問!(相談雑談卓)
アルフィ(ka3254
エルフ|12才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2017/07/18 21:12:14