• 陶曲

【陶曲】組み込まれた歯車

マスター:奈華里

シナリオ形態
シリーズ(新規)
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/07/28 19:00
完成日
2017/08/05 00:58

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 ポルトワール付近の小高い丘からは街が一望できる。
 今日もあくせくと短い生を必死に生きる人間達を見下ろす人影があった。
『まったくもって矮小ですねぇ』
 夏の太陽がその白磁の肌に照り返される。
 人影は片目を閉じた無表情を、ふと街はずれへと向けた。
『あの施設は確か……』
 目に留まったのはとある建物の脇に停められた一台の荷車…今まさに何かを積み込んでいるらしい。傍には質素とはいえそれなりの広さがある建物があり、中では複数の人間が働いているようだ。
『ふむ、どうやら軍需物資の様ですねぇ』
 丘から建物までの距離は相当離れているにもかかわらず、人影はまるで隣で荷積みの作業を見ているかのように、積み荷を言い当てた。
「――これで全部だな。よし、後は早い事、海軍に届けなければ」
 人影が口を動かし口調をまねる。
 勿論、声など届くはずもないのだが、人影は作業を行う人間の発した言葉をコピーし表情を僅かに曇らせた。
『なるほど、どこかで見覚えがあるかと思えば……そんなものもありましたねぇ』
 人影は閉じていた片目を開け、白磁に刻まれた記録を呼び起こす。
『……私の計画に支障をきたすほどではありませんが、イレギュラーは極力少ない方がいい。少し手を打っておきますかねぇ』
 そうして、彼――クラーレ・クラーラ(kz0225)は、己が配下を呼び寄せる為、20ある指の二本を掻き鳴らした…。


「え……今なんて言いました?」
「だから、君のいう品は納品されていないよ。というか本当にこちらに送ったのかね?」
 ここは軍の資材倉庫――ポルトワールには海軍本部があり、職人街の職人らは軍用武器を扱っている所もある。ギアの一品もこの度その一つに選ばれ納品された筈なのだが、どうやらまだこちらに届いていないらしい。
「もう一度確認して下さい。確かに二週間前に完成して納品されたは…」
「そんな事言われてもないものはないって…ほら、これ。どこに君の言う物品があるんだね?」
 各所の書類を出し引き下がらないギアに少しばかりのイラつきを覚えて、衛兵も対抗するように納入記録を開示する。
「そんな、まさか…」
 そのページには彼のいうものはないようだった。
 念の為、前後を調べてみてもやはり彼の商品が納品された記録はない。
「すみません。でも届いていないのなら尚更おかしいです。だから調べてくれま…」
「調べる? あんた判っているのかい? 今は歪虚の事でてんで人が足りてないっていうのに、納品が出来ていないからと言って、そっちに人を割く余裕があるとでも?」
 これだから子供はという表情で衛兵が答える。それに言い返そうと思った彼であったが、両者共に熱くなっては火に油。今日は出直そうという考えに至り、丁寧に一礼して彼はその場を後にする。
「全く、こっちは命を張ってるんだ…ガキの戯言に付き合ってられるか」
 後方でそんな衛兵の愚痴が聞こえはしたが、それでもギアは冷静だった。
 しかし、その帰り道。贔屓にして貰っている道具屋を訪れ、目にしたものについては些か動揺を隠せない。
(あれ、は…)
 入った先にいたのは如何にも荒くれ者で傭兵を稼業としていそうな屈強な男――背中には大剣を背負い、剥き出しの上腕二頭筋は普通以上に盛り上がっている。そんな彼の足元に見覚えのあるブーツ。一見普通のブーツではあるが、ギアには判る。
(まさか設計図が奪われた時に…いや違う。あれはむしろ)
 本物ではないだろうか。もし彼の作ったものならば、靴の側面に小さく歯車の模様が刻印されている筈だ。それを確かめるべく、ギアはそっと男に近付き自然を装い首のタオルを落とし、拾う振りをしつつ確認する。
「あ…」
 するとそこには強引に歯車を打ち消し別の模様が印字されているではないか。
「あのすいません。少しお話いいですか?」
 ギアはタオルを拾うと臆する事なく、男に声をかける。
「あぁん? ナンダこのガキは?」
 男はそう言い睨み返してきたが、店主が間に入ってくれたおかげで事は割とスムーズに運ぶ。
「この靴は何処でお買い上げに?」
 勿論自分の作ったものに似ている事は言わずにギアが問う。
「ああ、これか。こりゃあとある筋で買ったもんだ。なかなかのいい値がしたが、具合は悪くない」
 はっきりとした店の明言は避けて、男の言葉。だが、はっきり言わないという事は逆に絞り易くもなる。
(おそらく汚れ具合からしてもまだそんなに経ってない。という事は考えたくないけれど…)
 裏路地の闇市かあるいはダウンタウンか。ちなみにポルトワールには裏の顔が存在する。
 珍しいものが多く集まる貿易都市でもあるからその品を狙ってくる賊やお尋ね者も集まり、やがてコミニティが形成されてしまっているのだ。だから少し路地に入れば昼でも薄暗く一人歩きには危険な場所もそこそこ存在する。そんな場所と海軍との確執は昔からあり、今でも少なからずいざこざが絶えない。
「そうですか。貴重な情報有難う御座いました」
 ギアが男にそう言い、僅かながらのチップを渡す。
「ほう、わかってるじゃねえか」
 男はそれに満足したようでその後彼を追ってくるような事はなく、無事工房まで帰りつく。
 そうして状況を工房長に話し、事の解決を相談。ちなみにギアが作ったのならなぜ彼が届けなかったのかと言えば答えは簡単。今回のものは靴である事から、全てを彼が作っている訳でない。靴職人とのコラボ商品であり、ギミック自体は彼のからくりを取り入れているが本体の部分は靴屋の仕事。しかも大量受注であった為、別の場所で組み立てが行われ運ばれた為、その過程のどこかしらで何かが起きて今に至ったと考えられる。
(あれは明らかに僕の軍行きの商品だった…しかもあれはまだ市場には卸していない)
 とすると、結論としては売っていたというその店の者が非常に怪しい。
 納品の折には勿論軍人の立ち合いなどなかった筈だから、襲われたとしたら一溜りもないだろう。
「工房長。この件を依頼としてハンターにお願いしても構わないでしょうか?」
 自分達で解決したいが、場所がダウンタウンとなれば勝手が違う。そうでなくても今は事件が多く物騒なのだ。刻印を消している辺りからしても相手がギアの事を知っている可能性もある。
「ああ、わかった。組合の方にも報告して援助して貰うよ」
 工房長もギアの一大事に上への協力を申し出てくれる。
(軍の方には…まだ報告は控えよう。無闇に波風立てない方がいい)
 あちらが少なからず関わっていると知れば、真偽はともかくそれだけでまた事が大きくなりかねない。
 ギアはそう思い、静かにハンターの要請に向かうのだった。

リプレイ本文


 情報というものは売り買いできる大事な商品だ。
 その情報の真偽がどうであれ、まず聞いてみない事には判らないから必要とあらば人は金を払う。今回の事件においても、裏の世界では取分け『情報』は重要視されているから売る側も多数存在する。だが、多いからと言って誰かれ構わず商売をするような輩の情報は信憑性に乏しく、大抵ろくなものではない。
(さて、どうしたものだろうか…)
 久方振りに同盟にやって来たキヅカ・リク(ka0038)がこの暑いのに、ローブを纏り手近な酒場に入る。ここは同盟内にあるダウンタウンの一つであり、彼が入ると同時にやはり周りの客が白い眼を向けてくる。その眼に気付かぬ振りを決め込みながら、まずはここのマスターに心当たりを探る。
「すまないが、この辺でいい武器屋を知らないか?」
 普段は年齢通りな喋り方をする彼であるが、場所も場所であり慎重に質問する。
 だが、彼の質問に答えたのはマスターではなくて、端に座っていたいかにもなゴロツキだ。
「小奇麗な身なりしてんなぁ、にーちゃん。ここを何処だと思ってんだ? 迷い込んだんならさっさと戻りなぁ」
 真昼間からジョッキを傾けて、下品に笑って男が言う。
「御忠告どうも。しかし、判って来ているんだ…どうしても欲しい品があってね」
「ほぉ…こんな場所で探しもんたぁ~どうやら不良青年かい」
 男はそう茶化して、面倒になったのかビールを飲み干し彼の横を通り過ぎていく。
「ちょっと待て」
 がそこでキヅカは一瞬違和感を覚えて男の腕を取ると、いつの間にやら彼の財布が握られているではないか。
「チッ……鴨だと思ったが、そこそこやるようだな。にーちゃん」
 男はそういうとあっさり財布を返し、にやりと笑う。
「あんた、もしかして俺を…」
「さあな。俺はただのこそ泥だが?」
「ええ、そうですよ。この方はタダ飲み常習犯ですから…」
 二人のやり取りにマスターが入って、しかし言葉はそれでも視線はそうは語っていない。
 それに気付いて、キヅカは成り行きを見守り、時を待つのだった。

 一方その頃、他の面子も二手に分かれ調査中。
 無限 馨(ka0544)とクラン・クィールス(ka6605)は組み立て工場に向かい、何かしらの痕跡が残っていないかを確認する。だが、問題の工場は一時的に貸し出され作業場とされていただけらしく、今は人の気配はない。
「上書きされたって事は作業員の人はきっと白だと思うっすよ」
 もし作業員の誰かが細工したなら検品時にばれる筈だし、組立ては複数の人間で行っていたと聞いているから一人だけ違った事をしていれば目立つ筈。全員グル説も考えられたが、ギアが言うには作業をした者達の所在ははっきりしているとの事から白として構わないだろう。
「するとやはりこの運送業者があやしいな」
 ギアから受け取った資料を手にクランが言う。
 その資料には発注と納品の記録の他に、作業場の従業員や運送業者の名が記されている。
「えーと、ロック・マイヤーさんとストン・マイヤーさんっすね」
 ぺらりと紙を捲り、馨が声に出して確認する中でふとした発見。
「あれ、これミドルネームが同じっすよ? って事は」
 性別に関しては不明であるが、家族関係にあるのは間違いないだろう。
 そうして、二人はその二人の家に向かう道すがらで奇妙な噂を耳にする。
「なぁ、あれ何だったんだろうなぁ…でけえ、鳥」
「あぁ、見た見た。しかし、あれはホントに鳥だったのかねぇ…光って見えたよ?」
 そう話す住人が気になって、二人は早速声をかける。
「なあ、その話…いつの事だ?」
 クランが唐突に尋ねる。
「あんたらは?」
「ちょっと人探しをしている者っすが、面白そうなネタだったもので…それで鳥ってどんな奴っすか?」
「そうさねぇ…確か、もうかれこれ二週間は経つかねぇ」
「ああ、そうさ。そういえばあそこの兄弟がいなくなったのもそんくらいだったよな」
 小さな表札の掛かった家にちらりと視線を向けて二人が言う。
「おい、兄弟ってまさか」
「そこのマイヤーさんとこだよ。ここらでは珍しい真面目な二人でね。身内がもういないって事で二人で仲良く細々とやってたんだよ。そんな時に大口の運送依頼があって喜んでいたのに、その日を境にぱったり姿を見なくなっちまってさぁ…同業者にでもやられたのかねぇ」
 僅かに肩をすくめて夫人の方が言う。
「敵を作るような悪い人ではなかったと思うがな。人が消えるのもここじゃあ日常茶飯事だから」
「成程、有難う」
 クランがその話を聞き来た道を引き返す。
「どこ行くんすか?」
 馨のその問いに、
「聞いただろう。兄弟は行方不明だ…さっきの話だと気立てもよさそうだし、真面目と来てる。なのに、届けられていないとすれば、何処かでイレギュラーが起こったって事だ」
 クランが瞬時にそう分析する。そうして、彼らはもう一度運搬に使われたと思しき経路を辿りーー。
「これだ…」
 気を付けて見ないと判らない程の跡であったが、建物に囲まれて死角の多い場所に急停止した車輪の痕跡。
 きっと何かに驚き馬が暴れ転倒しかけたのであろう。時間は経っていたものの、雨が降っていなかった事もありうっすらまだ見て取れる。
(多分ここで襲われたんだ…でも、一体どうして?)


「ギアさん。一応、確認ですけれど…回収品があった場合、善意の第三者が商っていたなら経費で落ちますか?」
 特に貧乏している訳ではないであろうに、天央 観智(ka0896)はとても重要だからと尋ねる。
 ただ、この場合落ちたとして負担先が何処になるか。そこが問題であるが、この際事件解明に関係ないので割愛してーー今彼とギアとカーミン・S・フィールズ(ka1559)は軍の倉庫へとやってきていた。
 何故ならカーミン曰く。この事件、如何にも裏の人間の仕業とは思えないらしい。
「大きな声で言える事じゃないけどさ、私も似たような社会で育ったのよ。だからこれは直感的に感じた事だけど、すぐに足のつく商品を扱うなんて、裏社会らしくないって思うのよね。統率された組織なら尚更…という事は、この事件。裏のルールを知らない奴が発端っぽいし、もしかしたらタダで手に入れてる可能性も考えられるわ」
 とこれがオフィスで話した彼女の見解だ。そこで軍自体の関与も視界に捉えて、ギア以外のものはちゃんと納品されているのか調査しにきたのである。
「また来たのか…って、今度はお仲間連れか」
 ギアを知る衛兵が呆れ顔で言う。
「全く困った話よねー。軍が嘘つく筈ないのに、この子頑固だから…まぁ、付き合ってあげてよ」
 カーミンは予め作戦だからとギアに謝った上で、早速衛兵側の味方に付く。
「そう言う訳で、もう一度だけ納品記録を確認させて下さませんでしょうか?」
 ギアの保護者兼大人代表とて来た観智が言う。
「あんた、なんかチャラそうだな…職人には見えないぞ」
 だが、ひょろい容姿が軟弱に見えたようで衛兵が彼を怪しむ。
「まあ、自由人ですから…でも、これでもれっきとしたハンターなんです。だから依頼を受けた以上、調査する必要がある訳でして…その、見せて貰えませんかね?」
 物腰低めにこっそり彼の傍にパルムがついてきているようだが、隠れるのがうまい様で衛兵は気付かない。
「あぁ、もう判った。但し、もう一度だけだからな。それで納得してもう帰ってくれよ?」
 彼自身も他に何かあるのだろう。彼等に記録を見せる為、棚へと移動する。
「ねえ、面倒ついでに倉庫も見せて貰えたりとかは…」
「馬鹿言えっ! 一般人に中まで見せられるか! この記録でさえ関係者だから特別なんだぞ!」
 そう怒鳴られてカーミンの希望は通らなかったが、それでも一つの目的は達成だ。
「んー、成程成程。うん、覚えた、有難う」
 カーミンが爽やかな笑顔で言う。そうして、「お仕事頑張って―」と手を振って、その場を後にする。
「何か収穫がありましたか?」
 ギアが静かに問う。
「さあ? もし横流しがあるならダウンタウンに流れてないか聞いてみないとだけど…ハズレかもね。記録によると運送業者も決まった所ばかりを使っていた感じじゃないみたいだし、担当も片寄っている風でもなかったし」
 軽く残念と口走りながらもカーミンは未だ訝しむ。
「ただ、そうするとやっぱり、裏社会に住む貧しい人の犯行、なのかな…」
 余程の事がない限り、穏便に済ませたいと思うカーミンだ。関わっていない事を祈りたいが、事実は如何に。
「あ、あれ…何でしょう?」
 そんな折、後ろを歩いていた観智が空を見上げて言葉する。
 それは何処か違和感のある飛び方をする複数の鳥の群れだった。

「ったく、愛想が悪いなァ…ココの連中はよォ」
 彼が大男であるというのもあるだろうが、それにしても万歳丸(ka5665)はついていない。強面という事もあって、少し話を聞こうかと声をかけても驚いて逃げられてしまう事が多く、まともに話も聞いて貰えないのだ。
「まァ、分かってた事だがなァ…早くキヅカと合流した方が良さそうだぜ」
 彼が一緒ならばきっと強面の万歳丸とて護衛位には見えて逃げられる事はないだろう。そこで早く彼と合流しようとした矢先、突然の連絡。持たされた魔導短電話を手に取る。
「何か進展あったかァ?」
『ああ、一応。そっちは?』
 その問いに駄目だと答えて、合流を希望する。だが、二人の位置は割と離れていて、
『今の位置からだとそっちが近い。悪いが一人で行って貰ってもいいか?』
 闇商人の出現ポイントを入手したキヅカが万歳丸に現場への移動をお願いする。
「まあ遠いなら仕方ねェ。ただよく、つきとめたなァ。さすがリク」
『いや、入った店が大当たりだっただけだ』
 謙遜しつつも戦友である万歳丸に褒められると気分はいい。
 ちなみに彼はあの後、あの男からの紹介で何人かを梯子し、ようやく今の情報獲得に至ったのだ。
 キヅカは万歳丸との通話を終えると他の仲間にも得た情報を連絡して、彼もその場所へ向かうのだった。


 営業は午後の十時を過ぎてから…たった二時間しか開かないその店でギアのそれは売られていると聞く。
 暗闇に近い細い道を通り抜けて、行きついた先には金属の扉。そこをノックをすると小窓が開き、合言葉を尋ねられるのだそうだ。そのキヅカからの情報を頼りに万歳丸は一足先にその場所に到着し、扉の先を進む。その先、辿りついた光景に、万歳丸は感心する。
(成程なァ…一軒かと思ったら、ココはいわばバザールってやつじゃねぇかァ)
 扉の先には地下に続く階段があり、視界が開けたと思うとそこには幾つものテントや敷布が並べられその上でそれぞれが品物を売買しているようだ。そこを一通り見て回って、問題のブーツを発見。事前にギアに頼み、本物と変わらぬ出来のサンプルを見せて貰っていたから思ったより発見は容易だったと言えよう。
(さて、どうすっかァ…)
 ここでの騒ぎは色々まずい。豪快な彼であってもここは慎重に、まずは店主に話しかけてみる。
「よォ、おっさん。その靴高過ぎねぇか?」
 何も知らない素振りで、彼が問う。
「ああ? これでも安い位だよ…何たってこりゃあある筋の匠の一品だからな」
「ある筋の匠だァ? 信じられるかよ」
 ブーツを手に取りじろじろと眺めながら、密かに刻印を確認。案の定上書きはされているが、確かにこれは問題の品に間違いはないようだ。それが判って、思わずニヤリとした瞬間店主がじろりと彼を覗き込んでくる。そして、
「あんた、何者だ?」
「あ、いや…俺は」
「……それを知ってるって事はこの靴の値打ちは判るだろう。だからこの値段からはびた一文まけねぇぜ」
 男の反応にほっとする万歳丸。どうやら、ギアの使いだという事はばれていないらしい。商人は万歳丸がポルトワールの若き匠のつける印を知っている人物ではあると悟り、絶対買わせると意気込んでいるようだ。
「まあ、そうだな…これを見せられちゃあなァ。しかし、何で上書きされてんだい?」
 ひそひそ声で店主に尋ねる。
「そりゃあそれ、まぁあれだ。独自のルートで」
「ほぉ、独自ねェ…」
 ずいっと詰め寄るも一旦引いて、万歳丸はここでそれを買い上げる事に成功した。
 たが、その品は既に最後の一足らしく、他は全てもう捌き切ってしまったのだと男は言う。
「まァ、仕方ねぇわな…二週間も経ってるんだしィ」
「え…」
 その言葉に男がハッとした。そうして、慌てて出口に向かって駆けて行く。
「おい、親父…って俺のせいかッ!」
 そこで初めて失言に気付いて、慌てて彼も男を追う。だが、この市場の出入り口は入ってきた一か所のみで男が逃げ切る事は叶わず、後から来た仲間らによってお縄となり、徐々に事が明らかとなる。

 事の始まりはやはり二週間前の事だ。
 男の話では野垂れ死にしそうになり、何か食べられるものを求めて知らず知らずのうちに郊外へ。最終的には地面に生えている草を食ってやるつもりでいたが、それはあくまで最終手段。まずは飲み水を求め川へ。そこで奇妙な鳥に遭遇したらしい。滝を出入りしているそれが何かを運び入れている事に気付いて、もしかしたら食べ物かもと思った彼は命がけで鳥のいない頃合いを見計らい突入を試みる。するとそこに靴が沢山あったのだという。
「よく判んねぇけど、そこの兄ちゃんの作だってのは刻印で判って、それで…」
「売ったと?」
「仕方なかったんだ。飯が食えればと思って、初めは少しだけくすねて…でも、鳥に靴なんて必要ねぇだろ。だったら、有効に使った方がいいに決まってる」
 そう言う訳で次々と売り捌いたと。ちなみにギアについては何度か新聞にも取り上げられているし、男も職人志望でここへ出てきていたらしく、志半ばで自棄を起こし落ちぶれはしたがギアの評判は聞いていたらしい。
「ほっっっとうにすまん。けど、道に金貨が落ちてたら普通拾うだろう」
 自分を正当化するいい訳であるが、まぁ極限状態にあればそれも致し方なしか。
「で、まあその話を信じるとして、本当にもう一個も残ってないの?」
 カーミンが追及するべく、じっと男を睨む。
「………わかった。観念します。まだ、二箱は手付かずですっ、それを返すから許して下さい―!」
 涙ながらに深々と土下座して男はこの後自首をした。とは言っても放置されていたものを勝手に売ったという罪であるからそれ程重い罪には問われないだろう。ただ、謎はまだ完全に解決してはいない。
「一体誰が荷車を襲ったのでしょうか? 仮にその『鳥』だとしても裏がありそうですよね」
 観智が言葉する。
「運搬していたマイヤー兄弟は? 襲われたのなら生きてないだろうけど…」
「臭う。よく判らねぇが、よくない匂いがプンプンするぜェ」
 ハンター達はそんなもやもやを抱えながら、ひとまずオフィスへの報告に戻るのであった。

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MVP一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸ka0038

重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • スピードスター
    無限 馨(ka0544
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズ(ka1559
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • パティの相棒
    万歳丸(ka5665
    鬼|17才|男性|格闘士
  • 望む未来の為に
    クラン・クィールス(ka6605
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/07/26 06:08:43
アイコン 相談卓
カーミン・S・フィールズ(ka1559
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/07/28 03:04:48