• 詩天

【詩天】蛍狩の宵

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/07/28 07:30
完成日
2017/08/11 11:36

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出? もっと見る

青柳るう
-

オープニング

 ――幼い頃からずっと、私は男子として扱われていた。
 それを疑問に思ったこともない。
 『詩天の為』という父の言葉をただただ素直に信じていたし、その言葉に嘘はなかったと今でも思える。

 ――そして、父は。同時にこの秘密が周囲に漏れることを恐れていたのだろう。
 父が信頼を置ける者、という条件を最優先にした結果、同年代の子供達と遊んだことは殆どなく。
 将来詩天を支えるものとして常日頃から大人に囲まれ、あまり子供らしい遊びはしなかったように思う。
 ……だけど。
 秋寿兄様だけは、私を『子供』として扱ってくれて、陰陽寮から詩天に戻った時は大抵どこかに連れ出してくれた。
 私に蛍狩りを教えてくれたのも、秋寿兄様だ。

「秋寿兄様。蛍は本当に綺麗ですね」
「ええ。……以前は蛍を見て怖がっていたのに、随分と変わりましたね。真美」
「あ、あれは初めて見たからで……!」
「ふふ。そうですね。新しい世界に触れることはいいことです」
「……蛍の光ってどうしてこんなに綺麗なんでしょう」
「……命の光だからでしょうか」
「……命の?」
「この光は蛍達の次代を繋ぐ為のもの。儚くもあり、逞しくもある……。そうは思いませんか?」
「うーん……。兄様の話は難しいです」
「おや、それは失礼。でも、あなたにもいずれ分かる時が来ますよ」
「そうでしょうか……。じゃあ、兄様。また蛍を見に連れてきてください。もう少し大きくなってから見れば兄様の言っていたことが分かるかも!」
「……分かりました。必ずまた来ましょう」

 ――遠い夏の日。
 もう会えないところへ行ってしまった兄様との思い出。
 もう、その約束は果たされることはないけれど……。


「皆さん、詩天の萩野村の皆さんから招待状が来ていますよ」
 人が多く集まるハンターズソサエティ。ソサエティ職員、イソラが手紙を持ってハンター達に歩み寄る。
「へ? 詩天? 萩野村??」
「はい。以前泥田坊に襲われる被害があった村だそうなんですが、皆さんに退治して戴いてから歪虚も出なくなったそうで……村も無事復興できたから、改めてお礼がしたいとのことですよ」
「あー。そうか。そういうことか」
「萩野村も無事に復興できたですね! 良かった……」
 イソラの報告に安堵のため息を漏らすハンター達。
 詩天にある萩野村。
 泥田坊に幾度となく襲われ、被害に遭っていたが今ではすっかり平和になっているらしい。
 萩野村から離れてはいるが、泥田坊達が根城として使っていた砦は温泉施設として生まれ変わったそうで、萩野村もそれなりに観光地として人が訪れるようになっているそうだ。
「で、今回皆さんにご招待があったのは蛍狩りです!」
「……ホタル?? 蛍ってあのお尻の部分が光る虫か?」
「はい。萩野村には、蛍は精霊様のお使いっていう言い伝えがあるそうで……」
 微笑むイソラ。
 萩野村には、昔から蛍は精霊の遣いといわれて大事にされてきたそうで、逢いたい故人を思い浮かべながら闇に蛍を放つと、精霊が願いを聞き入れてその人を1日だけ帰してくれる……そんな言い伝えがあるのだそうだ。
 逢いたい故人がいない場合でも、願いごとを思い浮かべながら蛍を放てば、蛍が精霊の元にその願いを届けてくれるらしい。
「随分素敵な伝承があるんですね」
「はい! 萩野村はこの季節になると蛍が沢山現れるそうで、蛍の名所として人が訪れるそうですよ」
「それに招待してくれたですね。素敵ですー」
「ええ、今回は九代目詩天の真美さんもいらっしゃるそうですし、萩野村の皆さん、皆様のお越しをお待ちしているそうなのでご都合がつく方は是非、遊びに行って差し上げてください! 行かれる方はここにお名前書いてくださいね!」
 イソラから差し出された紙を見つめて、どうしようかなと考えるハンター達。
 仕事も終わったし、蛍狩りを楽しむのもいいかもしれない――。
 ハンターは羽ペンを手に取ると、自分の名前を書き込んだ。

リプレイ本文

「蛍すごいです。この村、以前ノノくんが助けたんですよね」
「あっ。うん。皆で協力したんだ。ボクだけの力じゃないよ」
 アワアワと慌てるノノトト(ka0553)に、くすりと笑う羊谷 めい(ka0669)。
 星のように広がる蛍の光。これも彼が頑張ったから守られたのだと思うと、何だか誇らしくて……。
「綺麗ですね。精霊様のお使いって言われるのも分かります」
「そうだね」
 めいの言葉に頷くノノトト。
 消えて行った秋寿を思い出して……ぷるぷると首を振る。
 ――深淵の声を使ったら逢えたりしないだろうか。
 いや、それはだめだ。
 優しいあの人は人の、世界の幸せを願った。
 まだそれは叶っていないから……。
 そんな彼をじっと見つめていためい。ふと、手に蛍が舞い降りて来て目を丸くする。
「わ。すごい。蛍の方から来た!」
「ビックリですね。じゃ、ちょっとお願いごとを……」
 蒼の世界も紅の世界も、皆が幸せに過ごせますように……と呟くめいに、今度はノノトトが目を丸くする。
「ボクとお願いが一緒!」
「そうなんです?」
「うん。だから秋寿さんに見守っててってお願いしようかなって……その頃にはほら、ボクがめいちゃんを幸せにできてるはずだし」
「えっ。……ノノくんは私が幸せにしたいからお願いしなかったんです……けど」
 考えている事がまるで一緒とは……!
 どうしよう。嬉しいけど恥ずかしい。
 耳まで赤くなる2人。沈黙を打ち破るように、ノノトトがあっと声をあげた。
「そうだ! この村火の見櫓があるんだ! そこからならきっと……」
「ノノくん?」
「行こう! 暗いから気を付けてね!」
 この景色を、もっと特別なものにする為に――少年は、めいの手を取って歩き出す。


 目前に広がる蛍の淡い光。
 こんなに美しいのに。隣に最愛の者は居らず。今日は独り――。
 寂しさの風が志鷹 都(ka1140)の心を過り……それを振り払うかのように、蛍に両手を伸ばす。
 ――蛍は精霊の遣いでね。逢いたい故人を1日だけ帰してくれるんだそうだよ……。
 思い出すのは父の声。母の儚い微笑み――。
 優しい、惜しみない愛をくれた人達の記憶。
 ――周囲の反対を押し切り、病躯で命を賭けて己を生んだ母。
 母亡き後、寂しい泣く己を膝に抱き、本を読んでくれた父。
 あれから色々とあったけれど。医者となり、妻となり、母になった。
 ――愛する者を救えず、自らも命を落とした父の無念。
 子を遺し逝く辛さ、子の幸いを希う気持ち……今なら解る。
 お父さん、お母さん。……どうか天国から見守っていてね。
 貴方達の願いと想い。ぬくもりを胸に私は生きる。
 家族の為、救済を願う尊き生命を救う為に……。
 手を天に掲げた都。祈りと誓いを乗せた光が、そっと空へと還って行った。


「……綺麗なものだな」
「あ、うん。そうだね」
「蛍に願い事をしてもいいだろうか」
「勿論だよ!」
 自分達の周囲を飛ぶ蛍に目を輝かせる白山 菊理(ka4305)。お気に入りの柘榴柄の浴衣に身を包んで意気込んでいる時音 ざくろ(ka1250)に笑みを返す。
 手で包んだ蛍をそっと空へ放つ菊理。
 願うことは……ずっと、夫の隣にいられますように。
 それから、この人のらきすけ癖が治りますように――。
 そう願った途端、ふっと弱くなる蛍の光。何だか蛍にまで『無理』と言われた気がして彼女はぐぬぬとなる。
 それなら……その対象が私だけに向くように。
 一心不乱に何かを願っている菊理の横顔を、ざくろは黙って見つめていた。
 紺地に白の牡丹柄の浴衣。珍しく髪を結い上げた彼女が、蛍の光に照らされてとても綺麗で――。
 先日の模擬だと思っていたら本番だった結婚式。あの時も綺麗だった。
 まだ、夫婦というにはくすぐったいけれど、それでもこういう時間は尊い。
「あのね、菊理」
「ん?」
 周囲も暗く、妻の方ばかり見ていたのが悪かったのかもしれない。
 川に近づいていたことにも気付かず、ざくろは足を滑らせて……。
「うわあああああ!!」
「きゃあああああ!?」
 縺れ合う2人。派手に響く水音。起き上がろうとしたざくろはやけに柔らかいものを掴んで首を傾げる。
「いたたた……。ごめん菊理。大丈夫?」
「大丈夫だが……それは私の胸だぞ……」
「うわああ!? 本当ごめん! わざとじゃなくて……!!」
「分かっているが、本当にその癖は治らんのだな……。まあいい。濡れてしまったし、戻るとしよう」
 ――続きは宿で、な。
 菊理に耳元で囁かれ、ざくろは耳まで赤くなった。


「今日は付き合ってくれてありがとう」
「いや、この間は俺が付き合って貰ったし、これくらいはね」
「え。ユリアンさんのお誘いならいつでも嬉しいけど」
「そうかい? 浴衣、良く似合ってるけれど足元は大丈夫かな。お嬢さんお手をどうぞ」
「えっ。あっ。はいっ」
 思わず漏れてしまった本音に慌てる暇もなく。ユリアン(ka1664)から差し出された手をドキマギしながら取るルナ・レンフィールド(ka1565)。
 こんな風にエスコートしてくれてはいるけれど。デート、という意識はないんだろうなあ……。
 実際、ユリアンとしては彼女を転ばせようものなら妹に何をされるか分からないという意識が働いていた訳だが。
 それでも。ふわふわと舞う光は綺麗だし。川のせせらぎの音は素敵だし。
 彼も楽しんでくれたらいいな……と願いながら、ルナはオカリナを奏でる。
 その音に耳を傾けながら、ユリアンはぼんやりと考えていた。
 ――死んでも構わないと思ったあの時からもう少しで1年。
 蛍の光は常世へ向かう人の魂のようで……この手から零れて行った命を想う。
 最期が痛ましいからと言ってその人生全てが不幸だとは言えない。
 けど……忘れない。
 どうか、零れ落ちた人々が、この次も良い生でありますように。
 不意に止むオカリナの音。ルナが自分の手を握りしめていることに気付いて、ユリアンは首を傾げる。
「……どうかした?」
「ううん。何でもない」
 微笑むルナ。
 ――時々、ユリアンは遠い目をすることがある。
 そのままふらりとどこかに行ってしまうのではないか……。
 過る不安。でも、旅する風を留めることは出来ないから。
 私はいつでもここにいる。だからちゃんと、帰って来て……。
 光に願うことは。皆の幸せと、彼の心が少しでも軽くなるように――。
「もう1曲弾くね。聞いてくれる?」
「勿論」
 響く柔らかな音色。
 彼女の音はいつもそうだ。どこにいても背中を押してくれるその風のよう。
 ルナに一度、お礼を言わなくては。
 そう考える彼の心に、消えない小さな光が点る。


「ぁー。……彼女さんですか」
 友人のユリアンの姿を見つけて手を挙げかけた金目(ka6190)。一人ではないことに気付いてその手を降ろす。
「特別に思ってくれる人が居るというのはいいなぁ」
「あら。ここにいるじゃない?」
「おや。そんなに想われていたとは知りませんでした。光栄ですよ」
「そうでしょう? 大体あたしみたいないい女を差し置いて余所見とはどういう了見よ。あたしだけを見なさいな?」
「女王様の仰せのままに」
 悪戯っぽく笑うドロテア・フレーベ(ka4126)に頭を垂れる金目。
 こんなやり取りをしているが、2人はただの友人同士。
 お互い、その気がないことが分かっているからこその遊びというやつだ。
 川から来る涼やかな風。見晴らしのいい場所に陣取り、ドロテアは光の乱舞を金色の目に映す。
 蛍の伝承。村の人の話。遠い昔、手にかけた男の事を思い出す。
 彼に逢えたらあたしはどうするのかしら。喜ぶ? 詫びる? それとも……。
「ドロテアさんは会いたい誰かがいるんですか?」
「そうね。アンに逢えるかしら、と考えることならあるわ」
「ああ。そうですね……。マインハーゲンの夏を見せたいですね」
「あの子のことだからここの蛍も喜んでくれそうよね」
 金目の問いかけをはぐらかしたドロテア。
 病と戦い、自分らしく死んで行った少女にもう一度会いたいと思うのも嘘ではないから……。
「さあ、女王様。東方の美味しい酒を仕入れて来ました」
「流石金目。気が利くわね」
 盃を渡され微笑むドロテアに笑みを返す金目。
 ――酒は、その味も勿論だが、誰と飲むかで味がきまる。
 彼女の低くて楽しげな声を聞きながら飲む。それ以上の贅沢はなかなかない。
「あら。本当に美味しいわね」
「お口に合って何よりです。村の人から肴も戴きましたよ」
 干した魚を出してきた金目に、殊更笑みが深くなるドロテア。
 ――大人の時間はこれからだ。


「すごい! すごいよテオ!!」
「おう、見てるぜ。光が踊ってるみたいだなぁ」
 蛍は見たことあったけれど、ここまで規模の大きい蛍の舞は初めてだと目を輝かせる柄永 和沙(ka6481)。
 興奮気味の婚約者に、テオバルト・グリム(ka1824)から笑みが漏れる。
 正式に婚約してから初のデート。東方にはあまり来たことなかったけれど……実際綺麗だし、彼女の喜ぶ顔が見られたし、来て良かった。
 それに……。
「ユカタ、だったか。これ涼しくて良いよな! 確か和沙の国にもあるんだっけか。……だからかな、よく似合ってるぜ。綺麗だよ」
「あっ。ありがと……」
 突然褒められて火がついたように真っ赤になる和沙。
 浴衣姿の彼は新鮮で、凄くかっこよくて……装いにも自然と気合が入ってしまった。
 メイクも浴衣も髪型も、可愛いと言って欲しくて頑張ったのだが……いざ言われてみると、恥ずかしい……。
「おっと。願いごとしないとな」
「そ、そうだよ! 願いごと!!」
 気を取り直した2人は両手で包んだ蛍を空へと放つ。

 ――来年もこうして蛍が見れますように。その次の年もそのまた次の年も……おじいちゃんおばあちゃんになっても、2人でいられますように。
 ――ずっと何年も何十年もこの人の隣で笑っていられますように、貴方の手を離す事無く共に居られますように。いつの日かお父さんとお母さんに彼を紹介出来ますように。

「……和沙。何お願いしたんだ?」
「秘密だよ! 言っちゃったらお願いごとにならないじゃん!」
「うーん。俺に叶えてやれることだったらすぐ叶えてやろうと思ったんだけどな」
「うっ……。じゃあ、ごはん食べに行こう!」
 自然とお互いの手を取って歩き出す2人。
 2人の蛍への願いは同じもの。きっと、この先もこうして歩いて行けるだろう。


「さあ、まずはご一献」
「いやはや。これは忝い」
 星のように舞う蛍。そして、秋寿の為に置かれた盃。
 蛍を肴に、三條 時澄(ka4759)と水野 武徳(kz0196)は酒を酌み交わしていた。
「真美姫と出会ってもう1年……早いものです」
「左様で御座ったな。萩野村に行くと置手紙があった時は肝が冷えましたわい」
「無事にお返しできて良かった。しかし、ここのところの出来事は……あの年頃の子が背負うには少々重いでしょうな」
「確かに。だが、真美様も成長なされた。きっと乗り越えて下さるものと信じておる」
「ええ。あの子なら大丈夫でしょう。この先の詩天を見るのが楽しみですよ」
「うむ。この国を確固たるものにするべく尽力する所存」
 時澄の言葉にしきりに頷く武徳。そこに、難しい顔をした龍堂 神火(ka5693)がやって来た。
「すみません。武徳さん。お話があります」
「これはこれは神火殿。して話とは?」
「……先日流れた情報について。ボクには聞く権利があるはずです」
 流れる不穏な空気に時澄は盃を置いて友人を見つめる。
「情報……? 真美に求婚したものがいると聞いたが、まさか……」
「うん。それボクだよ」
「……やはりか。お前なら相手を黙らせる立場にあるからな」
「そうなんだけど……。流れた情報が中途半端なんだ」
 呟くように言う神火。
 先日、流れていたのは『真美が求婚された』という話だけだった。
 恐らく時間稼ぎに使ったのだろうし、それはそれで構わない。
 だが、『婚約』として情報を出さなかったということは……他に何かがあるはずだ。
「……武徳さんには、他に切り札のアテがある……そういうことですよね?」
 ぶつかり合う目線。神火を見据えていた武徳は、ふう、とため息をつく。
「おぬしはなかなかに聡明と見える。そうじゃな。名は出せぬが……切り札はある」
「……それは、真美さんの為になる人ですか?」
「……少なくとも、国の為にはなろう」
「…………ッ!」
 その言葉に目を見開く神火。
 国の為に手札を強くしたい気持ちは理解出来る。でも……!
「武徳さんが何を持っているかは分かりません。でも、友達に……選ぶ時間を、悩む時間を与えてあげてください。その為に、ボクはカードを切る覚悟があります」
 深く頭を下げると、踵を返して去っていく神火。
 その背を見送って、時澄はニヤリと笑う。
「さて、どうされる? 武徳殿。覚悟を決めた男は侮れませんよ?」
「そうじゃな……。儂も腹を括らねばなりますまいな」
 盃を煽る武徳。その酒は少し苦かった。


「リアルブルーにもね、蛍は死者の魂って伝承があるんだよ」
「ふーん。蛍の光に似たものを感じるのかね」
 掌の蛍をそっと放す天竜寺 詩(ka0396)。スメラギ(kz0158)は首を傾げる。
「何か願い事したのか?」
「ううん。小さい頃亡くなったママを思い出してた」
 過るのは母の朧げな記憶。許されない愛に身を焦がした人――。
「私のママはね、お父さんと不倫してたの。ママが亡くなった後、私を育ててくれたのはお父さんの本妻。結構複雑でしょ?」
「ん? リアルブルーは多妻認められてねーのか?」
「リアルブルーにも国は沢山あるから、そういう所もあるんだろうけど、少なくとも私の故郷は違うかな」
 飛んでいく蛍を見つめながら呟く詩。微かに微笑んでスメラギを見る。
「……嫌われて当然だったのにお義母さんは私達を本当に愛してくれた。でも、やっぱり辛かったんじゃないかな」
「そう思うなら、今からでも親孝行すりゃいいんじゃねえか」
「そう、だね。それもなかなか難しいけど……。ねえ、スメラギ君。きみも何時かは結婚するよね。王様なら側室も持つんじゃないの?」
「んー。そうだな……。一人見つけるのも大変なのに複数とかあんま想像つかねーけど」
「とか言ってあっさり見つけて来そうだよねー。そういう人いないの?」
「いたら苦労してねえよ!」
「あはは。そっかー。……スメラギ君の国の風習は色々あると思うけど。奥さんの事、ちゃんと考えてあげてね」
「おう」
 分かっているのかいないのか。スメラギのやけに軽い返事にもう一度微笑む詩。
 ――詩は義母が好きだ。だからこそ、自分の『存在』に苦しさを感じて来た。
 誰かの喜びの陰で、誰かが泣くようなことがなければいいと思う。


「ただいまです!」
「お帰りなさい。どちらまでいらしてたんですの?」
「スメラギさんにお礼を言って、あと萩野村の人達にご挨拶して来たです!」
「あら。お忙しかったんですのね」
「村の人がこれ皆で食べなさいって持たせてくれたです。一緒に戴きましょう!」
「えっ。いいの!? やったー!!」
 いつもと変わらぬ優しさで出迎えた金鹿(ka5959)に笑顔を返すエステル・ソル(ka3983)。
 差し出されたお団子に、リューリ・ハルマ(ka0502)の表情が明るくなる。
「真美ちゃんも一緒に食べるです」
「あ、ありがとうございます」
 ぺこりと頭を下げて団子を受け取る三条 真美(kz0198)。ふわりと舞う蛍を見つめて、リューリは微笑む。
「蛍、綺麗だよね。秋寿さんが言ってたのはこの景色なんだね」
「以前、兄様と話されたって仰ってましたよね」
「うん。夢の中でだけどね。……真美さんは何かお願い事あるかな?」
「願いごと、ですか?」
「そう。個人的でも詩天の為でも、真美さんが一番したいお願い事」
 リューリの問いに考え込む真美。少しの間があって、口を開く。
「詩天の民が、皆幸せになれるように……でしょうか。勿論私が努力しないといけないことですが……」
 少女の言葉に眉根を寄せるエステル。むーとしたまま続ける。
「その為にお見合いするです? 確かにスメラギさんはいい人ですけど……結婚は、特別な好きな人とした方がいいです」
「神火さんと同じこと言うんですね。でも私には特別な好き、というのが良く分からなくて……」
「特別な好きは『向き合って、胸がきゅんっとしたら』それが特別です。わたくしも最近、ようやく特別な好きがわかりました!」
「あら。エステルさん恋されてるんですのね」
 微笑む金鹿にポッと頬を染めるエステル。
 真美は困ったような笑みを浮かべる。
「……私は『王』になると決めました。王になるのであれば、優先すべきは民で……『個』は必要ないのではないかと思うのです」
「それは……それは違いますわ。真美さんも詩天の民です。個を滅していいはずがありません」
 きっぱりと断じる金鹿。
 ――彼女自身、以前は良家に嫁ぐことが家の為なのだと思っていた。
 けれど、生きたいように生きよと家族に言われて……ならば当家の娘としてではなく。
 ただの符術師の自分として、自身の力で――。
 そう思って家を出て……今の金鹿がある。
 だからこそ、真美がどうしても他人とは思えなかった。
「どのような道に進むのであれ、自分らしく輝ける道を。そしてそのお手伝いをさせて頂けたら私は嬉しいですわ」
「わたくしもそう思うです。それに……真美ちゃん、他にお願いごとあるです。わたくし知ってます」
「そうなの? 私ね、蛍に真美さんのお願いごとが叶いますようにってお願いしたんだ。だから、届く声が多かったらもしかしたら叶いやすくなるかなって。良かったら教えて欲しいな」
 金鹿とエステル、リューリに見つめられて、うぐ、と言葉に詰まる真美。
 俯き微かな声を絞り出す。
「……秋寿兄様に会いたい」
 それにハッとする金鹿。かける言葉が見つからなくて……ただ、小さな少女を抱きしめる。
「そっかー。それは難しいなー。でも、きっと夢で逢いに来てくれるよ。私も秋寿さんに夢で逢ったしね」
「えっ。羨ましいです! わたくしもお会いしたいです!」
「皆で同じ夢が見られるといいんですけど……エステルさんは他に会いたい方がいらっしゃるんじゃないですの?」
「あっ。そうです。最近あの人に会えてないです……」
「あはは。じゃあ、改めて蛍にお願いしよっか!」
 リューリの言葉に頷く仲間達。
 蛍にそっと、それぞれの願いを乗せる。


「……今日はやけに大人しいんだな」
「星が泳ぐのを見るのも悪くないのな」
 口数が少ない黒の夢(ka0187)に訝し気な目線を送るスメラギ。
 光る蛍。暗闇でもお互いは見えて……。
 彼女はスメラギの口にハンカチを当てて、そのまま唇を寄せようとして……彼の手で阻まれる。
「だから、そーいうの辞めろって言ってんだろ」
「……スーちゃん?」
「泣いたって絆されねえぞ。俺様ずっとそう言い続けて来ただろうが。いい機会だからハッキリ言う」
 拒絶を受けて、目に涙を浮かべる黒の夢。それに一瞬たじろいだが……それでもスメラギは赤い瞳をこちらに向ける。
「……お前、そーやって与えてきて何かを得たか?」
 その言葉に考え込む黒の夢。
 溢れるばかりに与えたはずの愛。でもそれは、彼女の上を通り過ぎて行くばかりだった。
「肉体に頼るな。ちゃんと言葉を交わせ。……でなきゃ、何も残んねーぞ」
「……やけに実感籠ってるのな?」
「……まあなぁ。立場上……こう。なんてーの? 押し売りが多かったんだよ。仕事も役目も、女どもの感情も身体も」
 ――押し付けられるばかりで誰も自分の声は聞かなかった。
 だから抵抗し続けたと、吐き捨てるように続けたスメラギ。
 ……自分は、彼の声を聴いていたつもりだった。でも、それは届いていたのだろうか……?
「お前は友達だから他意はないだろうと思ってたけどさ。それでもな。ちょっとお前、自分を大事にしろよ」
 苦笑するスメラギから感じる気遣い。
 本当の名を教えられる程――信頼される人になりたかった。
 それは今からでも遅くはないのだろうか……。
 こくりと頷く黒の夢。彼の想いに触れて、魔女は考える――。


「……そうですか。秋寿様とご覧になられていたんですね」
「はい。また一緒に見に来るって約束してたんですが……」
 真美から語られる秋寿の思い出に耳を傾ける七葵(ka4740)。
 過る蛍。あの人も見たであろうその光を見つめる。
「……蛍が光る理由は諸説あるようですが、番を見つける為という説が有力だと聞いたことがあります」
 蛍は短い一生ながら光り輝き、番を見つけて次代へと命を繋ぐ――。
 だから、秋寿はこれを『命の光』と呼んだのだろう。
 そんなあの人は伴侶を迎え子を成す前に逝ってしまった。
 最後まで詩天と、真美のことを思い、蛍のように闇の中で光を灯した一生だった。
 家臣として、その生涯を誇らねばならぬのに。
 心のどこかに悲しみが淀んだままで――。
「ねえ。七葵。私思うことがあるんです」
「はい。何でしょう」
「秋寿兄様が詩天になられていたら、この国はもっとよくなっていたんじゃないかって」
「真美様……それは違います。真美様は秋寿様がお認めになられたのですから……」
 そこまで言って、言葉に詰まる七葵。
 もし秋寿が生きていたら。この若き王は年相応の少女として生きられたのだろうか……?
「七葵? どうかしましたか?」
「……真美様、これから働く無礼をお許し下さい」
 小首を傾げる真美。その頭を、妹にするように静かに撫でる。
 あまりに幼い王。彼女を普通の少女として自由に出来ない己が歯痒い。
 だからこそせめて今だけは――。
「ふふ。秋寿兄様もよくこうして頭を撫でて下さいました。七葵のお陰で思い出せました。ありがとう」
「いえ。だからと言って無礼を働いて良い訳ではありませんが」
「気にしないでください。七葵は兄のようなものですし……これからも変わらずにいてください」
「御意」
 主の言葉を噛みしめて。七葵は頭を垂れた。


 ふわふわと舞う蛍の光。幻想的なその光景を、マーゴット(ka5022)はぼんやりと見つめていた。
 ――無くしていた記憶を取り戻した。
 それはとても喜ばしいことのはずなのに……彼女の心を不安が覆った。
 思い出して、同時に……振う刀の重みがなくなった。
 それはきっと。私が『そういうモノ』であったという証明。
 この手は、いつか。大切な人達を傷つけてしまうのではないか――。
 ――でも、私は。『そういうモノ』だったとしても。この手を守る為に使いたい。
 私に手を差し伸べてくれた優しいあの人達のようになりたい――。
「……ごめんね。変な話聞かせちゃって。こんな話、大切な人には聞かせられないから」
 蛍達に詫びるマーゴット。気にしないでいい、とでも言うように蛍が手に止まって、彼女はくすりと笑う。
「ありがと。じゃあ折角だし、願いごとを届けて貰おうかな」
 願いはただ一つ。大切な人達が、幸せになりますように――。


「お久しぶりね、スメラギ。あらー? ちょっと見ない内に大人っぽくなったわね。見合い話も出る訳だわ♪」
「何だよ。冷やかしか? 見合いなんてしねーよ」
「あら。心配してるのよ。ちょっとおねーさんの昔話を聞きなさいな」
 ころころと笑うユリア・クレプト(ka6255)にがるると吼えるスメラギ。
 彼女は背の伸びた少年を宥めると、ふう、とため息をつく。
 ――ユリアは13歳で嫁ぎ、子を産んだ。
 逃げることも出来たのかもしれない。
 でも、そうしなかったのは……それ迄の自分の人生を、授かった命を否定することに他ならないから。
「人には与えられた役割、運命というものがあるわ。でも黙って享受しなくてもいい。その中でとことんもがくの」
「もがいて、何か変わるのかよ」
「変わるわよ。少なくとも自分は変われるわ」
 その言葉にハッとしたスメラギ。ユリアは慈母の笑みを浮かべて続ける。
「逃れられない運命なら、しっかり受け止めて悔いの無いように、ね?」
「てか……え? ユリア子持ちなのかよ?」
「ええ。孫もいるけど」
「ハァ!? お前いくつなんだよ!!」
「レディに年齢を聞くのはご法度よ?」
 うふふと笑うユリア。飛来した蛍に、己の子や孫の幸福な未来を願う。
 その横で丸っこい体型のドラグーン……杢(ka6890)が、蛍を優しく放つと、パンパン、と手を打って拝む。
「ねっちゃが『行き遅れの独居老人』さならねよーに!」
「……随分不穏な単語が出て来たなあオイ。お前の姉さん何かあったのか?」
「おらのねっちゃはおら達兄弟の面倒さずーっど見でて、いっつも忙しそうだったんず。したはんでなかなか嫁にもいけね。こんままじゃ『行き遅れの独居老人』になっでまうねって、にっちゃが心配しでだんず」
「そーいうことか……」
「……せば『行き遅れの独居老人』ってなんだんず?」
 スメラギの呟きにこくりと頷く杢。続いた少年の言葉にスメラギがずっこける。
「お前知らないで言ってたのかよ!」
「ええと……そうね。結婚しない、一人暮らしのお年寄りって意味だわね」
「ええええ!! ねっちゃがそったごとさなったら困るだんず!!」
 ユリアの言葉にガビーンとショックを受ける杢。スメラギがまあまあ、と彼を宥める。
「まあ、俺様が言うのもなんだけど結婚だけが人生じゃねえからなあ。とりあえず姉さんにやりたいこと聞いてみたらどうだ? これからでも色々出来るだろ」
「んだな。そせばいーべが。ありがどごす! あんちゃ、よか人だんず!」
「あら、褒められて良かったわね」
 杢の純朴な反応に微笑むユリア。スメラギは彼女にジト目を向けた。


 目の前で点滅する星のような光。
 その光に誘われるように、アーク・フォーサイス(ka6568)は川の畔で佇んでいた。
 ――会いたい故人に会える……か。
 俺は、師匠に会いたいんだろうか。
 もし、会えたとして、俺は何を求めるんだろうか……?

 ――あの人は強かった。その背は大きかった。
 俺の目標であり、道標であった。
 守るべき命を守るために。守りたい命を守れるように。
 そうあれるように、俺が何をすべきなのか。
 あの日のように導いて欲しいのだろうか。
 ――いや。もうそれは必要ない。
 俺が感じ、俺が決め、俺が成すべきことだ。
 俺の心を、誰かに委ねることは絶対にしたくない。
 それが例え師匠であっても……。

「若造が生意気言いやがって」と貴方は笑うだろうか。
 それでもいい。まだ、貴方には会わない。会えない。
 胸を張って、貴方を超えたと……そう、報告出来るようになるまで。
 舞う蛍は変わらず美しく。アークの瞳に、決意の光が点る。


「わあ。これはまた見事だね……」
 辺り一面の蛍の光に目を細める氷雨 柊羽(ka6767)。手頃な切株に腰掛けて、その光をじっと見つめる。
 ――この村の伝承では、確か蛍は精霊の遣い……だったか。
 闇に光る灯に、人の魂を重ねて見たのだろうか。
 もし会いたい故人に会えるというのが本当なら。
 人でなくても。例えば、猫でも――叶うんだろうか。
 もし会えるなら……姉さんは、楽になれるんだろうか。
「……なんて、ね」
 独りごちる柊羽。姉が大切な家族の死に囚われているからそんなことを考えたけれど。
 大事であるからこそ、勝手に願っていいような話だとも思えない。
 ではどうする? ああ、願い事も運んでくれるんだっけ。ここの蛍は随分と気前がいい。
 願い事は……いや、これは願うことじゃない。
 『大切な人を守る』という想いは、誰かに願うのではなく、自分で叶えるものだから……。
 結局願いは思いつかないけれど。ここに来られたのは良かった。
 綺麗なこの光がいつまでも続くといい、と柊羽は思う。


 空を舞う蛍の光。捧げられるいくつもの祈りと願い。
 ハンター達の和やかな声が川辺に響く。
 それぞれの大切な想いを乗せて――穏やかで静か時が過ぎていった。

依頼結果

依頼成功度大成功
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参加者一覧

  • 黒竜との冥契
    黒の夢(ka0187
    エルフ|26才|女性|魔術師
  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマ(ka0502
    エルフ|20才|女性|霊闘士

  • ノノトト(ka0553
    ドワーフ|10才|男性|霊闘士
  • Sanctuary
    羊谷 めい(ka0669
    人間(蒼)|15才|女性|聖導士
  • 母のように
    都(ka1140
    人間(紅)|24才|女性|聖導士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 献身的な旦那さま
    テオバルト・グリム(ka1824
    人間(紅)|20才|男性|疾影士
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 燐光の女王
    ドロテア・フレーベ(ka4126
    人間(紅)|25才|女性|疾影士
  • 黒髪の機導師
    白山 菊理(ka4305
    人間(蒼)|20才|女性|機導師
  • 千寿の領主
    本多 七葵(ka4740
    人間(紅)|20才|男性|舞刀士
  • 九代目詩天の信拠
    三條 時澄(ka4759
    人間(紅)|28才|男性|舞刀士
  • 元凶の白い悪魔
    マーゴット(ka5022
    人間(蒼)|18才|女性|舞刀士
  • 律する心
    皆守 恭也(ka5378
    人間(紅)|27才|男性|舞刀士
  • 九代目詩天の想い人
    龍堂 神火(ka5693
    人間(蒼)|16才|男性|符術師
  • 舞い護る、金炎の蝶
    鬼塚 小毬(ka5959
    人間(紅)|20才|女性|符術師
  • 細工師
    金目(ka6190
    人間(紅)|26才|男性|機導師
  • 美魔女にもほどがある
    ユリア・クレプト(ka6255
    人間(紅)|14才|女性|格闘士
  • 《大切》な者を支える為に
    和沙・E・グリム(ka6481
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 決意は刃と共に
    アーク・フォーサイス(ka6568
    人間(紅)|17才|男性|舞刀士
  • 白銀のスナイパー
    氷雨 柊羽(ka6767
    エルフ|17才|女性|猟撃士
  • いけ!ぷにっ子スナイパー
    杢(ka6890
    ドラグーン|6才|男性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 出発までの休憩所
エステル・ソル(ka3983
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/07/28 01:16:01
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/07/27 02:29:56