ゲスト
(ka0000)
【郷祭】村長祭~食べて飲んで楽しんで~
マスター:菊ノ小唄
- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
- 500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/11/08 22:00
- 完成日
- 2014/11/20 18:56
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
自由都市同盟、農耕推進地域ジェオルジ、村長祭。
領主の屋敷にはジェオルジの村長たちが年に二回の会議に集まり、ジェオルジの人々は領主一族の広い土地を使って催される村長祭を楽しむのだ。そして今年の祭は、先だっての狂気の歪虚襲撃により広がった損失を取り戻さんとする商人たちの意気込みをきっかけに、自由都市同盟全体を巻き込む大規模なものとなった。
さて。
「あらあら賑やかなこと! 遊びに来た甲斐があったわね」
名をジルダ・アマートといい、魔術師協会会長の肩書きを持つ彼女は、例年になく大規模に開催されている村長祭の会場にひょっこり現れていた。魔術師協会会長が何故ここに、と問うならば協会職員たちが笑いながら『それがジルダ・アマートだから仕方ない』と口を揃えて答えてくれることだろう。
ちなみに今日は、お偉いさんに捕まって時間を取られるのを防ぐため、つばの広い羽根つき帽子で目元を翳らせ、クリーム色のドレスを着て扇で口元を隠しながら、彼女なりにお忍びモードである。
祭には同盟の様々な都市から来た様々な出店があり、客の目を、舌を楽しませている。それに加えて好奇心旺盛なジルダの目は、祭に集まった人々にも向けられていた。各地からの出店目当てにやってきた客もまた、多種多様なのだ。老若男女、農家、職人、商人、学者、政治家、そしてハンター。
「今年の目玉、おにぎり草はこちらで召し上がれますよ! いかがですか~」
ジェオルジの先代領主が開発した新種の作物、仮称「おにぎり草」を試食できる出店があるかと思えば、
「こ、これは……花びら……5色……えっ……?」
「面白いでしょう、サラダみたいに食べられるんですー」
おにぎり草以外の新種作物を振舞ったりお見舞いしたりするジェオルジ地元民による出店も多数出ている。
「焼き立てです、いかがですか?」
「美味しさは保障します」
若い娘が良い匂いのするミートパイをずらりと並べている出店もある。若い青年がそれを手伝っており、なんだかとても良い雰囲気。そんな二人の友人らしき若者や、いったい何が不満なのか、渋面を隠さない二人のおっさんの姿も。
「見て見て、これ素敵ね!」
「わお、似合ってる似合ってる」
極彩色の街ヴァリオスから最新ファッションと雑貨を抱えて乗り込んできたのは服飾雑貨店「ペルミアーナ」。贈り物のための特別包装まで準備万端整っている。また、販売だけでなく、ファッションに不慣れな人でも最新流行に触れられる試着・貸衣装サービスも売りにしていた。マネキンに着せたコーディネイト例も豊富だ。
「とうちゃーん! おもちゃ買ってー!」
「そうだな、今日だけな」
蒸気工場都市フマーレからやってきた物作りの達人たちは、今年の新作である、機械仕掛けの玩具を並べて子供たちの心を鷲掴み。それだけでなく精巧な作りと新しい仕掛けで大人の目も楽しませている。細かく動く人形や子供が跨れるサイズの車、大きなオルゴールなどもある。
「こんなの飾る場所あるのか?」
「あなたの倉庫その2、その3を片付ければいくらでも」
港湾都市ポルトワールからは、ジェオルジではお目にかかれない『海』をテーマに様々な商品を用意する商人がやってきている。海原を描いた絵、イルカのぬいぐるみ、魚の干物などもあって多彩だ。そんなラインナップは、歪虚襲撃の際に避難先として世話になったジェオルジへの恩返し、という意味合いも強い。
これらの他にも、ハンターが独特な出店を開いていたり、的当てやくじ引きといったゲームで遊ぶテントがあったりと盛り沢山だ。
加えて、祭会場ではイベントも多数開催されていた。
その中のひとつが大芋煮会。
なんとリアルブルーの味をいろいろ楽しめるらしい。日頃から同盟領内の各地へ足を運んでいるジルダも、さすがにリアルブルーの和食にはまだ疎い。説明を聞くジルダの目が羽根つき帽子の下できらきら輝く。
「ショウユ、ミソ……他にもあるの? え、原料は豆? 本当?」
別の場所で催されているのは、今年、この地で試験栽培された茶葉でいれたお茶を振舞うティーパーティ。
領主の姉、ルイーザ・ジェオルジが最新流行の華やかなドレスを身に纏い、にこやかに祭の客へお茶を勧めている。
「休憩に一服いかがでしょう。ジェオルジ独自の茶葉なんです」
ティーパーティ会場近くにはちょっとしたステージが用意されていた。
ステージ周辺で配られているにビラによれば、これから様々な出し物が上演されるらしい。
また、催し物とは別に、出店で買った物を飲食できるスペースも広く用意されていた。
テーブルとイスと照明が多数並び、既に多くの人が集まっているがそれでもなお空きは多い。領主の土地の広さはさることながら、それがジェオルジという地域のほんの一部でしかないという点で、この地域の広大さをも窺わせるような飲食スペースだ。
そんな広い会場を隈なく巡らんとジルダは意気込む。
どんな面白いことが見られるだろうか、と胸を躍らせながら。
同盟の各地から集結した人々、そして他ならぬ現地のジェオルジの人々が織り成すジェオルジ村長祭へ、ようこそ。
領主の屋敷にはジェオルジの村長たちが年に二回の会議に集まり、ジェオルジの人々は領主一族の広い土地を使って催される村長祭を楽しむのだ。そして今年の祭は、先だっての狂気の歪虚襲撃により広がった損失を取り戻さんとする商人たちの意気込みをきっかけに、自由都市同盟全体を巻き込む大規模なものとなった。
さて。
「あらあら賑やかなこと! 遊びに来た甲斐があったわね」
名をジルダ・アマートといい、魔術師協会会長の肩書きを持つ彼女は、例年になく大規模に開催されている村長祭の会場にひょっこり現れていた。魔術師協会会長が何故ここに、と問うならば協会職員たちが笑いながら『それがジルダ・アマートだから仕方ない』と口を揃えて答えてくれることだろう。
ちなみに今日は、お偉いさんに捕まって時間を取られるのを防ぐため、つばの広い羽根つき帽子で目元を翳らせ、クリーム色のドレスを着て扇で口元を隠しながら、彼女なりにお忍びモードである。
祭には同盟の様々な都市から来た様々な出店があり、客の目を、舌を楽しませている。それに加えて好奇心旺盛なジルダの目は、祭に集まった人々にも向けられていた。各地からの出店目当てにやってきた客もまた、多種多様なのだ。老若男女、農家、職人、商人、学者、政治家、そしてハンター。
「今年の目玉、おにぎり草はこちらで召し上がれますよ! いかがですか~」
ジェオルジの先代領主が開発した新種の作物、仮称「おにぎり草」を試食できる出店があるかと思えば、
「こ、これは……花びら……5色……えっ……?」
「面白いでしょう、サラダみたいに食べられるんですー」
おにぎり草以外の新種作物を振舞ったりお見舞いしたりするジェオルジ地元民による出店も多数出ている。
「焼き立てです、いかがですか?」
「美味しさは保障します」
若い娘が良い匂いのするミートパイをずらりと並べている出店もある。若い青年がそれを手伝っており、なんだかとても良い雰囲気。そんな二人の友人らしき若者や、いったい何が不満なのか、渋面を隠さない二人のおっさんの姿も。
「見て見て、これ素敵ね!」
「わお、似合ってる似合ってる」
極彩色の街ヴァリオスから最新ファッションと雑貨を抱えて乗り込んできたのは服飾雑貨店「ペルミアーナ」。贈り物のための特別包装まで準備万端整っている。また、販売だけでなく、ファッションに不慣れな人でも最新流行に触れられる試着・貸衣装サービスも売りにしていた。マネキンに着せたコーディネイト例も豊富だ。
「とうちゃーん! おもちゃ買ってー!」
「そうだな、今日だけな」
蒸気工場都市フマーレからやってきた物作りの達人たちは、今年の新作である、機械仕掛けの玩具を並べて子供たちの心を鷲掴み。それだけでなく精巧な作りと新しい仕掛けで大人の目も楽しませている。細かく動く人形や子供が跨れるサイズの車、大きなオルゴールなどもある。
「こんなの飾る場所あるのか?」
「あなたの倉庫その2、その3を片付ければいくらでも」
港湾都市ポルトワールからは、ジェオルジではお目にかかれない『海』をテーマに様々な商品を用意する商人がやってきている。海原を描いた絵、イルカのぬいぐるみ、魚の干物などもあって多彩だ。そんなラインナップは、歪虚襲撃の際に避難先として世話になったジェオルジへの恩返し、という意味合いも強い。
これらの他にも、ハンターが独特な出店を開いていたり、的当てやくじ引きといったゲームで遊ぶテントがあったりと盛り沢山だ。
加えて、祭会場ではイベントも多数開催されていた。
その中のひとつが大芋煮会。
なんとリアルブルーの味をいろいろ楽しめるらしい。日頃から同盟領内の各地へ足を運んでいるジルダも、さすがにリアルブルーの和食にはまだ疎い。説明を聞くジルダの目が羽根つき帽子の下できらきら輝く。
「ショウユ、ミソ……他にもあるの? え、原料は豆? 本当?」
別の場所で催されているのは、今年、この地で試験栽培された茶葉でいれたお茶を振舞うティーパーティ。
領主の姉、ルイーザ・ジェオルジが最新流行の華やかなドレスを身に纏い、にこやかに祭の客へお茶を勧めている。
「休憩に一服いかがでしょう。ジェオルジ独自の茶葉なんです」
ティーパーティ会場近くにはちょっとしたステージが用意されていた。
ステージ周辺で配られているにビラによれば、これから様々な出し物が上演されるらしい。
また、催し物とは別に、出店で買った物を飲食できるスペースも広く用意されていた。
テーブルとイスと照明が多数並び、既に多くの人が集まっているがそれでもなお空きは多い。領主の土地の広さはさることながら、それがジェオルジという地域のほんの一部でしかないという点で、この地域の広大さをも窺わせるような飲食スペースだ。
そんな広い会場を隈なく巡らんとジルダは意気込む。
どんな面白いことが見られるだろうか、と胸を躍らせながら。
同盟の各地から集結した人々、そして他ならぬ現地のジェオルジの人々が織り成すジェオルジ村長祭へ、ようこそ。
リプレイ本文
●呼び声、話し声
村長祭の会場には出店がひしめき合い、賑やかに客を呼んでいる。
そんなジェオルジ村長祭の会場で、ジルダ・アマート(kz0006)は、店の者に声をかける客も居ることに気付いた。
「よーう文太くん。おっさんがたかりに来ましたよーん?」
リアルブルー出身の鵤(ka3319)が、同郷の冬樹 文太(ka0124)が出す「たこ焼き」と書かれた店に来て二つの缶を手に、へらりへらりと何か話しかけている。
「お。なんや鵤のおっちゃん、まけといたるし買ってけやー」
頭にタオル、黒のタンクトップ姿で店に立つ文太の手元を見てみれば、たこ焼きを巧みに両手の鉄串でくるくる回し、皿に移したたこ焼きの上には紙のような薄茶色の調味料を載せて踊らせる。ジルダは興味津々になって近寄り、文太に尋ねた。
「このフリルみたいなもの、なぁに?」
「これはカツオブシっつう……何て言うたらええんやろ」
あんま気にしたことあらへんわ、と文太。鵤がたこ焼きの皿を受け取りながら説明する。
「魚の身を干して燻して、薄く削ったものだねぇ」
魚と聞いて目を丸くするジルダも一皿購入。近くのベンチに座って舌鼓を打つ前で、文太と鵤はのんべんだらりと喋っていた。
「おいこら鵤のおっちゃん、勘定済ませてから食えや」
「えぇーお金払うの? お土産にビール持ってきたじゃんよぉ」
「それはそれ、これはこれ」
「しょーがない、おじさんが払ってあげよう」
「元々払うもんやろが」
「それはそれ、これはこれ、ってねぇ?」
そこへ、パルムのパルパルを連れておめかしした少女、チョココ(ka2449)がやってきた。
「くださいな!」
「おう、出来立てアツアツあるで」
「じゃあそれを頂きますの!」
そんな会話を背に、ジルダはマネキンの並ぶ出店を見つけて歩き出す。
……と、服を軽くつんつんと引っ張られる感覚が。振り向いてから視線を下に落とすと、たこ焼きを手にしたチョココがどこか嬉しそうに、空いている手でジルダの服を引っ張ってにこにこと笑っていた。特に言葉は無いが、仲間に会えた、とその笑顔が言っている。ジルダも扇を閉じてにっこり会釈。
「こんにちは、……小さなお仲間さん♪」
小さな秘密を共有する、楽しい気持ちが二人を繋ぐ。そしてチョココはたこ焼きを食べ、別の食べ物を探しに駆けていったのだった。
「うわー! 賑わってるね!!」
歓声を上げているのは鈴木悠司(ka0176)。周りの嬉しい気持ち、楽しい空気に包まれて、うきうきわくわく。そんな気持ちを体全体で表現しながら、彼は食べ歩きに専念するようだ。ジルダが見ている間にも、たこ焼き、シーフードピラフ、おにぎり草【まめし】と出店を次々に訪ねては購入、食べては歩き、また店へ。
「ねぇママ、まめし食べようよまめし!」
「じゃあ半分コしようか」
仲良く手を繋いでそんな会話と共に歩いてくる親子とすれ違うように、仲睦まじく手を繋いで歩く二人連れがいる。
「迷子になんて、ならないわ」
手を繋ぐツヴァイ=XXI(ka2418)に何か言われたのか、つんと小さく口を尖らせてみせているクレア=I(ka3020)だが、すぐ笑顔に戻る。
二人はたくさんの玩具が並ぶ中にオルゴールを見つけ、立ち止まった。
「……私が持っている物にとても似てるの……壊れちゃったけど、ね」
そう言って、クレアはオルゴールを手に取り、懐かしそうにしている。二人は暫く小さなオルゴールを見ていたが、そっと元の場所に戻し、また祭の人混みへ消えていった。
どこからか、肉と小麦生地の香ばしい匂いが漂ってくる。
鼻を頼りに進めば、ミートパイの出店に辿り着いた。そこでもまた、客と店員が親しげに話をしている。出店のテントで、焼き立てのミートパイを並べる女性とそれを手伝う男性はどうやら親密な仲らしい。その仲を取り持ったと思しき客の一人がおめでとうと声をかけている。客はすらりとした体格で、中性的な立ち居振る舞いをするエルフとしてジルダの印象に残る。店員の男女は、互いの父親が渋面でテント近くに居るのを困り笑いと共に見遣りつつ、客に礼を述べていた。
そんな様子を眺めながらジルダは出店の並ぶ道を歩く。
ふと、先ほどのエルフを再び見つけ、彼女は振り返った。
微笑みを絶やさず祭を楽しんでいるエルフ、ルシオ・セレステ(ka0673)は知り合いを見つけたらしく立ち止まる。
「やぁエイル、祭りを楽しんでいるかい?」
「あ……ルシオさん」
同じく立ち止まって答えた金髪の若い女性は、エイル・メヌエット(ka2807)。
「一緒にお祭巡り、どう?」
「ええ、行きましょう。どこへ行きましょうか……おや」
ルシオの目に留まったのは、豆のさやに入った新種作物。
「あ、おにぎり草。そういえば、『まめし』って商品名が付いたらしいわね」
お祭のパンフレットに書いてあったわ、とエイル。お勧めを尋ねられた店員は、シンプルかつ海の幸も楽しめるワカメおにぎりや、魚のほぐし身を使った鮭おにぎり、次に同盟評議会のラウロ評議長いちおしドライフルーツおにぎりを挙げた。
最後のお勧めを聞いて静かに固まっている別の客も居る。
芋煮汁の入った小さな器を持っているズィルバーン・アンネ・早咲(ka3361)だ。また、ジルダもジルダで、ドライフルーツと聞いて肩を震わせ笑いを堪えていたが、ふと視線を感じて顔を上げれば丁度、すっとアンネが目をそらしたところだった。
そのまま何事も無かったかのように立ち去る彼女の様子から、アンネがジルダに気付きつつも知らないふりを通してくれたことが窺えて、ありがとうと微笑むジルダ。感謝と共にさりげなく横目で見送った。
視界の端に、一分近く身じろぎもせず何かをじっくりまじまじと見ている人が居る。
フマーレからの出店機械仕掛けの玩具が並ぶ机の前で、色白のエルフ、nil(ka2654)がオルゴールの音に聴き入っているようだ。
彼女はふっと視線を巡らせ、チキチキジジジジと細かく動く人形をそっと手に取ると、掌に載せて右や左、下からも、とっくりと眺める。店員は丁度、オルゴールを買いに来た急ぎ足の客を相手にしており、nilは誰からも邪魔されず静かに一通り眺め終える。次は海をテーマにした商品が並ぶポルトワール商人の出店へ。
大海原が広がる小さな油絵に見入るnil。ジルダは隣に並び、その絵を眺めた。
「海がお好き?」
なんとなく尋ねたジルダに、nilは目を瞬かせてからまた絵に視線を戻す。
「青い……海は、不思議……」
と、呟くように答えた。この絵があればずっと海を見ていられるのに、とも。それを聞いて、ジルダは言う。
「貴女は自由よ。この絵を持って、この絵が生まれた海辺の街をその目で見に行くのも楽しそう」
好き勝手なことを楽しげに語るジルダは根っからの自由人。またどこかで会いましょ、と笑ってジルダはその場を去った。
「ランティアさんこんにちは、大盛況だね♪」
とまた店の者に話しかける客と思しき声がする。アシェ・ブルゲス(ka3144)が、「ペルミアーナ服飾店」と書かれた出店に声をかけていた。
「おかげさまで、色々なお客様にお楽しみ頂けております。貸衣装サービスも好調で」
「良かった。おお、マネキンも使ってくれて」
感動している様子のアシェに、ランティアと呼ばれた店員が笑顔で頷いた。そして、
「そうそう、最上さんが来てくださってます」
「あ、ほんとだ」
話している二人の視線をジルダが追うと、農家と思われる高年齢の客層に呼び込みの声をかけている小柄な最上 風(ka0891)の姿が、ヴァリオスの流行最先端を行く服で着飾ったマネキンの向こうに見え隠れ。風は、ジルダが以前学院で会ったとは随分違う、お嬢さん風の深い赤と金のドレスに身を包んでいた。そして、
「家畜や案山子用の衣装装飾もありますよー」
と、これまた新しい路線の商品を手に、地元の祭客と話し込んでいる。
「ほほう、ウチの牛がおめかしか。随分しっかりした作りじゃな」
「はい。お仕事中でも使えますよ。あ、お供に靴もいかがですかー?」
「牛の飾りと似たような色合いのはあるかの」
そんな要望にも一生懸命応え、買っていった客を見送る。その後すぐに風は別の客をつかまえ、雑貨をいくつか盆に載せて見せていた。ヴァリオスの最新ファッションを地元の人や様々な年齢層の客に紹介し、触れてもらえて店員も嬉しそう。
通り過ぎつつ微笑ましく眺めていたジルダの前方から、「べっこう飴」と書かれた紙を箱に貼って歩いている二人組がやってきた。
「いらっしゃいませー、綺麗で美味しいべっこう飴!」
「い、いらっしゃいませー」
「好きな形のを買っていってね!」
サメやクラゲ、クジラにシロクマといった可愛らしい形の飴が付いた飴棒を箱に刺し、元気に売り歩く鮫島 寝子(ka1658)と、緊張気味の甲 海月(ka2421)だ。
服飾店の前まで来た二人。
「最新ファッションを上から下までご試着できますよ、いかがですか?」
と宣伝しているのを聞いた海月は、へぇ……と立ち止まる。二人揃って服を借りることもできるらしく、寝子と海月揃って着替えることにした様子。
「ん、んー、似合うかなー?」
着替えを済ませて出てきた寝子。先に着替え終えていた海月の前でくるりと回って、群青の生地に白波模様のミニドレス姿を披露。歩き売り再開のため、早速その手にはべっこう飴。
「持ってるのがべっこう飴っていうのが子供っぽ……ネコらしくて良いんじゃないか」
大きなポケットが幾つもあるベージュのズボンに緑色のカーディガンを合わせた海月が、寝子を見てどこか満足顔で楽しげに笑う。
「そうそう僕らしくて……って、僕は鮫だぞー! 子供っぽいって言うなー!!」
「はいはい、それじゃステージでも見に行くか?」
「あ、行こう行こう!」
●口上、声援
二人が歩いていく後ろを、ジルダもとことこついていった。到着したのは大きなステージが用意され、観客椅子が並ぶ会場。ステージでは既に幾つかの演目が終わり、そして幾つもの演目が出番を待っていた。
ジルダは、空いていた最前列一番端の席に着く。今から始まるのは剣舞。
登場したのは体格の良いエヴァンス・カルヴィ(ka0639)。肩に担ぐは、優に人の丈ほどもある大太刀だ。最前列から辛うじて見えた鍔には鬼の透かし彫り。プログラムには『先の助っ人、村長祭に見参』とある。先日、近くの集落で開催された祭にも登場したとか。そのためか観客からは親しげな声援も飛ぶ。
「もう一丁、見せてくれ!」
「エッ、エヴァンスさん、がんばって……!」
照れ混じりの可愛らしい声援も。ちらりと微笑んだ後、表情を引き締めたエヴァンス。礼の後にすらりと抜いた大太刀を軽く振る。
改めて構え直し、剣舞が始まった。
斬られた風が鳴る。霧の舞う刀身が閃く。
一つ、二つ。三つ、四つ。
最後の丸太が、白と茶の美しい柾目を露わにしてカラン、と倒れた。
振り下ろした大太刀を静かに納め、エヴァンスは一度客席に礼を取る。沸いた観客の拍手が静まると、次は演武。
空気を振るわせる一喝と踏み込みを伴う上段からの切り下ろし。続く、風のような切り上げ。
流れるように滑らかで鋭い突きは、舞手と大太刀が一体となって空気を裂く。
その迫力は観客の呼吸すら支配し、圧倒し……そうして、演武は静かに終わった。
大迫力の剣舞の次は『正義のおサムライ ~対決、トリ怪人!~』。ヒーローショーをやるらしい。
「さぁさぁ、みんな! サムライショーの始まりだよっ!」
司会のお姉さん、メル・アイザックス(ka0520)が元気に解説を始め、観客に質問を投げかける。
「みんなはお野菜、食べられる? ニンジン好きな人ー? いっぱい居るね、さっすが!」
それじゃあ、とメルは質問を変えた。
「ピーマン、苦手だなーって人ー?」
ちらほらと挙手。すると……
「ピーマンがぁ、嫌いだと言ったかぁ!?」
ステージから新たな声が!
「がっはっはっは! ワガハイの名前は、トリ怪人!」
岩井崎 旭(ka0234)扮するトリ怪人、観客席をぐるりと指差し、手を挙げていた子供を見つけてぴたりと止まる。にやり。
「ワガハイ、野菜が嫌いな子供に野菜を食べさせるのが、だーい好き」
言うや否や、トリ怪人は客席へ飛び込み、手を挙げていた子供を二人、手を引いてステージへ連れて行く。ビビる子供、面白そうに見送る親。そこへ、ミィリア(ka2689)扮する小さな正義のおサムライ登場。
「子供たちを離すでござる!!」
「フッフッフ、そうはいかない。食らえ、ピーマンたっぷり肉野菜炒めぇぇ!」
大皿に盛り付けられた肉野菜炒めが登場し、ぎょっとするおサムライたち。ミィリアの苦手なピーマンを使うだなんて……と思わず役を忘れアドリブが漏れたおサムライに観客は笑いさざめくものの、身構え直したおサムライ。客席に、司会のお姉さん、メルが呼びかけた。
「みんな! 正義のおサムライを応援してあげよう! いくよ、頑張れっ頑張れっ!」
客席からの応援コールが大きくなっていく。声援を受けたおサムライは腕まくり、二枚貝で出来たコンパクトを取り出し、翳してキメ台詞を叫んだ。
「このおサムライ・アミュレットが目に入らぬかー! でござる!!」
ミィリアの覚醒で舞い散った桜吹雪の幻影。
強くなったおサムライは、木刀を大上段に構えてトリ怪人へ向かっていった。
「……ちぇすとー! でござるー!!」
子供を捕まえていたトリ怪人の手首を片方ずつペン、ペン、と叩いて子供たちを解放、取り返す!
しかし依然として立ちはだかるは、ピーマン大盛り肉野菜炒め。皿の載ったテーブルとイスをステージ中央に押し出して、トリ怪人は言い放った。
「まだまだ! これをどうする、おサムライ!」
少し尻込みするおサムライだが。
「でもでも頑張って食べなくちゃ……苦手なお野菜だって、きちんと食べればパワーになるのでござる!」
子供たちの手を取って、席に着いた。
「一緒に、ピーマン大盛り肉野菜炒め、食べちゃおう!」
司会のお姉さんが再び応援開始。観客も息を合わせて声援を送る。
応援と完食しそうな勢いに、トリ怪人がよろめいた。客席から謎の虹色の光が輝き、トリ怪人はそれを見て更によろめく。
大きな声援に何故か慌てた声が混ざる中、正義のおサムライと子供たちは遂に最後のピーマンをその口に運んだ! 悔しげに倒れるトリ怪人。ドドドドーン、と太鼓が鳴り響き、
「やはり、やはり……! 野菜の力は……スバラシィィィィッ!!」
捨て台詞と共に翼を広げてステージから去っていった。桜色の小さなおサムライは子供たちと手を繋ぐ。両手を上げて締めくくる。
「みんなもお野菜をちゃーんと食べて強くなろー! でござる!!」
ヒーローショーを見終えたジルダ。
微笑ましいステージに拍手を送りつつ次の演目を確認していると、
「英雄、ヒーロー、いいね。かっこいいね」
と近くの席で笑い涙を拭いながらしみじみと話すウォルター・ヨー(ka2967)と、出店で買った菓子を手に頷く柏木 千春(ka3061)の姿があった。
ウォルターは手にした酒を眺め、ぽつんと呟く。
「ヒーロー、か。僕だってなりたかった。……今だってなりたい」
それを聴いた千春は、そっとウォルターを見て囁き返す。
「……なっちゃいけない理由なんて、無いよ?」
ウォルターは俯いた。
「消せない過去があればこそ、僕は自分に罰を与えずにいられない」
その言葉に、視線を地面へと落とした千春の言葉は、ウォルターの痛みを想うがゆえに喉でつかえているようだった。
「そんな僕に、どうしろって?」
「……そんなの、私が知りたいよ」
ヒーローになりたい者、それを想う者。二つの小さな想いがショーの隙間に交差する。
会場に、ゆったりとした音楽が流れ始めた。
ステージには花が散らされ、登場したのはセクシーな体型を惜しげもなく披露する黒の夢(ka0187)とマコ=アルカイド(ka1659)の二人。黒髪と銀髪の対比が鮮やかな彼女たちは、動物の頭骨と花飾りをあしらった精霊のような衣装。
ぽっぽっとステージのあちこちに小さな火球がいくつも浮かび、二人を照らす中、ステージ中央に用意されたポールを使って、音楽に合わせゆったりとしたダンスを披露し、観客の視線を集めた。
そのダンスは徐々に、アクロバティックなものへ。音楽もスピーディーな曲調へと変化、二人は迫力のある動きでまるで宙を舞うかのごとくポールの高所へ上って躍る。観客のテンションも最高潮へ……
ぱた、と止まった音楽。
ふっ、と落下する二人。
息を呑んだ客席。
ころりん、と二人は転がって猫のようにステージへ音も無く着地。
す、と立ち上がった二人は笑顔でポーズ。湧き起こる拍手、そして音楽は賑やかに楽しげに。黒の夢とマコは、ぴったり抱きついたりぐるぐる回ったり、じゃれるように踊り笑ってステージを舞う。離れると、マコが客席に手拍子を求め、黒の夢が呪文のような歌を紡ぐ。
二人は客席へ降り、楽しそうに踊りながら、手拍子を送る観客に笑いかけた。黒の夢が、音楽に合わせて声を重ねるチョココを見つけてステージへ上げている。マコによって、戸惑うウォルターと千春があれよあれよとステージへ誘われるのを楽しそうに見送るジルダ。だがそんな彼女の腕にも、気が付けば黒肌の腕が絡んでおり、笑いながらジルダもステージの上へ。歩きながら、
「うな? なんだか覚えのあるニオイ……?」
と首を傾げる黒の夢。ジルダは元気良く名前を言い当てられそうな雰囲気を察知、シー、と人差し指を立てた。あ、と笑顔になる黒の夢。その笑顔にジルダは思わず冷や汗を浮かべるが、
「解ったのなー。内緒で美味しいの食べてたのだな? ふふー、大丈夫、ナイショにするのなー♪」
「……ありがと♪」
ということにしておいた。たこ焼きの匂いが残っていたのかもしれない。
くるくるくる、と黒の夢がジルダを躍らせる。何とも言えない表情のウォルターと、それを見て少し楽しげな千春もくるくるくる。そんな黒の夢の背に凭れかかりポーズを決めるマコ。飛び入り参加のチョココの歌声が響き、パルムは飛び跳ね、浮かぶ灯火に煌き踊る。
ステージの熱気はどんどん盛り上がっていった。
遠くから響いてくるステージの音楽、歌声や手拍子。
それを聞いて負けん気を膨らませているのは、うさぎの道化姿で大玉に乗るリズリエル・ュリウス(ka0233)。
「祭りとくれば稼ぎ時だが、今日は顔を売る程度にしておくかなっ」
……とは口に出さない。なぜなら彼女は道化師だから。
うさぎのどうけしは大玉の上でクレセントリュートをべれれん、と鳴らす。大玉を操りあちらへこちらへ練り歩いて客を集めると、大玉の上から、その身振り手振りで道行く祭客の足を止める。
うさぎのどうけしは、ご覧あれ、と言わんばかりの大見得を切る。ボールとスティックのジャグリングを始めた。リズミカルな動きにどこからともなく手拍子が起こり、スピードは増していく。最後にしゃきーんとポーズを決めてやんややんやの大喝采。
うさぎのどうけしは、歓声に応える。またのんびりもっさりとボールをほいほい、スティックをくるくる、そしてそれをポンポンポン、とキャッチすれば、いつの間にかボールもスティックも消えている。
うさぎのどうけしは、しゅっ、と大玉から飛び上がり、ぼてっ、と着地する。笑い声の中よっこいしょ、と立ち上がってお辞儀すると、拍手に見送られて祭の雑踏の中へ消えていった。
ステージから降りて一息ついたジルダは、秋風を扇で顔に送りながら再び歩く。黒の夢の無邪気な笑顔と共に受け取ってしまった動物の頭骨を胸に抱えて歩いていると、何とも丁度良いテントを見つけた。ニャンゴ・ニャンゴ(ka1590)が設置している、荷物預かり所だ。既に多くの祭客が利用しているらしく、大小様々な手提げ袋や包みが、番号を付けられテントの奥に仕舞われている。頭骨を預けようとして、ふとジルダは考えた。
「……袋も何も無いのだけど、このままで構わないかしら?」
「構わないどころか、私などにお預けいただき申し訳なく思うほどでございます」
至極丁寧に、かつ全力で自分を卑下しているニャンゴだが、ジルダはあまり気にしない。
「ありがとう、助かるわ」
笑顔で支払いを済ませ、預かり証代わりの番号カードを受け取り、再び祭会場を練り歩き始めるのだった。
ティーパーティー会場へ向かう途中、アシェの廃材アート展示を見つけて覗くジルダ。
「いろんな物があるのね」
「いらっしゃい。祭のテーマ的に、稲穂とか、芋とか草花をモチーフに揃えてみたんだ」
「なるほど、変わった形ね、見ていて飽きないわ」
「変わってるかな……これ、前衛的芸術って蒼の世界では言うんだって」
「へええ。向こうもほんっと、面白いものがたくさん。いつか行ってみたいのよね」
腕組みして語る客がジルダ・アマートであることに気付いたアシェは、声を潜めて
「ジルダさんなら、行けるんじゃない?」
こそこそ。
「それがねぇ、私にも難しいことってまだまだあるのよねぇ。世界って広いわ、精進しなきゃ」
こそこそ。
「あはは。僕も負けてられないなぁ。今回はハンターだからこの機会を得られたようなものだし」
ハンターでなくても呼ばれるよう精進しないと。そう言って笑うアシェである。
廃材アート展示のテントから出てくると、ポルトワールからの出店に、見覚えのある二人組が華やかな服装にべっこう飴を持って突撃していた。
「サメとクラゲの何か、くーださーいな!」
大雑把な寝子の頼みにも、商人は快く頷く。
「サメとクラゲか、ちょっと待ってな探してみよう」
海月はそんな商人に、お礼と挨拶を込めてイルカの形のべっこう飴を渡した。
「あの、これ、良かったら……」
「お、良いのかい? それじゃありがたく。うちのガキが喜ぶよ。そうだな、値段もちょっとまけてあげよう」
「やったー!」
そんな元気な声が道を挟んだこちら側まで、喧騒を越えて聞こえてくるのだった。
●交流、雑談
ステージに程近い、ティーパーティー会場。
ダンスの後のプログラムが進むステージに拍手を送るアリス・ナイトレイ(ka0202)、その向かいの席に、ジルダが座る。アリスがそれに気付いて声をかけてきた。
「先ほどダンス上演でステージに上がってた方……ですよね?」
「あら、大当たり。こんな場所からも見えてたの?」
良い席ね~、と返すジルダに、アリスも頷く。
「早くからここでステージを見ながら、新作茶葉の紅茶を楽しませて頂いていて」
「お茶、美味しい?」
「ええ、美味しいですよ。紅茶はそれなりに知っていますが、そのどれとも違う味で……」
召し上がってみてください、とアリス。その言葉に呼ばれたように、領主の姉、ルイーザ・ジェオルジがやってきた。
「ようこそお越しくださいました。こちら、『ジェオルジの風』というお茶です」
用意した紅茶の給仕を終えたルイーザに、ありがとう、と扇を下ろして微笑む。ルイーザは、見覚えのあるその顔が魔術師協会会長であることに気付いた様子。一瞬固まったが、すぐ気を取り直して一礼、ごゆっくり、との言葉を残し別のテーブルへ向かったのだった。
ルイーザが向かった先は、エイルとルシオの二人が座るテーブル。試飲の支度として紅茶と茶菓子のシフォンケーキが並べられ、ルシオがにこりと笑む。
「まずは、お茶を頂こうかな」
「ご感想などありましたら、是非」
ルシオは紅茶を一口。口から鼻へと広がる香りを楽しみ、味わう。
「若いけれど、飲みやすい紅茶だと思う……けれど、しっかりとした香りがあって、良いね」
「ありがとうございます」
「いえいえ。お嬢さんも丁寧なおもてなしをありがとう」
ルシオの言葉に、女性と気付いていないルイーザがにっこり嬉しそうに微笑む。エイルがふと思い出し、ルイーザに話しかけた。
「領主さんは、今お忙しいかしら」
見かけなかったんだけど……とエイル。ルイーザは弟である領主セスト・ジェオルジに言付けがあれば承ると申し出た。
「それじゃ、お願いします。先日、ロッソ内でお父様のルーベンさんにお世話になりました。それから、この度の素敵なお祭開催、ありがとうございます。楽しませていただきました。……と」
確かに承りましたわ、と微笑んで、ルイーザは一礼し去っていった。二人でそれを見送り、そういえば……とルシオが話す。
「さっき案内をちらりと見たら、お茶菓子も紅茶を使っているそうでね。これがそうかな……実は、甘いものに目が無くて」
ふふ、と笑ったルシオの性格の一面を垣間見て、エイルも微笑んだ。
「お茶の香りとお菓子をのんびり楽しむ時間って良いわよね」
紅茶のカップを取ったエイルに、ルシオも頷く。
「いつもは一人で楽しむ事が多いけれど、君とならよりお茶の時間を楽しめそうだ」
「そこまで言っていただけるなんて、光栄ね。ふふ、是非楽しんで?」
「ああ。エイルも」
少し離れた場所に見える飲食向けのテーブル席では、
「綿飴とか! ぷふぅー!」
「うっせ。美味いもんは美味いんやから、しゃあないやろ」
と賑やかに喋る鵤と文太が居た。テーブルの上には、二人分の冷やした缶ビールに、ポルトワール産の干物、文太が作ったたこ焼き、そしてその文太の手には大きな綿菓子。綿菓子を揺らしながら、文太が口をへの字に曲げる。
「そう言うおっちゃんは何が好きやねん」
「俺? モチ、酒のつまみ系が大好きだけどぉ?」
酒につまみ! これ最高~、とけらけら笑いながら、文太の綿菓子をちぎって失敬する鵤なのであった。
ツヴァイとクレアがそろそろ帰ろうかと席を立っていた。
荷物を持ったツヴァイが、歩き出そうとしたところで足を止める。首を傾げるクレア。
「……どうしたの?」
不思議そうな顔にツヴァイが、あー、いや、と言いよどむ。
「これなんだが……記念というか、まあ、要らないなら捨ててもらっても」
構わない……、そう言って取り出した物を無造作に差し出した。
それは、小さなオルゴール。
「……これ、………いいの?」
「見ていたようだったから」
気になっていたんだろう、とツヴァイ。その言葉に、クレアはオルゴールをそっと包み込むように抱きしめた。
「ありがとう。とても嬉しいわ。大切にする」
心底嬉しそうに微笑むクレアを見て、ツヴァイも微かに微笑んだ。
別のテーブルでは、買い込んだ土産分の荷物をまとめ終え、祭の各所に置かれている感想ノートのひとつへ何か書き込んでいる悠司の姿がある。
ステージのほうを眺め遣ってから、また何やら勢いよく書き込んでいた。
気になったジルダが後ほど確認してみると、そこには、
『これだけの人、楽しい空気、元気が出ました。もちろん俺も嬉しいし楽しい気持ちでいっぱい。きっとこんな場所なら良い音が出せるはず。今度……来年になるのかな? また来られたら、その時こそは友達とあの舞台に立つ!』
と意気込みが書かれていた。
親しい人と楽しむ者、一人ぶらりと楽しむ者。或いは祭の喧騒に引き寄せられてふらりと立ち寄っただけ、という者も、それぞれに祭を堪能し、様々な思い出を作っていく。ジルダは今日見てきた幾人もの顔を思い浮かべ、まだまだ飽きる様子も無く、楽しげに会場を眺めるのだった。
村長祭の会場には出店がひしめき合い、賑やかに客を呼んでいる。
そんなジェオルジ村長祭の会場で、ジルダ・アマート(kz0006)は、店の者に声をかける客も居ることに気付いた。
「よーう文太くん。おっさんがたかりに来ましたよーん?」
リアルブルー出身の鵤(ka3319)が、同郷の冬樹 文太(ka0124)が出す「たこ焼き」と書かれた店に来て二つの缶を手に、へらりへらりと何か話しかけている。
「お。なんや鵤のおっちゃん、まけといたるし買ってけやー」
頭にタオル、黒のタンクトップ姿で店に立つ文太の手元を見てみれば、たこ焼きを巧みに両手の鉄串でくるくる回し、皿に移したたこ焼きの上には紙のような薄茶色の調味料を載せて踊らせる。ジルダは興味津々になって近寄り、文太に尋ねた。
「このフリルみたいなもの、なぁに?」
「これはカツオブシっつう……何て言うたらええんやろ」
あんま気にしたことあらへんわ、と文太。鵤がたこ焼きの皿を受け取りながら説明する。
「魚の身を干して燻して、薄く削ったものだねぇ」
魚と聞いて目を丸くするジルダも一皿購入。近くのベンチに座って舌鼓を打つ前で、文太と鵤はのんべんだらりと喋っていた。
「おいこら鵤のおっちゃん、勘定済ませてから食えや」
「えぇーお金払うの? お土産にビール持ってきたじゃんよぉ」
「それはそれ、これはこれ」
「しょーがない、おじさんが払ってあげよう」
「元々払うもんやろが」
「それはそれ、これはこれ、ってねぇ?」
そこへ、パルムのパルパルを連れておめかしした少女、チョココ(ka2449)がやってきた。
「くださいな!」
「おう、出来立てアツアツあるで」
「じゃあそれを頂きますの!」
そんな会話を背に、ジルダはマネキンの並ぶ出店を見つけて歩き出す。
……と、服を軽くつんつんと引っ張られる感覚が。振り向いてから視線を下に落とすと、たこ焼きを手にしたチョココがどこか嬉しそうに、空いている手でジルダの服を引っ張ってにこにこと笑っていた。特に言葉は無いが、仲間に会えた、とその笑顔が言っている。ジルダも扇を閉じてにっこり会釈。
「こんにちは、……小さなお仲間さん♪」
小さな秘密を共有する、楽しい気持ちが二人を繋ぐ。そしてチョココはたこ焼きを食べ、別の食べ物を探しに駆けていったのだった。
「うわー! 賑わってるね!!」
歓声を上げているのは鈴木悠司(ka0176)。周りの嬉しい気持ち、楽しい空気に包まれて、うきうきわくわく。そんな気持ちを体全体で表現しながら、彼は食べ歩きに専念するようだ。ジルダが見ている間にも、たこ焼き、シーフードピラフ、おにぎり草【まめし】と出店を次々に訪ねては購入、食べては歩き、また店へ。
「ねぇママ、まめし食べようよまめし!」
「じゃあ半分コしようか」
仲良く手を繋いでそんな会話と共に歩いてくる親子とすれ違うように、仲睦まじく手を繋いで歩く二人連れがいる。
「迷子になんて、ならないわ」
手を繋ぐツヴァイ=XXI(ka2418)に何か言われたのか、つんと小さく口を尖らせてみせているクレア=I(ka3020)だが、すぐ笑顔に戻る。
二人はたくさんの玩具が並ぶ中にオルゴールを見つけ、立ち止まった。
「……私が持っている物にとても似てるの……壊れちゃったけど、ね」
そう言って、クレアはオルゴールを手に取り、懐かしそうにしている。二人は暫く小さなオルゴールを見ていたが、そっと元の場所に戻し、また祭の人混みへ消えていった。
どこからか、肉と小麦生地の香ばしい匂いが漂ってくる。
鼻を頼りに進めば、ミートパイの出店に辿り着いた。そこでもまた、客と店員が親しげに話をしている。出店のテントで、焼き立てのミートパイを並べる女性とそれを手伝う男性はどうやら親密な仲らしい。その仲を取り持ったと思しき客の一人がおめでとうと声をかけている。客はすらりとした体格で、中性的な立ち居振る舞いをするエルフとしてジルダの印象に残る。店員の男女は、互いの父親が渋面でテント近くに居るのを困り笑いと共に見遣りつつ、客に礼を述べていた。
そんな様子を眺めながらジルダは出店の並ぶ道を歩く。
ふと、先ほどのエルフを再び見つけ、彼女は振り返った。
微笑みを絶やさず祭を楽しんでいるエルフ、ルシオ・セレステ(ka0673)は知り合いを見つけたらしく立ち止まる。
「やぁエイル、祭りを楽しんでいるかい?」
「あ……ルシオさん」
同じく立ち止まって答えた金髪の若い女性は、エイル・メヌエット(ka2807)。
「一緒にお祭巡り、どう?」
「ええ、行きましょう。どこへ行きましょうか……おや」
ルシオの目に留まったのは、豆のさやに入った新種作物。
「あ、おにぎり草。そういえば、『まめし』って商品名が付いたらしいわね」
お祭のパンフレットに書いてあったわ、とエイル。お勧めを尋ねられた店員は、シンプルかつ海の幸も楽しめるワカメおにぎりや、魚のほぐし身を使った鮭おにぎり、次に同盟評議会のラウロ評議長いちおしドライフルーツおにぎりを挙げた。
最後のお勧めを聞いて静かに固まっている別の客も居る。
芋煮汁の入った小さな器を持っているズィルバーン・アンネ・早咲(ka3361)だ。また、ジルダもジルダで、ドライフルーツと聞いて肩を震わせ笑いを堪えていたが、ふと視線を感じて顔を上げれば丁度、すっとアンネが目をそらしたところだった。
そのまま何事も無かったかのように立ち去る彼女の様子から、アンネがジルダに気付きつつも知らないふりを通してくれたことが窺えて、ありがとうと微笑むジルダ。感謝と共にさりげなく横目で見送った。
視界の端に、一分近く身じろぎもせず何かをじっくりまじまじと見ている人が居る。
フマーレからの出店機械仕掛けの玩具が並ぶ机の前で、色白のエルフ、nil(ka2654)がオルゴールの音に聴き入っているようだ。
彼女はふっと視線を巡らせ、チキチキジジジジと細かく動く人形をそっと手に取ると、掌に載せて右や左、下からも、とっくりと眺める。店員は丁度、オルゴールを買いに来た急ぎ足の客を相手にしており、nilは誰からも邪魔されず静かに一通り眺め終える。次は海をテーマにした商品が並ぶポルトワール商人の出店へ。
大海原が広がる小さな油絵に見入るnil。ジルダは隣に並び、その絵を眺めた。
「海がお好き?」
なんとなく尋ねたジルダに、nilは目を瞬かせてからまた絵に視線を戻す。
「青い……海は、不思議……」
と、呟くように答えた。この絵があればずっと海を見ていられるのに、とも。それを聞いて、ジルダは言う。
「貴女は自由よ。この絵を持って、この絵が生まれた海辺の街をその目で見に行くのも楽しそう」
好き勝手なことを楽しげに語るジルダは根っからの自由人。またどこかで会いましょ、と笑ってジルダはその場を去った。
「ランティアさんこんにちは、大盛況だね♪」
とまた店の者に話しかける客と思しき声がする。アシェ・ブルゲス(ka3144)が、「ペルミアーナ服飾店」と書かれた出店に声をかけていた。
「おかげさまで、色々なお客様にお楽しみ頂けております。貸衣装サービスも好調で」
「良かった。おお、マネキンも使ってくれて」
感動している様子のアシェに、ランティアと呼ばれた店員が笑顔で頷いた。そして、
「そうそう、最上さんが来てくださってます」
「あ、ほんとだ」
話している二人の視線をジルダが追うと、農家と思われる高年齢の客層に呼び込みの声をかけている小柄な最上 風(ka0891)の姿が、ヴァリオスの流行最先端を行く服で着飾ったマネキンの向こうに見え隠れ。風は、ジルダが以前学院で会ったとは随分違う、お嬢さん風の深い赤と金のドレスに身を包んでいた。そして、
「家畜や案山子用の衣装装飾もありますよー」
と、これまた新しい路線の商品を手に、地元の祭客と話し込んでいる。
「ほほう、ウチの牛がおめかしか。随分しっかりした作りじゃな」
「はい。お仕事中でも使えますよ。あ、お供に靴もいかがですかー?」
「牛の飾りと似たような色合いのはあるかの」
そんな要望にも一生懸命応え、買っていった客を見送る。その後すぐに風は別の客をつかまえ、雑貨をいくつか盆に載せて見せていた。ヴァリオスの最新ファッションを地元の人や様々な年齢層の客に紹介し、触れてもらえて店員も嬉しそう。
通り過ぎつつ微笑ましく眺めていたジルダの前方から、「べっこう飴」と書かれた紙を箱に貼って歩いている二人組がやってきた。
「いらっしゃいませー、綺麗で美味しいべっこう飴!」
「い、いらっしゃいませー」
「好きな形のを買っていってね!」
サメやクラゲ、クジラにシロクマといった可愛らしい形の飴が付いた飴棒を箱に刺し、元気に売り歩く鮫島 寝子(ka1658)と、緊張気味の甲 海月(ka2421)だ。
服飾店の前まで来た二人。
「最新ファッションを上から下までご試着できますよ、いかがですか?」
と宣伝しているのを聞いた海月は、へぇ……と立ち止まる。二人揃って服を借りることもできるらしく、寝子と海月揃って着替えることにした様子。
「ん、んー、似合うかなー?」
着替えを済ませて出てきた寝子。先に着替え終えていた海月の前でくるりと回って、群青の生地に白波模様のミニドレス姿を披露。歩き売り再開のため、早速その手にはべっこう飴。
「持ってるのがべっこう飴っていうのが子供っぽ……ネコらしくて良いんじゃないか」
大きなポケットが幾つもあるベージュのズボンに緑色のカーディガンを合わせた海月が、寝子を見てどこか満足顔で楽しげに笑う。
「そうそう僕らしくて……って、僕は鮫だぞー! 子供っぽいって言うなー!!」
「はいはい、それじゃステージでも見に行くか?」
「あ、行こう行こう!」
●口上、声援
二人が歩いていく後ろを、ジルダもとことこついていった。到着したのは大きなステージが用意され、観客椅子が並ぶ会場。ステージでは既に幾つかの演目が終わり、そして幾つもの演目が出番を待っていた。
ジルダは、空いていた最前列一番端の席に着く。今から始まるのは剣舞。
登場したのは体格の良いエヴァンス・カルヴィ(ka0639)。肩に担ぐは、優に人の丈ほどもある大太刀だ。最前列から辛うじて見えた鍔には鬼の透かし彫り。プログラムには『先の助っ人、村長祭に見参』とある。先日、近くの集落で開催された祭にも登場したとか。そのためか観客からは親しげな声援も飛ぶ。
「もう一丁、見せてくれ!」
「エッ、エヴァンスさん、がんばって……!」
照れ混じりの可愛らしい声援も。ちらりと微笑んだ後、表情を引き締めたエヴァンス。礼の後にすらりと抜いた大太刀を軽く振る。
改めて構え直し、剣舞が始まった。
斬られた風が鳴る。霧の舞う刀身が閃く。
一つ、二つ。三つ、四つ。
最後の丸太が、白と茶の美しい柾目を露わにしてカラン、と倒れた。
振り下ろした大太刀を静かに納め、エヴァンスは一度客席に礼を取る。沸いた観客の拍手が静まると、次は演武。
空気を振るわせる一喝と踏み込みを伴う上段からの切り下ろし。続く、風のような切り上げ。
流れるように滑らかで鋭い突きは、舞手と大太刀が一体となって空気を裂く。
その迫力は観客の呼吸すら支配し、圧倒し……そうして、演武は静かに終わった。
大迫力の剣舞の次は『正義のおサムライ ~対決、トリ怪人!~』。ヒーローショーをやるらしい。
「さぁさぁ、みんな! サムライショーの始まりだよっ!」
司会のお姉さん、メル・アイザックス(ka0520)が元気に解説を始め、観客に質問を投げかける。
「みんなはお野菜、食べられる? ニンジン好きな人ー? いっぱい居るね、さっすが!」
それじゃあ、とメルは質問を変えた。
「ピーマン、苦手だなーって人ー?」
ちらほらと挙手。すると……
「ピーマンがぁ、嫌いだと言ったかぁ!?」
ステージから新たな声が!
「がっはっはっは! ワガハイの名前は、トリ怪人!」
岩井崎 旭(ka0234)扮するトリ怪人、観客席をぐるりと指差し、手を挙げていた子供を見つけてぴたりと止まる。にやり。
「ワガハイ、野菜が嫌いな子供に野菜を食べさせるのが、だーい好き」
言うや否や、トリ怪人は客席へ飛び込み、手を挙げていた子供を二人、手を引いてステージへ連れて行く。ビビる子供、面白そうに見送る親。そこへ、ミィリア(ka2689)扮する小さな正義のおサムライ登場。
「子供たちを離すでござる!!」
「フッフッフ、そうはいかない。食らえ、ピーマンたっぷり肉野菜炒めぇぇ!」
大皿に盛り付けられた肉野菜炒めが登場し、ぎょっとするおサムライたち。ミィリアの苦手なピーマンを使うだなんて……と思わず役を忘れアドリブが漏れたおサムライに観客は笑いさざめくものの、身構え直したおサムライ。客席に、司会のお姉さん、メルが呼びかけた。
「みんな! 正義のおサムライを応援してあげよう! いくよ、頑張れっ頑張れっ!」
客席からの応援コールが大きくなっていく。声援を受けたおサムライは腕まくり、二枚貝で出来たコンパクトを取り出し、翳してキメ台詞を叫んだ。
「このおサムライ・アミュレットが目に入らぬかー! でござる!!」
ミィリアの覚醒で舞い散った桜吹雪の幻影。
強くなったおサムライは、木刀を大上段に構えてトリ怪人へ向かっていった。
「……ちぇすとー! でござるー!!」
子供を捕まえていたトリ怪人の手首を片方ずつペン、ペン、と叩いて子供たちを解放、取り返す!
しかし依然として立ちはだかるは、ピーマン大盛り肉野菜炒め。皿の載ったテーブルとイスをステージ中央に押し出して、トリ怪人は言い放った。
「まだまだ! これをどうする、おサムライ!」
少し尻込みするおサムライだが。
「でもでも頑張って食べなくちゃ……苦手なお野菜だって、きちんと食べればパワーになるのでござる!」
子供たちの手を取って、席に着いた。
「一緒に、ピーマン大盛り肉野菜炒め、食べちゃおう!」
司会のお姉さんが再び応援開始。観客も息を合わせて声援を送る。
応援と完食しそうな勢いに、トリ怪人がよろめいた。客席から謎の虹色の光が輝き、トリ怪人はそれを見て更によろめく。
大きな声援に何故か慌てた声が混ざる中、正義のおサムライと子供たちは遂に最後のピーマンをその口に運んだ! 悔しげに倒れるトリ怪人。ドドドドーン、と太鼓が鳴り響き、
「やはり、やはり……! 野菜の力は……スバラシィィィィッ!!」
捨て台詞と共に翼を広げてステージから去っていった。桜色の小さなおサムライは子供たちと手を繋ぐ。両手を上げて締めくくる。
「みんなもお野菜をちゃーんと食べて強くなろー! でござる!!」
ヒーローショーを見終えたジルダ。
微笑ましいステージに拍手を送りつつ次の演目を確認していると、
「英雄、ヒーロー、いいね。かっこいいね」
と近くの席で笑い涙を拭いながらしみじみと話すウォルター・ヨー(ka2967)と、出店で買った菓子を手に頷く柏木 千春(ka3061)の姿があった。
ウォルターは手にした酒を眺め、ぽつんと呟く。
「ヒーロー、か。僕だってなりたかった。……今だってなりたい」
それを聴いた千春は、そっとウォルターを見て囁き返す。
「……なっちゃいけない理由なんて、無いよ?」
ウォルターは俯いた。
「消せない過去があればこそ、僕は自分に罰を与えずにいられない」
その言葉に、視線を地面へと落とした千春の言葉は、ウォルターの痛みを想うがゆえに喉でつかえているようだった。
「そんな僕に、どうしろって?」
「……そんなの、私が知りたいよ」
ヒーローになりたい者、それを想う者。二つの小さな想いがショーの隙間に交差する。
会場に、ゆったりとした音楽が流れ始めた。
ステージには花が散らされ、登場したのはセクシーな体型を惜しげもなく披露する黒の夢(ka0187)とマコ=アルカイド(ka1659)の二人。黒髪と銀髪の対比が鮮やかな彼女たちは、動物の頭骨と花飾りをあしらった精霊のような衣装。
ぽっぽっとステージのあちこちに小さな火球がいくつも浮かび、二人を照らす中、ステージ中央に用意されたポールを使って、音楽に合わせゆったりとしたダンスを披露し、観客の視線を集めた。
そのダンスは徐々に、アクロバティックなものへ。音楽もスピーディーな曲調へと変化、二人は迫力のある動きでまるで宙を舞うかのごとくポールの高所へ上って躍る。観客のテンションも最高潮へ……
ぱた、と止まった音楽。
ふっ、と落下する二人。
息を呑んだ客席。
ころりん、と二人は転がって猫のようにステージへ音も無く着地。
す、と立ち上がった二人は笑顔でポーズ。湧き起こる拍手、そして音楽は賑やかに楽しげに。黒の夢とマコは、ぴったり抱きついたりぐるぐる回ったり、じゃれるように踊り笑ってステージを舞う。離れると、マコが客席に手拍子を求め、黒の夢が呪文のような歌を紡ぐ。
二人は客席へ降り、楽しそうに踊りながら、手拍子を送る観客に笑いかけた。黒の夢が、音楽に合わせて声を重ねるチョココを見つけてステージへ上げている。マコによって、戸惑うウォルターと千春があれよあれよとステージへ誘われるのを楽しそうに見送るジルダ。だがそんな彼女の腕にも、気が付けば黒肌の腕が絡んでおり、笑いながらジルダもステージの上へ。歩きながら、
「うな? なんだか覚えのあるニオイ……?」
と首を傾げる黒の夢。ジルダは元気良く名前を言い当てられそうな雰囲気を察知、シー、と人差し指を立てた。あ、と笑顔になる黒の夢。その笑顔にジルダは思わず冷や汗を浮かべるが、
「解ったのなー。内緒で美味しいの食べてたのだな? ふふー、大丈夫、ナイショにするのなー♪」
「……ありがと♪」
ということにしておいた。たこ焼きの匂いが残っていたのかもしれない。
くるくるくる、と黒の夢がジルダを躍らせる。何とも言えない表情のウォルターと、それを見て少し楽しげな千春もくるくるくる。そんな黒の夢の背に凭れかかりポーズを決めるマコ。飛び入り参加のチョココの歌声が響き、パルムは飛び跳ね、浮かぶ灯火に煌き踊る。
ステージの熱気はどんどん盛り上がっていった。
遠くから響いてくるステージの音楽、歌声や手拍子。
それを聞いて負けん気を膨らませているのは、うさぎの道化姿で大玉に乗るリズリエル・ュリウス(ka0233)。
「祭りとくれば稼ぎ時だが、今日は顔を売る程度にしておくかなっ」
……とは口に出さない。なぜなら彼女は道化師だから。
うさぎのどうけしは大玉の上でクレセントリュートをべれれん、と鳴らす。大玉を操りあちらへこちらへ練り歩いて客を集めると、大玉の上から、その身振り手振りで道行く祭客の足を止める。
うさぎのどうけしは、ご覧あれ、と言わんばかりの大見得を切る。ボールとスティックのジャグリングを始めた。リズミカルな動きにどこからともなく手拍子が起こり、スピードは増していく。最後にしゃきーんとポーズを決めてやんややんやの大喝采。
うさぎのどうけしは、歓声に応える。またのんびりもっさりとボールをほいほい、スティックをくるくる、そしてそれをポンポンポン、とキャッチすれば、いつの間にかボールもスティックも消えている。
うさぎのどうけしは、しゅっ、と大玉から飛び上がり、ぼてっ、と着地する。笑い声の中よっこいしょ、と立ち上がってお辞儀すると、拍手に見送られて祭の雑踏の中へ消えていった。
ステージから降りて一息ついたジルダは、秋風を扇で顔に送りながら再び歩く。黒の夢の無邪気な笑顔と共に受け取ってしまった動物の頭骨を胸に抱えて歩いていると、何とも丁度良いテントを見つけた。ニャンゴ・ニャンゴ(ka1590)が設置している、荷物預かり所だ。既に多くの祭客が利用しているらしく、大小様々な手提げ袋や包みが、番号を付けられテントの奥に仕舞われている。頭骨を預けようとして、ふとジルダは考えた。
「……袋も何も無いのだけど、このままで構わないかしら?」
「構わないどころか、私などにお預けいただき申し訳なく思うほどでございます」
至極丁寧に、かつ全力で自分を卑下しているニャンゴだが、ジルダはあまり気にしない。
「ありがとう、助かるわ」
笑顔で支払いを済ませ、預かり証代わりの番号カードを受け取り、再び祭会場を練り歩き始めるのだった。
ティーパーティー会場へ向かう途中、アシェの廃材アート展示を見つけて覗くジルダ。
「いろんな物があるのね」
「いらっしゃい。祭のテーマ的に、稲穂とか、芋とか草花をモチーフに揃えてみたんだ」
「なるほど、変わった形ね、見ていて飽きないわ」
「変わってるかな……これ、前衛的芸術って蒼の世界では言うんだって」
「へええ。向こうもほんっと、面白いものがたくさん。いつか行ってみたいのよね」
腕組みして語る客がジルダ・アマートであることに気付いたアシェは、声を潜めて
「ジルダさんなら、行けるんじゃない?」
こそこそ。
「それがねぇ、私にも難しいことってまだまだあるのよねぇ。世界って広いわ、精進しなきゃ」
こそこそ。
「あはは。僕も負けてられないなぁ。今回はハンターだからこの機会を得られたようなものだし」
ハンターでなくても呼ばれるよう精進しないと。そう言って笑うアシェである。
廃材アート展示のテントから出てくると、ポルトワールからの出店に、見覚えのある二人組が華やかな服装にべっこう飴を持って突撃していた。
「サメとクラゲの何か、くーださーいな!」
大雑把な寝子の頼みにも、商人は快く頷く。
「サメとクラゲか、ちょっと待ってな探してみよう」
海月はそんな商人に、お礼と挨拶を込めてイルカの形のべっこう飴を渡した。
「あの、これ、良かったら……」
「お、良いのかい? それじゃありがたく。うちのガキが喜ぶよ。そうだな、値段もちょっとまけてあげよう」
「やったー!」
そんな元気な声が道を挟んだこちら側まで、喧騒を越えて聞こえてくるのだった。
●交流、雑談
ステージに程近い、ティーパーティー会場。
ダンスの後のプログラムが進むステージに拍手を送るアリス・ナイトレイ(ka0202)、その向かいの席に、ジルダが座る。アリスがそれに気付いて声をかけてきた。
「先ほどダンス上演でステージに上がってた方……ですよね?」
「あら、大当たり。こんな場所からも見えてたの?」
良い席ね~、と返すジルダに、アリスも頷く。
「早くからここでステージを見ながら、新作茶葉の紅茶を楽しませて頂いていて」
「お茶、美味しい?」
「ええ、美味しいですよ。紅茶はそれなりに知っていますが、そのどれとも違う味で……」
召し上がってみてください、とアリス。その言葉に呼ばれたように、領主の姉、ルイーザ・ジェオルジがやってきた。
「ようこそお越しくださいました。こちら、『ジェオルジの風』というお茶です」
用意した紅茶の給仕を終えたルイーザに、ありがとう、と扇を下ろして微笑む。ルイーザは、見覚えのあるその顔が魔術師協会会長であることに気付いた様子。一瞬固まったが、すぐ気を取り直して一礼、ごゆっくり、との言葉を残し別のテーブルへ向かったのだった。
ルイーザが向かった先は、エイルとルシオの二人が座るテーブル。試飲の支度として紅茶と茶菓子のシフォンケーキが並べられ、ルシオがにこりと笑む。
「まずは、お茶を頂こうかな」
「ご感想などありましたら、是非」
ルシオは紅茶を一口。口から鼻へと広がる香りを楽しみ、味わう。
「若いけれど、飲みやすい紅茶だと思う……けれど、しっかりとした香りがあって、良いね」
「ありがとうございます」
「いえいえ。お嬢さんも丁寧なおもてなしをありがとう」
ルシオの言葉に、女性と気付いていないルイーザがにっこり嬉しそうに微笑む。エイルがふと思い出し、ルイーザに話しかけた。
「領主さんは、今お忙しいかしら」
見かけなかったんだけど……とエイル。ルイーザは弟である領主セスト・ジェオルジに言付けがあれば承ると申し出た。
「それじゃ、お願いします。先日、ロッソ内でお父様のルーベンさんにお世話になりました。それから、この度の素敵なお祭開催、ありがとうございます。楽しませていただきました。……と」
確かに承りましたわ、と微笑んで、ルイーザは一礼し去っていった。二人でそれを見送り、そういえば……とルシオが話す。
「さっき案内をちらりと見たら、お茶菓子も紅茶を使っているそうでね。これがそうかな……実は、甘いものに目が無くて」
ふふ、と笑ったルシオの性格の一面を垣間見て、エイルも微笑んだ。
「お茶の香りとお菓子をのんびり楽しむ時間って良いわよね」
紅茶のカップを取ったエイルに、ルシオも頷く。
「いつもは一人で楽しむ事が多いけれど、君とならよりお茶の時間を楽しめそうだ」
「そこまで言っていただけるなんて、光栄ね。ふふ、是非楽しんで?」
「ああ。エイルも」
少し離れた場所に見える飲食向けのテーブル席では、
「綿飴とか! ぷふぅー!」
「うっせ。美味いもんは美味いんやから、しゃあないやろ」
と賑やかに喋る鵤と文太が居た。テーブルの上には、二人分の冷やした缶ビールに、ポルトワール産の干物、文太が作ったたこ焼き、そしてその文太の手には大きな綿菓子。綿菓子を揺らしながら、文太が口をへの字に曲げる。
「そう言うおっちゃんは何が好きやねん」
「俺? モチ、酒のつまみ系が大好きだけどぉ?」
酒につまみ! これ最高~、とけらけら笑いながら、文太の綿菓子をちぎって失敬する鵤なのであった。
ツヴァイとクレアがそろそろ帰ろうかと席を立っていた。
荷物を持ったツヴァイが、歩き出そうとしたところで足を止める。首を傾げるクレア。
「……どうしたの?」
不思議そうな顔にツヴァイが、あー、いや、と言いよどむ。
「これなんだが……記念というか、まあ、要らないなら捨ててもらっても」
構わない……、そう言って取り出した物を無造作に差し出した。
それは、小さなオルゴール。
「……これ、………いいの?」
「見ていたようだったから」
気になっていたんだろう、とツヴァイ。その言葉に、クレアはオルゴールをそっと包み込むように抱きしめた。
「ありがとう。とても嬉しいわ。大切にする」
心底嬉しそうに微笑むクレアを見て、ツヴァイも微かに微笑んだ。
別のテーブルでは、買い込んだ土産分の荷物をまとめ終え、祭の各所に置かれている感想ノートのひとつへ何か書き込んでいる悠司の姿がある。
ステージのほうを眺め遣ってから、また何やら勢いよく書き込んでいた。
気になったジルダが後ほど確認してみると、そこには、
『これだけの人、楽しい空気、元気が出ました。もちろん俺も嬉しいし楽しい気持ちでいっぱい。きっとこんな場所なら良い音が出せるはず。今度……来年になるのかな? また来られたら、その時こそは友達とあの舞台に立つ!』
と意気込みが書かれていた。
親しい人と楽しむ者、一人ぶらりと楽しむ者。或いは祭の喧騒に引き寄せられてふらりと立ち寄っただけ、という者も、それぞれに祭を堪能し、様々な思い出を作っていく。ジルダは今日見てきた幾人もの顔を思い浮かべ、まだまだ飽きる様子も無く、楽しげに会場を眺めるのだった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/08 17:48:12 |