• 転臨

【転臨】『海岸砲台』破壊、強襲

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/08/25 12:00
完成日
2017/09/02 17:34

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 大海の中にポツリと浮かんだその島は、黒い靄に覆われているように見えた。
 近づくにつれ、それが島全体を覆い尽くした霧などではなく、海岸線に沿って全周を取り囲むように噴き出す黒い瘴気の帳と知れた。
 生きとし生けるもの全てを蝕む、負のマテリアルの奔流── 島影は、まるで砂漠の蜃気楼の如く、その向こうに揺蕩っていた。

 グラズヘイム王国を襲う歪虚らの源泉たる『歪虚島』──その喪失がかのホロウレイドの戦いの発端ともなったイスルダという名の島を、今、王国軍とハンターたちは指呼の距離に臨んでいる。


 王国海軍所属の軍船『セプティミウス・グラハム』は、作戦開始時刻と同時に沖合から歪虚本拠地・イスルダ島へ向けて全速で帆走を開始した。
 かつて100年の戦乱に終止符を打ち、西方領域を統一した英雄王の名を頂いたその大型ガレオン船は、しかし、軍船と言いながら備え付けの砲は無い。王国海軍は未だ発展途上であり、この船も元々は商船として作られていたものを急遽買い上げて今作戦に投入したもので、甲板上に砲戦ゴーレム『Volcanius』を並べることで艦砲の代わりとしている。
 真新しい海軍制服に身を包んで忙しく甲板上を走り回る水兵たち──中には元漁民や元船乗りといった潮焼けした屈強な者たちもいるが、ピカピカのセーラー服(=本来の意味での水兵服)に身を包んだ若い兵たちの動きはやはりどこかたどたどしい。この船に乗る前から同クラスの船で訓練は積んで来たものの、彼らにとってはこれが初の実戦。緊張するなと言う方が無理がある。
 なぜそのような船を前線に出すのか── この島嶼攻略の一大決戦、発展途上の王国海軍に彼らを遊ばせておくだけの余裕はない、といった事情の他にも理由はある。
 それは、軍上層部がこの船自体を戦力として見ているのではなく…… この船が運ぶ『荷物』こそを最大戦力であるからだった。

 風を帆に受けイスルダ島へと水上を疾走する『セプティミウス・グラハム』号──その上甲板には、同乗するハンターたちが持ち込んだ大型ユニットが所狭しとひしめき合っていた。

「作戦を説明する!」
 その『セプティミウス・グラハム』の甲板上で、集められたハンターたちに向かって、くたびれたパイロットスーツに身を包んだ中年男がそう告げた。
 男はかつて統一宙軍でCAM中隊を率いた元大尉であるという。真偽のほどは分からぬが、毅然とした佇まいで朗々と作戦内容を伝えるその姿からは噂もかくやと感じられる。
「我々はグラズヘイム王国軍のイスルダ島奪還作戦に一ハンターとして従軍している。内容はこうだ。……まず比較的瘴気に耐性を持つ覚醒者らが橋頭保を確保。砂浜を『浄化』した後、非覚醒者を中心とした軍主力が上陸する。上陸後は内陸部に向かって前線を押し上げつつ、港を確保して兵站線を確立した後、攻勢を開始。最終目標は島中心部にある『神殿』の攻略だ」
 『元大尉』の説明に、それぞれの態度と表情で応じるハンターたち。体育座りで生真面目に頷く者もいれば、胡坐を組んで欠伸交じりに鼻を穿る者や、慣れぬ海路に船酔いして顔を蒼くしている者もいる。その姿は様々だが、彼らには共通点が一つあった。それは皆、この船が積載している『荷物』──大型ユニットの使い手であるということだ。
「我々の最初の任務は、本隊の上陸に先立ち、先行して砂浜に存在する歪虚をすっかり綺麗に掃除しておくことだ。我々の受け持ちは、王国騎士団と並ぶ王国軍の一翼──貴族軍主力が上陸予定のブラボービーチ。上流階級の方々が蹴躓いたりなさらぬよう、敵対勢力は小石一つ残さず破砕してさしあげろ」

 『セプティミウス・グラハム』号は進む。
 作戦に先んじて制空権・制海権の確保に乗り出した『フライングシスティーナ』号のお陰か、その航海の途中で敵に遭遇することはなかった。……もっとも、彼らがどれくらいの間、それを維持していられるかは分からない。それまでにビーチの掃除を終えて迎撃態勢を整えておかねば、主力部隊が上陸中に大きな損害を出す事になる。
「時間との戦いでもあるか……」
 愛機の出撃準備を進めながら、ハンターの一人が呟く。
 だが、この海岸に地の利はなかった。遠浅のこの海──荷物満載で喫水の深いこの『セプティミウス・グラハム』号は海岸には近づけない。機体は全て腰まで海に浸かりながら、水を掻き分け、海岸までの長い道のりを歩いて上陸しなければならない。
(せめて、射程の長い敵がこの砂浜に存在しなければ……)
 そんなハンターたちの祈りは、しかし、案の定、叶わなかった。
 ドォン……! という遠雷の如き鈍く重い音が立て続けに二つ三つ…… 直後、なるべく浜に近づこうとしていた『セプティミウス・グラハム』号の周囲の海上に、ほぼ垂直に近い弾道で落下してきた燃え盛る『火山弾』が落着。轟音と共に高々と巨大な水柱を噴き上げた。
 バケツをひっくり返した様にドッと降り掛かる水の塊。けたたましく打ち鳴らされる警報の鐘の音── 退避を命じる船長の声に応じて操舵輪がいっぱいまで回されて、海岸から離れるべく船がゆっくりと転舵を始め……そこへ再びの弾着。噴き上がり、落ち来る水のカーテンを突き抜ける様に『セプティミウス・グラハム』号が慌ただしく上下に揺れる。
「……砂浜に岩山の如きものを確認! 数は3! 大きさは推定400インチ(約10m)以上! 火口の如き頂上部から火の玉を吐ぁーく!」
 滝の如き海水の豪雨の中、必死に鐘楼にしがみついた見張り員が、望遠鏡で砂浜の方を見ながらデッキに報告を入れる。
 同時に、CAM乗りたちはシートに飛び込みながらコクピットハッチを閉め、カメラを望遠で浜へと向けた。揺れる視界。ピントを調整…… そこで初めて、ハンターたちは倒すべき敵を目の当たりにする。
 それは、言うなれば、巨大な岩山を背負ったヤドカリとでも言うべき形状の歪虚だった。背負った、というよりは、『地面から生えて来た岩山にゆっくりと呑まれ、侵食され一体化したヤドカリ』に見えると言った方が正確だろうか。背負う形で聳え立つ岩山はある意味、亀の甲羅の様にも見える。
 その『ヤドカリ』或いは『亀』はゆっくりと力を振り絞る様に前傾姿勢を取ってその岩山頂点部の『砲口』をなるべく前へと向けると、そこから燃え盛る火山弾を放って船を『砲撃』していた。余りに重量が過ぎる為か、殆ど移動は不可能のようだ。
「全機、出撃! 海に飛び込め!」
 元大尉のが機のスピーカー越しに命を発し、自ら率先するようにCAMを海へと飛び込ませた。そのまま銃を掲げ持つようにしながら、砂浜目指して前進を開始する。
「予定より遠いが仕方ない……全機、仕事の時間だ。突撃してあのヤドカリ野郎を排除せよ!」

リプレイ本文

 それは元大尉から出撃指示が出されてすぐのタイミングのことだった。
 炎の尾を曳き次々と飛来する火山弾──その内の一弾が船への直撃コースにあることに気付いた見張り員が悲鳴の様に警報の鐘を乱打する。
「搭乗急げ! 船から離れろ!」
 元大尉の切迫した叫びに従い、慌てて操縦席へと飛び込むハンターたち。Volcaniusu『ホフマン』がメイム(ka2290)の乗った木製ボートを抱えて海へと飛び込み。その横で、「酔い止め飲んだから大丈夫、酔い止め飲んだから大丈夫……」と繰り返し自分に言い聞かせながら、南條 真水(ka2377)がオファニムをえいやと船から飛び降りさせる。
 舷側からわらわらと海へと落ちゆくCAMの群れ──直後、火山弾が上空から船へと降り注ぎ、その内の一弾が上甲板を貫通して内部で爆発した。
「母船は一時、射程外まで退避を! こちらはこちらで何とかします」
 呼びかける天央 観智(ka0896)に応じる様に、炎上し黒煙を吐きながら離脱に入る『セプティミウス・グラハム』号。船員たちが必死でダメコンに駆けずり回る中、見張り台の水兵が手旗信号でハンターたちの武運を祈るが、当のハンターたちもまたそれを見ている余裕はなかった。
「ああクソ、ライフルの調整間に合わねぇじゃねぇか!」
「機体で水遊びをせられる羽目になるとは! 夏なのに色気が足りないぞ、と!」
 ざぶりと機を立ち上がらせながら、手早く機体の最終チェックを澄ませるアニス・テスタロッサ(ka0141)とアルト・ハーニー(ka0113)。色んなことが準備不足のまま出撃を余儀なくされてしまった──観智はそう眉をひそめた。本来なら出撃前に全機に『ウォーターウォーク』を掛けておく予定だったのだが、余りに急な出撃に自機にしか掛けることができなかった。僚機との通信状態を確認してみても、通信手段が混在しているのか、何人か連絡が取れない者がいる。
「『あたしたちが』狙われてるよ! みんな、船から離れて!」
 再び降り来る火山弾── ウーナ(ka1439)は母船を巻き込まぬよう、まず最初に機体を船から離脱させた。背部のメインスラスターを噴射して跳躍する白き『アゼル・デュミナス』。僚機もまたそれに倣って一旦、離れた海上へ跳び渡り…… 母船が無事に遠ざかっていくのを見てウーナがホッと安堵する。
「……さて、退路がなくなりました。あの砂浜の敵を殲滅する以外、僕らの生き残る道はありません」
「なに、オマハビーチに上陸した連合軍兵に比べれば恵まれているさ。少なくとも俺達にはCAMがある」
 サバサバと告げる観智に答えたのは黒金のドミニオン『真改』に搭乗した近衛 惣助(ka0510)。その機体は生存性を最優先にした重装甲型──操縦が不得手な彼に合わせたセッティングだったが、今ではベース機を大幅に上回る堅牢性を持つに至っている。
「そうだよ。この期に及んで後先考えることなんてないよ! さっさと海岸の『砲台』を潰さないと後から来る味方の船団がヤバいしね!」
「イスルダ島奪還作戦──その初っ端から躓かせる訳にはいきませんからね。目障りな連中は全て斃しておかないと」
 コクピットの中で突撃は今か今かと身体を揺さぶるウーナの機体に『ウォーターウォーク』を掛けながら、エクスシア『ウィザード』──その名の通り、外観は黒衣の魔術師然としている──の操縦席でエルバッハ・リオン(ka2434)も賛同する。
「……つーか、俺は接近しねーとどうにもならねぇからさっさと踏み込みてーんだが」
「ゆったり泳いでもいられんだろうし、一気に『瘴気の壁』まで行くとするかね」
 アニスに続いてアルトもまた。
 この状況にも、怯む者はハンターたちには一人もない。

●(ここから1ターン)
 跳躍と同時にスラスターからマテリアルの光を噴射し、滑る様に海上を飛翔していくCAMの群れ── 機関砲「ゴルペアール」を構えたアルトの『人型埴輪2号』は水中からの攻撃を警戒しつつ。惣助の機体は白い大型盾を掲げながら。全てのスラスターを後方に向けて前進の為に噴射して先陣を切る紅きオファニム『レラージュ・ベナンディ』の操縦席でアニスが皆に距離を取るよう指示を出し。応じてエルが僚機と一翼を形成する。
(やっぱり乗り物酔いを完全に抑えるのは無理そう…… というか、船とCAMの連続コンボとか辛いんですけど……)
 隊列の最後尾。なるべく上下動の無いように機を操作しながら真水が蒼い顔をしていると、飛来する火山弾の情報がマーカーと共にモニターに映し出された。機を左右に振って(うぇっぷ……)回避運動を始めつつ、オファニムの手甲部を空へと向けて『プラズマクラッカー』を迎撃の為に発射する真水。高出力プラズマ弾が宙を走り、周囲を巻き込んで爆発し、そのプラズマ炎の網に絡み取られた火山弾が誘爆して、真水機は無事その一撃を『回避』する。
「構うな、突っ込め!」
 耐熱素材が用いられた盾でもって岩石の直撃と爆風から機体を防護する惣助機。巨大質量の直撃にもその堅牢な機体はビクともしない。
 同じようなことを叫びながら同様に突っ込んでいくアルトとアニス。その指示にやれやれと嘆息しながら、或いはぐるぐる目を回しながら、エルと真水も同様に水上に機体を走らせる。

 一方、後方── 突撃に参加しなかった残る3機はそれぞれ射撃位置への移動を終えようとしていた。
「目標までの距離、凡そ100sq。……もしかしたら負のマテリアル(黒い瘴気の壁)による誤差があるのかも。なんだかユラユラ霞んで見えにくいし、各自、頭の隅に入れておいて」
 ゴーレムの肩の上に波止場の如く片足を掛けて立ち、風にツインテールを靡かせながら、軍用双眼鏡を覗いたメイムが無線機で報告する。火山弾の砲撃は全て前衛組に集中していて、今のところこちらが狙われているような様子は無い。
(薙いだ海とは言え、波の上下動がまったくない訳ではないですか)
 海の上で機に膝射姿勢を取らせながら、観智。とは言え、相手は固定目標──この程度のハンデで外す程、自分も仲間たちも安い腕はしていない。
「目標、右端のから片付けます」
 観智の言葉に、ウーナはHMDのモニタに映った照準を右端の岩塊──ヤドカリ火山へと向けた。
(1体でも潰せば攻撃力減らせるからね。攻撃は最大の防御なり!)
 ウーナの操作に従って機の頭部バイザー──高性能照準装置がガシャリと下ろされ、その照準に連動して狙撃砲を保持した腕部が自動で砲角調整。FCSが彼我の距離や諸々の要素を計算し、長距離射撃に臨むパイロットをサポートする……
「それじゃあ『大尉』さん。護衛の方はよろしくね!」
 メイムはすぐ側に立つR6にそう声を掛けると、ゴーレムに炸裂弾装填の指示を出しつつ、自身はロープを伝って後方のボートへと滑り降りた。
「攻撃」
「発射ぁ!」
 同時に引き金が引かれ、2門の105mm砲と1門の12ポンド砲が一斉に轟音と共に火を噴いた。若干の弧を描いて飛翔した砲弾が前衛組の脇を抜け、初弾から狙い過たず右端に位置する『ヤドカリ火山』を捉える。
「命中」
「直撃ぃ!」
 命中と同時に破片をばら撒き、岩盤表層全体を穴だらけに穿つ『炸裂弾』。その表層にめり込んで爆発する2発の105mm砲弾。その衝撃でヤドカリを覆う岩盤が無数の破片に砕けてバラバラと砂浜へ落下する様を見てハンターたちから歓声が起こったが、それは数秒と立たない内に舌打ちへと変わった。
 普通の歪虚なら一発で吹き飛んでいる3弾を喰らいながら、未だ敵は健在だった。変わらず前衛組へ火山弾を放ち続けるヤドカリ野郎──表層剥落の派手さに比べ、効いている様子は全くない。
「……本体は分厚い岩盤の奥、というわけですか」
「遠さより硬さが問題になる感じ? このままでもなんとか削れるだろうけど……なにそれ超面倒臭い」
 立て続けに砲を撃ち放ちながら、レティクル越しに飛び散る岩の破片とまるで動じぬ敵を見据えて、観智とウーナが息を吐く。
「……叩いても突っついても効果が薄いってんなら、『壺焼き』にでもしてみようか」
 その敵の様子をボートの上から双眼鏡で観察していたメイムは、ゴーレムに使用砲弾の変更を命じた。
 放たれたのは『火炎弾』──命中と同時に周囲へ炎を撒き散らし、砂浜に屹立する岩山を燃え盛る火焔の中に沈める。が……
「目標の大きさに比べるとチョロ火にしか見えない……(汗 まあ、鍋料理には時間が掛かるものだし、ねー」

「後衛組が鍋の火力が足りないと仰せだ。俺たちもビーチの掃除に取り掛かるとしよう」
 砲撃を潜り抜けて前進し、敵を射程に捉えた前衛組が随時砲撃戦へと移行する。
 最初に敵を射程内に収めたのは惣助機と真水機だった。2機は海水を蹴立てながら着水すると、機体の大腿部まで浸かりながらそれぞれ射撃体勢に入った。
 機にDMRを構えさせ、後衛と共に右端の敵へと射撃を開始する真水。惣助もまた武装を連装砲へと変更すると『スキルトレース』を通じて己のマテリアルを武装へ集中。中長距離の命中精度と威力を上げた一撃を2門の砲からぶっ放す。
 4機に集中射撃を受け、より激しく砕け、飛び散る右端ヤドカリの岩の鎧。ボート上で耳を塞いだメイムの指示に従いゴーレムが放った火炎弾が、中央、そして左のヤドカリへと続け様に降り注ぎ、右と同様に炎に包む。
 想定以上の速さで侵攻して来るCAMたちに焦りを感じたのだろうか。それまで各個に射撃を続けていたヤドカリたちが初めて砲口を揃えて一斉射撃を行った。
 着弾地点は、前進を継続する3機──その前面。横一列で着弾した火山弾が噴き上げた水柱が巨大なカーテンとなって3機の前に立ちはだかる。
「……ッ!」
 停まる間も避ける間もなくアニス機、アルト機、そしてエル機が立て続けに水の壁へと突っ込んだ。瀑布と呼べる程の水の質量に飲み込まれる3機。水に混じった大量の火山弾の破片が装甲を乱打し、落ち掛かる海水の重量が関節部を軋ませて…… 直後、再びスラスターを噴かした3機がその水の壁をぶち破る。
「水遊びと思っていたら滝行が空から降って来たんだぞと!?(ドキドキ」
「んなんで止まるかァ! CAM舐めんな!(ドキドキ」
 内心、心臓の鼓動を早くしながら、アニスはスラスターを噴かせて機に水上をすっ飛ばせながら魔導銃「アウクトル」を構えて右端のヤドカリ目がけて精密照準も無しに撃ち放った。見た目こそ古めかしい人型兵器用魔導銃だが内部機構は最新型。未調整でこそあるもののその威力は最新鋭機の使用に耐える。
 同時に、『マテリアルカーテン』を纏って瀑布と破片を突破したエル機がその魔術師の様な外装の機体をクルリと回転させて光共々水を振り払う。水滴が玉となって舞い落ちる中、操縦席でスティックを操作して魔砲「天雷」を術式起動するエル。杖の様にそれを振るってその切っ先を敵へと向けて…… 周囲に帯電したマテリアルの雷が轟音響かせ、自機との間に雷光を渡らせ、右ヤドカリを打ち据える。
 その一撃に、それまでハンターたちの猛撃に晒されていた岩塊にヒビが入り、ドカッと大きく崩れ落ちた。それを見て、再びスラスターで前進を始める惣助機。真水は海中に機体を立たせたままライフルによる射撃を継続──その理由は味方の前進を支援する為であったが、「揺れない大地っていいよね」とかポツリと呟いたその言葉も本音には違いない。
 その支援の下、前進を続けていたアニスもまたヤドカリのその様を見て急遽操縦桿を傾けた。後衛、観智とウーナの長距離射撃の間隙を縫う様に斜め前方へ海上を渡りつつ、崩落した岩盤側から燃え盛る右端ヤドカリへ砲口を向け発砲する。
「海岸線に取りついた、このまま橋頭堡を確保する」
 アルト機に続いて障壁の手前へ到達を果たした惣助機が連装砲を収納しつつ、盾にその身を隠しながら巨大な騎兵槍砲を右手に掴んで背部マウントから前へと回す。
「この壁がなければ近づいて殴ってやるんだがね。近づけないから……こいつの出番だ!」
 同様に海岸部に到着したアルトはそう叫ぶと、背部から取り出した兵装を機体脚部の付け根部分のハードポイントへガキィン! と装着した。その『黒く大きく立派で逞しい絶妙な大きさの(兵装解説文より抜粋)』キャノンが目標に向かってそそり立つ様は何というか、程度の差こそあれ全女性陣から向けられる冷え切った視線が痛いレベル。兵装としてちゃんと機能するところがもう嫌がらせとしか思えない(ぇ
「発射ぁ!」
 アルトが引き金を引き絞ると同時に砲口より放たれる黄金色のマテリアル光──そのエネルギーの奔流が右端ヤドカリの崩落部分を直撃し、岩盤上部構造物を完全に崩落させた。直後、崩れたの隙間から這い出て来るヤドカリ本体。その虫っぽい外見に一瞬、ピキッ! とその身と表情を硬直させる真水さん。想定内の出来事と特に驚きもせず観智が射撃の集中を指示し…… 岩盤という鎧をなくしたそのヤドカリ本体は尻部に生えた長大な砲身で零距離射撃を行う間もなく、観智が、ウーナが、エルが、アニスが放った十字砲火によって瞬く間にズタズタに引き裂かれた。


 海岸部に到達した前衛機に対する火山弾の攻撃はなくなった。ヤドカリ砲の最小射程の内側に潜り込んだからだ。
「このままチェックメイト……ってわけじゃあないだろう?」
 瘴気の壁に沿って機体を奔らせながら、中央のヤドカリに向かって攻撃を集中させるアニス。その言葉が聞こえたわけではないだろうが、砂浜の向こう側に広がる森の奥から新たに3体の大型歪虚がその姿を現した。真円形のメタリックなボディに、同じく金属質な脚と鋏を生やした蟹型──移動できないヤドカリたちをフォローする為の機導戦力。歪虚たちの増援だ。
「新手の登場だ。油断するなよ」
 味方に警告を発しながら、敵の新規兵力に対して騎兵槍砲を発砲する惣助。そちらへの対応が必要かと考慮したアニスは、だが、惣助とアルトが蟹たちへと向かうのを見て足を止める。
「招かれざるゲストたちは俺たちで出迎える」
「OK、『伍長』。カニは任せた。ヤドカリはこちらでぶっ潰しとく。……後衛!」
「了解。後衛班はヤドカリへの攻撃を継続します。蟹の脅威度が想定以上だった場合はいつでも言ってください。支援します」
 新たに直面した事態に手早く方針を固める惣助、アニス、観智たち。マテリアルカートリッジを使い果たしたエルは魔砲をクルリと背部へ戻すと、30mm突撃銃を引き出し、中央のヤドカリに向かってフルオートで撃ち捲る。
 真水もまた海の中から中央ヤドカリへの中距離集中攻撃──なのだが、それも個人的な理由による。即ち──
「あんな虫っぽい連中は速やかに滅ぼすべきだよね?」

「蟹の癖に前に歩いているんだぞ、と。その動きも存外早い」
「俺が奴らの動きを止める。足が止まったところを君が仕留めろ」
 瘴気の壁ぎりぎりまで前進し、迫る蟹たちへ砲口を向けるアルトと惣助。瘴気の壁は未だ解除されてはいなかった。そちらへはまだ踏み込まない。
 保持した騎兵槍砲から先頭の蟹に向けて威嚇射撃を行う惣助機。その流星の如き砲弾は迫る蟹の鼻っ面を直撃し、ガクリとつんのめるように動きを止めたその蟹へ向けてアルト機が背負い式に装備した大口径機関砲を腰溜めに構え、集中射撃を浴びせ掛ける。
 放たれた砲弾は動きを止めた敵をまともに捉えた。だが、蟹の上面装甲はその見た目通りに非常に硬く、砲弾の多くは弾き返され、跳弾の火花を散らして虚しく周囲の地面に砂塵を舞い上げる……
「こっちも硬ぇ! 硬い蟹と硬いヤドカリのセットとか面倒なことこの上ないんだがねぇ!」
「戦車は上面が弱点──対戦車のセオリーが効きゃ面倒は無ぇんだが……そうもいかねぇか、やっぱし」
 愚痴にも似た悪態を零すアルト。遠目にその様子を確認していたアニスがリロードしながら舌を打つ。
 一方、ヤドカリたちの火山弾攻撃は後衛3機と中衛の真水機に集中し始めていた。近接防御は蟹に任せて自身は砲撃に専念することにしたらしい。
「来るよ、対砲迫射撃!」
 メイムと観智が同義の警告を発した数秒後、次々と降り来る火山弾。ウーナは機のスラスターを噴かして水上を滑る様に移動しながら、次々と落下して来る火山弾に向けて頭部機銃ポッドを乱射した。放たれた機関砲弾の弾幕による近接防御──直撃コースにあった火山弾がその火線に捉えられて空中で誘爆し、ウーナは見事その一撃を無事『回避』する。
「なんか面白くなってきた……!」
 操縦席の中で笑みを浮かべながら水上を走り回るウーナ。一方、至近弾を受けたメイムはその煽りを受けて一発でボートがひっくり返り、粉々になった木片の間を泳いでゴーレムの上へとよじ登った。銀鼠ならぬ濡れ鼠となった袴を搾り、ツインテールをブルブル振って不機嫌そうに前線を見据える。
「前進せずに砲撃に終始した方がダメージ的には効率的だと思うけど……砲撃を避ける為には前進した方が良さそう、だよね」
 メイムはゴーレムの頭部に取り付けた軽機関銃を手に取ると、僚機たる観智とウーナにその旨を報告した。了解、と返しつつ、マテリアルの風を自機へと纏わせて水上を移動させ始める観智。彼とウーナの2機は今後も砲弾降り注ぐ後方から前線への長距離支援射撃を続ける。
 中衛の真水機もまたスラスターを噴かして火山弾の散布域から逃れると、波をじゃぶじゃぶ掻き分けながら砂浜を目指して歩いていた。
(せっかく地に足がついたのに。ああもドカドカ撃たれては洗濯機に放り込まれたようなものだよ……)
 げんなりとした表情で胃を押さえる真水。弾着の水柱が追いついて来る度にスラスターを噴かして右左──反復横跳びの様な機動に揺られながら、乾いた笑みを浮かべて、思う。──まぁ、でも、体調が最高でないなりに機体の方は調子良く動かせているみたいだ。南條さんも日々成長しているってことだね。うんうん、よかったよ……

 惣助の威嚇射撃に足を止めつつ、入れ替わる様に前にでながら迫る3体の『金属蟹』── ヤドカリが位置するラインを越えて、遂にその先鋒が瘴気の壁のラインに達した。
 キヅカキャノンの砲撃によってそれを迎撃するアルト。そのマテリアルの奔流を左の鋏で受け分けながら突撃して来た金属蟹がアルト機をぶん殴るべく右の鋏を振り被る。
 その前面に割り込んだ惣助機がその一撃を盾で受け止め、押し返し。入れ替わる様に前に出たアルト機が高速射出した杭でもって蟹の足の一本を関節部から叩き折る。
 直後、後方へと跳び退いて『壁』の中へと戻る金属蟹。思わず誘引されそうになりながら多々良を踏んだ2機に対して、3体の蟹から高圧の水の刃が浴びせられる……
「まだか!?」
 異口同音に叫ぶハンターたち。……瘴気の壁はまだ弱まらない。敵の増援もまだ来ていないが、それは他戦域の戦果次第。いつこの砂浜が敵の新手で溢れかえるか──この時点のハンターたちには知る術もない。
 蟹へと照準を変更し、その鋏を受けへと使わせることによって蟹1体の近接戦闘を封じ込めてアルトと惣助を支援する観智。
 瘴気の壁を挟んでの撃ち合いと近接戦が続き、ジリジリと時間が過ぎていく……

 最初に決断をしたのはエルだった。彼女は埒が明かないと見るや突撃銃を背中に回し、エネルギーを使い果たした「天雷」を手に機体を瘴気の壁へと走らせた。
 エネルギーを使い果たしたのに──? その理由は機の魔法攻撃力を上げる為だ。エルは『エクステンドレンジ』を使用して魔法スキルの射程を伸ばすと、自ら瘴気の壁の向こうへと飛び込んだ。瞬間、異音と共に出力が低下する魔導エンジン。機体各部の計器の数値が軒並み落ちる中、エルは構わず中央のヤドカリに向かって機に『ファイアーボール』をトレースさせる。
「大きな身体──でもその分、ダメージも纏めて受けてしまうでしょう?」
 『杖』の先から放たれた爆裂火球が中央のヤドカリを直撃し、その爆発の衝撃が岩山を揺らして……一気にその『鎧』が崩壊し、崩れ落ちた。
 ──そう、図体のデカいヤドカリ火山は範囲攻撃に弱かった。特に『火炎弾』による攻撃は動けない敵をとろ火で鍋を煮込む様に岩盤奥のヤドカリ本体まで茹で上げ、ダメージを与えていた。
 エルの再度の爆裂火球によって崩落の度合いを強める中央の岩。その様を見たアニスもまた意を決し、瘴気を越えて中央ヤドカリへ肉薄攻撃を仕掛けた。スロットルレバーを前へと押し出しつつスラスター推力全てを前進へと振り向ける。四面の『銃座』から狂ったように吐き出されるヤドカリの連射礫弾──その火線の網をモニタに見ながら操縦桿とフットペダルを操作して空中を踊る様に避けつつ、そのGに耐えながら敵の弾幕を突破する。
 だが、瘴気の壁を越えた瞬間、その運動性は目に見えて低下した。エンジン不調、スラスターも咳き込み、高度も下がり、機体の爪先が砂を蹴って空中をよろめき踊る。
 そんなアニス機やエル機を狙う暇を、支援機たちは与えなかった。銃口を振り上げ、中央ヤドカリに向けて突撃銃を撃ち捲る真水機。砲弾が崩れかけていた岩盤を穴だらけに穿って崩し、その空いた壁の隙間に観智機とウーナ機が放った砲弾が飛び込み、本体を直撃。崩れかけた岩室の岩肌にバシャリと飛び散った体液をぶち撒ける。
 そのまま崩れた岩盤に押し潰されていく中央のヤドカリを踏み台にして飛び越え、体勢を整え直して左端のヤドカリ目指して地面を懸けるアニス機。それを迎え撃たんとする敵に向けて、真水は機体各所に装備した「ウッドペッカー」の砲口全てを指向した。敵が銃火を放つより早く、両肩部より照射された『マテリアルビーム』が岩盤ごと本体を貫いて…… 直後、その側方からエルが『マテリアルライフル』を撃ち放ち、いい具合に煮込まれていたヤドカリ本体を貫通攻撃の十字砲火で串刺しにする。
 マテリアルソードを引き抜きながら、そこへ突っ込んで来るアニス機。エル機の風刃が切り裂いた岩盤の隙間から物理的な刃を突き入れ、直後、緑光の刃を発生させてその本体に止めを刺す。

 岩盤を維持したまま最後のヤドカリが沈黙すると、その戦術目的を失った蟹たちは一斉に森への撤退を開始した。
「まずい、ここで敵戦力を残すわけには……!」
 自らも前進して『壁』を越えつつ前進するアルト。惣助最後の威嚇射撃を喰らって足を止めた最後尾の蟹の脚を引っ掴みながら、その拳を抉る様に蟹の横っ腹へと叩き込む。
「今日のために丹精込めて綺麗に磨き上げた俺のモノ(注:ドリルです)を喰らうがいいさねぇ! 敵は抉り込む様に打つべし! 打つべし、だ!」
 何度も拳を突き入れながら、同時に射出した杭でもって装甲を凹ませるアルト機。ある程度の打突の後、武装をワークスドリルへ切り替え、ひん曲がった敵の装甲面を火花と共に削り出す。
 そこへ追いついて来た惣助機が、その薄くなった装甲面に自機の速度と質量ごと騎兵槍を突き込んだ。その槍身の半ばまで装甲を突き破りつつ、抉ってその穴を更に広げて押し入れて。最後は騎兵槍砲をその内部に撃ち込み、内部で爆発させ、その全身の隙間から『蟹ミソ』を溢れさせる。
 更に逃げる残りの蟹へ、メイム機から放たれた炸裂弾が降り注ぎ、その大きな身体全体を無数の破片が満遍なく穴を穿った。それにもめげずにただひたすらに森を目指して逃げてた蟹が、直後、遠距離から放たれた砲弾によって、糸の切れたマリオネットの様にガシャリと砂上に擱座した。
 それは遥か後方にいるウーナ機が放った『跳弾』だった。ようやく生じた跳弾可能地形──アルトと惣助が倒した蟹の外殻に弾を跳ねさせ、装甲の薄い腹部を──『急所』をブチ抜いたのだ。


 最後に残った蟹1体は、全機体による集中攻撃を受けて森に入る直前でバラバラに砕け、力尽きた。
 以降、歪虚たちは沈黙し、上陸予定地点に新手が現れることもなかった。どうやら制空・制海担当のハンターたちはよっぽど上手くやったらしい。

 全ての敵の排除を確認した後、観智は瘴気の減衰を待って速やかに砂浜への移動を完了。以後、貴族軍主力が到着するまで僚機と共に警戒に当たり、揚陸地点を確保し続けた。
 やがて、『トマス・グラハム』号を始めとする4隻の帆船が沖合に錨を下ろし、運荷艇による貴族軍主力の揚陸が始まった。
「平穏無事。全てこの世はこともなし、か」
 先程までの激戦が嘘の様に平穏な砂浜で、寄せては返す波の音を聞きながら観智は小さく息を吐いた。

依頼結果

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参加者一覧

  • ヌリエのセンセ―
    アルト・ハーニー(ka0113
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ヒトガタハニワニゴウ
    人型埴輪2号(ka0113unit002
    ユニット|CAM
  • 赤黒の雷鳴
    アニス・テスタロッサ(ka0141
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    オファニム
    レラージュ・アキュレイト(ka0141unit003
    ユニット|CAM
  • 双璧の盾
    近衛 惣助(ka0510
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    シンカイ
    真改(ka0510unit002
    ユニット|CAM
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • ユニットアイコン
    マドウガタデュミナス
    魔導型デュミナス射撃戦仕様(ka0896unit003
    ユニット|CAM
  • 青竜紅刃流師範
    ウーナ(ka1439
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    アゼル・デュミナス
    アゼル・デュミナス(魔導型)(ka1439unit001
    ユニット|CAM
  • タホ郷に新たな血を
    メイム(ka2290
    エルフ|15才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ホフマン
    ホフマン(ka2290unit003
    ユニット|ゴーレム
  • ヒースの黒猫
    南條 真水(ka2377
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    オファニム
    オファニム(ka2377unit001
    ユニット|CAM
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ウィザード
    ウィザード(ka2434unit003
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
エルバッハ・リオン(ka2434
エルフ|12才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/08/25 14:20:10
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/08/21 19:13:00