ゲスト
(ka0000)
或る少女とピックニック
マスター:佐倉眸
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/08/31 19:00
- 完成日
- 2017/09/09 02:41
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
空へ伸ばす手は小さく、憧れる背は遠い。
夏の陽差しを眩しげに、鮮やかに青く茂る街路樹が葉を揺らす音を聞きながら、メグこと、マーガレット・ミケーリはオフィスへの道を歩く。
「調査、ですか?」
簡単な依頼がありますと言われて示された依頼票、雑魔発生源の現状調査依頼。
小難しい文言の並びに首を傾げると受付嬢はメグと、その背後に揺れる精霊を微笑ましく眺めこう言った。
「はい。ピクニックです」
初夏の頃、ジェオルジとヴァリオスを結ぶ街道に出没した馬形の雑魔がハンターの手に依り倒された。
その解決の後、雑魔の出没地点と思われるマテリアルの汚染された土地が見付かった。
更にその後、メグが参加した依頼で倒された亀形の雑魔の行動を地図に書き取った結果、雑魔の進行方向にその土地があると分かった。
「2つの事件の関連性は不明です。恐らく、全く無関係ながらも亀形の雑魔が強い負のマテリアルに惹かれがた為の行動だという推察が強いですね。今回の依頼では、馬形の雑魔の発生源……当時既に回復を見せておりましたが、その周辺を含めて、回復の現状を把握して頂くことと、ついでに辺りの植物を採集して下さいと言う感じです。パラソルと敷物と、お勧めのクッキーを付けますが、如何です?」
●
初夏の事件の報告を読む。
どうやらメグと同じ新人のハンターが負傷しているらしい。
既に回復したと新しく付箋が貼られているが、先輩のハンターの救援に依るところが大きいのだろう。
このときに出没した雑魔は、メグでは到底太刀打ち出来ない強力な物が10体。残っていたら怖いと溜息を零すが、報告を読む限りその可能性は無さそうだ。
もう一件、自身が参加した報告を見る。
このときに出没した雑魔は確かに妙な動きをしていた。
それを観察する余裕は自身には無かったが、共に戦い、それを見極めてオフィスへ報告した先輩のハンターへの憧憬の思いが蘇る。
出没地点は海岸だった。それを真っ直ぐに進んで、近くの村を無視して森の方へ。
その道中でまた波に掠われて、深い海へ。そして、同じ動きを繰り返す。
あの動きの目的は、マテリアルの汚染された土地への移動だったのか。
あの美しい海岸を臨む村はどうしているだろう。
温かく迎えてくれたあの人達が、元気に暮らしていたらいい。
「ひゃあ!」
報告を読み終えて、改めて依頼を手に取ったメグの頭に、ぽん、と軽い衝撃が。
近くに居るらしい精霊のそれだろう。
この依頼を気に入ったのだろうか。
「ピクニックに行きたいのかな……」
依頼を手に何度目かの溜息を吐く。
少し怖い。
けれど、ここが無事なら、きっとあの海岸も、あの村も無事なのだろう。
そう思うと、少しずつ力が湧いてくるような気がした。
●
「ではこちらと、こちらをどうぞ。まだまだ暑い夏の盛りです! ゆっくりして頂いても構いませんが、午前中に終えることをお勧めします。以前の雑魔はいないと思いますが、そうは言っても森の中です。動物には気を付けて下さいね。では、行ってらっしゃいませ!」
パラソルと敷物、籠に満載のクッキーとお茶。
先輩のハンター達と合流し、地図に従いジェオルジの街道を逸れて森の中へ。
当時は残っていたらしい血の跡も消え、目印の場所には小さな旗が立てられている。
「ここですよね……」
足を止めて周りを見回す。妙な気配は感じないが、どことなく違和感を覚えて首を傾げた。
空へ伸ばす手は小さく、憧れる背は遠い。
夏の陽差しを眩しげに、鮮やかに青く茂る街路樹が葉を揺らす音を聞きながら、メグこと、マーガレット・ミケーリはオフィスへの道を歩く。
「調査、ですか?」
簡単な依頼がありますと言われて示された依頼票、雑魔発生源の現状調査依頼。
小難しい文言の並びに首を傾げると受付嬢はメグと、その背後に揺れる精霊を微笑ましく眺めこう言った。
「はい。ピクニックです」
初夏の頃、ジェオルジとヴァリオスを結ぶ街道に出没した馬形の雑魔がハンターの手に依り倒された。
その解決の後、雑魔の出没地点と思われるマテリアルの汚染された土地が見付かった。
更にその後、メグが参加した依頼で倒された亀形の雑魔の行動を地図に書き取った結果、雑魔の進行方向にその土地があると分かった。
「2つの事件の関連性は不明です。恐らく、全く無関係ながらも亀形の雑魔が強い負のマテリアルに惹かれがた為の行動だという推察が強いですね。今回の依頼では、馬形の雑魔の発生源……当時既に回復を見せておりましたが、その周辺を含めて、回復の現状を把握して頂くことと、ついでに辺りの植物を採集して下さいと言う感じです。パラソルと敷物と、お勧めのクッキーを付けますが、如何です?」
●
初夏の事件の報告を読む。
どうやらメグと同じ新人のハンターが負傷しているらしい。
既に回復したと新しく付箋が貼られているが、先輩のハンターの救援に依るところが大きいのだろう。
このときに出没した雑魔は、メグでは到底太刀打ち出来ない強力な物が10体。残っていたら怖いと溜息を零すが、報告を読む限りその可能性は無さそうだ。
もう一件、自身が参加した報告を見る。
このときに出没した雑魔は確かに妙な動きをしていた。
それを観察する余裕は自身には無かったが、共に戦い、それを見極めてオフィスへ報告した先輩のハンターへの憧憬の思いが蘇る。
出没地点は海岸だった。それを真っ直ぐに進んで、近くの村を無視して森の方へ。
その道中でまた波に掠われて、深い海へ。そして、同じ動きを繰り返す。
あの動きの目的は、マテリアルの汚染された土地への移動だったのか。
あの美しい海岸を臨む村はどうしているだろう。
温かく迎えてくれたあの人達が、元気に暮らしていたらいい。
「ひゃあ!」
報告を読み終えて、改めて依頼を手に取ったメグの頭に、ぽん、と軽い衝撃が。
近くに居るらしい精霊のそれだろう。
この依頼を気に入ったのだろうか。
「ピクニックに行きたいのかな……」
依頼を手に何度目かの溜息を吐く。
少し怖い。
けれど、ここが無事なら、きっとあの海岸も、あの村も無事なのだろう。
そう思うと、少しずつ力が湧いてくるような気がした。
●
「ではこちらと、こちらをどうぞ。まだまだ暑い夏の盛りです! ゆっくりして頂いても構いませんが、午前中に終えることをお勧めします。以前の雑魔はいないと思いますが、そうは言っても森の中です。動物には気を付けて下さいね。では、行ってらっしゃいませ!」
パラソルと敷物、籠に満載のクッキーとお茶。
先輩のハンター達と合流し、地図に従いジェオルジの街道を逸れて森の中へ。
当時は残っていたらしい血の跡も消え、目印の場所には小さな旗が立てられている。
「ここですよね……」
足を止めて周りを見回す。妙な気配は感じないが、どことなく違和感を覚えて首を傾げた。
リプレイ本文
●
木漏れ日がきらきらと眩しく道を照らす。
「この時期の緑って、とってもキラキラしてて綺麗なのよねー」
くるりと踊るように振り返りカリアナ・ノート(ka3733)はメグに声を掛けた。
「今日もよろしくね、メグおねーさん」
フリルを飾るリボンをで束ねたポニーテールを揺らし、溌剌とした声で挨拶を。
慌てたように辞儀を返すメグと、2人を微笑ましそうに見守る鞍馬 真(ka5819)も武器こそ携えているが、ピクニックに合わせた軽装で街道を歩いて行く。
以前この先へ向かった時は、これ程穏やかな気分では無かった。
対峙した雑魔を、今日の目的地でもある、その発生源をそこへ続いた血痕を思い出して息を吐く。
ピクニックだと心の逸るクレーヴェル・アティライナ(ka6536)は動物用にと砂糖を控えたクッキーの包みを抱え直す。
「少しでも動物さんが元気になってくれたらいいわね」
耳を澄ませば虫の声も鳥の声も聞こえてくる。
この辺りの動物たちは元気そうだ。
持つよ、と声を掛けて雪都(ka6604)はメグからパラソルを受け取り肩に担ぐ。
恐縮気味にする背後で緑の精霊はふわふわと揺れている。
「その精霊は静かでいいな。俺のところの二匹は自己主張が激しい上にうるさくてさ……」
得意気に震えた緑の光と対照的に、メグはそんなこと無いですよと首を揺らす。
その後ろ頭にぽんとぶつかる光りに揺らされ、咄嗟にバスケットを庇いながら、ほら、と雪都を見上げた。
水筒を提げ、梅の包みを携えて、杢(ka6890)は周りの木々の様子を眺めながら歩く。
伸びやかな緑と陽差しを浴びて頷きながらこの辺りは元気そうだと頷いた。
「森が元気ねーのはいけね。おら達で元気さ取り戻すだんず」
採集用の油紙を詰めた袋を肩に背負い直し、小柄な身体を弾ませながら仲間に続く。
観察と娯楽の両立。
そう呟いたフィロ(ka6966)の鮮やかなオレンジの双眸に木漏れ日が映り込む。
植物や動物を掲載した辞典を携えて歩きながら、傾いだ首をゆっくりと頷かせ、了解したと道の先を見詰める。
「あの辺りですね」
見えてきた目的地に、美味しいお菓子とピクニックが楽しみだと落ち付かない杢が気を引き締める。
嘗ての状況を知る鞍馬が僅かに警戒を見せ、クレーヴェルも動物の様子を気に掛けるように辺りを見回した。
●
一旦荷物を纏めて降ろし、ハンター達はそれぞれの調査に散開する。
「ピクニックとはいえお仕事だんず」
装飾を施す袋を手に、先ずは仕事だと杢が木々の合間へ進んでいく。
「気を引き締めるだんず……ああーっ! い、今たげでったら虫いなかっただんず? あれカブトでねか!」
歪な実りを見上げては、これは仕事だと気合を入れて。
その目の前を虫が横切り、伸ばした手を擦り抜けて飛んでいく。咄嗟のことにその大きさも形も正確には分からず、頭に角の覗えた格好に惹き付けられて、その後を追って走っていった。
クレーヴェルが見上げた樹上、何かの動く気配を注視すれば小さな毛玉が丸まっている。
リスだろうかと首を傾げて、暫し様子を覗うことにした。
それにしては様子や大きさが異なる様だと、傍らでフィロが辞典を開き、その際をノートに書き留めていく。
屈んで草を1つ抜けばその根も細く弱いことが分かった。
サンプルにと、それを採集し次へ移る。
植物の育ち方は重要よね、と足元を見て、木を見上げて。
カリアナはコンパスを手に森の奥へ分け入っていく。
「海用の物だけど、大丈夫かしら……」
青い宝石に囲まれた針は違わず北を指しているようだ。周りの様子を見ながら暫く進んでいくと、何かが動く気配がした。
動物かしら。覗き込むと、既にどこかへ去ってしまったらしくそれらしい痕跡は無くなっていた。
何かいたのかとカメラを手に雪都が覗く。
逃げてしまったらしい様子も一先ず写し、その先の草の茂る辺りまで進んでいく。
戻りながら汚染されていた場所との差違を、持ち帰れない樹木や風景を中心に数枚ずつ撮影して回る。
昇り掛ける陽差しに、暑くなる前に額を軽く拭った。
枯れ草に怖々と触れながら、その奥に見付けた新しい葉に嬉しそうに微笑んだ様子にほっとして、鞍馬はメグに声を掛けた。
近くにしゃがんでその草の根元を分けるように状態を見る。
枯れ草の合間に新しく生えた草、低木が伸ばした芽。
戻ってきた雪都がカメラを向け、小さな手の映り込んだ青葉を写す。
「……この辺りだったんですね」
植物の状態を眺めて零れた雪都の言葉に当時を知る鞍馬が頷いた。
もう少し広く枯れていた。
「あの辺りまでだったかな」
示すのは杢が虫を追っていった木の近く、その緑は既に伸びやかに回復を見せている。
反対側はカリアナとクレーヴェルが動物の気配を感じ、膝まで茂った茂みを分けて踏み入っている。
「馬の形の雑魔だったよ。原因があるなら突き止めたいな」
森の状態は、時間が解決しそうだと、辺りの様子を眺めて鞍馬が呟く。
雪都は現在の回復の境を納めるようにシャッターを切った。
振り返ったカリアナが手を振ってメグを呼ぶ。
何かを指して嬉しそうに笑っている。
メグが走るとそこには小さな花が咲いていた。
「メグおねーさん、草花に詳しい?」
分からないと答えながら、カリアナとメグは暫く並んでその花を眺めた。
緑に映えて眩しい白い花弁を広げる花だった。
●
粗方周囲を見回った頃、そろそろ休憩にしようかと鞍馬がシートを広げ始める。
支給の1枚では狭いだろうと、花柄の物をもう1枚。角を寄せるように草地の上に。
戻ってきたハンター達がそれぞれに座り、街道を振り返ったメグの手を引いてクレーヴェルが傍へ招く。
「森の動物さんのためにも、もう少しここにいましょう?」
そっと見上げれば小さなリスが木を渡って行く姿が見えた。
低木や茂みの間からも円らな目が覗いている。
クレーヴェルが動物用の包みを開け、クッキーを差し出しながら待っていると、木を伝い下りてきた小さなリスは芝の上を走ってそれを掴む。
視線をふと上へ向ける。
このリスたちが食べていただろう実は黒ずんで、人の目から見ても美味しそうでは無く、手が付けられた様子が無い。採集していた杢もリスを見ながら首を横に揺らした。
彼等の餌も乏しいのだろう。
リスはクレーヴェルから受け取ったクッキーを掴んで走り去るとハンター達の目から隠れるようにそれを埋めた。
食べてくれたら良いのにと見詰めながら、次を差し出す。
寄ってきた、もう1匹のリスはそれを受け取ると頬に詰め、顔だけ膨らんだ姿でクレーヴェルの肩へと、腕を伝い登った。
青の瞳が瞠って、喜びに笑む。急いて触れそうな手を抑えるように、触れさせてくれるかしらとリスの様子を覗った。
棲み家の木が荒れている為だろう、毛並みを痛めたリスはクレーヴェルの肩で丸くなった。
ふさふさとした尾がくるりと丸く、クレーヴェルの頬を擽った。
カリアナがのんびりとクッキーを食んでいると、茂みから覗く円らな瞳と目が有った。
瞬くとその目は引っ込んで代わりにひくひくと震えた鼻が、長い耳が覗いた。
「わぁっ……ウサギね、さっき驚かせちゃった子かしら?」
覗き込んだ茂みにいたのは、このウサギだったのだろうか。
そう思って眺めていると、暫く様子を覗っていたウサギはのそりと顔を出し、カリアナの傍へと跳ねてくる。
近付いて来たウサギは丸くなるとカリアナの膝に顎を乗せ、そっと手を伸ばすと不貞不貞しく撫でろと言わんばかりに耳を揺らした。
頭から背へ手を滑らせる。
傷は無さそうだが潜んでいた茂みの枯れ草が絡み、体つきもややほっそりと骨が浮いている。
渦巻きと格子の柄が用意されたクッキーを摘まみ鞍馬も寄ってきた動物たちの様子を覗う。
マテリアルの状態を逐一探る様な真似は出来なくとも、茂みを揺らし木々を渡って吹き抜ける風は心地良い。
軽い一仕事を終えた達成感に背を伸ばし、あの日からの回復の兆しを眺めていると、リスが鞍馬の近くにも寄ってきた。
クッキーの滓を払い手を伸ばすと、その手を嗅いだリスはするりと避けて膝に回る。
動かずにいると、脚から腕に伝って肩へ、長い髪を避けてやると、背中から下りて木へ戻っていく。
不意にクレーヴェルの肩で栗鼠の尾が立って、カリアナの膝でウサギの耳が探る様に揺れた。
2匹とも跳ねる様に何処かへ去り、その反対側の茂みから、小麦色の尾が覗いた。
「キツネでしょうか?」
「逃げちゃったわね」
小さな動物たちは彼等の敵に敏感らしいと、2人が顔を見合わせて肩を竦めた。
キツネが去れば、また寄ってきてくれるだろう。
杢はシートの周りを跳ねる様に、空いた場所へ止まると実りの乏しい木々へ向かって手を振った。
「森さけっぱれーけっぱれー」
訛りの強い言葉で声援を送り、拳を固める。小柄な身体を弾ませて、直伝だという五穀豊穣の舞いのステップを踏む。
伸ばした腕を切れよく振って、音楽の代わりに森への声援を送りながら。
「れっつふぃーばーだんずー」
満面の笑顔で楽しそうに。
鞍馬がカメラを向けると、飛び跳ねてポーズを決め、一緒にと踊ろうと誘いながらくるりくるりと手足を動かす。
賑やかさを警戒したらしい動物の気配が次第に和らぎ、戻ってきたらしいウサギの耳が、杢の動きに合わせる様に揺れる。
最後に高く飛び跳ねて、着地。その足が滑ると手を突く間も無く、顔から落ちる。
受け留めるには少し固い草と土を額に着けて、それでも笑顔で手を振った。
ぱたぱたと土を払って、シートへ戻る。
「撮れただんず?」
鞍馬に尋ねると、数枚の写真を見せた。腕を上げて笑ったもの、動きに追いつけずにぶれたり見切れたもの。
ポーズを決めたどこか凜々さを感じるものまで様々に。
「一緒に踊っても良かっただんずよ」
「それは、少しハードルが高そうだな」
杢の踊りの後、再び近付いて来た動物をそっとフレームに納めながら雪都もクッキーへ手を伸ばす。
包みのロゴには見覚えがあった。
人に、友人と師に贈った店の物。
結局、贈るだけで自身は味見をしていなかったが、甘いバニラが香ってさくりと口の中で解れる食感は、きっと気に入って貰えるものだっただろう。
再び肩に乗ってきたリスのために静かに座り、釣られて来たもう1匹を優しい手付きで撫でて微笑む。
メグが茂みや樹上を伺うと、クレーヴェルはふわりと微笑む。
「この子たちにしか分からないことがあるのでしょう。何かを知らせてくれているなら、私は耳を傾けたいですね」
寄ってくるのなら、こうして穏やかに過ごしているのが良いのだろう。
緊張せずにと、手まで乗ってきたリスをメグの方へ寄せる。
メグが慎重に頭を撫でると、ぱたりと尻尾が揺れ、クレーヴェルが包むように背を撫でると次第に眠ったように丸くなった。
可愛いですね、とメグが呟く。しぃ、とその声を遮って、クレーヴェルも頷いた。
食べ物が目当てらしく、寄ってきては頬を膨らませる動物の様子を書き留め、膝に肩にと好きに昇らせながらフィロは空を見上げた。
日はそろそろ南中の高さに有った。
●
そろそろ頃合いだろうか、正午を前に動物たちもそれぞれの棲み家へ戻っていく。
暑くなる前にと鞍馬が促す様にシートを畳み、ハンター達も片付けを始める。空になったクッキーや水筒をバスケットに、写真を荷物に収め、行きと変わらず手伝うという雪都にメグが何度も礼を告げている。
クレーヴェルやカリアナが忘れ物を確かめ、杢が森へ向かって、元気でなあ、と手を振った。
オフィスに戻ると通されたテーブルへ、杢が大きく膨らんだ乾坤袋から草や葉、木の実を取り出し並べていく。
フィロのメモと照らしながらそれを確認し、受付嬢が礼を告げる。
カリアナとクレーヴェルが楽しげに森や動物の様子を話す傍ら、ちょうどそれらが収まっている写真を雪都が並べる。
森の景色を写した物から、ハンター達の調査の様子、ピクニックの談笑中の物。
クレーヴェルとメグがリスと戯れている物、カリアナがウサギに気に入られて膝を占領されている物。
それから、楽しそうに踊る杢の写真も順に並べる。
楽しんで頂けて、と言いかけた受付嬢が咳払いを1つ。
「充実した調査と、多くの報告を感謝します」
やや格式張ったように言い直し、ハンター達に微笑んだ。
写真を見ながら鞍馬も森の様子を思い返す。
結局の所、汚染の原因は分からなかったが、森にはそれを回復させる力が有るらしい。
植物も新しく芽吹いて、動物も生き生きと、季節が再び巡れば甘い実りをもたらすだろう。
油紙に乗せられた小さなスモモに、そんな希望をそっと抱いた。
木漏れ日がきらきらと眩しく道を照らす。
「この時期の緑って、とってもキラキラしてて綺麗なのよねー」
くるりと踊るように振り返りカリアナ・ノート(ka3733)はメグに声を掛けた。
「今日もよろしくね、メグおねーさん」
フリルを飾るリボンをで束ねたポニーテールを揺らし、溌剌とした声で挨拶を。
慌てたように辞儀を返すメグと、2人を微笑ましそうに見守る鞍馬 真(ka5819)も武器こそ携えているが、ピクニックに合わせた軽装で街道を歩いて行く。
以前この先へ向かった時は、これ程穏やかな気分では無かった。
対峙した雑魔を、今日の目的地でもある、その発生源をそこへ続いた血痕を思い出して息を吐く。
ピクニックだと心の逸るクレーヴェル・アティライナ(ka6536)は動物用にと砂糖を控えたクッキーの包みを抱え直す。
「少しでも動物さんが元気になってくれたらいいわね」
耳を澄ませば虫の声も鳥の声も聞こえてくる。
この辺りの動物たちは元気そうだ。
持つよ、と声を掛けて雪都(ka6604)はメグからパラソルを受け取り肩に担ぐ。
恐縮気味にする背後で緑の精霊はふわふわと揺れている。
「その精霊は静かでいいな。俺のところの二匹は自己主張が激しい上にうるさくてさ……」
得意気に震えた緑の光と対照的に、メグはそんなこと無いですよと首を揺らす。
その後ろ頭にぽんとぶつかる光りに揺らされ、咄嗟にバスケットを庇いながら、ほら、と雪都を見上げた。
水筒を提げ、梅の包みを携えて、杢(ka6890)は周りの木々の様子を眺めながら歩く。
伸びやかな緑と陽差しを浴びて頷きながらこの辺りは元気そうだと頷いた。
「森が元気ねーのはいけね。おら達で元気さ取り戻すだんず」
採集用の油紙を詰めた袋を肩に背負い直し、小柄な身体を弾ませながら仲間に続く。
観察と娯楽の両立。
そう呟いたフィロ(ka6966)の鮮やかなオレンジの双眸に木漏れ日が映り込む。
植物や動物を掲載した辞典を携えて歩きながら、傾いだ首をゆっくりと頷かせ、了解したと道の先を見詰める。
「あの辺りですね」
見えてきた目的地に、美味しいお菓子とピクニックが楽しみだと落ち付かない杢が気を引き締める。
嘗ての状況を知る鞍馬が僅かに警戒を見せ、クレーヴェルも動物の様子を気に掛けるように辺りを見回した。
●
一旦荷物を纏めて降ろし、ハンター達はそれぞれの調査に散開する。
「ピクニックとはいえお仕事だんず」
装飾を施す袋を手に、先ずは仕事だと杢が木々の合間へ進んでいく。
「気を引き締めるだんず……ああーっ! い、今たげでったら虫いなかっただんず? あれカブトでねか!」
歪な実りを見上げては、これは仕事だと気合を入れて。
その目の前を虫が横切り、伸ばした手を擦り抜けて飛んでいく。咄嗟のことにその大きさも形も正確には分からず、頭に角の覗えた格好に惹き付けられて、その後を追って走っていった。
クレーヴェルが見上げた樹上、何かの動く気配を注視すれば小さな毛玉が丸まっている。
リスだろうかと首を傾げて、暫し様子を覗うことにした。
それにしては様子や大きさが異なる様だと、傍らでフィロが辞典を開き、その際をノートに書き留めていく。
屈んで草を1つ抜けばその根も細く弱いことが分かった。
サンプルにと、それを採集し次へ移る。
植物の育ち方は重要よね、と足元を見て、木を見上げて。
カリアナはコンパスを手に森の奥へ分け入っていく。
「海用の物だけど、大丈夫かしら……」
青い宝石に囲まれた針は違わず北を指しているようだ。周りの様子を見ながら暫く進んでいくと、何かが動く気配がした。
動物かしら。覗き込むと、既にどこかへ去ってしまったらしくそれらしい痕跡は無くなっていた。
何かいたのかとカメラを手に雪都が覗く。
逃げてしまったらしい様子も一先ず写し、その先の草の茂る辺りまで進んでいく。
戻りながら汚染されていた場所との差違を、持ち帰れない樹木や風景を中心に数枚ずつ撮影して回る。
昇り掛ける陽差しに、暑くなる前に額を軽く拭った。
枯れ草に怖々と触れながら、その奥に見付けた新しい葉に嬉しそうに微笑んだ様子にほっとして、鞍馬はメグに声を掛けた。
近くにしゃがんでその草の根元を分けるように状態を見る。
枯れ草の合間に新しく生えた草、低木が伸ばした芽。
戻ってきた雪都がカメラを向け、小さな手の映り込んだ青葉を写す。
「……この辺りだったんですね」
植物の状態を眺めて零れた雪都の言葉に当時を知る鞍馬が頷いた。
もう少し広く枯れていた。
「あの辺りまでだったかな」
示すのは杢が虫を追っていった木の近く、その緑は既に伸びやかに回復を見せている。
反対側はカリアナとクレーヴェルが動物の気配を感じ、膝まで茂った茂みを分けて踏み入っている。
「馬の形の雑魔だったよ。原因があるなら突き止めたいな」
森の状態は、時間が解決しそうだと、辺りの様子を眺めて鞍馬が呟く。
雪都は現在の回復の境を納めるようにシャッターを切った。
振り返ったカリアナが手を振ってメグを呼ぶ。
何かを指して嬉しそうに笑っている。
メグが走るとそこには小さな花が咲いていた。
「メグおねーさん、草花に詳しい?」
分からないと答えながら、カリアナとメグは暫く並んでその花を眺めた。
緑に映えて眩しい白い花弁を広げる花だった。
●
粗方周囲を見回った頃、そろそろ休憩にしようかと鞍馬がシートを広げ始める。
支給の1枚では狭いだろうと、花柄の物をもう1枚。角を寄せるように草地の上に。
戻ってきたハンター達がそれぞれに座り、街道を振り返ったメグの手を引いてクレーヴェルが傍へ招く。
「森の動物さんのためにも、もう少しここにいましょう?」
そっと見上げれば小さなリスが木を渡って行く姿が見えた。
低木や茂みの間からも円らな目が覗いている。
クレーヴェルが動物用の包みを開け、クッキーを差し出しながら待っていると、木を伝い下りてきた小さなリスは芝の上を走ってそれを掴む。
視線をふと上へ向ける。
このリスたちが食べていただろう実は黒ずんで、人の目から見ても美味しそうでは無く、手が付けられた様子が無い。採集していた杢もリスを見ながら首を横に揺らした。
彼等の餌も乏しいのだろう。
リスはクレーヴェルから受け取ったクッキーを掴んで走り去るとハンター達の目から隠れるようにそれを埋めた。
食べてくれたら良いのにと見詰めながら、次を差し出す。
寄ってきた、もう1匹のリスはそれを受け取ると頬に詰め、顔だけ膨らんだ姿でクレーヴェルの肩へと、腕を伝い登った。
青の瞳が瞠って、喜びに笑む。急いて触れそうな手を抑えるように、触れさせてくれるかしらとリスの様子を覗った。
棲み家の木が荒れている為だろう、毛並みを痛めたリスはクレーヴェルの肩で丸くなった。
ふさふさとした尾がくるりと丸く、クレーヴェルの頬を擽った。
カリアナがのんびりとクッキーを食んでいると、茂みから覗く円らな瞳と目が有った。
瞬くとその目は引っ込んで代わりにひくひくと震えた鼻が、長い耳が覗いた。
「わぁっ……ウサギね、さっき驚かせちゃった子かしら?」
覗き込んだ茂みにいたのは、このウサギだったのだろうか。
そう思って眺めていると、暫く様子を覗っていたウサギはのそりと顔を出し、カリアナの傍へと跳ねてくる。
近付いて来たウサギは丸くなるとカリアナの膝に顎を乗せ、そっと手を伸ばすと不貞不貞しく撫でろと言わんばかりに耳を揺らした。
頭から背へ手を滑らせる。
傷は無さそうだが潜んでいた茂みの枯れ草が絡み、体つきもややほっそりと骨が浮いている。
渦巻きと格子の柄が用意されたクッキーを摘まみ鞍馬も寄ってきた動物たちの様子を覗う。
マテリアルの状態を逐一探る様な真似は出来なくとも、茂みを揺らし木々を渡って吹き抜ける風は心地良い。
軽い一仕事を終えた達成感に背を伸ばし、あの日からの回復の兆しを眺めていると、リスが鞍馬の近くにも寄ってきた。
クッキーの滓を払い手を伸ばすと、その手を嗅いだリスはするりと避けて膝に回る。
動かずにいると、脚から腕に伝って肩へ、長い髪を避けてやると、背中から下りて木へ戻っていく。
不意にクレーヴェルの肩で栗鼠の尾が立って、カリアナの膝でウサギの耳が探る様に揺れた。
2匹とも跳ねる様に何処かへ去り、その反対側の茂みから、小麦色の尾が覗いた。
「キツネでしょうか?」
「逃げちゃったわね」
小さな動物たちは彼等の敵に敏感らしいと、2人が顔を見合わせて肩を竦めた。
キツネが去れば、また寄ってきてくれるだろう。
杢はシートの周りを跳ねる様に、空いた場所へ止まると実りの乏しい木々へ向かって手を振った。
「森さけっぱれーけっぱれー」
訛りの強い言葉で声援を送り、拳を固める。小柄な身体を弾ませて、直伝だという五穀豊穣の舞いのステップを踏む。
伸ばした腕を切れよく振って、音楽の代わりに森への声援を送りながら。
「れっつふぃーばーだんずー」
満面の笑顔で楽しそうに。
鞍馬がカメラを向けると、飛び跳ねてポーズを決め、一緒にと踊ろうと誘いながらくるりくるりと手足を動かす。
賑やかさを警戒したらしい動物の気配が次第に和らぎ、戻ってきたらしいウサギの耳が、杢の動きに合わせる様に揺れる。
最後に高く飛び跳ねて、着地。その足が滑ると手を突く間も無く、顔から落ちる。
受け留めるには少し固い草と土を額に着けて、それでも笑顔で手を振った。
ぱたぱたと土を払って、シートへ戻る。
「撮れただんず?」
鞍馬に尋ねると、数枚の写真を見せた。腕を上げて笑ったもの、動きに追いつけずにぶれたり見切れたもの。
ポーズを決めたどこか凜々さを感じるものまで様々に。
「一緒に踊っても良かっただんずよ」
「それは、少しハードルが高そうだな」
杢の踊りの後、再び近付いて来た動物をそっとフレームに納めながら雪都もクッキーへ手を伸ばす。
包みのロゴには見覚えがあった。
人に、友人と師に贈った店の物。
結局、贈るだけで自身は味見をしていなかったが、甘いバニラが香ってさくりと口の中で解れる食感は、きっと気に入って貰えるものだっただろう。
再び肩に乗ってきたリスのために静かに座り、釣られて来たもう1匹を優しい手付きで撫でて微笑む。
メグが茂みや樹上を伺うと、クレーヴェルはふわりと微笑む。
「この子たちにしか分からないことがあるのでしょう。何かを知らせてくれているなら、私は耳を傾けたいですね」
寄ってくるのなら、こうして穏やかに過ごしているのが良いのだろう。
緊張せずにと、手まで乗ってきたリスをメグの方へ寄せる。
メグが慎重に頭を撫でると、ぱたりと尻尾が揺れ、クレーヴェルが包むように背を撫でると次第に眠ったように丸くなった。
可愛いですね、とメグが呟く。しぃ、とその声を遮って、クレーヴェルも頷いた。
食べ物が目当てらしく、寄ってきては頬を膨らませる動物の様子を書き留め、膝に肩にと好きに昇らせながらフィロは空を見上げた。
日はそろそろ南中の高さに有った。
●
そろそろ頃合いだろうか、正午を前に動物たちもそれぞれの棲み家へ戻っていく。
暑くなる前にと鞍馬が促す様にシートを畳み、ハンター達も片付けを始める。空になったクッキーや水筒をバスケットに、写真を荷物に収め、行きと変わらず手伝うという雪都にメグが何度も礼を告げている。
クレーヴェルやカリアナが忘れ物を確かめ、杢が森へ向かって、元気でなあ、と手を振った。
オフィスに戻ると通されたテーブルへ、杢が大きく膨らんだ乾坤袋から草や葉、木の実を取り出し並べていく。
フィロのメモと照らしながらそれを確認し、受付嬢が礼を告げる。
カリアナとクレーヴェルが楽しげに森や動物の様子を話す傍ら、ちょうどそれらが収まっている写真を雪都が並べる。
森の景色を写した物から、ハンター達の調査の様子、ピクニックの談笑中の物。
クレーヴェルとメグがリスと戯れている物、カリアナがウサギに気に入られて膝を占領されている物。
それから、楽しそうに踊る杢の写真も順に並べる。
楽しんで頂けて、と言いかけた受付嬢が咳払いを1つ。
「充実した調査と、多くの報告を感謝します」
やや格式張ったように言い直し、ハンター達に微笑んだ。
写真を見ながら鞍馬も森の様子を思い返す。
結局の所、汚染の原因は分からなかったが、森にはそれを回復させる力が有るらしい。
植物も新しく芽吹いて、動物も生き生きと、季節が再び巡れば甘い実りをもたらすだろう。
油紙に乗せられた小さなスモモに、そんな希望をそっと抱いた。
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let'sピクニック 鞍馬 真(ka5819) 人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/08/31 05:27:53 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/08/30 08:28:32 |