魔術師の弟子、重陽の節句どんぶらこっこ

マスター:狐野径

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2017/09/11 15:00
完成日
2017/09/20 01:44

このシナリオは2日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●重陽の節句
 重陽の節句またの名を菊の節句というそれはリアルブルーの9月9日に行われる行事であるという。
 高山に登って菊酒を飲み長寿を願い災難を払ったり、菊を眺めて詩歌を作って菊酒をもらったりしたとか。
 様々あるが菊と酒が絡むらしい。
 とはいえ、グラズヘイム王国に住むルゥルの耳に届いたときは、色々混ざっていた。資料があって調べやすい話なら良かったが、そうもいかなかった。
「では、川でみんなでお花の形をしたお舟で競争をするです!」
 ユグディラのキソシロはひげをピクリと動かし、パルムのポルムは小躍りし、フェレットのフレオは食事をしていた。
「お舟を作って、競争なのですうう」
 ルゥルはふと思ったことがあった。
「先生に訊いたのです。イスルダ島奪還のためみんな忙しいそうです」
「きゅ?」
「にゃああ」
「カリポリカリポリ」
 相槌がそれぞれ入る。
「マークさんにご相談してくるです」
 隣のエクラ教会に走っていった。
「にゃあああああああ」
 窓もドアも開けっ放しなため、キソシロが怒った。仕方がないので留守番をする、キソシロ達だった。

●ハンターに依頼が出る
 隣町にあるハンターソサエティの支部にルゥルはやってきた。
「おや、ルゥルちゃん、お久しぶり。転移門を使うのかい?」
 受付男子のロビン・ドルトスが声をかけてきた。
「違うのです、依頼です」
 マーク司祭に相談後、領主に交渉した結果、「重陽の節句、お花のお舟でどんぶらこっこ」は開催となった。
「盥でお花のお舟を作って、競争をするのです!」
「へ?」
 小さな町フォークベリーには川があるが、レースをするほどではない気もした。手漕ぎボートが十基並んで進んだ時点で、乱闘になる気がロビンにはする。
「盥にお花を飾ったり、お花のようにしたりした舟で100メートル進むスピードを競うのです」
「……いや、待って、それ動くの?」
「頑張ってください」
 ロビンは気づいた、幅が狭かろうが、深さが微妙だろうが、盥に乗って安定して進むのは難しいのではないだろうか、と。いや、大きいならば良いのだが、ルゥルが示した盥は直径70センチほど。
 ルゥルは小さい、だから動くだろう。
 いや、オールがあるとは誰も言っていない。長い杖や棒でこいでいいとも誰も言っていない。
「……まあいっか」
 ロビンは深く考えないことにした。そう、沈もうが、ひっくり返ろうが、それが面白かろうと理解したのだった。

リプレイ本文

●物言い
 エルバッハ・リオン(ka2434)は露出多め符術師風コスチュームで魔法実演を行っていた。余興として申し出て、許可が出たから。
「このように水の上も歩けるのです」
 【ウォーターウォーク】をかけた上、水の上で符で術を展開する。普段から魔法に接しない町の人は、紙が動くことに一層驚きを見せる。派手さはないが、そこにある接する物が変わると不思議さは増す。

「うわああ、いいなああ」
「ルゥルちゃんもできるの?」
 川岸で見ている飛び入り参加の町のちびっこであり、ルゥルのご近所さんのハリとロンが聞く。
「うっ、お、覚えていますです!」
「掛けて」
「水の上歩きたい」
 声を重ねて言われ、ルゥル(kz0210)はおろおろしている。
(まだ覚えていないか、スキルセットしていないか……いや、覚えてないな)
 ステラ・レッドキャップ(ka5434)は横で見て苦笑している。なんとなく、ルゥルの雰囲気として覚えている以前の問題だと感じ取れる。
「こ、今度です」
「えええ」
 不満そうな子供たちの声が響いた。
「ルゥル、参考まで見ておくのもいいぞ」
「そそそそうですう」
 助け舟もかねて声をかけると、ルゥルはすぐにのってきたのだった。

 Uisca Amhran(ka0754)は余興という、巫女として余興と言うと微妙な雰囲気は漂うが、リアルブルーの祭りぽい今回で、巫女は重要だと思っていたため目の前の状況に「あああ」と少しうめく。
「『せっく』はリアルブルーのお祭りと聞きました。お祭りと言えば巫女なのです……舞を舞うです?」
 それは知らない。しかし、今回のイベントはたぶん、それ関係ないと感じとっている。必要なら最初から募集するだろうから。
 ペットのイヌワシと桜型妖精アリスがUiscaの肩や頭をぽんぽんとたたいて慰めている。
「ありがとうございます。別にこれだけではありません。どんぶらこ、を頑張ればいいのです」
 きちんと盥も飾り付けてきたのだ。

 ネフィリア・レインフォード(ka0444)は連れてきた桜型妖精アリスとわくわくしながら会場を見ていた。
「うわあ、かっこいいな。あ、あの飾りつけも。水に浮かべたらもっと違うのかな」
 観客も多いことにテンションも上がる。
「あれ?」
 少し、匂いが漂ってくる。
「あ、あれは! 炊き出し? バーベキュー大会?」
 会場では煮炊きが始まっていた。これはゴールの後に体を温めろということだろうか。
「楽しみだな。あれ、楽しみにしていいのかな?」
 見物人の宴会で、参加者は関係ないとショックだと考えた。まず、盥競争をがんばると気合を入れた。

「あああ、もう、最初から言って頂戴!」
 マリィア・バルデス(ka5848)は協議中のオフィス職員のロビン・ドルトスと町のエクラ教の司祭のマークを眺める。
「盥に乗ってシャモジで漕ぐお祭りの……変形版だし、オールでいいと思うのに」
 宵待 サクラ(ka5561)はぎゅっとオールを握りしめ見つめる。
「そうよね、シャモジに似てなくはないわね」
「でしょ?」
 マリィアとサクラは同調した。
 ポスターには持ち込み可とも不可とも書かれていなかった。コースも決まったところで、マーク司祭の物言いが入ったのだ。
 確かに、全員が同じもので漕がないと駄目かもしれない。
 一方で、飾りつけの問題もあるためなくてもいいじゃないかと言うことも考えられる。
 そして、今がある。
 余興も終わったころ、司会進行役のロビンがやってきた。
「協議の結果、シャモジはないため、木べらなら許可します」

 一瞬、沈黙が流れる。
 ザワリ……。
「なに、それ」
「……え、ええええ?」
 会場中が困惑に包まれた。
「木べらってあれよね?」
「混ぜるあれです……似ていると言えば」
「似ているわね」
 マリィアとサクラも困惑しつつ、ロビンの説明を聞く。
「スプーンだとさすがにあれと言うことになりました」
 これから町の人の有志が木べらを取ってくることとなっため、レースの開始時間が遅れることとなった。

 ミオレスカ(ka3496)はキョトンとしていた、まさかの調理道具の出現に。
「漕げるのでしょうか?」
 盥の舟に乗ったとしてもただ流されるだけと言う感じでもあった。木べらは確かにオールに似ているかもしれないが、小さいのではないかと言う疑問。
「まあ、それはそれで面白そうですね」
 CAMも調理道具という彼女であり、その逆がやってきたのだった。調理道具も乗り物の一部。

 夢路 まよい(ka1328)は開始時間が伸びたことは残念と思う反面、他の人の盥をじっくり見られる時間ができたと喜べた。
「やっぱりみんな違うね。お花を飾るのと……えー、盥自体がお花? あ、それも可愛いかも。大きなお花の中心に座るってできるものじゃないもんね」
 レース後乗せてもらうべきかと考え始めたころ、木べらが到着し各人、少し前にくじ引きで決めたコースに向かっていくことになった。

 雹(ka5978)は妹たちを見守りながら仮設の橋を歩く。そこから盥を置いて乗り移るらしいが、高さがあり難易度も高い気がした。
「結構、桟橋、揺れるね。静玖、気を付けてね」
 澪(ka6002)は双子の静玖(ka5980)に声をかける。
「分かってますぇ。澪こそお気を付けやす」
「うん」
 注意すれば落ちるわけでもないため、すたすた進む。
「二人とも気をつけろ。盥に乗る前から水の中は悲しすぎる」
 雹は念のため声をかけた。彼自身、水落ちた場合の対策として、川岸にたき火準備をしてきた。もしもでも乾かせるように。
「雹兄ぃもやぇ」
「そうそう」
 妹たちから注意を受けて、口元が緩んだ。

 空蝉(ka6951)は主催者やルゥルに尋ねて盥に花を飾ったまでは良かった。彼女たちの親切心もやるべきことも理解していた。
 しかし、盥を浮かべ、乗る段階になってなぜか胸の奥がざわつく。
「おかしいです。周りを見れば皆楽しんでいる……ここは『ドキドキわくわく』するところでしょう」
 分析するが、気持ちの変化はうまくいかず、ざわついままであった。

●そして、スタート!
 仮説桟橋に並ぶ。
 運営の司会者が近いところにルゥルがいる。
 ルゥルの盥は蔦をグルグル巻きつけ、そこにうまく花を突き刺してある。頑張ったという形跡は認められる。なお、マリィアが「リアルキノコの絵」を描いたシールをくれたのだが、それは貼られていない。もらった直後、ペットのパルムのリュックサックにしまったから。なおペットは岸で待っている。
 隣はエルバッハ。盥で進むことが難しいことを考慮し、適度に花を飾った。
 まよいの盥は大きな白い花と紫の小さな花をメーンに、それらが引き立つように花を飾ってある。その上、どこに乗るのかというほど中にも花がある。
「前もって【ウォーターウォーク】かけていてもいいかな。もしもで、濡れるの嫌だし」
 まよいが告げた後、影響はないということで許可が出た。本当にないのか……ありすぎるなら再度レースすることとするなどと言う抽象的な判断。
「前もってかけてほしい人があれば魔術師さんにお願いしてください」
 ロビン、プラスアルファ言った。
「あの、奏唱士でも使えます」
 ミオレスカが挙手した。ちびっ子たちはそわそわしたが「必要ないやい」という。かけてもらいたいのもやまやまだが、レースではなく遊びとしてだったからだ。
 なお、ミオレスカの盥は季節の花を適度に飾った物だった。
 飛び入り参加ちびっこの一人ハリの盥は、庭で見つけた花を縛り付けたものだった。一応趣旨理解した。
 サクラの盥は彼女が乗って水面に出るあたりから上にリボンが巻きつけてある。ペットを載せたい気もしたが、難易度を考え彼らは岸辺に待機であった。なお、ペット代わりに犬とカエルのぬいぐるみが盥の中に入っている。本日来ているペットはパルムの十二郎とモフロウの五十九郎である。
 マリィアは作戦があり、水車を盥の両脇につけていた。まるで水を掻き進めるように、と言うように。司会者のロビンは「まさか【ランディングファイト】用?」と思ったりもした。なお、彼女にくっついて来ていたサポートロボットはさすがにロビンが引き取った。
 なお、盥自体はペンキで花の絵を書いておいた。確かに、華やかではある。
 その隣は一輪の白いクチナシの花のような盥に仕上げたUisca。華やかさと実用性を兼ね備えた盥になった。イヌワシとアリスがバランスを取るのに一役買おうと、スタンバっている。
 雹の盥は妹である静玖と澪とともに飾り付けた。青を基調に妹たちのセンスを見込んで追加した。
 静玖は青と緑を中心に少し赤と白の花を混ぜた。一応、きょうだいをイメージしたものである。
 澪は本人は名前を忘れているらしいが、花言葉は覚えているという紫の花を主に使う。花言葉は「仲良し」ぽいニュアンスで、ペチュニアだとのこと。あと、菊をメーンに据え、飾り全体も菊ぽくしてみた。
 ネフィリアはアリスと探した花を飾り付けていた。シンプルにそして可愛らしく。彼女の頭の上にはアリスが乗っている。
 飛び入り参加ちびっこロンがそわそわしている。参加するといって内緒で家の盥に絵を書いたから、実は親にしこたま怒られていた。とはいえ、きちんとなんかの花を描いていた。
 ステラのは一輪のスイレンの花風盥に仕上がっていた。大工仕事をして家にある道具で試行錯誤したらしい。
 最後に空蝉の盥はこの近辺で集めた花で構成されている。大小さまざまな花はあったのだが、色とりどりにくっつけることが重要視されたらしく、モザイクのようである。ええ、モザイクである。

 さて、ロビンがどこからか仕入れた運動会用のピストルを持ち、慣れた手つきで耳をふさぐように腕をあげた。
「位置について、よーい」
 パーン、と音がはじけた。

「みぎゃあ」
「きゃああ」
「うわああ」
「ああああ」
「何をするんや!」
「……ぐっ」
 水しぶきとともにいくつか悲鳴が響いた。
「ルゥルさん、大丈夫ですか」
 隣を気にしながらエルバッハは声をかける。あまり振り返ると自分も沈む危険がある。
「なんのこれしきですうう」
 答えがあったのでひとまず安心し、エルバッハは進む。

「よ、良かった、魔法掛けておいて」
 まよいはホッとしつつ、盥を掴んでおく。盥が川の流れに乗って下って行ってしまう危険性がある。
「上れますか」
 心配したミオレスカが声をかけてきた。
「うん、魔法のおかげで上りやすいよ」
「ゴールで待っていますね」
「ぬかしちゃうかもしれないよ」
「はい、お待ちしています」
 何が起こるかなんてわからない。

 雹と澪がいきなり水の中に落ちたためか、真ん中の静玖も止まった。
「雹兄ぃ、澪、いきなりなんでひっくり返りますのん?」
「すまない」
「静玖は大丈夫?」
「あおりを受けましたんや!」
「ああ」
「それはごめん」
 静玖としては無事だったから怒れるので、ほっとしている。雹と澪は巻き込まないように頑張らねばと燃えるが、まず盥に上がらないとならない。

 空蝉、盥に乗ったはいいが、全身で拒絶が起こった。いや、盥の中なら水は関係ないと思うが、泳げない人や苦手な人にとってそれはやはり怖いものでしかない。
 その上、空蝉、何故、武器で盥を突き刺した。
 混乱の結果か。
 踏ん張るために武器が手短な道具だったのか。
 とりあえず、バランスを取ったまま、彼は水の中にはまった。水深五十センチ、おぼれはしないが、嫌いなものは嫌いなようだった。

「何とか無事にスタートは切ったぜ」
「負けないぞー」
「おう、受けて立つぜ」
 ステラは隣にいるロンと話す。

「入賞するため頑張るぞ! おーえす、おーえす!」
「木べらだとなんか勢いが出ないわね」
 サクラは頑張って木べらで漕ぎ、マリィアも一生懸命漕ぐ。
「マテリアルを活性化させ……」
「あれ……これが片手の武器……これで【飛燕】や【瞬影】ってできないのかな」
「……【ランディングファイト】使えないみたいね」
「……えっ!?」
「ええ」
 驚くサクラににっこりとマリィアは微笑んだ。
 乗り物だけど乗り物ではないから。
 そして、再び漕いだが、サクラの盥がひっくり返ってしまった。
「きゃあ」
「お先に」
 マリィアは手を振り下って行った。
「あああ」
 サクラ急いで上がる。ぬいぐるみが少し水を吸った。これは重くなると困るか、うまくバランスを取れるか悩ましいところだ。
「やらないと分からないよ」
 サクラはまず盥に這い上がった。

 Uiscaは隣から聞こえる黒い会話に目をぱちくりしていた。
「こ、このレースにはすごく隠されて秘密があるのですね」
 二秒ほど考えて「ないですね」と理解した。
「スタートは乗り越えました。あとは、最後まで無事どんぶらこできればいいです」
 イヌワシとアリスが同意する。
 ――神様がそれを許せばである。

「木べらで漕ぐと……手で漕ぐより漕げるかも?」
 ネフィリアはバランスを保ちつつ何とか進む。周囲を見る余裕はあり、川岸や参加者を見た。
「よし、頑張ろう! ほぼ、川に流されているだけだけど、バランス崩すと水の中だね」
 揺れないポイントを探しても水面は動くため簡単には見つからないようだった。

●最後まで分からない
 まよい、なかなかうまく進めない。
「ああ、お花が流れていく……でも、きれいだなぁ」
 これはこれでいいかもしれないとはいえ、レースだ。眺めていないで盥に乗って何度目かの出発をしたのだった。

 ミオレスカはまよいの代わりに流れてくる花を眺めていた。右隣にいた町のちびっこハリは水の中から抜けられず、小舟に回収されていった。
 なんか両脇が寂しい。
「……こういう時は民謡でも歌いましょう」
 どこからか仕入れたか「どんぶらこー」と歌い始めた。漕ぐというよりバランスを取りつつ流されていく。

 小舟に乗ったこの地域の川のことをよく知る老人は何かあった選手の回収係になっていた。町の別の男性も手伝う。
 そして第一弾として、空蝉のそばまで来た。いや、空蝉の場合、桟橋から引き揚げてもいいのかもしれないが、とりあえず、会話をするのには川面がいい。
「のう、お若いの大丈夫かの?」
「……」
「おーい」
「……」
「返事がないが引き上げるぞ」
 一緒に乗っていた町の人とともに空蝉を引き上げる。抜き身の剣を持っているためおっかなびっくり。動かれた怖い。
「顔色が悪いということもないが……わからないから、ロビンさんに任せよう」
 そのまま小舟は岸に向かった。

 Uiscaは水の中にいる子どもも見つけたが、運営側が一応小舟出して巡回しているので何かあれば助けると思いほっとした。
「木べらで漕ぐことになるなんて思いませんでした」
 スピード重視でなければ自然に流されるだけで問題はない。盥舟の上で立っても大丈夫だと確信した。
 そして、歌を歌う。イヌワシとアリスにも盥舟のバランスを取ってもらう。観客に楽しんでもらいたいという気持ちでささやかなパフォーマンス。
 真ん中あたりで事件は起こった。
 イヌワシとアリスが交錯したとき、Uiscaがバランスを崩した。歌舞をよくする彼女は踏ん張ろうとしたがあっという間に水の中に落ちた。
「きゃあ……ああ」
 バシャーン。
「うっ」
 盥にはすぐに上がれた。
「これは……慎重に行かないといけません」
 ゴールできることが第一かもしれない。

「おーい、君、大丈夫?」
「這い上がれてないよな」
 ネフィリアとステラは間を来るはずのちびっこロンが来ないことが心配になっていた。
「アリス、見て来てくれる?」
 ネフィリアの言葉にアリスは了解した旨を伝えた。
「……でも、どうやって見た状況を聞くんだ」
「あっ」
 ステラの指摘にネフィリアは笑った。
「ぼくのことはいいから、先に行ってくれ」
 水から上がろうとする音とともにかっこいいセリフが聞こえる。
「分かった、そこは任せる!」
「気を付けるんだぞ」
 雰囲気だけ合わせてネフィリアとステラは進んだ。
 小舟が通ってリタイアを勧めに言っていたからだった。彼の安全さえわかればそれでいい。

 静玖はバランスを崩して止まることは三度あった。きょうだいの中で一番、進んでいた。そして、コースの半ばを超えたあたりでちょっとバランスを崩した瞬間、水の中にいた。
「静玖、大丈夫?」
 澪が心配して声をかける。
「うう、注意しったのに……」
「引っ張ろうか?」
「競技中や!」
「あ、そうだね。先に行っているから」
「それよいですえ」
 静玖は一生懸命登ろうとした。滑るのか、柔らかい水の上ということで盥が沈むためコツがいるらしくうまく上がれない。
「静玖、助けるぞ」
 遅れていた雹が追いついた。
「雹兄ぃ……た……進まなあかんと時やぇ!」
 甘えて助けてと言いたかったが、なんとなく兄まで巻き添えにしても仕方がないと感じる。
「いや、でも」
「雹兄ぃこそ、ゴールできひんかったら……どうするおつもりですえ?」
「そ、それはそうだな。静玖を信じている」
 雹と澪の背中を見送り、静玖は頑張った。
「なんでー……」
 そして、力尽きて水の中に沈んだ。
 小舟が近づいてきて、乗っている老翁が問う。
「無理はせん方がよいぞ」
「……う、ううう」
 プカリと浮かんだ静玖はリタイアすることとなった。

 あと少しと言うところでルゥルの盥がすごい勢いで滑って行った。
「みぎゃあああ……みぎゃ?」
 ルゥルから楽しそうな悲鳴が聞こえた後、盥が止まった。
 エルバッハは追いついた上、自然と抜いてゴールに入ってしまった。
「あら?」
 このタイミングで、ほぼ僅差で六人ほど入る。
「意外とほぼ同時か?」
 ステラは審判を兼ねるロビンやマークを見た。岸に上がると二位だと教えてくれる。
「よっし!」
 レース開始には隣にいてリタイアする結果となったちびっこのロンがハリと一緒に喜んでいる。
 マリィアは木べらが手から抜けそうになったが、頑張って漕いだ。
 その一瞬が勝敗を分け三位。
「なんてことなの!」
 ガンと盥の縁をたたいてしまい、揺れる。
「ああ、もう少しだったのに!」
 ネフィリアが悔しがるが、すぐに笑顔だ。アリスが飛んで「やったー」と言うようなしぐさをしている。
「到着です! 意外と順調でした」
 ミオレスカが歌い終わり、観客に手を振る。
「みぎゃああああ」
 ルゥルが猛烈に必死に水を掻きやってきてゴール。
 ほぼ同時にUiscaがゴールし、盥の中で立ってばんざいのしぐさをする。
「落ちましたけれど、無事に到着しました」
 イヌワシとアリスも楽しそうだ。
「あああ、なんでええ!」
 サクラは思わず叫んだ。スタート直後、ゴール直前でバランスを崩し水の中に落ちていた。悔しいが、川岸でパルムの十二郎とモフロウの五十九郎が喜んでいる。彼らが分かっているのか不明でも、喜んでくれるのは嬉しい。
「静玖の分も頑張れたよね」
 きょうだいで一番先にゴールができたのは澪だった。当初は遅れていたが、後半は順調であったのだ。
「おめでとうやす……ううっ」
 小舟に引き上げられて岸に上がっている静玖がしおれている。兄が作っておいたたき火に、ちびっこたちと当たっている。
「何とかゴールで来たよー」
 まよいは途中で水の中に落ちること三回。【ウォーターウォーク】のおかげもあって盥に上がるのは楽だった。その上、後半は順調に流れてこられた。
「……俺が最後か?」
 雹がゴールした。後ろを振り向けばだれもいない。岸を見ればずぶぬれの妹とちびっこなどもいる。
「レースは終了でーす!」
 ロビンが宣言したのだった。

●閉会式後
 特別賞として「お花たくさんだったで賞」をまよいに、「お花もほしかったで賞」がサクラに渡された。
「落ちるたびに花が流れちゃったけどね」
 それはそれできれいで観客も楽しんだ。
「意外と濡れているんだよね……」
 本人が水に落ちた拍子に盥が揺れる。盥が揺れたときに花についた水が飛ぶ、という構図が実はあった。
「まあ、問題ないよね」
 この程度で透けるような服ではなかった、平和である。
「ううう、賞はもらったけれど……景品はお肉なら……」
 サクラはうめく。残念ながら、そのようなものではなかった。彼女の回りで十二郎と五十九郎は栄誉をたたえてくれている。
「良かったよー」
 サクラはペットたちをむぎゅッと抱きしめた。
「それにしてもよく景品なんて用意したわね」
 マリィアが首をかしげる。猫耳カチューシャや肉球グローブなどどこかで見たような内容だ。何もないより楽しい。
「ロビンさんが用意してくれました。オフィスで……もごっ」
 何か言いかけたがロビンがお菓子で釣り黙らせた。
「まあ、なんとなくわかったわ」

 空蝉は何とも言えない表情を作った。
 ロビンは彼のことを気づかって問いかける。
「……いえ、水に入ってはいけない……と内なる声がして、わたくしに命じたのです」
「えー、まー、それは難儀だな……今後、気を付けてくださいね」
「はい」
「だって、せっかくハンターとしてあちこち行けるのに、不注意で動けなくなるのが一番つらいですよ」
 戦場を駆け抜ければ何があるかわからない。しかし、防げる危険もあるのは事実。
「肝に銘じておきます」
「うん」
 ロビンはにっこりとほほ笑んで浮輪を取り出した。

 町の人はこのまま河原で食事会となった。もちろん、参加者たちにもふるまわれる。
「うう、なんでうちだけが沈むんやろか」
 静玖は半泣きで、雹と澪が手渡す料理を口に頬張る。
「これおいしい……」
「それは良かった。お菓子はいるか?」
「兄ぃが取ってくれはるんやろか?」
「ああ」
 雹は自分の物を食べつつ、取りに行く。
「このジャガイモおいしい」
 澪は皿に盛ったのを次々に口に頬張った。炒めたものであるが、ハーブの香りがふわりと口の中に広がる。
 リタイヤになって落ち込んでいる静玖をちらりと見る。不機嫌そうだったが、口元が笑っている。
「水に落ちたのは悔しゅう……楽しぃおますなぁ……」
「……うん。まさか兄様が最後になるとは……」
 二人は声を立てて笑った。

「こ、これは! 菊ですか?」
 ミオレスカは黄色い物体が入ったお茶を見た。菊の花にも見える。
「違うのです。カレンデュラと言うお花です。でも、菊に似てるです」
 ルゥルが答えつつ、コップに注いでくれた。味は独特でおいしいとも何とも言えない。
「これは、他の物とブレンドするほうが美味しいです」
「なるほど……。菊も食べることができるんですよ。葉物のおひたしに菊を添えて、醤油で食べるのも風情があります」
「へえ」
 ルゥルと情報交換をした。

「おねにーさんすごーい」
「おねーさんもすごい」
「その、中途半端な呼び方するな!」
「ありがとう!」
 ハリとロンがステラとネフィリアにまとわりついていた。
「こっちもおいしいよ。ぼくが世話したんだ」
「こっちはうちで作ったチーズなんだ」
 焼いた野菜やチーズの皿をささげる。
「あ、すっごく甘い」
「うまいな」
 ハリとロンは嬉しそう。
「ハンターなんだよな、話を聞かせて」
「そうそう。ルゥルちゃんもハンターになったっていうけど、魔法のお勉強が優先だし、かっこよくない」
 二人は顔を見合わせた。
「……まあ、ハンターになったといっても、色々だからな」
「そうだよね」
 ステラとネフィリアは何を話せばいいのか、まずちびっこに問うことになるのだった。

 Uiscaは町の人たちを手伝いながら、食事を楽しむ。
「水に落ちましたが、楽しかったです」
 ハプニングがあってもまだ暖かい季節。それに、火を使って料理しているためあっという間に乾く。
 イヌワシに肉をあげ、アリスには好みの食べ物を自分でえらばせて労ねぎらった。

 エルバッハは周囲に人がひっきりなしに集まる。優勝したから町の人が「おめでとう」と言いに来るのだ。何かしら作った料理を持って。それはおいしく食べる。
「こういう時は抗わないほうがいいようですね」
 そして、町の年頃の少年たちがそわそわしているのを見て、にっこりとほほ笑んでおいたのだった。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 14
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhranka0754
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよいka1328
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカka3496
  • イコニアの騎士
    宵待 サクラka5561

重体一覧

参加者一覧

  • 爆炎を超えし者
    ネフィリア・レインフォード(ka0444
    エルフ|14才|女性|霊闘士
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • Rot Jaeger
    ステラ・レッドキャップ(ka5434
    人間(紅)|14才|男性|猟撃士
  • イコニアの騎士
    宵待 サクラ(ka5561
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 陽と月の舞
    雹(ka5978
    鬼|16才|男性|格闘士
  • 機知の藍花
    静玖(ka5980
    鬼|11才|女性|符術師
  • 比翼連理―瞳―
    澪(ka6002
    鬼|12才|女性|舞刀士
  • 潰えぬ微笑
    空蝉(ka6951
    オートマトン|20才|男性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談…雑談卓?
ステラ・レッドキャップ(ka5434
人間(クリムゾンウェスト)|14才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2017/09/10 21:20:26
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/09/10 22:26:24