スケルトンアーマー

マスター:KINUTA

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
6日
締切
2017/09/15 22:00
完成日
2017/09/22 01:57

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング




●いち囚人の社会奉仕活動



 タモンが上と交渉した結果、『魔術師同盟からの依頼がある際は、依頼を行っている間だけスペットに指輪を返還する』ということが決まった。
 というわけで社会奉仕活動に出かける本日、スペットは久方ぶりに指輪を指にはめる。
 銀の輪はきつくもなくゆるくもなく、しっくり指と一体化した。

「おおー、この感じやこの感じ。久々やなあ」

 一時とは言えまた指輪を変換してもらえたことは有り難い。最小限度に機能が抑えられたとはいっても、指輪があればまた力を発揮出来る。そうすれば例のインカムの機動だってもしかして出来るかもしれない……。
 そんなことを思う彼に、再度ム所仲間となったブルーチャーが尋ねた。

「牢屋から出るって事は考えないんですかい。前みたいに消えたり隠れたり出来るなら、簡単なことでがしょう」

「出来るかも知れへんけど、止めとくわ。脱走者が出たゆうたら刑務所の信用がなくなるやろ、ほしたらうちと提携しとるペリニョン村にも影響するさかい。θに悪いやろ」

「へーえ。随分とまあ……殊勝なこって。人間変われば変わるもんだ……いや、旦那の場合は猫も変われば変わるって言うのかね」

「猫ちゃうわボケ」



●必要最小限度の機能


 自由都市同盟における先進工業地帯、フマーレ。
 その地にスペットは、魔術師協会職員のタモンと訪れていた。ユニオンの遺物であるインカム。それに繋げる事が可能な受信機を、提携している工房へ発注しに来たのである。
 クリムゾン世界の技術は、ここ数年の間に飛躍的な進歩を遂げている。たとえ馴染みのない文明がもたらしたものであったとしても、マテリアルをエネルギーとして使っているという点に変わりはない。
 オートマトンだって起動出来るようになったのだ。不可能なことはないはず。

「つまりこれは我々の世界における、魔導伝話のようなものということですか?」

「基本はそうなるかな。ちゅうてもこの世界のものと比べたら、糸電話と魔導スマホくらいの違いはあんで? そもそもマゴイやないと動かせへん機能の方が多いからなあ……とはいえあれや、物にはやりようちゅうもんがあるはずや。俺、全面的に協力すんで」

 万が一でも自分の顔が戻るかもしれない可能性がかかっているので、スペットは真剣である。
 もちろんタモンも真剣だ。オートマトンをタブー視し場合によっては破壊も辞さないというマゴイの考えは、歪虚の脅威にさらされ続けている現状において、不安の種である。
 味方になってくれる戦力をそんな理由で失わされてはたまらない。
 とはいえスペットによると彼女は『ユニオン領内』以外を闊歩するオートマトンに手出しはしないらしいとのこと。その点は少し安心出来る。
 だが問題はその『領内』が本人の意識の中で、どこまで広がっているのかだ。

(たまの目撃情報から鑑みて、幸い人家の近くには居を構えていないらしいですが……)

 あれこれ話しながら、工場が集中する地区に差しかかる。鎚音、溶接、工作機械の作動音、換気音などがかまびすしい。

 ドン。

 出し抜けな爆発音にスペットたちは立ち止まった。
 どうやら何か事故があったらしい。各工場から人が出てきた。

「おい、ポリオ工房の方角じゃねえか」

「おいおい、あそこ、確かこの前にも爆発騒ぎやらかしたろ」

「確かアーマーの下請けやってるんだったか?」

「安全管理がぬるいんじゃねえか?」

 などと言いながら、様子を見に行く人々。スペットたちもそれについて行ってみる。
 行く手に大きな工場が見えた。
 中から血相を変えた工員達が駆け出してきて、分厚い鉄のシャッターに飛びつく。集まってきた人々に声をかける。

「手伝ってくれ! 作成途中の魔導アーマーが……」

 次の瞬間工員達が降ろそうとしたシャッターが、彼らもろとも吹き飛ばされた。中から出てきたのは外殻もつけていない骨格だけのアーマー。右手に巨大な鉄球がついたフレイルを持っている。
 集まっていた人々が逃げ出す。

「ハンターオフィス! ハンターオフィスに連絡しろ!」

 アーマーが腕を持ち上げ、人間たちに向けフレイルを振りかざす。
 スペットは咄嗟に結界を作った。彼としてはタモンも一緒にその中へ避難させたつもりだった。しかし現実は、そうはならなかった――生み出された結界は、ちょうど1人分の体を覆うくらいの規模でしかなかったのだ。
 スペットを包んだ結界は彼の姿を消す。空間ごと周囲から遮断し、物理的攻撃を通過させる。
 しかしタモンは他の何人かと一緒に直撃を食らい、なぎ倒された。
 マゴイが口にしていた『機能最小限』というのは、所有者の身体だけを守る機能に制限するということだったらしい。そうと悟ったスペットは、罵りの声を上げた。

「なんやこれ、さっぱり使えんやんけ!」

 アーマーが動きを止めた。手当たり次第振り回したフレイルが工場の煙突に絡み付いてしまったのだ。
 スペットは急いで、血だらけになって転がっているタモンを回収にかかった。
 しかしそこでまた新たな問題にぶつかる。結界を張ったままだと外部の人や物に触れないのだ。

「~~ほんまに使えんな!」

 仕方なく結界を解く。タモンを背負って再び結界を作り、その場から逃げ出す。
 フレイルの鎖を解こうとしていたアーマーは、最終的に業を煮やしたのか力任せに鎖を引っ張った。煙突がへし折れ、折れた部分が地上に落下、他の工場を破壊する。
 騒ぎを聞きつけたハンターたちが駆けつけてきた。
 スペットは彼らから見えるように再び結界を解き、大声で叫ぶ。

「おーい! ごっつい怪我人や! 助けてくれ!」


リプレイ本文

●現場到着

 移動手段として馬を連れてきていた天竜寺 詩(ka0396)、ミオレスカ(ka3496)、ドゥアル(ka3746)、ソラス(ka6581)は、それぞれエルバッハ・リオン(ka2434)、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)、アリア・セリウス(ka6424)、ブラック・バレット(ka7004)を同乗させ工場地帯に向かった。
 進むにつれ惨状が明らかになる。無造作に潰された建物、路肩のそこかしこに転がる血まみれの怪我人。
 ドゥアルは目を見開き、憤慨する。

「わたくしの睡眠を補助する重要な労働者達が……! 歪虚許すまじ……!」

 助けを求める声が聞こえてきたのは、ちょうどその時だ。

「おーい! ごっつい怪我人や! 助けてくれ!」


●役割分担


 呼びかけに応え来てくれたハンターたちの前でスペットは、負ぶっていたタモンを地面に降ろし、仰向けに寝かせる。

「見たってくれるか。かなりやばそうやねん」

 たしかにやばそうだ。相当な衝撃が横から加わったらしく側頭部は血だらけ。顔の半分が内出血で黒く変色している。
 ソラス(ka6581)はしゃがみこみ、何度もタモンの耳元で叫んだ。

「タモンさん、聞こえますか、タモンさん! タモンさん!」

 意識が朦朧としているのか、まともな返答はない。戻ってきたのは呻きだけ。
 詩は黒岩の守りをギュッと握り締め、フルリカバリーをかける。「しっかり!」と励ましながら。
 強く暖かい光が傷を包み、癒し、修復して行く。

 ビキ……キ……

 不吉な音が空気を震わせた。
 少し離れたところにある工場の煙突が中途から折れ崩れていき、別の工場の屋根に激突した。その後に複数の破壊音が続く。
 ブラックはそちらの方向に視線を向け、ぶっきらぼうに行動の指針を述べた。

「事は急を要する。まずはあのアーマーを負傷者や要避難者から引き離す」

 リオンは身を鎧うものの重さを感じさせない足取りで、音がしてくる方向へ身を翻す。

「何で歪虚化したのかは分かりませんが、黙らせないと被害が拡大しますね。誘導してから、手早く破壊するとしましょうか」

 ミオレスカは強弓アヨールタイに矢をつがえた。

「自在に操ることができればゴーレムよりも有益な工業機械になりそうですが、今は退治するしかありませんね」

 アリアは大太刀を鞘から抜く。これは止められる惨劇だ。いや、止めなければならない。手に執りし二つの剣に宿す誇りにかけて、これ以上の血は流させない。

「心を持たない、ただ暴れるだけの機械に遅れを取りたくないの」

 詩は彼らアーマー対処班に、茨の祈りをかけた。それからソラス、ドゥアルともどもスペットに、負傷者の人命救助と避難誘導プランについて話し聞かせ、協力することを了解させた。

「じゃあ頼むよスペット、負傷者を見つけたら避難場所に運んでね」

「……避難誘導もお願いしますよ……ポーション預けますから……軽症程度の人に使ってください……なるべく自力で動いてもらうように……」

「あ、トランシーバー渡しておきます。身動きが取れなくなっている人がいたならば、連絡を。私たちはこのままポリオ工房に向かいますので」

「何や、やること多ないか俺」

「そりゃあもう、当たり前だよ。指輪持ってるんだから。隠密行動はお手の物でしょ」

「簡単に言うて。これ機能制限されてんねんぞ」

 ブウブウ言いながらもスペットは言われたとおり姿を消し、負傷者の救援に向かう。
 着実に更生の道を歩むその姿にルンルンは、感慨を覚えた。

(折角又吉も綺麗な又吉になってるんだもの、正義のニンジャとして歪虚の暴走を放ってなんて置けないんだからっ!)

 そのためにやるべきは、歪虚アーマーが救助者のいる方角に向かってきたときの用心として、地縛符を仕掛けること。

「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法土蜘蛛の術! 場に符を仕掛けてターンエンドです」


●鬼さんこちら


 アリアたちの姿にアーマーは、即座の反応を見せた。骨格だけの体を反転させ進行方向を変え、向かってくる。
 リオンは十分に距離を取った場所から陰陽符を飛ばす。符は氷の矢に変じた。アーマーの腕を白く凍りつかせた。しかしそれは、すぐはげ落ちる。動きを弱めても、封じるまでには至らない。敵は鉄球を振り回しながら歩いてくる。
 ブラックは相手を誘導するため、あえて視界に入る形で銃撃した。ミオレスカもまた。
 最終的な誘導先は決まっている。ポリオ工房だ。だがそれはもちろん、負傷者を避難させてからの話。救助班から連絡が来るまでの間は、その場の足止めに徹する。
 ――アリアがアーマーの懐に飛び込んだ。

「私と踊ってくださいな? 無粋な鋼も、未完成な造りでも――人を傷つけるならば、容赦はなしに」

 フレイルを握る右手を狙い、大太刀を振り下ろす。金属と金属がぶつかり合う音。打った方の腕に痺れを覚えさせる硬さ。周囲に飛び散る白銀の光の粉。
 アーマーはもどかしげにフレイルの鎖を手繰り射程を縮め、振るった。引き寄せてから攻撃に移るまでの時間が長かったので、アリアからは簡単に避けられてしまう。

(できれば、クロウさんに預けて、くず鉄の山にしてもらいたいところです)

 ミオレスカは引き続き弓を放つ。ブラックも銃を撃つ。とばっちりを食らい破壊されていく建物の破片を避けながら。
 リオンはファイアアローとウィンドスラッシュを同時に放った。バチバチっと関節から火花を散らしたアーマーは、危機感を覚えたか動きを速めた。空気を切って向かってくる鉄球。リオンはシールドで直撃を防ぎ後退、距離をとる。
 ソラスが周辺一体に呼びかける声が聞こえてくた。

『……こちらはハンターです。現在負傷者の救助に向かっておりますアーマーは現在シャルル工房付近にいます。アーマーは見えるものに対して攻撃します。動ける方は身を隠し、もよりの区域から急いで離れてください。避難場所は河口の荷降し場です。余力がある方は移動困難な方を補助してください……』


●負傷者はいずこ


 詩はずっと覚醒したままだった。常の姿より天使の姿であるほうが、見る者に少しでも安心感を与えられると思って。
 負傷者はトリアージし、どうしても回復魔法が必要なものとそうでないものとを明確に分けた。クルセイダーは絶大な治癒力を持ってはいるが、それを使える回数には限りがある。緊急性の順位づけは大事だ。
 そうこうしている所、ソラスのトランシーバーに、スペットからの連絡が入ってきた。

『おい、めっちゃ死にかけになってんのがおんで。動かせへん。はよ来てくれ』

「分かりました。どこです?」

 詩が借りてきた工場地帯の地図を片手に聞いてみれば、まずいことに、戦闘が行われている場所の近くだった。
 アーマーの注意を引いて、攻撃班の妨げとなるようなことがあってはならない。

(報告を見る限りアーマーは、視覚だけを頼りに行動している。ならば煙でも要は足すはず)

 ソラスは発煙手榴弾を取り出そうとした。直後何者かにそれをひったくられた。

「!?」

 反射的に周囲を見回す。工場の屋根をかすめ逃げて行く小さな影が、一瞬だけ目に映った。
 躊躇せず彼は攻撃班に連絡する。もう1匹歪虚がいるかもしれないということを。
 それが終わった後で、再度移動を始める。目隠しについてはアースウォールを使用することにして。


●鬼さんこっち


 もう1匹歪虚がいるというなら、いち早く目の前のを倒しておかねば。思ってルンルンは、忍法一本でもの術を繰り出す。

「いでよニンジャ神、略してニンジンちゃん!」

 忍者っぽい大きな式神が、煙と共に姿を現す。
 アーマーはそれに強い反応を示した。敵が複数いる場合、大きいものの方を優先するらしい。率先してフレイルをぶつけ、かりそめの人型を叩き潰していく。
 隙をついてアリアは、剥き出しになった膝関節に襲いかかった。大太刀と水晶剣が交互に繰り出される。

「全力で、二本の剣で舞うわ」

 リオンはアリアに当たらぬよう、風、火、氷と属性を変えた代わる代わるの攻撃を加えた。それにより、火での攻撃が最も有効であることを知った。


●誰も死なせない


 アーマー出現の場であるポリオ工房は、当然のことながら最も被害が大きい。

「大丈夫、きっと助けるからね」

 重篤患者の手を握って詩は、フルリカバリーをかける。深くえぐれた傷痕が肉で埋められ折れた骨が繋ぎ直され、危篤者は一命を取り留める。
 ドゥアルは軽症の工員に手当と気付けの平手打ちを施し、話を聞いた。

「事故発生時に人がいた場所は、どこです?」

「……溶接室だ……そこで作業していたとき……急にアーマーが動きだして……」

 情報を元に崩れた現場に向かい、パルムに手伝わせ負傷者を回収し、治療していく。
 あれこれ手回しよく片付いて行くそこに、またスペットから連絡。

『おーい、こっちは全員誘導出来たで。後、渡されたポーションは使い切ったからな』


●さよなら鬼さん


 『ポリオ工房の負傷者を全員避難場所に移動させた』との連絡が救護班から来た。
 対策班は行動の切り替えを行う。誘導から破壊へと。

「大きなダメージは仲間に任せる。俺の仕事はそのサポート」

 うそぶきながら瓦礫の間に身を潜め、アーマーの右肩に銃口を向ける。
 ミオレスカは弓から魔導拳銃に武器を切り替える。威嚇ではなく制圧のために、より大きな威力をもつ武器を、と。
 アーマーの右腕付近へ集中的に弾丸が浴びせられる。筋の役目を果たす鋼線が幾つか切れた。
 アリアはアーマーの軸足へ切り込もうとした。アーマーはその攻撃に耐えた。フレイルの鎖を手繰り寄せ射程を縮め、至近距離に近づいてきた相手に向け振り回す。
 アリアは二刀をクロスさせ鉄球を受けた。吹き飛ばされはしなかったものの踏ん張り切れず、たたらを踏んで後退する。アーマーがそれを追う。ルンルンの目がキラリと光る。

「そこでトラップカード発動です!」

 前以て仕掛けられていた地縛符が、アーマーの足を捕まえた。

「ルンルン忍法五星花!……舞う星の花弁の中で、光になれー」

 五色の光を浴びたアーマーは、いぶかしげに首を回した。眼球に当たる部分に、フレイルを持っていない方の手を当てた。どうやら強烈な光により、一時視界がきかなくなったらしい。
 ここを先途とブラックは、フレイルを持つ手の関節に狙いを定め撃ち続けた。
 アリアはもう一度膝目がけて切り込む。切り込まれた部分からばちばちと電流が走った。
 続けてリオンがファイアアローを放つ。
 炎は刃によって剥き出しとなった配線を直撃した。
 ぼん、と爆発が起きる。軸足の膝から下が吹き飛んだ。
 アーマーの体は足を失った側に大きく傾いていく。そしてより深く泥濘の虜となった。その場から動けなくなった。
 どこに何があるかも分からないまま目茶苦茶にフレイルを振り回す。それが距離を詰めようとしていたアリア、そしてミオレスカに当たる。
 前者は剣で後者は盾で直撃を防ぎ、ダメージを最小限に抑える。
 ちょうどそこで、無理な負担がかかり続けていたアーマーの腕がもげた。遠心力に任せてフレイルと一緒に飛んでいく。ルンルンのいる方角へ。彼女はとっさに自分が作っていたアースウォールの陰に隠れようとしたが間に合わなかった。当たってきたのが鉄球ではなく腕のほうだったのは幸いと言うべきか。
 リオンは残り全ての力をファイアアローに注ぎ込んだ。
 度重なる攻撃で疲労していたアーマーの各部分が、一気に崩壊する。稼働箇所から立て続けに火花が吹き上がった。
 アリアは剣を鞘に収め、歪虚となったアーマーが燃え尽きて行くさまを眺める。炎の中で崩れ行く頭蓋が物言いたげに数度顎を動かした後、灰となっていくまでを。
 本当ならこのアーマーは――青の世界の技術を真似、紅の世界で作られた鋼の守護者は――誰かを守るためにあったはずなのに、という物思いにふける。
 それが突然断ち切られた。かん高い声によって。

「ハハハッ。なーんだ。もう負けちゃったんだ。つまんねー、つまんねー」

 崩れた工場の屋根の上に、1匹の猿。本物の猿ではない。背に巻きネジがついたブリキの猿。

「せっかくオレ様が動けるようにしてやったのに、ほんとに役立たずだよなー」

 ブラックは即座に猿を撃った。歪虚であることは分かり切っていたからだ。
 猿は素早く弾を避けた。そしてウキキと歯を剥いた。

「当たんねーよ、ばーかばーか! これでもくらえー!」

 と言って屋根の上から何かを勢いよく投げ付けてくる。
 ハンターたちは反射的に身構える――何事もなかった。投げられてきたのは、ソラスから奪われた発煙手榴弾だったのだ。

「あれ、爆発しねーの? なんだよ、つまんねー!」

 言い捨て猿は身を翻し、逃げて行く。


●改めて本題へ


 結論から言って死者は一人も出ずにすんだ。一時危篤状態に陥っていた者も、一命を取り留めたのだ。彼らを含めなお十分な治療を要すると思われる者は、そのまま一時病院に入ることになった――タモンもそこに含まれている。 
 ソラスは彼から、自分の代行をしてくれないかと頼まれた。

「スペットさんだけでは、工房の責任者と話をすることは出来ませんから……お願い出来ますか?」

 ここまで来たらものはついで。
 ということでほかのハンターたちも、スペットのお使いについていくことにした。

「マゴイさんは、「鍵かけた」とも言ってました。物はやりようなら、ご自身で解呪を試みては?」

「……まあ、それもやってみる価値はあんな」

「受信機の出来上がりが楽しみですね」

「せやな」

 ソラスと話しながら行くスペットの後ろ姿を見てミオレスカは、目を細めた。

(人は、何かあると、良い方向に変わることが、ありますね)

 その気持ちを伝えたくて足を速める。スペットに追いつき、声をかける。

「スペットさんも、がんばってくれたようで、ありがとうございます」

「お、おお……」

「これからも、工場地帯を、よろしくお願いします」

「……よろしくて言われてもな……俺、正直フマーレとはあんまし縁ないで? 脱獄してるとき一時期おっただけで」

「あれ、そうでしたか?」

 そこへ詩とルンルンも交ざってくる。

「助かったよ。ありがとうね」

「何やお前ら急に」

「おー、又吉照れてますね」

「やかましわい」

 ブラックは集団の後ろで、アリアと話し合っている。

「あのブリキの猿、何者だ?」

「人語を解する事が出来ている時点で、かなり高位の歪虚よ。形状から推し量るに……恐らく嫉妬の眷属」

 半睡状態へと逆戻りしているドゥアルは、馬上で「ぐぅ」と言うばかり。
 スペットは不意に振り向き、ブラックに言う。

「そういやお前、オートマトンなんやてな」

「ああ、そうだ。珍しいか?」

「んー、まあな。動いてるの見るのは初めてや……ほんま人間と見分けつきへんな」

 目的地の工房が、すぐそこに見えてきた。


依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 10
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオンka2434
  • 紅の月を慈しむ乙女
    アリア・セリウスka6424

  • ブラック・バレットka7004

重体一覧

参加者一覧

  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • 寝具は相棒
    ドゥアル(ka3746
    エルフ|27才|女性|聖導士
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • 紅の月を慈しむ乙女
    アリア・セリウス(ka6424
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • 知るは楽しみなり
    ソラス(ka6581
    エルフ|20才|男性|魔術師

  • ブラック・バレット(ka7004
    オートマトン|25才|男性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/09/10 10:23:37
アイコン 相談卓だよ
天竜寺 詩(ka0396
人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2017/09/15 17:50:22