ゲスト
(ka0000)
【界冥】宴の跡に緑の悪夢
マスター:馬車猪
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/09/13 19:00
- 完成日
- 2017/09/20 19:59
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
VOIDと遭遇してから長い間。
人類は滅亡への坂道を転がり落ちていた。
従来の戦力はほとんど役に立たず、トマーゾ・アルキミア由来の技術に縋って生き延びていた。
無論、人類も努力を積み重ねた。
VOIDに効果があったCAMの開発と配備を進め、サルバトーレ・ロッソを初めとする宇宙戦艦を建造して艦隊を整備。
異世界からの来訪者あるいは帰還者が戦線に加わることによってようやく戦況が改善されつつある。
●安住の地
「でもあんまり土地とかコロニーとか取り返せてないんですよね」
「奪還後も問題だ。復旧にいくらかかると思う? 最低限でも予算の規模が……」
「いやー、奪還後のことを考えられるようになっただけ凄いですよ。ええ、凄いんですが」
月面崑崙基地内会議室。
若きエリート達が寝不足の顔をつきあわせていた。
「目の前の問題を片付けましょう。月に滞在中の避難民についてですが」
「理想は地球への移送だな。必要なのは護衛にロッソ級が複数と連絡船が……無理だな」
「超人運動会の会場に仮設住居建てちゃいましょうよ。それでかなりストレスを緩和できるはずです」
半死人じみた顔色でも地球全土から選び抜かれたエリートだ。
現状把握と試算は瞬く間に終わり、現実的な計画案として司令部へ提出された。
「つめたーい!」
「おかあさーん、こっちこっちー!」
テンションの高い子供達の声と、プールに飛び込む水音が連続して響いていた。
子供に引きずられる家族の顔色は悪くない。
崑崙基地までの避難も大変だったが、安全が保証されているとはいえ限られた空間での生活も十分過酷だ。
仮設とはいえ、家族だけで生活できる家が支給されたのは実に喜ばしい。
仮設住居があるのは超人運動会跡地……正確にはその幻獣部門が行われた場所であり近くにプールがある。
運動不足の解消をバカンス気分で行える、最高の立地であるはずだった。
「なにか光ってるよ?」
「みどりだー」
はしゃいでいた子供達が水面から顔をだし、何もないはずの場所をじっと見ている。
大人が気づいて見上げても何も認識できない。
いや。
触手にしか見えない何かが、プールの側に張られていた運動会ポスターをつまみ、力加減に失敗して引きちぎった。
「ベ」
「ベアトリクス!」
警報が崑崙基地中に鳴り響いた。
●クリムゾンウェスト
「崑崙基地からの救援要請です! 転移門前に向かって下さい!」
CAM用装備を運び込む魔導トラックの間を縫うようにして、あなたを含むハンターがソサエティーの建物内を走る。
オフィスも混乱しているようで、何も表示されていない3Dディスプレイや無意味に準備運動をするパルムがそこかしこに見える。
「ちょ、嘘でしょ……。んんっ、居住区内にベアトリクスの分体、CAMサイズの強力な歪虚が現れました」
職員の声が先程以上に動揺している。
詳しく聞こうと視線を向けても、よほど動揺しているらしくこちらの視線に気づいてくれない。
「近くに非武装の、非覚醒者の子供達が最低20人、親も入れて合計40名以上が避難できていません!」
普通に考えて大惨事確定である。
覚醒者なら時間経過で直る状態異常でも、非覚醒者、しかも心身共に育ちきっていない少年少女だと致命傷になりかねない。
「どうして……いえ、続報です! 自動ハードルで罠を、ってもう壊れたぁ?」
この職員減給処分だろうなぁと考えながら、戦闘準備を整えたCAMあるいは幻獣と合流する。
整備担当者と挨拶を躱す暇もなく転移が始まった。
一瞬にも満たない浮遊感が終わる。
茫然としたままの家族連れ多数の向こうに、緊張感のないCAMサイズ歪虚が飛び跳ねているのが見えた。
人類は滅亡への坂道を転がり落ちていた。
従来の戦力はほとんど役に立たず、トマーゾ・アルキミア由来の技術に縋って生き延びていた。
無論、人類も努力を積み重ねた。
VOIDに効果があったCAMの開発と配備を進め、サルバトーレ・ロッソを初めとする宇宙戦艦を建造して艦隊を整備。
異世界からの来訪者あるいは帰還者が戦線に加わることによってようやく戦況が改善されつつある。
●安住の地
「でもあんまり土地とかコロニーとか取り返せてないんですよね」
「奪還後も問題だ。復旧にいくらかかると思う? 最低限でも予算の規模が……」
「いやー、奪還後のことを考えられるようになっただけ凄いですよ。ええ、凄いんですが」
月面崑崙基地内会議室。
若きエリート達が寝不足の顔をつきあわせていた。
「目の前の問題を片付けましょう。月に滞在中の避難民についてですが」
「理想は地球への移送だな。必要なのは護衛にロッソ級が複数と連絡船が……無理だな」
「超人運動会の会場に仮設住居建てちゃいましょうよ。それでかなりストレスを緩和できるはずです」
半死人じみた顔色でも地球全土から選び抜かれたエリートだ。
現状把握と試算は瞬く間に終わり、現実的な計画案として司令部へ提出された。
「つめたーい!」
「おかあさーん、こっちこっちー!」
テンションの高い子供達の声と、プールに飛び込む水音が連続して響いていた。
子供に引きずられる家族の顔色は悪くない。
崑崙基地までの避難も大変だったが、安全が保証されているとはいえ限られた空間での生活も十分過酷だ。
仮設とはいえ、家族だけで生活できる家が支給されたのは実に喜ばしい。
仮設住居があるのは超人運動会跡地……正確にはその幻獣部門が行われた場所であり近くにプールがある。
運動不足の解消をバカンス気分で行える、最高の立地であるはずだった。
「なにか光ってるよ?」
「みどりだー」
はしゃいでいた子供達が水面から顔をだし、何もないはずの場所をじっと見ている。
大人が気づいて見上げても何も認識できない。
いや。
触手にしか見えない何かが、プールの側に張られていた運動会ポスターをつまみ、力加減に失敗して引きちぎった。
「ベ」
「ベアトリクス!」
警報が崑崙基地中に鳴り響いた。
●クリムゾンウェスト
「崑崙基地からの救援要請です! 転移門前に向かって下さい!」
CAM用装備を運び込む魔導トラックの間を縫うようにして、あなたを含むハンターがソサエティーの建物内を走る。
オフィスも混乱しているようで、何も表示されていない3Dディスプレイや無意味に準備運動をするパルムがそこかしこに見える。
「ちょ、嘘でしょ……。んんっ、居住区内にベアトリクスの分体、CAMサイズの強力な歪虚が現れました」
職員の声が先程以上に動揺している。
詳しく聞こうと視線を向けても、よほど動揺しているらしくこちらの視線に気づいてくれない。
「近くに非武装の、非覚醒者の子供達が最低20人、親も入れて合計40名以上が避難できていません!」
普通に考えて大惨事確定である。
覚醒者なら時間経過で直る状態異常でも、非覚醒者、しかも心身共に育ちきっていない少年少女だと致命傷になりかねない。
「どうして……いえ、続報です! 自動ハードルで罠を、ってもう壊れたぁ?」
この職員減給処分だろうなぁと考えながら、戦闘準備を整えたCAMあるいは幻獣と合流する。
整備担当者と挨拶を躱す暇もなく転移が始まった。
一瞬にも満たない浮遊感が終わる。
茫然としたままの家族連れ多数の向こうに、緊張感のないCAMサイズ歪虚が飛び跳ねているのが見えた。
リプレイ本文
●緑のドーム
芝生の緑が眩しい、広大な運動場が併設された住宅地。
避難民の心身を癒やすはずだったこの場所に、恐怖の象徴ともいえる歪虚が現れていた。
たった1本の触手が、破壊された大型機材を軽々抱えている。
CAMに似た本体の胸部には美しくも不気味な紅玉があり、ためつすがめつするかのように鈍く明滅している。
「子供がパニックを起こしてないだけマシな状況だけどね」
転移が終わる。
オファニムが数センチ落下する間に要救助者と歪虚の位置を確認。
コクピットに増設した狙撃銃型デバイスで狙いをつけ、脚部が芝生を踏みつぶすと同時に引き金を引いた。
オファニムには不可能なはずの速度で弾幕を張る。
強力とはいえたった1門の方から放たれた弾が緑の機体にいくつも当たる。
その直後、ハンターの視力ですら捉えられない速度で【レラージュ・ベナンディ】とアニス・テスタロッサ(ka0141)に向き直る。
「この距離じゃ全速でも間に合わねぇ。全員聞こえてるか! 制圧射撃で引きつけている間にブッ込め!」
子供共々逃げ遅れた親たちは、高価な機体を使って歪虚にダメージを与えられないのかと失望しているのが大部分だ。
なお、監視カメラ越しに見ている連合宙軍の軍人達は、単機でベアトリクス分体に当てていることに気づいて驚愕している。
「チィッ」
狙いがずれていく。
100メートル以上離れているのに、ベアトリクスのまき散らす狂気が機体を冒している。
気づいていても抵抗できない。
だがアニスは一歩も引かず、1秒でも長く注意を引きつけるため射撃を継続する。
「よりによって居住区に乱入とかありえねーだろ!」
リアルブルーの最新技術が作り上げたドームの中、ファンタジーなワイバーンの背に乗り岩井崎 旭(ka0234)が叫ぶ。
アニス機と比べると狂気の影響を受けていない。
どうやら情報通り、ベアトリクスの狂気は機械に特別よく効く状態異常攻撃のようだ。
「頼むぜロジャック! お前の力が必要だ!」
蒼の鱗を持つワイバーンが目を見開いた。
意に反してずれていた向きを微修正。
小さなミス1つでベアトリクスあるいは地面に激突する進路のまま加速する。
触手が大型機材……幻獣運動会の自動ハードルを投げ捨てる。
芝生に壊れた機材が触れるよりも速く、頭部の小紅玉と胸部の紅玉から緑の光が放たれた。
「足を止めるな!」
長柄の戦斧をナイフか何かのように高速で振るう。
緑の光が弾け、本来の威力の10分の1にも満たない圧が鱗と篭手を揺らす。
「こりゃとんでもないな」
旭にわずかに遅れて飛んでいたヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)が、グリフォンの背でにやりと笑う。
グリフォンは主の落ち着きに勇気づけられ、ワイバーンと同じ最も危険な進路を選択した。
「正義のヒーローは子供の味方ってな!」
5つの発煙手榴弾を器用に取り出す。
大量の緑色レーザー……にしては遅い、負のマテリアル由来の破壊光線を躱して躱して躱し損ねて手榴弾を庇う。
自由に動ける地上とは違い、足場のない空中では回避の難易度が数段上がっていた。
「こっちを」
意識が加速する。
ベアトリクスを食い止めようとするハンター、逃げ遅れた親子を助けに向かうハンターに、一歩も動けない親子たちを同時に知覚する。
真正面からは緑の光がシャワーの如く降り注ぐ。
頑丈なグリフォンでも長時間は耐えられない。
「見るじゃん!」
子供を勇気づけるヒーローのように華やかに、血を流し敵を防ぐヒーローのように勇気を持って、危険なほどの近距離で発煙手榴弾を投擲。
5色の煙がショーのごとく広がるが防御力はない。
荒れ狂うレーザーをグリフォンとヴォーイが分担して防ぐ。
旭が煙に紛れてベアトリクスの視界から消える。
触手が重なり合いヴォーイとグリフォンを空中からたたき落とそうと待ち構える。
そのとき、ベアトリクスの意識から外れるぎりぎりの距離で、白い幻獣が悠然と動いた。
ベアトリクスの意識が逸れる。
ヴォーイとグリフォンの呼吸が安定する。
墜落直前で持ち直してベアトリクスから離れる。
そして、超急角度で旋回したワイバーンが、ベアトリクスの頭上から襲いかかった。
「捉えたぞ!」
ベアトリクスの装甲がみしりと鳴る。
至近距離から吹き付ける狂気に旭とワイバーンが必死に耐え、地面から引き抜くようにベアトリクスを宙に浮かした。
「ベアトリクスの分体……この場所に入り込んだ方法も原因も不明だけど……先ずは目の前の対処から……!」
加速も減速も出来ないベアトリクスに、冷たい蒼と白銀の魔導型デュミナスが大型の剣で仕掛けた。
掠めるだけでもたたでは済まない威力がある。
敵も動かずアニスの射撃による支援もある。
なのに当たらない。
魔導型デュミナスでは至近距離の狂気に抵抗仕切れず、高度な回避能力を上回ることもできずに躱される。
「イレーネ!」
南にいる親子には目を向けさせないよう、これまで牽制を重視してきたアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)とそのイェジドが攻めに転じる。
イェジドは全速力で駆け抜ける。
アルトは【イレーネ】の全速力に負けない速度で、しかも正確に狙った上での三連撃を繰り出し、躱される。
だがそれもアルトの狙いのうち。
ベアトリクスが回避のために向かった場所で、凶悪なプラズマ弾が緑の機体に何度も着弾した。
「保ってくれよ」
優れた射撃と回避の力はあっても、盾を持つ余裕のない機体に接近戦を命令する。
広範囲をカバーするプラズマ弾を射出。
反撃のレーザーが多すぎ、【レラージュ・ベナンディ】の回避能力でも全ては躱せず小さくないダメージを受ける。
歪虚を足止めするため接近戦を強いられる旭の被害が大きい。
飛行に支障が出るほどダメージを受けたワイバーン【ロジャック】から降り、自分の足で回避し、防いで、会心の一撃を浴びせたはずが躱される。
己の血で濡れた魔斧を構えす。
複数方向から押し寄せる触手を弾いて被害を減らす。
「一時的に飛行性能を失っているなら、脚を押さえられれば……」
フィルメリア・クリスティア(ka3380)が白銀の魔導型デュミナスをさらに前進させる。
レーザーと触手の豪雨が防ぎきれずに何度も直撃を浴び、けれど致命的な一撃は一度も無い。
攻撃力と回避能力を高水準程度で止め、多くのリソースを防護能力に投じているのだ。
多少抵抗に失敗しようが回避にも防御にも失敗しようが問題ない。
優れた装甲とCAMらしい頑丈さは狂気王の分体による全力攻撃に耐え抜き、捕縛こそ失敗するが他のハンターが攻撃する時間を稼いでみせた。
「ここは通さない」
アルトが再度襲撃をかける。
身の丈を超える剛刀の切っ先から美しい体のライン、そして逞しいイェジドまでが見事に一体となり強烈な斬撃を繰り出す。
これほどの一撃が、ただのフェイントだ。
ベアトリクスがCAMの攻撃を軽々と回避。アルトの一打をそれなりに余裕を以て躱し、祖霊の幻影で巨大化した旭をぎりぎりで躱そうとしたところでワイヤーに足を引っ張られた。
アルトが魔導ワイヤーを全力で引っ張る。
【イレーネ】が大地を踏みしめCAMサイズの重量に耐える。
そして旭が、大戦斧を超高速で振り下ろして右胸までめり込ませた。
緑の光がドームを照らす。
触手の半数近くが千切れ、胸部の紅玉にひびが入る。
その瞬間、ベアトリクスの抵抗力がファントムハンドを上回り拘束がふりほどかれた。
「まだだ!」
旭が吼える。
初回を上回る呪いが緑の悪魔に殺到。
一度は跳ね返すがフィルメリアが【Is Regina】を盾にして邪魔し距離を稼がせない。
「ガキの所には行かせねぇ!」
ベアトリクスの進路がいきなり変わる。
傷だらけで血だらけの旭に向かって落下して、その途中で狂ったように旭に向けてレーザーを打ち触手で殴りかかる。
強すぎる衝撃で痛みを感じることも出来ず、けれど旭は意識が薄れていく間も拘束を決して解かない。
アニスの砲火がベアトリクスが回避に使える空間を減らす。
アルトの強力かつ手数の多い斬撃を避けるためますます逃げる先が無くなる。
そして、最後に残ったわずかな空間に、細かくも激しく振動する刃が突き入れられた。
「遊び相手が欲しいにしても、貴女の相手が出来ない人を狙わせる訳無いでしょう?」
南側の表面を、削ぐ。
宇宙線に耐えてきた装甲表面を削り、レーザー発振以外の機能も持っていた小紅玉を回復不能なレベルにまで削り切る。
フィルメリアの攻撃は一撃だけでは終わらない。
機載コンピューターが熱で壊れる寸前まで酷使して命中精度を上げ、どれだけ反撃を受けても攻撃の手を一切緩めない。
装甲に埋まった紅玉を削り、反撃のレーザーでコクピットに穴を開けられても止まらない。
旭が倒れてファントムハンドが切れる。
全員揃っていない今ならまだ互角以上に戦えるはずなのに、ベアトリクスは誰もいない北めがけて飛び去っていく。
相変わらず、戦っているという意識がほとんどない。
「決め手に欠けますね」
刃をガトリングガンに持ち替えてもフィルメリアは引き金を引けない。
至近距離で濃密な狂気を浴びたため、10秒程度では回復しない障害が機体に発生していた。
●最大難易度の晴れ舞台
魔導トラックの全面に、視認性を高めるにもほどがある塗装が施されている。
踊るピエロに演奏するにゃんこ。
犬耳メイドにミニカッパに妖精。
大人の大部分が困惑して一部は現実感が持てなくなり、半数くらいの子供は北の戦いにも気づかず無邪気にはしゃぎ始める。
魔導トラックが止まる。
ぽこん、と気の抜ける音がして荷台部分の扉が開く。
運転席から死角を通って荷台兼舞台に立ったカナタ・ハテナ(ka2130)が、ステージ衣装で洒落っ気のある一礼をした。
踊るバックダンサーズ(桜型妖精「アリス」、もっちゃりかっぱ、ユグディラ)がとても可愛らしい。
子供達が魅了されてはしゃぎ出す寸前に、カナタが口元に指を当てて微笑み違和感なく黙らせた。
「突然じゃが、実戦さながらの避難訓練を始めるのじゃ」
犬耳メイド……ではなく小宮・千秋(ka6272)が誘導を始めている。
おさない、かけない、しゃべらない、もどらないと書いたプラカードをユグディラと手分けして運んで掲げ、親が2人いる場合は片方を巻き込んで整列に協力させる。
「実はあのVOIDはCAMで偽装した偽者なのじゃ」
小柄で細身の体で胸を張る。
冗談に聞こえるように、細心の注意を払って声の大きさから口調、目力から雰囲気まで完全に制御している。
「ハンターが敵を抑えてる間に避難するのじゃ」
カナタが説明している間、千秋は無言のまま子供プールから引っ張り上げて親たちに渡し、度胸が据わっている母親や父親には小声で囁いて事情を伝えた。
ここまで子供込みで生き抜いてきてきただけあって予想以上に根性がある。
カナタの発言を全面的に受け入れた態度で、多少こわばった笑顔で子供と一緒に魔導トラックへ向かい始めた。
「しかし訓練だからといって気を抜くのはダメじゃぞ。おろそかにすると、いつの日か本物が現れた時に大変な事になるのじゃ」
カナタも誘導に加わる。
踊るようにではなく、文字通り踊りながら親子を誘導しはぐれそうになる子供を親の元へ導く。
この場の数十人の命がかかっているのに気づいているのだろう。
もっちゃりかっぱと桜型妖精も、全力で愛想を振りまきつつ子供の注意を惹きつけていた。
「OKです」
千秋が荷台から合図を送る。
限界まで増設した荷台から転げ落ちることがないよう、手すりになる形でロープを張って固定した。
慣れた者でも数十分かかりそうな作業だが千秋にとっては容易いことだ。
覚醒者で、何よりメイドなのだから。
カナタは目だけで感謝と了解の返事をする。
30名の親子を荷台に乗せてから、北の戦場よりも心を惹きつける仕草で宣言する。
「安全な家で職員がご褒美のオヤツを用意して待って居るのじゃ。だいいちじん、しゅっぱーつ!」
荷台の調整に熟練整備士多数の協力を得たとはいえ、魔導トラックは本来6人乗りである。
5倍乗せると速度も出ないし回避のための動きもできない。
それでも、残った20名を引率するよりは簡単なはずだ。
「皆さーん、避難訓練のルールは学校で習いましたよねー」
ここからが本番だ。
少なくとも盾にはなる魔導トラックは離れてしまい、この場に残ったのは救助が必要な親子と千秋と猫だけだ。
「お、か、し、も、を守って速やかに避難しましょー」
今が平時であるかのように振るまうことで親子たちの認識を歪めていく。
本物の戦場が北にある状態でするのは極めて困難だ。
だが千秋とユグディラに諦めるつもりはない。
「これが出来た人にはなんと本物のお菓子を差し上げちゃいまーす。皆さんは出来るでしょうかー?」
銀盆を取り出す。
クッキーやキャンディが綺麗に並べられ、食欲以上にわくわくする感覚を演出されていた。
つい癖で演奏しかけたユグディラを、こつんと叩いて止め最後尾にまわす。
狂気王の分体は北に飛んだ。
しかしいつ反転するか分からないし、反転すれば数十秒もかからず緑のレーザーが降り注ぎかねない。
20名の親子の先頭に立ち、犬尻尾を可愛らしく揺らし、弾むような足取りで大きな家へ向かう。
この状態で敵襲があれば全滅するかもしれない。
だが全員助けるにはこの方法しかない。
千秋は内心冷や汗を流しながら、愛嬌と自負を兼ね備えたメイドを演じ抜く。
感情が不安定になった子供には適量のお菓子を差し出し、子供より親が耐えきれなく前にハンターとして頼りがいのある面を見せる。
正直ベアトリクスを相手に戦う方が気が楽だけれども、20の命を預かっている以上今更逃げることはできない。
シェルター兼用の家がゆっくりと近づいて来る。
避難民収容をなんとか終わらせたカナタが、急いで魔導トラックに乗り込むのが見せた。
「百里を行く者は九十を半ばとすー、ですよ」
安全地帯が近づき緩んでいた親たちに緊張感が戻る。
北からは砲声も爆音も聞こえない。
だが、怪しい緑の光が非常識な加速で動き始めていた。
「あと20歩、頑張ってくださーい!」
後少しだ。
トラックに乗せるのは時間のロスと判断してカナタは北に向かわせる。
「お、か、し、も、ですよ。自分より小さい子を助けてあげてくださいねー」
実際に助けようとしたした子供にはクッキーを。
空回りしたり助けられた子には黙らせるために飴玉を。
精神をヤスリで削るような行程を笑顔で完了し、千秋は最後の要救助者をシェルターへ送り込んだ。
後ろ手に分厚い扉を閉めてロックをかける。
まだまだ任務は終わらない。
本能的に危険地帯から逃れた子供がはしゃぎ始めている。
覚醒者の身体能力を全開にして外に通じる窓を塞いでいき、気絶するようにうずくまる大人を寝室に案内する。
この困難な作業がいつ終わるか、誰にも分からなかった。
●渦の罠
HMDが緑に塗りつぶされていた。
オウカ・レンヴォルト(ka0301)は五感では無くマテリアルの流れをみてタイミングを計る。
左右の操縦桿を同時に押して、戻す。
オファニムが舞いを思わせる動きでベアトリクスの突撃を回避。
去りゆく背に電磁加速砲を向け、絶妙のタイミングで引き金を引いた。
「分かってはいたが」
手応えが無い。
生身なら込められるマテリアルが武器まで届かず、生身なら可能な狙いの微修正が行えない。
王牙と名付けた彼の戦馬は、まだ彼の力を100パーセント引き出すほどの性能がない。
「もどかしいものだ」
満月を思わせる瞳が正確にベアトリクスを追う。
狂気に冒された機体に四肢と脳波で命令を伝達。
弾切れでリロード不可の電磁加速砲から機関銃に切り替え銃撃を浴びせる。
回復したHMDには回避されたとの情報が。
反対に、オウカの手には微かではあるが当たった手応えが。
反撃のレーザーを躱し、耐え、躱しながら気配を探ると、一旦シェルター北端に向いていた興味がオウカとその機体に移ったのが感じ取れた。
「分かっている」
穏やかにつぶやく。
契約精霊に似た気配が、彼の背中に一瞬現れ消えていく。
急に手足の動きが速くなる。
それまでの繊細で流麗な動きを辞め、速度だけを優先した無骨な走りで大きな凹みを目指す。
そこは以前、多数の幻獣の勝負に使われたプールであり、使い方次第で凶悪な罠になる切り札である。
「後は、今日の真打ちに任せるとしよう」
「最後まで戦ってくれていいからっ」
グリフォンが宙で横転を繰り返して緑色レーザーを躱す。
ベアトリクスの意識は一度痛い目にあった気配……ファントムハンド発動前の気配に気づいてグリフォンとその背のヴォーイを執拗に狙った。
オウカは言葉では答えず操縦を切り替える。
攻撃可能な速度まで落として機関銃を斜め上に向ける。
相変わらずCAMとは別次元の速さの緑へ照準をあわせ、まず当たらない銃撃を淡々と継続する。
本当に当たらない。
しかし注意の一部をオウカに引き戻す程度の効果はあり、ヴォーイが受ける圧力がその分低下した。
グリフォンがプール上でホバリングしながら180度反転。
ヴォーイが不敵な笑みを浮かべてベアトリクスを挑発する。
ファントムハンドの準備を整え、一瞬たりとも注意を逸らさない。
なのに、死角である背後から触手が伸びてグリフォンとヴォーイを激しく打つ。
いわゆるサブ移動だけで長大な距離を渡りきって全力で攻撃してきたのだ。
「上等!」
かつて憧れたヒーローのように、架空のヒーローとは違って現実の血を流し、ヴォーイは幻腕の呪いを完成させる。
壮絶な移動能力を誇る狂気王分体の足が止まる。
グリフォンが危険なほど高度を下げ、歪虚の触手と割れた紅玉がプールの水に触れた。
緑の嵐がヴォーイを襲う。
グリフォンとヴォーイは最低限必要な生命力を分け合うかのように、無数の攻撃を分担して引き受け時間を稼ぐ。
「逃がすものかよぉ!」
幻の呪いを維持し続ける。
負傷の度合いが危険域に入ってもとにかく耐える。
リジェネレーションは使っているが全く追いつかない。
「幻獣は小せぇんだ。流れに巻き込まれるなよ!」
【レラージュ・ベナンディ】がベアトリクスに体当たりをかける。
組み付きを狙ったのだが、足が止まっている状態でもベアトリクスの回避能力も防御能力も健在だ。
が、そこにいるのが確実なら打てる手はいくらでもある。
「これでも」
何の工夫もなく殴りつける。
得物を使わない攻撃は威力が低く、ベアトリクスは最初こそ警戒するがすぐにアニス機への警戒を緩める。
「食らいやがれ」
歪虚の負傷部位に拳を突き込んだ瞬間、最後のプラズマ弾を発動する。
そのタイミングでついにヴォーイが気絶する。
広範囲の攻撃に晒されたベアトリクスは、避けづらい攻撃に晒され続けるのを嫌がり、障害物のないプールを通って空に戻ろうとした。
「やれ!」
プールの端から稲光と黒煙が漏れる。
機材を犠牲にした1回限りの高圧が、プールの水流を兵器の域まで押し上げる。
大きく重いというだけで十分な脅威だ。
そこに勢いが加わると高位の歪虚にすら通用する。
水が緑の巨体を巻き込み、プールの端のコンクリにぶつけてめり込ませた。
「厭な事思い出させやがって……」
至近距離で狂気を浴びたアニスは、擱座寸前の機体の中から停止した緑を睨み付ける。
健在なフィルメリア機が盾をかざしてベアトリクスに向かう。
ここまで追い込まれても緑の悪魔の攻撃力は巨大であり、盾の上からでも届く衝撃で以て【Is Regina】本体にダメージを積み重ねる。
「足止めはこれでいいでしょう」
CAMを覆うサイズの盾でベアトリクスの下半身を押さえつける。
巨大な刃を使った攻撃は行わず、機導浄化術を使い機体の不調を取り除いて1秒でも長く拘束できるようにする。。
「後は」
純白のイェジドが、緑の豪雨をすり抜け最悪の戦場に突入する。
地面にしかっかり足を付けているので回避能力は10割発揮できる。
つまり、アルトと分かれても戦力になるということだ。
使い捨ての精神安定剤を捨ててアルトが飛び降りる。
【イレーネ】が前に出ながら咆哮で牽制。
タイミングをずらしてアルトが仕掛け、CAM級の巨体を持つ歪虚に3連撃を浴びせて振り返る。
高度な技術と圧倒的というのも生温い身体能力があって始めてできる猛攻に、ベアトリクスは2度まで耐えて見せた。
「っ」
アルトが目を細める。
逃げられないベアトリクスが死にものぐるいになっている。
狂気の密度が増し、彼女の飛び抜けた抵抗力でも耐えきれなくなりつつある。
「間に合ったか。サポートはさせてもらおう」
オファニム【夜天二式「王牙」】が膝をつて射撃の構えをとる。
電磁加速砲を使うには距離が近すぎ、そもそも電磁加速砲に残弾はない。
しかしレールガンを砲ではなく術の媒介とすることで、射程こそ短いものの凄まじい威力を持つ一撃を生み出す。
光の直線がベアトリクスの装甲を貫く。
慌てて躱そうとして、その強力な術よりさらに強力なアルトの一撃を思い出す。
剛刀「大輪一文字」がベアトリクスの脇を掠める。
当たれば装甲ごと切り飛ばせるはずだった斬撃が空振り。
だが続く第2撃第3撃は装甲と無防備な触手に直撃する。
装甲が切り裂かれて体液が噴出。
切り飛ばされた触手が痙攣しながらプールへ落ちる。
恐れをなしたベアトリクスが、下半身を引きちぎるようにしてフィルメリア機の拘束から脱出。
が、何もないはずの場所から進めなくなって奇妙な踊りをすることになる。
「ベア分どん!」
ディヴァインウィル。
カナタの作り上げた無色の境界が、弱り切ったベアトリクス分体を空に羽ばたかせない。
意識のあるハンターの銃撃が集中する。
範囲攻撃は品切れでも数は力だ。
足止めされたベアトリクスが避けるための空間を一気に削り取る。
「触手もレーザーも上手に使う。だがこの程度なら」
アルトが単身でベアトリクスに仕掛ける。
レーザーと触手の密度は異様なほど高く、雨を避けて歩けるアルトでも数度の被弾を許してしまう。
ベアトリクの消耗も激しい。
これまで躱せていた斬撃を回避も受けも出来ず、体の端から壊されて機能を失っていく。
「事情は直接、体に聞く!」
サーカス塗装の魔導トラックが後先考えない加速を始める。
イェジドがまず驚き、即危険に気づいて進路を譲る。
カナタはアクセルを限界まで踏んでハンドルを微調整。
最悪でも助手席と塗装がつぶれて済む進路で、狂気王の分体へドリルを先頭に直撃した。
衝撃がカナタを貫く。
体の痛みは耐えられる。
問題は、気を抜かなくても吹き飛びそうになる精神だ。
「ベアどんが近い……」
狂気王の気配が濃すぎる。
まるで月軌道上にでもいるかのようだ。
「ベアどん、じゃな……くて」
分体から感じられる、方向音痴の善意らしきものが極限まで薄れている。
それこそ歪虚の王に相応しい悪意が、本来のベアトリクスを浸食しているような……。
運転席のカナタが血を吐き朦朧とする。
【イレーネ】が前に飛び出る。
空では無く半壊トラックを貫き逃げようとしたベアトリクスと正面衝突。
【イレーネ】も吹き飛ばされるがベアトリクスも速度が出ずに地表1メートルをふらふら飛ぶ。
そこに手裏剣が当たって根元まで入る。
柄から伸びるマテリアルの糸がアルトを運び、ベアトリクスの血を大量に浴び緑光を纏うに至った刃を両手で振り下ろす。
紅玉が粉塵に変わる。
触手でも肉でも無く、負のマテリアルが形作る核が砕けて不健康な風が吹き抜ける。
どさりと、大重量の何かが芝生を踏みつぶす音が聞こえた。
アルトが着地し、刃を振って血と緑光を振り払う。
ドームの照明に溶けていくベアトリクスからは、既に威圧感も負の気配も感じられなくなっていた。
「早々に処理すべき、だな。この種のVOIDは準備を整えたハンターにしか対処できない」
「周囲の環境への影響と状況調査も連合中軍に依頼しておきます。一応、トマーゾへも連絡を。忙しいなりに何かしら手を考えてくれるでしょう」
オウカとフィルメリアが言葉を交わし、再転移に備えた準備と後片付けを進めていった。
芝生の緑が眩しい、広大な運動場が併設された住宅地。
避難民の心身を癒やすはずだったこの場所に、恐怖の象徴ともいえる歪虚が現れていた。
たった1本の触手が、破壊された大型機材を軽々抱えている。
CAMに似た本体の胸部には美しくも不気味な紅玉があり、ためつすがめつするかのように鈍く明滅している。
「子供がパニックを起こしてないだけマシな状況だけどね」
転移が終わる。
オファニムが数センチ落下する間に要救助者と歪虚の位置を確認。
コクピットに増設した狙撃銃型デバイスで狙いをつけ、脚部が芝生を踏みつぶすと同時に引き金を引いた。
オファニムには不可能なはずの速度で弾幕を張る。
強力とはいえたった1門の方から放たれた弾が緑の機体にいくつも当たる。
その直後、ハンターの視力ですら捉えられない速度で【レラージュ・ベナンディ】とアニス・テスタロッサ(ka0141)に向き直る。
「この距離じゃ全速でも間に合わねぇ。全員聞こえてるか! 制圧射撃で引きつけている間にブッ込め!」
子供共々逃げ遅れた親たちは、高価な機体を使って歪虚にダメージを与えられないのかと失望しているのが大部分だ。
なお、監視カメラ越しに見ている連合宙軍の軍人達は、単機でベアトリクス分体に当てていることに気づいて驚愕している。
「チィッ」
狙いがずれていく。
100メートル以上離れているのに、ベアトリクスのまき散らす狂気が機体を冒している。
気づいていても抵抗できない。
だがアニスは一歩も引かず、1秒でも長く注意を引きつけるため射撃を継続する。
「よりによって居住区に乱入とかありえねーだろ!」
リアルブルーの最新技術が作り上げたドームの中、ファンタジーなワイバーンの背に乗り岩井崎 旭(ka0234)が叫ぶ。
アニス機と比べると狂気の影響を受けていない。
どうやら情報通り、ベアトリクスの狂気は機械に特別よく効く状態異常攻撃のようだ。
「頼むぜロジャック! お前の力が必要だ!」
蒼の鱗を持つワイバーンが目を見開いた。
意に反してずれていた向きを微修正。
小さなミス1つでベアトリクスあるいは地面に激突する進路のまま加速する。
触手が大型機材……幻獣運動会の自動ハードルを投げ捨てる。
芝生に壊れた機材が触れるよりも速く、頭部の小紅玉と胸部の紅玉から緑の光が放たれた。
「足を止めるな!」
長柄の戦斧をナイフか何かのように高速で振るう。
緑の光が弾け、本来の威力の10分の1にも満たない圧が鱗と篭手を揺らす。
「こりゃとんでもないな」
旭にわずかに遅れて飛んでいたヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)が、グリフォンの背でにやりと笑う。
グリフォンは主の落ち着きに勇気づけられ、ワイバーンと同じ最も危険な進路を選択した。
「正義のヒーローは子供の味方ってな!」
5つの発煙手榴弾を器用に取り出す。
大量の緑色レーザー……にしては遅い、負のマテリアル由来の破壊光線を躱して躱して躱し損ねて手榴弾を庇う。
自由に動ける地上とは違い、足場のない空中では回避の難易度が数段上がっていた。
「こっちを」
意識が加速する。
ベアトリクスを食い止めようとするハンター、逃げ遅れた親子を助けに向かうハンターに、一歩も動けない親子たちを同時に知覚する。
真正面からは緑の光がシャワーの如く降り注ぐ。
頑丈なグリフォンでも長時間は耐えられない。
「見るじゃん!」
子供を勇気づけるヒーローのように華やかに、血を流し敵を防ぐヒーローのように勇気を持って、危険なほどの近距離で発煙手榴弾を投擲。
5色の煙がショーのごとく広がるが防御力はない。
荒れ狂うレーザーをグリフォンとヴォーイが分担して防ぐ。
旭が煙に紛れてベアトリクスの視界から消える。
触手が重なり合いヴォーイとグリフォンを空中からたたき落とそうと待ち構える。
そのとき、ベアトリクスの意識から外れるぎりぎりの距離で、白い幻獣が悠然と動いた。
ベアトリクスの意識が逸れる。
ヴォーイとグリフォンの呼吸が安定する。
墜落直前で持ち直してベアトリクスから離れる。
そして、超急角度で旋回したワイバーンが、ベアトリクスの頭上から襲いかかった。
「捉えたぞ!」
ベアトリクスの装甲がみしりと鳴る。
至近距離から吹き付ける狂気に旭とワイバーンが必死に耐え、地面から引き抜くようにベアトリクスを宙に浮かした。
「ベアトリクスの分体……この場所に入り込んだ方法も原因も不明だけど……先ずは目の前の対処から……!」
加速も減速も出来ないベアトリクスに、冷たい蒼と白銀の魔導型デュミナスが大型の剣で仕掛けた。
掠めるだけでもたたでは済まない威力がある。
敵も動かずアニスの射撃による支援もある。
なのに当たらない。
魔導型デュミナスでは至近距離の狂気に抵抗仕切れず、高度な回避能力を上回ることもできずに躱される。
「イレーネ!」
南にいる親子には目を向けさせないよう、これまで牽制を重視してきたアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)とそのイェジドが攻めに転じる。
イェジドは全速力で駆け抜ける。
アルトは【イレーネ】の全速力に負けない速度で、しかも正確に狙った上での三連撃を繰り出し、躱される。
だがそれもアルトの狙いのうち。
ベアトリクスが回避のために向かった場所で、凶悪なプラズマ弾が緑の機体に何度も着弾した。
「保ってくれよ」
優れた射撃と回避の力はあっても、盾を持つ余裕のない機体に接近戦を命令する。
広範囲をカバーするプラズマ弾を射出。
反撃のレーザーが多すぎ、【レラージュ・ベナンディ】の回避能力でも全ては躱せず小さくないダメージを受ける。
歪虚を足止めするため接近戦を強いられる旭の被害が大きい。
飛行に支障が出るほどダメージを受けたワイバーン【ロジャック】から降り、自分の足で回避し、防いで、会心の一撃を浴びせたはずが躱される。
己の血で濡れた魔斧を構えす。
複数方向から押し寄せる触手を弾いて被害を減らす。
「一時的に飛行性能を失っているなら、脚を押さえられれば……」
フィルメリア・クリスティア(ka3380)が白銀の魔導型デュミナスをさらに前進させる。
レーザーと触手の豪雨が防ぎきれずに何度も直撃を浴び、けれど致命的な一撃は一度も無い。
攻撃力と回避能力を高水準程度で止め、多くのリソースを防護能力に投じているのだ。
多少抵抗に失敗しようが回避にも防御にも失敗しようが問題ない。
優れた装甲とCAMらしい頑丈さは狂気王の分体による全力攻撃に耐え抜き、捕縛こそ失敗するが他のハンターが攻撃する時間を稼いでみせた。
「ここは通さない」
アルトが再度襲撃をかける。
身の丈を超える剛刀の切っ先から美しい体のライン、そして逞しいイェジドまでが見事に一体となり強烈な斬撃を繰り出す。
これほどの一撃が、ただのフェイントだ。
ベアトリクスがCAMの攻撃を軽々と回避。アルトの一打をそれなりに余裕を以て躱し、祖霊の幻影で巨大化した旭をぎりぎりで躱そうとしたところでワイヤーに足を引っ張られた。
アルトが魔導ワイヤーを全力で引っ張る。
【イレーネ】が大地を踏みしめCAMサイズの重量に耐える。
そして旭が、大戦斧を超高速で振り下ろして右胸までめり込ませた。
緑の光がドームを照らす。
触手の半数近くが千切れ、胸部の紅玉にひびが入る。
その瞬間、ベアトリクスの抵抗力がファントムハンドを上回り拘束がふりほどかれた。
「まだだ!」
旭が吼える。
初回を上回る呪いが緑の悪魔に殺到。
一度は跳ね返すがフィルメリアが【Is Regina】を盾にして邪魔し距離を稼がせない。
「ガキの所には行かせねぇ!」
ベアトリクスの進路がいきなり変わる。
傷だらけで血だらけの旭に向かって落下して、その途中で狂ったように旭に向けてレーザーを打ち触手で殴りかかる。
強すぎる衝撃で痛みを感じることも出来ず、けれど旭は意識が薄れていく間も拘束を決して解かない。
アニスの砲火がベアトリクスが回避に使える空間を減らす。
アルトの強力かつ手数の多い斬撃を避けるためますます逃げる先が無くなる。
そして、最後に残ったわずかな空間に、細かくも激しく振動する刃が突き入れられた。
「遊び相手が欲しいにしても、貴女の相手が出来ない人を狙わせる訳無いでしょう?」
南側の表面を、削ぐ。
宇宙線に耐えてきた装甲表面を削り、レーザー発振以外の機能も持っていた小紅玉を回復不能なレベルにまで削り切る。
フィルメリアの攻撃は一撃だけでは終わらない。
機載コンピューターが熱で壊れる寸前まで酷使して命中精度を上げ、どれだけ反撃を受けても攻撃の手を一切緩めない。
装甲に埋まった紅玉を削り、反撃のレーザーでコクピットに穴を開けられても止まらない。
旭が倒れてファントムハンドが切れる。
全員揃っていない今ならまだ互角以上に戦えるはずなのに、ベアトリクスは誰もいない北めがけて飛び去っていく。
相変わらず、戦っているという意識がほとんどない。
「決め手に欠けますね」
刃をガトリングガンに持ち替えてもフィルメリアは引き金を引けない。
至近距離で濃密な狂気を浴びたため、10秒程度では回復しない障害が機体に発生していた。
●最大難易度の晴れ舞台
魔導トラックの全面に、視認性を高めるにもほどがある塗装が施されている。
踊るピエロに演奏するにゃんこ。
犬耳メイドにミニカッパに妖精。
大人の大部分が困惑して一部は現実感が持てなくなり、半数くらいの子供は北の戦いにも気づかず無邪気にはしゃぎ始める。
魔導トラックが止まる。
ぽこん、と気の抜ける音がして荷台部分の扉が開く。
運転席から死角を通って荷台兼舞台に立ったカナタ・ハテナ(ka2130)が、ステージ衣装で洒落っ気のある一礼をした。
踊るバックダンサーズ(桜型妖精「アリス」、もっちゃりかっぱ、ユグディラ)がとても可愛らしい。
子供達が魅了されてはしゃぎ出す寸前に、カナタが口元に指を当てて微笑み違和感なく黙らせた。
「突然じゃが、実戦さながらの避難訓練を始めるのじゃ」
犬耳メイド……ではなく小宮・千秋(ka6272)が誘導を始めている。
おさない、かけない、しゃべらない、もどらないと書いたプラカードをユグディラと手分けして運んで掲げ、親が2人いる場合は片方を巻き込んで整列に協力させる。
「実はあのVOIDはCAMで偽装した偽者なのじゃ」
小柄で細身の体で胸を張る。
冗談に聞こえるように、細心の注意を払って声の大きさから口調、目力から雰囲気まで完全に制御している。
「ハンターが敵を抑えてる間に避難するのじゃ」
カナタが説明している間、千秋は無言のまま子供プールから引っ張り上げて親たちに渡し、度胸が据わっている母親や父親には小声で囁いて事情を伝えた。
ここまで子供込みで生き抜いてきてきただけあって予想以上に根性がある。
カナタの発言を全面的に受け入れた態度で、多少こわばった笑顔で子供と一緒に魔導トラックへ向かい始めた。
「しかし訓練だからといって気を抜くのはダメじゃぞ。おろそかにすると、いつの日か本物が現れた時に大変な事になるのじゃ」
カナタも誘導に加わる。
踊るようにではなく、文字通り踊りながら親子を誘導しはぐれそうになる子供を親の元へ導く。
この場の数十人の命がかかっているのに気づいているのだろう。
もっちゃりかっぱと桜型妖精も、全力で愛想を振りまきつつ子供の注意を惹きつけていた。
「OKです」
千秋が荷台から合図を送る。
限界まで増設した荷台から転げ落ちることがないよう、手すりになる形でロープを張って固定した。
慣れた者でも数十分かかりそうな作業だが千秋にとっては容易いことだ。
覚醒者で、何よりメイドなのだから。
カナタは目だけで感謝と了解の返事をする。
30名の親子を荷台に乗せてから、北の戦場よりも心を惹きつける仕草で宣言する。
「安全な家で職員がご褒美のオヤツを用意して待って居るのじゃ。だいいちじん、しゅっぱーつ!」
荷台の調整に熟練整備士多数の協力を得たとはいえ、魔導トラックは本来6人乗りである。
5倍乗せると速度も出ないし回避のための動きもできない。
それでも、残った20名を引率するよりは簡単なはずだ。
「皆さーん、避難訓練のルールは学校で習いましたよねー」
ここからが本番だ。
少なくとも盾にはなる魔導トラックは離れてしまい、この場に残ったのは救助が必要な親子と千秋と猫だけだ。
「お、か、し、も、を守って速やかに避難しましょー」
今が平時であるかのように振るまうことで親子たちの認識を歪めていく。
本物の戦場が北にある状態でするのは極めて困難だ。
だが千秋とユグディラに諦めるつもりはない。
「これが出来た人にはなんと本物のお菓子を差し上げちゃいまーす。皆さんは出来るでしょうかー?」
銀盆を取り出す。
クッキーやキャンディが綺麗に並べられ、食欲以上にわくわくする感覚を演出されていた。
つい癖で演奏しかけたユグディラを、こつんと叩いて止め最後尾にまわす。
狂気王の分体は北に飛んだ。
しかしいつ反転するか分からないし、反転すれば数十秒もかからず緑のレーザーが降り注ぎかねない。
20名の親子の先頭に立ち、犬尻尾を可愛らしく揺らし、弾むような足取りで大きな家へ向かう。
この状態で敵襲があれば全滅するかもしれない。
だが全員助けるにはこの方法しかない。
千秋は内心冷や汗を流しながら、愛嬌と自負を兼ね備えたメイドを演じ抜く。
感情が不安定になった子供には適量のお菓子を差し出し、子供より親が耐えきれなく前にハンターとして頼りがいのある面を見せる。
正直ベアトリクスを相手に戦う方が気が楽だけれども、20の命を預かっている以上今更逃げることはできない。
シェルター兼用の家がゆっくりと近づいて来る。
避難民収容をなんとか終わらせたカナタが、急いで魔導トラックに乗り込むのが見せた。
「百里を行く者は九十を半ばとすー、ですよ」
安全地帯が近づき緩んでいた親たちに緊張感が戻る。
北からは砲声も爆音も聞こえない。
だが、怪しい緑の光が非常識な加速で動き始めていた。
「あと20歩、頑張ってくださーい!」
後少しだ。
トラックに乗せるのは時間のロスと判断してカナタは北に向かわせる。
「お、か、し、も、ですよ。自分より小さい子を助けてあげてくださいねー」
実際に助けようとしたした子供にはクッキーを。
空回りしたり助けられた子には黙らせるために飴玉を。
精神をヤスリで削るような行程を笑顔で完了し、千秋は最後の要救助者をシェルターへ送り込んだ。
後ろ手に分厚い扉を閉めてロックをかける。
まだまだ任務は終わらない。
本能的に危険地帯から逃れた子供がはしゃぎ始めている。
覚醒者の身体能力を全開にして外に通じる窓を塞いでいき、気絶するようにうずくまる大人を寝室に案内する。
この困難な作業がいつ終わるか、誰にも分からなかった。
●渦の罠
HMDが緑に塗りつぶされていた。
オウカ・レンヴォルト(ka0301)は五感では無くマテリアルの流れをみてタイミングを計る。
左右の操縦桿を同時に押して、戻す。
オファニムが舞いを思わせる動きでベアトリクスの突撃を回避。
去りゆく背に電磁加速砲を向け、絶妙のタイミングで引き金を引いた。
「分かってはいたが」
手応えが無い。
生身なら込められるマテリアルが武器まで届かず、生身なら可能な狙いの微修正が行えない。
王牙と名付けた彼の戦馬は、まだ彼の力を100パーセント引き出すほどの性能がない。
「もどかしいものだ」
満月を思わせる瞳が正確にベアトリクスを追う。
狂気に冒された機体に四肢と脳波で命令を伝達。
弾切れでリロード不可の電磁加速砲から機関銃に切り替え銃撃を浴びせる。
回復したHMDには回避されたとの情報が。
反対に、オウカの手には微かではあるが当たった手応えが。
反撃のレーザーを躱し、耐え、躱しながら気配を探ると、一旦シェルター北端に向いていた興味がオウカとその機体に移ったのが感じ取れた。
「分かっている」
穏やかにつぶやく。
契約精霊に似た気配が、彼の背中に一瞬現れ消えていく。
急に手足の動きが速くなる。
それまでの繊細で流麗な動きを辞め、速度だけを優先した無骨な走りで大きな凹みを目指す。
そこは以前、多数の幻獣の勝負に使われたプールであり、使い方次第で凶悪な罠になる切り札である。
「後は、今日の真打ちに任せるとしよう」
「最後まで戦ってくれていいからっ」
グリフォンが宙で横転を繰り返して緑色レーザーを躱す。
ベアトリクスの意識は一度痛い目にあった気配……ファントムハンド発動前の気配に気づいてグリフォンとその背のヴォーイを執拗に狙った。
オウカは言葉では答えず操縦を切り替える。
攻撃可能な速度まで落として機関銃を斜め上に向ける。
相変わらずCAMとは別次元の速さの緑へ照準をあわせ、まず当たらない銃撃を淡々と継続する。
本当に当たらない。
しかし注意の一部をオウカに引き戻す程度の効果はあり、ヴォーイが受ける圧力がその分低下した。
グリフォンがプール上でホバリングしながら180度反転。
ヴォーイが不敵な笑みを浮かべてベアトリクスを挑発する。
ファントムハンドの準備を整え、一瞬たりとも注意を逸らさない。
なのに、死角である背後から触手が伸びてグリフォンとヴォーイを激しく打つ。
いわゆるサブ移動だけで長大な距離を渡りきって全力で攻撃してきたのだ。
「上等!」
かつて憧れたヒーローのように、架空のヒーローとは違って現実の血を流し、ヴォーイは幻腕の呪いを完成させる。
壮絶な移動能力を誇る狂気王分体の足が止まる。
グリフォンが危険なほど高度を下げ、歪虚の触手と割れた紅玉がプールの水に触れた。
緑の嵐がヴォーイを襲う。
グリフォンとヴォーイは最低限必要な生命力を分け合うかのように、無数の攻撃を分担して引き受け時間を稼ぐ。
「逃がすものかよぉ!」
幻の呪いを維持し続ける。
負傷の度合いが危険域に入ってもとにかく耐える。
リジェネレーションは使っているが全く追いつかない。
「幻獣は小せぇんだ。流れに巻き込まれるなよ!」
【レラージュ・ベナンディ】がベアトリクスに体当たりをかける。
組み付きを狙ったのだが、足が止まっている状態でもベアトリクスの回避能力も防御能力も健在だ。
が、そこにいるのが確実なら打てる手はいくらでもある。
「これでも」
何の工夫もなく殴りつける。
得物を使わない攻撃は威力が低く、ベアトリクスは最初こそ警戒するがすぐにアニス機への警戒を緩める。
「食らいやがれ」
歪虚の負傷部位に拳を突き込んだ瞬間、最後のプラズマ弾を発動する。
そのタイミングでついにヴォーイが気絶する。
広範囲の攻撃に晒されたベアトリクスは、避けづらい攻撃に晒され続けるのを嫌がり、障害物のないプールを通って空に戻ろうとした。
「やれ!」
プールの端から稲光と黒煙が漏れる。
機材を犠牲にした1回限りの高圧が、プールの水流を兵器の域まで押し上げる。
大きく重いというだけで十分な脅威だ。
そこに勢いが加わると高位の歪虚にすら通用する。
水が緑の巨体を巻き込み、プールの端のコンクリにぶつけてめり込ませた。
「厭な事思い出させやがって……」
至近距離で狂気を浴びたアニスは、擱座寸前の機体の中から停止した緑を睨み付ける。
健在なフィルメリア機が盾をかざしてベアトリクスに向かう。
ここまで追い込まれても緑の悪魔の攻撃力は巨大であり、盾の上からでも届く衝撃で以て【Is Regina】本体にダメージを積み重ねる。
「足止めはこれでいいでしょう」
CAMを覆うサイズの盾でベアトリクスの下半身を押さえつける。
巨大な刃を使った攻撃は行わず、機導浄化術を使い機体の不調を取り除いて1秒でも長く拘束できるようにする。。
「後は」
純白のイェジドが、緑の豪雨をすり抜け最悪の戦場に突入する。
地面にしかっかり足を付けているので回避能力は10割発揮できる。
つまり、アルトと分かれても戦力になるということだ。
使い捨ての精神安定剤を捨ててアルトが飛び降りる。
【イレーネ】が前に出ながら咆哮で牽制。
タイミングをずらしてアルトが仕掛け、CAM級の巨体を持つ歪虚に3連撃を浴びせて振り返る。
高度な技術と圧倒的というのも生温い身体能力があって始めてできる猛攻に、ベアトリクスは2度まで耐えて見せた。
「っ」
アルトが目を細める。
逃げられないベアトリクスが死にものぐるいになっている。
狂気の密度が増し、彼女の飛び抜けた抵抗力でも耐えきれなくなりつつある。
「間に合ったか。サポートはさせてもらおう」
オファニム【夜天二式「王牙」】が膝をつて射撃の構えをとる。
電磁加速砲を使うには距離が近すぎ、そもそも電磁加速砲に残弾はない。
しかしレールガンを砲ではなく術の媒介とすることで、射程こそ短いものの凄まじい威力を持つ一撃を生み出す。
光の直線がベアトリクスの装甲を貫く。
慌てて躱そうとして、その強力な術よりさらに強力なアルトの一撃を思い出す。
剛刀「大輪一文字」がベアトリクスの脇を掠める。
当たれば装甲ごと切り飛ばせるはずだった斬撃が空振り。
だが続く第2撃第3撃は装甲と無防備な触手に直撃する。
装甲が切り裂かれて体液が噴出。
切り飛ばされた触手が痙攣しながらプールへ落ちる。
恐れをなしたベアトリクスが、下半身を引きちぎるようにしてフィルメリア機の拘束から脱出。
が、何もないはずの場所から進めなくなって奇妙な踊りをすることになる。
「ベア分どん!」
ディヴァインウィル。
カナタの作り上げた無色の境界が、弱り切ったベアトリクス分体を空に羽ばたかせない。
意識のあるハンターの銃撃が集中する。
範囲攻撃は品切れでも数は力だ。
足止めされたベアトリクスが避けるための空間を一気に削り取る。
「触手もレーザーも上手に使う。だがこの程度なら」
アルトが単身でベアトリクスに仕掛ける。
レーザーと触手の密度は異様なほど高く、雨を避けて歩けるアルトでも数度の被弾を許してしまう。
ベアトリクの消耗も激しい。
これまで躱せていた斬撃を回避も受けも出来ず、体の端から壊されて機能を失っていく。
「事情は直接、体に聞く!」
サーカス塗装の魔導トラックが後先考えない加速を始める。
イェジドがまず驚き、即危険に気づいて進路を譲る。
カナタはアクセルを限界まで踏んでハンドルを微調整。
最悪でも助手席と塗装がつぶれて済む進路で、狂気王の分体へドリルを先頭に直撃した。
衝撃がカナタを貫く。
体の痛みは耐えられる。
問題は、気を抜かなくても吹き飛びそうになる精神だ。
「ベアどんが近い……」
狂気王の気配が濃すぎる。
まるで月軌道上にでもいるかのようだ。
「ベアどん、じゃな……くて」
分体から感じられる、方向音痴の善意らしきものが極限まで薄れている。
それこそ歪虚の王に相応しい悪意が、本来のベアトリクスを浸食しているような……。
運転席のカナタが血を吐き朦朧とする。
【イレーネ】が前に飛び出る。
空では無く半壊トラックを貫き逃げようとしたベアトリクスと正面衝突。
【イレーネ】も吹き飛ばされるがベアトリクスも速度が出ずに地表1メートルをふらふら飛ぶ。
そこに手裏剣が当たって根元まで入る。
柄から伸びるマテリアルの糸がアルトを運び、ベアトリクスの血を大量に浴び緑光を纏うに至った刃を両手で振り下ろす。
紅玉が粉塵に変わる。
触手でも肉でも無く、負のマテリアルが形作る核が砕けて不健康な風が吹き抜ける。
どさりと、大重量の何かが芝生を踏みつぶす音が聞こえた。
アルトが着地し、刃を振って血と緑光を振り払う。
ドームの照明に溶けていくベアトリクスからは、既に威圧感も負の気配も感じられなくなっていた。
「早々に処理すべき、だな。この種のVOIDは準備を整えたハンターにしか対処できない」
「周囲の環境への影響と状況調査も連合中軍に依頼しておきます。一応、トマーゾへも連絡を。忙しいなりに何かしら手を考えてくれるでしょう」
オウカとフィルメリアが言葉を交わし、再転移に備えた準備と後片付けを進めていった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
緑の悪夢への対応 フィルメリア・クリスティア(ka3380) 人間(リアルブルー)|25才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2017/09/13 17:38:34 |
||
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/09/09 19:45:12 |