クリスとルーサー 『とーかい』の向こう側

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
普通
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
4~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/09/16 19:00
完成日
2017/09/23 21:26

みんなの思い出

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オープニング

 それはマリーとルーサーが『キャンプ』に出かける前日の事だった。
「……読書中のところ申し訳ないが、少しニューオーサンの町まで付き合って欲しい」
 朝食後、中庭のテラスで館の図書室から借りて来た学術書に目を通そうとしていたクリスティーヌは、『落ち着き払った男』リーアから声を掛けられ、目を丸くして彼を見返した。
「……珍しいですね。あなたが私に頼み事をするなんて」
「……意見を聞きたいことがある。それに、男一人で入るには少々居心地の悪い場所なんでな。ご婦人を伴いたい」
 構いませんが、と席を立ち。着替えを済ませて、馬車に乗る。
 連れていかれた先は、目抜き通りに面する高級服飾店だった。やんごとなき貴族の方々や唸るほど金を持った大商人たちがいきつけにするような、そんな店だ。
 豪華絢爛な内装に、煌びやかなドレスや宝飾品といった販売品の数々── そのいずれもが一流の職人による装飾が施され、貴金属やラメをふんだんにあしらった他所ではちょっと見られないほど高価で絢爛な品々だった。
 クリスは感嘆の吐息を漏らした。流石は鉱業を主産業とするダフィールド侯爵領といったところか。他所ではとてもこの価格、この品揃えは実現できない。
「社交界という巨大な市場が存在するからこそ成立する商売だな」
 リーアは最後に最も高級な宝石類が並んだショーケースへと彼女を連れて来ると、そこの品々をよく見ておくように告げ、後、何も買わずに店を出た。
 そうして同様に幾つかの高級店を回った後、馬車へと戻る道すがら── 近くに誰もいないことを確認して、リーアが小声でクリスに訊ねた。
「……王都の高級店と比べて品揃えはどうだった? 何か違いとか……気が付いたこととかなかったか?」
 なぜ、と不思議に思いながら、クリスはそっと考え始めた。一応、貴族社会の末席に連なる身ではある……が、貴族の子女としては恥ずかしいことに、彼女は宝飾品にはそれほど詳しくない。
「うちは田舎貴族ですからね。王都の高級店なんてついぞ訪れたことなどありませんが…… そうですね、ガンナ・エントラータで見る機会のあった高級宝飾店の方が、より大粒の宝石を扱っていたような気がします」
 そうか、と呟いたきりリーアは黙り込んでしまった。そして、路肩で立ち売りをしている『ヘルメス通信』の販売員に声を掛け、二言三言会話を交わして新聞を買った後、停めてあった馬車に乗り込むとそれを読みもせずにクリスに投げて寄越した。
 とにかく説明がないことを不満に思いつつ、クリスはヘルメス通信の薄い紙面に目をやった。
 周辺貴族領との摩擦の原因となっている旧スフィルト子爵領の難民問題は未だ進展を見せていないようだった。諸侯の抗議に対して侯爵家は遺憾の意を表明しつつも、各領内の難民問題はそれぞれの領主が対応すべき問題であると繰り返すばかりであるらしい……


 そして、マリーとルーサーが家出をして数日後──
 ハンターたちの説得を受け入れたマリーは、夜中、キャンプから少し離れた木陰にルーサーを呼び出し、翌日、家出を止めて館に帰ることを告げた。
「えっ?」
 ルーサーは愕然とした。それはクリスやマリー、ハンターたちとの別れを意味していたからだ。
「なんで……ッ!?」
「私たちだっていつまでもここにいるわけにはいかない。……分かるでしょう?」
 マリーは少年に自分たちを取り巻く状況を説明した。今回の自分たちの行動がクリスに多大な迷惑を掛けてしまうこと、オーランド伯爵家とダフィールド侯爵家、両家の間で政治問題化されかねないものであること等々……
 聞いている内にもうどうにも抵抗できないことを悟り……ルーサーは涙を流しながら、嗚咽交じりに家出の中止を受け入れた。
「……クリスには迷惑を掛けたくない。わかった。明日、家に帰る……」
「私たちがいなくなっても……たとえ独りぼっちになっても、あんたは自分の気持ちを家族に訴え続けなさい。子供の言う事と聞いてもらえなくても、諦めずに何度でも……聞いてもらえないなら聞いてもらえるだけの『知識』と『力』を手に入れ、何年、男十年かかっても己の意志を貫き通しなさい! ……それが、ルーサー。君の戦い」
 私には迷惑を掛けてもいいってか、と苦笑しながら、マリーはルーサーを励ます様に両肩に手を置くと、年上のおねーさんらしく真摯な表情でそう告げた。
 告げつつ、なんか偉そうなことを言ってるな、と自身に対して臍を噛んだ。──家から逃げ出したのは、私だっておんなじなのに。
 マリーは己の両頬を、自身の両手で引っ叩いた。いきなりのその行動に目を丸くするルーサーに、涙目で笑みを浮かべてみせた。
「よっし! あんたのお陰で覚悟を決めたわ! 私も……」
 少女の明るい声音は、しかし、すぐに勢いを失って尻すぼみになっていった。覚悟が揺らいだからではない。……ガサガサと草を掻き分け、何かがこちらに近づいて来る。
 マリーは咄嗟にルーサーを背に庇った。共にキャンプを過ごしたハンターたちか? それとも…… この山は里山ではあるが、奥地に入り込めば猪や熊も出る。
「……誰?」
 マリーの小さな呼びかけに、草を掻き分ける音が止まった。静寂の数瞬後…… 突然、闇の帳の向こうから人影が飛び出して来た。
「キャーーー!」
 2人して悲鳴を上げながら。ルーサーの手を引っ掴み、森の奥へと逃げるマリー。その背に手を伸ばしたその血塗れの人影が……やがて、力尽きたようにその場にバタリと倒れ伏す。
「……助……けて…………」
 声にならぬ声を漏らし、そのまま動かなくなる『人影』……
 音もなく草の間を抜けて現れた新たな2人組の人影がその倒れ伏した男に歩み寄り、1人が蹴りを入れた後、その首筋に指を当てる。
「……死んだ」
「そうか」
 もう1人の男の方がチッと小さく舌を打った。……我ながら不味い仕事をしたものだ。死者は何も語らない。
「……お前が深手を負わせ過ぎるからだ」
「逃げられたら元も子もないだろうが」
 立ったまま睨みつけて来る男に、言い訳をした男が舌を打って謝罪した。次はないぞ、と告げながら、森の奥に広がる闇に目を凝らす。
「それよりもさっきの悲鳴だ。聞く限り子供のようだったが……」
「チッ。なんだってこんな時分、こんな所にガキがいやがる…… タイミング的にこちらは見られていないはず。見られていたとしてもどうせ『子供の戯言』だ」
「見られていたかもしれない──その事実が重要なんだ。……本当に不味い仕事をしてしまった」
 男はそう言うと懐から取り出した笛の様な物を咥えた。まさか……と眉をひそめる男に、男は告げた。
「ああ。『犬』を使う」

リプレイ本文

 夜の山中。マリーとルーサーの家出キャンプ宿営地──
 見張りを交代する為に目を醒ましたアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)は、隣で寝ていたはずのマリーがいないことに気が付いた。
 手櫛で髪を整えながら、のそりとテントの外に出る。見張り番のサクラ・エルフリード(ka2598)が火に薪をくべながら「交代の時間ですか?」と尋ね。その向かいで長剣の手入れをしていたユナイテル・キングスコート(ka3458)も顔を上げる。
「マリーがテントにいないのですが……花摘みですか?」 
「いえ。明朝の帰宅を決断したので、ルーサーにその旨を伝えて、説得する、と……」
「……2人だけで行かせたのですか?」
「最もルーサーに近い立場で共感しているのがマリーです。どうしても『大人側』に立つ私たちが傍にいるより、二人きりの方が言い聞かせ易いと考えたのでしょう。まあ、幸いこの辺りなら熊も猪もでませんし」
 2人のその判断は間違ってはいない。本来であれば危険などまるで無いはずだったのだから。故に……
「キャー!」
 その悲鳴が聞こえた時、ハンターたちは一瞬、動けなかった。眠気眼でテントから出て来たルーエル・ゼクシディア(ka2473)が小さく「……悲鳴?」と呟いて……瞬間、アデリシアは焚火から火のついた薪を引っこ抜くと、取る物も取り敢えずそちらへ向けて駆け出した。
「急ぎましょう」
 ユナイテルがランタンに火を移し、鞘へと戻した剣を手に急ぎその後を追う。……この『家出』騒動の最中にもしルーサーに何かあれば、侯爵家は絶対に黙ってはいない。何としても2人を無事にこの山から下ろさねば……!
「ルーエルさんはレインさんを」
 頼み、自身も後を追って駆け出すサクラ。ルーエルは急ぎ恋人のレイン・レーネリル(ka2887)が寝ているテントに向かい、フロントドアをガバッと開けた。
「何かあったみたいだよ。起きて、レインお姉さん!」
 中では、レインが着替えの為に上着を捲り上げていたり、あられもない寝相で……などということも特になく。普通に寝入っていたレインが普通に「ふぁっ!?」と目を醒ました。
「2人がいない!? あわわわ、全く気付かなかったよ! 私、いつでもどこでもグッナイ! な人だから……って、じゃなくて、どーしよ、嫌な予感…… これは本気で動かないとマズいパターンかも、って私にしか見えない妖精さんが……」
 あ。ルー君が可哀想な子を見る様な目でこっちを見てる……! やめて! そんな目で私を見ないで!
「いーから」
 猫の様に背中を摘まれて、レイン。はーい、と大人しく外に出る。

 小さく森が開けた場所へ飛び出したアデリシアは、人影に気付いて足に急制動を掛けた。
 子供たちではなかった。その場にいたのは、何やら地面に屈みこんだ、狩人風の2人の男と。その足元に倒れ伏して、動かない1人の男と──!
「何者か?!」
 アデリシアと2人の男が誰何の声を上げながら瞬間的に得物を抜き合い、睨み合う。男たちは相手は1人、と彼女ににじり寄らんとしたものの……揺れるランタンの光に気付き、その足をピタリと止めた。
「アデリシアさん、これは……っ!?」
 空地に飛び出し、叫ぶルーエル。サクラが『シャイン』の光を灯し、より明るく周囲を照らし出す。
「怪我人!?」
 倒れ伏した男が血塗れなことに気付き、ルーエルは慌ててそちらに駆け寄った。……息がない事はすぐに分かった。これは刀傷に……砂袋の様な物で殴られた跡、か? ともあれ、尋常な傷ではない。
「……あなたたちがやったのですか?」
 剣の柄に手を掛けながら、ユナイテルが2人に訊ねた。
「重犯罪者を成敗した。我々は官憲だ」
 官憲──侯爵家が領内に派遣する警官や役人のこと。途中で寄った温泉街にもいたことをハンターたちは思い出す。
「……そちらこそ何者だ? このような夜更けに、こんな所で何をしている?」
「我々は侯爵家に雇われたハンターだ。この辺りで歪虚の目撃情報があり、調べている」
 咄嗟にアデリシアは嘘を吐いた。
(……官憲がこんな山の中まで? 制服を着てない事といい、所持している装備といい、些か疑問に感じるが……)
(って言うか、官憲だろうとこんなところで殺人を犯してる時点で怪しさMAX! なんですけど!)
 基本的に相手の言う事は鵜呑みにしちゃう疑う事を知らないピュアレインちゃん(本人談)だが、流石にこれは怪し過ぎる。
「侯爵家の……? 歪虚……?」
 ハンターたちの答えを聞いて、男たちは顔を見合わせた。警戒こそ緩めぬものの、殺気は目に見えて減じている。
「……話には聞いている。侯爵家に怪しげな連ちゅ、ゴホン、旅人たちが逗留していると。それがお前たちか? この男の仲間ではないのか?」
 そうだ。違う。どっちだ。侯爵家に逗留している旅人たち、はYes。この男の仲間、はNo…… そんなやり取りを経て、男たちは武器を仕舞った。いつの間に包囲されていたのか、周囲の草叢から大型の狩猟犬だか狼だかに似た生き物も姿を現した。
「心配しなくていいぜ。俺たちが使っている『犬』だ」
 そう告げるもう1人の男。笑ってはいるが、その目に油断はない。
「ところで、目撃されたという『歪虚』についてだが…… それとお前たちの連れに子供はいるのか?」
 男がそう訊ねる途中で、笛の男が『異常』に気付いた。……犬笛で待機命令を与えたはずの『犬』たちが。唸り声を上げながらジリジリと包囲の輪を狭め続けている──?
「どうした、お前たち…… ステイだ。その場に伏せろ」
 そうして笛の男が命令と共に犬笛を吹き鳴らした瞬間。全ての『犬』たちが同時に咆哮し、魔力を帯びたその吠え声でその場の全員の身を竦ませた直後、一斉に躍り掛かって来た。
「なっ……!?」
「ぎゃああああ……!」
 驚愕するハンターたちの横で、犬笛の男が『犬』に一瞬で喉笛を噛み千切られた。
「な、なんだ?! いきなりどうしちまったってんだ?!」
 慌てて剣を引き抜く残りの男。ハンターたちもまた即応する。
「ふっ、普通の犬じゃない!? もしかして、歪虚!?」
「ルーエルさん、サクラさん、対応を」
「迎撃します。最低1匹は死体を確保できるよう」
 手早く三方に向き直った3人の聖導士が、全周より飛び掛って来る犬らに対して同時に『セイクリッドフラッシュ』を発動した。組み上げた密集三角隊形の頂点でそれぞれマテリアルの聖光が炸裂し、炎の如く噴き上げた光の奔流が犬たちを吹き飛ばす。
 直後、光の中から飛び出したユナイテルが重複して光に灼かれた犬を狙って剣を突き立てて。中央、魔導拳銃による支援射撃を始めたレインの援護の下、3人がそれぞれ前方の敵に対して近接戦闘へと移行する……

 短くも激しい戦闘の後、襲い掛かってきた犬たちは全滅した。
 犬たちは最後の1匹になっても逃げ散ることなく戦闘を継続した。その光景を、動物好きのルーエルは痛ましい表情で見送り…… その落ち込む恋人の頭を、慰める様にレインがポンポン叩いた。
「……イヤだねぇ。犬とか猫とか武器にするのは最低だと思うよ、私も!」
「……残った1人は逃げ出したようですね。もう少し情報を聞き出したかったところですが……」
 アデリシアは倒れた笛の男に歩み寄った。……一目見ただけで完全にこと切れているのが解った。最初に死体となっていた男の方には、噛み傷は増えていない。
「皆さん、何匹倒しましたか?」
 計5匹、との答えを聞いて、サクラはきゅっと眉根を寄せた。
「……これで全部でしょうかね?」
 ハンターたちはハッとした。この夜の闇の中、まだ狂犬の如き獣たちがうろついているとしたら……
「……応援を呼んで来ます」
 ユナイテルはキャンプに戻ると、ランタンを馬鞍に下げ、愛馬に拍車を掛けて山を下り、一目散に館へ向かった。
 残る4人は手分けして山中の捜索に入った。あわよくば敵をこちらに惹きつけるべく、2人の名を呼びながら……

 その頃、館の前庭には…… この夜夜中にわざわざ起き出て、筋トレに励むシレークス(ka0752) の姿があった。
「あ~、もう。すっかり鈍ってしまって…… ……この館に来てから3週間。随分と荒事からは遠ざかってやがりますからねぇ」
 フッ、フッ! と息を吐きながら、両肘を左右に振って腹筋を繰り返すシレークス。昼間はマリーの代わりに侍女役を務めている(もっとも、クリスは大抵自分で済ませてしまうのだが)からこその夜中のトレーニングであったが、同時に、クリスの部屋を外から番する見張り役も兼ねていた。
(……リーアは何を調べていやがるんですかねぇ)
 汗を滴らせながら背筋、腕立て、左右膝立ちからの跳躍と一息にセットメニューをこなしていく。……ちなみに、夜中に起き出す習慣のないオーサンバラの人たちの間で、館に妖怪・筋トレ修道女が出没するとの噂が流れ始めている事には、彼女自身は気づいていない。
 馬を全力で駆けさせて来たユナイテルが到着したのはそんな折。なるべく騒ぎを起こしたくなかった彼女は鍵の掛かった門を前に柵を乗り越え、庭に降り立ったところをシレークスに見つかった。
「……怪盗!?」
「違う違う違います私ですシスター。……大変です。マリーとルーサーが悲鳴と共に山で姿を消しました」
 状況を聞いたシレークスの表情がシリアスモードに変わった。「ヴァルナにもこの事を」と頼んで踵を返したユナイテルが、再び馬上の人となって急ぎ山へと戻っていく。
 シレークスは急ぎつつもなるべく静かに館に戻るとヴァルナ=エリゴス(ka2651)の部屋の戸を叩き…… 寝間着姿で出て来た彼女に、状況を記したメモを無言でそっと手渡した。
「……分かりました」
「頼むです。私は残ってクリスに事情の説明を」
 ヴァルナは室内へ戻ると手早く支度を整え部屋を出た。なるべく人には知らせたくはなかったが、ただ一人、門から馬を出す為にポーター兼庭師の協力を仰がねばならなかった。適当な嘘を吐いてそっと鍵を開けてもらい、拍車を掛けて山へと向かう。
「……急ぎましょう」
 呟くヴァルナ。その脳裏には、かつての弾丸巡礼の馬車が起こした事故や、誘拐騒ぎの際の戦闘の件などがチラチラ過って離れない……

 ……マリーはルーサーと共に森の中に息をひそめていた。
 夜の闇の帳の向こうから漂って来る獣臭さと、聞こえて来る唸り声…… アレは決して見つかってはいけないモノだ──これまでに得た知識と経験、何より本能とで2人はそう断じていた。そして、確実に近づいて来るその気配から逃れようと場所を変えようとして……木の枝を踏んだ音で気づかれてしまった(テンプレート)
「グルラアァァ……!」
「走って!」
 ルーサーの手を引き駆け出すマリー。それを狂ったように追う獣たち。最初は殿に残ったユグディラの幻術で惑わした。だが、出会い頭に遭遇したもう1匹から逃れる術はなかった。
「叫んで、ルーサー!」
「ええっ!?」
「いいから! 泣き叫ぶのよ! 助けてーって!」
 それは賭けだった。犬たちが殺到するより早く、誰かが来てくれるかも、という……
 その賭けに、マリーは勝った。細菌毒素塗れの涎を撒き散らしながら迫る犬が来るより早く、横合いから飛び出して来たアデリシアが2人を小脇に抱えて横へと跳んだ。そして、起き上がるや『ディバインウィル』の気合を発してその接近を強制的に押しのけて…… 直後、更に横合いから飛び出して来たユナイテルがその犬の横腹に蹴りを放ち。吹き飛んだ相手が起き上がったところを更に『踏み込み』、『強打』でその腹を裂く。
「マリー、ルーサー、無事ですか!?」
 確認するユナイテルに腹を裂かれた犬が構わず飛び掛り、剣戟で応じるユナイテル。その後ろでアデリシアの意志の結界が解けるのを涎を流しながら待ってた2匹が、急に何かに気付いたように揃って側方を振り返る。
 その視線の先には、マテリアルのオーラをその身に滾らせたヴァルナの姿── どうやら普通の犬ではなさそうなので『ソウルトーチ』を試してみたのだが、どうやらドンピシャ『当たり』のようだ……
 まるでマリーたちのことなど忘れた様に、ヴァルナ目がけて突っ込む犬たち。その突撃を、ルーエルと共に駆けつけて来たレインが本気の『攻勢防壁』で吹き飛ばす。
「……躾の時間だよ」
 ルーエルがパイルバンカーのコッキングレバーを引きながら前に出て。刃にマテリアルの力を乗せたヴァルナが共に並び、一刀のもとに切り捨てた。
「ルーサー、マリー、無事でしたか……? 猫さんはよく守ってくれました」
 ユナイテルと共に残敵を掃討し、サクラは2人の元に駆け寄ると、膝をつき、ホッと息を吐いた。褒められたユグディラが「んにゃう♪」と顎の下をこそばれて喉を鳴らし…… 死の恐怖から解放された子供たちはアデリシアとサクラに抱きついて心の限りに泣き叫んだ。


「んもう、ダメだよ。夜の山林は危ないんだから! 街中なら分かるけども、残念ながらここは大・自・然! なんだから!」
 翌早朝。館への帰り道── ユナイテルとヴァルナ、2人の馬の背に乗せられた子供たちに向かって、レインがそうお説教口調で言い聞かせた(でもあんまり怖くない)
 その言に、街中も夜は怖いヨ? と苦笑交じりにツッコミを入れるルーエル。その横でヴァルナが「うーん」と小首を傾げる。
「官憲と名乗った2人の男…… その目的は何だったのでしょう?」
 ……結局、山を下りる途中でもう一人の男も噛み傷だらけの遺体で見つかった。事情を知る者は誰もいなくなってしまった。
「……連れて帰るしかなさそうだね。埋葬もしなければいけないし」
 ルーエルは途中、村で荷押し車を借り受けると、3体の死体に御座を被せて館まで乗せて行き、そして、村人や使用人たちには知られぬよう、まずはクリスやリーアを呼んで遺体の確認を頼んだ。
「誰かこの人たちに見覚えがある人はいませんか?」
 沈黙するリーア。あっ、と小さく叫んだのはクリスだった。
「この最初の犠牲者の人…… ニューオーサンの町で『ヘルメス通信』の新聞を売ってた人」
 瞬間、シレークスはリーアの襟首を掴み上げ、思いっきり壁へと押し付けた。
「……これはどーいう事でしょーかねぇ……! いい加減、何もわからねーのは性に合わねぇんですよ。ここは聖職者なわたくしに懺悔してキリキリと全て吐いたらどうですかねぇ……ッ?」
 ギリッ、と閉まる首筋に顔色も変えず、リーアはシレークスにだけ聞こえる様な吐息で囁いた。
「それは言えない。特にここでは」
 チラとリーアの視線が動き、シレークスもさり気なくそちらに目をやった。
「これはいったいどういうことだ?」
 どういうわけか3人揃ってやって来た侯爵家の三兄弟が、その状況を目の当たりにして目を丸くした。

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    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • それでも私はマイペース
    レイン・ゼクシディア(ka2887
    エルフ|16才|女性|機導師
  • いつも心に盾を
    ユナイテル・キングスコート(ka3458
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/09/13 21:27:05
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サクラ・エルフリード(ka2598
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2017/09/16 08:12:54