End of Calamity

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/09/26 15:00
完成日
2017/10/09 23:29

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「……下水道の亡霊?」
 食堂で山積みにされたふかし芋を鷲掴みにしたヴィルヘルミナが首をかしげる。
 テーブルを挟んで対面するオズワルドは泥のようなコーヒーの注がれたマグカップを片手に頷き、そして説明した。
「AN作戦って知ってるか?」
「ああ。例年行われている、帝都の下水道を掃除するための作戦だろう?」
「逆になんで知ってンだ」
 冷や汗を流すオズワルドを前に、芋を齧りながら女は笑う。
 公には何事もなかった事にされたが、この女には過去の記憶がないはずなのだが。
「そういえば確かに今年は実施していないな」
「だから謎……じゃねぇや。今年はハンターを呼ばずに第一師団だけで片付けてんだ。去年は森都のエルフに浄化もしてもらったんで、結構キレイなままなんでな」
 しかしその途中で兵士が見たというのだ。下水道に巣くう――亡霊を。
「シグルドだな」
「残念ながら奴は第一副師団長なので作戦に参加しアリバイがある」
「ではナサニエルの変な発明品ではないのか?」
「それも違うと思うがな。兵士は言っていた。その亡霊は、古い騎士のような姿をしていた、と」
 騎士――その言葉でヴィルヘルミナの手が止まる。
「亡霊……騎士……つまり英霊か?」
 血盟作戦以降、この世界の各地には精霊が続々と顕現している。
 その中には英霊と呼ばれる、人や動物をベースにした精霊も交じっているのだ。
「外見は? 名は名乗らなかったのか?」
「3m近い巨漢だったそうだ。武器は持っていないが……馬鹿でかい盾を持っていたと」
 芋を咥えながらヴィルヘルミナは懐から手帳を取り出す。それをぺらぺらと捲ると、そのままオズワルドに差し出した。
「騎士の英霊、巨漢、盾を持つもの……間違いないな。絶火騎士、“聖盾のアレクサンダー”だ」
「こいつは……帝国に伝わるお伽噺の類か?」
「ああ。帝国は自然精霊が弱いが、土地柄英雄の伝説はごまんとある。特に国民に広く知られるものであればあるほど、英霊として顕現する可能性は高い」
 率直に言ってよく調べられている。
 ヴィルヘルミナ・ウランゲルという女はこう言った調べものが得意だったろうか? 少なくともそんな印象はオズワルドにはなかったが。
 怪訝な様子を察したのか、ヴィルヘルミナは鼻で笑い、そして片目を瞑って言った。
「私もこの国の伝説の中で育った者だ。英雄には憧れた」
「ただのファンかよ!」
「本物のアレクサンダーならば仲間にしたい。が、一般兵では荷が重いな」
 精霊の保護回収は帝国軍も行っているが、土地柄帝国の精霊は人間に心を開かない。
 故に、既に精霊と通じている覚醒者を交渉役にあてるのが定石であった。
「それに、実際は見間違えで歪虚ということもある。その場合は浄化術が必要だな」
「森都に協力を要請するか? 今はだいぶ話が通りやすくなってるからな」
「いや……強力な歪虚だったら力の弱い巫女は殺されるからな。自前のを用意しよう」
 そう言って山のように芋が乗せられた皿を片手に、ヴィルヘルミナは席を立った。

 その数日後。

「こんな不潔なところに精霊がいるわけないでしょ……」
 げんなりした様子で下水道を歩くのは浄化の器だ。
 第十師団にて囚人兵として刑期返済に努める少女は、森の神の力を失ってもまだ高位の浄化術者であった。
「精霊はマテリアルが不純で不潔なところは嫌うのよ」
「それは自然精霊の話だろう? 英霊は違うかもしれんぞ」
「だとしたら英霊って変態なのね……」
「それにここも結構キレイになってきたし。前は普通にスライムとかうじゃうじゃいたからな」
「なぜその上に平然と都を作れるの!?」
「いやいや。都の下に、スライムが後から現れたのだ……む?」
 片手を横に出してヴィルヘルミナが静止する。
 入り組んだ下水の奥から響き渡る、地鳴りのような音……いや、これは……。
「呻き声……?」
 進んでいくと、壁が崩れたらしい瓦礫が水路に向かって散らばっているのが見える。
「声はこの奥から聞こえるようだな」
「その前に何で壁の奥にまだ道があるのよ」
「何かの間違いで封鎖されたのかもしれんな」
 ずんずんと進んでいくと、レンガの壁は土壁に変わっていく。
 そして行き止まりとなったのは30mほどの空洞。そこには様々な風化した武具と共に、規則正しく石が並んでいる。
「出た~古墓地~」
 その奥、跪いて懸命に祈る大男の姿があった。
『オォォォォ……! 神よ……大いなる光よ。我らの罪を許したまえ……オォォォ……!』
「帰りたい!」
「気持ちはわかるが……その前に。我が名はヴィルヘルミナ・ウランゲル! ゾンネンシュトラール帝国の皇帝である! 英霊よ、貴様の名を聞こう!」
『……ゾン……?』
 ゆっくりと振り返り、巨漢は首を傾げる。
『……知らぬ名……知らぬ国……つまり、蛮族……?』
 騎士は地面に突き刺さっていた大盾を引き抜くと、それを大地に叩きつける。
 次の瞬間、無数の十字架がヴィルヘルミナの足元から槍のようにせり上がった。
「実体のある……だが瞬時に消えるマテリアルの幻影……魔法か」
「何で無事なのよ!?」
「よけた」
「いやあんなの来たら私はよけられないから死ぬんですけど」
「前はよけてたじゃないか」
「弱くなったのーーーーーーー!!」
『ウオオオオオオオオオオオオオッ! 蛮族ゥウウウウウ!!』
「うわーーーーーコミュニケーションとれないやつだわ!」
「来るぞ!」
 剣を抜き身構えるヴィルヘルミナ。
 騎士は大盾を振り回し、ハンター達へ突進を開始する……。

リプレイ本文

 雄たけび上げるアレクサンダーからは、強力な正のマテリアルが放出される。
 この星にとって、生物にとって正のマテリアルは必要な力だ。しかし過剰に滾ればそれは攻撃魔法と変わらない。
「すごいプレッシャーでちゅね……接近戦は危険でちゅから、アイしゃんは朝騎と一緒に後ろに下がるでちゅ!」
「言われなくてもそうするわよ! こんなの聞いてないし!」
 北谷王子 朝騎(ka5818)の言葉に素直に応じる器。ソフィア =リリィホルム(ka2383)はそんな器に布に包んだ剣を投げ渡す。
「アイリス、ちっと遅れたが誕生日のプレゼントだっ!」
「これは……ベルフラウの聖機剣?」
 タンホイザーと呼ばれる剣を見つめ、眉を顰めるアイリス。
「これ私が使っていいのかなぁ」
「は? いいも悪いもあるか。その安物の剣より護身になるだろ?」
「アイしゃん、聖機剣には複雑な想いがあるみたいでしゅね」
 朝騎は場合によってはローエングリンを手渡す事も考えていた。だが、アイリスは聖機剣を使うことに躊躇いを持っている。
 ホリィの象徴であるローエングリンよりタンホイザーはマシなのだろうが、まだ葛藤があるようだ。
「そ、そうなのか? 嫌なら無理に使わなくても……」
「いいよ、ママがくれたものだし。仕方ないから使ってあげるわ」
 頬をかきながらタジタジになるソフィア。そこへ英霊がノシノシと近づいてくる。
「今デリケートな話をしてんだ! こっちくんじゃねぇよデカブツ!」
 やや理不尽にキレるソフィア。そんなハンターらの中から飛び出したのは紫炎(ka5268)だ。
 駆け寄ると同時に勢いを載せて繰り出すのは――聖盾剣「アレクサンダー」。つまり……。
「光栄だな……まさか剣のオリジナルの所有者とまみえる事が出来るとは!」
 激突する同型の武具。マテリアルの火花が紫炎の横顔を暗がりに映し出す。
「私は紫炎。この出会いを神に感謝する。いざ、参る!」
『蛮族が……エクラの十字盾を……? なぜ……だ……?』
 そこで僅かに隙が生まれた。紫炎はそれを見逃さずありったけの力で盾を打ち込む。その衝撃で巨体のアレクサンダーもたたらを踏んだ。
「うにゃーっ。あのお兄さん、同じ武器使ってるんだねーっ」
「そうだな。レプリカとは言え、通じるものがあるんだろう。だが紫炎だけに任せてはおけないな」
 ヴィルヘルミナが肩を叩くと、くっついていたユノ(ka0806)は背後へ飛び、アースウォールを展開する。
「アイ、危ないから僕の土壁を使ってね。ミナお姉さんは前衛をお願い!」
「ヴィルヘルミナ、援護するぜ!」
 ユノに続きソフィアも魔法を詠唱する。それぞれウィンドガストと加護符で強化を施すと、ヴィルヘルミナは剣を手に前に飛び出した。
「紫炎、手を貸すぞ!」
「流石は皇帝、守られるばかりではないか。では、あてにさせて貰おう!」
 正面からアレクサンダーと激突する紫炎とヴィルヘルミナ。その左右からシュネー・シュヴァルツ(ka0352)とシェリル・マイヤーズ(ka0509)が攻撃を仕掛ける。
「盾と護り……ですか」
 ワイヤーウィップを放ちながらシュネーは考える。まるで彼は自分とは正反対だ。
「ここでずっと……悔いていたの?」
 そしてシェリルも考える。この英霊の物語の終わりを。
 伝えたい想いがある。だが、今の英霊には届かないだろう。どんな言葉をかければいいのか迷いながら、魔道銃の引き金を引く。
 包囲しての攻撃であれば盾がいかに巨大でもそのすべてを防ぐ事はできないだろう。
 そもそもこの英霊は3m級。小柄なハンターにとってはいい的――だが。
「攻撃が……効いてない……?」
 シェリルの銃撃を受けても弾丸は鎧の丸みに沿って流れてしまう。
 紫炎の剣撃やシュネーの鞭もあまり有効な攻撃になっているとは思えなかった。
「特殊能力でちゅか? いや……単純にめちゃめちゃ頑丈なだけ……?」
 朝騎の五色光符陣がアレクサンダーを焼く。恐らく彼に属性は付与されていない……と思うが、反応がないので分かりづらい。
「ぼっちおじさん、痛みを感じてないんじゃない~?」
 ユノがアイスボルトを打ち込む。だがアレクサンダーは凍結しても動きが止まらない。
「こういうド根性タイプの敵きら~い」
『ウオオオオオッ!』
「盾を振り上げたでちゅ! 十字架の攻撃が来るでちゅが、それまでは攻撃チャンスでちゅ!」
 朝騎は自ら雷撃を放ちながら仲間に声掛けする。マテリアルを高めながら十字架を持ち上げるモーションは、次に発動する範囲攻撃の予兆だ。
 一斉攻撃ならば妨害できるのが普通なのだが、この英霊は止まらなかった。
「振りぬくつもりかよ!」
 行動を中断できず焦るソフィア。
「アイリス、ファントムハンドだ! 動かしちまえ!」
「しょうがないなぁ」
 指示しながら走るソフィア。器の放った幻影の腕はアレクサンダーに絡みつき、そして予備モーションを中断させながら引き寄せる。
「あのおじさん相当BSに強そうだけど、アイのは効くの?」
「私弱いけど、この魔法だけは得意なのよね」
 ユノへの返答通り、器はこの魔法が大得意だった。何せ物心ついた時から使っている。
 そうして移動で動きが封じされたところへ、握りしめた拳に雷撃を纏わせソフィアが殴り掛かった。
「かっ……てぇ、こっちの拳が砕けるぜ……!?」
 怯みもせずに盾を持たぬ手にマテリアルの光を収束させるが、そこへユノが魔法を合わせる。
「セイクリッドフラッシュは撃たせないよ~」
 魔法が消滅した事に首を傾げるアレクンダー。更にソフィアは跳躍しながら顎を拳で打ち抜き、代わりに懐に入った紫炎が腹に一撃を食らわせる。
「これだけの攻撃で怯みもしないとは……流石は伝説の騎士……!」
 ヴィルヘルミナは刃に炎と血の飛沫を纏わせ、身体ごと回転するように斬撃を放つ。
 これが盾で防いだアレクサンダーの巨体を大きく崩した。
 そこへ朝騎とユノが打ち込んだ魔法が爆ぜるが、英霊は止まらない。
「あのおじさんどうしたら止まるの~?」
 巨体を生かした体当たりで紫炎とヴィルヘルミナを弾き飛ばす。その衝撃はかなりのもので、二人とも膝をついてしまった。
「シールドバッシュでちゅね」
 再び掌に光を宿すアレクサンダー。ユノはカウンターマジックを試みるが、今度は失敗してしまう。
「やばーい! みんな岩とか墓石に隠れてー!」
 放たれた閃光が英霊を中心にすべてを吹き飛ばしていく。
「普通のセイクリッドフラッシュより範囲広いじゃねーか! アイリス、頭下げてろ!」
「言われなくてもジっとしてるよ!」
 墓石やアースウォールでこの魔法は遮れる。だから石壁を出したり、墓石に加護符を張ったりして強度を上げる準備をしておいたのだ。
 だが、その後続けてアレクサンダーは盾を大地に叩きつけた。
「ちょっ」
 全員の足元に魔法陣が浮かび上がり、そこから次々と十字架がせり上がってくる。
 これは指定地点を中心に発動する、視界を要求しない魔法――つまり、障害物で防げない。
 粉々に砕け散った墓石の断片が舞い散る中、ハンターらは各々対応を要求される。しかし、シェリルとシュネーは回避で対応でこの状況に対応する。
 特にシュネーは瞬影により、回避すると同時に駆け抜けることで十字架の攻撃を置き去りにすると、跳躍から素早く蹴りを放った。
 レガースの膝に備わる刃を打ち付けるが、やはり有効打ではない。
「当然ですね……でも」
 離れると同時に腕にウィップを巻き付ける。遅れて駆け付けたシェリルは刃を抜き、アレクサンダーを切り付けた。
「固い……。鉄の塊……切ってるみたい」
 振り返るように繰り出される盾を回避すると、背後へ飛びながら銃を連射する。
「もう……止めた方がいいよ。ここは……あなたの仲間の……お墓、でしょ?」
 シェリルの言葉にアレクサンダーの動きが一瞬停止する。
 男は周囲を眺め、そして自らが破壊してしまった墓地の惨状に打ち震えているようだった。
「自分に無い力……救えたかもしれない命……もどかしさ……分かる。でも……貴方の力で救われた命もたくさん。だから、貴方の物語は……今も愛され……風化することなく残っている」
『……私の……物語……』
 英霊はまるで今ようやく目が覚めたと言わんばかりに自らの掌を見つめる。
『そうか……。私は私ではなく……この身は既に幻か』
 騎士はその場に膝を突く、そうして崩れてしまった墓石の破片を寂しげに手に取った。
「もしかして……亡くなった事に、気づいていなかった?」
「たぶん」
 シュネーの問いにシェリルが頷く。
「どうやら誤解は解けたようでちゅね。既に理解したようでちゅが、アレクサンダーしゃんは死後、英霊になったのでちゅ」
 十字架の攻撃で砂まみれになった頭を叩きながら朝騎は一冊の童話を取り出す。
 それは伝説の勇者ナイトハルトが蛮族平定の旅の果て、この地に国を作るまでの物語が記されている。
「良かったら聞かせてあげるでちゅよ?」

 アレクサンダーは大人しくハンターの話を聞くようになった。しかしずっと、最奥の十字架の前に座り込んだままだ。
「ぼっちおじさんって生きてた頃からこんなに大きかったの?」
『……』
「もしもーし?」
「ふむ……英霊になるというのは、当人にとっては良い事とは限らないのかもしれないな」
 紫炎は腕を組み考える。アレクサンダーと直接やりあって感じたのは怒りではなく哀しみの感情だった。
「私が思うに、彼は戦いが好きではないのだろう」
「顔をあげて……。仮面の下の……誰より優しい貴方。どうか……もう泣かないで」
 背後からのシェリルの呼びかけに騎士はわずかに顔を向ける。
『エウラリア……』
 その名前に聞き覚えはなかった。騎士王の童話には目を通したハンターも、覚えがない。
 だがはっきりとそう言って、大男は立ち上がる。
「まずは……一緒に、行こう? お日様の……下」
「そうだよ! 暴れるより祈るより、笑顔の練習をしよう☆ こんなところに閉じこもってたら誰も笑ってくれないよ?」
『太陽……』
 その言葉に何か思うところがあったのか、のしのしと歩き出す。
 3mもの巨体を持つアレクサンダーを外に出すのは容易ではなく、来た道とは違う、帝都イルリ河続く大きな排水路を使う必要があった。
 遠回りをしてやっとたどり着いた河川敷で、アレクサンダーは雲の切れ間から差し込む陽光をじっと見つめていた。
『戦いで信仰を忘れそうな時、私達は太陽を見上げた。あの暖かく包み込む光……陽光(ゾンネンシュトラール)が拠り所だった』
「あなた達が作った国……王国北部辺境領はもう存在しません。でも……通じている物はあるのかもしれませんね」
「うん……そうだよ。見て、アレクサンダー。ここは貴方達が戦って、護った国……それは間違いないよ」
 シュネーとシェリルの言葉を、大男は空を見上げてただ聞いていた。
 やがて静かに顔を下ろすと、胸の前に十字を切る。
『そうか……。それは……よかった……』
「聖盾のアレクサンダー。絶火の騎士よ。お前に頼みがある。英霊として、我らに力を貸して欲しい」
 ヴィルヘルミナが交渉に入ると、朝騎は河原にレジャーシートを敷いてケーキを取り出す。
「アレクサンダーしゃんも落ち着いてくれたようでちゅし、アイしゃんに遅ればせながらケーキでちゅ。あ、プレゼントもあるでちゅよ。靴とスマホ」
「どういう組み合わせなの!? まあ、貰うけど……ありがと」
「スマホなんて使えるのか、アイリス?」
「ホリィが機導研究者のハイデマリーに弟子入りしてたから、これくらいはね」
「でも持ち方上下逆でちゅよ」
 朝騎の指摘に顔を真っ赤にするアイリス。その頭を笑いながらソフィアが撫でる。
『状況は理解した。私などの力で良ければ、人類を護るために使ってほしい』
 騎士は先ほどまでとは打って変わって落ち着き、紳士的な態度で跪く。
『特に貴女に感謝の言葉を。貴女はかつてのエウラリアと同じ言葉を私にかけてくれた。貴女に心よりの感謝を』
「エウ……ラリア?」
『我が友にして聖女、絶火の騎士……勇者ナイトハルトと深き愛……愛? 愛……まあ、そのようなもので結ばれし者』
「そこで首傾げるの?」
『……未来を生きる者に幻想である私が進言するのも心苦しいが……諸君らに伝わる勇者の姿が、だいぶ真実とは異なる……』
 わなわなと震えながら頭を抱え、アレクサンダーは膝をつく。
『あの男はもっと奇天烈で、人と人とも思わぬ、人情の瀬戸際を逝くような……』
「よくわかりませんが、苦労なさったようですね……」
 物語とは脚色されるもの。そのくらいはシュネーもシェリルも想定内ではあるが。
『時に……紫炎よ。先は武人としての非礼を詫びよう。貴公さえ良ければ、改めて手合わせを願いたい』
「私の名前を憶えていてくれたのだな」
『自分の得物を継承する者が未来にいてくれるというのは嬉しい物だ。今度こそ、武人としての立ち回りをお見せしよう』
 紫炎はその言葉に満足したように笑みを浮かべ、改めて聖盾剣を手に取る。
「願ってもない光栄だ。さあ、今度こそ剣を通じて語り合おう!」
 開けた河川敷で二人が打ち合う様を見つめる器に、シュネーはそっと隣に立って語り掛ける。
「後の世に語り継がれる英霊……例えばこういう人も、正義の味方の形でしょうか?」
「英霊と言えば正義の味方の象徴だものね。みんながそうであれと望んだ存在だし……」
 このシュネーの一言は実は非常に的を射たものであった。
 しかし、それが英霊たち物語の鍵となるのはもう少し先の話である。
「シェリル、今回はよくやってくれたな。おかげですんなりアレクサンダーを仲間にできたよ」
 シェリルはヴィルヘルミナをしっかり抱き合いながら頷く。
「へーか……カッテは、元気?」
「ああ。今回の英霊回収作戦は彼の力が大きい。近々また会えるだろう」
「あーっ、ずるいー! 僕がお花を摘んできてる間に……って、これアイにあげる。しょぼい誕生日プレゼントでごめんねー。下水道に入るっていうからさぁ、汚れてもあれだし……。ミナお姉さん、僕もー!」
 器は押し付けられた野花を見つめ、わずかに微笑む。
「都合よく歪められた正義……英霊……。なんか、エルフハイムとあんまり変わらないよね。英霊は……幸せなのかな?」
 器の呟きにソフィアは返す言葉を思いつかなかった。
 ただその肩を抱き、またちょっと宿題が増えた事に苦笑を浮かべた。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 30
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズka0509
  • 丘精霊の配偶者
    北谷王子 朝騎ka5818

重体一覧

参加者一覧

  • 癒しへの導き手
    シュネー・シュヴァルツ(ka0352
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズ(ka0509
    人間(蒼)|14才|女性|疾影士
  • 無邪気にして聡明?
    ユノ(ka0806
    エルフ|10才|男性|魔術師
  • 大工房
    ソフィア =リリィホルム(ka2383
    ドワーフ|14才|女性|機導師
  • 聖盾の騎士
    紫炎(ka5268
    人間(紅)|23才|男性|舞刀士
  • 丘精霊の配偶者
    北谷王子 朝騎(ka5818
    人間(蒼)|16才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談しよう!
ソフィア =リリィホルム(ka2383
ドワーフ|14才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/09/25 21:57:10
アイコン 教えて!ルミナちゃん(質問卓)
ユノ(ka0806
エルフ|10才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/09/25 09:44:06
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/09/21 21:41:59