野菊の少女と薔薇色の牙

マスター:ことね桃

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/10/01 22:00
完成日
2017/10/14 10:33

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ゾンネンシュトラール帝国の人里離れた土地に小さな丘がある。
 その麓にはかつて精霊を奉ずる亜人が住んでいた。
 しかし今は誰もいない。
 花々が風に揺れる丘には、時折狐などの野の獣がふらりと立ち寄るぐらいで。
 ――この丘の傍にはもう、誰もいないのだ。


●花の精霊を探して

 手のひらサイズの四大精霊が一柱、火と闇・正義を司るサンデルマン。彼は帝都で机の上にちょこんと座り、集まったハンター達の顔をじいっと見た。
「サンデルマン様は『ここから少々離れた地になるが、花の精霊の顕現を感じた』と仰いました。地図でいうと、この辺り、とのこと」
 サンデルマンの隣に控える軍人が地図を開き、生真面目な口調で解説を始めた。
「人里離れた地ゆえ、その精霊がどれほどの力を持つかはわかりません。ただし精霊が顕現したからには歪虚に襲われる可能性は低くはない。出来るかぎり早期に保護できればとサンデルマン様は仰いました」
 こくこくと頷くサンデルマン。軍人はその様子に少し安堵した様子で口元を緩めると、一枚の紙片をハンターの前に差し出した。
「これは?」
「力の弱い精霊は土地から離れると衰弱してしまうと聞きますし、歪虚から狙われることもあるでしょう。それらから身を守るためのサンデルマン様のご加護、とのことです」
 ハンター達は不思議そうな顔でそれを受け取ると荷の中へ大事に収めた。
『……帝国に居を構える精霊たちは複雑な過去を持つ者が少なくない。説得に骨が折れるだろうが、頼むぞ』
 本日はじめて発されたサンデルマンの声にハンターたちは深く頷いた。


●精霊のめざめ、そして

 誰もいない寂しい丘にささやかな雨が降る。
 群生する花々のもとから、白い無数の花弁を纏った精霊が顕現してから数日の時を経て覚醒した。
「ワタシ……ネムッテ、タノ?」
 少女の姿をしたそれは音もなく立ち上がると小首を傾げ、自分の記憶をたどりはじめる。
 まずは自分はこの地に咲いた無数の花々の記憶と意思が混ざり合ってできたものであることを思い出した。
 次に、この丘の麓に住む亜人たちがとても親切にしてくれたこと。日照りが続くと彼らは小川からせっせと水を運び、元気づけてくれた。
 そしてその亜人たちがある日を境に姿を消してしまったことを……。
 亜人を捕まえるヒトの横顔が脳裏にフラッシュバックする。
 あの日、傷を癒す力しか持たぬ自分は亜人に匿われ、木の陰に隠れることしかできなかった。縄で縛られどこかへ連れられていく亜人の背を見送ることしかできなかった。
「アア。ソレデ、ワタシハ……デモ、ソレナラナンデ……?」
 自分の弱さに絶望し、永遠の眠りを手にしたはずだった。それなのに今、自分は目覚めてしまったのは何故なのか。
 ――精霊が愛くるしい顔をくしゃと顰め、頭を抱えた瞬間「かさ」と小さな音がした。
「……ッ!?」
 精霊が咄嗟に振り向く。そこにいたのは薔薇色のドレスを纏った少女だった。ぬばたまの髪が雨水でべったりと顔にはりつき、真紅の瞳がその間から爛々と輝く様子から彼女の精神状態が尋常ではないことを匂わせている。
「ニンゲンッ!?」
 精霊は身震いするなり咄嗟に後方へ飛びのいた。しかし、精霊はすぐに気がつく。薔薇色の少女が彼女にとってのもうひとつの敵・歪虚であることに。
 少女の口元から鋭い牙が姿を現し、ドレスのゆったりとした袖から巨大な金属の爪ががしゃりと音を立てて垂れ下がった。……間違いない、敵だ。
「ズットネムルコトモデキナイナラ……!」
 自分と同じ花々が咲き乱れるこの丘を。こんな歪虚なんかに大事な思い出を汚されてたまるものか。
 精霊は小さな手にマテリアルを集約し、震える足を前に踏み出す。
 その時、背後からかすかに声が聞こえた。その言葉は、彼女にとっては忌まわしきヒトのもの。
「……ナンデコンナトキニッ!」
 精霊は震える手で涙を拭い、不倶戴天の敵に挟まれる恐怖で身を竦めた。

リプレイ本文

 サンデルマンから精霊の保護の命を受け、地図で示された場所――小さな丘の麓にハンターたちが到着した。静謐な空気と鮮やかな緑に覆われたその地はとても美しいものの、どこか寂しい。視界が霧雨につつまれ模糊としているからだろうか。
 しかし一行の先頭を歩むリアリュール(ka2003)が木々の合間から見える花畑を確認すると晴れやかな笑みを浮かべた。
「皆、丘の上に花畑が見えるわ! きっとあそこに花の精霊様がいらっしゃるのね」
「まあ、本当に。でも私はサンデルマン様が仰っていた複雑な過去というのが気になります。龍族のような苦難を受けたのかしら」
 リアリュールと同じく丘の風景に瞳を輝かせるものの、顔に憂色を漂わせたのはエステル・クレティエ(ka3783)。
 マリアンナ・バウアール(ka4007)は女性らしい姿にそぐわぬ巨大な斧を担ぎなおすと、エステルの憂いに落ち着いた声で答える。
「まずは精霊殿からじっくりとお話を伺いましょう。私達のことを受け入れてくださると良いのですけれど」
 頷きあう先の3人に続くのは物静かな鬼の少女2人だ。
 澪(ka6002)が人差し指を花畑に向け、頬をほのかに紅潮させた。
「香墨、綺麗だね」
「ん。澪は花が好き?」
 濡羽 香墨(ka6760)が親友の弾む声に対し、甲冑の奥から穏やかな声で返す。澪は嬉しそうに目を細めた。
 その時、後方からバイクのエンジン音が響いた。ハンターオフィスに精霊の詳細な情報を尋ねに向かっていたマリィア・バルデス(ka5848)が合流したのだ。
「詳しい話を聞いてきたわ。この辺りは精霊を信仰するコボルド達の村だったそうよ。初代皇帝の時代に精霊との接触を目的にした帝国軍の調査隊と対立して滅びたんですって」
「コボルド達の事情は窺い知れないけれど、その出来事が精霊様の心の傷になっているかもしれないわね」
 リアリュールの歩みが緩やかになった。精霊の棲む花畑までは残り僅か、思案に浸る時間が欲しくなったのだ。
 その時だ。花畑からにわかに少女の悲鳴と花を乱暴に踏む無粋な音が聞こえたのは。
「……っ!?」
 マリィアが一瞬、肩をこわばらせた。そして再びバイクのアクセルを吹かす。
「悠長に対話できる時間はなさそうね!」
 一行は各々の武器を強く握り締め、雑木林を一気に駆け抜けた。

「……? コボルドっ!?」
 第一に花畑へ到着したマリィアの目の前にいるのは禍々しい吸血鬼型歪虚と、黒犬の顔をしたコボルドの少女だった。
 しかしコボルド少女の体には白い花が無数に飾られている。そして鮮烈なマテリアルの流れから彼女が高位の存在――精霊だとその場にいる誰もが確信した。
「逃げなさい、隠れるの、フィーフローレ!!」
 マリィアが精霊に仮の名を与え、鋭く叫ぶ。精霊が震えながら振り向く。その涙ぐんだ瞳には恐怖の色が浮かんでいた。
(まさか動けないの? ならば……!)
 マリィアはバイクから降りるとそれを銃架代わりに、自身の背よりも大きな魔導銃を構えた。そして精霊を巻き込まないように先端を歪虚に向ける。小気味良い音がし、無数の花弁と土埃が舞った。歪虚は乱入者に向かい睨みつけつつ身を竦める。
(今のうちに!)
 リアリュールがクローズコンバットを発動させ、疾風のごとく戦場を駆ける。精霊の住処である花畑をできるかぎり荒らさぬよう、花々の隙間を縫って。その姿に精霊が悲鳴をあげた。
「イヤ……コナイデッ!!」
 コボルド訛りが強い精霊は目を固く瞑り、マテリアルの波動を彼女に放出した。しかし我武者羅に放出されたそれはリアリュールの腕を掠めるだけに留まった。
「……っ! 精霊様、私はエルフのリアリュール。大精霊サンデルマン様の御意思で、貴方様をお守りするために参じました。御身を守らせていただきます!」
 リアリュールは血が滲む腕を一顧だにせず、歪虚と精霊の間に立ち盾を構える。その声に恐る恐る精霊が目を開いた。
「エルフ、ナノ?」
「はい」
 リアリュールが髪をかきあげる。エルフ特有の長い耳が現れた。彼女は精霊に礼節を尽くし、優しい声で続ける。
「それよりも精霊様、お怪我はありませんか?」
「……ダイジョウブ。デモ、ナゼニンゲントエルフガ……」
 困惑する精霊。その時、歪虚が咆哮をあげた。その意味はどうとでもとれるが、いずれにせよ猶予はない。
「一刻も早く倒さなければ! 凍てつきなさい、アイスボルトッ!!」
 エステルが氷の魔法を歪虚へ届くよう、マテリアルを操る。たちまち強い冷気が一本の矢と化し歪虚に向かって一直線に飛び出した! 歪虚は防御するべく手を伸ばしたが氷の矢がドッ、と鈍い音を立てて下腹部に突き刺さる。猛烈な冷気が歪虚を包み込み、華奢な体に霜を下ろした。
 次に歪虚の前に躍り出たのはマリアンナだ。彼女は歪虚の側面に位置取り、巨大な斧を構える。
(ゆっくり話してからにしたいですけど、そうも言ってられません。バウアール様、この戦にご加護を!)
 彼女は自らが信仰する神へ祈りを捧げると、歪虚の動きを見逃すまいと唇を噛んだ。
 それと同時に足を大きく踏み出したのは澪だ。
 彼女は刀に手をかけたまま駆ける。だが精霊の怯えた顔が目に入ると、後方に続く親友へ一瞬だけ振り返った。
(精霊も香墨もかつて人間に辛い思いをさせられたはず。誰も信じられなくなって、苦しんでる。澪はそんな2人を放っておけない。必ず、守る!)
 澪は歪虚の前に立ち塞がった。そしておもむろに腰を落とすと目にも留まらぬ速さで刃を抜き放ち、目を白黒させる歪虚に剣撃を仕掛ける。
「!!」
 澪は歪虚の肩と腰に連撃を叩き込み、続けて花畑の外周に向かい流れるように移動し叫んだ。
「私はあなたの敵! 私が憎いなら追ってきなさい!!」
 澪に続いて駆け出した香墨はリアリュールと同じく、精霊と歪虚の間に割り込んだ。異形の甲冑を纏う彼女の姿に精霊は縮みあがったが、香墨はそれに構わず盾を構えて呟く。
「……ニンゲンは嫌い。けど、精霊なら。勝手に死ぬのは、ゆるさない」
 その静かな声に精霊は顔を強張らせた。
「カッテナコトヲ! ニンゲンガワタシニイキロトメイレイスルノ!?」
 その時、歪虚がついに動いた。マリィアの銃弾が尽きたことを感じ取った歪虚が、マテリアルの集合体である精霊に向かい獣のごとき俊敏さで肉薄する。そして巨大な鉤爪が振り上げられた!
「イ、イヤッ!」
 頭を抱え、しゃがみ込む精霊。そこに響いたのは精霊の毛皮を裂く音ではなく、鈍い金属音だった。
「私達が必ずお守りいたします。生きることを諦めないで!」
「死ぬのは怖くない? 私はこわい。けど。こうでもしないと。おそかれはやかれ。……勝手に死ぬのは、ゆるさない」
 リアリュールと香墨の盾が歪虚の攻撃を弾いたのだ。香墨はその勢いで盾を突き出し、歪虚を押し倒す。
「グオッ!?」
 丁度花畑の隅に向かって倒れ込んだ歪虚に対し、香墨は憎しみを込めて金属で覆われた足を振り下ろす。歪虚の顔が朱に染まった。
「死ぬのはこわい。けど、歪虚はきらい。だから……死んじゃえ」
 それでもなお笑い続ける歪虚。香墨は改めて警戒し、盾を構えなおした。

(身を守るべく精霊は蹲った。生きる意思を失ってなどいない!)
 精霊の変化に安堵するも気を引き締め、マテリアルを駆使して銃弾を再装填したマリィア。彼女は得物から弾丸を2つ射出した。そのうち1つにはハウンドバレットの力が。もう1つは――捨て弾である。
 マリィアのコントロール下におかれた弾丸が、今まさに立とうとしている歪虚の足を2度貫く。
「ガッ!?」
 大きくふらつき、地に膝をつく歪虚。しかしマリィアの銃撃は終わらない。
「これが私の切り札だっ!!」
 マテリアルを最後の弾丸に全て収束させて放つマリィアの必殺の一撃が歪虚の頭の上半分を吹き飛ばした! しかしそれでも蠢く歪虚にマリィアは小さく舌打ちし、大型銃を手放すと精霊に駆け寄った。
 一方、後方のリアリュールはクローズコンバットを解除し、手裏剣を手にした。
「香墨さん、精霊様の守りは」
「ん、油断しない」
 守備に徹する香墨の返答に頷くリアリュール。その瞳は歪虚を見据えている。頭半分を失った歪虚は全身を震わせながらも精霊に向かって歩みを進めているのだ。
「精霊様には指一本触れさせないんだから!」
 歪虚の動きを見極め、その足元に手裏剣を絶妙な手捌きで投げつける。そこで音で異常を察し足を止めた歪虚に続けて手裏剣を次々と命中させた。その鋭い刃は歪虚の胸と指を数本引き裂き、左腕の鉤爪を落とすに至った。
 精霊が凄惨な様に小さく悲鳴をあげる。その瞬間、緑の風が彼女を優しく包み込んだ。エステルのウィンドガストだ。
「今しばらくのご辛抱を。歪虚は私達が倒しますから」
 精霊は駆け寄るエステルにおずおずと頷くと、震える足を動かし歪虚から離れる。
 そこでマリアンナは巨大な斧を巧みに動かし、攻防一体の動きで歪虚を翻弄し始めた。
「吸血鬼さん、もう戦いは終わりにしましょう!」
 野生の力を帯びた強烈な2連撃。右足が砕け地に這いつくばった歪虚は喉の奥から悲鳴にならない吐息を放ち、残った腕を振り回した。
 旋風のように荒れ狂う鉤爪。それは前衛の澪とマリアンナに大きな傷をつけ、花畑を無残な光景に作り変えようとしていたが。
「花畑は精霊さんの棲家で命そのもの。好き勝手はさせませんっ!」
 エステルが守りの力を持つ傘を開き、叩きつけられんとする爪を辛うじて食い止めた。
 無念そうに息を吐く歪虚。その喉に澪の刃が突き刺さる。返す刃を流れるような動きで鞘に収める澪。ちん、と音が鳴るその瞬間に薔薇色の吸血鬼は灰となって崩れ去った。

 戦いが終わり、小さな丘に静けさが戻る。ハンターたちの尽力により花畑は最低限の被害に収められてたものの、歪虚が荒らした傷は深い。
「お花、荒らしてしまってごめん。せっかく、とても綺麗だったのに」
 澪の謝罪に精霊は応じず、地面に散乱した花を拾っては黙々と植えなおしていく。
 その姿が痛々しく、エステルは黙して精霊の手伝いを始めた。
 ――悲しい沈黙。そこで再び澪が勇気を振り絞り、声をかける。
「いきなり信じろ、と言われても無理だと思う」
 彼女は精霊に怯えさせないよう、サンデルマンの依頼の件や現在の帝国についてやわらかく言葉を紡いだ。それに触発されたリアリュールが武器を置くと精霊の前に跪いて視線を合わせる。
「精霊様を奉っていたコボルドさん達が人間との争いで犠牲となり、とてもお辛かったことでしょう。でも」
 すると精霊は丸い目の端を吊り上げ、小さな拳を握り締めた。彼女なりに人間達に理解させたいのだろう。怒りを滲ませながらもコボルド訛りを抑えて言葉を発する。
「争イ、デスッテ? 武器ヲ持ッテイナイ子ヲ一方的ニ殺スコトヲ争イト呼ブノ!?」
「一方的?」
「アイツラハ突然村ニヤッテ来テ、精霊ヲ出セッテ……友達ニ刃ヲ突キツケタ。話シ合イニ向カッタ皆ヲ捕マエテ、村ノ全テヲ破壊シタ!」
 大きな瞳から涙を零す精霊。その小さな体をリアリュールがそっと抱きしめ、背を撫でる。精霊の体は子犬のように柔らかく、甘い花の香りがした。
「私ハ、丘ニ逃ゲテ来タ子達ノ傷ヲ癒スコトシカ出来ナクテ……何モ出来ナカッタノ。私ハ人間ガ嫌イ……デモ、一番嫌イナノハ自分……臆病デ役立タズナ自分……」
「フィー、貴方は哀しくて眠りについたのね……」
 精霊はマリィアの声にがっくりと項垂れた。
「ソレナノニ……嫌イナ人間ニ守ラレテ今モ生キテル」
 そこで今まで黙っていた香墨が口を開いた。
「ニンゲンを憎んでいるのは、あなただけじゃない」
 香墨が兜を脱いだ。うら若い少女の素顔が露わになる。そして前髪を持ち上げると、無残にも傷ついた角が晒された。澪が大きく息を呑む。
「香墨!」
「大丈夫。……私は、ニンゲンに『こう』された。だからニンゲンも歪虚も大嫌い。でも生きるためにハンターになって、今はニンゲンと共存してる。矛盾だらけ。ね、たとえニンゲンが許せなくても生きる道がなくなるわけじゃない。ニンゲンが嫌いなら、私ときて」
 香墨の真摯な瞳。澪が続く。
「このまま貴方がここにいては、また襲われる。だからついてきて。私は貴方にいなくなってほしくない。こんなに綺麗な場所を作れる貴方を」
 澪は精霊と親友を心の中で重ね合わせ、声を詰まらせた。精霊は2人のまなざしに目を伏せる、声を震わせる。
「私、人間ガワカラナクナッタ。友達ヲ殺シタ人間ハ大嫌イ。デモ此処ニイル人ハ……」
 エステルが意を決したように、精霊の前に跪く。
「精霊様や香墨さんが仰るように、決して人は良い存在だとは言えません。歪虚と背中合わせで何時でも堕ちていく可能性もあります。……けど、省みる事が出来るのも人だと思います。全面的に許してほしいとは言いません。ただ、どう生きるか見ていてほしいです」
 リアリュールが頷いた。
「エルフも人に迫害された過去があります。それでもエルフも人も互いにルールを作り、共存の道を選びました。精霊様、昔のことをもっと教えていただけませんか。これからの亜人も人も、心を通わせて皆を守っていくために御力をお貸しください」
「デモ此処ハ私ガイナイト……」
 するとマリアンナが千切れた花々の中から実をつけたものを拾い、精霊に差し出した。
「花畑は冬になれば枯れる。春も夏も別の花が入れ替わる。例え燃えて灰になっても、灰を糧にして蘇る。踏まれたぐらいで滅びるほど、自然の花は弱くない……そうでしょう? この実からこぼれる種もきっと、来年には花を咲かせるはず」
 精霊が目を見開き、周囲を見回した。たしかに自分が不在のこの丘で無数の生命の営みが行われていたのだ。花畑には馴染みの花々だけでなく、風や獣達が運んできた見知らぬ花々も揺れている。この地は精霊の加護がなくとも生きていけるのだ。
「あとは歪虚の汚染さえなければ……歪虚を討つために、今の人間達は精霊との共闘を願っています。精霊殿、大精霊の保護を受けていただけませんか? あなたの友達が眠るこの地を守るために」
 誠実なマリアンナの言葉に精霊は涙を拭い、頷いた。そしてリアリュールに「モウ、大丈夫」と告げて立ち上がる。
「人間ノコトハ理解デキナイ……デモ、コノ地ヲ守ルタメナラ頑張レル。『フィー・フローレ』ノ名ハソノ証トシテ戴クワ」
 彼女の瞳にもう迷いはない。花の精霊フィー・フローレと彼女の領土はこうしてサンデルマンからの庇護を受け、人と共に生きていく道を選んだ。

 フィーとハンターたちが丘を降りていくその時、澪がふいに足を止めた。小さな手を天に翳し、呟く。
「ねえ、香墨。雨がやんだよ」
「……ん、よかった」
 一行が空を仰ぐ。帝都に向かう道に、花精霊の生を寿ぐように雲間から明るい光が射し込んでいた。

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MVP一覧

  • よき羊飼い
    リアリュールka2003
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデスka5848

重体一覧

参加者一覧

  • よき羊飼い
    リアリュール(ka2003
    エルフ|17才|女性|猟撃士
  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエ(ka3783
    人間(紅)|17才|女性|魔術師

  • マリアンナ・バウアール(ka4007
    人間(紅)|18才|女性|霊闘士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 比翼連理―瞳―
    澪(ka6002
    鬼|12才|女性|舞刀士
  • 比翼連理―翼―
    濡羽 香墨(ka6760
    鬼|16才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【相談】花の精霊の保護について
リアリュール(ka2003
エルフ|17才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2017/10/01 20:25:08
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/09/30 09:31:54