我が望よ、響け

マスター:朝臣あむ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/10/08 12:00
完成日
2017/10/18 22:35

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 昔、精霊の行く末を気に掛け、彼らのために何か出来ないかと動いた者がいた。
 彼女は自らの知識を広げ、自らの足で精霊の住まう地を巡り、自らの言葉で彼らを救うべく語った。
 その成果は徐々に生まれ、1人の精霊が彼女が歩みを止めるその時まで傍にいたと言う。
 そんな功績を残した錬金術師の名は『フロイデ・カロッサ』――ゾンネンシュトラール帝国・ワルプルギス錬魔院院長であった女性だ。


 錬金術師組合組合長室のデスクに重ねられたおびただしい量の本。その本に囲まれながら黙々と手と目を動かすのは部屋の主リーゼロッテ・クリューガー(kz0037)だ。
 数か月前、前錬魔院院長の墓参りの際に遭遇した前院長「フロイデ」を名乗る歪虚を目にした日から、リーゼロッテは何かに憑りつかれた様に調べ物を続けていた。そしてその手がようやく止まる時が来た。
「出来ました……これで、これでようやく動き出せます……!」
 出来上がったのは読み漁った資料を簡潔にまとめたレポートと、何かの装置らしきもの。
 彼女はそれらを鞄に詰めると、デスクの傍らに置いておいた杖を取った。
「バンデさん、お待たせしました。これであそこに行けますよ!」
『ふぁあ~……おはよーリーゼちゃん……むにゃ』
 バンデ。とはリーゼロッテが愛用していた杖の宝石に宿る精霊のことだ。
 彼女は前錬魔院長が宝石に封じた精霊で、四大精霊が顕現して以降に突然リーゼロッテに声をかけて来た。
 このバンデがいなければ前院長に遭遇することもなかったのだが、リーゼロッテはそんなことに気付きもしない。むしろ今はやるべきことを見付けて前向きになっている――そんな印象を受ける。
『もう大丈夫なのー?』
「はい。やるべきことは決まってますから」
 頷く彼女に迷いは見えない。
 そんな彼女に「何を決めたの」とは聞けないが、大方の予想はつく。
『そう言えば、フロイデは何でいまさら姿を見せたですかねー?』
「たぶん歪虚としての力が充分になった。というのもあると思いますが、一番の理由は四大精霊の顕現による精霊と英霊の活性化だと思います」
 四大精霊の影響で精霊や英霊が活性化したことで、人も歪虚もその存在の確保に動き出している。
「前院長は元々精霊を研究していましたし、こちらの可能性の方が動き出した理由には近いと思います。だからこその、今回の旅ですよ!」
 リーゼロッテはそう言うと、少しパンパンになった鞄を背負った。
 これからハンターに依頼をかけてある場所まで同行してもらうことになっている。そこは前院長との所縁も強い場所で――
「バンデさん。道案内をお願いできますか?」
『もちろんですー! 元気に出発するですよー!』
 バンデにとっても関係の深い場所だった。


 ハンターに護衛をしてもらいながらリーゼロッテが向かったのは、帝国領とエルフハイムの狭間に近い鉱山だった。
「この辺りの精霊は皆いなくなってますね……」
『昔からこんな感じですよー。でももう少し行くといるですよ!』
 リーゼロッテは出発前、ハンターに「精霊に会いに行く」と言った。
 だがこの鉱山はバンデの言葉を裏切るように、ゴツゴツの岩と水気を失った砂が延々と続いている。
 しかも歩きはじめて既に1時間。リーゼロッテの筋肉皆無の体も限界を超えている。と、その時だ。
『あったですー! あそこが入口ですよー!』
 宝石から出た淡い光が指示したのは、岩と岩の間に生まれた隙間で、ちょうど人が1人通れるくらいの大きさの穴があった。
「あの先に精霊が……!」
 力を振り絞るように歩き進めたリーゼロッテが隙間を抜けると、彼女の口から「わぁ」と歓声が漏れた。
 そこにあったのは外にあった乾いた岩ではなく、キラキラと輝くクリスタルの様な鉱石たちだった。
『ここにいるのはクリスタって言う鉱石の精霊ですねー。フロイデはクリスタにお願いしてあーしを宝石に封じたですー』
 バンデは元々宝石の精霊ではない。
 彼女自身も自分が何の精霊だったか忘れてしまっているらしいが、とりあえずフロイデが宝石に封じたことは覚えているようだ。
『おやおや、久しいヒトの気配につられてみれば……そこにいるのはバンデかな?』
『あ、クリスタ! 久ぶりですねー!』
 洞窟内に響く不思議な音色が言葉を紡ぐ。
 どうやらこの声がバンデの言うクリスタのもらしい。
 リーゼロッテたちは声に導かれる様に洞窟の最深に達すると、何色とも言えない鉱石の前に佇む青年の姿をした妖精を見付けた。
「お初にお目にかかります。私はゾンネンシュトラール帝国錬金術師組合組合長のリーゼロッテと言います。この度こちらに参りましたのは」
『だが断る!』
『えーー!! まだ何も言ってないですしー、フロイデの時は力を貸してくれたですよー!』
『えー! ではない!』
 要件を口にする間もなく断られたことに固まるリーゼロッテを他所に、クリスタは「ふんっ」と鼻を鳴らして言う。
『我はあの小娘に騙されたのだ! 精霊を守りたい。その為に力を貸して欲しい……あの真剣な眼差しに負けて力を貸した。だが実際にはどうだ? 小娘は我の力を使うだけ使って会いにも来ぬ。しかも精霊は減る一方。我はもう信じぬ。ヒトはー信じぬー!!』
 ぷいっとそっぽを向いたクリスタにリーゼロッテの表情が曇った。しかし諦める訳にはいかない。
「お義母さん……前院長は精霊との調和を望んでいました。それは間違いなく事実です。だからクリスタさんに言った言葉も嘘ではないと思うんです。でも、歪虚になった彼女が行おうとしていることは、生前の彼女の考えとは真逆なことです」
『む……あの小娘、歪虚になったのか?』
「残念ながら……」
 小さく頷くリーゼロッテにクリスタの顔が傾く。
「生前の彼女の研究は本当に素晴らしくて……中でも一時的に精霊を鉱石に封じ込める方法が本当に素晴らしかった……」
 この方法を使えば、精霊を一時的に鉱石に移した状態で別の場所へ移動させることも出来るのだ。
『それが何だと言うのかね』
「つまりこう言うことです。前院長は精霊を得るために姿を現すでしょう。でもそこに精霊がいなかったら彼女はどうすると思いますか?」
『バンデちゃんわかるー! フロイデは別の場所にいくー!』
「そう。そしてそこにも精霊がいなかったら?」
『次の場所にいくー!』
 バンデの大きな声にクリスタの口から溜息のような吐息が漏れる。
『……成程。お主の考えはわかったが、我は力を貸さぬ。お主の考えが上手くいく保証はない。そもそもその行動が我等精霊に何の得がある……正直、利用されるのはもう御免だ』
 わかったら帰れ。
 クリスタはそう呟くと、緩く頭を振って姿を消した。
 残されたのはリーゼロッテは戸惑うように後ろに立つハンターを振り返ってこう言った。
「もう1度――いえ、何度でも説得します! お願いします、説得に協力してください!!」

リプレイ本文

 強烈な頭への痛みと宙へ浮く感覚。しかも視界が一回転する光景をリーゼロッテが目にするのは初めての経験だった。
「申し訳ない、クリスタ。間違ってもコイツを人間のスタンダードだとは思ってくれるな。アンタの命と想いはアンタのものだ。アンタの思うようにしてくれりゃいい」
 そう言ってリーゼロッテの頭を押さえ付けたトリプルJ(ka6653)は、自らも頭を下げると彼女にも同じように下げるよう促した。
 クリスタを目にした時のリーゼロッテの態度と言葉は、トリプルJにとって許しがたいものだった。横柄で、自分のことしか考えていない。そう見える彼女に謝罪をさせるのが第一。そして許しを得たら次へ進もう――そう、思っての行動だった。
 しかし、
「ちょっと……待とうか?」
 苦笑とも苦言ともとれる、なんとも言い難い声にトリプルJの顔が上がる。
「リーゼ姉様、気絶してるですの」
「なに!?」
 ファリス(ka2853)の声に目を向ければ、確かにリーゼロッテは頭を下げたまま身動きしない。まさかこの程度で……そう思ったが、次に聞こえた声に彼の顔が被っていた帽子によって隠された。
「リーゼさん、一般人だから……よっと!」
 守原 有希遥(ka4729)は突っ伏した状態で動きを止めている彼女を抱え上げると、僅かに肩を竦めてクリスタがいるであろう鉱石を見た。
「クリスタさんすみません。冷静になっていれば色々頭の働く人なんだけど……まあ、今回に限っては勢いがつきすぎて悪い方に働いたな」
「……なの。リーゼ姉様。霊様に一方的にお願いするだけなんて良くないと思うの」
「後で言ってやると良い……それで良いだろうか?」
 シギル・ブラッドリィ(ka4520)の声に、皆の目が改めて鉱石に向かう。
 そこに現れたのは鉱石の精霊『クリスタ』だ。
『勝手に決めおって……して、その娘は大丈夫なのか?』
「ええ。外傷もないですし、軽い脳震盪を起こしているだけだと思います。すぐに目を覚ますと思いますよ」
 にこり。そう笑うクオン・サガラ(ka0018)にクリスタの口から安堵の息が漏れる。これを見てもわかるようにクリスタに敵意はない。それを先のやり取りから感じ取っていたユウ(ka6891)は、クオン以上の笑みを浮かべてクリスタの顔を覗き込んだ。
「精霊様は優しいですね。こうやって姿も見せてくれてますし」
『我は……五月蠅かっただけよ……』
 まるでツンデレの典型の様な姿を見せるクリスタにシギルが密かに「なんとも人間臭い精霊様だな」と呟くが、これは他の面々には届いていない。
 代わりに、今までここまでを傍観していたエーミ・エーテルクラフト(ka2225)が手を打つと、皆の視線が彼女に集まった。
「実はお茶の用意をしてきてるのよ。組合長さんもお疲れみたいだし、みんなでお茶でも飲んでゆっくり考えない?」
 そう言って広げて見せた茶道具セットに金目(ka6190)が「おお」と身を乗りだす。
「酒は……ない、か? いやいや、そうじゃなくてだ……お茶にするのはアリだな。クリスタ氏にもいろいろ聞いてみたいし。ここは心行くまで話し合うってのも良いんじゃないか?」
「ではお茶をしながらお話をする、と言うことで……みんなで準備しましょう」
 エーミはそう言うと、にっこり笑ってお茶の準備を始めた。


「ははあ……つまり、このあたりの鉱石全部にクリスタ氏の力が及んでるって訳か。いやぁ、僕は生業上、石には大変世話になっているし、興味もある。有り体に言って大好きだ。そんな僕が言うんだから間違いない。クリスタ氏の偉大さは表現しがたいほどに素晴らしいね!」
 一通りの自己紹介を終えた後、クリスタに真っ先に話しかけたのが金目だった。
 道中を含め、鉱石の洞窟に足を踏み入れた直後から、彼の期待値と興奮度はマックスに跳ね上がっていた。それに加えて鉱石の精霊クリスタの顕現である。更に興奮せずにはいられまい。
「この、やおらキラキラした物は水晶かな? いや、本当にすごい!」
 出来る事なら持ち帰って溶かしたり削ったり叩いたり――いや、それ以上貴重な存在が目の前にいるなら――。
「悩ましい……!」
 好奇心の頂に達したのか、何かを我慢しているのか、頭を抱えた金目にクリスタの目が瞬かれる。その上で彼はエーミが用意してくれたマテリアルたっぷりのお茶に視線を落とすと「ふぅむ」と零して首を傾げた。
『確かあの小娘は、マテリアルを含んだ高純度の鉱石とか……そう言っておったな』
「『あの小娘』って、フロイデのことかしら?」
 サラリと出て来た名称にエーミが興味を惹かれた様に問いかける。が、クリスタはそれをしまったと思ったのか、何も言わずに座る位置を変えると口を噤んでしまった。けれどこれくらいは想定の範囲内だ。
「フロイデと言えば、彼女が歪虚になっていたなんて初耳だったわ」
 フロイデ――錬魔院前院長『フロイデ・カロッサ』。この世界の魔術師なら誰でも知っている大物。その彼女の最期が歪虚化だなんて思ってもいなかった。
「最期と言う表現は違うかしら……正確には歩みを止めた?」
「止めざるを得なかった……止めさせられた……いえ……」
 聞こえた声に目を向けると、ようやく目を覚ましたらしいリーゼロッテと目が合った。
「おはよう、組合長さん。それで、今のはどういう意味かしら?」
「あ……ごめんなさい。ご迷惑もお掛けして……。クリスタさんも……一方的にこちらの意見を押し付けるような真似をしてしまい、申し訳ありません。よろしければ、改めてお話をさせて頂けませんか?」
 彼女はハンターの皆、クリスタへ顔を向けると、ゆっくり頭を下げた。
 これにクリスタの口から「勝手にせい」と返ってくると、安堵したように微笑を零してリーゼロッテは口を開いた。
「前院長の死因は『不明』ですが彼女は確かに亡くなりました。それは研究が出来なくなった……つまり、歩みを止めざるを得なかったのだと思います。もしかしたらその無念が……」
 何かをかみ殺すように発せられた言葉に含みを感じるが、彼女が亡くなった事は事実だ。そしてそれは石に封じた精霊バンデも同意する。
『フロイデがいなくなったから、バンデちゃん話せなくなったですよー。あ、でも今は話せますよ~~!』
「確かバンデさんは四大精霊の顕現後に動けるようになったんですよね。だとするとすごく最近のことか……」
 思案気に視線を動かすクオンは事前に確認して来た資料を思い出す。
 フロイデのことは前院長で現在の錬魔院の基礎を作り上げた人物。精霊に関しての資料は帝国領に関して言うならばほぼなし。ハッキリ言って情報収集のし甲斐がない事前調査だった。
 それでもわかった事はある。
「今、帝国の人たちは顕現した精霊と手を取ろうと動いています。動ける方は安全な場所へ。そうでない方へは歪虚除けのお守りを渡す、とかそんな感じで……」
「こう動く理由は歪虚だ。つまりリーゼロッテの頼みで貴方にメリットがあるとすれば、それは貴方を守る為。と言うことになるが……まあ、単純な話、ここにいるのは危ない」
 そう穏やかに言葉発するシギルにクリスタも頷く。
 どうやら四大精霊が顕現したことも、歪虚が精霊を確保すべく動いている事も承知しているようだ。それでも尚、この場に留まるのはリーゼロッテの言葉が原因だろうか。それとも、「待っているのね……今でも」とエーミの静かな声が響く。
「……当時の彼女の心はこの花が物語っている。でも『あの時の彼女』は待っていてもここには来ないと思うの」
 占術を使ったのだろう。
 寂しげに語るエーミにクリスタの目が落ちた。きっと彼自身もわかっている。そして戻ってくる事があれば、それは彼女に似て非なるもの。
「前学長が記憶を有しているのであれば、遠からずここに来るだろう。だが、歪虚になった彼女に会うのは貴方も良い気分ではないのではないだろうか?」
「おいおい、これじゃあさっきと何も変わらねぇぞ。精霊でも人でも。頼むなら頼み方がある。頼む方が礼儀を示し相手の利を示す。正しいから無償で従えなんてどこの奴隷働きだ。確かにメリットはあるが俺達に与えられるのはそれだけじゃねぇだろ」
 クリスタをかばう様に彼の前に座ったトリプルJは、そう言いながら次の言葉を探すように視線を泳がせ、膝を叩いた。
「そうだ。俺達は精霊とは友誼を結びたいんだよ。だからさ、アンタの望みを教えてくれねぇか、クリスタ。俺はそれを叶えたい」
 ニッと笑った彼の顔に嘘はない。
 それはクリスタも理解したのだろう。何かを思い出したように目を見開いたかと思うと、直ぐに視線を外して息を吐いた。
『あの小娘もそう言っておったわ。我等と友好を結びたいと……我等の力になりたいと』
「亡くなるまで、その想いはありました。それは間違いありません」
『証拠はあるのか? 小娘が裏切っていないと』
「それは……っ」
 証拠はない。あるとすればフロイデの研究日誌くらいだろう。
 だがその日誌は彼女が生を終えた所で止まっている。つまり研究は途中、クリスタへの言葉も、謝罪も、何も残っていない。
「……リーゼ姉様。ファリスはよく分からないの」
 不意に聞こえた声と、袖を引く感覚に目が落ちた。
「……リーゼ姉様はなにをしたいの? ファリスみたいな子供にもきちんと理解出来るように説明して欲しいの」
 何をしたい。そう問われて浮かぶものはある。
 けれどそれは本当に行っても良いものだろうか。トリプルJは「正しいから無償で従えなんてどこの奴隷働きだ」と、言っていた。
 その言葉は尤もたるものであり、冷静になったからこそ同意も出来る。けれどリーゼロッテに力を貸してもらった代償を払う当てはない。
「……リーゼ姉様?」
「もう何か月前でしょうか……私は歪虚化した前院長に会い、『共に逝こう』と誘われました。彼女は歪虚になった事で永遠に研究が出来ると喜んでいましたが、私にはそうは思えませんでした」
 前院長の研究は『精霊に力を借り』一時的に精霊と会話をして彼らの許可を得て力を行使する。つまり今の錬金術の様に無理矢理力を借りるのではなく、信頼関係がある状態で力を借りることを目標としていた。
 そうする事で枯渇するマテリアル対策にも繋がると信じていたのだ。
 けれど先日会った彼女はその考えを否定していた。
「前院長が使った力は歪虚のそれ……本来錬金術師が使う術よりも膨大なマテリアルを使用するものでした。それなのに周囲の植物は枯れていなかった……これがどういう事かわかりますか?」
「もうすでにあちらさんは精霊をエネルギーに変える何かを持ってる、そう考えてるのか?」
 だとしたら歪虚が精霊を捕食する以上に厄介な話になるかもしれない。
 頷くリーゼロッテを見ながら有希遥の眉が寄る。
「確か、リーゼさんは浄化術開発の実績があったよな? っと、浄化術ってのは精霊や自然と関わりの薄い術式なんだが……それを基に何か考えてるのかい?」
「いえ、浄化術はいわゆる事後の方法です。今回考えているのは、歪虚から精霊を事前に守る方法で、一時的な依り代を提供する事で安全にかつ平和的に守ることを目的にしています。そしてそれを完成させるには、バンデちゃんを宝石に移動させたクリスタさんの力が必要なんです」
「そんなことが本当に出来るのか?」
 訝し気に顔を覗かせた金目に頷き、リーゼロッテは持ってきていた鞄を開けた。
 中に在ったのは錬金術で作り出された手のひらサイズの透明な筒だ。蓋と思われる部分と底に複雑そうな装置がついており、彼女はそれをクリスタの前に置いた。
「これは精霊を一時的に移動させる『イデアール』と名付けた魔道機械です。住み心地は……その、体験していないのでわかりませんが、不快感などはあまりないと思います」
 反応のないクリスタに申し訳なさそうに視線を落とすリーゼロッテ。そんな2人見て、飲んでいたカップを置いてユウが身を乗り出した。
「今のでリーゼロッテさんがどうして精霊様を移動させたいのか、どうしてここまで来たのか、その想いは伝わったと思いますが……あの、もう1つ聞いても良いですか? リーゼロッテさんの話だとフロイデって歪虚はもう精霊を捕らえる技術を確立してるってことですよね? それって精霊様がいなくても出来るものなのですか?」
『不可能では無かろう』
 思わぬところから出た答えに皆の目が向かう。
『小娘がヒトのままであるならまだしも、歪虚と化しておるなら話は別。故に小娘がわざわざ此処を訪れる必要もない』
「そればかりはわかりませんよ」と言葉を紡いだのはクオンだ。
「精霊確保の技術を手に入れるため以外の理由でここを訪れることはあるかもしれません。いえ、脅すとかではなく、考えられる可能性を考慮したうえで結論を出して欲しいと思うんです。例えば、このままここにいれば何もないかもしれない。けれど別の歪虚が来る可能性もある訳です。その場合、クリスタさんはフロイデさんに会えません。では協力した場合はどうでしょう」
「……会えるかもしれないし、会えないかもしれないの」
「そう。しかも会えた場合は今以上の絶望的な真実が待っているかもしれません。たぶんなんですが、どちらを選んでも良い答えはないのかもしれないです」
 落ち込むように視線を落とすファリスの頭に手を置き、クオンはリーゼロッテを見る。
「私は、あなたにメリットを提示することが出来ません。出来るのは他の精霊を助けるという言葉での約束だけ……」
『――我は二度も裏切られる事を望まぬ。お主は我を得た後、何を為す』
「それは……各地の精霊を保護して、最終的に前院長との決着を望みます」
『覚醒者でもないお主があ奴と闘うというのか?』
「私は義母を……あの人を浄化しなければいけません」
 あの子よりも、早く。そう口中で囁き、リーゼロッテの頭が下がった。そこに僅かな唸りが響く。
「一度は信じたのだろう? 貴方は謀られたのではなく、止むをやまれぬ事情があったのだと、もうわかっているのではないか。ならば、彼女よりもかつて人を信じた貴方の目をもう一度信じてみる、というのはどうだろうか?」
 如何様にも取りようのある、遊びの様な言葉。
 その言葉を口中で反芻し、クリスタはトンっと輝く鉱石の上に立った。
『二度はない……我は言の葉を信じず。我は動を信ずる。リーゼロッテ……お主に我を預けよう。但し、信頼に足らぬと判断した時点で我は去る。お主の動を見せよ。そして仲間に感謝せい』
 僅かな笑いを鉱石に反射させ、クリスタは鉱石の中へと消えた。
 それを見止めたリーゼロッテの頭が再び下がり、そののち彼は魔導機械『イデアール』へと納まる。
 これは精霊と人の言葉だけの約束。けれど約束は果たされなければならない。
 人と精霊の為に――。

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MVP一覧

  • 解を導きし者
    エーミ・エーテルクラフトka2225

重体一覧

参加者一覧

  • 課せられた罰の先に
    クオン・サガラ(ka0018
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • 解を導きし者
    エーミ・エーテルクラフト(ka2225
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 新航路開発寄与者
    ファリス(ka2853
    人間(紅)|13才|女性|魔術師
  • 左路を乗り越えし貪心
    シギル・ブラッドリィ(ka4520
    人間(紅)|22才|男性|聖導士
  • 紅蓮の鬼刃
    守原 有希遥(ka4729
    人間(蒼)|19才|男性|舞刀士
  • 細工師
    金目(ka6190
    人間(紅)|26才|男性|機導師
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • 無垢なる守護者
    ユウ(ka6891
    ドラグーン|21才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/10/06 18:33:24
アイコン 交渉に当たっての質問所
守原 有希遥(ka4729
人間(リアルブルー)|19才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2017/10/04 23:00:39
アイコン 交渉相談室
守原 有希遥(ka4729
人間(リアルブルー)|19才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2017/10/08 07:11:58