オレの親分は世界一だぜっ!

マスター:窓林檎

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/10/27 19:00
完成日
2017/11/05 05:41

みんなの思い出

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オープニング

 オレの親分は世界一の男だ。
 親分さえいれば、どんな難攻不落の迷宮だって乗り越えられる。
 だから今回も、あっという間に遺跡の最奥部に辿り着いた。
「よくやったなピッコ。お前の手柄だ」
 兄貴分たちがせっせと戦利品を詰める中、親分が頭をクシャッと撫でてくれる。
 手柄というのは、オレが拾った大剣が、金銀財宝が眠る最奥部へ繋がる鍵だったからだ。
 普段の親分は威厳に満ちた恐怖の権化だが、部下の手柄には厳格で公平だ。
「親分! こいつぁ古代文明の遺物に違いねえぜ!」
「そんなもんがここにあるか! だが見せてみろ!」
 忙しなく駆ける親分――大きな背中。
 オレたちは所詮、卑しい盗掘の団。
 それでも親分さえいれば、どんな危険も乗り越えられる。
 親分や兄貴分たちと共に駆け抜ける日々、その末に手にするもの。
 その全てが、オレの掛け替えのない「財宝」だった。

 ――――。

 視線を感じた。
 振り返ると一領の鎧、くすんだ鋼色のプレートアーマーが佇んでいるのをそこに見つけた。
 俺はふと、自分が手にする、ここに通ずる鍵でもあった大剣を見つめる。
 それは――天啓だった。
 この大剣と鎧は一対でなくてはならない。
 鎧は大剣を欲しているのだ。
「……ピッコ、お前なにしてんだ?」
 兄貴分の誰かの声。
 こっちが聞きたかった。オレはなにしてんだ?
 いや、それは分かる――オレは、鎧を身に着けている。
 問題は、それは断じてオレの意志じゃないことだった。
 むしろオレは、この鎧に近づきたくなかった。
 この鎧には、真夜中に並ぶ墓石のような、濃厚な不吉さが漂っていた。
 しかしオレは今、現にこの鎧を身に着けている。
 胸当てを身に着け、腰当て、膝当て、脛当て――。
「おい、ピッコ」
 肩当てを身に着けたところで、一人の兄貴分が近づいてきた。
 冗談めかした笑みには、色濃い困惑も張り付いている。
 親分も含めた団の皆が、オレに視線を向けていた。
「お前、王国兵ごっこはえぐっ!」
 潰れた悲鳴と、固いものを砕いた感触。
 肩に手を置こうとした兄貴分を、オレは弾き飛ばした。
 ちょっと押した、どころじゃない。兄貴分は暴れ馬に衝突したように吹き飛び、岩壁に叩きつけられた。
 頭蓋は砕け、開いた口から舌が飛び出ていた。
 兄貴分は、死んでいた。
 オレはせっせと鎧を身に着け――最後に兜が頭を覆ったところで、オレは傍らに置いていた大剣を、団長たちの方へ向けた。
 団長が鋭い視線と共に剣を抜く。
「お前ら、今すぐ逃げ――」
 次の瞬間に飛んだのは、団長の叫びではなく、首と血しぶきだった。
 人の域を超えた速度で、オレは団長の首を刈ったのだ。
 血しぶきが兄貴分に降りかかり――オレの鎧も赤いまだらに染まった。
 自分の意志の一切を置き去りにした凶行に、オレは現実感を抱けない。
 少なくとも、返す刀で兄貴分を袈裟斬りにするまでは。

 ――うわあああっ!
 それは兄貴分たちの叫び声であり、オレの叫び声だった。

 ――やめろ、やめてくれえ!
 それは兄貴分たちの懇願であり、オレの懇願だった。

 ――助けてくれえ!
 それは兄貴分たちの命乞いであり、オレの命乞いだった

 オレが助けてくれと叫ぶと、兄貴分たちが命乞いをする――オレはそれを斬る。

「やめろよぉ! やめてくれよぉ!」
 兄貴分の叫び? 違う。これはオレの叫びだ。
「うわぁ! 助けて! 助けてくれよ、親分!」
 大切な兄貴分たちを斬り殺しながら、オレは必死に助けを求めていた。
 オレの世界一の親分に。
 オレが斬り殺した親分に。

 ※

「それは言わば、執念なのだろうね」
 クラシカルなキセルを吹かしながら、その女性は嫋やかに微笑む。
 ゴシック趣味の服に、戯画的なまでに巨大な黒いハット、首元にさがる小さな髑髏の飾り。
 彼女の風体は、少なくとも一般的な職員とは大きくかけ離れていた。
 身なりはもちろん、精巧な人形めいた美貌も――深奥の底知れぬ昏い瞳も。
「結論から言えば、依頼内容は討伐だ。北部の山脈にある遺跡の最奥部。そこに雑魔と見られる生物――かは意見が分かれるだろうが、ともかく出現したそいつを討伐して貰いたい」
 火口から甘く強い臭いの煙が流れ、職員に纏わりつく。
 しかし……生物かは意見が分かれる?
 どうにも――。
「歯切れの悪い説明、だと思っている表情をしているね」
 ざわっ、と動揺が走る。
 煙の臭いが、鼻腔を刺激した。
「今回の雑魔は変わり種でね。実は武装した鎧が動いたものなんだが――中に人がいるんだ」
 ……?
 人間が鎧を着て暴れまわっている?
 それは――。
「雑魔なのか? 君がそう思うのも無理はない」
 深まる動揺を楽しむように微笑みながら、職員は話を続けた。
「依頼主は盗掘団の団員、雑魔から逃れた唯一の生き残りだ。証言によると、鎧を身に着けた男はピッコという忠誠心の高い団員だそうだ。彼は財宝の眠る最奥部に繋がる鍵の役割を果たしていた大剣を持ち――何かにとり憑かれたように、鎧を身に着け始めたらしい」
 そして、惨劇。
 職員はその光景の想像を愉しむように、クツクツと笑った。
「雑魔は腕利きの団長も含め十数名を殺戮したが、ピッコ自身の剣技は拙かったらしい。そして――ピッコは殺戮の最中、『助けてくれ』と叫んだそうだ」
 推測の域は出ないが――と、職員は言葉を続ける。
「本来それは本当にただの鍵だったのだろう。しかし、生前の主にとって鎧と大剣は『一対でなくてはならない』ものだった。その思いが長い時を経て執念へと変質し、やがて魔と化した――その結果が、大剣を持った人間を操る雑魔なのだろう」
 執念、執念だねえ……。
 何がそんなにおかしいのか、職員は愉しそうに笑い続ける。
「さて。依頼主は雑魔――ピッコを含めた対象の討伐、つまりは殺害を希望している」
 そして私が思うに、と職員は言葉を続ける。
「恐らく、ピッコが助かったしても、彼は遠からず自害するだろう――伝聞でも分かるんだよ。『経験』上な」
 纏わり続ける、瞳の昏さ。
 人の身にはあまりに昏く、逸脱した狂いの気配。
「……ところで、これも私の推測だがな」
 灰を落とし、職員は徐に口を開いた。
「いくら剣が魔を帯びていたとて、鎧と対面するまでピッコはまともだった――つまり、剣と鎧の『一対』が成立しなくなったら?」
 唇の両端を吊り上げる。
 先ほどまでの笑みとは違って、少しだけこちら側に近い微笑みだった。
「いずれにせよ、我々の本領は歪虚の脅威の排除だ。その旨は依頼主に伝えているが、現に金を出している依頼主なことは事実だ。そして結局、ピッコが実際に何を思っているかは――本人以外の何者にも分からない」
 さて、と職員は傍らから契約書を取り出した。
「以上を踏まえた上でこの依頼を受けるなら、ここにサインをしてくれ。結局、状況をどうするかは、どこまで行っても現場の人間の判断次第なのさ。良きにつけ、悪しきにつけ」

リプレイ本文

 瞼の裏に焼き付いて離れない、惨劇の光景。
 宙空を飛ぶ首、血潮、悲鳴、命乞い、血、血、血、斬撃の感触!
 鎧の中の意志のない空洞の中で、オレは何も考えないようにする。
 昏い空洞が伸し掛かり、オレの『存在』を吸い込んでいく。
 全てを吸い尽くされたオレは、地獄の底に堕ちるのだ――親分も兄貴分も誰もいない、孤独の奈落に。
 オレはその想像に、笑った――笑い声は乾いていて、昏い空洞の中に意志もなく響き渡った。

 ※

 にわかに、騒がしい音がする。
 兜の狭い覗き穴から覗いた視界に、正面の扉から突入する数人の姿を捉えて、それが足音だと気づいた。
 全部で、六人? 仮装大会を思わせる、けったいな連中。
「こういうのをリアルブルーではミイラ取りがミイラになった、と言うようですが……」
 ひっひっひっ――耳障りな、下卑た笑い声。
 けったいな連中の中でも際立った道化師姿の、フーリィ・フラック(ka7040)。
「こういう商売ですから良くない最後を迎える覚悟はあったでしょうが……」
「正義のニンジャでプロカードゲーマーとしては、惨劇をここで終わらせなくちゃなんだからっ!」
 いかにも人が良さそうな優男風の鳳城 錬介(ka6053)と、下着同然の可憐な軽装の少女、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)。
 片や、我が事のように傷心し歪む渋面。片や、緑色の瞳をギラギラ燃やす使命感。
 ……何故だろう。酷く心がざわつく。
 そんなオレの思いを他所に、奴らはオレを素早く囲む。奴らの動きには、余りに無駄がない。
 ――こいつらは、カタギじゃない。
「さて、どうする?」
 その中央に立つ、古風な武人を思わせる男、榊 兵庫(ka0010)が、言った。
「ただ倒すだけならば、さほど難しくはないと思うが」
 …………。
 ――倒すだけならば、さほど難しくはない?
「……ざけんじゃねぇぞ」
 オレの親分は、兄貴分は、その『難しくはない』こいつにボロクズにされたんだ。
「個人的にはピッコと言う奴を助けてやっても良いと考えているが、皆はどう思う?」
「私ぃ、依頼人さんの幸せは最大限追究したい派なんですぅ」
 榊に応える、過剰に可愛らしさを強調した声。
 己の魅力を、必要以上に主張する女――星野 ハナ(ka5852)。
「可能ならプラスになる所まで目指したいんですよねぇ」
「裏切り者を殺しても、マイナスがゼロになるだけ――やるだけやってみるさ」
 中の人間を助けるのも、そこまで難しくはない。
 流れるように、言葉と共に刀を抜き放ち、炎を纏う霊鳥が如き闘気を放つ女武人――アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。
 どいつもこいつも真っ直ぐに、 オレの親分の首を呆気なく飛ばしたこいつを倒すばかりか、オレを必ず助けんと一致団結している。
 ――ハンター。
 オレは、奴らという集団が『何』であるかを悟るに至った。
 だからこそ、オレの憎悪は決定的に形を帯びた。

 ※

 ――見下してんじゃねえぞ、仮装集団が。
 オレの怒気に反応して、ではないだろうが、鎧は剣を構えた。
「フーリィさん、手はず通りに行きます!」
「承知です」
 ジュゲームリリカル……ルンルン忍法どこでも畳返し!
 秋桜の合図と共に、左右に展開していた二人が土の壁を展開した。
 ちなみに、先の謎の呪文は秋桜のもので、フーリィはひっひっと笑う。
 ただでさえ視界が狭い兜に、死角を作る壁――かなりの精神的負担だ。
 そして……榊が単独で、ゆっくりとこちらに近づいて来た。
 ――野郎、マジで舐めてんのか?
 しかし、瞳に宿る闘志のギラつきは、あくまで冷静だ。
「お前の攻撃は、全て受け止める」
 いつの間にか目の前に来ていた。
「間合いだろ? 来いよ」
 十文字槍を悠然と構える――ただそれだけなのに、欠片ほどの隙も見当たらない。
 しかし挑むのはオレではなく、この鎧だ。鎧は大上段に剣を構え――振り下ろした。
 親分も兄貴分も、反応すら出来なかった剣速。
「なんだそれ?」
 だが――剣はまるで届かなかった。
「それじゃあ、受ける価値すらないな」
 当たれば消し飛ぶその斬り下ろしを、こともなく避けたのだった。
「っと! それは悪くない!」
 オレの愕然を無視し、もう一度大振りした鎧の大剣を、榊は涼しい表情で受けた。
 そして――大剣を受けた槍から伝わる衝撃。
 ――なんっだ、これっ!
 親分との手合わせでさえ感じたことのない、絶大な膂力の差。
「ピッコさん、出てきて下さい!」
 その時、鳳城が張り詰めた表情で訴えかけてきた。
「これ以上操られて、誰かを傷つけてはいけない!」
 それは純粋に説得でもあったのだろうが、それ以上の意味があったのかもしれない。
 現にオレは、余りにも不自然に奴の言葉に『救われた』気分になった。
 しかし、それ以上の意味を持たなかった。
「……駄目ですか――榊さん!」
「分かった――敵は俺の方で引きつける! お前たちは剣の破壊を頼む!」
 榊が鋭く号令し――ここから先は、地獄だった。
 ――っ!
 まずオレを襲ったのは、神罰を想起させる白光の炸裂だった。
 恐らく、『オレ』には加減したのだろう。
 鎧が激しく揺れる一方、オレにはその衝撃が来ず――しかし、その神罰的白光はオレの目を眩ました。
 その神罰を下した女、星野が憎たらしい程に楽天的な声で言う。
「敵が弱ればピッコさんへの強制力も弱まりそうですぅ」
 ――このアマッ!
 しかし次の瞬間、風を切る音と共に襲った右脚への鈍い痛みで怒りが中断される。
「つっ……!」
 反射的に見ると、何か、矢の形をした光の塊が突き刺さっていた。
「それはそれとして、飛び道具で剣のみを狙うのは少し骨ですねぇ」
 だから次善は、足元狙いですよねぇ。
 ひっひっ、というどこまでも軽薄な道化師の笑い――土壁越しの嘲笑。
 どいつもこい――!
 その時、兜の覗き穴の端に辛うじて捉えたのは、陽炎のように揺れる残像を伴った業火だった。
 
 それは、純粋な、暴力そのものだった。
 それが、二度も、降り注いだ。

「っ!!!???」
 この瞬間、重いという言葉が、羽毛ほどに軽くなった。
 刀の二連撃。言葉にすると、ただそれだけ。
 しかしその二撃には、存在そのものを塵芥にせんと意志する純正の暴力に満ち満ちてきた。
 そして恐ろしいことに――これ程の『暴力』の全てを、オレの持つ剣に対してのみに放ったのだ。
 逆に、この二撃に曝されて剣が――オレが形を保っているのが、不条理だった。
 ――次は、壊す。
 凛とした、女武人の声。
 純正の暴力の感触と、言葉を残して、アルトは業火の残像と共に土壁の死角へと消えた。
 彼女は、壊すと言った。
 何を? この剣? ――オレノ、ソンザイヲ?
「うわあああっ!」
 オレの恐怖が鎧に伝染しないのは百も承知だ。
 それでも、そうとしか思えないほどに、鎧は遮二無二、榊に剣を振り回し始めた。
「来るな、来るな、来るなあっ!」
 オレは、親分や兄貴分たちと同じくらいに惨たらしい死を望んでいた。
 それでも、これは余りにも絶望的過ぎた。
 こんなものに曝されて死ぬくらいなら生まれて来なければ良かったと、心の底から後悔せずにはいられない。
「アルトの奴、やり過ぎだな……だが予定通りだ」
 その一言を残し、鎧の連撃を捌いていた榊が背を向けて逃げるように駆け出した。
「嫌だ、追うな、追うなよぅ……!」
 今すぐ逃げ出したいオレの心境を置き去りに駆ける鎧への絶望もそうだが、鎧は余りにも無防備に、榊に対してのみ攻撃しているように見えた。
 まるで、操り人形のよう――。
 ――トラップカード、オープン!
 滑稽なまでに場違いな、児戯めいた少女の叫び。
 しかしその秋桜の叫びは実行力を帯び、その証左として、突き進んでいた鎧の突撃が、著しく不安定になった。
「なんだか可哀想な気もしますが、ジュゲームリリカル……ルンルン忍法土蜘蛛の術!」
 結局、最初から誘い込まれていたということなのだろう。
 地面が、まともに歩むのも難しいくらいに酷く泥濘む。
 それでも――この鎧は突き進んでしまう。
「同情を禁じ得ないが――それも剣を壊すまでの我慢だ」
 背を向けていた榊が振り返り、その勢いのまま、槍を剣に向けて振るった。
 ――ガキィ!
「なんで壊れないんだよぉ!」
 オレは悲鳴をあげる。
 この鎧を突き動かす執念なのか、臨界点に近づいていることは明らかなのに、既の所で剣は壊れない。
「いなくなれ、お前らここからいなくなれぇ!」
「それなら、ジッとしていてください!」
 突如として、優男がオレの真横に現れてオレの剣を受け止めた。
「このぉ! どけよぉ!」
「だから、これを終わらせたければ、お願いだからジッとしてくださいよ!」
 明らかに意図的に硬直状態を作り出している、鬼気迫る表情の鳳城。
 土壁――フーリィやアルトを隠した方の土壁ではない、秋桜が作った方の土壁。
 鳳城はこれを狙って潜んでいたのだ。
 逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなくちゃ!
『アレ』が来る! あの『暴力』が! 純粋で純正の絶望そのものの、あの――!
「そんなに怖がらなくてもいいだろう」
 心外なことを言われた乙女のような調子の声――自分の周囲に漂う、赤い糸。
 目の前に、『暴力』が、年相応に拗ねた少女の姿を象って、佇んでいた。
「悪かったな――何せ一応、雑魔だし」
 鳳城がパッと離れ、剣が持ち上げられる。
 アルトは、その剣めがけて、『暴力』を一閃した。

 ※

「……リアルブルーではこういう時、マジパネェっす、と言うようですよアルトさん? ひっひっ」
「だから、私もやりすぎたと思っている! それにこれは、ピッコが自殺しないようにだな……!」
 騒がしかった。
 気がつけば俺は鎧を脱がされ、腕を縛られた状態で横たわっていた。さらに口内には手拭が突っ込まれている。
 要するに、オレは気絶していて、拘束されたのだろう。
「あっ、皆さん、ピッコさんが目を覚ましましたよ!」
 オレの視線に気づいた秋桜が、ピョコピョコ跳ねて伝える。
「悪いなピッコ。お前が変な気を起こさないように拘束させて貰ってる」
 むしろ親しみの篭った薄い笑みを浮かべて、榊が言う。
「それで――ピッコ、お前はこれからどうしたい?」
「それを問うのに、この状態はアンフェア過ぎませんかぁ?」
 星野がニコニコ顔でオレのことを見つめる。
「ピッコさんだって、自分の意志は自分で言いたいですよねぇ?」
「だから、自殺されたら――!」
「仮にそうしそうになったら、私が身を挺してでも止めちゃいます!」
 秋桜の言い分に屈したのか、アルトはため息をついてオレの口から手拭を外した。
「それで、どうしたいんですか、ピッコさん?」
「オレは――」
 鳳城の問いかけ――決まりきっていたはずの問いかけに、オレは口籠ってしまう。
 オレは死にたかったはずなのに――なんでオレは、それを口にしたくないのだろう。
「ここで自ら命を絶っても私は咎めません」
 口火を切ったのはフーリィだった。
「ですが、本当に罪を償いたいなら法の裁きを受けることです」
 その声に、道化の気配はなかった。
「ばかぁ! 死んでお詫びしようとか、そんなの只の逃げなんだからっ!」
 秋桜が、瞳を燃やして高らかに叫ぶ。
「生き残ったからには、生きて生きて生き抜いて、今度は貴方が団長さんの様な人になるんです!」
 ビシィ! と、戯画的なまでに真っ直ぐにオレを指差す。
「罰が欲しいのなら、その気持ちを抱えて生きていく事です」
 鳳城が、言葉を選ぶように言う。
「死は一瞬で終わりますが、生きていればそれだけ長く苦しむでしょう」
 その表情に浮かぶのは、哀れみだった。
「死んで終わらせるのは簡単ですぅ」
 星野が、ニコニコ顔を近づけて言う。
「でも、みんなの名誉を守るためにぃ、一番苦しい道を選んでみませんかぁ? 貴方が団を起こして、みんながいかに凄かったか伝えていくんですぅ」
 名案を思いついたように、両の手を併せてオレの目を覗き込む。
「お前、このままでは悔しくないか?」
 アルトが、真っ直ぐにオレを見据えながら言う。
「歪虚と言う存在そのものに復讐をするために、ハンターになってみないか?」
 その問いは、どこにも逃げ道のない峻厳さを伴っていた。
「……死ねば楽になる、というのは逃げでしかない」
 榊が、ゆっくりと諭すように言う。
「お前は仲間の分まで自分しかできない事を為して、それを仲間への償いとすべきだと思うぞ」
 憂いを帯びた眼で、オレを見据えていた。
「…………」
 何故だろう。
 彼らが『正しい』ことは分かるのに――何故こんなにも頷きたくないのだろう?
「……じゃ、ねえぞ」
 ふと、反芻した言葉――感情。
 ――見下してんじゃねえぞ。
「ん、どうしたんだ?」
 次の瞬間、オレはニコッと笑っていた。
 とても晴れやかな気分だ――オレは、自分の『心』に気がついたのだ。
「オレ、生きます」
 その一言に、秋桜は「やったぁ!」とオレの手を取って喜んだ。
「ピッコさん、辛いでしょうが、マイナスをプラスに出来るように、頑張りましょうねぇ」
「その前に、法の裁きを……」
 そうだ。オレの親分は世界一だ。オレはこれからそれを証明するのだ。
 どんなに苦しい道でも、生きて生きて生き抜いて――長い苦しみの末に、オレは必ずそれをやり遂げる。
「榊さん?」
「……何でもない」
 オレに訝しげな視線を向けていた榊に、鳳城が首を傾げる。
「オレ、頑張って生きます。団長の分も、皆の分も」
 そのためにオレがやらなくてはならないことはたくさんある。
 オレの胸は、親分の、兄貴分たちの、名誉を守るための使命感でいっぱいだ。
「ピッコ」
 女武人の――『暴力』の声。
「お前、何を考えている?」
 アルトが鋭い視線を向ける――『オレ』に対して。
 それはあるいは、『殺気』になり得るかもしれない。
 未だにこの手に残る『暴力』の感触。一瞬、オレの使命感がぐらつきそうになる。
 ――よくやったなピッコ。お前の手柄だ。
 でも、親分の温もりを思い出したオレは、応える。
「……これからオレがすべきことを、ですよ?」
「貴様」
「アルト、よせ」
 榊がアルトをとりなす。
「こいつはまだ何もしていない」
 榊は振り返り、オレの眼をジイっと覗き込む。
「今は何も、な」
 そう、オレはまだ何もしていない。
 オレはこれから、自らの使命を為すのだから。
「な、なんですか? せっかくピッコさんが生きることを決めたのに……二人とも、怖いです……」
 秋桜は困ったような笑顔を浮かべて、助けを求めるようにキョロキョロと辺りを見渡した。

 ※

「……親分は、世界一の男だ。そうだよな、親分?」
 だから、オレが『親分』になる。
 そのために何もかもをぶち殺して、オレが頂点に立つことで証明するのだ。
 歪虚も――ハンターも。そのための団を作るのだ。
 何者にも――親分を見下されないために。

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MVP一覧

  • 亜竜殺し
    榊 兵庫ka0010
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109

重体一覧

参加者一覧

  • 亜竜殺し
    榊 兵庫(ka0010
    人間(蒼)|26才|男性|闘狩人
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士
  • 交渉上手
    フーリィ・フラック(ka7040
    人間(紅)|22才|男性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談ですよ
フーリィ・フラック(ka7040
人間(クリムゾンウェスト)|22才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/10/27 00:01:56
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/10/26 11:50:58