• 天誓

【天誓】我が想いよ、黙せ

マスター:朝臣あむ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/10/26 12:00
完成日
2017/11/08 21:43

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●帝都バルトアンデルス城
「本当に遅くなって申し訳ありませんっ!」
 そう深く頭を下げるのは錬金術師組合組合長のリーゼロッテ・クリューガー(kz0037)だ。
 彼女は鉱石の精霊『クリスタ』との交渉を終えた後、真っ直ぐ組合に帰還し、城へ行くようにと促されてここへ来た。
 実は彼女が組合を旅立った後、何度か城からリーゼロッテと話が出来ないかと声が掛かっていたのだ。だが彼女は旅先で連絡がつかず、結局帰還するまでこの状況を知ることが出来なかった。
「かなり業を煮やしましたが、こうして捉まえることが出来て良かったです。えっと、精霊との交渉に出ていたと聞きましたが……」
「はい。鉱石の精霊『クリスタ』に力をお貸し頂くべく足を運んでいました」
 そう言って荷物を開けると、彼女は透明な筒状の魔導機械を取り出して膝の上に置いた。
 それを目にした瞬間、カッテの目が驚きに見開かれる。
「それは……いえ、その中に『在る』のは精霊ですか?」
 蓋と底を魔導機械で密封されたその中に、人型の精霊が鎮座している。
「彼が鉱石の精霊クリスタさんです。クリスタさんは精霊を一時的に鉱石へ移すことが出来るのですが、ただ鉱石に移すだけだと精霊への負担が大きいのではないかと思いこの機械を作りました」
 リーゼロッテの説明によると、彼女が作り出したのは『イデアール』と名付けた魔導機械で、筒の上下にマテリアル鉱石が埋め込まれており、その鉱石を一時的な依り代として精霊を移動させたらしい。
「本当はもっと小型化して精霊への負担を減らしたいのですが、まだ研究不足で……」
『我は楽であるぞ?』
「クリスタさんは鉱石の精霊ですし、許可を得てクリスタさんの鉱石を少しだけ使わせてもらっているので大丈夫なのだと思います。本来は自らの顕現場所を動くと、精霊は姿を保てなくなるんです。こうして姿を保つのはかなり力を使うことで、負担も大きいんですよ」
『言われずとも理解しておる』
 やれやれ。そんな様子で腕を組んだクリスタをカッテは何かを得たような瞳で見つめ、そして頷いた。
「リーゼロッテ女史。その技術の小型化と量産化を行う事は出来ませんか?」
「出来る事ならそうしたいのですが、現状は難しいです……」
 もしイデアールの小型化と量産化が出来たとして、誰がそこに精霊を移動させるのか。
 そう、まだ精霊を移動させる技術の研究が終わっていない。今はクリスタがいなければイデアールに精霊を移動する事が出来ないのだ。
「……申し訳ありません」
 頭を下げるリーゼロッテも、血盟作戦以降、帝国が精霊の保護に苦労しているのは理解している。
 そこに出て来たリーゼロッテの新しい魔導機械だ。期待するのも無理はないだろう。
「どうにか出来れば良いのですが……」
 そうリーゼロッテが零した時だ。
「おやぁ? リーゼも呼ばれてたんですか~?」
「!」
 ガタッ!
 激しい勢いで椅子が倒れ、機械を抱えて後じさったリーゼロッテが驚愕の表情で入口を見た。
 そこに立っていたのは錬魔院院長のナサニエル・カロッサ(kz0028)だ。
 彼は驚くリーゼロッテに目を細めると、緩やかに一礼を向けて歩み寄って来た。これに更に慌てたのはリーゼロッテだ。
「ななななナサ……ナサナサ……ッ」
「フフフ……なんだかGの羽音ような呼ばれ方ですねぇ。私、あれ嫌いなんですよぉ?」
 知りません! そう答えたかったが、驚きすぎて言葉が出ない。
 その代わりに頭の中を巡るここ数か月の出来事。
 歪虚化した前院長の襲撃。そんな彼女と対峙する為に密かに続けた研究。そしてようやく掴んだ希望。
 この全てを彼に――ナサニエルに知られる訳にはいかない。
 ゴクリ。
 小さく呑み込んだ唾が喉仏を上下さ、見逃さなかったナサニエルがスゥッと目を細めて近付いてきた。
「なにか隠してませんかぁ~? んん~? その機械はぁ~……あ~なるほどなるほどぉ。リーゼも前院長と同じ研究をしていたんですねぇ」
 合点いった。そんな勢いで顔を上げた彼にリーゼロッテの目が瞬かれる。
「精霊クリスタとの交渉は上手くいったものの、そこからの研究に行き詰ってしまった……そんなところでしょうかぁ? でしたらぁ何でも屋の私がどうにかしますよ~?」
「本当ですか!」
 ここまでの流れを見ていたカッテは喜んで手を打っているが、リーゼロッテにしてみたらとんでもない。
 研究に関わりだしたら絶対にバレてしまう。そもそも今は置いて来ているが、前院長の遺品である精霊付きの杖が彼に会った日には――
「だ、ダメ。絶対にダメ……」
 全てを隠していたことが水の泡になってしまう。
「あの、ナサく――」
「もう少しデータが欲しいですねぇ。リーゼ、クリスタを少し貸してくれませんかぁ?」
「ダメです!」
 ハッキリ。しかも間髪入れずに言い放って機械を抱きしめたリーゼロッテにナサニエルの口が窄められる。
「え~? でもぉリーゼだと難しいですよ~。それとも一緒に行きますかぁ~?」
 そう言った彼に、リーゼロッテは「え」と表情を固まらせて首を傾げたのだった。

●英霊「黒翼」
 魔道トラックに揺られること数時間。
 ナサニエルとリーゼロッテはハンターを伴って帝国領内のとある場所を訪れていた。
 ここは人里離れた場所に建てられた教会だ。
 外の扉の前に供えられた花が時折訪れる人々の存在を感じさせるが、昼を過ぎた今は人の気配を感じなくなっている。
 リーゼロッテはトラックを下りながら周囲を見回すと、何とも言い難い不安そうな表情で呟いた。
「本当に……ここに、精霊がいるのですか?」
「私の勘があっていればなんですけどねぇ……クリスタさんは何か感じますかぁ?」
リーゼロッテの腕の中、魔導機械に保護される場所で座っていたクリスタは、彼の声に視線を上げると「ふぅ」と息を吐いて顎を上げた。
『――来るぞ』
 クリスタが声を上げた瞬間、教会の扉を巻き込んで黒い風が飛んできた。
 渦を巻き、うねりを抱いて迫る風は、これから訪れるであろう異端者を追い払おうとしているかのように見える。
「フフフ、当たりましたねぇ。っと!」
 リーゼロッテの前に立ったナサニエルは、飛んでくる扉の破片を叩き落して回避してゆく。そして飄々とした笑みを口に浮かべると、扉の向こうに見える黒い翼を持つ人影に目を止めた。
「この教会にはこの地の人々を戦火から守った概念精霊がいると踏んだのですが……まさか英霊の性質を持っているとは。これは儲けましたねぇ」
『戯け! お主は初めから気付いておったであろう! あれは戦士たるい英霊。力を見せねば話にもならぬわ!』
 おどけて笑うナサニエルにクリスタは叱咤するが今更言っても遅い。
 戦闘を目的に動き出した英霊を止める術はただ1つ。
「リーゼは私が守りますから、皆さんは英霊を倒してください。そうでないと彼女は止まらないでしょうからね」

リプレイ本文

 破壊された扉から出現した黒い翼の英霊は、ハンターらを一瞥すると凄まじい勢いで突っ込んで来た。
 大地をひと蹴りしただけで半分以上の間合いが消え、速攻と言う表現のままに間合いに飛び込む姿にハンターらが焦りだす。
「落ち着くっす! 俺達は敵じゃないっす! 歪虚が精霊狩りしてるから精霊を保護しに来たんす!」
 目的は英霊の保護。そう告げた以上危害を加えるのは拙いと判断したのだろう。神楽(ka2032)は叫び終えると、盾を手に皆の前に出て身を固めた。如何に強烈な一打でもきっと耐えられる。そう思っての行動だったのだが――一向に衝撃は訪れない。と、次の瞬間、側方から自身に向かうはずだった打撃音が響いた。
「――問答無用と言う訳か」
 ウルミラ(ka6896)は鎌で辛うじて受け止めたメイスに冷や汗を零しながら呟く。
 足は打撃の衝撃で歩幅以上の後退を見せ、腕には言い得ぬ痺れが襲っている。もしこの攻撃を真っ向から受けていたら速攻で戦闘不能になっていたかもしれない。
「……安寧の時を邪魔してしまった事は謝罪する。だが私達は貴女と対話したい」
 真っ直ぐに黒翼の顔を見詰めながら話しかける。
 その声に唸りながら威嚇する黒翼は、言葉ともならない叫びを上げて駆け出した。
「交渉は無理か――心得た。止むを得ないな」
「あ、えと、援護します!」
 あれが英霊、なんですよね? そう戸惑いを感じたのも束の間、即戦闘に発展した今に戸惑いを覚えつつ、フレデリク・リンドバーグ(ka2490)は武器を構える。そして駆け出す黒翼の前に出ると、雷を放って彼女をけん制に掛かった。
「何故暴れているのか……は、わかりませんが、きっと生前でなんかあったのでしょう! たぶんっ!」
「だとしても些か乱暴すぎる」
 英霊の特性は発生した状況や条件でも大きく変わるのかも知れない。噂では絶火の騎士の英霊は力を示さなければ絶対に仲間になってくれないと言うではないか。
 この英霊がその類なのかはわからないが、言葉が通じる様子もない以上闘うしかないのは明白だ。
 守原 有希遥(ka4729)はチラリとリーゼロッテとナサニエルに視線を寄越すと、僅かな舌打ちと共に前に出た。
「うちが庇う。森の時の鈍らなままで終るものか、うちは守りたいんだっ」
 大きくマテリアルを吸い込み踏み出した一打。素早く、行く手を遮る攻撃に、闘う素振りを見せないトリプルJ(ka6653)へ向かおうとしていた黒翼が飛び退く。
「そういう判断は出来るのかよ」
 あからさまな舌打ちと同時に構えた魔導銃だが放つ訳にはいかない。
 全身に見える包帯や傷。これらはここへ出発する前に与えられたものだ。本来であれば立っているのも辛いであろう状態で、トリプルJは戦場に立つ。
「院長さんよぅ、どうせなら重体の時も覚醒できるポーションとか作ってくれねぇか。飲用後の効果時間後反動ありで構わねぇからよ。俺ァちょこちょこ重体になるから、いくらでも実験体に応募するぜぇ……」
「それは~人体実験の部類に入るので~」
 あはは。と笑う彼にリーゼロッテの叱咤の声が放たれる。
 一見すれば仲の良さそうな姉弟だが、話によれば色々と捻じれているらしい。そもそもこの2人が姉弟だと言うの信じがたい。と言うのがトリプルJの感想だ。
「なあ院長よ。概念精霊は王国の聖導士教会の使徒精霊が有名なわけだが。あんたがここに目をつけた理由なりを教えて貰えるとありがたいね」
「それは私も気になるところね」と攻撃を回避しながら会話に加わって来たのはエーミ・エーテルクラフト(ka2225)だ。
 彼女は言う。
「英霊が最初に狙ったのが組合長って言うのも気になるし、そもそもあの黒い翼と教会の花。どれもが繋がらないのよ」
「ん~……黒翼がリーゼを狙ったのは偶然『そう見えた』だけですよ~。そもそもここにいる英霊は凶悪である可能性が高かったですし」
『やはりか!』
「またっすか! またそういう流れっすか!」
 クリスタのツッコミはさておき、神楽はワカメに……いや、ナサニエルに飲まされた苦汁が多すぎる。その結果の叫びだったのだが、この際そこは目を瞑ろう。
「もうこうなったらヤケっす! 英霊について知ってる事教えるっす! 名前とか逸話とかスリーサイズとか!」
「スリーサイズなんて知りませんよ~見ればわかりますけどぉ」
「わかるんかいっ!」
 俺も知りてえ。そんな気持ちを抱かなくもなかった岩井崎 旭(ka0234)は、翼の幻影を羽ばたかせながら一度距離を後方へ飛び退く。それに天竜寺 詩(ka0396)が続くと、戦闘前と変わり映えしない立ち位置で全員が黒翼と向き合った。
「乙女の秘密を暴こうなんて駄目男子ですよナサニエルさん?」
「はは、駄目男子……」
 地味に自分もダメージを受けた旭は黒翼の姿をまじまじと見る。その胸中に浮かぶのは感慨だ。
「そのうち遭遇することもあるとは思っていたが、そうか……鳥人間の英霊か」
 何を想い何のために闘うのか。その理由を旭も他のハンターも知らない。けれど帝国領内で暴れるのであれば一般人に被害が及ぶ可能性もある以上止めなければいけない。それに彼女は自分と同じ鳥人間だ!
「スリーサイズはともかく同じ鳥人間として放っちゃおけねぇ」
「鳥人間云々はさておき知りたいことは多いわね。という訳で、院長さん。知っている事を話してもらいましょうか」
 エーミはそう言うと、黒翼とは如何いう存在なのか。そして彼女は何故暴れているのか。その返答を求めた。


 寂れた教会に1人の旅人がやって来た。
 旅人は教会に根を下ろし、神の言葉を伝える導師として里人や村人と共に暮らし始めた。
 やがて戦争がはじまり、里人や村人が徴収されると彼らの家族が頻繁に教会を訪れるようになった。
「うちの人が早く帰ってこれますよう」そう願いを込める人々を見て、導師は自らも戦場へ赴くことを決める。
 彼の人は自らが知る者は出来る限り助け、共に帰れるよう努力し、導師と同郷の者達の殆どは故郷に帰ることが出来た。
 だが彼の人は教会に戻った後、よそ者である兵に思わぬ言葉を投げつけられる事になる。
「思わぬ言葉ですか? それは……」。
「悪魔。そう呼ぶ人が現れたそうですよ」
 詩の問いに答えたナサニエルは続ける。
「神を信仰し、命を尊さを説いた身で殺生を行った罪。その罪を刺激する言葉に導師の中にあった何かが切れたんでしょうねぇ。導師は翌日教会の外で命を絶ったようですよ」
「だから教会の外に花が……」
 導師に助けられ故郷に帰って来られた者たちは導師亡き後、彼の人の武勇と気高さを語り継いだ。それが彼の人が英霊として顕現した理由。
 だが気になる事は他にもある。
「女性の姿の理由はあるのですか?」
「ああ、それは導師が美しいシスターだったと言われているからじゃないですね~」
 フレデリクの言葉になんでもない事の様に返したナサニエルに、彼の中に僅かな疑問が生まれる。それは言葉にならない不安、とでも言うのだろうか。
(ワカメさん、相変わらずなんか……胡散臭い雰囲気を放ってますね……まあ……大丈夫……ですよね……?)
 俯き加減に思考するが答えが出るはずもない。
 そんなフレデリクの耳に、ナサニエルの言葉を聞いて察を行っていたトリプルJの声が届く。
「イスルダ島じゃ歪虚化した元聖導士が飛んでたと聞くし、概念精霊ゆえ影響されやすいのも理解するが……翼が黒い理由が『悪魔』ってんなら、あの姿は人が生み出したモノって事だな」
 強く美しい導師。けれどその身は血で汚れ、白かった翼は堕天したが故に黒く染まる。
 彼女の心もまた、戦場での強さを語り継いだ結果、闘いを求めるだけのものへと歪んでしまったのだろう。
「当たらずも遠からず……『黒翼を得て英霊となった彼の者は錬金術の産物か』とも思ったけど、違ったみたいね」
 深読みが過ぎたかしら。そう零す彼女にナサニエルの視線が向かったのを誰も気付いていない。
 そして皆が黒翼に理解を深めた所で、痛烈な金切り声にも近い叫び声が上がった。これは黒翼の放ったものだ。
 彼女は頭を振る様に大きく上半身を揺すると、自らの髪をかき乱して駆け出した。
「あの英霊……苦しんでる」
「うん。何で暴れてるのか、その辺りはまだよくわからないけど、きっと何かあるんだと思う!」
 詩の声に同意したフレデリクがエーミから加護符を譲り受ける。そうして己の武器である巨大鋏を構えると、表情を引き締めて前に出た。


 駆け抜ける雷撃とぶつかり合う黒い風を視界に、ウルミラが前に出る。
 自らのマテリアルを高め踏み込んだ直後に渾身の刃を振り上げる。

 ガンッ。

 鈍い音と共にメイスに弾かれた刃が反ってウルミラの胴が晒される。そこにフレデリクが援護の為に光の防壁を放つと、キラキラと幻想的な光を放つ破片が飛び散った。
「もう1度エレクトリックショックを使います!」
「了解だ。旭と神楽は挟み撃ち! 有希遥は正面から行け!」
 戦闘には参加できないが状況を見て指示を飛ばす事は出来る。その役割を彼に託していた有希遥は、全体を見回すように視線を動かすと、黒翼の目を惹く為にわざと音を立てて息を吸い地面を蹴った。
「うちの守りたいものにはあんたも入る……我等は貴殿に敬意を表す故に貴殿が守りたきモノを傷つけぬよう相対を望もう。貴殿は何を守りたい!」
 抜刀した愛刀・三日月を手に一気に踏み込む。
 そして鋭い一打に次いで更なる一打を回転と共に打ち込む。
 ザッ。と羽が割ける音がし、黒翼の顔に驚きが浮かぶ。そして彼女が反撃の為にメイスを振り上げた時、左右から同時に攻撃の気配が迫った。
「いい加減話聞けっす! じゃないととっても恥ずかしい恰好で拘束するっすよ?」
 いや、その説得は逆効果だ。そんなツッコミが後方から響くが神楽は至って真面目だ。
 彼は盾を手に超接近すると魔法で作り出した触手で黒翼を拘束しに掛かった。
「捕まえたっす!」
 掴まれた腕と迫る気配に殺気立ったように暴れだした黒翼。そこへ迫る旭は古びた鎧に宿る精霊『サレオス』を顕現させた。
 <我は鎧。我は墓守。我は願う。平和と愛に満ちた明日を>
『――ッ!』
 目の前で幻影を纏い巨大化した旭に黒翼の目が見開かれる。
「ちゃんと受け身取れよ!」
 忠告と共に繰り出した連撃を黒翼はメイスと触手に掴まれた腕で受け止めようと動く。だがその動きは視界に飛び込んで来た花弁によって遮られる。
『ハナ……』
 ぽつり。零された声が叫び以外で聞いた彼女の初めての言葉だ。
 それを確と耳に宿し、旭は連撃を打ち込む。
 衝撃に吹き飛び、地面に転がり込んだ彼女が見つめるのはハンターではない。幻影故に姿を消した、美しい花弁の姿だった。


 戦いが終わった後、すっかり大人しくなった黒翼の前にハンター達は集まっていた。
「私も英霊を1人知ってるんだ。無茶苦茶な英霊だけど、人の中で暮らして彼らを愛し愛されてる英霊。あなたは1人じゃないよ。再び人と触れ合ってみない?」
 先にナサニエルが語った黒翼の物語。それを思い出しながら言葉を紡ぐ詩にエーミが寄りそう。
「どこの時代も怒りはそう簡単には解けないわ。それでも貴女は止まった」
 そう。黒翼はエーミの桜幕符を見て止まった。それは彼女が舞う桜に何かを感じたからに他ならない。
「まあ、教会を守ってたって訳じゃないなら壊すのもわかるし、俺らを外部の人間だって判断して攻撃したってのもなんとなくは理解できる、か。あんた、何を守ってるんだ?」
 歪虚から教会を守っているとは思え辛い。だが彼女は何かを守る為に闘った。それは――
「自分、じゃないでしょうか……」
 思わぬ形で確信を突いたフレデリックに黒翼の肩が揺れる。
「わかります。知られたくないことがあるから、認めたくないことがあるから、現実から目を背けるために現実へ引き戻そうとするものを攻撃する。それは物理的なものでなくとも、人間には誰にでもあるものだと思います」
「リーゼさん……」
 リーゼロッテにだって言えない事はある。
 今だってナサニエルに隠している事があるのだ。そしてそれはまだ口に出す事は出来ない。もし出せば『ナサニエルがナサニエルではなくなってしまうかもしれない』から。
「ヒトであれヒト以外の血を引くものであれ、心に抱えるものはある」
 ウルミラは黒翼の前に跪くと彼女の目を覗き込むようにしてこう語った。
「ご覧の通り私は竜の血を引く者。ヒトと接するまではヒトを見たことがなかったし、彼らが龍園へ訪れたときは警戒もした」
 しかし、と彼女は続ける。
「その彼らは故郷を救ってくれた。武器を手に近づく者は全て敵ではない。それは言葉の武器も同じだ。貴女は傷ついたのだろう。けれどそんな者ばかりではない――……どうか、話を聞いて欲しい」
 しんっと静まり返った空気に黒翼の羽が擦れる音がした。
 彼女は立ち上がり、ハンター達を見回す。そして何を言おうか幾度か躊躇った後、こう呟いた。
『応エヨウ……ソノ、言ノ葉……想イニ』
 こうして黒翼はハンターの元へ来る事を了承してくれた。そしてリーゼロッテもまた、当初の目的である魔導機械に彼女を納める事に成功したのだが、その姿をじっと見ていたトリプルJが問うた。
「サンデルマンは人と共闘することを選んだ精霊に加護を与えてその場から動けるようにしてると聞くが……リーゼロッテが何かするのか?」
「私は全ての精霊を対象にこの魔導機械が適応できれば良いと思っています。それは大地から動く事が出来ず、逃げる事の出来ない精霊に対しても同じです」
 リーゼロッテの行っている事はサンデルマンと同じようで少し違う。
 彼女が為そうとしているのは同意がなくとも動かせる装置の完成。それは一歩間違えば悪用され兼ねない技術でもある。
「……その答えは俺が求めた問いの答えじゃねえ」
「はい」
 彼女はそう言うと、何ともバツが悪そうに視線を落とした。
「はいはいっ! 話はそこまでにしてそろそろ帰るっすよ! あ、リーゼロッテさんが何か隠し事をしてるみたいっすけど女が怒ってる時と隠し事をしてる時はつつくと大変な事になるって本に書いてあったんでスルーが吉っす!」
「!?」
 何を言って。そう反論しようとしたリーゼロッテに神楽は「まあまあ」と笑って手を振る。
 そんな彼を見てから、トリプルJは何とも言えない面持ちで自らの帽子をかぶり直したのだった。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 15
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭ka0234
  • 解を導きし者
    エーミ・エーテルクラフトka2225

重体一覧

参加者一覧

  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 解を導きし者
    エーミ・エーテルクラフト(ka2225
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 礼節のふんわりエルフ
    フレデリク・リンドバーグ(ka2490
    エルフ|16才|男性|機導師
  • 紅蓮の鬼刃
    守原 有希遥(ka4729
    人間(蒼)|19才|男性|舞刀士
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • 焔は絶えず
    ウルミラ(ka6896
    ドラグーン|22才|女性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/10/25 23:44:04
アイコン リーゼさんへの質問室
守原 有希遥(ka4729
人間(リアルブルー)|19才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
アイコン 英霊保護作戦室
守原 有希遥(ka4729
人間(リアルブルー)|19才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2017/10/26 01:29:32