【孤唱】シの先で見た風景

マスター:狐野径

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/10/31 15:00
完成日
2017/11/07 21:37

みんなの思い出

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オープニング

●宝探し完了
 憂悦孤唱プエルは実家のある町に入り込んでいた。
「もう! なんでこうなるんだ! マテリアルもほしい……」
 せっかく作ってもらった人形は先日ハンターに壊されてしまった。その上、ハンターの手元で処分されているはずだ。
「もっと楽しいことがしたいよ! ううう、レチタティーヴォ様……。僕の記憶が戻らなかったらもっと楽しかったのかな……」
 首をぶんぶんと横に振る。
「それはない! レチタティーヴォ様のことも知って、父上たちのことも思い出して、楽しいことは増えたよ」
 スコップを持ち丘を登る。
 夜の闇の中に、ほのかな光をたたえる町は浮かぶ。
 風に吹かれながらプエルは足を止めた。
 幼いころから見てきた風景。
 少年になって心が安らいだ風景。
 最期に見たのは丘の上の木だったと今ならわかる。
 そして、この木のところから町を見るのは大好きだった。一望できる町は、次期領主としては守らねばならぬものだった。
 レチタティーヴォと出会ったのもこの木の下だった。

『王女のためになぜ頑張る? なぜ、我慢する? 本人を思ってくれる人間が王女の回りにいて抱きしめてくれるかもしれないのに? 君はそれがない』

 どんな会話をしたかは細かい記憶にはない。
「レチタティーヴォ様の方が僕のこと理解してくれたんだよなぁ」
 そして、抱きしめてくれた――とプエルは記憶している。
 記憶は記憶。
「うう……父上がいないと、僕のこと優しくしてくれる人いないや……あー」
 最近妙に優しくしてくれるハンターを思い出すが、ハンターはハンターなのでそれ以上考えないことにした。
「違う違う! そんなことより! 僕は頑張るための道具を探しているんだ……エクエスの奴、絶対何かした!」
 だからスコップ持って丘に登ったのだ。
 プエルが調べたことから、一緒に行動していた歪虚エクエスがニコラス・クリシスの遺体として死体を埋めたらしかった。プエルがニコラスという目を一時的にそらすためか知らない。しかし、プエル自身がその操作を壊している。その死体が安置されていたところに入り込んで、ベッドを奪い取ったからだ。
「だって、絶対、あいつただじゃ起きないもの。そりゃまあ、僕の記憶がおかしいころ、あいつはすごくいいやつぽかったんだよなぁ」
 悩む。エクエスはニコラスの護衛だった青年で、任務はこなすがニコラスを嫌っていた。歪虚になった後は、プエルの御供(別名子守り)として仕え(させられ)ていた。
 さて、プエルがエクエスが何かしたと考えるが大掛かりなことではないと推測する。エクエスはハンターに討たれたのはかなり前であり、そのあとプエルも何度かここにきている。活性化して姿を見せた精霊も反応を示していないため、些末なことだろうとは思う。
 基本的には無害でも何かに使えるもの。
「この辺り……なにか変だ」
 プエルはせっせと穴を掘る。
「むうう……結構深いぞ」
 何もないかもしれないという選択肢はなく、掘り進める。
「あった、箱だ……これは、以前見たことあるなぁ」
 中を見るとペンダントヘッドがあり、マテリアルを蓄えてくれるアイテムに似ている。
「もう一個あったんだ……それにしても、きれいだなぁ」
 プエルは持ちあげた。鳥かごのようなそれの中には青い宝石がはまっている。それは、月の光を反射させると、黒く光っていた。

●司祭の命
 プエルは丘で過ごした後、朝日とともに町に繰り出した。
 夜見る町と異なり、朝は活気があってよい。
 柔らかな光に照らされ、人々が活動を始める。
 挨拶が交わされ、荷物を運ぶ。人が移動し、店が開く。
 領主の屋敷となっていた建物は更地になっていた。まだ新しい建物は立っていないようだ。
 プエルはエクラ教会に向かった。
 入口で見上げる。
 ステンドグラスは記憶にあるままだ。
 馬車が走る音が聞こえる。
 はっとしてプエルはそちらを見た。

『……ジョルジュ、父上は家にいる?』

 自分の声が聞こえた気がして首を横に振る。
「あいつもいないし、父上も……父上も……」
 ――僕は独りだ。
 寂しくなってきたところに、教会の扉が開き司祭が出てきた。
 見覚えがある。
「ああ、司祭様、お久しぶりです」
 プエルはかぶっていたフードを跳ね上げ、ニコラスらしく挨拶をした。
「……若君……」
「あはは、なんでその呼び方するのかな?」
 司祭は言葉を探しているようだ。
「わ、若君……どうですか、お茶でも?」
「え?」
「歌はまだ歌うのですか?」
「ええっ?」
 プエルは驚く、相手を殺さないといけない状況になると思っていたから。
 そのため、司祭が震えているのに気づいていなかった。
 プエルは案内されるまま、パイプオルガンの前でキョトンとして座る。
「誰も入ってこないとは思いますが、見つかると危険ですので……お菓子を取ってきますのでお待ちくださいね」
「うん」
 プエルはおとなしく待つことにした。

 司祭は礼拝堂を出ると膝から崩れる。
「……誰も入れるわけにはいかない。それと……」
 助祭が通りかかり、慌てているが「静かに」と告げる。
「今、礼拝堂に歪虚を閉じ込めています。いえ、待たせています」
 助祭は驚いた顔になる。
「いいですか、教会からそれを出してはいけません。私がここで相手をしています……だから、ハンターを呼んできてください」
 助祭は走り去る。
「……ニコラス様の寂しさに気づかないわけではなかったのだ。それを領主に告げなかったは私の責任だ……」
 歪虚となってしまった若君は消えないとならない。
 ハンターが来るまで足止めをしていないとならない。

 プワーン。

 プエルがパイプオルガンをいじったらしく音が響く。
「……ニコラス様……」
 司祭は手を握りしめ、ごまかすためのパンと茶を用意して戻った。演技をしてなんとしてでも足止めはしないとならない。
「若君」
「……ねえ、なんで優しくしてくれるの?」
 プエルは簡素なパンを手に取りながら問う。
「僕ね、マテリアルが詰まった物見つけたんだ。ね、司祭様、僕と契約して歪虚になってよ」
 無邪気に見上げるプエルに、司祭は震えた。嘘をつく覚悟はあったが、この問いかけへの嘘の答えは危険すぎる。
「それはできないです」
「そっか」
 司祭が最期に見たのはプエルの寂しそうな顔だった。

●討伐依頼
 ハンターへの依頼は、領主にも報告が回った。
 領主である少女イノア・クリシスは素早く指示を出した。
「教会の回りには一般人の立ち入りは禁止を。それと、外に出ないように指示を! メトーポンには兄が移動することに警戒してほしいと告げてください。それと……川に住む精霊のリオにも告げてください」
 伝令係の青年は走り去る。
「イノア様……」
 悲痛な表情のまま護衛の騎士ジョージ・モースは控える。
「兄は何としても倒さないとなりません」
 イノアはきっぱりと告げた。その手は震えていた。

リプレイ本文

●不安
 ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ka4804)は領主の屋敷に急行した。
「あの教会から扉以外で外に出ることはできるの?」
 プエル(kz0127)が出入りする危惧を考えての問いかけである。
「下水にはつながっていますが、簡単に出入りはできないはずです」
 答えにうなずくと、ピアレーチェはトランシーバーを一つイノアに手渡す。
「イノアさんの思いがあれば伝えるチャンスだから」
 イノアの目は見開いた直後、無表情になる。
 ピアレーチェは不安を覚えた。扉が閉まると同時に「ごめんなさい」と聞こえた気がするからだ。
 プエルの行動に様々な不安がよぎる。生前のプエルを知っている精霊に名前を付けたことや、ニコラスの父親を教会から連れ出したことだ。
 父親が元気になったことは領内に対して良いことであるが、今のピアレーチェは「プエルを追い詰めた一人かな」という意識が大きかった。

 現場はすでに規制線が張られている。
 マリィア・バルデス(ka5848)はイノアを探した。一言断りをいれたかったが現場にいないため、以前見かけたがことがあるイノアの護衛の騎士ジョージ・モースに声をかける。
「プエルと戦う以上、聖堂を無傷で、は難しいと思う。あなた方の信仰の場を守れないことを先に謝るわ」
「お気遣いありがとうございます。それより、中が異様に静かなのです」
 ジョージの不安をなだめるようにマリィアはうなずいた。

 ミリア・ラスティソード(ka1287)は暗い表情で正面の扉を見つめる。歪虚であっても静かに暮らすならば存在していてもいいと考えていた。
 しかし、プエルは町が好きだ。
「討伐依頼が出た……それは……終わりなんだ」
 過去の状況からすれば出ないほうがおかしい。

 エルバッハ・リオン(ka2434)は決意をつぶやく。
「過去のことがどうあれ、討伐が決まった以上はここで彼を斃して終わりにします」
 プエルと初めて会ったときは無邪気に兵士の死体におもちゃに遊んでいた。そのあと、エルバッハは彼の変化を見てきている、記憶を取り戻して父親と妹を殺しにやってきたことも。
「そのあとは比較的穏やかだったのが不思議なのです」
 エルバッハはやってきた仲間を見た。

 集まったハンターたちは作戦を決め、正面と祭壇側から同時に入ることとなった。

 ミオレスカ(ka3496)は裏に回りながらキュと唇を結ぶ。
「今まで利害のためというより、戦うと勝てないという単純な理由により、避けてきました。私の弱さです」
 人類と関わらずひっそりと暮らせるならば、存在もありうるのかもしれないと考えはする。
「情が全くないとは言ええませんが、この世界から退散してもらうしかありません」
 胸の中でつぶやいた。

 リュー・グランフェスト(ka2419)は仲間と移動をしつつ思い出していた。
「プエル……結構古い付き合いだったな」
 辺境で兵士の死体で遊ぶプエルを見つけたのが最初だった。そのあと、東方でプエルと遭ったときは妖怪をペットとしてほしがっていた。人を殺すのも、妖怪をペットとするのも無邪気そのものだった。
「死人が出ているのはあれだが……嫌いではなかった……が、ここで仕留める!」
 刀の柄を握りしめた。

 ルベーノ・バルバライン(ka6752)は事件を知ったイノアの顔を思い出す。
 年頃の少女としては大好きな兄が歪虚である辛さと悲しさ、生きている嬉しさに揺れ動いているのを感じた。
「俺はお前ではないのでな、お前の気持ちがすべてわかるとは思わん。領主として正しい判断をした。ただ、理性の下に押し込めざるを得なかったお前自身の感情はどうだろうと思うとな……」
 ルベーノに告げられたイノアは震えたが、涙はこらえていた。
 悲劇はここで終わらせないとならないと決意が固まったのだ。。

 夢路 まよい(ka1328)は教会の中を好奇心を持って眺めつつ、移動していった。
「えっと、正面の人たちが入ったら私たちも入るんだよね。話したいという人もいるのを待つ……魔法も使うというからそれは対応するよ」
 プエルが使う魔法や技などはすでに聞いている。それがすべてかは全く分かっていない。
 その所が不安要素であった。

●決裂
 プエルは司祭を殺した後、しばらくたたずんでいた。
「……あーあー」
 プエルは気を取り直し、カバンから人形を五体取り出す。意識を集中して操り始めた。
「パイプオルガンで遊ぶかい?」
 よじ登る人形たち。
「外は精霊が……あ、このマテリアル使えば、僕でも精霊捕まえられる?」
 名案だと思い、正面の扉に向かう。

 バン。
 キーパタン。

 プエルは足を止め、大剣の柄に手を載せる。人形たちはバタフライナイフを開いた。
 正面と祭壇の方の扉からハンターが入ってきたからだ。

「よう、一曲歌ってくれないか?」
 表情が重く暗いミリアは告げた。
 プエルはキョトンとなる。
「ねえ……イノアさんにこれ、つながっているの」
 ピアレーチェは恐る恐る話しかける。
「……そ? それで? 僕の妹は兄にこんなことをするんだ?」
「違う……依頼は別のところから出ているんだよ」
 ピアレーチェはプエルの冷たい目に射抜かれる。
『お兄様』
「ああ、イノア。ねえ、僕の……」
『あなたはプエルです』
 イノアの声が震えているのがわかる。
『歪虚です……もう、私の……私はこの町を守り、王国を守る義務があります!』
 プエルは目を細めた。手に宝石のはまった銀細工のような物を取り出した。手に包まれるとそれは光を発した。
 ミリアは危険を察知して、ピアレーチェを下がらせようとする。
「残念だけどカーテンコールだ、クレームが入っちまった」
 マリィアとエルバッハも臨戦態勢にある。
 祭壇側のメンバーも様子をうかがいながら近づき始める。
 ルベーノは祭壇の近くに刃に倒れた司祭を見る。
「人を殺さず世界を見たいと旅する歪虚もいたが……」
 司祭の表情はどこか悲しそうに見えた。生前のプエルを知っている人物だったと想像された。
 負のマテリアルが大きくなっているのを肌で感じ、プエルの方を見た。

「不愉快だっ! 余は、外で遊ぶんだ、どけ!」
 プエルは大剣を引き抜くと一気にピアレーチェと間合を詰める。
 プエル人形たちもそれに倣い、ピアレーチェにつっこむ。
 マリィアが【妨害射撃】を試みる。ミオレスカも射程を確保するために急いだが、救援は間に合わない。
 回避できなかったピアレーチェはプエルに脚を切られた。動けなくなったところに人形たちの猛攻を受け、意識を手放した。
 ミリアが武器を抜くとマテリアルを活性化させ、プエルに鋭い突きを行った。刃の通ったところにあった長いすが損壊する。
 エルバッハも【アイスボルト】を放ち足止めをしたかったが回避されてしまった。
「しめやかに演出しないとね」
 まよいは【幻葬歌】を歌い始める。プエルの攻撃への不安を少しでも取り除くためでもあった。

●慟哭
 これまでプエルと戦ったことがある者は、その動きと全く違うと感じ取ることができる。プエルが使った物に何かあると考えるのが道理だ。
 攻撃が当たらない訳でもないし、プエルが魔法を放とうとしたとき、【カウンターマジック】も利いていた。
 問題は、プエルが魔法が駄目なら武器を振るうし、人形たちがいること。
「余は外に行きたいんだ!」
 扉を守るようにいたマリィアとミリアが攻撃に巻き込まれた。無数の刃に切り刻まれる感触だった。マリィアが痛みで顔を一瞬しかめるほどの威力だった。
 なお、人形たちは魔法を使う者を狙っていた。
「こっちにくるの」
 まよいはひらりと避ける。人形が動くのは可愛くても、手にはバタフライナイフを握っているのだ。
「ちょこまかと行くんじゃない」
 リューが技を使って攻撃をした。まよいにまとわりついていた一体は綿を出して倒れて動かなくなるが、一体はひらりと避けた。
「まずは人形から行くぜ【青龍翔咬波】」
 ルベーノも攻撃をしたが、人形は避けた。
「以前は簡単に綿に戻ったはずだ」
 ミリアが言うとプエルはにっこりと笑った。
「つまり、プエルに引きずられて強くなっているということでしょうか」
 エルバッハは呟いた。
「だって、僕、マテリアルもらったもの。だから、強いよ? ね、僕の手下になってよ」
「だから!」
 ミリアが遮る。
「そ、まあ、そうじゃないと面白くないよね!」
 プエルは再び攻撃を仕掛けた。
 回避ができないと相当重い力が加わることになる。

 ハンターは押され気味ではあった。
 人形がつぶされてもプエルは補充して動かすことはしていないため、数は減っている。

 二度ほど攻撃を耐えているうちに人形がすべて綿となった。
 急激にプエルが縮んだようだった。それは、形が変わったというよりも、マテリアルの濃度が変わったからというふうにも思える。
 分析は後だと、ハンターたちはそれぞれ攻撃を叩き込んだ。
 動きに精細さを欠くプエルは、ハンターたちの攻撃をくらって泣いた。
「うう、痛い、痛いよ……」
 服も破れ、胴もえぐれ、脚も取れかける――マテリアルが動き、一部修復される。

「私に言えることは、ここであなたを斃すということだけです」
 エルバッハは表情を動かすことなく魔法を使おうとした。続くミリアも唇を結び武器を構えている。
 ――が、ハンターはすぐに行動を起こせなかった。

「嫌だ嫌だ嫌だ……痛いのも……独りも嫌だよ! ああああああああああああああああああ」

 表情が抜けたプエルが震え、悲鳴を上げた。負のマテリアルがあふれハンターたちを突き抜けた。
 特殊な音波となっているのか、ハンターは眉をしかめ、手で耳をふさぎ、音が去るのを待つだけだった。
「ぅぐう」
 マリィアは両手で耳を押さえ、うずくまる。頭が揺さぶられた上、、内臓がズタズタにされたような痛みを覚えた。
 ミオレスカも頭が真っ白になるが、不意に「怪我無く帰って来いよ」とうつむき加減で手を振って別れた赤ずきんの姿が脳裏によぎる。
「帰らないといけません。プエルには……その胸にはれちたんがいたのです。一人ではなかったのです」
 叫ぶと立ち上がり、銃を構えた。

 プエルの悲鳴の波が消えた直後、エルバッハが魔法を放つ。ミオレスカの銃弾がそれに続き、プエルに叩き込まれる。
 ミリアは攻撃をしながら祈った。
(……できれば誰かの腕の中で愛され惜しまれつつ旅立たんことを)
 彼女の攻撃で滅びる可能性もある。その兆しがあれば、手を差し伸べるつもりはあった。
 プエルは動こうとした。
「この一撃は、竜をも貫く! 紋章剣『グングニル』!」
 リューの【竜貫】が鋭くプエルに向かう。
「まだいけるわよ! 終わらせないと……」
 マリィアが歯を食いしばり、引き金を引く。それに続き、ルベーノがプエルにこぶしを叩き込む。
「君は寂しかったんだね。もう、終わりにしよ? 君の大好きだった人のところに行きなよ」
 まよいは【アイスボルト】を放った。

 近くにいたルベーノは目の前で崩れていくプエルを受け止めた。プエルの目には光がなく、ただのアメジストのようだった。
 爪先やけがの部分から徐々に崩れ塵になっていく。
「お前の寂しい夢は今日で終わる。怖かったら目をつむれ。今まであった楽しいことだけを考えろ……最後まで、きちんと見届けてやるから」
 頭を撫でてやる。

「そっか……」

 小さい声が聞こえたかもしれない。その瞬間、プエルの肉体は塵となってすべて消えた。

「……おやすみなさい、ニコラス。今度こそ寂しくない夢を」
 マリィアがつぶやいた。

●明日
 司祭の遺体は教会の者たちが丁重に運んでいった。
 荒れた礼拝堂の中でミリアは壊れていない長椅子に座る。ほんの何年か前、ここでニコラスは歌っていたのだろう。当時は歪虚になるなど露ほどにも思っていなかっただろう。
「っつ……」
 ミリアはこぶしを椅子にたたきつける。
「最期が思い出の地だったわけか」
 うつむいた。

 マリィアはピアレーチェの側にいる。
「私も治療必要だし、目が覚めたら教えてあげないとね」
 教会の居住区にある一室に運ばれて行った。マリィアはプエルの最期にいたところを一瞬見つめた。

 ミオレスカはプエルの服や荷物を持って領主の執務室に向かった。報告の兵士について行くのは彼女以外にルベーノもいた。
「危険なものは入っていないとは思います」
 念のためイノアの許可を得て、ミオレスカは鞄の中を出した。服や人形、菓子類が出てくる。相当詰め込んでいたのが分かった。
「……すべていりません」
 イノアは見ずに告げる。
 ともに来ていたルベーノが「食べ物は廃棄していいと思う」と小声で告げた。
「そうですね」
 ミオレスカは引き取って立ち去った。
 ルベーノはイノアに言う。
「死にたくて死ぬものも、なりたくて歪虚になるものもいない」
「兄は進んでなったのです」
「死にたくないなら手を取るということもあるだろう」
「でも、そう考えないとっ!」
「泣きたければいくらでも泣けばいい。あの護衛にだって知られたくないんだろう? 通りすがりのハンターの俺だ。だから少し、扉を守っていてやる。悲しみを独りで抑え込むなよ、イノア」
「っつ」
 イノアの頬を涙が伝う。両手で顔を覆い、後ろを向きうずくまった。静かな涙だったが、それでも彼女の心はいずれいい方に動くと思えた。

 川に向かったミオレスカはエルバッハたちと合流した。
 エルバッハの前に座り込む水の精霊がいる。精霊の表情は見えにくいが、寂しそうな雰囲気に見える。
「彼女も関係者ですから……」
 ピアレーチェがプエルの怒りを買って重体になったことも水の精霊リオ(仮)に告げた。その結果、怒ったり泣いているような状況だったとエルバッハはミオレスカに教えた。
「あいつが人を殺しているのは事実だよな。とはいえ……俺が会ったとき、結構、抜けたことやっていたような」
 リューが思い出して溜息をついた。同意するようなうなずきがある。
「ミオレスカ、何をやっているの?」
 まよいが問う。
 ミオレスカは木をくべ、火を起こしていた。
「プエルの荷物にあった菓子です。これまでの犠牲者とニコラスさんとプエルのために……これを燃やして弔おうと思います。……歪虚にあの世があるならば、そちらでめしあがってください、と」
 ミオレスカがつぶやいて手を合わせた。

 リオは社から取り出したブローチを火の中に放り込んだのだった。

 まよいは歌う、送る歌を。
 他の者も黙とうをし、過去と未来を思った。

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    ミオレスカka3496
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデスka5848
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバラインka6752

重体一覧

  • 本家・名付け親
    ピアレーチェ・ヴィヴァーチェka4804

参加者一覧

  • 英雄譚を終えし者
    ミリア・ラスティソード(ka1287
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • 本家・名付け親
    ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ka4804
    ドワーフ|17才|女性|聖導士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバライン(ka6752
    人間(紅)|26才|男性|格闘士

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アイコン 相談・宣言・提案卓
ミリア・ラスティソード(ka1287
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2017/10/31 12:31:29
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/10/29 11:16:50