• 天誓

【天誓】臆病者のラブ・ソング3

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/11/04 19:00
完成日
2017/11/16 01:25

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「絶火の騎士パーシヴァルって、どんな奴だったの?」
「あまり多くの情報は残っていないですね。いかんせん、帝国は革命の時期に古い文献の多くを失っていますから」
 森の中を急ぎ足で歩きながら、浄化の器の問いかけにタングラムは応じる。
「それでも特に力のある騎士の伝承は口伝で残っています。正確性には欠けますがね」
「どうして口伝だと正確性に欠けるの?」
「ヒトというのは、言葉を紡ぐ時、少しだけ自分の気持ちを上乗せするからです」
 そこに、一つのリンゴがあったとしよう。
 リンゴを口にした誰かがその感想を言葉にするまで、そのリンゴがどのようなものであったのか誰にもわからない。
「……なんで?」
「情報が途切れるからです。その場に別の誰かも居合わせたのならばいい。でも、一人しかいないなら、その誰かが口にした言葉が真実になってしまう」
 フォークロアはそうやって、誰かから誰かへ、言葉に乗って移動する感染病。
 悪意も善意も簡単に飲み干して、当たり前のように次の受け手に押し付ける。
「だから口伝の情報はあてにならないわけです。とはいえ、英霊はそのフォークロアの顕現ですからね。能力もおおよそ伝承通りと見てよいでしょう」
 パーシヴァルの伝承で有名なのは、“花の騎士”というお伽噺だ。
 と言っても、あまり聞いていて心地よい内容ではなく……。
「内容が過激なので、どちらかというと脅かす類のタイミングで使われる奴ですね」
「ふーん」
 生返事をしながら、器は考えていた。
 英霊――誰かがそうあれと望み、願い、作り上げられた精霊。
 自分の境遇と重ねると思うこともある。浄化の器という仕組みは、言うならば生きたままの英霊を作るようなものだから。
 それに、エルフハイムの先日顕現した精霊……。あれも比較的ヒトに近い形状をしていた。
 ならば森の精霊というよりは、やはり誰かの意思によって形作られた英霊に近しい性質なのだろうか……?
「アレクサンダーの話によれば、場所はこのあたりのはずですが……」
 足を止めたハンターらの前に広がっていたのは、森の中にある花畑。
 鮮やかな青い花弁を持つ小さな花が、びっしりと大地を覆いつくしている。
 聞こえたのは、誰かの鼻歌だった。軽やかな音色を刻みながら、ソレは両手いっぱいに花を抱えてそこにいた。
『――あら。お客様ですね? こんな辺鄙なところまで……わざわざご足労ありがとうございます』
「……絶火騎士、英霊パーシヴァルで相違ないですね?」
 タングラムが歯切れ悪いのも無理はなかった。
 なぜならばソレは、小柄な背丈の少女。仮面で顔色は窺えないが、特徴は見て取れる。
 ――エルフ。目の前の英霊は、エルフをベースにしている。
『如何にも。絶火騎士パーシヴァル、まかり越しました。皆さんは……ええと、どちら様でしょう?』
「我々は四大精霊サンデルマンの力を借りる者。絶火騎士パーシヴァル、あなたを保護しに来ました」
『サンデルマン……ああ、ああ。聞いた事もないはずなのに、理解します。これが精霊……星の眷属になるという事ですか』
 花束をばっと空にちらし、まるでシャワーのように浴びながら少女は口元を歪ませる。
『……自分以外の誰かに薄く支配される感覚……不愉快です』
 ぱっと掌を広げると、そこに細身の長剣が形作られる。
 それを手に取ると同時、ノータイムで騎士はその剣を振るった。
『じゃあ、殺しますね?』
 刃は分裂し、まるで蛇のように――いや、実際にそれは蛇だった。
 自ら意思を持ち動いていると表現するしかない。そういった挙動でタングラムへ襲い掛かるが、これをタングラムは短刀で撃ち落とした。
『あら?』
「絶火の騎士の中には、そもそも仲間に出来ないやつもいると聞いています。アレクサンダーはお前を、“場合によっては消せ”と言っていた」
『アレクサンダー? あの? 豚のような? 醜い男、されこうべの方がいくらかましな、あの?』
 くつくつと笑いだし、こらえきれないと言わんばかりに肩をすくめる。
『ああおかしい! ニンゲン以外の種族に傅くとは! あなたたち、気でも違いましたか!』
「……人間じゃない?」
『アレクサンダーはニンゲンではありませんよ。私と同じ異種族です。異種族、異種族……異種族異種族!』
 ふう、と一息つき。
『そういえばあなたもエルフ。そちらもエルフ。エルフはニンゲンの敵です』
「お前もエルフでしょうに……」
『そうなんです。すごく、すごく、とても悲しいです。そこだけがどうにも、納得の行かない所で……。苦しくて苦しくて……苦しくて苦しくて苦しくて苦しくて――! ああっ! もう、殺したい!!』
 器はその様子をじーっと見つめていた。
 そこはかとなく、気持ちとしては親近感があった。
「それってさ、本当にあんたの気持ち?」
『は?』
「あんた本当に――誰かを殺したいの?」
 小首を傾げ、英霊は表情を凍らせる。
『なんだかあなたは妙に腹が立ちますね。もしかして私達は同じものではないでしょうか?』
「まあなんか、そんな気がする。だからヴィルヘルミナは私をここに送ったのかな」
 頬をぽりぽりと掻いて、少女は騎士を指さす。
「――オマエは正義じゃない」
『いいえ。私が正義です』
「違う。正義はもっとキラキラしていて――」
 瞼を閉じ、思い浮かべるもう一人の自分の姿。
「誰かに愛されるものだ。オマエは私と同じ……つまり悪だよ」
 覚醒すると身体がズキズキ痛む。頭の中もモヤがかかったようだ。
 普通、覚醒すると体調良くなるんじゃねーのかよ。心の中でボヤきながら、息を吐く。
 目――見えなくなってきた。味……感じなくなってきた。
 でも、音はまだ聞こえる。匂いも感じる。なら戦える。
「オマエはムカつくから、別に仲間にならなくてもいいや。ここで消えとけ、バケモノ」
 英霊は口元をニマリを歪ませ、自らの胸に深く爪を立てた。

リプレイ本文

 パーシヴァルが自らの胸に突き立てた爪は皮膚を裂き、青白い血飛沫となって空を舞う。
 花にも似た甘い香りは……成程。傷口からは見る見る間に花が咲き、そこから蜜となって溢れているようだ。
「なんか、俺達抜きで超盛り上がってんだけど……?」
 頬を掻きながら呟くコウ(ka3233)。
 実際ここに集まったハンターはタングラムと浄化の器を除けば全員が“人間”。パーシヴァルの眼中にはないらしい。
「アイリスさん……少し落ち着きましょう」
 闘う気マンマンと言った様子の器の前にシュネー・シュヴァルツ(ka0352)が立ちはだかる。それを少し意外そうに。
「何? あんなに邪悪そうな奴を庇うわけ?」
「確かに言葉は通じ無さそうですね……」
「少し時間をくれないか、アイ。話せばわかるかもしれない……諦めたくないんだ」
 キヅカ・リク(ka0038)の言葉に、器は眉を顰める。
「別にいいけど……」
「向こうがそれを望むでしょうか? 自ら干戈を交えて来る相手とお話……って言うのはどうも、ね……」
 花厳 刹那(ka3984)は説得に懐疑的だった。どちらにせよ、まず交戦は避けられないだろう。
 ただ、手順が少し変わるだけで、交渉が決裂すれば討伐すれば良いだけの事。さほど問題視はしていない。
「……でも、器ちゃんに向けた剣は直ぐに下ろしなさい? 首、跳ばすわよ?」
『……? それ以前に……あなた達は、何……を?』
 パーシヴァルが呆気には、“人間がエルフに話しかけている”……それが既に理解できない。
「あれ説得とか、まじ? 見るからに激ヤバって感じなんだが……」
 溜息を零しつつ、コウはちらりと器に目を向ける。
「仕方ねぇ、付き合ってやるか」
 パーシヴァルはハンターの予想外の行動に暫し停止したが、直ぐに活動を再開する。
 つまり――ハンターには脇目も降らず、真っすぐ器に襲い掛かったのだ。
 分解されしなる鞭のように変化した英霊の剣は、まるで意思を持つかのように、剣とは思えぬリーチで器を狙う。
 器の護衛を意識していたハンターもいたが、自在に動く刃は閉鎖されたスクエアさえ容易に貫通してしまう。
「そうはさせん!」
 だが、その刃は吸い込まれるようにヴァイス(ka0364)へと狙いを変えた。
 ――ガウスジェイル。攻撃対象を自身に変更するスキルだ。
 攻撃を弾いたヴァイスに驚いたパーシヴァルだが、続けて手掌を振るって魔法を発動する。
 足元一面に咲き誇る花々、その隙間から突如として血の槍が出現する。
 これも器を狙って串刺しにするものだが、ヴァイスが七支槍の一振りで薙ぎ払った。
「やはり不意を打ってきたか。だが俺が二人の傍にいる限り、手出しは出来ないと思ってもらおう」
「……っぶね! 流石ヴァイスさん!」
 ハンターが人間しかいなかった時点で、パーシヴァルの初動は器への集中攻撃と確定していた。
 これをヴァイスが捌けなければ、初動で器は致命的なダメージを受けていただろう。
「今の攻撃……命中していれば、器ちゃんは……!」
 真っ先に飛び出したのは刹那だ。禍炎剣に光の刃を纏い、パーシヴァルへと斬りかかる。
 この判断は正しい。実際、ヴァイスがいつまでも攻撃を防げるとは限らない。
 刹那は対象の回避を下げる素早い攻撃でパーシヴァルを斬りつける。次の瞬間、その傷口から噴き出す血飛沫が毒液となって噴き出す。
「攻撃すると毒が出る……?」
「ちっ、面倒くせぇな……。だが、倒すのが目的じゃないってんなら……!」
 シュネーとコウはそれぞれがワイヤーウィップを用いてパーシヴァルの拘束を試みる。
 手足に巻き付けるようにして動きを止めると、キヅカがマッスルトーチの光を放つ。
 これは英霊にも効果的で、ワイヤーで拘束されたパーシヴァルの視線はキヅカに向けられた。
『ああ……私がエルフだから。私が邪悪な蛮族だから、征伐しようというのですね?』
「違う! 今はもう人類(ニンゲン)とは種族を指すだけじゃない。感情と理性があって、明日を望むならそれはもうニンゲンなんだ!」
「何時の時代の話をしてやがるっ! 第一、お前はもう精霊だろうが!」
 ワイヤーを締め付けながらコウは叫ぶ。
「人やエルフどころか、お前ら精霊や龍も仲間にして頑張ろうって風潮なんだよ、今の時代! 少しは空気を読みやがれ!」
『空気……? ふふっ、おかしな事を言いますね? 変わっていませんよ……何も』
 次の瞬間、パーシヴァルは身体に巻き付いたワイヤーから強引に逃れた。
 ワイヤーを引きちぎったわけでも、解いたわけでもない。自ら“引きちぎれた”のだ。
 輪切りになった手足は植物の蔦のようなもので直ぐに結びつき、再生する。そうして目が合っているキヅカへと剣を振るった。
 キヅカはこれを攻性防壁で受け、そして弾き飛ばす。そしてその先には北谷王子 朝騎(ka5818)の地縛符が仕込まれていた。
「パーシヴァルさん、こんな意味のない戦いは止めて下ちゃい。本当の正義というのは、かつてのナイトハルトさんのように万民が自然と称える物でちゅ」
『これは勇者の望みです。いえ、何よりも人々が望んだ事。私が正義ではないのなら、何故私はここにいるのです?』
 シュネーは話を聞きながら考えていた。確かに、そこなのだ。
 パーシヴァルと器は似ている。手を差し伸べた人間によって染まり、歪んでしまった。
 それが今も英霊として残るのであれば、人々による何らかの信仰があるはず。彼女は望まれて、あの形を作っている筈。
「……なら、この人自身の感情はどこなんでしょうか」
「よくわかんねぇけど、一つ言えるのは、さ。……俺からすりゃ器もパーシヴァルも、どっちも正義なんかじゃねぇ。ムカつくから殺していいっていうならば。自分を大切に思えねぇならな」
「パーシヴァルさん、戦うのは楽しいでちゅか? 終わった後、虚しくなりまちぇんか? 一人ぼっちで血で育てたお花畑……本当に欲しい物を曇らせてるだけでちゅ」
 朝騎はびしりと、パーシヴァルを指さす。
「パーシヴァルさんの本当に欲しい物は血でも花でもなく自分を認め必要とする事、褒めてくれる事、大きく包み込んでくれる事……つまり愛でちゅ!」
 パーシヴァルはその言葉を目を丸くして聞いていた。
 しかし、反応がない。そうして暫し全員が固まった後。英霊は僅かに首を擡げ。
『……アイ……って、何ですか?』
「Oh……そこからでちゅか」
「でも、それはそうですよ。結局わからなかったから、伝承でも救われずああなってるわけで……」
 シュネーの突っ込みに「確かにそうでちゅねー!」と頭を抱える朝騎。
 地縛符をレジストすると、再び器に狙いを定め動き出す。それをさせまいとキヅカが再びマッスルトーチで阻止に入った。
『あなた……邪魔ですね』
「僕達の話を最後まで聞いてくれ!」
 無視して剣を振り下ろすパーシヴァル。しかしキヅカはそれに対し一切の防御行動をとらなかった。
 次の瞬間、英霊の剣はキヅカの眼前でピタリと停止する。
「やっぱり。さっきの攻撃も、僕に傷はまったくついていない」
「人間を傷つけない……いいえ。傷つけられないんですね?」
 英霊の能力は本人が能動的に望んだものではなく、他人から付与されるものも含まれる。
 パーシヴァルは“人間”を傷つけなかった。いつかの未来で語られる伝承でもそうであるように、未来にとっての過去である今も、人間を傷つけ“られない”のだ。
 キヅカとシュネーの言葉にコウは首を傾げる。
「……なんだ、そうなのか?」
「ああ。俺もダメージは受けていないよ」
「……この毒はダメージを与える毒ではなく、動きを封じる毒……痺れ毒ですね」
 初動の猛攻を受けたヴァイスにも、反撃の毒液を浴びた刹那にもダメージはない。
『剣が動かない……何故……?』
「ともあれ、相手がこちらを攻撃できないのであれば話は簡単です……捕らえてしまいましょう」
「それもそうだな……よし」
 シュネーとコウは左右から駆け寄り、ワイヤーを巻き付けた上で同時に組み伏せにかかる。
 そこに刹那も加わり、背後からパーシヴァルの喉元に刃を突き付けた。
「英霊と言えども人型である以上、首は急所でしょう。これ以上暴れるようなら斬るわよ」
『そうですね。人間に討たれるというのなら納得です。好きにしてください』
「でちゅから、朝騎達の仲間に……!」
『それは無理です。敵の味方は敵……私は私の正義の裏切れない』
 朝騎はここにきて、自分の予測に若干のズレを感じていた。
 アレクサンダーは、仲間に出来ない場合は殺せと言っていた。それはこういう意味だったのではないか?
 パーシヴァルは――自分の考え方を徹底的に曲げないのだ、と。
「……愛とは何か、と言いまちたね。愛とは絆、大切にしたい人を想う、暖かい感情の事を言うのでちゅ。パーシヴァルさんは本当に愛を知らないんでちゅか?」
『それが愛なら、私にとっての愛は殺すことです』
「だから、何故殺したい? 誰の為に? それをしっかりしとかねぇと、誰にも好かれねぇぞ……てめえ!」
『自分の為ですよ。だって、沢山敵を殺すとみんなが褒めてくれるから』
 ――みんなが、それを望んでいた。だからどれだけ凄惨な殺戮を趣旨とした魂でも、“闇”には堕ちなかった。
 自分は正しい事をしているという確固たる信念があるからこそ、歪虚ではなく英霊なのだ。
「正義は誰かに愛されるもの……アイリスはそう言ったな?」
 傍で護衛についているヴァイスの言葉に、器はこくりと頷く。
「アイリス……お前は自分自身を愛しているか?」
「愛してるわけないでしょ? だから戦って……あ」
 即答にヴァイスは少し悲し気に言葉を続ける。
「なら、パーシヴァルも同じなんじゃないか? 結局は自分を認められないから、闘うしかなかった……誰かを傷つける事しかできなかった」
「アイもパーシヴァルも悪なんかじゃない。だって、ただ必死に生きようとしただけじゃないか。それは“間違い”であって、“悪”じゃない。自分を嫌う必要なんかないんだ。その証拠だってある」
 キヅカが指さしたのは浄化の器だ。その身体は目に見えて複数人のマテリアルで覆われている。
 多数のマテリアルリンク。その概念を知らずとも、精霊種であるパーシヴァルに理解できない筈もない。
「これが人の想いが繋がる世界だよ」
「勝手に人に飛ばしまくったリンクを見世物にするんじゃないわよ!」
「ぐほぉっ!? いいじゃないか皆協力してくれてるんだから!」
「べ、別に頼んでないし!」
 キヅカの尻に聖機剣が減り込む様をパーシヴァルはじっと見ていた。
『成程……精霊として、その現実を認めないわけにはいかないでしょう。時代が変わった実感はありませんが、一先ず知識としては理解しましょう』
「他の誰かじゃない。お前は自分自身を愛しているのか? 心の種は自分で自分を愛し、発芽させなければずっと種のままだぞ!」
『私はそのアイという概念を理解できませんので……しかし、あなた達が私に闘い以外の何かを望んでいるのは理解します。ならば絶火としてそれに従いましょう』
「仲間になってくれるんでちゅか!?」
『ええ……何をすればいいのかはわかりませんが』
「誰もが温もりに触れられる世界にするために、君が必要なんだ」
 パーシヴァルが拘束から解放されると、そこにキヅカが手を差し伸べる。
 英霊は無表情のまま、その手を握り返し、そして立ち上がるのだった。

「でも……結局あの人、危険な事に変わりはないような……」
 “事実”を“直感”で理解しただけで、論理や感情の所で同調を得られたとは言い難い。
「しかし、この人達の勇者って、なんだか本当に……。正義の味方も……複雑ですね」
「まあ、勇者ってやつが人格者ではない事は確かね。ヨハネとかに近い人間性っぽいし」
「ですね……あ、チョコ食べます?」
「器ちゃん、無事でよかった~~!」
 そこへ駆け寄ってきた刹那が器に背後から抱き着く。
「ヴァイスさんが攻撃を止めてくれて良かった……色々な意味で」
「そうですね……」
 初動で器が犠牲になっていれば、説得という雰囲気にはならなかっただろう。
 次はタングラムを守らねばならず、その手段がなければ攻撃による無力化を図らねばならない。
 人間からの一方的な暴力にパーシヴァルは抵抗はしなかっただろう。だが、仲間にはできなかったはずだ。
「どうして刹那は……」
「えっ??」
「……刹那お姉ちゃんは、そんなに怒ってくれるの?」
「それはお姉ちゃんだからですね……いや、それは冗談で……」
 ジト目に苦笑し、咳ばらいを一つ。
「前に言ったでしょ。もっと広い世界を見せてあげたいって」
『……人間とエルフが行動を共にしている……不思議なものですね』
「今の時代じゃおかしくないぜ。俺の女もエルフだし」
 怪訝そうに器たちを眺めていたパーシヴァルに対し、コウがさらりと発言する。
 すると、英霊の首がギギギと周る。
『俺の女……というのは?』
「付き合ってるって意味だけど……」
『それは恋仲という意味ですか?』
「改まって言われると照れるが、そういう事だ」
『そんな馬鹿な……素晴らしい!』
 頭を抱え、突然叫び出す英霊にドン引きするコウ。その手を取り、パーシヴァルはしきりに頷く。
『彼女にとっては素晴らしい栄誉でしょう。私の加護がきっとあなた達を守りますよ!』
「お、おう……なんかちょっと呪いみたいで怖ぇが……ありがとよ……」
「結局パーシヴァルさんは、ナイトハルトが好きだったんでちゅかね~……」
 変に突っ込んで機嫌を損ねられても面倒なので、朝騎はそれ以上口出ししなかった。
「なかなか難しいでちゅけど、朝騎もパーシヴァルさんの愛を探してみまちゅ。一緒に新しい絶火の物語を紡ぎまちょう」
「始めよう、君の英雄伝の第二章を!」
 朝騎とキヅカが朗らかに宣言するが、当のパーシヴァルはあまり興味がなさそうだ。
『……あなたはそこで何を?』
「ああ。戦いで崩れてしまった花畑を手入れしていこうと思ってな」
 特に意図もなく、ヴァイスは笑顔を向ける。
 それを見ていたパーシヴァルは自らの掌に傷をつけ、そこから青い雫を垂らして見せる。
 すると見る見る花は元気を取り戻していった。
「おお……すごいじゃないか! こんなに綺麗な花畑だからな。傷つけちゃ勿体ない」
 その様子を見ていたキヅカと朝騎は同時に「あ」と声を上げた。
「笑った」
「もしかして、パーシヴァルさんは……」
『ええ、そうなんです。私の――自慢のお花なんですよ』
 花を――その人生を。褒めて欲しかったのだろうか?
 青い光は花畑から傷を取り除いていく。
 幻想的な景色の中、ヴァイスは器に向き合う。
「自己紹介が遅れたな。俺はヴァイスだ。宜しくな、アイリス」
 花畑に風が吹く。
 新しい物語の始まりを告げる様に、甘い香りを乗せ、青空へと消えていった。

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  • ヴァイス・エリダヌスka0364

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参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 癒しへの導き手
    シュネー・シュヴァルツ(ka0352
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 誰が為の祈り
    コウ(ka3233
    人間(紅)|13才|男性|疾影士
  • 紅花瞬刃
    花厳 刹那(ka3984
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士
  • 丘精霊の配偶者
    北谷王子 朝騎(ka5818
    人間(蒼)|16才|女性|符術師

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
鬼塚 陸(ka0038
人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/11/04 17:07:30
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/11/01 08:41:05
アイコン 質問卓
北谷王子 朝騎(ka5818
人間(リアルブルー)|16才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2017/11/01 21:26:21