• 東幕

【東幕】知追う者、書庫の発掘をする

マスター:狐野径

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2017/11/14 22:00
完成日
2017/11/19 18:37

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●首をかしげる
 天ノ都を松永 光頼は外れに向かって歩く。
 【エトファリカ・ボード】の話を聞き、自宅で父に問うがさすがに知らないという。弟も首をひねるが答えがでるわけではない。
 ならば、知識が大好きで記録ため込む家に行けばいいと考えたのは必然だった。
 大江 紅葉と知り合ったのは偶然であり、東方が解放されるきっかけの非常事態の中であった。
 紅葉は都に危機が訪れていたとき、巫子でありながら持ち場を離れた。妖怪とのつながりを疑う者もあり、折衷案で武家側から見張りをつけることになった。
 それが光頼であった。結果、意外と馬が合い、武家と公家であるが互いにうまくやっていた。目を離すと危なっかしいのもいけないと考えていた。
 光頼は思い出しながら、少し口元を緩めた。
 ふと、壁や角に何かこすったような跡がいくつもあるのに気づいた。
 それも大江家の方に行くにつれて増えていく。道が狭くなったからかもしれない。
 原因――魔導トラックが壁にのめり込んでいる――だろう。
 野次馬もいる。
 ――大江の宗主さん、無事ですかね。
 ――まさか、道具を持ち込んでこれはねぇ。
 ――まあ、宗主さんが新しもの好きであの畑を耕す道具はすごく便利だたったけど。
 犯人は「やはり」彼が尋ねる人であった。急いで家に向かった。
「ごめんください」
 声をかけると使用人が飛んでくる。
「ああ、松永様でございますね。主は今……少々取り込んでおりまして」
「それより、ケガをされたとか?」
「まあ、かすり傷です……ってどこまで情報を……」
 そこで野次馬が話していたと告げると、使用人は小さく笑って肩を落とした。
「爺様の説教の最中なので、中でお待ちしていただけますか? それとも、後ほど主に行くように告げましょうか?」
「……すぐに終わるだろう?」
「はあ……わかりませぬ」
 光頼は待たせてもらうことにした。茶や茶菓子が出され、虎猫がもてなしてくれたりしつつ、小一時間待った。
 しおれた紅葉が入ってきた。
 けがをしたというより説教で疲労したほうが正しいと考えた。
「……うう」
「けがの具合はどうですか?」
「……な、なんで知っているのですか!」
 顔を真っ赤にして袖で隠した。
「魔導トラック……直せば使えるのでしょう?」
「外が壊れただけで機械部分は壊れていません!」
 そこまでひどい激突ではないと必死に告げる。
「……里まで物資を載せて運ぶつもりでしたのに」
 それ自体はいいが、まずは練習がいるということは確実だ。
 頭でわかっているが体がついて行かないのだろうなと光頼は考える。
「お待たせして申し訳ありませんでした」
「いや、虎猫が遊んでくれました」
 紅葉から嫉妬のまなざしを受けた。
「ところで紅葉殿は『エトファリカ・ボード』と言うのは知っていますか?」
「耳には挟みました。女官たちがそわそわしていましたから……でも、必要な話は回ってこないんですよね。遺失物ならこの符術師が占って進ぜよーとか? まあ、そんなにわかるのでしたら、立花院様も困らないですね」
 紅葉が好奇心を光頼に向ける。
 立花院 紫草(kz0126)が武家を前に告げた話を光頼は紅葉に話した。むやみに彼女が吹聴はしないだろうと認識はしている。一見ふわふわしている紅葉であるが、これまで彼女はしっかり渡ってきているのだ。
「そうなんですよね……小耳に挟んでから見覚えあるなぁとは思っているのですよ?」
「本当ですか!?」
「思い出せないのです。なんかあるなーと言う記憶がある記憶です」
 紅葉が必死に首をひねる。
「あっ書庫か!」
 紅葉がポンと手をたたく。光頼はこんな近くに手がかりがあったのかと驚く。
「里の、です」
 光頼の期待のまなざしに紅葉が済まなそうな顔をしている。
「歪虚に飲まれたとき、大切な大切な記録達は亡くなっていますよ?」
 紅葉が溜息をついた。こちらにある書庫は、持ち出せた大江家の家訓の冊子以外は都で買い求めたものばかりだと告げる。
「でも、書庫があったところを探すことは可能ですよね?」
「ええ」
 紅葉自身、実家の書物が残っていることは嬉しいことだ。しかし、あの荒廃っぷりを見て期待は何もしていない。
 光頼の様子を見れば「調べたいなら調べてもらった方がいい」という気になる。実際を見ないと納得しないだろう、探し物が重要な代物で宝物庫から消えたのだから。情報は喉から手が出るほど欲しいに違いない。
「分かりました。里に行きましょう」
「おおっ! ありがとう、紅葉殿」
「いえ」
「護衛兼ねた人手は幕府側とハンターを雇うことで補おう」
「……ええお願いします。あと、物資運ぶからトラックで行きたいです」
「……は?」
「トラック……」
「やめてください……危なすぎます」
 紅葉はむくれた。

●調査依頼
 光頼は依頼を出しにハンターオフィスの戸をくぐる。
「大江様の住んでいたところって、歪虚支配地域でしたよね、長い間」
 情報を書き込む職員が疑問を呈する。聞いている光頼はうなずくのみ。
「なんか、残っていると思います?」
「何も残っていないと思うが、情報はないよりあるほうがいいからな」
 光頼も期待はしていない。武家の者として何もしないのは問題だから動くのだ。
「大江家の書庫、残っていたらすごそうですね……いっそのことライブラリ使うとか?」
 光頼が職員の言葉に目を見開くが、すぐに首を横に振る。
「書庫があったとして、その一冊一冊まで記憶されているかわからないし……そこまでに到達するのに、妖怪と全力で戦うか大江の者を説得するという作業がある」
 確実性が薄い。
「まあ、里の掃除もかねてですね……ここ、虎猫の島ですから、今」
「!?」
「大江様が飼っていた虎猫からお告げをもらって、当時の半分ばかり虎猫と柴犬と驢馬を移動させたということですよ」
 このままだと動物に乗っ取られますね、と職員は苦笑した。
「では、これで出しておきますね。大江家の里大捜索。書物あったらいいなの巻」
「本気で書いたのか?」
「……冗談です」
 職員は大江家が住んでいた里の捜索の依頼を普通に登録したのだった。

リプレイ本文

●餌やりから
 エルバッハ・リオン(ka2434)は泊まっていた小屋から外に出る。海が朝の太陽に照らし出されているのが見えた。
「みゃー」
「にゃー」
 昨晩世話をした虎猫や柴犬らが島の隅に集まって何か訴えている。
「本日も手伝いますね」
 エルバッハは餌が仕舞われているところに向かって行った。

 天央 観智(ka0896)は前もって大江家の者に聞いたことから作った地図を手に、朝日に照らされる里を見つめる。
「思い出話からそれなりの地図にはなりましたが……時間が経つとあやふやになりますね」
 大江家がこの地を去り経った年月は思った以上に長かった。大江 紅葉(kz0163)に至っては子供視点であった。
 見ていると島に大江家のペットたちが集まっている。
「……たくましいですねあのペットたち……」
 呟いた後、調査をすべき書庫について確認した。

 メイム(ka2290)は泊まっていたところから出てきた。写した観智の地図と道中に紅葉から集めた情報を一晩検討した。
「陰陽師の居ってことで水に注意はしていたのに……符術師として傑出したのって当代だったというのは盲点だわ」
 それでも方位は気にしていたらしい様子はあるため、考えることは続行する。
「母屋かな……それに書物ではない気もするんだよね」
 調査ポイントを絞った。

 朝食の時、紅葉と松永 光頼はハンターの行動を考え行動指針を決める。
「別の家に収めたこともあり得ますよね」
 紅葉は島のどこかに隠すことを考えた。家があった痕跡はあっても、残っているところは皆無に近い。
「島は回ってみます」
 光頼が告げると紅葉は「墓あたりに行ってきますね」と告げた。

 朝食を食べた後、穂積 智里(ka6819)は考えている通り行動を始めた。
「本が書庫にあるという問いには違うだろうと答えます。重要な書類ならば、書庫に保存すると同時に、倉の方に置く可能性もあります」
 【エトファリカ・ボード】の話題が上がっており、武家の何かという話題なのに公家である大江家が知っている場合、良きにつけ悪きにつけ理由があるにあるに違いないと考えた。
「時間が惜しいですし、さっと行きましょう」
 気になると一直線であった。

 雪継・白亜(ka5403)は仲間が集めた前情報を手に、がれき撤去や休憩に必要な物を持って島を登っていく。何気なく見るとが、道は一本道ではなく、途中で分かれていたことがわかる。
「崩れたほうが玄関に出て、残った道が庭か……」
 歪虚支配地域になっていたころに何があったかは不明だ。そのあと、通りやすい方が道として残ったのだろう。
 途中のり面を見ると、枯れ木や土などに混ざって、建物の跡のような物が見える。
「あれが倉か」
 下から見るとちょっと怖かった。

 ハンス・ラインフェルト(ka6750)は智里が真っ直ぐ里に向かったのをもやもやしながら見つめていた。
「何でしょうね、これは……避けられているんでしょうか?」
 胸に手を当てて考えたところで避けられる理由はわからないが、彼女の性格にもあるとはなんとなくわかっている。
「まあ……ええ、まあ、なんというか……」
 笑顔であるが妙な気迫があり、周りにいた里などの復興工事をしている者たちがハンスから離れて行った。

●母屋から
 エルバッハは母屋や倉の方に行くのは危険と考え、【式符】を用いるつもりだ。
 白亜が慎重に開けたところから建物を見ている。
「申し訳ありませんが、式神で見たいので、その間、フォローしていただいてよろしいでしょうか?」
「うむ、安全第一だからな。任せてくれ」
 白亜がうなずく。近くにいた観智も「そうですね」と告げて、警戒してくれることに同意した。
 その横を考え事をしている智里が通り過ぎ、建物の中に入っていった。
 メイムは建物の様子を眺めつつ、慎重に入っていった。
(意外と皆さん、気になさらないんですね)
 彼女らもハンターであり、ただケガするだけと言うこともないだろうとエルバッハは考える。【式符】を用いてエルバッハは建物に危険がないか確認する。
 獣道のような物があるのもわかった。
 建物が崩れた結果、高いところから侵入しやすかったらしく動物たちが出入りしている様子だろう。
(虎猫たちには壊れにくくても人間だと分かりませんね)
 中に入ってみると暗いが、光が差し込んでいるところを覗き込む。
(あれは智里さんですね)
 その周囲を見られるだけ式神で見てみた。崩れそうな天井はないため撤収する。
 書庫の跡は足元が崩落したらしく完全に崩れている。一通り見て、術を解く。
「慎重に行けば問題ないようです」
 その報告に白亜と観智は保険を得たとうなずいた。

 メイムは以前も入り込んでいるが、そのあとに悪化している可能性もなくはない。エルバッハたちも近くにいる為、もしものときはどうにかなるだろうという楽観もある。
「井戸は使っているもの以外ないとかいうし……土間の方ってどうなっているのかな。部屋がいくつもあるというより、建物もいくつかあったのかな?」
 母屋の先を覗き込むが、通路の当たりで天井が崩れているのも見えた。
 そもそも全貌がおぼろげな記憶であり、平坦なところに建っていないということだけは全員一致していたようだ。
「だからこそ、地下室が作りやすかったのかもね……一応方角気にしながらも、合理主義かな。なら、その中で隠し戸を、隠し部屋を作るとなると限られてくるわけ」
 囲炉裏の近くの板をバキッと外す。明かりを近づけて中を覗く。
「行って、あんず」
 菓子を見せつつ、桜型妖精に指示を出す。
『え、何を言っているのこの人……まあ、それをくれるなら仕方がないわね』
 とでもいうのか、不満と妥協の合間に揺れ動く様子で、あんずはおそるおそるしめされた穴に入っていった。
 メイムは【ファミリアアイズ】を用いる。建物の土台としてはしっかりしている上、進んでいくと崩れず残っているところもある。あんずは入ろうとするが、脱兎のごとく逃げてきた。
「にゃん」
 メイムに飛びついたあんずの後ろから、虎猫が出てきたのだった。

●倉庫はゴミだらけ
 智里はロボットクリーナーを崩れた柱か何かの下にそっと入れる。
「倉というものは食料の備蓄にも使われますが、先代の私物や季節ごとの不用品なども仕舞ったりしますよね」
 つづらに入っているのではと考える。
 つづらが朽ちてつづらだった物に変化しているのを目の当たりにする。そうとは言ってもその中にある物がすべて駄目になるとは限らない。
「朽ちるものとそうでないものがありますね……ただ、歪虚が関連すると……」
 負のマテリアルによる劣化はまた別のものだ。
「紅葉さんの思い出の物も残っていれば……少しでも見つかれば……」
 がれきを退けつつ作業を進める。
「……あら……え、ゴミがたくさんですか」
 ロボットクリーナーは多くのごみを掃き出す。智里は有益な物はないか念のために確認した。
「倉庫だと玉石混合と思いますので……」
 ロボットクリーナーは中に入るのと智里のところに戻るので忙しかった。

●書庫の跡地
 海の風が吹く。
 水平線の彼方はどこにつながっているのだろうか―――。
 などと感傷的なことはハンスになかった。ハンスはがれきをどけつつイライラとつぶやく。
「床や屋根が腐り落ちる状態で紙が残るのか、はなはだ疑問を感じる所ですねぇ」
 噂では地下室があるとのことなため、何とか床を出そうとする。冷静に考えれば一つずつどけるのが早いのだが、イライラする彼には手っ取り早くどうにかしたいという思考が先だった。
 一瞬、大剣に手が伸びる。鞘からこすれて刃が出る音がする。
 ――わんわん。
 どこかで犬の鳴き声が聞こえる。はっと我に返った。
「ここは紅葉の生家でした」
 とはいえ、ハンス、イライラする。
 それを観智は観察していた。理由は往路での様子から推測するしかない。
「ハンスさん、まず、そこのがれきをどけましょう。それから……次は一つ片付いてから考えましょう。その方が早く片付きそうですし」
(体を動かしているほうがいい、ということもありますからね)
 観智はこのように考えていた。
 ハンスは了承した旨を告げ、行動を開始した。

 白亜はがれきを置けそうな位置を庭の隅に作っていた。母屋と倉がある方の道のくぼみ。そこが一番安定していそうだった。
「道をふさいでもだめ、風雨に負けて崩れていくのも困るな」
 ガサリ。
 何かが近寄ってくる音がしたため、白亜は銃に手をかけ警戒した。
「驢馬か……」
 驢馬は「人間か」とでもいうような目を向け、道の方に向かった。
「里……動物の島状態か」
 今度は書庫側から人が来た。
「これはどこに置きますか?」
 ハンスが大きながれきを持ってきた。
「ああ、ここに頼む。必要なら麻袋もあるから」
「そうですね……あるほうがもう少しまとめて行けますね」
 ひとまず二人は戻っていった。

●発見はあるのだろうか?
 メイムは虎猫にじゃれられた桜型妖精を眺める。
「獣道はあるのよね……」
 メイムは明かりを手に頭を突っ込む。
「あー、猫なら行けるかな……あんず、もう一回行ってみようか」
 メイムは虎猫を抱え、あやしておく。それから、もう一度、妖精に入ってもらった。今度は明かりも突っ込んだおかげで、見やすくなったらしく、妖精は進む。壁に何かないか見てもらうが、床下の隙間が猫の通り道になっているという感触以外ない。
「まさかの空振りかな」
 溜息が漏れた。

 倉は思いのほか損傷が激しかった。その上、風雨や歪虚による劣化が激しい。
「紙は残らないのですね……メイムさんが『書籍でない予感』とも言っていましたね」
 とはいえ、それらしいものもない。地下室もありそうではなかった。
「あっても崩れたときに崩壊しているかもしれません」
 ロボットクリーナーがやけに同じところに行っているのに気づいた。
「……何かあるのでしょうか?」
 智里は近づくため、上の邪魔なものをどけることにした。

 エルバッハは書庫のあったところで、がれきを袋に詰めていった。それをハンスが搬出していく。
 徐々に片付いていく。
「書庫は本当に何も残っていませんね」
 観智は大きめのがれきを隅によけ、ため息を漏らした。
「【エトファリカ・ボード】にかかわる何かが見つかればよいという希望以前の問題でしょうね」
 海を眺める。何かあってもこの建物が崩壊した時点で、風にあおられ飛んで行ってしまう。
「壁の状況からすると、この倍はあったのでしょう」
 エルバッハが壁の当たりを指さす。大江の里から人が消えた後、ここがどのようになっていたかなど誰も知らない。書庫の足元が崩れたのも自然なことではない可能性が高い。
「次はこれを運びますかね」
 戻ってきたハンスが出入り口あたりにあった物を持っていく。
「ありがとうございます、かなり早かったですよ」
 観智が告げ、エルバッハがうなずく。そのころにはハンスがいなかった。
「地下があるかもしれないですか」
 観智がほうきでゴミをどけていく。
「隙間もこれでは分かりにくいですものね」
 エルバッハも見つめる。
「……何かあるような気もしますが……」
 光の加減か見えない。
「ここでしょうか?」
 一か所隙間があったのだ。てこの原理で持ちあがるか確認をする二人。
「……開きましたね」
 中に明かりを差し入れ確認をしたのだった。

●報告会
 白亜は珈琲を淹れ、仲間に休憩を促すつもりだった。
 ハンスがごみを捨てに来たところで声をかけた。
「まだ終わっていないので……」
「いや、それだからこそだ」
 メイムが溜息つきながら出てきた。
「珈琲はどうだ? 菓子もあるぞ」
「うん、いただくよ。この子も働いたから」
「十分あるから構わない」
 白亜はメイムに珈琲の入ったカップを渡した。
「み、見つけました」
 全身ほこりまみれの智里が戻ってきたが、ハンスの剣呑な雰囲気に一歩後ろに下がった。
「え、えええ?」
「それはすごいな」
 メイムと白亜の声が重なる。
「紅葉殿を呼んでこないと」
「呼ばれましたー」
 道から紅葉と光頼と部下たちが来た。
「手がかりゼロです。お墓はさすがにないもなかったですし、残っている家とか跡にも何もなかったんですよ」
 紅葉は報告しつつ智里の方に行く。
「これです」
 手渡されたのは一振りの太刀だった。
「……これは……」
 妙な間があるため、これは手掛かりかと期待が高まる。
「……たぶん、太刀です」
「え?」
 全員の困惑の声をよそに、紅葉はこしらえを見てうなずいた。
「ああ、これは大江の紋です……誰かの持ち物です」
「いや、それは……」
「その通りだと思うけど」
 白亜とメイムが困惑の声を漏らした。
 書庫の方から観智とエルバッハがやってくる。エルバッハがもしものために持っていた保存用の箱以外は何もないようだった。しかし、二人の表情は少し興奮しているように見える。
「紅葉さん、これを」
「【エトファリカ・ボード】の手がかりではないと思うんですが」
 エルバッハと観智が告げる。
「地下室はありましたが、埋まっている部分もありましたし、安全に入れるところは限られています」
「その上で、これだけがありましたので、持ってきました。戸は閉めておきました」
 紅葉は中を見る。
 漆塗りの文箱のようだ。縄で縛られていたようだが、それは風化寸前だ。蓋を開けた瞬間、風化して消えるのは嫌だなと、紅葉はエルバッハが用意した箱の中で慎重に開けてみる。
「……あれ、白紙ですね」
 全員が確認のために覗き込む。紅葉の言う通り白紙だ。
 あぶり出しとか特殊な加工と言うこともなさそうだと紅葉がつぶやく。
「地下室、調べたいです」
 光頼が告げる。たぶん、何も出てこなさそうだが、念のために手は尽くしたかった。
「はい、良いですよ。明日にしてくださいね」
 すでに日は落ちかかっている。

 個人的な収穫はあったということで、昨日の拠点に戻っていく。
「【エトファリカ・ボード】について紙にあったとしたら、海に消えていますね」
「ひょっとしたらと期待はしていましたが、残念です」
 観智とエルバッハは仕方がないとつぶやく。寄ってきた柴犬の相手を始めた。
「宝さがしみたいだったな……。時間があるうちにスケッチをしていこう」
 手がかりはなかったのは残念でも楽しい一日ではあった。白亜は夕日に照らされる島を手早くスケッチブックに描いた。
 メイムは大江家の屋根を見上げる。
「ぼろ屋根でも屋内の完全崩壊を守っているのよねー」
 とはいえ、そろそろ更地にすべきだろうと思った。それを決めるのは主だろうけれども。
「ハンスさん、すみませんでした」
「いえいえ……私のマウジーはなぜあのような態度を取ったのか……納得できる説明をしてくれますか? いえ、納得するのは理性で、感情としては別かもしれませんが」
 智里はハンスにひたすら頭を下げていた。

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MVP一覧

  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオンka2434
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里ka6819

重体一覧

参加者一覧

  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • タホ郷に新たな血を
    メイム(ka2290
    エルフ|15才|女性|霊闘士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 冒険者
    雪継・白亜(ka5403
    人間(紅)|14才|女性|猟撃士
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルト(ka6750
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
エルバッハ・リオン(ka2434
エルフ|12才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/11/14 07:47:10
アイコン 【質問卓】
メイム(ka2290
エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2017/11/13 20:49:43
アイコン プレ公開
メイム(ka2290
エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2017/11/13 20:51:28
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/11/12 23:29:17