雨の夜に

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/11/28 09:00
完成日
2014/12/01 10:48

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 その夜、雨が降っていた。
 都市部を離れたこの地域では月影や星明かりだけが頼りだ。それらが雲に隠されれば一寸先も見えぬ闇で覆われている。 
「父ちゃん、大丈夫かな」
 羊飼いの少年は暖炉に薪をくべながら、壁越しに聞こえる雨音を聞き取りながら、そう呟いた。
 羊の様子が気になるから、と父親が雨の中、カンテラを持って出かけたのは数時間前だ。
 この地域は地盤が固く穀物はあまり育たない。海もないし、主要な幹線道路からも離れている。そんな場所だからできる産業は牧畜が主となる。ゾンネンシュトラール帝国では主産業の一つだが、この地域の羊はお世辞にも良質とはいえない。毛は少ないし、肉も固い。
「クリームヒルト様が推してくれたからってなぁ。頑張りすぎだよ」
 少年はため息をついた。羊は不肖なれど愛すべき家族。そういう感覚があった。それはきっと父親も同じだ。
 そんな羊の評価を高めようと旧帝国の姫であるクリームヒルトは奔走してくれた。そのおかげで羊達の評価は少し見直されている。それに応えようと父親はこうした雨の夜でも羊達の面倒を見に出かけることは増えた。
「……にしても、遅いな」
 どうせ見えはしないのだが、雨戸をちらりと開けて、少年は外を見やった。
 ……?
 雨音に混じって、違う音がした。足音?
「怪我したかな。ったく、俺には羊は怯えさせたら暴れるから気を付けろっていうのにさ。こんな真っ暗な中で動けば、そりゃ驚かすだろうさ」
 仕方のない父親だ。といいつつ、少年は速やかに包帯と薬草を取ろうと戸棚へ走るのと同時に、玄関から湿った冷たい空気が流れ込んでくる。その方向をちらりと少年が見やるより早く、声が響いた。
「逃げろっ!」
「!」
 玄関から響いたのは父親の声だ。だが、遥かに遠い。では玄関にいるのは?
 少年は身を凍りつかせた。怪我をしている男、というのは想像の範囲だったが、腕が半分もげおち、臓器をひきずりながら歩く様子など誰が想像できようか。その奥にいるのが父親だろう。こちらからではほとんど見えないが、血まみれの腕が動く人間の残骸を引き留めようとしているようだった。
「逃げろっ! 早くっ!!」
 父親の言葉に重なるように、怨嗟の呻きが聞こえる。一つじゃない。
 少年は父親の押しとどめも気にせず、人間だったものが進んでくる。少年はすぐさま裏口へと走った。なぜこんなのが襲ってきたのか、どこに逃げるのか、父親をどうやって助けるのか、考えはとめどないが、迷っている暇はなかった。
 裏口からすぐさま厩へと走り、繋いであった馬に飛び乗った。雨は冷たく、地面を打つ音で包まれる中に紛れていくつもの断末魔が聞こえる。それでも馬の腹を蹴って少年は走った。
 早く、早く。

「どうしたの? 大丈夫?」
 体温を奪われて、体もうまく動かない。今どこに向かっているのか、時間はどれほど経ったのかもわからない混濁した意識の中で、少年を助けたのは。かつて羊飼いの父親に救いの手を差し伸べた女性、クリームヒルトだった。
「あら、あなた……羊飼いさんのところの子ね?」
「姫様……! 父ちゃんが、羊達が!」
 凍えて口もまともに動かせなかったが、それでも少年はクリームヒルトにしがみつき、懇願した。だが、クリームヒルトの傍にいたでっぷりとした男はその懇願を聞いて眉間にしわを寄せるばかりか、クリームヒルトと少年の間に割って入る。
「なりませぬぞ、クリームヒルト様。どんな危険があるかわかりませぬ」
「危険だから、行かなきゃならないんじゃないの。ハンターにお願いするわ」
「どんな敵が、しかもどんな数で、目的は。それが判らずしてハンターをどう雇うというのです。我々の落ち度でハンターが無用な怪我すれば、我々にもその責を負わねばなりませぬぞ。ましてや、クリームヒルト様はこれから旧帝国民の拠り所とならねばならぬのです。それにこれからの活動に必要な資金源の確保に我々は方々に出向く最中で」
「アウグスト!」
 太った男、アウグストの言葉を断ち切ってクリームヒルトは叱責した。
「人の拠り所となるなら、まず人を重んじることでしょう! 落ち度だのなんだのは後で考えることじゃない? わたしはこの子を介抱するから、アウグストはハンターオフィスへ行きなさい。お出会いする予定の先方には手紙を出しておいて」
「クリームヒルト様。そんな勝手は……」
「人の命以上に大切なものがあるなら教えてほしいわ。いい? 私は人々の為にある。一人でもそれをないがしろにはしない」
 有無を言わせぬ気迫でそう言うとクリームヒルトは羽織っていた外套を少年にかぶせ、自らの乗っていた馬車に案内した。アウグストは少々複雑そうな視線を送っていたが、断固とした調子のクリームヒルトの動作に諦めたのか、少年の乗っていた馬によいしょっと跨った。
「それでは行ってまいります。クリームヒルト様、王道を進むには、時に取捨選択も必要になるのですぞ。どうぞお忘れなく……」
 その声は届かなかったのか、あえて聞き流したのかはわからないが、クリームヒルトは少年に肩を貸しつつ、そのまま馬車の中へと入って行った。

「安心して。私が付いているから」
 クリームヒルトは朦朧とする少年に向かってそう囁いた。

リプレイ本文

●麓
 眼前に広がる雄大な山の斜面は冬が近づいているせいか枯れ草や岩肌をのぞかせて茶けて見える。着こんでいても冬の冷たい風が胸の中をすくような寒々しさと風の音が寂静とした世界を思わせた。
「生物の気配がしないな……鳥の鳴き声すら聞こえやしねえ」
 自分たちが草を踏み分ける音だけが響き、ライオット(ka2545)は居心地の悪さを感じていた。少年の家へと急いだ組の姿は遥か先の斜面を登っていたが、しっかりと視界に収められている。先に行った仲間に手を振ったルナ・レンフィールド(ka1565)は不安に顔を曇らせた。
「これだけ視界が開けているというのに、襲撃が気付けなかったのは……先日の雨のせい、だからなのかな」
「生存者がいれば、それもわかるかもしれませんね」
 アリオーシュ・アルセイデス(ka3164)の言葉に、一同は静かに頷いた。早速一同は、家の扉を片っ端から叩いて回る。
「大丈夫か? 助けに来たぞ」
 ライオットはそう言いながら、扉を叩いた。扉は鍵が壊されているようで、ノックの勢いで半開きになってしまった。そこから僅かに香る血の臭い。ライオットは思わず顔をしかめた。
「随分と抵抗した跡はありますね」
 ひどい有様だった。木で作った内装に血飛沫があちこちに飛んでいた。足元で乾いて黒くなった血だまりの中には手斧と共に、腐った腕や臓物が転げ落ちているのをアリオーシュは見つけた。刃は肉の細切れが付着している。
「誰か、いるか……?」
 ライオットは武器を抜き放ちながら、もう一度声をかけた。その声に反応してか台所であろう場所から物音がした。アリオーシュも魔法に集中しながらライオットと目を合わせて、台所に飛び込んだ。
 誰もいない。多少荒らされたような形跡はあるが、動く姿は見受けられなかった。
「誰か……いるのか?」
 その声に置いてあった瓶がかすかに揺れた。アリオーシュがそっと近づき、瓶の蓋を開けると、真っ青になって震える子供の頭が見えた。
「もう、大丈夫ですよ。助けに来ました」
 優しいアリオーシュの言葉にようやく金縛りの呪縛が解け、わっと泣き出した。
「生存している人は隣の大きな家に集まってもらっています。行きましょうか」
 アリオーシュが子供を抱き上げた時、家の外を見回っていたルナの警告の声と同時に勝手口の戸に何か叩きつけられる音が響いた。
「風の音よ。遥か天空より舞い降りて大地を叩いて。強く(フォルテ)!!」
 ライオットが走り、勝手口の戸にかかっていた閂(かんぬき)を外した。それと同時に戸に叩きつけられたものがズルリ、と戸をの隙間から倒れこんできた。
「やっぱりゾンビか!」
 ゾンビが身じろぎした。まだ動くつもりのようだ。しかし、起き上がることは叶わなかった。そのままライオットの刀が振り下ろされたからだ。
「まだあちこちにいるみたい!!」
「アリオーシュ、子供を頼んだぜ。先にゾンビを片付けてくらぁ」
 そしてライオットは駆け出して行った。

「ホットミルクだよ。熱いから気を付けてね」
 ゾンビを倒している最中も、次々と生存者が見つかると、村長の家か貴族の別荘なのであろう家に、彼らを運び込んではアルフィ(ka3254)が身も心も温まる飲み物を差し出して、落ち着いてもらうことに努めていた。
「だいたい確認は終わりました……」
 ルナは疲れた表情で戻ってくると、玄関ロビーでへたり込んだ。覚醒によって現れる演奏記号の数も数が減り、間もなく彼女の覚醒状態も限界にきているこが窺える。
「そっか、お疲れ様っ。ルナにもミルク入れるね。……大変だったね」
「羊の数が全然少ないの。ここに運んだ人と同じくらいの数かな。逃げたのもいるかもしれないけど、あちこちに血の跡がいっぱいだったから、多分……」
「村人もそうだな、死体がほとんどない。ゾンビらしいのはいくつか見つけたが……」
 争った形跡はどの家に行っても見られた。だが、村人と判別できる死体は一つもなかった。あるのは赤と黒の血糊だけ。アウトローを行くライオットですら、不可解さと凄惨な現場を連続で見ているうちに顔も心も強張るのを感じていた。
「ゾンビもそこそこいましたが、村を襲えるような数でもありませんでした。倒された数を入れても、それでも少ないですね」
 死体も消え、ゾンビも消え。戦いの跡だけ残る。アリオーシュの中で苛立ちと悲しみが迫上がってくるのを感じていた。薄気味悪い謀り事の臭いが漂う。
「落ち着いたら、皆さんに話を聞いてみましょう。もう少し何かわかるかもしれません」
「わかった! それじゃね、みんなが落ち着けるようにがんばらなきゃね!」
 アリオーシュの言葉を聞いて、アルフィは腕まくりをした。怪我人の治療や、暖炉の火の管理、毛布の運び込みなどやることはたくさんある。そんなアルフィの姿を見て、アリオーシュは頑なだった顔に僅かに微笑みを浮かべた。
「無理をしてはいけませんよ? そこそこに休息はとってくださいね」
「ありがとっ! お互いさまにね!!」
 アルフィの天使のような輝く微笑みが一同の心を癒してくれた。 

●少年の家
 ゾンビの爪がダリオ・パステリ(ka2363)のレザーアーマーに突き刺さったが、ヒヨス・アマミヤ(ka1403)のストーンアーマーの力を受け砂岩をまとうレザーアーマーを突き通すことはかなわなかった。
「斬り捨て御免!」
 ダリオはゾンビを蹴り飛ばして距離を取り、そのまま一刀両断に切り伏せた。その背に別のゾンビが襲い掛かる。が、素早くユリアン(ka1664)がそのゾンビに足払いをかけて体勢を崩させ、たたらを踏むゾンビの側面からバゼラードを一閃した。
「敵はお頭さんだけじゃないんだぜ?」
 しかし、痛覚もなければ衝撃も感じないゾンビは首をえぐられても動き、一矢報いようとユリアンに腕を伸ばす。しかしすぐさまその手の平と喉元、そして家の床をまとめて縫いとめるかのようにしてリアリュール(ka2003)の矢が突き刺さる。
 羊飼いやここの羊達とは知己であったリアリュールは弓を構えたまま、気持ちを落ち着けるように軽く息を吐き出した。物事には執着はしない方だが、この惨状を目の当たりにするとどうしても感情が波立ってしまう。そんなリアリュールのなだめるようにヒヨスは肩に手を当てる間にダリオがゆっくりと武器を構えなおしもう一度剣を振るった。
「これで、だいたい片付いたかな」
 ユリアンは腐汁と肉で汚れたバゼラードの汚れを軽く拭き取りながら、室内の様子を確認した。少年の家の中を徘徊していたゾンビ達は密なる連携によりロビーに引きつけられてまとめて倒すことに成功した。
「少年のお父様もヘルトシープも……どこへ消えたのかしら」
 ゾンビの襲撃をかいくぐりながらだが、少年の家の確認はとうに終わっていた。しかし少年の父親の姿はなく、そして飼っていたはずの羊、ヘルトシープと命名されたブランドの羊達も一匹残らず消え去っていた。残っているのはやはり戦いの跡だけだ。静寂がユリアンの心を騒がせる。
「どこかへ移動させられたのか? ……足跡を辿るべきかもしれないな。血の跡もあるし、追跡はできるかもしれないな」
「ふむ……降った雨が厄介でござるな。室内はこうして痕跡もあるが、外は雨で痕跡が流れているやもしれぬ」
 ダリスの言葉にヒヨスは首を傾げた。
「この村、襲撃された経験ってないよね。抵抗した様子はあるけど安易に侵入されているし。意図的に狙われた可能性が高いかも。そしたら雨の日に襲われたのも理由があると思う!」
 ヒヨスの言葉に皆は今一度家の様子を確認した。確かに扉は錠はなく、ひどく簡便なものだった。室内では痕跡は見つけられたが、確かに外からその様子はほとんど感じられなかった。不気味な静けさが胸に暗雲を垂れこめさせていたが、一同はこの村に到着した時から直感的におかしいことを悟っていたが、それが事前にクリームヒルトから聞いていたことで、歪虚がいると先入観をもっているからだと思っていた。歪虚は村を襲い、傍目からでは気づかれないように外の痕跡を雨を使って消していたのだ。
「雨は物音に気付きにくくする。視界も悪くなるし、雨が上がれば痕跡は薄れ……そしてごまかし程度にゾンビを放置すれば、痕跡は混乱する」
「計画性の高い犯行だな。ここに生存者はいないことはわかった……外を確認しようか」
 そういえば今の戦いで、室内は自分たちとゾンビの戦いの痕跡が色濃く残った。その前の様子はどうだった? 記憶が、かすれる。村を襲った計画者は自分たちの行動も織り込んでいたのではないか思うと、誰もが気持ち悪さを覚えてしまう。
「とりあえず、外に出て何かしら痕跡が残ってないかすぐ調べるのだ! 山からの風が強いところだし、痕跡があってもすぐ消されちゃうかもだし!」
 ヒヨスの提案に皆は外へ出て行った。

●推測と報告と
「羊、ヘルトシープはいなくなっていました……痕跡は少なかったですが、引きずった跡がありました。どこかに運ばれたんだと思います。だからこの事件は……裏がいます」
 クリームヒルトの待つ家で、ハンター達は帰って報告をしていた。少年はまだ高熱を出して目を覚ましていないということで、クリームヒルトとその従者であるアウグストの二人が簡単ながらもディナーを用意してハンターの報告を聞いていた。
「ヘルトシープの数が元々どれくらいいたのかはわからなかったけど、羊はほぼ全滅。森の中に何頭か逃げ込んでいるのは保護したけど……」
 リアリュールの報告にクリームヒルトはうつむいた。そして、ゆっくりと顔を上げた時にはもう泣きそうな顔だった。
「ごめんね……リアリュールさんには、あの羊を売り込むお手伝いもしてもらったのに……」
「それはいいんです。でも被害を見るに、羊飼いや羊を中心に狙っている様子でした。生存者のほとんどは女性や子供ばかりでした。……ヘルトシープというブランドがついて、それに対する嫌がらせかもって思ったんですけど」
「牧畜の世界はわからないけれど、そんなことでゾンビを襲わせたりするなんて、ありえないわ」
 リアリュールの言葉にクリームヒルトは首を振った。報告と推測が事実なら、誰かが歪虚と手を組んでヘルトシープというブランドを潰しに来たことになる。
「うん、そもそもヘルトシープって一回プロモーションしただけだよね。普通の羊並に売れるようにはなったみたいだけど、実際そんなに市場に影響を与えるようなものでもないみたいだし、競合相手もいないんだよね。でも被害の激しいのはやっぱり羊で8割り方が行方不明。あと人間。主に羊飼いの男性がほとんどいなくなってることから、絶対に関係はあると思うんだけど……ヘルトシープに関係している人って思い出せる?」
「うむ、状況を確認しておると、どうもゾンビは羊を主に狙っており、それに気付いた羊飼いが出てきたところ、それも襲ったように思う。人間に対する被害はかなり少のうござった。羊に関連を当てた方がいいでござるな」
 ヒヨスのダリオの意見にクリームヒルトは視線を天井に向けた。
「同業者の羊飼いさんとか、商人さんとかかしら。何度かお会いしていたんだけど、独自路線のブランドを立ち上げたことに他の人達にも喜んでもらえているって話を聞いているわ。これを軌道に乗せるのに頑張るって、私達もお金を出したりとか広告したりとかして応援していたのよ。ね、アウグスト」
「そうですな。事業が成功すれば、有力な資金源にもなります故、投資しておりましたが……まあ大した成長も見込めませんでしたが、こんなことになるとは。全く、やれやれです」
 アウグストはそう言いつつ、川魚の塩焼きを頭からかじった。残念そうな表情とは裏腹に豪快な食べっぷりだ。それを横目で見たクリームヒルトがこほん、と咳払いをしてさりげなく注意する。
「それで、ヘルトシープは引きずられていったって言ってたけど。その意図もよくわからないわ」
「引きずった跡を追跡したら森の方へ消えていました。跡は消えかけていましたけれど、枯れ草が折れたり、血が付着していたのでそれを中心に探しました。痕跡は森の入り口で消えていたんですけれど……」
 ルナは少しだけ、口をつぐんだ。
「代わりに、不思議な模様の轍(わだち、車輪の跡)が残っていました」
「不思議な模様?」
「馬車の轍って直線ですよね。でもそれはギザギザになっていて、それも短い間にいくつも並んでいるんです」
 ルナが空中に指で、その形を再現したのを見て、この中で唯一リアルブルー生まれのヒヨスがああ、と声を上げた。
「それ、タイヤ痕じゃないかな。車って、馬車より遥かに重いから足を取られないように、そんな溝を掘っているんだよ」
 その言葉にユリアンは、あ、と声を漏らした。
「魔導車か魔導トラックじゃないかな。前にちらっと見た気がする」
 辺境の民との折衝役をしている女性が乗り回していたことユリアンはふと思い出した。
「なら大量の羊や人間を載せるんなら、トラックかもしれねぇな……って」
「襲撃もそこからだと類推されています。生存者の聞き込みから襲撃時刻を割り出しましたが、確かに下から襲撃されています。ゾンビは魔導トラックと共にやって来たと考えられますね。しかし魔導トラックとなると」
「はーい、ボク知ってる! 魔導トラックって帝国で使われているんだよね」
 ライオットとアリオーシュがある可能性に気付いて語尾を弱める中、アルフィの無邪気な言葉が響いた。気まずい空気をアリオーシュがさらりと払う。
「……黒幕は帝国の関係者、とはいえませんよ。トラックを奪うことだってできますし、ゾンビを改造する技術を考えればトラックくらいどうってことないでしょう」
「いや、可能性は高いですぞ。我々は現勢力とは真っ向から戦っておるわけですし」
 アウグストはチーズを噛み千切りながらそう言った。クリームヒルトは革命が起こる前、旧体制における姫であり、彼女を支援するのはほとんど旧帝国の勢力だ。
「そんな! だって今も帝国は主に歪虚と戦っているじゃないの」
「自作自演だとしたら? 戦争は帝国にとっては主産業といってもいい。戦いのない世界では現帝国は役に立てませんからな」
 ルナの反論にもアウグストの意見は止まらなかった。やがて静かな沈黙の帳が落ちる。
「確定してないことをあれこれ話し合っても仕方ないわ。それより羊もあの子のお父さんもどこかに連れ去られたんだよね。まだ、これからわかることがあるかもしれない。何か手がかりが見つかったらお願いするね。今回はありがとう」
 クリームヒルトは沈黙を破って立ち上がると、そう言って、ハンター達に深々と頭を下げた。姫と呼ばれる割には本当に頭の低い人だ、と思う。

 外はまた雨が降り始めていた。

依頼結果

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 爛漫少女
    ヒヨス・アマミヤ(ka1403
    人間(蒼)|16才|女性|魔術師
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • よき羊飼い
    リアリュール(ka2003
    エルフ|17才|女性|猟撃士
  • 帝国の猟犬
    ダリオ・パステリ(ka2363
    人間(紅)|28才|男性|闘狩人

  • ライオット(ka2545
    人間(紅)|30才|男性|疾影士
  • 誓いの守護者
    アリオーシュ・アルセイデス(ka3164
    人間(紅)|20才|男性|聖導士
  • 星々をつなぐ光
    アルフィ(ka3254
    エルフ|12才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓です!
ルナ・レンフィールド(ka1565
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2014/11/28 07:52:21
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/11/25 07:27:16
アイコン クリームヒルトさんに質問
ユリアン・クレティエ(ka1664
人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2014/11/26 09:38:31