• 天誓

【天誓】黙せよ、君の言葉

マスター:朝臣あむ

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/12/06 22:00
完成日
2017/12/19 21:59

このシナリオは4日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「私が1つの機械を作っている間に四大精霊サンデルマンはこんなにも多くの精霊を……」
 コロッセオに集められた精霊らを見回し、リーゼロッテは自らが持つ魔導機械『イデアール』に目を落とした。
 イデアールはリーゼロッテが作った精霊を保護する魔導機械で、ハンターとナサニエルの協力を得て量産する事に成功した代物だ。その性能はサンデルマンのそれに似てはいるが規模には大きな差がある。
「……もしかしたら私がしてることは無駄なのかもしれませんね」
 きっと、今回の作戦が切っ掛けでリーゼロッテの願いは叶うだろう。
 歪虚化した錬魔院前院長に会うという目的が、この魔導機械を作り出す切っ掛けとなった。
 これを用いて精霊を一か所に集めて前院長の出現場所を限定する。そうして上手く顔を合わせることが出来た時、リーゼロッテはある事を聞くつもりでいた。
「そろそろハンターの皆さんも集まる頃です。クリスタさん……貴方を連れて行けない事を改めて謝罪しておきます。ごめんなさい」
『構わぬよ。それよりも、大丈夫かね?』
 イデアールに納められた鉱石の精霊『クリスタ』は、そう声をかけると心配そうにリーゼロッテを見上げた。
「私自身は覚醒者ではないので戦う力はありませんが、今回はバンデさんが助けて下さると言う事なので大丈夫だと思います」
『そうなんですよー! ナサ君が長めに防壁張れるようにしてくれたですー!』
 そういう事ではない。そう頭を振るもののきっと彼女もわかっているのだろう。それでも敢えて違う言葉を口にするというのならこれ以上追及する訳にもいかない。
 クリスタはリーゼロッテの杖の宝石に封じられている精霊『バンデ』に目を向けると、やれやれと言った様子で息を吐いた。
『バンデや。確かにあの坊主は凄かったが、アレには精霊に対する敬意と言うものが感じられぬ。あの者をそのまま信用するのは如何かと思うぞ?』
『むー? でもでもーナサ君はリーゼちゃんのおとうとだしー良い子ですよー! リーゼちゃんもそう思うですよねー?』
「え……ええ、そうですね。あの子は良い子だと思いますよ……ええ……とても」
 幼い頃、リーゼロッテに錬金術の素晴らしさを教えてくれたのはナサニエルだ。
 彼がいなければリーゼロッテがこうして錬金術の道に行く事はなかったかもしれない。だが同時に彼がいなければ失わずに済んだものもあったかもしれない。
「……今度こそ行きますね。クリスタさんはペリドと一緒にコロッセオの中にいて下さい」
 そう告げると、リーゼロッテはバンデと共にコロッセオを後にした。

●???
 手足が凍える中、リーゼロッテは魔導照明を手に錬魔院の通路を歩いていた。
「……、……」
(こんな夜遅くに人の声?)
 錬魔院の中にはたくさんの研究者がいる。中には夜通し研究に没頭する者もいるが、そうした者は研究室に篭ったまま出て来ないことが多い。
 それを考えると誰かがいること自体が珍しいことなのだが……。
(せっかくだし、誰が話しているのか見に行ってみようかな。可能なら私も少しお話に混ぜてもらおう)
 研究に煮詰まって部屋を出た彼女にとって雑談相手が出来るのは良い気分転換になる。
 だからこの時は素直に話に混ぜてもらおうと思っていたのだ。
「誰かいるんですか……?」
 そう声をかけた直後、彼女の目は驚きと恐怖に見開かれた。
 通路に倒れる血だらけの女性をリーゼロッテは良く知っている。
 彼女は……彼女は――。


 騒がしくなるコロッセオの外に、佇む女性が1人いる。
 三角帽を被った魔女のような出で立ちの女性は、前錬魔院院長のフロイデ・カロッサだ。
 彼女はリーゼロッテの姿を見止めると、嬉しそうに微笑んで両手を広げて見せた。
「うふふ、そこに集められた精霊はみ~んなリーゼちゃんが集めたのかしらぁ~?」
「……貴女なら、私の力だけでこれだけのことが出来るはずがないとわかっているはずです……そしてあそこに『誰』がいるのかも」
「あそこにいるのは四大精霊サンデルマンで~精霊を集めたのは彼ね~。でもぉ~お義母さんはリーゼちゃんが頑張って精霊を集めようとしていたことをちゃ~んと知ってるのよ~?」
「……ではその理由もわかっていますか?」
 勿論。そう言いたげに微笑みを深くしたフロイデにリーゼロッテの表情が僅かにだが歪んだ。
「リーゼちゃんは私に会いたかったのよねぇ~? 私と研究をする気になったの~? それともナサ君をくれる気になったのかしらぁ?」
「あの子には貴女が現れた事も伝えていません」
「ふふ。そうね~。それが良いわぁ」
 そう言葉を切ったフロイデは懐かしそうな目でリーゼロッテの杖を見ると、スッと手を掲げて宝石に照準を合わせた。
「っ、バンデさん、障壁を!」
 急ぎ組み上げられる透明な壁に負のマテリアルの波動が激突する。
 以前ならこの1回でバンデは力尽きたが今回は違うようだ。未だに障壁を展開したままの様子から、この後もリーゼロッテを守ってくれると見える。
「その力……ナサくんかしらぁ? あの子、また力をつけたのねぇ」
 クスクスと笑いながらコロッセオを見る彼女にリーゼロッテが叫ぶ。
「あの子の所には行かせません! それに、私は貴女に聞きたことがあるんです!」
 珍しくハッキリと、強い口調で放った声にフロイデの目が楽し気に細められる。
「聞きたいことぉ? 何かしら~」
「……私はあの時の記憶が定かではありません。でもなんとなく覚えているんです。貴女は……貴女は誰かに殺された。そしてその相手は――」
「うふふ、リーゼちゃんったら怒ると可愛い顔をするのねぇ~♪」
「ごまかさないで下さい!」
 叫ぶように放たれた声にフロイデの笑みが鎮まる。
 そしてリーゼロッテと同席したハンターを見やると何かを思いついたように黒い杖を出現させた。
「なら賭けをしましょう~。方法は少しの間だけ私と闘うの~。それで~あなた達が私を止めきることが出来たらぁ、私はリーゼちゃんの質問に答えて帰ってあげる~。でもそれが出来なかったら~、私はナサくんに会って、彼を連れて行くわ~」
「それは……私の一存では……」
 フロイデの戦闘データーは以前目にした以外に存在しない。そもそもあの杖を取り出した後、彼女がどういった攻撃をするか判明していないのだ。
「ふふ、悩んでいる間に私は行くわよ~? もし止めるのならおいでなさい~♪」
 フロイデはそう囁くと地面を蹴って戦闘態勢に入った。

リプレイ本文

 フロイデの申し出を聞いていたハンター達に『逃げる』の文字はなかった。
 彼らはリーゼロッテの安全を確認すると、すぐさま戦闘準備に取り掛かように各々の役割を意識して飛び出した。
「うふふ、良いわぁ~そうでなければつまらないもの~」
 まずフロイデの目に飛び込んだのは、前衛を務めると決めたであろう万歳丸(ka5665)とミュオ(ka1308)の姿だ。
 彼らは守原 有希遥(ka4729)のマテリアルを分けてもらうことで防御面を強化すると、皆を守る様に飛び出してきた。特に顕著だったのはミュオだ。
 彼は大鎌を手にフロイデの前に飛び出すと、有希遥の加護の他に自らのマテリアルでも防御を強化して攻撃に備えた。
「良いわ~その期待に応えてあげる~」
 両手に出現した黒の波動を1つに纏め、彼女は目前に迫るミュオと万歳丸に向けて放つ。
 初めは真っ直ぐに2人へ向かっていた波動が軌道を変えたのは、万歳丸がミュオの後ろへ下がろうとした時だ。
「やっぱりかァ!」
 変化球くらいは予想済み。そう声を上げる万歳丸は、後方に向けて地面を蹴り上げる事でミュオとの距離を取る。そうする事で彼に波動を任せようとしたのだが、想像以上に彼女の攻撃は粘着質だったようだ。
「まさか追従型? ……万歳丸さん、こっちへ!」
 自身の範囲内であれば攻撃対象をシフトチェンジできる。そう声を上げたミュオに万歳丸が進路方向を変える。
 彼はミュオの射程に飛び込みながら盾を構えて予備策を講じる。そうして万歳丸が足を止めた時、ガウスジェイルが発動されて黒の波動はミュオに向けて突っ込んでいった。
「あらぁ~健気ねぇ~。でもその技にその効果は~あまり意味がないわぁ~」
 黒の波動がミュオにぶつかると同時に弾け、攻撃を受けたミュオは勿論のこと、傍にいた万歳丸にも生命力を削られたような脱力感が襲い掛かる。
「っ、力が……」
「アァ、間違いねェ……あの球は当たればマテリアルを持ってかれる。しかも厄介なのは、周りにいる奴も巻き込むってェ事だ……」
 しかも心なしか、前よりもダメージが大きい気がする。
 それは何故か。以前と今とで違うのはダメージを受けている人数だが……。
「大丈夫ですか? 今治療します!」
 思考を遮る様に降って来た光に万歳丸がハッとする。
 そう、今回はダメージをこまめに回復する事も必要だ。彼は回復に飛び込んできてくれたリラ(ka5679)に礼を告げると、未だ不明点の多いフロイデの技と彼女自身に目を向けた。
「可愛い坊やの言う通り~私のエーストハルプは周りにいる人も巻き込んで爆発する技よ~……でもぉ、それだけではないのよ~?」
「来るぞ!」
 まるで自らの技を研究させるかのように再び黒の波動を集めだした彼女に、コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)が声を上げながら引き金を引く。
 コンバージェンスでマテリアルを収束させた彼女の弾は、攻撃に転じようとするフロイデの手を確実に撃ち抜いた。
 噴き上がる鮮血と中途半端に放たれた波動。
 それらが神楽(ka2032)の放つライトニングボルトとぶつかると、黒の波動は風船の様に弾けて散って消えた。その時、一瞬だがフロイデの表情が変化したのを傍にいたミュオが確認していた。
「もしかしてあの技はあの人にも……」
 確実な情報でない故、もう1度試す必要はあるが今回は短期決着を目的として動くと決めている。
 ならば試行錯誤するよりも確実にダメージを与えていく方を選ぶ。
「万歳丸さん、出来る限り僕の範囲にいてください。では、行きます!」
 ミュオはそう言いながら再び自らの防御面で強化して飛び出す。これで再び戦場が動き出すのだが、ここで思わぬ質問が飛んできた。
「先生、質問です」
 間合いに踏み込み、大鎌を振り上げながら放たれた言葉にフロイデの口から僅かな笑い声がこぼれる。
「質問~? 答えられるものなら答えてあげるわ~」
 何かしら。そう首を傾げる彼女にミュオが問う。
「あなたがその気になれば僕たちを蹴散らして現院長さんに会いに行けますし、あるいは、あなたなら現院長の方から会いに来させることも可能なはずです。なのに、そうしないのは何故でしょう?」
 手の傷を舐めながら言葉を聞いたフロイデは、再度踏み込みと同時に斬り込まれた大鎌を交わして微笑む。そしてコーネリアの畳みかけるような射撃を回避して十分な距離を取ると、彼女は再び黒の波動を集めて放った。
 今回黒の波動が狙うのはリーゼロッテの傍に戻ったリラだ。
「バンデさん、リーゼロッテさんの防御をお願いします。私は私の考えがあっているか、試してみます!」
 そう言って迫る波動を受ける気配を見せると、大きく息を吸い込み自らの手にマテリアルを集中させた。
 そしてある程度の距離にまで波動が迫ると、集めたマテリアルを一気に放つ。
「気功波か……あれなら確かに安全かもしれないな。後は攻撃が効くかだが……」
 リラが放った気功波は、有希遥が見守る中で黒の波動と衝突し、空中に四散した。だが狙い通りいったのはここまで。
「!」
 距離を取ったというのに襲ってきた脱力感にリラの目が見開かれる。
 幸いなことにリーゼロッテには何のダメージも無いようで、彼女は祈るように胸の前に手を組んでハンター達の戦いを見詰めている。
「……今ので、技の範囲がわかりました」
 彼女――フロイデの放つ波動は気功波による相殺では射程外に逃れる事はできない。
 しかし、すぐ傍にいたリーゼロッテの立ち位置まで影響は及んでいない。
 それらを集約してわかるのは、黒の波動は気功波とほぼ同じ範囲を持っていると言うことだ。
「……あとは属性もわかれば良かったのですが……ちょっと、ダメージが……」
 グラリと揺れた体。それを自身の足で支えながら大きく息を吸い込むと、フロイデの次なる動きが目に飛び込んで来た。
「フン、いけ好かない奴だ」
 幾度となく放つ攻撃の精度は良いにも拘らず、容易に避けられてしまうそれらにコーネリアの中に苛立ちが浮かぶ。
 そもそも歪虚と対峙していると言うだけで彼女の中では大きな葛藤が生まれるのだ。
 過去に歪虚が与えた精神的苦痛――妹の死という現実を思い出すだけで全ての歪虚を葬り去りたくなる。だがその衝動を抑えて戦うのが今回の任務だ。
 ただ憎むだけではなく、倒す為の策を探す。そしてその為の布石を今は撃ち続ける。
「……必ずこの場で正体を明かす。いつまでも正体不明のままでいられると思うなよ」
 次々と撃ち込まれる弾丸を回避しながら、フロイデは次なる攻撃に出るために杖を出現させた。これに警戒の色を強めたのは神楽と万歳丸だ。
 特に神楽はフロイデの見せる技にある歪虚を重ねて見ているらしく、それと同じ技を使うのではないかと警戒している。と、そんな彼に笑みを深めつつ、フロイデは魔方陣を地面に落とした。
「消えた……?」
 地面に触れると同時に消えた魔方陣に緊張が走る。そして次に聞こえた声に全員の足がピタリと止まった。
「さぁ~、魔方陣の場所は覚えたかしらぁ~。もし忘れて踏んでしまうと~どっかぁ~んって爆発しちゃうわよ~?」
「地雷っすか。でも踏まなければ良いっすよね? ならこうすれば良いっす!」
 そう雷撃を放った神楽にフロイデが楽しそうに飛び上がる。そうして軽やかな身のこなしで被弾を回避すると、彼女は手にしていた杖を神楽の足元に向けて放った。
「へ? 何で武器を投げるっす? え???」
「消えた魔方陣は踏めば爆発するけど~踏まなければ別の攻撃を誘発するのよ~。だから~爆発をさせて攻撃を止めるか~爆発させずに次の攻撃を受けるか~決めないとダメね~」
 次の攻撃が何なのか。それは問うまでもなく地面に突き刺さった杖が媒体だろう。
 そしてその攻撃の規模や内容が不明な以上、ただ黙って時を待つ訳にはいかない。そもそも今回は時間との勝負なのだ。
「合点いった、だから時間指定やらをしてきたか……」
 呟く有希遥はフロイデが落とした杖に視線を向ける。
 神楽が先程から抜こうと試行錯誤しているが、どうやら抜く事は出来ないらしい。そして彼の様子を見るに杖を壊すにも至難の業と見た。
 つまり今回ばかりはフロイデの言う方法で彼女の攻撃を受ける必要があるようだ。
 そしてここまで見せられた彼女の技から考えるに、この戦いは初めからフロイデ優位だったことがわかる。彼女は時間を稼ぐ術を持ち、効率良くダメージを与える術を持っていた。
 だがハンターとてここで策を講じる事を止めるわけがない。
「……僕が受けます」
 ミュオはそう言うと自らの防御面を強化、それに倣って神楽も自らにリジェネーションを付与すると万歳丸が待ってましたとばかりにスコーンを齧って腕を回した。
「危険っすがやるしかないっすね」
「行けるぜェ」
 彼らの動きは他の仲間達への合図にもなった。
 これから反撃に出る。そう言外に見せた行動に有希遥が届く限りのマテリアルを彼らに飛ばし、コーネリアは最高の一瞬を狙うためにマテリアルを集中させる。そしてリラはこれから傷を負うであろう仲間を支援する為に意識を集中させる。
 そして――
「――行きます!」
 まず1つ目の地雷をミュオが踏んだ。そして次の地雷を神楽が。
 次々と爆発されてゆく地雷は計5個。そのどれもが大きなダメージではないものの、リラは回復の手を伸ばして仲間のダメージを最小限に抑えてゆく。
 そうして最後の1つにミュオの足が触れた時、万歳丸から合図が来た。
「怪力無双、万歳丸の全力ゥ……見せてやらァッ!」
「行くっすよ~!」
 万歳丸の正面に回り込んだ神楽は、万歳丸を対象に入れてライトニングボルトを放つ。
 万歳丸はその攻撃を自らの体で受け止め、自らの氣として取り込むと一気にフロイデの元に踏み込んだ。
 強烈な勢いで叩き込まれる拳を目で追える者はおらず、フロイデもまた攻撃を受け止める他ない。
「――!」
 悲鳴はなかった。ただ拳が叩き込まれる度に彼女の足が下がり、それを追う様に万歳丸の足が動く。そして十五連打。その全てが打ち込まれると、フロイデの膝が地面に落ちた。
「勝負あった……か」
 万歳丸の攻撃の後、更なる反撃を見込んで銃口を向けていたコーネリア。そんな彼女の言葉を耳に、万歳丸の腕が下りた。
「……リーゼロッテの勝ち、ってことで良いか?」
 敵の前で膝を折るということは敗北を認めたと言うことだろう。
 歪虚もそうかというのは別として、彼女が元の約束を守るのであれば今がその時だと判断して問いかけた。
 それに対してフロイデは、唇に滲んだ血らしきものを拭って「良いわぁ。今のは痛かったもの」と微笑みながら頷いた。


「ッたく、これだから歪虚ってヤツはァッ!」
 リーゼロッテの心情やらなんやらを考えて、律儀に動きを止めた自分を悔やみつつ、万歳丸は吐き捨てるように叫んでそっぽを向いた。
 フロイデのダメージは外見上伺い知ることが出来ない。
 戦闘を止めた様子から判断するにかなりのダメージを受けているはずなのだが……。
「あのぉ……差し出がましいっすが、前院長の事を知った時のワカメの反応は怖いっすけど、黙ってたのがバレても怖いんで言った方がいいと思うっすよ? 家族の問題じゃないっすか」
 フロイデの答えを待つ間、不意に神楽が囁いた言葉にリーゼロッテの表情が強張る。
 だが彼女が何か言う前にフロイデがこう切り出した。
「言えないわよね……だって~、私を殺したのはナサくんだものぉ~」
 ザワッと場の空気が凍り付くような感覚が広がった。
 中には「やはり」という思いを抱く者もいただろうが、リーゼロッテ以上にその言葉を真っ直ぐ受け止めた者はいないだろう。
「リーゼちゃん。貴女はず~っとそう思っていたのよね? お義母さんを殺したのはナサくんだって~ずぅ~っと疑ってた。だから、あの子と距離を取っていたし~錬魔院を去った。あとねぇ~お義母さんとナサくんを会わせたくないのも~あの子にこれ以上の罪を背負って欲しくないから~、でしょ?」
 うふふ。と笑って首を傾げる彼女に否定の言葉は返って来ない。
 代わりに静かな吐息を共にリーゼロッテの声が零れる。
「私はあの子の姉です。あの子が悪いことをしたら叱るし、良いことをしたら褒めます」
 そしてそのような存在になる事を願ったのは他でもないフロイデだ。だからリーゼロッテはその約束を守るべくずっと色々なものを抱えて来た。
「でも……でも、何の証拠もなくあの子を責める事はしたくないんです。……私だけはあの子の味方でいたいから」
 この言葉には多くの意味が含まれている。
 その意味の1つを、妹という存在がいたコーネリアが汲み取って彼女の肩を優しく叩く。
「……まだ言わないつもりか?」
「はい。今はまだ『歪虚』の証言しかありません。ですから、その証言が正しいものであり、あの子の犯した罪が確かなものであるとわかったら……その時は、あの子と正面から向き合います」
 そうか。そう苦笑を滲ませるコーネリアはそれ以上何も言わない。
 代わりにフロイデがリーゼロッテの言葉を叩き切る。
「本っ当、甘いわぁ~♪ でもぉ~、その甘さがリーゼちゃんの良いところなの~。ねえ、リーゼちゃん。人間が歪虚になる方法って、知ってる~?」
「人間が歪虚になるには――……あれ?」
 答えを導こうとして何かが引っ掛かった。
 フロイデは一度死んでいる。それは葬儀に参列し、埋葬まで見届けたリーゼロッテが言うのだから間違いない。
 では彼女は堕落者なのか? そうであるなら彼女を導く歪虚は誰だ?
「あはは! リーゼちゃんってば賢い子ね~♪ 良いわ良いわ良いわぁ~♪ お義母さん楽しくなってきちゃった。だから今回も時間をあ・げ・る♪」
「え? ちょっと待ーー」
 待って。そう手を伸ばした直後、フロイデは姿を消した。
 後に残されたリーゼロッテに神楽が問う。
「前院長は堕落者で、オルクスの眷属じゃないんっすか?」
 吸血鬼の資質があるのならそうである可能性が高い。だがリーゼロッテには何故か「そうである」と断定する事は出来なかった。それはたぶん……。
「……気になってるのは前院長の言葉、か。精霊研究の権威ってのも引っ掛かる点だな」
 そう、有希遥の言うように前院長は精霊研究を続けて来た人物で、彼女があのような問いを投げるということはきっと何かがあるということだ。
「前院長の研究……もう一度見直してみる必要がありそうです」
 リーゼロッテはそう零すと、義弟がいるであろうコロッセオを振り返った。

 後日、ミュオからフロイデに関するレポートが届いた。
 主な内容は彼女の攻撃手段に関してで、これらは今後の対策に役立つ事だろう。

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MVP一覧

  • 純粋若葉
    ミュオka1308
  • パティの相棒
    万歳丸ka5665

重体一覧

参加者一覧

  • 純粋若葉
    ミュオ(ka1308
    ドワーフ|13才|男性|闘狩人
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • 紅蓮の鬼刃
    守原 有希遥(ka4729
    人間(蒼)|19才|男性|舞刀士
  • パティの相棒
    万歳丸(ka5665
    鬼|17才|男性|格闘士
  • 想いの奏で手
    リラ(ka5679
    人間(紅)|16才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/12/02 21:50:19
アイコン リーゼさんへの質問室
守原 有希遥(ka4729
人間(リアルブルー)|19才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2017/12/03 18:45:35
アイコン 対フロイデ作戦室
守原 有希遥(ka4729
人間(リアルブルー)|19才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2017/12/06 08:44:36