• 天誓

【天誓】僕なんてただの絶火の騎士ですよー

マスター:窓林檎

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/12/18 19:00
完成日
2017/12/27 19:30

みんなの思い出

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オープニング

 いやー僕なんてそんな、帝国の民衆を無辜救済した絶火の騎士ってだけなんだけどなー。
 内心で照れ照れしながら、僕は集落伝統の作法、『無辜救済の構え』で皆の前に顕現遊ばしていた。誰だよ、こんなふくらはぎに著しい負担がかかる構え考えた奴。この姿勢で数時間顕現遊ばされる祖神の身にもなってよ。僕ってお姉さま方に可愛がられそうな美少年な見た目なんだからね。「始祖様が憂い震えておられる!」とか感極まる人いるけど、ただの児童虐待だよ。後でこむら返りで悶絶ですよ、こちとら。
「ああ、我らが慈悲深き開闢の始祖たるリューグナー様、どうか、我ら無辜たる民に救済の光をぉ!」
 あー駄目だよおじいちゃん、そんな跪いてガンガン頭を地面についちゃ。最近夕ご飯を二回要求する頻度が増えて、お孫さんも呆れ返るボケっぷりだからって、集落の皆さんを導く首長さんなんだから。僕も主にふくらはぎが辛いけど、頑張ってニコニコしてるんですから。
「ああ、光をぉ! 光をぉおおおおぉぉぉおおおぉぉおん!」
 いや、なんだよ最後の鳴き声。鳴きたいのは僕のふくらはぎだよ。
 こんな感じで集落の皆さん、跪いて、泣いたり、叫んだり、拝んだり、白目を剥いて泡を吹いて痙攣したりして、僕に祈ってるわけです。
「いや、誰か介抱してあげてよ、泡吹いてる人……」
 でも僕なんて、たかがコボルドの大軍団を討伐して、帝国を救済しただけの凡人ですからね。
 昔ちょっと絶火の騎士をかじってたくらいで、無辜救済なんて実際、誰にでも出来ますわー。
 でもまあ、分からなくもないですよ。僕という絶火の騎士な藁に縋って無辜救済を祈っちゃう気持ちも。
「リューグナー様? ……おおっ! 始祖様が復活の奇跡を起こし遊ばされたぞ! リューグナー様ばんざーい!」
 泡拭いてた人を『無辜救済ハンド』で介抱してあげた僕は、万歳三唱を背にスタスタと簡素な物見櫓を駆け上る。
「マジですか、って感じだなあ……」
 思わずそう呟いた僕の眼下、粗末な囲いの向こう側、深く樹々が生い茂る森の中を、土色肌の二足歩行――動く死体の大群が集落を囲むように近づいて来て、もう間もなく囲いに辿り着く。
「囲いもどんだけ持つかなぁ。皆、ロクに手入れしてないし……」
 全く、可愛いくらいに平和ボケだよ。
「奴らがすぐそこまで来てるぞぉ!」
「ああああ! 死にたくないぃ!」
「怖いよー! 助けてよー!」
 阿鼻叫喚。高台から眺める、振り返った先の様子。
 こんな状況でも、逃げ出すことも立ち向かうことも出来ない辺りがらしいなあ。
 そんな皆の祈りだから、僕みたいな奴が顕現したんだろうね。
「ああ、リューグナー様あぁ!」
「って言うけどさあ」
 皆だって分かってるんでしょ? 僕、インチキですから。なんだよ、無辜救済って、絶火の騎士って、無辜救済ハンドって。僕はただの、『私達の開祖はこうあって欲しい』って思いから誕生したインチキ英霊ですー。僕が絶火の騎士? 皆はその末裔? 少しはおかしいって思おうよ。そんなんだからこんな状況でも、僕に縋り付くしか出来ないんじゃない?
「始祖様?」
 首長おじいちゃんのキョトンとした表情。
 実際そう言えたら、僕ももっと楽に英雄出来るんだろうけどさー。
 言えないよ。僕、皆のこと大好きだから。本当は僕も、皆のこと守りたいから。
 こんな絶火の騎士ってだけの、無辜救済だけが取り柄の――そういった全部が嘘っぱちだと、薄々気づいた上で僕に祈ってくれる皆のことを。
 だから――。
「かつもおぉく!」
 皆を見下ろす高台から、『無辜救済の構え』と共にご神託遊ばされる始祖様――僕。
 山の奥深くに、有り物でご飯作るかー、みたいなノリで作られた感じのちっちゃな集落――僕を始祖として崇め奉る集落。
 昔とった杵柄で、絶火の騎士として英霊を、無辜救済をさせて貰ってる――始祖『無辜救済の騎士・リューグナー』。
 遺憾ながらも滅亡の危機に瀕してる集落の皆を、僕自身で絶望の底に叩き落とすことだけはしてはいけないんだ。
 その使命を思えば、ふくらはぎへの著しい負荷も頑張って耐えちゃうもんね!
「とりま、祈っちゃってくださあい! 僕は無辜救済のリュ」
「皆聞いてくれえ!」
 ええぇ空気読んでよ……。
 そんな僕の思いを他所に、入口で門番をやっていた青年が、まるで無辜救済されたような晴れやかな笑顔で叫んだ。
「ハンターだ! ハンターが、助けに来てくれたぞぉ!」

 ※

「よく分からないな」
 資料に目を通した男は首を横に振った。その表情は、異世界文明の交通整理の様を表象した組み体操を見せられた直後のように、釈然としない表情だった。
 彼は、物静かな青年のような、老成した壮年のような、掴みどころのない男性職員だ。
「万人に慈悲を与え、全てを魅了し、傷が癒え、万病が治り、作物が豊作となり、永遠の幸福を約束され……」
 職員は朗々とその資料を音読する。その音読は完璧過ぎる余り、逆に白々しい印象を与えた。
「ねえ、掛け算もろくに出来ない連中ばかり集まった反政府的集団による偽史だって、これよりはマシな嘘を拵えるさ」
 しかし、悲しいことに、これが『十一人目の絶火の騎士』を名乗る『無辜救済の騎士・リューグナー』の伝承なんだ。
 やれやれ、と呟きながら職員は首を横に振った。
「ナイトハルトの騒動のことは聞いているね? 奴の主な狙いは『絶火の騎士』の英霊だ。奴は貪欲な大型犬のように精霊を取り込み、力を蓄えようとしている」
 例えそれが、明らかな偽の『絶火の騎士』の英霊でもね。
 職員は大げさに肩を竦める。
「目下最大の脅威が、少しでも戦力を増強する事態は避けねばならない。きみたちには直ちに、当該英霊のいる集落に向かい、保護して貰いたい」
 それにしても……と、職員は資料の続きを読む。
「『十一人目の絶火の騎士』の自称は論外だが、初代北部辺境伯の時代に、リューグナーなる男が率いる一隊が、ゴボルドの大軍を討伐した事例は本当にあったらしい。古代王国の英雄なる『ファルシュ』の使命を帯びた下級の貴族を自称したようだが、実際は脱走兵の集まりで、戦線とは全く関係ない地域を彷徨いていたところを、偶然大軍に遭遇した……というのが定説だそうだ」
 だが少なくとも、彼を慕った者たちが起こした集落があり、長年に渡り伝承されているわけだ……。
「しかし、歪んだ伝承が、それを唱え続ける人々の心に、影を落としていなければいいが、と僕なんかは思ってしまうわけだが……」
 想像力は、良くも悪くも、自由で自在だ。
 この地から宇宙を想像するのも想像力なら――思い描いた宇宙の有様が人を飲み込むのも、想像力の業なんだ。
「実際問題、そのような歪みが英霊の影となって、保護に支障をきたす可能性はあり得る。その点は実際的に留意して貰いたいかな。以上を踏まえた上で本案件を受けるなら、契約書にサインをお願いしたい。ピース」

リプレイ本文

「俺はリュー。リュー・グランフェストだ。よろしくな」
「おお、まさに英雄の風格!」
 北門から入ったハンターの一人、リュー・グランフェスト(ka2419)の名乗りに集落が湧く。
 ……僕、存在を忘れられてるね。ニコニコ明鏡止水の心境で、皆を見下ろす僕。
「英雄と言えば、ここには英霊がいるそうですね?」
「リューグナーさんって言うんですよね?」
「ああ、あれですか」
 英霊をあれ呼ばわり!
 日下 菜摘(ka0881)と羊谷 めい(ka0669)の質問を受けた僕は、皆の前に降り立つ。
「えー十一人目の絶火の騎士をさせて頂いております、『無辜救済の騎士・リューグナー』と申します。どうか貧弱な僕に代わり……」
「君――いや、『君たち』のことは分かった」
 鮮烈な赤色の麗人、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が、『無辜救済平身低頭』でペコペコ頭を下げる僕と皆を見渡した。
 彼女も含め、ハンターの表情は何故か渋い。
「さて、改めて状況を確認したい」
「実はかくかくしかじかでー」
「やはりゾンビが集落を包囲しているのですね」
 小麦色のクールメガネガールことメアリ・ロイド(ka6633)が、『無辜救済略式伝達』を完璧に意訳してくれた。
「リューグナー君、皆にこれを」
 そう言ってアルトが渡したのは……機械?
「それはトランシーバーだよ! 使い方は……」
 人のいい笑顔と手取り足取りな指導を、時音 ざくろ(ka1250)から賜る――これでざくろが女の子ならなぁ!
「危険を犯す必要はないが、何かあれば連絡して欲しい」
「では、非力な僕に代わり――」
「リューグナー君――キミは彼らに信じられているよ」
 …………。
「アルトさん、どうされました、突然?」
「奥底の本当の部分では、君を信じたいはずだ」
 つまり今、君が彼らに対し思うことこそが、彼らの本当の想いだよ。
「…………」
 振り返った先の、何かに縋って生きる集落の皆。
 作り物の藁である僕じゃなく、ハンターという藁に縋り付こうとする皆。
 僕が――彼らに『信じられている』?
「知ったような」
「それに」
「すんません調子乗りましたぁ! ――え?」
 目前に迫ったアルトに『無辜救済全面降伏』を決めた僕は、お茶目な笑顔と共に何かを手渡された。
「敵の目当ては君だ」
 それは一振りの短剣――絶火刃。
「仮に君が目立って可能な限り敵を集めてくれるならば、村人を助けやすくなる」
「あの――」
「私は反対側に周る」
 舞い上がる炎の鳥――爆裂する焔。
 炎の鳥を纏うアルトが、残像をも吹き飛ばす爆走で北門から南門まで駆け抜け、紅の鋼糸を繰って塀を越えた。
「ゑ?」
 ポカーンと棒立ちな僕。
「ねえ、リューグナー」
 そんな僕の肩を叩いたざくろの微笑みは、それはもうキラキラと輝いていた。
「一緒に集落の人達を護ろうね」

 ※

「無辜救済しか取り柄のない僕は後方に周るべきであり十一人目の絶火の騎士と言えど勇猛果敢は慎むべきで――」
 アルトの爆裂瞬間移動を皮切りに、戦端を開いたハンターたち。
 南門のアルトを始め、西門をざくろ、東門をリュー、北門を日下とメアリが守り――。
「援護します!」
 羊谷が北門の見張り台から雷撃を閃かせ、ゾンビを吹き飛ばす。
 彼女は集落内の防衛と各門見張り台からの遊撃だ――問題は、何故か僕がそれに同行中なこと。
「ありがとよ、めいちゃん――吹き飛べぇ!」
「ここは通しません!」
 メアリが機械杖から三筋の光線を撃ち放ち、日下がゾンビの頭部にメイスを一閃。
「性格変わりすぎだろ、メアリさん」
 小麦色のクールメガネガールどこ行ったし。日下もゾンビ撲殺しててめっちゃ怖い。
「じゃ、じゃあ次――」
「リューグナーさん」
 羊谷が、僕を引き止める。
「皆のことを、守りたいんですよね?」
 …………。
「ですから僕は無辜救済しか――」
「リューグナーさんはご自身の力が『インチキ』だと思ってらしてるのですよね?」
 ……なんだよ、さっきから。
「語り継がれていく上で、美化され、変化していくこともあるでしょう、でも――」
「あのさぁ」
 ご指摘の通り僕はインチキでございまして。つまり僕は紛い物の英雄様(笑)で、ハリボテの類なんです。それを何? 守りたい? 信じられている? 美化されすぎ、変化しすぎだよ。
「仮にも英霊となられたほどの方が何を躊躇っておられるのです!」
 ゾンビに対峙する熱い背中を向けて日下が叫ぶ。
「ここで座して、民草を危険に晒そうというのですか!」
 だから僕がインチキだから、あんたらに頼ってんじゃん。
「こいつらほっぽって何処へなりとも行けるのに、あんたは逃げてない」
 その心意気だけで充分、と小麦色のパッションメガネガールと化したメアリが笑う。
「人に必要としてもらえてるうちが花だ。堂々と英雄でいりゃあ良い」
 皆はただ、縋るものが欲しいだけだよ。
「リューグナーさん、一体何に怒っていらしてるのですか?」
 わたしに? 集落の皆に? それとも、自分に?
「例え美化や脚色があっても、それでも『はじまり』がなければ語られることもないのです」
 気がつけば僕は、拳を強く握りしめていた。
「あなたのはじまりは、事実から脚色されたものだったとしても、あなたによって救われたひとは確かにいるのです」
「……れ」
「みなさんを救いたいと願うその心と、それを叶えられる力があなたには――」
「黙れ!」
 無辜救済の騎士にあるまじきボルテージで、僕は怒鳴りつけた。
「知ったようなことを言うな!」
 一瞬、悲壮な表情を浮かべて――羊谷は、深く頭を下げた。
「ごめんなさい、傷つけてしまいました」
 インチキどころかサイテイかよ、僕。

 ※

「立て! 無辜救済の騎士・リューグナー!」
 東門の見張り台に着くなり、振り返ったリューが叫ぶ。
「ここにいた民を、アンタが救ったのは間違いなく事実なんだ――それを誇らないで何を誇る!」
 てか立ってるし。『無辜救済二足歩行』だし。
「俺も人が好きだから、誰も見ていない所で、人を守る為に戦ったこの英雄を尊敬する!」
「リューさん後ろ!」
「邪魔すんな!」
 背後から迫るゾンビを、リューは振り向き様に胴切りにした。
「だから、一緒に戦ってくれよ、英雄!」
 あのさ。無辜救済しか取り柄のない僕でも、思うところありますよ。
 返り血を浴びて、肩で息をして、ゾンビの大群に立ちふさがる姿を見れば。
 そんな皆様に尊敬されて、僕は光栄過ぎて照れ照れですよ。
 でもいくら皆様に尊敬されてもさぁ、当の僕はインチキで――守りたい相手は僕の正体を察してさぁ!
「リューグナー君!」
 大呼――南門の見張り台から僕の眼を射るアルトの視線。
「私は言ったぞ、君は信じられていると!」
 僕が一体何に怒っているか?
「それを信じられないのは、君が自分を信じていないからだろう!」
「うるせえんだよ! 寄ってたかって僕より英雄っぽいこと言いやがって!」
 インチキで無力な英雄様(笑)でしかない、自分自身にだよっ!
「信じられてないインチキ英雄の惨めさは、あんたらに分からねえよ!」
 失望の嘆息、失意の視線――僕は偽りの英雄、ハリボテの英霊――。
「一緒じゃないですか」
 震える声色――哀しみを帯びた怒り。
「貴方たちも、自分を信じてないじゃないですか!」
 見張り台から身を乗り出して、集落の人たちに羊谷が叫ぶ。
「集落のみなさんは、リューグナーさんに救いを求めているというのに、彼を心から信じていないのですか?」
 気まずそうに、静まり返る集落。
「なぜ彼に縋りたいと思ったのか、忘れてしまっているのではないでしょうか――そんなのってひどいです!」
 何故僕たちは偽り、ここまで来てしまったのだろう。
「わたし、本当は戦うことは嫌いです。それでも、誰かを守りたい、癒やしたいって、自分の心に祈ったから!」
 それでもその始まり、その思いはきっと偽りじゃない。
 例え、僕の存在が偽りでも――
「だから、まず何より自分自身に祈ってください! リューグナーさんも、リューグナーさんを信じるみなさんも!」
 ――皆を守りたいという思いを、偽りにしてはいけない。
 それを偽りにしないのは、僕の祈り――僕の力だ!
「めいちゃん」
 僕はポンっと、彼女の頭を撫でた。
「ふへっ! な、なんですか?」
「いやあ、その、ありがとです……」
 惚れてまうやろ。
「え? なんて――」
「かつもおぉく!」
 僕は羊谷の前に出て、(借り物だけど)絶火刃を掲げて、集落の皆にご神託遊ばす。
「とりま、祈っちゃってくださあい! 僕は今」
「助けてリューグナー!」
 ええぇ天丼かよ……。
「予想以上にゾンビの数が――リューグナー、どうかその真の力を今!」
 その叫びは西門、ざくろのものだった。

 ※

「ざくろさぁん! とりまそっち向かいまぁす!」
 爆裂瞬間移動には及ばないが――『無辜救済全力疾走』!
「うあああああ!」
「おお! 始祖様が雄叫びをあげながら名状し難い表情で疾駆遊ばされている!」
「始祖様ばんざーい! ……あっ、今開けますね」
 門番の青年が、まるで無辜救済されたような晴れやかな笑顔で門を開ける。
「ぼぼぼ僕が相手だかかかってこい!」
 めっちゃ噛んじゃったけど、門から飛び出した僕はゾンビに絶火の刃を突き立てた。
「やったか? やったぁ! 僕の無辜救済絶火刃が」
「リューグナー! 後ろ後ろ!」
「うわぁこっち来てるぅ!」
 後に僕の能力だと知るわけだけど――ゾンビの大群が僕に釣られて押し寄せてきたのだ。
「はわー! やっぱり僕に英霊は――」
「何言ってるんだよ!」
 ビビる僕に、ざくろが叱責。
「英霊になれている事、その事実がとっても珍しくて凄い力の証なんだよ!」
 そこは卑下しないけどぉ!
「リューグナーにはそれだけの秘めた力がある、ざくろはそう信じてるよ――だって戦隊の六人目なんだから!」
「なんの話だよぉ!」
 僕は向かってくるゾンビを斬って斬って斬って――?
「あれ?」
 ゾンビたち、弱い?
「だからみんなも――」
『始祖さまぁ!』『ばんざーい!』『どうかこの集落に光を!』
 ざくろの声と共に響くトランシーバー越しの皆の声。
『始祖様、もう迷いませんぞ。私たちは己の意志で祈ります!』
「首長様……」
 まあ、あれ呼ばわりしたのは根に持つけど。
「大丈夫です、絶火の騎士な僕がついてますから!」
 トランシーバー越しに力強く宣言する。すると。
「リューグナー! 今なにかした?」
「何って、『無辜救済激励』くらいしか……」
「ゾンビの攻撃が全然効かなくなったよ!」
 ゾンビを取り押さえる際に攻撃を受けたざくろだったが――ビクともしない。
「やっぱりリューグナーは凄いんだよ! ばんざーい!」
「いや、そんな――」
「ありがとうございます、リューグナー様」
 その時、僕の目の前でゾンビが粉微塵に吹き飛んだ。
「なに今の!」
「リューグナー様のお陰で、私は真の力に目覚めたのです。ちなみに北門は片付きました」
「細かいことは気にするな。お前らも吹っ飛びやがれ!」
 何か物騒な魔法陣を展開する日下に、炎を放射し拡散するメアリ。
「私もリューグナー君のお陰で真の力に目覚めたぞ。ちなみに南門は片付いた」
「よっしゃあ! 一緒に戦おうぜ! 東門は以下略!」
 アルトが爆裂瞬間移動の勢いでゾンビを蹴散らし。
 リューが大龍をも貫く程の突撃でゾンビを一掃する。
「……薄々気づいてたけどさ」
 君たち強すぎ。正直引くわー。
「僕だって負けないぞ! くらえ拡散ヒートレイ!」
「リューグナーさん」
 『僕のお陰で真の力が覚醒した』一行による殺戮ショーが繰り広げられる中、羊谷が僕の隣で微笑んだ。
「貴方が、この集落を救ったんです」
「そうかなあ?」
 だってこれ。
「ところで、リューグナーさんは戦わないんですか?」
「え? いやもう」
「ほら、皆さんも」
『いけー! 負けるな始祖さまぁ!』
「分かったよもう」
「一緒に頑張りましょうね」
 流石に彼らには負けますけど――それでも英霊として。
「ぶっちゃけ凄いの撃てそうだし」
 それは、僕の中に漠然と浮かんできた名前。
 断言するけど、これもきっとインチキだ。
 それでも――僕の『元ネタ』は、多分この名前に祈りを込めたような気がするから。
「――ファルシュ様」
 絶火の刃に、過剰なまでに眩い光が灯る。その光は収束し――開放を待っている。
「どうか僕に皆を救う力を――くらえぇ!」
 僕はその光の刃を――。

 ※

「ですからこれは、真の力を解放しすぎた反動で」
「ふふーん! そういうのいいから、無辜救済しちゃいますよー!」
「始祖様が快癒の奇跡を起こされたぞ! ばんざーい!」
 『僕のお陰で覚醒した真の力』の反動で弱っていた日下を、僕が無辜救済する。
「しかし、なぜ彼らはいちいち万歳をするのでしょう。若さ故の過ちでしょうか?」
「それくらいリューグナーが愛されてるってことだよ」
 首を傾げるメアリ(小麦色のクールメガネガールに戻ってる)と苦笑するざくろ。
「さて、リューグナー君」
 日下を無辜救済してほくほくな僕に、アルトが向き合った。
「率直に言おう。ぼくたちは君を保護しにきた」
 というわけで、僕はアルトに状況を――ナイトハルトの騒動のことを聞かされた。
「狙いがお前である以上、ここに残ると集落が危険に晒されることになるぜ?」
 リューの言う通りだとは思うけど……。
「始祖様」
 その時、僕の横に首長様が寄り添ってきた。
「どうか、皆をお守り下さいませ」
 やっぱりこうなるよなー。いくらこの人からあれ呼ばわりされても――。
「帝国の皆様を――ナイトハルトの手から」
 ……あれ?
「そうだ! 今こそ始祖様の出番だ!」
「どうかそのお力を、帝国中にお示しください!」
「リューグナー様ばんざーい! 無辜救済ばんざーい!」
 ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい!
「リューグナーさん」
 羊谷が僕の手を取り、万歳をする皆の方へと手を広げる。
「貴方が、この集落を救ったんです」
 ……ああ。なんか、分かった気がする。
 ぶっちゃけ、僕はインチキだよ。そんな僕は、僕を必要とする皆は、本当に弱くって。
 それでも――救いを求める祈りは、きっと自分自身の心の奥底から発せられるものだから。
 だからこそ、届くんだ、繋がるんだ。誰かに救われることで――救われた自分が誰かを救うことで。
「ふふーん! しょーがないですねー!」
 だから僕は、きっと英雄になれる。例え『元ネタ』とは違っても――それ故に、きっと誰かを無辜救済出来る。
「皆様のご期待にお応えして、僕、帝国に無辜救済旋風を巻き起こしちゃいますからねー! 泣いても笑っても止まりませんよー!」
 そしたら、ちゃんと誇れるかな、誇ってくれるかな――僕を、『無辜救済の騎士・リューグナー』を。
 集落の皆が、万歳を繰り返す。その合唱――救いだけは、インチキじゃない、僕の、僕たち自身のものだった。

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MVP一覧

  • Sanctuary
    羊谷 めいka0669
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろka1250

重体一覧

参加者一覧

  • Sanctuary
    羊谷 めい(ka0669
    人間(蒼)|15才|女性|聖導士
  • 冥土へと還す鎮魂歌
    日下 菜摘(ka0881
    人間(蒼)|24才|女性|聖導士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 天使にはなれなくて
    メアリ・ロイド(ka6633
    人間(蒼)|24才|女性|機導師

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/12/14 19:15:38
アイコン 相談卓:どうか彼に皆を救う力を
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
人間(クリムゾンウェスト)|21才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/12/18 18:37:44