• 陶曲

【陶曲】そして、永遠は物語り(下-1巻)

マスター:のどか

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
3~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/01/06 07:30
完成日
2018/01/21 02:06

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●怪異の伝導
 依頼の資料をまとめながら、ルミ・ヘヴンズドア(kz0060)は先ほど相談に来た老人のことを思い返していた。
 変な人だったな――と言うのは依頼人に対して失礼なので流石に口には出せなかったが、そう思うことくらいは彼女の中での自由だろう。
 何が変か。
 そう聞かれると弱ったものはある。
 少なくとも人の形となりはしていたし、別に魚面というわけでもない。
 ただ、依頼を頼みに来たにしては肝心の村のことに関してはあまり語ることはせず、淡々と状況だけを伝えて帰っていった。
 ただ、どこか余所余所しさというか、終始辺りを人を気にするように視線を泳がせたり、ずいぶんと貧乏ゆすりが過ぎたり、しきりに骨ばったしわしわの指を揉んでいたりと……なにぶん落ち着きがない様子がなんとも目に付く。
 声もおどおどとしているわけではないのだが小さく聞き取りづらく、なおかつぶっきらぼうで、焦っているような怒っているような、なんともいえない様子を感じさせる。
 都市から大きく離れた集落特有の、なんというか排他的な空気をそれだけでもひしひしと感じていたわけだが、それでもわざわざこうしてオフィスを訪ねて村のために依頼を出して行く姿を見れば、少なくとも悪い人ではないんだろうなと思うことはできた。
「でも、やっぱり変な人でしたね」
 抑えられずに思わず口にしてから、はっとして辺りをちらりと見渡す。
 誰も聞いていなかったのを確認して、彼女は息をついた。
 どんなに変だったとしても依頼は依頼だ。
 しかも、内容からするに最近の同盟周辺の怪異事件と関係があるのは明白である。
 それを肝に銘じながら、仕上げた依頼書をチェックするように再び目を通した。
 
 その漁村に異変があったのは半月ほど前のこと。
 陸の孤島のような寂れた村では、月に1度だけ家々の持ち回りで、村中から頼まれた必需品や嗜好品を買ってくるためポルトワールの中心街へと向かう習わしがあった。
 そんな役を、今月はとある若い漁師が担う。
 彼が大きなリヤカーを引いて街へと向かい、帰って来たのはよかったが――その晩、事件は起こった。
 大役を終えて久しぶりの家族団欒、ゆっくりと冬の夜を過ごしていたさ中に彼は発狂した。
 騒ぎを聞いて駆け付けた近隣住民に取り押さえられる中で見た、その真っ赤に染まった瞳は今でもはっきり覚えているという。
 それからというもの、まるで感染症のように村のあちこちで狂気の発症事件が相次いだ。
 それまで静かなことだけが取り柄であった村の中に、夜な夜な老若男女問わない人々の叫びがこだまする。
 やがてそれぞれの家々で面倒を見切れる状態ではないと判断した村長は、患者たちを一時的に寄り合い所へ集め――隔離し、こうしてオフィスを頼って来たというわけだ。

「ヴァリオスの件もありますし、何事もないと良いですケド」
 煮え切らない想いを抱きながらも、資料に担当者のサインを入れようとしてそのペンが止まった。
「……村長さんの名前聞くの忘れてた。まっ、いっか☆」
 笑顔でサインを入れて、依頼はオフィスに張り出される。

●海沿いの漁村
「えっとぉ……ここ、みたいですね~」
 柵の傍に車を止めたフィオーレは、手にした地図をダッシュボードの上に投げながら凝り固まった背筋をうんと伸ばしてみせた。
 それからガラスごしに目の前に広がる村の光景を見て、小さくため息をつき――隣で唸る上司の姿を見て、もう一度小さくため息をつく。
「大丈夫ですぅ?」
 相も変わらすグロッキー状態のアンナ=リーナ・エスト(kz0108)は、助手席のドアにもたれ掛かりながら、手の平だけふらふらと宙を彷徨わせて返事をする。
「すまない……少し休めば大丈夫だ」
「なら、良いんですけれど~」
 ピョンと車から飛び降りて、彼女はもう一度辺りの風景に視線を巡らせる。
 周囲を海と山に囲まれたその姿はまさしく陸の孤島と呼ぶのにふさわしい。
 昼間だが村の中に人通りはなく、入り江に点在する僅かな家々からもくもくと暖の煙だけが立ち上る。
 それらを山の枯れ木が取り囲む姿は、この町だけが世界から取り残されているかのようにも感じさせた。
「……行こうか、時間が惜しい」
 バタンと扉の音が聞こえて視線を向けると、げっそりとした表情のアンナが荷台から愛用のアタッシュケースを取り出している。
 声を掛けても良かったのだが、それがどれほど意味のあることか。
 フィオーレは何も言わずに運転席に手を突っ込むと、先ほど投げた地図を引っ張り出した。
 4人だったエスト隊も残りは2人。
 入院中の2人のためにも、この事件は解決しなければならないのだ。
 いくら世間知らずの箱入り娘だからといって、仮にも他2人よりも年長者である彼女もそのくらいのことは分かっている。
 それに解決がきっとバンの容体を良くしてくれると――そんな淡い希望を持たずには、彼女はこうしていられなかった。
「目標は海沿いの方みたいですね~。ここからは歩いて行きましょう」
「ああ……」
 先導するフィオーレに付き添う形で、2人は閑散とした村へと足を踏み入れる。
 冷たい潮風が、容赦なく彼女らの間を吹き抜けていった。

リプレイ本文


 羊皮紙を受け取って、リリア・ノヴィドール(ka3056)とアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は視線を落とす。
「主人が今回、特別に買い出しを頼まれたのはそれで全部のはずです。他には、毎回決まった個数を必ず買って来る日用品くらいしか」
 伏し目がちに言い添えた夫人にお礼を言うと、彼女らは改めてリストの中身へ目を通した。
「本とか、頼む人はいないみたいなの」
「貧しい村ですから。本を読む暇があるなら働きますよ」
 そう弱々しく笑う姿はどこか痛ましげで、彼女の主人が病床にふけっていることを知っている2人は掛ける言葉も無かった。
「辛いと思うけど……聞かせてくれないかな。旦那さんが病気になった時のことを」
 心苦しくても、聞かなければならないことがある。
 アルトの問いに夫人は小さく首を捻ると、静かに首を横に振った。
「分からないんです。その時丁度、お酒を取りに納戸へ……義父母は居合わせていたのですが」
「うぅん……非常に聞きにくいんだけど、その方たちは今どこにいるのよ?」
「主人と同じく、今は寄り合い所に」
 まるで先手を打たれているかのように、次に目すべき参考人物達は軒並み狂気症状に蝕まれていく。
 関係者を盥回しにされながらも決定的な証言を得られないのは、はじめの頃の調査と全く同じだった。

 一方、海辺へ出ていたフワ ハヤテ(ka0004)とクリス・クロフォード(ka3628)は、ぼろい漁船の傍でほつれた網を直す猟師に声を掛けていた。
「本の歪虚――ああ、噂くらいは聞いてるよ。詳しくは知らないがね」
 ぶっきらぼうに答えた彼は、2人の顔も見ずに黙々とちぎれた糸を継ぎ合わせる。
「ふむ、ちなみにその噂とやらの出元はどこかな?」
 非協力的な態度に物怖じせず尋ねたフワに、猟師は不機嫌そうな三白眼を向けてねっとりとその顔を見渡すが、やがて網に視線を戻して小さく咳払いをする。
「この間買い出しに行ってきた若い衆さ。なんでも、往来のど真ん中でいきなりのたうち回る奴を目の当たりにして――その時、周りの野次馬共に聞いたらしい」
「……ヴァリオスでの調査の時とおんなじね。証言者が繋がっても、結局ぷっつりと“誰も話せやしない”」
 口にして、なんだか拭いきれない違和感のようなものがもやもやと胸の内に燻り続ける。
 それを払拭する様に頭を振ると、もう一度漁師へと視線を落とす。
「最後にもう1つだけ良いかしら。キアーヴェって名前に心当たりは?」
「ねぇな」
「じゃあ……アルフレッド・ヴェクター」
 ふと、猟師の手が止まる。
 フワは咄嗟に彼の網の上に自らの手を添えてその作業を遮ると、覗き込むように彼の瞳を見つめた。
 漁師は面倒くさそうに息を吐くと、低く唸るような声で語る。
「……村長の家に行きな。俺は面倒事は御免だ」

 この村の長の家は、村祭りなどで使う広場に面した場所に佇んでいる。
 先んじて訪れていたハンター達は、ぬるくなり始めたティーカップを前に彼がリビングへ訪れるのを待っていた。
 やがてようやく廊下の暗がりからボサボサの白髪頭が見えたかと思うと、その後ろに人によっては見慣れた2人組の姿が見える。
「あ……アンナたちも、来てたんだ」
 一瞬目を丸くしたシェリル・マイヤーズ(ka0509)に、アンナ=リーナ・エスト(kz0108)も虚を突かれた様子ながらも、すぐに腑に落ちたように略礼で返す。
「偶然……いや、必然も必然か。村長、予定を変えて我々も彼らに同席させて貰えますか?」
「え、ええ。それは構いませんが……」
 片隅に寝そべる年老いた犬へ菜っ葉切れを与えながら、僅かに泳いだ彼の視線を、霧島 百舌鳥(ka6287)は無言ながらも見逃しはしない。
 事前に話に聞いていた通り、やはりこの人物――どこか様子がおかしい。
「それで村長さん。どんな些細なことでもいいので、事件に関して知っていることを教えて貰えませんか」
 話を切り出した歩夢(ka5975)に、彼はしきりに骨ばった指の節を揉みながら、しどろもどろと言葉を紡ぐ。
 その多くは事前に依頼書に書かれていた通りのこと。
 目新しい情報も得られない中で、シェリルが意を決して口を挟んだ。
「ねぇ……貴方は何を隠しているの?」
 諭すようなその言葉に、節をもむ指にぐっと力が籠る。
 それでも語らない彼の代わりに、代わりに口を開いたのはアンナだった。
「恐れている、と言った方が正しいのだろう。ですよね、“ヴェクター”さん」
「――なるほど、そういうことだったのね」
 その時、入口の方から娘婿に案内されてクリスとフワの2人組が合流する。
 問いかけたシェリルはそっと瞳を閉じて、自分の中に渦巻いていた靄が少しずつ晴れていくのを確かに感じていた。
「うすうす……そうじゃないかって。ようやく、見つけた気がしたから……」
 しかし、村長はどこか狼狽えたように貧乏ゆすりをしてギリリと奥歯を噛み締める。
 そして、食い殺さん勢いで激しく声を張り上げた。
「私には関係のないことだ! だって……息子はもう、死んだのだから!」
「ど、どういうことですか?」
 宥めるようにその肩を摩った歩夢の手を痛いほどに握り締めて、彼は秘めていた思いの丈を吐き捨てる。
「死んだんだよ……波に攫われて、海に飲まれたはずなんだ! ああ、この目で見たさ! 節穴だと思うなら、今すぐ穿り出して見せてやろうか!? それが、街で事件を起こしているって……そんなわけが、あるか……」
 それからぐったりとソファーにうなだれて、それ以上何も語ることはしなかった。
「――どうやら、全てをハッキリさせる必要があるようだねぇ」
 成り行きを静観していた百舌鳥が、訪れた静寂を破るように吐息を漏らす。
「ボクに1つ考えがある。たまにはこちらから飛び込もうじゃないか……怪異の海の真っただ中へ」
 口にしながらゆらりとさした指の先。
 窓の向こうに覗く、村の寄り合い所へと――


 発狂患者の集まる寄り合い所へ落ち合ったハンターとアンナ達は、その中の様子に口を噤むほかなかった。
 患者自体を目にするのは初めてではない者も、床に敷かれたシーツの上ですし詰めにされている彼らの姿には流石に言葉も失う。
「今宵の策にはうってつけであるのが皮肉ではあるけどねぇ……歩夢君、頼むよ」
「ああ。こんなの見せられて、お預けなんてごめんだからな」
 歩夢はカードバインダーから幾何学形状の符を取り出していくと、それらを部屋の隅々へと配置する。
 準備を整えたところで一度、周囲を伺うように視線を巡らせてから印を切り、陣を起動した。
 浄化の光が鬱屈とした室内を優しく、そして暖かく包み込んでいくと、それまで前後不覚に陥っていた患者たちの瞳から、すーっと狂気の色が消えていく。
「お見事。やはり、今回もマテリアル汚染による症状か。となれば――」
 フワが目配せをした矢先に、壁際にぼうっと緑炎が立ち上る。
「――やっぱり、そういうことなのかい?」
 咄嗟に身構えた百舌鳥達の目の前で、炎の中からゆったりと白塗りの歪虚がその姿を現していた。
「……キミたちか」
 悪態吐いたかの者へ、深紅の閃光――アルトが真っ先にその頭上へ刃を掲げる。
 振り抜かれた太刀を“不定の歪虚”は強固な腕で受け止めるが、彼女はそのまま力任せに組み入って仲間達へ叫んだ。
「誰か……弾けるかっ!?」
「ボクが行こう!」
 言うが否や駆け出した百舌鳥は、アルトの横腹を縫って突き出した槍の穂先を歪虚のどてっぱらへ叩きこむ。
 その一撃は切っ先を僅かに歪虚の表皮へ食い込ませた程度だったが、むしろそれで好都合。
 それ以上進まなくなった刃を霊闘士の底力で押し込むと、薄い寄り合い所の壁もろとも敵の身体を外へと突き飛ばしていた。
 木片と共に白日に追い出された“不定の歪虚”は、受け身を取りながらも悠長に態勢を立て直す。
 が、それから自分の突き抜けてきた穴へ意識を戻そうとして、ふと、自らを取り囲む周囲の景色に視線を走らせていた。
「ここは……」
 呆然としたように立ち尽くすその姿を追って、ハンター達も次々と穴から外へと身を乗り出す。
 エスト隊の2人は万が一のために患者たちの傍へと残って、彼らの背中を見送った。
「いい加減、訳の分からない脚本通りにする気はないのよ。ハッピーエンドは、自分達で紡ぐものなの」
 力強く踏み出したリリアに、歪虚は突き出されたダガーを半身開くようにして躱す。
「脚本……か。彼と同列にされるのは、望むところではないがね――だがしかし“自分達で紡ぐ”とは言い得て妙だ。物語とは本質的にそうあるべきなのだろうから」
「そういうただ意味深な物言いが、質を下げるものなのよ……!」
「それは失礼したね」
 戯言のように返しながらも、その視線はちらりちらりと村の方へと向いて流れる。
「……なつかしい?」
 不意に心の内を透かされるような物言いに、歪虚の注意が咄嗟に声の主へと向く。
 声の主、シェリルは身じろぎもせず、真正面から向き合って黄金色の瞳に緑炎を映した。
「お話はすべて……おじさんが見た事、感じた事だったの?」
「なに……?」
「なんとなく……そんな気がしてたんだ。この村に来て……わかった気がする」
 彼女は、これまでの事を思い返すように、1つ1つの事件を指折り数える。
「物語の1つ1つには、意味が……おじさんの見た、世界があったんだね。そして――狂気を見た人が、“その身をもって、狂気を語る”んだよね……? それが、永久に語り継がれる物語の――都市伝説の正体」
「……そっか、だからヴァリオスで事件の目撃者はみんな」
 クリスは繋がり掛けていたパズルがかっちりとはまって行くのを頭の中で感じていた。
 発狂の目撃者で無事な者がいない――すなわち“目撃者こそが被害者になる”ということ。
 しかし、フワはまだひとつ納得がいかないように首をかしげる。
「では本は――いや、この場合、物語自体が本ということか。現存するわけではなく、感染によって現れる意識下の……幻の異本」
 シェリルはもう一度歪虚の姿を見据えると、静かに、だけどもハッキリとした意志を持って首を横に振る。
「おじさん……物語は、こんな風に広めちゃ……ダメなんだ」
 その言葉に、不定の歪虚はおおきく天を仰いだ。
「では、改めて尋ねよう……少女よ。いや、シェリルよ。キミの瞳に映る、この物語の本質を」
 シェリルは僅かに迷いを滲ませながら、それでも自分の想いを素直に乗せて答える。
「白――何もない。ただ、本が好き……それが、私の答え」
 その言葉に歪虚は真っすぐに彼女を見つめ返し、そしてどこか寂し気に笑みを浮かべた。
「そう……か。彼も浮かばれるな。狂気に霞んでも、キミの本質はまぶしいほどに清らかだ――」
「……えっ」
 目を見開いたシェリルの眼前で、歪虚の身体が火柱に包まれる。
 それは彼の身体に纏わりつくように渦巻いて、真っ白な身体を怪し気に照らしていた。
「永久の物語と共に生きることこそが、この身の存在理由であり、唯一の価値。それが脅かす者は、排除しなければならない」
 パラパラと胸元の本をめくると、そこからずるりずるりと黒い液体が零れだす。
 それは次第に形を成して、甲羅のようなものを纏ったタール状の犬の姿を成してハンター達へと飛び掛かっていた。
「結局はこうなるのかよ……!」
 歩夢の放った符が灼熱の牙をぎらつかせる黒犬たちを取り囲むと、立ち上った光が瞬く間にその存在を蒸発させる。
 敵も初めから囮のつもりで、犬たちを目くらましにハンター達目がけて緑炎弾を乱れ打つ。
 その弾幕を最小限の動きで躱し、駆けるアルト。
 歪虚はとっさに身構えるも、その腕を遠距離からフワの氷矢に打ち抜かれて態勢を崩す。
 その隙に放たれた一閃が軌跡を描いて、確かな手ごたえと共に振り抜かれた。
「ぐっ……」
「……やはりか」
 かすり傷程度も付けることのできなかった先の戦いとは裏腹に、真っ白い腕が天を舞って、散っていく。
 アルトは振り向きざまに、その切っ先を敵の鼻先へ向けて突きつけた。
「どうも引っかかっていたんだ……だが確信した。今のおまえ相手なら、勝機はある」
「ああ……そういうカラクリなんだね。だから狂気患者を減らされるとキミが現れる、ということか」
 その言葉にポンと拍子を打った百舌鳥は、正体見たりと底知れぬ笑みで答える。
「どういう事なんだ……?」
「彼が力を発揮するには“称賛”が必要なんだ。彼への称賛とは果たして何か……自ずと、答えは知れてくる」
 歪虚は奥歯をひどく噛みしめて、咄嗟に纏った炎を右腕へと集める。
 集まった緑炎は、やがて左腕と同じように炎の腕として固着した。
「謎が解ければ、残るは幕引きだねぇ」
 よろめく姿に百舌鳥の戦槍が穿たれて、その身が戦場のど真ん中へと叩き出される。
 立て続けに飛び込んだシェリルの銃弾が足を穿ち、よろけた背中へリリアのダガーが閃く。
「何があろうと、どんな想いがあろうと、誰かに迷惑を掛けるなら、それはただの我侭なの」
「キミはいつも迷いがないな……彼も見習うべきだった」
 振り向きざまに振るわれたその紅蓮の腕。
 しかし、受け止めたのはリリアの華奢なその身体ではなく、クリスの細くも頑強なその身体だった。
 灼熱にその腕を焼かれながらも、受けた勢いで弾くと健脚を薙ぐ。
 それをもう片方の炎腕で受け止めて、歪虚はニヤリと笑みを湛えた。
「知っていたよ、キミが本当は誰よりも強い闘志を秘めていることを」
「だけど、私は弱いからね……こうでもしなきゃ殴り合えないのよっ!」
 ジリジリと脚から掛けられる重圧に、歪虚は次第に押し込まれ膝を折る。
 その機を見透かさず、アルトが再び地を駆けた。
 遠くから迫りくるその太刀に、思わずその唇を噛みしめる。
 が……その視線がふとシェリルと合うと、はっとして――そして穏やかな表情で笑いかけた。
 その直後――ガランと、太刀が地面を転がる音が戦場に響く。
 そこには、あと一歩の距離で放心して立ち尽くすアルトの姿。
 彼女だけじゃない。
 百舌鳥、フワ、歩夢の3人もまた、憑りつかれたかのように宙を仰いで、その表情を混濁させる。
 その姿を見て、シェリルだけでない。
 クリスにリリア――“今”無事な3人は咄嗟に理解する。
「――ここは痛み分けとしようじゃないか」
 クリスの眼下で、歪虚の纏った炎がまるで爆発するかのように膨れ上がり、弾けた。
 巨大な火柱が曇天目がけてつき上がり、周囲にいたハンター達をその莫大なエネルギーの中へ根こそぎ包み込んで、四散する。
 等円の焼け野原となった広場に立つのは傷だらけの歪虚ただ1人で、彼もやがて自虐的な笑いと共にその姿を緑炎と化して消えていった。
 
 敵が消え、その姿を追う者もいなくなった海辺の村に、狂乱の悲鳴がどこまでも響く――

依頼結果

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MVP一覧

  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズka0509

重体一覧

  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズka0509
  • それでも尚、世界を紡ぐ者
    リリア・ノヴィドールka3056
  • 魂の灯火
    クリス・クロフォードka3628
  • 怪異の芯を掴みし者
    霧島 百舌鳥ka6287

参加者一覧

  • THE "MAGE"
    フワ ハヤテ(ka0004
    エルフ|26才|男性|魔術師
  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズ(ka0509
    人間(蒼)|14才|女性|疾影士
  • それでも尚、世界を紡ぐ者
    リリア・ノヴィドール(ka3056
    エルフ|18才|女性|疾影士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 魂の灯火
    クリス・クロフォード(ka3628
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • Ms.“Deadend”
    アメリア・フォーサイス(ka4111
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • 真実を照らし出す光
    歩夢(ka5975
    人間(紅)|20才|男性|符術師
  • 怪異の芯を掴みし者
    霧島 百舌鳥(ka6287
    鬼|23才|男性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/01/03 18:09:14
アイコン 相談卓
シェリル・マイヤーズ(ka0509
人間(リアルブルー)|14才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2018/01/06 07:15:41
アイコン 質問卓
シェリル・マイヤーズ(ka0509
人間(リアルブルー)|14才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2018/01/02 11:59:15