• 東幕

【東幕】鬼火の灯

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~6人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/01/17 19:00
完成日
2018/01/31 12:55

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

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オープニング

●五芒星に煌く
 恵土城への救援へと出発した幕府軍を見送り、立花院 紫草(kz0126)は静かに腰を降ろす。
 本来であれば戦況が悪化する前に動き出すべきだろうが、公家の面子もあるし、其々の武家の思惑や野望もある状況では、このギリギリのタイミングしかなかった。
 紫草がゆっくりもしないうちに、伝令の武者が駆け込んできた。
 警備の者が慌てて引っ掴んだまま、大広間に雪崩れ込む。騒然となる所を紫草は制した。
「騒々しいですね。どうしたのですか」
「憤怒歪虚が集結しつつあるとの事!」
 その言葉に、広間に揃っていた武士達が慌てて立ち上がった。
 同時に、別の伝令も息を切らして広間に飛び込んできた。その者の報告もまた、憤怒歪虚の集結や目撃情報だった。
「これは……」
 武士の一人が集結場所を地図に落とし込み言葉を詰まらせた。
「五芒星」
「あの秘宝に描かれていた術式とやらか?」
「なぜ、歪虚が?」
 口々に武士達が疑問の声を発した。
 憤怒歪虚が秘宝に描かれていた五芒星の各頂点に集まっている様子なのだ。
 明らかに何かの前触れである。それに五芒星は何かの術式という所まで分かっている。このまま、放置という訳にはいかないだろう。
「幕府軍を派遣するしかあるまい」
「だが、先程、恵土城に向かったばっかりだぞ」
「今から軍を編成して間に合うものか」
 戸惑う武士達の動きを見て、紫草は顎に手を当てた。
 明らかに憤怒歪虚が何か企んでいるだろう。だが、その最終的な狙いが何か分からない以上、迂闊に幕府軍を動かせない。
 それに、今すぐ動ける兵力は天ノ都の防衛に当てているのだ。この状況で首都を無防備にできるはずもない。
 紫草はスッと立ち上がった。その動きに武士達の視線が集まる。
「各頂点にはハンター達と各武家の少数精鋭で臨みます。戦力的に苦しいのは、むしろ、敵のはずです」
 憤怒歪虚残党の方が寡兵のはずだ。それが更に分散しているのであれば、恐れる事はない。
「し、しかし、少数精鋭といっても、すぐに出立できる者は……」
 武士の一人が恐る恐る言った。確かに、五ヶ所に派遣できる精鋭は限られている。
 それに、大将軍たる紫草も、天ノ都を空ける訳にはいかない。
 その時だった、何人もの供を引き連れた者が、ズカズカと大広間に入ってきて高らかに宣言した。
「ここで、俺様の出番だな!」
 ドヤ顔で現れたのは、エトファリカの帝であるスメラギ(kz0158)だった。


●鬼火の灯
 天ノ都から西、フウビ山古墳とヒュウガの里の向こう側。
 秘宝に描かれた五芒星の頂点となる場所に、古びた村がある。
 その村から住民が消えたのは大分昔。
 歪虚に占拠されてから、今は来るものもなく、風が通り過ぎるばかり。
 以前は人の行き来が多かったのだろうか。村の中には共同浴場、食堂……様々な建物が立ち並ぶ。
 それも、崩れかけた今となっては気味が悪いだけだ。
 奥まった場所にある社は縁結びの精霊がいるとして有名だったそうだが、今や詣でるものはなく。打ち捨てられたままになっていた。
「何だか寂しい感じね……」
「結構大きな村だったんだろうにな」
 周囲を見渡してぽつりと呟くハンター達。
 今回彼らがここに来たのは、五芒星の一旦を担う祭壇を破壊する為。
 スメラギに同行する形を取ってはいるが、正確には紫草からの依頼だ。
 ハンター達の脳裏に、痩身優美な銀髪の男の声が蘇る。
「……今回、皆様にお願いしたいのは祭壇の破壊です。場所は天ノ都を中心に五芒星を描いた頂点……この場所になります」
「そこにある祭壇を破壊してくればいいんですね?」
「そうです。この周囲に存在した強い歪虚は私の私兵を派遣して一掃しました。皆様は祭壇の周囲に残る歪虚に注意しつつ、祭壇を破壊してください」
「は? 私兵を派遣したって……お前この人手不足の時にか?」
「ええ。スメラギ様に何かあっては困りますからね。あの子は一度言い出したら聞きませんから……打てる手は打っておきませんと」
 涼しい顔をしたまま言う紫草に、あんぐりと口を開けるハンター達。
 勿論『何かあっては困る』というのも事実そうなのだろうが。この男、何だかんだ言ってスメラギに甘いような気がする。
 誰もそれにツッコむ勇気が持てないまま、彼の話は続く。
「祭壇の周囲に残っている歪虚は鬼火のような形をしていると聞いています。祭壇は社を入ればすぐにあり、歪虚自体もさほど強くないようですが、幻影を見せる能力があるとか。どうぞ気を付けてことに当たって下さい……」

「おい。お前達どうかしたのか?」
「いえ、何でもないですよ」
 スメラギの声で我に返るハンター達。それを誤魔化すように口を開く。
「スメラギ。今回の敵の能力とかって分かってるのか?」
「ああ。攻撃手段は体当たりしてくる程度で大したことはねえらしい。問題は幻影を見せる能力の方だな。……その幻影も見える者もいれば見えない者もいるし、見えたとしても人によって違うらしくてな」
「ふーん。そりゃ面倒臭いな」
「幻影を見た人はどういったものを見たの?」
「亡くなった爺さんが出て来たとか、大嫌いな蛇が出て来たとか、大好物の饅頭が山程降ってきたとか聞いたな」
「……本当に人によってまちまちなんですね」
「ああ、でもまあ。敵が何であれやることは一つだ」
 きっぱりと断じるスメラギ。それにハンター達も頷いて……目の前の社を見つめる。
「俺様の国で好き勝手しやがって……! その落とし前はきっちりつけて貰うからな!」
 スメラギの叫び。その声に誘われるように、赤い鬼火がふわふわと漂い始めた。

リプレイ本文

「人によって違うものを見せる幻、かぁ……」
「戦闘力は高くないっていう話だけど……。あ、祭壇ってあれかな」
 すっかり寂れた社をキョロキョロと見渡しながら呟くシェルミア・クリスティア(ka5955)。和音・空(ka6228)が指差した先にはいかにもな形をした木製の台が置いてあり……そこにズカズカと歩み寄ろうとしたスメラギの首根っこを天竜寺 詩(ka0396)がむんずと掴んで引き止める。
「うおっ!? 詩、何すんだよ!」
「何でスメラギ君は真っ先に祭壇に進もうとしてるのかな!? というかそもそもここに来ること自体が問題!! 王様は後ろでどっしり構えてるもんでしょ!」
「人手不足なんだからしょーがねえだろ!!」
「自分が来たかっただけでしょ! 人手不足のせいにしないの!!」
「まあまあ、今更追い返す訳にもいきませんし……」
 苦笑しつつ宥める十 音子(ka0537)。
 まあ、確かに詩の言う通り怪しいものに迷いもなく突っ込もうとする性格は直した方がいいように思うが。
 ――これは、先回りした紫草さんの気持ちが分かるような気がしますね。
 そんなことを考えていた音子の視界に映る赤い色。
 ふわりふわりと鬼火が飛来して、黒の夢(ka0187)が顔を上げた。
「あー。見てなのなー。鬼火ちゃん出て来たのな。暖かそうなのなー……ハグしたいのな」
 黒の夢の眠たげな金色の瞳に映る炎。赤く燃えるそれが、どんどん周囲に広がっていく。
「……来ましたね。スメラギさんは後方から符術による支援をお願いしま……」
 言いかけたリン・フュラー(ka5869)。
 振り返ったそこには、スメラギの姿はなく……代わりに佇んでいる少女を見て目を見開く。
「えっ……!? あなた、まさか……!」
 幼さの残る笑顔。自分が知るころより大きくなってはいるが……間違いない。
 故郷に残してきた妹だ。
 懐かしいその姿に目を細める。
「久しぶりね。あなたどうしてこんな所に……? それに、少し見ない間に随分……成長して……成長……」
 別れた頃より遥かに伸びた身長。何より豊かに育った双丘に目が奪われて、リンの目から急速に光が消える。
 ――え。あの子故郷にいた頃は私と同じくらいだったのに、何であんなに大きくなってるの?
 と言うか、何で私はこんなに絶望的にぺったんこのかな!?
 何度見ても平面的なのは変わらないんだけど!!
「……姉さん、どうかしたの?」
「あ。ううん。何でもないの」
「良かった。じゃあ一緒に行こう?」
「行くってどこへ……?」
「姉さん、一緒に来てくれないの……?」
 悲しそうに顔を歪める妹。
 待って。違うの。悲しまないで。私は……!
 リンの声にならない叫び。願いに反して、妹の姿が徐々に遠ざかって行く。
「い、いやあああああ!? 待って! 貴方まで……貴方まで私を置いていくの!?」
 悲鳴をあげて顔を覆ったリン。
 視界を塞いだことで少し落ち着いたのか、浅くなった呼吸を落ち着かせるように息を吸う。
 い、いや、待って。落ち着いて、私……。
 ――私はここに何をしに来たの?
 そうだ。歪虚を倒しに……天ノ都を囲むように出来た五芒星の各頂点に歪虚が現れたから、それで……。
 うん。思い出した。
 そもそも、こんなところにあの子がいる訳はなくて……はっ、もしやこれが問題の幻影!
 ――そうよ。そもそも小さかったあの子が胸ばっかり成長するなんてありえないじゃない!
 妹なんだもの! 私並にないはずだわ!!
「誰ですか、こんな幻影見せたのは……。ああ、そうでした。鬼火の歪虚でしたね。ふ、ふふふ……私が一番気にしているところを……許しません。私を怒らせたことを後悔させてあげます……!」
 ブツブツと呟くリン。
 幻影から目覚めたようだが……その割には目つきが剣呑だった。


 飛来した鬼火が眩しくて瞬きしたシェルミア。
 ――それが幻影であることはすぐに分かった。
 その光景は、シェルミアが見て来た過去。彼女の故郷であるリアルブルーだったから。
「あーあ。今日も宿題沢山出たねー」
「ねえねえ、帰りにアイスクリーム食べて帰らない?」
 聞こえてくるクラスメイト達の他愛もない会話。
 授業が終わった後の賑やかな教室。
 家に帰れば両親や家族がいる……ごくごく当たり前の『平穏』な時間――。
 それは、何だかとても懐かしくて……。
 ――これは今望んでも手に入らぬもの。
 この世界、この時間に在る筈がないのだ。
 いつ壊れてもおかしくなかった光景。
 その憧憬は酷く暖かくて……幻だと分かっていても、手を伸ばしてしまいそうになるけれど。
 それでも。わたしは――。
 わたしは紅の世界へ来て、『戦い』というものを知った。
 辛いこと、楽しいこと。色々な経験をして道を見つけた。
 今のわたしには、自分が出来る事で、力になりたい、支えになりたい人達が居る。
 だから――。
「この光景とは暫くお別れ。大丈夫。わたしなりに頑張るよ」
 微笑むシェルミア。決意を込めて練った気。一気に放出したそれは光を放ち、懐かしい光景を振り払った。


 ――た。……うた。
 誰だろう。優しい声。私を呼んでる……?
 キリがなく襲い来る鬼火を打ち破っていた詩。
 聞こえて来る声に振り返ると、そこには1人の女性が立っていた。
 流れるような銀髪。儚げな青い瞳――。
 ああ、間違いない。この人は、私の……。
「……詩」
「ママ……」
 許されない恋に身を窶した人。写真でしか見たことがない実母。
 義理の母のことは勿論好きだ。尊敬もしている。……だからこそ、自分の存在が申し訳なかったし、こんなことを願うのは酷い裏切りのように思っていたけれど――。
 本当は。ずっとずっと、会いたいと思っていた。
 母の優しい微笑み。広げられる腕に誘われるままに飛び込む彼女。
 『ママ』は思っていた通り、ふんわりとしていて良い匂いで……。
 ママと会えたら、話したいと思っていたことが沢山あった筈なのに何一つ出て来ない。
 ただただ、この温もりに縋っていたい――。
「……詩?」
「……うん。分かってるよ、ママ」
 そうだ。本当は分かっている。これは幻。鬼火の見せるひと時の夢。
 それでも、ずっとこうしてママと一緒にいられるのなら。
 これが夢でも、幻でも構わない……?
「……違う」
 小首を傾げて微笑む実母。ずっと甘えていたい。でも……私は……。
「私がいなくなったらお姉ちゃんが泣いちゃうから。だからここにはいられない」
「詩……」
「……ごめんね、ママ。さよなら」
 母の姿をしたそれに杖を突き立てる詩。堪えきれず、瞳から涙が零れる。
 それを拭うように母の手が彼女の頬を撫でて……微笑んだまま消えていった。


「うな……? ここどこなのな??」
 キョロキョロと周囲を伺う黒の夢。
 現場に到着して、祭壇を見てどうやって処理しようか考えていたら鬼火が現れて……。
 暖かそうだなあと思って、それで……。
 それでどうしたんだっけ。忘れてしまった。
「ねえねえ。汝はどうしてここにいるの?」

 ――わたし? わたしは、のぞまれたから。

 ……汝は誰?

 ――うまれおちたときから。わたしは。

 ……嘘だ。そんなはずは。我輩は知らない。

 ――『こうしていなければならなかったから』。

 顔のところだけぽっかりと空洞になっている黒い肌の少女。
 身体に浮かぶ見慣れた金色の文様。

 ――わたしは呪詛(あなた)。

 確かに聞こえた少女の声。
 否定する暇もなく、黒の夢の脳裏に駆け巡るモノ。
 崇め奉る聲。畏れる声。奇異の目。欲の眼。彼の瞳。
 祭壇に坐る『わたし』はいつもそう。
 彼らから寄せられるそれを、どこか他人事のように見つめていた。
 愛おしくておぞましい。考えることすらしなかった贄の少女。
 ――もっとも嫌いなもの。

 ……殺さなくては。壊さなくては。
 あれはいてはいけないものだ。

 冷え切った指先に力を込める黒の夢。
 目に入るもの……敵を倒す為に、ゆっくりと動き出す。


 符を構え直した空は、揺れる灯りの向こうに懐かしい姿を見つけた。
 ――優秀な魔術師である両親と、聖導士の兄。

 力のある魔術師で、傭兵としても名が知られていた両親に憧れて、幼い空は、両親と同じ道を志した。
 ――でも、学び始める以前から分かっていたことがある。
 自分には魔術師の適性がない。
 両親や兄がすぐ出来ることを、空は3倍時間をかけても成し得ない。
 それでも夢を諦めることが出来なくて、学生時代は死に物狂いで勉強に打ち込んだ。

 努力は才能を凌駕するかもしれない。
 そうなることを願っていたけれど……淡い期待は見事に打ち砕かれた。

 魔術師の才能に溢れていた家族。
 どうして自分1人だけダメだったのだろう。
 見つからない答え。
 家族を嫌わなければ。惨めさと嫉妬でおかしくなりそうだった。
 でも……同時に。
「……大好きよ」
 きっぱりと告げる空。
 そうだ。嫌っていた。でもそれ以上に……。
 両親も、きっと娘に魔術師の才能がないことに気付いていただろう。
 それでも、一度でも『諦めろ』とは言わなかった。
 納得が行くまで、何度も何度も……。
 繰り返し挑戦する空を応援し、ずっと見守ってくれていた。
 兄に至っては、才能があったにも関わらずどう考えても向いていない道を志した。
 我が兄ながら馬鹿というか、余計な気を回しすぎというか……。
 兄さんは兄さんなんだから、好きな職に就けばよかったのに。
 それでも……そんな行動をとらせてしまったのは、私の弱さ故だったのだろうか。
「ありがとう、3人共。私はこの道を選んだことを後悔してないよ」
 はにかむ空。そもそも、これは『本物』に向かって言うべき台詞だ。
 家族の姿を取った歪虚に向けて言うことではない。
「うん。ちゃんと伝えに行くからそこ退いてくれるかな」
 にっこり笑う空。続く詠唱。投げた符が、空を切り割いて――。


「うーん……。何の変哲もない祭壇に見えますね」
 魔導カメラを手に祭壇を観察する音子。
 木で組まれたそれは東方ではよく見る形のもので、朽ち方からしても元々社に備え付けてあったものを再利用したようにも見える。
 確かに負のマテリアルの力が溜まっているのを感じるけれど、これと言った細工や法陣もない。
 破壊した後に何かあるかもしれない。用心せねば……!
 考え込む彼女。スメラギに呼ばれて思考を中断する。
「おい、音子。お前大丈夫なのか?」
「何がです?」
「幻影だよ。お前は変化がねえなあと思ってよ」
「ああ、幻影ですね。見ましたよ? 見たくもない人の姿でしたので即! 銃殺させて戴きました。スッキリしました」
「おっそろしーヤツだな……」
「彼女達程じゃないですよ」
 にっこりと笑い後方を指差す音子。
 ウフ。ウフフフ……とか怪しい笑いを浮かべながら鬼火をしばき倒しているリンと、普段は敵に対しても比較的柔和である黒の夢が、手あたり次第に……明確な『殺意』を持って淡々と敵を始末している。
 2人の様子は気になるが、こちらに近づこうとする敵を一つ残らず抹殺してくれているし、ここは任せて大丈夫だろう。
「ごめんね、お待たせ! スメラギ君大丈夫だった?」
「おう、詩。俺様なら問題ねーよ」
「本当? わたしさっきスメラギさんが石段に足引っかけたの見たけど」
「うっせ! シェルミアそういうことは黙ってろ!!」
 詩とスメラギ、シェルミアのやり取りに笑いをかみ殺す空。
 コホンと咳払いして祭壇を見る。
「スメラギ様。これ壊してしまっていいのよね?」
「おう。それで任務完了だ」
 ――本当に?
 空の言葉に頷くスメラギ。音子は頭を過った疑念を口にする。
「ところでスメラギさん、例のエトファリカ・ボードは本物ですか?」
「どういう意味だ?」
「いえ、まさか幕府に敵意を持つ人物、もしくは歪虚が作り上げたもの……とか無いですよね」
 エトファリカ・ボードに描かれていた五芒星。
 それは以前からあったものなのか……『エトファリカ・ボードの内容を知るもの』にしか分からない。
 もしそれが、何者かによって作られたものであったのだとしたら、今回の事件そのものが仕組まれていた……ということになる。
 息を飲むハンター達。スメラギはうーん……と考えたあと頭を掻く。
「その疑問は盲点だったなぁ……。俺様はそのエトファリカ・ボード? ってのは見たことねえんだ。そもそもそんなものがあったこと自体知らなかった」
「えっ。スメラギさん知らなかったんですか!?」
「俺様は朝廷の長だぞ。幕府は管轄外だっつーの!」
 目を丸くする音子。慌てて言い訳をするスメラギにため息をつく。
「分からないんじゃしょうがないですね。とりあえず、その可能性も紫草さんに伝えましょうか。……では、祭壇を破壊しましょう」
 音子の声に頷く仲間達。
 音子の銃撃で祭壇は拍子抜けするほどあっさりと壊れて――祭壇に溜まっていた、負のマテリアルがすうっと流れて消えた。


 祭壇が破壊される頃には、リンと黒の夢によって鬼火は全て駆逐され尽くしていた。
「リンさん、お疲れ様!」
「うふ。うふふふふ……。許さないんだから……」
「えっと、リンさん?」
「……大丈夫かな? ピュリフィケーションかけてみたけど効いてない?」
「……そっとしておきましょう」
 仲間達の心配そうな声に妙な笑いを返すリン。
 何か酷くトラウマを抉られたのかもしれない。
 出来ることはした。あとはきっと時間が解決してくれるだろう……。
 そして眉根を寄せて、肩で息をしている黒の夢にスメラギが歩み寄る。
「黒の夢、大丈夫か?」
「……うん。大丈夫なのな」
 かつての『希望』にぎこちない笑みを返す彼女。
 ――そう、我輩は汝の生存と良縁を願った。
 それは自分とした『約束』。
 無機質に動く自分の身体。ざわつく胸。冷たい手。なかなか感覚が戻って来ない。
 ああ、それでも我輩は――。


「空さん、シェルミアさん。念のため祭壇の浄化をお願いできますか?」
「あ、私もやろう思ってたんだ」
「勿論、言われなくてもやるつもりだったよ!」
 音子の提案に頷く空。
 シェルミアも頷き返して……ふと、不安が頭を擡げる。
 音子の言っていた通りなのであれば。
 この術式を編んだ人物がいるはずで……。それはなんとなく。今の東方の在り方を変えてしまう何かを感じる。
「気のせいだといいけど……」
「何が?」
「ううん。何でもない。さあ、浄化しちゃおう!」
「……ねえ、スメラギ君。あの鬼火、村の人達の魂だったのかな」
「どーだろうな。そうだとしたら、ゆっくり今度こそ眠れるといいな」
「そうですね。では、戻って報告しましょう」
 音子の声に頷く詩とスメラギ。
 いつかこの村と社が復興する日がくればいいな……と願いながら。ハンター達は社を後にした。

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参加者一覧

  • 黒竜との冥契
    黒の夢(ka0187
    エルフ|26才|女性|魔術師
  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士

  • 十 音子(ka0537
    人間(蒼)|23才|女性|猟撃士
  • 紅の鎮魂歌
    リン・フュラー(ka5869
    エルフ|14才|女性|舞刀士
  • 符術剣士
    シェルミア・クリスティア(ka5955
    人間(蒼)|18才|女性|符術師
  • 即疾隊一番隊士
    和音・空(ka6228
    人間(紅)|19才|女性|符術師

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アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/01/12 22:47:09
アイコン 相談卓
リン・フュラー(ka5869
エルフ|14才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2018/01/15 23:17:45