ゲスト
(ka0000)
奪われたポンコツ戦闘機
マスター:馬車猪
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/01/21 09:00
- 完成日
- 2018/01/25 18:53
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「人型機動兵器なんて産廃なんだよ!」
そんな暑苦しい主張に対する返答は、頭が可哀想な者に向ける憐れみの視線だった。
だってほら、現実に歪虚を倒しているのは人型機動兵器に分類されるCAMやハンターな訳だし。
「君は疲れているんだ。しばらく休みなさい」
「所長、こいつ有給使い尽くしてます」
「この野郎休み明けはいつも寝不足なんです。危なっかしいんで厳しく言ってやって下さい」
散々な言われようなのに、研究員(仮にAとする)は堂々とした態度で胸を張る。
「んなことはどうでもいいんだよ。俺の休みと資産全部をつぎ込んで造ったのがあれだぁ!」
足を肩幅より大きく開いて右手を天に掲げる。
右手の延長線上……よりかなりずれた場所で、鋭角的なデザインのレシプロ機が飛んでいた。
「CAM用武装を1つ搭載可能!」
無理矢理感あふれるハードポイントには105mmスナイパーライフル。
弱装弾らしい砲弾を打ち出してもほとんど揺れず、命中率も予想よりは酷くない。
「速度はあえてそこそこに抑えた! それでも大気圏内のVOIDには追いつけない!」
ガーゴイルっぽい歪虚がびっくりしている。
まともな方の研究員達が警報を鳴らしたりハンターオフィスへ応援を頼んだりし始めた。
「コストは抑えに抑えてCAM3機分っ。覚醒者みたいに貴重な人材をCAMで無駄遣いする時代は終わったんだよ!」
設計図を眺めていた所長がため息をついた。
「君ね、君自身の人件費を計算に入れてないだろ」
Aは研究者としてはぎりぎり2流だが技術者としては超一流に近い。
A以上の人材が組み上げねばこの性能は出ない。
A以上の人材が整備しなければこの性能を維持出来ない。
そんな兵器は産廃呼ばわれされても反論しようがない。
『こちらテスト機。通……』
回線が不自然に途切れる。
外部からの支援が消えた結果、手作りの簡易戦闘機の動きが乱れて安全のため速度を落とす。
「所長! 後3分でハンターが到着すると連絡が……ぬぁっ!?」
皆が空を見上げ目を見開く。
ガーゴイル、否、蝙蝠翼のグレムリンが簡易戦闘機にとりつくと、薄い装甲が岩じみた外見に変わった。
地上のセンサーが新たな情報を捉える。
新たな歪虚が出現。
位置は簡易戦闘機と全く同じ。
「脱出しろ!」
「所長も早く避難をしてくださいっ」
勢いよく射出されたパイロットが、1人だけ安全圏に逃れてパラシュートを開いた。
●ハンターオフィス
「戦闘機が出ました!」
何言ってるんだお前、という視線を向けられているのにオフィス職員は気づかない。すごく動揺している。
「歪虚に乗っ取られたんです! 戦闘機……え、戦闘機じゃない? ええと、戦闘機っぽいものが歪虚に乗っ取られてっ」
リアルブルーから持ち込んだ機材で実験していて大失敗したらしい。
CAMならありえない失敗である。
「リアルタイムの映像入りましたっ」
3Dディスプレイが勢いよく寄ってくる。
『馬鹿だろお前! 量産機ってなんだよおい!』
『地球連合に売り込むつもりだったんだよ。大丈夫大丈夫。量産機だから試作機より弱いって』
『テメェの変態技術で組んだ機体が弱いわけねぇだろ!』
こそこそと動き回るグレムリン型歪虚。
格納庫から航空機にしては低速度で飛び立とうとする小型機もどき。
搭載されているのは30mmアサルトライフルだろうか。
「汚染能力が強いグレムリンの方が脅威度が高い位なのですが、リアルブルーの兵器がクリムゾンウェストの街を襲うと政治的に非常に危険です。もう、ひどいことになっちゃいますっ」
オフィス職員は混乱しつつ恐怖に震えている。
言葉遣いが学生時代のものに戻っていることにも気づけていないなかった。
そんな暑苦しい主張に対する返答は、頭が可哀想な者に向ける憐れみの視線だった。
だってほら、現実に歪虚を倒しているのは人型機動兵器に分類されるCAMやハンターな訳だし。
「君は疲れているんだ。しばらく休みなさい」
「所長、こいつ有給使い尽くしてます」
「この野郎休み明けはいつも寝不足なんです。危なっかしいんで厳しく言ってやって下さい」
散々な言われようなのに、研究員(仮にAとする)は堂々とした態度で胸を張る。
「んなことはどうでもいいんだよ。俺の休みと資産全部をつぎ込んで造ったのがあれだぁ!」
足を肩幅より大きく開いて右手を天に掲げる。
右手の延長線上……よりかなりずれた場所で、鋭角的なデザインのレシプロ機が飛んでいた。
「CAM用武装を1つ搭載可能!」
無理矢理感あふれるハードポイントには105mmスナイパーライフル。
弱装弾らしい砲弾を打ち出してもほとんど揺れず、命中率も予想よりは酷くない。
「速度はあえてそこそこに抑えた! それでも大気圏内のVOIDには追いつけない!」
ガーゴイルっぽい歪虚がびっくりしている。
まともな方の研究員達が警報を鳴らしたりハンターオフィスへ応援を頼んだりし始めた。
「コストは抑えに抑えてCAM3機分っ。覚醒者みたいに貴重な人材をCAMで無駄遣いする時代は終わったんだよ!」
設計図を眺めていた所長がため息をついた。
「君ね、君自身の人件費を計算に入れてないだろ」
Aは研究者としてはぎりぎり2流だが技術者としては超一流に近い。
A以上の人材が組み上げねばこの性能は出ない。
A以上の人材が整備しなければこの性能を維持出来ない。
そんな兵器は産廃呼ばわれされても反論しようがない。
『こちらテスト機。通……』
回線が不自然に途切れる。
外部からの支援が消えた結果、手作りの簡易戦闘機の動きが乱れて安全のため速度を落とす。
「所長! 後3分でハンターが到着すると連絡が……ぬぁっ!?」
皆が空を見上げ目を見開く。
ガーゴイル、否、蝙蝠翼のグレムリンが簡易戦闘機にとりつくと、薄い装甲が岩じみた外見に変わった。
地上のセンサーが新たな情報を捉える。
新たな歪虚が出現。
位置は簡易戦闘機と全く同じ。
「脱出しろ!」
「所長も早く避難をしてくださいっ」
勢いよく射出されたパイロットが、1人だけ安全圏に逃れてパラシュートを開いた。
●ハンターオフィス
「戦闘機が出ました!」
何言ってるんだお前、という視線を向けられているのにオフィス職員は気づかない。すごく動揺している。
「歪虚に乗っ取られたんです! 戦闘機……え、戦闘機じゃない? ええと、戦闘機っぽいものが歪虚に乗っ取られてっ」
リアルブルーから持ち込んだ機材で実験していて大失敗したらしい。
CAMならありえない失敗である。
「リアルタイムの映像入りましたっ」
3Dディスプレイが勢いよく寄ってくる。
『馬鹿だろお前! 量産機ってなんだよおい!』
『地球連合に売り込むつもりだったんだよ。大丈夫大丈夫。量産機だから試作機より弱いって』
『テメェの変態技術で組んだ機体が弱いわけねぇだろ!』
こそこそと動き回るグレムリン型歪虚。
格納庫から航空機にしては低速度で飛び立とうとする小型機もどき。
搭載されているのは30mmアサルトライフルだろうか。
「汚染能力が強いグレムリンの方が脅威度が高い位なのですが、リアルブルーの兵器がクリムゾンウェストの街を襲うと政治的に非常に危険です。もう、ひどいことになっちゃいますっ」
オフィス職員は混乱しつつ恐怖に震えている。
言葉遣いが学生時代のものに戻っていることにも気づけていないなかった。
リプレイ本文
●弓とチャリ
綺麗に枯れた芝が地平線まで広がっている。
地平線から上には果ての無い青空。
風は弱く日差しは暖かだ。
そんな行楽地じみた場所を1台の自転車が走っている。
魔導エンジンが搭載されているとはいえ基本はママチャリ。
乗用馬程度の速度が出れば奇跡のはずだが実際にはワイバーン並の速度が出ている。
ブレーキの音が鳴る。
乾いた芝を数メートル削って止まり、八原 篝(ka3104)が悠然と足を下ろした。
「何にも考えずに撃てるなんていい依頼よね!」
籠からセラミック製の弓を取り出し構える。
覚醒者用装備としては頼りなく見えるほど小さい。
しかし篝が超人的な力を込めても壊れたりはせず、篝の繊細な指先にも素直に従う。
耳慣れない音が聞こえる。
記録映像の中にしかない、古い作りの発動機の音だ。
それに混じって鳥でもないのに羽ばたく音がいくつか。
篝の口元に淡い笑みが浮かんだ。
蒼く澄んだ1対の瞳が、今回の騒動の起点を静かにみつめる。
「1、2、3本」
幾何学模様と魔術が刻まれた矢を30センチの弓につがえる。
3本もつがえられているのに違和感はなく、実に様になっていて一幅の絵のようだ。
瞳から、ほんの微かに濁った光が一瞬漏れたようにも見えた。
指が動く。
弓に蓄えられたエネルギーが3本の矢に伝わり、自然な弧を描いて翼持つグレムリンに迫る。
このガーゴイルにも見えるグレムリンは、速くは無いが加速が凄い。
回避だけならハンターに迫る動きで躱そうとして、しかし同時に迫る3本の全てを回避するのは不可能だった。
左肩が砕けて片翼から力が抜ける。
右の脇腹を1本の矢が貫通。
速度が落ちた足を動かし切れずに太股に3本目が突き立つ。
「一匹に対して一度に3本全部撃ち込む。いくら身軽でも避けられないでしょ?」
発動機の音が近づいて来る。
聞き慣れた105ミリ弾の音が聞こえた時点で、篝は魔導ママチャリを漕いで位置をずらせていた。
砲弾で耕された土地から、篝のいない方向へ土煙が吹き出る。
「さあ、まだまだ行くわよ」
素晴らしい速度で新たな3矢をつがえ、最初を上回る精度で放つ。
飛行歪虚2体が、驚くほどあっさりと弓師により打ち落とされた。
●グレムリン
魔導型デュミナス【Phobos】。
火星の衛星の名を与えられた白地に真紅のカスタム機であり、機動力、防御力、白兵戦能力と射撃戦能力を高いバランスで兼ね備えた強力な兵器だ。
「参ったな」
クオン・サガラ(ka0018)には油断も未熟もない。
機体の計算能力を十全に活かした上で砲撃を行い、しかし完全に躱されてしまった。
「運が悪い、いえ言い訳ですね」
グレムリン歪虚の躱す動きが素晴らしい。
何度も攻撃を続ければ確実に当たりはするだろうが、今回は面倒な敵が多いので出来るだけ早く済ませたい。
美しい毛並みをしたグリフォンが小さな竜巻を発生させる。
面での攻撃は回避が難しい。威力もかなりのものだ。
しかし巻き込まれる直前でグレムリンが体を丸めて急所への直撃だけは回避する。
グリフォン【ホムラ】の瞳が力を増し、冷たい殺気が飛行歪虚へ突き立った。
「いいぞホムラ。このまま足止め最優先だ」
ヴァイス(ka0364)に慰めているという意識はない。
グレムリン達が向かっていたのは複数のCAMが保管された格納庫。
歪虚汚染されるなどして歪虚化すれば、大きな戦力が2つそのまま敵になる。
主に的確な指示をもらった【ホムラ】は焦らず進路妨害を優先する。
イェジドのような足止めスキルは無いが、速度で勝っているため足を鈍らせことは出来ていた。
「よし!」
クオンが小さく拳を握る。
カノン砲の打ちだした弾がグレムリンの本体に当たり不気味な形に変形させる。
【ホムラ】が巻き起こす嵐が、体勢を崩した歪虚を巻き込み切り刻んだ。
「目処が立ちましたね」
計算に使用する数値を指定しながらクオンがつぶやく。
HMDの隅に小さく表示されたディスプレイで、過去のそれとは少し形が異なるレシプロ機が映し出されている。戦闘機を直接目にする訓練生時代以来なので懐かしい。
「敵にすると厄介ですからね」
「本当にな。半分に割り引いて考えても恐ろしい兵器だ」
クリムゾンウェスト生まれのヴァイスが相づちを打つ。
空高く高速で飛べ、大量の砲弾まで運べる兵器というのはCAMより弱い場合でも戦略レベルの脅威になり得る。
「あはは、地球……リアルブルーではVOIDによいようにやられましたけどね」
発砲。
紙一重で回避される。
倉庫の扉を庇う位置に移動して次の弾を用意する。
「多分注意はしていたと思うんですけど」
対VOID戦初期は状態異常対策が拙かった。
撃墜されるならましな方で、取り込まれたり乗っ取られたりもあった。
そんな事態が起こる前にグレムリンを皆殺しにする必要が有る。
「クリムゾンウェストで航空機が普及していないのは……」
リアルブルーの航空機だと化石燃料という貴重な物資を大量消費する上対歪虚装備を載せるとさらにコストが悪化。
クリムゾンウェストの航空機だと対歪虚の技術蓄積があってもそれ以外が発展途上。
航空機を諦めてCAMに全力を注ぐ研究者も多数いるのが現状だ。
「せめてあれが……グレムリンがいなければ」
砲弾が膝を消し飛ばす。小さな足が回転しながら落ちていく。
文字通り命をかけて回避に専念する飛行歪虚は、全身に酷い傷を追った状態で辛うじて生きている。
「いいぞホムラ、そこだ」
最後の風の魔法が、半死半生のグレムリンを上から下に両断した。
ヴァイスは油断無く周囲を警戒しつつトランシーバーを手に取る。
「こっちは無事撃破した、そちらの状況は?」
予想した返事も期待した返事もない。
微かなではあるが動揺した呼気が聞こえた。
ヴァイスは即座に南下を命じる。
気配に気づいたクオンも後を追う。
「クオンと共に南下中だ。何があった」
南にある倉庫の1つから小さな黒いものが途切れること無く現れる。
全て羽付きのグレムリンであり、蠢くそれらは昆虫じみた動きをしていた。
●30ミリ砲戦闘機
緑の大地が頭上を行きすぎる。
不自然な方向に加速し続けているので気を抜くとどこが地面だったか忘れそうだ。
「戦闘機とのドッグファイトとは、心が躍るな!」
鞍馬 真(ka5819)が片手だけで手綱を操る。
ワイバーン【カートゥル】が逞しい足を振ると当時に翼の角度を微調整。
地上に対し数メートル平行移動したところで30ミリ弾が大外れで通過した。
楽しげな笑い声がこぼれる。
忠実なワイバーンと共に、古風にも近未来的にも見えるレシプロ戦闘機と正面対決。
忘れかけていた少年の心を蘇らせるには十分だった。
「足を緩めたな!」
30ミリ砲発射直後の戦闘機に声をかける。
航空機基準で低空低速でしか飛べない機体だが動きは悪くない。
人間大の飛行歪虚程度なら状態異常に引っかからない限り互角以上に戦えるだろう。
だがここにいるのはハンターとその相棒だ。
敵機と正対した位置から螺旋軌道を描き、尾翼が見えた時点で加速を行い戦闘機の背後につける。
バレルロールからのサイドワインダー。
記録が撮られていたならそのまま教本に載ってもおかしくない動きであった。
歪虚は反撃しようとするが手段がない。
30ミリ砲を後ろには向けられず、体当たりをすれば万一成功しても自分も墜ちかねない。
「耐えてみろ!」
魔導剣を一閃する。
血色の刃が小さな、けれど恐ろしいほどの威力が籠もった衝撃波を生み出し、刃の延長線上に破壊の力を展開する。
陶器が砕けるのに似た音が響く。
尾翼から操縦席近くまで切れ目が入り、貴重な航空燃料が黒煙と共に噴き出し黒い線をなす。
「……耐えられたか」
真は落ち着いている。
手応えはあった。消滅ぎりぎりのダメージを与えたのは確かだが、ちょっとこれはまずいかもしれない。
戦闘機が全力で飛び極めて大きな円の一部を描く。
【カートゥル】と同程度の速度でしか無いし、鍛えたスキルを駆使すれば十分追いつける。
ただ、追いつくまでに時間がかかる上にどこまで飛んでしまうか想像がつかない。
「勢子役は任せろ」
ヴァイスが戦闘機の予想進路上に【ホムラ】と我が身を滑り込ませる。
相手が普通の歪虚なら、ヴァイスの気配に気づいた時点で進路を大きく変えただろう。
しかし歪虚化しても戦闘機でしかないそれは、ほんの少し方向を変えることしか出来ず【ホムラ】は容易く近づくことが出来た。
「興味深くはあるがな」
油の気配がする。
とても貴重で高価なマテリアルの気配だ。
「歪虚は仕留める。それだけだ」
鍛え抜いた体を覆っていたオーラが濃さを増す。
紅蓮の炎のように揺らめき、その一部が眩しく光り鮮烈な雷が飛び出す。
歪虚戦闘機が横に機体を傾ける。
酷く躱しにくい直線型範囲攻撃をぎりぎりで躱す。だが躱せたのはわざとヴァイスが目立つよう撃ったからで、ヴァイスの主目的は破壊以外にあった。
ワイバーンが力強く羽ばたく音がレシプロ機の真正面からから響く。
血色の刃が爽やかな日の光を浴び、神話の剣じみた美しい光を放つ。
戦闘機は、雷を避けたつもりで剣の間合いに飛び込んでいた。
「任せる」
【カートゥル】が主の意思に忠実に従う。
歪虚がどう逃げようと主の攻撃圏に収まる進路を選び、歪虚の残骸が飛び散っても巻き込まれない距離を保って最大限に加速する。
極限の集中が真から表情を消す。
蒼い瞳が一瞬だけ、金色に輝いて見えた。
血色の刃が地面と垂直に宙を滑る。
装甲など装甲しないかのように戦闘機を貫く。
十数メートル移動した後、上下に真っ二つに裂けぞれぞれ別の方法に墜ちていく。
歪虚化が深刻なコクピットと燃料タンクが切り分けられているため、汚染も大きな爆発も一切起こらなかった。
●Gの濁流
攻撃的なマテリアルが天へと駆け上る。
獰猛な幻獣を思わせるそれは、強大な破壊力と優れた射程を兼ね備えている。
が、すばしっこさが取り柄の羽付グレムリンが必死の形相で回避して、引き攣った笑みを浮かべて耳障りな高音で挑発し始めた。
イェジドが殺気だった視線を向ける。
音がますます大きくなる。
「下に来ないなら十分だ。後は弓使いと……弓使いに任せとけ」
トリプルJ(ka6653)が単なる事実を口にする。
一見軽くその実高度な知性に裏付けられた言葉に触れて、イェジドは落ち着きを取り戻して次の目標に向かった。
「まさかこっちの世界にこういう能力のある歪虚が居るとはなぁ」
頭上だけでなく北にもグレムリンが飛んでいる。
合計4体のこれ自体は大した敵ではないが、その上を飛ぶ2機の歪虚化戦闘機は非常に面倒くさい。
「リアルブルーから一緒に紛れ込んできやがったのか?」
それならまだましだ。
この歪虚達は伝承に登場するグレムリンとは異なり、壊すのでははく汚染するのだから。
1つの倉庫に走り寄る。
歪虚化戦闘機が発進した格納庫のようで、半開きの扉からなかなか豪華な設備が見える。
「肌にびりびり来やがる」
開いた空間の中央に立つ。
粘着く視線が届いた直後、扉やクレーンの影から10を超すグレムリンが飛びかかってきた。
「何匹でも」
体重移動で察したイェジドがするりと包囲を抜ける。
分厚い扉の三角飛びの足場にして、高い位置まで主を運ぶ。
「同じだがな」
打ち下ろすストレート。
攻撃的なマテリアルが真っ直ぐに伸び、3分の2のグレムリンを押し潰して地面に突き刺さった。
「助かった。後は節約してくれよ」
イェジドの頭を撫でる。
行動阻害を与えるウォークライが実に良く効いたが残り使用回数はわずかだ。
効果範囲が広い有効なスキルだが、これでは可能な限り節約するしかない。
時間経過と共にグレムリンの動きが元に戻る。
トリプルJをあざ笑い、彼を乗せたイェジドを叩こうと動きが追いつけず、トリプルJの狙い通りに時間を無駄に消費した。
「……なんでしょう」
30mmアサルトライフルで数度牽制した後、エルバッハ・リオン(ka2434)は己の機体を倉庫近くに着陸させた。
敵が逃げないならこの場全ての歪虚を単身で倒すのも可能とは思うのだが、本能的な何かが全力で警戒を促している。
空のグレムリンは全滅寸前だし、歪虚化戦闘機も撤退も妨害されている。
建物内の歪虚もトリプルJが足止めしてくれているので、ファイアーボールで吹き飛ばせば後は戦闘機だけのはずだった。
グレムリンが1体、扉とイェジドの間をすり抜けた。
幻影の腕が細い体を力任せに握りしめ、その場から決して放さない。
「中は頼むぜ」
魔術師を連想させる機体が1つうなずき、ファイアーボールとは異なり周囲を巻き込まない銃を倉庫内に向けた。
直径30ミリの弾丸が軽快に発射される。
高度な回避能力を持つグレムリンにはトリプルJと同じくなかなか当たらない。
しかし相手の手が届かない距離からの攻撃は戦術の理想の1つだ。文句をつける者などいない。
「ですから、このままでは中の機材だけでなく格納庫全体に影響が出る蓋然性があると申し上げています」
エルバッハは攻撃だけでなく交渉も行っている。
回線の向こう側にいるのはこの地を管理する研究所の所長で、被害額を少しでも減らそうと無茶な要求をしてくる。
嫌な予感が強くなる。
何か、重大なことを見落としている気がする。
「5体目」
トリプルJが撃破数を確認してくれている。
このまま事態が進めば誰にとっても素晴らしい結果になるはずだ。
「話はまだ纏まらないのか? 中の具合が……こりゃまずい」
グレムリン1体を始末しもう1体を影で縛り付ける。
しかし歪虚は次々奥から現れては狭い入り口に殺到。
その数はあまりに多すぎイェジドの体格でも壁にはならない。
それでもトリプルJの腕でなんとか防いでいたが、扉に10体単位で歪虚がのしかかった結果、呆気ないほど軽い音を立てて扉が中から押し折れた。
黒い濁流が溢れる。
並べても区別のつかない歪虚の群れが、後から後から押し出されては無様に転がりじりじり迫る。
その様は、Gのつく昆虫を強く連想させた。
「っ」
嫌悪感で妙な吐息が一瞬だけ漏れる。
戦闘に支障をきたすような柔な鍛え方はしていないが、エルバッハは少女であり多少動揺することもある。
だから戦い方から容赦がなくなった。
火球を次々打ち込んでは爆発させ、これまでとは比べものにならない効率で歪虚を殺傷する。
しかし敵の数は多い。
当然撃ち漏らしも出てくるわけで、妙な気配を漂わせるグレムリンが脚部装甲の端に手をかけた。
HMDに警告表示が現れる。
負のマテリアルの濃度が極一部ではあるが急速に上昇。
30秒そのままなら【ウィザード】そのものが乗っ取られる可能性があった。
爆発が1つ。
無傷に見えるグレムリンが力なく装甲に寄りかかる。
その後頭部から背中にかけて、爆発で大きく抉れていた。
「過去の依頼の戦闘で飛行したことはありますが」
【ウィザード】が高度を上げる。
グレムリンの残骸が滑り落ち地面で砕ける。
「空中戦は確か初めてでしたね」
冷静にファイアーボールを連発。
飛んで追い縋るグレムリンを纏めて爆風で包む。
回避に優れているとはいえ一部のハンターや幻獣のような超絶の回避能力はなく、2度、3度と爆風を浴びせれば確実に落ちる。
新たに装甲に取り付いたのはたったの1体。
CAM用マテリアルダガーで切り落としたくなるのは理性で我慢する。
回避に優れた相手に向いているのは刃ではなく爆風だからだ。
「間に合いました。引きつけることしが出来ないかもしれませんが」
クオン機が地上に降りた上で支援砲撃を開始する。
広範囲攻撃手段は元々なく、高速演算も残り少ない状態では2、3体討ち取るだけでも大変だ。
盾として使っていた浮遊装甲に大柄なグレムリンが組み付き、少量ではあるが強烈な負マテリアルが注ぎ込まれた。
「というわけでお願いします」
エルバッハ機による爆発が発生。
タイミングをあわせて浮遊装甲にバリアを纏わせ耐えさせる。
装甲にしがみついたグレムリンだけでなく、その周囲のグレムリンも7割近くがその一撃で吹き飛ばされた。
「倉庫は任しとけ」
ヴァイスが呼びかける。
相棒のイェジドが一声吼えると倉庫内のグレムリン全てが怯えて足がもつれる。
トリプルJ達が始末をつけるまで、1分もかからなかった。
●蒼と紅の空中戦
「まぁ、色々と試したい気持ちは分からなくもないが、今回はそれが裏目に出たな」
歪虚化戦闘機により空気がかき乱されている。
狙いは並だが呆れるほどの射程を持つ105ミリ弾は、万一逃がしてしまうと極めて危険だろう。
「とはいえ、起きてしまったものは仕方ない。何処かへ居なくなる前に片づけるとしよう」
ワイバーン【ラヴェンドラ】の上で、透明だが大きく強靱な盾と法具の役割を果たす錬金杖を構える。
その体は男性にしては小柄であり、105ミリの砲を備えた歪虚がロニ・カルディス(ka0551)を甘く見た。
漫然とした射撃が始まる。
ロニは105ミリ弾が延々飛んでくるのを余裕をもって躱し、バレルロールとサイドワインダーを駆使してじりじりと距離を詰める。
そして、10メートルの距離まで詰めた所で闇の刃を発生させた。
「さすがに効きはしないだろうが」
無数の刃が105ミリ砲搭載に迫る。
案外器用に回避するが全ては無理で、いくつかの刃が発動機を貫通して一瞬で消えた。
「む」
エンジンが異音を発生させる。
まるで、故障で止まったのを力尽くで再起動させたかのようだ。
数秒の慣性飛行の後、歪虚化戦闘機は恐怖に駆られてロニから逃げ出した。
「なんと」
今のが決まれば一瞬で勝負がついた。
具体的にはエンストして墜落して地面で粉砕だ。
率直にいって、予想外の弱さだっった。
「……大丈夫なのか?」
戦闘機を作った人間の頭を思わず心配してしまう。
乗っ取り対策を含む状態異常対策が甘すぎるのではないだろうか。
このまま逃がす気は無いので、他の面子との連絡を密にした上での追跡を開始する。
「最高速度ではあちらに分がある。だが、機動力でも駆け引きでも負けるつもりは無い」
敵は一目散に逃げている。
ロニが追うが攻撃する余裕はない。
要するに単純な競争になる訳で、トランシーバー経由でもたらされる風や温度についての情報が非常に役に立つ。
しかも敵は怯えている。
進路の選び方も回避の動きも酷く雑になり、追い付けはしなくてもとある場所へ追い込むのは比較的簡単だった。
「本当に戦闘機だよ。いや戦闘機じゃないんだっけか? いいよもう戦闘機で!」
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)がグリフォンと共に空を舞う。
飛行幻獣としてはかなりの高速だが、105ミリ砲戦闘機に比べると速度では見劣りする。
「逃げられると本当にまずいか」
政治、経済、軍事、全ての面で非常にまずい。
だからといって怯えはしない。大きな意義のある戦いというのは、正直かなり盛り上がる。
「行くぞアストラ。新入りの鉄細工にこの空の厳しさを教えてやろうぜ!」
若き機導師とアストラが天に駆け上る。
対策無しでは一瞬で体温と体力を奪われる風が強烈に吹き付ける。
追われる戦闘機は、強風に翻弄されて本来の速度を出せていない。
「ドッグファイトは嫌か? なら正面対決だ!」
戦闘機の向きが変わる。
【アストラ】は向きは変えずに風に乗る。
歪虚とハンターが正面から向かい合い、凄まじい相対速度でお互い近づいた。
グリムバルドが握り拳を作る。
大きな力を注ぎ込まれたガントレットがきしみ、3つの光点を生じさせる。
「ハッ!」
大重量と衝突しかねない距離で腕を振ると、3つの点が光の線となり戦闘機の翼とレドームを突き抜けた。
戦闘機が安定を崩す。
【アストラ】は空中で180度反転という離れ業を見せる。
しかし両者の距離は瞬く間に離れ、追跡に専念するロニも距離を詰め切れない。
「対地攻撃機じゃないか」
握って開いてを繰り返してから、グリムバルドが思わずつぶやいた。
頑丈にも程がある。
複数世界の技術を結集した術具を使って、高位機導師による3連同時攻撃である。
普通の戦闘機なら当たれば落ちる。
「その分飛び方が甘いようだけどね」
トランシーバーがぎりぎりで電波を拾う。
『こちらヴァイス。歪虚の旋回能力が落ちている。上から押さえつけるから止めはやれよ』
グリフォンが高空から降ってくる。
頭部の純白と翼の深紅が美しいが、危険な軌道を危なげなく飛ぶ様の方がより美しい。
澄んだ青い空を雷が貫く。
歪虚となった戦闘機は速度を活かして躱しはするが、もとより低い進路変更能力がさらに落ちているためヴァイスの狙い通りの位置にしか行けなかった。
【アストラ】が力強く羽ばたく。
落下よりも速い速度で地上に向かい、逃げ惑い追い込まれた戦闘機の進路と交錯する。
「逃げ切ればお前の勝ちだ」
魔導ガントレット「キュベレー」が光を帯びる。
発動機が限界を超えて稼働。
わずかな増速と引き替えにプロペラと発動機にひびが入った。
歪虚は安堵する。
あの3連攻撃の射程からは逃れた。
後は逃げに逃げて、振り払ってから人間を襲えば良いのだ。
そんな甘すぎる夢はグリムバルドの術によって砕かれる。
術基準では超遠距離である60メートル飛んでも威力を落とさず、3つの光が無人のコクピットと燃料タンクを貫いた。
キャノピーが砕かれ後ろへ流れていく。
変形し根元から千切れた操縦桿も破片の中に混じっている。
攻撃を行った分速度は下がり、【アストラ】と戦闘機の距離が再び離れる。
しかし戦闘機の速度は明らかに落ちており、常に追いかけていたロニとの距離が20メートルを切った。
「ようやくか。ラヴェンドラ、確実にいくぞ」
ワイバーンが高度を上げる。
戦闘機が体当たりを試みても巻き込めない位置へ移動。
ロニが錬金杖を掲げる。
再び現れた無数の刃が、黒煙を吐き出した戦闘機に次々めり込み発動機を停止させた。
落ちていく。
水平方向への速度は0に近づき、垂直方向へは自由落下で急加速。
『研究所のメンバーは下がれ。巻き込まれたら死ぬぞ』
ヴァイスが避難誘導というより引率を担当している。
そして、ぼろぼろの航空機が地面に衝突して膨大な土煙が発生した。
グリムバルドが体を横に傾ける。
苦し紛れの105ミリ弾が何も貫けずに明後日の方向へ飛んでいく。
「しぶとさだけは認めてやるよ」
【アストラ】が着地する。
戦いの興奮は既にない。
グリムバルドは淡々とデルタレイを発動して歪虚の存在する力を削る。
風が吹く。
土煙の向こうから体積の半分近くが失われた歪虚が現れる。
105ミリが火を噴くが、砲の動きが遅すぎ【アストラ】にかすりもしない。
「よかったら止めを」
降下してきたロニに声をかける。
手柄を譲るという意味はほとんどない。歪虚を小さな部品まで完全破壊するのが面倒……いや、歪虚が復活する可能性を0にしたいだけだ。
セイクリッドフラッシュの光が大地と歪虚を通過した。
回路が蒸発する。
骨組み形を失い隅から蒸発して消えていく。
負の気配が完全に消える。
唯一残った105ミリ砲が地面に落ちてめり込んで、ようやく戦闘機騒動が終わったのだった。
綺麗に枯れた芝が地平線まで広がっている。
地平線から上には果ての無い青空。
風は弱く日差しは暖かだ。
そんな行楽地じみた場所を1台の自転車が走っている。
魔導エンジンが搭載されているとはいえ基本はママチャリ。
乗用馬程度の速度が出れば奇跡のはずだが実際にはワイバーン並の速度が出ている。
ブレーキの音が鳴る。
乾いた芝を数メートル削って止まり、八原 篝(ka3104)が悠然と足を下ろした。
「何にも考えずに撃てるなんていい依頼よね!」
籠からセラミック製の弓を取り出し構える。
覚醒者用装備としては頼りなく見えるほど小さい。
しかし篝が超人的な力を込めても壊れたりはせず、篝の繊細な指先にも素直に従う。
耳慣れない音が聞こえる。
記録映像の中にしかない、古い作りの発動機の音だ。
それに混じって鳥でもないのに羽ばたく音がいくつか。
篝の口元に淡い笑みが浮かんだ。
蒼く澄んだ1対の瞳が、今回の騒動の起点を静かにみつめる。
「1、2、3本」
幾何学模様と魔術が刻まれた矢を30センチの弓につがえる。
3本もつがえられているのに違和感はなく、実に様になっていて一幅の絵のようだ。
瞳から、ほんの微かに濁った光が一瞬漏れたようにも見えた。
指が動く。
弓に蓄えられたエネルギーが3本の矢に伝わり、自然な弧を描いて翼持つグレムリンに迫る。
このガーゴイルにも見えるグレムリンは、速くは無いが加速が凄い。
回避だけならハンターに迫る動きで躱そうとして、しかし同時に迫る3本の全てを回避するのは不可能だった。
左肩が砕けて片翼から力が抜ける。
右の脇腹を1本の矢が貫通。
速度が落ちた足を動かし切れずに太股に3本目が突き立つ。
「一匹に対して一度に3本全部撃ち込む。いくら身軽でも避けられないでしょ?」
発動機の音が近づいて来る。
聞き慣れた105ミリ弾の音が聞こえた時点で、篝は魔導ママチャリを漕いで位置をずらせていた。
砲弾で耕された土地から、篝のいない方向へ土煙が吹き出る。
「さあ、まだまだ行くわよ」
素晴らしい速度で新たな3矢をつがえ、最初を上回る精度で放つ。
飛行歪虚2体が、驚くほどあっさりと弓師により打ち落とされた。
●グレムリン
魔導型デュミナス【Phobos】。
火星の衛星の名を与えられた白地に真紅のカスタム機であり、機動力、防御力、白兵戦能力と射撃戦能力を高いバランスで兼ね備えた強力な兵器だ。
「参ったな」
クオン・サガラ(ka0018)には油断も未熟もない。
機体の計算能力を十全に活かした上で砲撃を行い、しかし完全に躱されてしまった。
「運が悪い、いえ言い訳ですね」
グレムリン歪虚の躱す動きが素晴らしい。
何度も攻撃を続ければ確実に当たりはするだろうが、今回は面倒な敵が多いので出来るだけ早く済ませたい。
美しい毛並みをしたグリフォンが小さな竜巻を発生させる。
面での攻撃は回避が難しい。威力もかなりのものだ。
しかし巻き込まれる直前でグレムリンが体を丸めて急所への直撃だけは回避する。
グリフォン【ホムラ】の瞳が力を増し、冷たい殺気が飛行歪虚へ突き立った。
「いいぞホムラ。このまま足止め最優先だ」
ヴァイス(ka0364)に慰めているという意識はない。
グレムリン達が向かっていたのは複数のCAMが保管された格納庫。
歪虚汚染されるなどして歪虚化すれば、大きな戦力が2つそのまま敵になる。
主に的確な指示をもらった【ホムラ】は焦らず進路妨害を優先する。
イェジドのような足止めスキルは無いが、速度で勝っているため足を鈍らせことは出来ていた。
「よし!」
クオンが小さく拳を握る。
カノン砲の打ちだした弾がグレムリンの本体に当たり不気味な形に変形させる。
【ホムラ】が巻き起こす嵐が、体勢を崩した歪虚を巻き込み切り刻んだ。
「目処が立ちましたね」
計算に使用する数値を指定しながらクオンがつぶやく。
HMDの隅に小さく表示されたディスプレイで、過去のそれとは少し形が異なるレシプロ機が映し出されている。戦闘機を直接目にする訓練生時代以来なので懐かしい。
「敵にすると厄介ですからね」
「本当にな。半分に割り引いて考えても恐ろしい兵器だ」
クリムゾンウェスト生まれのヴァイスが相づちを打つ。
空高く高速で飛べ、大量の砲弾まで運べる兵器というのはCAMより弱い場合でも戦略レベルの脅威になり得る。
「あはは、地球……リアルブルーではVOIDによいようにやられましたけどね」
発砲。
紙一重で回避される。
倉庫の扉を庇う位置に移動して次の弾を用意する。
「多分注意はしていたと思うんですけど」
対VOID戦初期は状態異常対策が拙かった。
撃墜されるならましな方で、取り込まれたり乗っ取られたりもあった。
そんな事態が起こる前にグレムリンを皆殺しにする必要が有る。
「クリムゾンウェストで航空機が普及していないのは……」
リアルブルーの航空機だと化石燃料という貴重な物資を大量消費する上対歪虚装備を載せるとさらにコストが悪化。
クリムゾンウェストの航空機だと対歪虚の技術蓄積があってもそれ以外が発展途上。
航空機を諦めてCAMに全力を注ぐ研究者も多数いるのが現状だ。
「せめてあれが……グレムリンがいなければ」
砲弾が膝を消し飛ばす。小さな足が回転しながら落ちていく。
文字通り命をかけて回避に専念する飛行歪虚は、全身に酷い傷を追った状態で辛うじて生きている。
「いいぞホムラ、そこだ」
最後の風の魔法が、半死半生のグレムリンを上から下に両断した。
ヴァイスは油断無く周囲を警戒しつつトランシーバーを手に取る。
「こっちは無事撃破した、そちらの状況は?」
予想した返事も期待した返事もない。
微かなではあるが動揺した呼気が聞こえた。
ヴァイスは即座に南下を命じる。
気配に気づいたクオンも後を追う。
「クオンと共に南下中だ。何があった」
南にある倉庫の1つから小さな黒いものが途切れること無く現れる。
全て羽付きのグレムリンであり、蠢くそれらは昆虫じみた動きをしていた。
●30ミリ砲戦闘機
緑の大地が頭上を行きすぎる。
不自然な方向に加速し続けているので気を抜くとどこが地面だったか忘れそうだ。
「戦闘機とのドッグファイトとは、心が躍るな!」
鞍馬 真(ka5819)が片手だけで手綱を操る。
ワイバーン【カートゥル】が逞しい足を振ると当時に翼の角度を微調整。
地上に対し数メートル平行移動したところで30ミリ弾が大外れで通過した。
楽しげな笑い声がこぼれる。
忠実なワイバーンと共に、古風にも近未来的にも見えるレシプロ戦闘機と正面対決。
忘れかけていた少年の心を蘇らせるには十分だった。
「足を緩めたな!」
30ミリ砲発射直後の戦闘機に声をかける。
航空機基準で低空低速でしか飛べない機体だが動きは悪くない。
人間大の飛行歪虚程度なら状態異常に引っかからない限り互角以上に戦えるだろう。
だがここにいるのはハンターとその相棒だ。
敵機と正対した位置から螺旋軌道を描き、尾翼が見えた時点で加速を行い戦闘機の背後につける。
バレルロールからのサイドワインダー。
記録が撮られていたならそのまま教本に載ってもおかしくない動きであった。
歪虚は反撃しようとするが手段がない。
30ミリ砲を後ろには向けられず、体当たりをすれば万一成功しても自分も墜ちかねない。
「耐えてみろ!」
魔導剣を一閃する。
血色の刃が小さな、けれど恐ろしいほどの威力が籠もった衝撃波を生み出し、刃の延長線上に破壊の力を展開する。
陶器が砕けるのに似た音が響く。
尾翼から操縦席近くまで切れ目が入り、貴重な航空燃料が黒煙と共に噴き出し黒い線をなす。
「……耐えられたか」
真は落ち着いている。
手応えはあった。消滅ぎりぎりのダメージを与えたのは確かだが、ちょっとこれはまずいかもしれない。
戦闘機が全力で飛び極めて大きな円の一部を描く。
【カートゥル】と同程度の速度でしか無いし、鍛えたスキルを駆使すれば十分追いつける。
ただ、追いつくまでに時間がかかる上にどこまで飛んでしまうか想像がつかない。
「勢子役は任せろ」
ヴァイスが戦闘機の予想進路上に【ホムラ】と我が身を滑り込ませる。
相手が普通の歪虚なら、ヴァイスの気配に気づいた時点で進路を大きく変えただろう。
しかし歪虚化しても戦闘機でしかないそれは、ほんの少し方向を変えることしか出来ず【ホムラ】は容易く近づくことが出来た。
「興味深くはあるがな」
油の気配がする。
とても貴重で高価なマテリアルの気配だ。
「歪虚は仕留める。それだけだ」
鍛え抜いた体を覆っていたオーラが濃さを増す。
紅蓮の炎のように揺らめき、その一部が眩しく光り鮮烈な雷が飛び出す。
歪虚戦闘機が横に機体を傾ける。
酷く躱しにくい直線型範囲攻撃をぎりぎりで躱す。だが躱せたのはわざとヴァイスが目立つよう撃ったからで、ヴァイスの主目的は破壊以外にあった。
ワイバーンが力強く羽ばたく音がレシプロ機の真正面からから響く。
血色の刃が爽やかな日の光を浴び、神話の剣じみた美しい光を放つ。
戦闘機は、雷を避けたつもりで剣の間合いに飛び込んでいた。
「任せる」
【カートゥル】が主の意思に忠実に従う。
歪虚がどう逃げようと主の攻撃圏に収まる進路を選び、歪虚の残骸が飛び散っても巻き込まれない距離を保って最大限に加速する。
極限の集中が真から表情を消す。
蒼い瞳が一瞬だけ、金色に輝いて見えた。
血色の刃が地面と垂直に宙を滑る。
装甲など装甲しないかのように戦闘機を貫く。
十数メートル移動した後、上下に真っ二つに裂けぞれぞれ別の方法に墜ちていく。
歪虚化が深刻なコクピットと燃料タンクが切り分けられているため、汚染も大きな爆発も一切起こらなかった。
●Gの濁流
攻撃的なマテリアルが天へと駆け上る。
獰猛な幻獣を思わせるそれは、強大な破壊力と優れた射程を兼ね備えている。
が、すばしっこさが取り柄の羽付グレムリンが必死の形相で回避して、引き攣った笑みを浮かべて耳障りな高音で挑発し始めた。
イェジドが殺気だった視線を向ける。
音がますます大きくなる。
「下に来ないなら十分だ。後は弓使いと……弓使いに任せとけ」
トリプルJ(ka6653)が単なる事実を口にする。
一見軽くその実高度な知性に裏付けられた言葉に触れて、イェジドは落ち着きを取り戻して次の目標に向かった。
「まさかこっちの世界にこういう能力のある歪虚が居るとはなぁ」
頭上だけでなく北にもグレムリンが飛んでいる。
合計4体のこれ自体は大した敵ではないが、その上を飛ぶ2機の歪虚化戦闘機は非常に面倒くさい。
「リアルブルーから一緒に紛れ込んできやがったのか?」
それならまだましだ。
この歪虚達は伝承に登場するグレムリンとは異なり、壊すのでははく汚染するのだから。
1つの倉庫に走り寄る。
歪虚化戦闘機が発進した格納庫のようで、半開きの扉からなかなか豪華な設備が見える。
「肌にびりびり来やがる」
開いた空間の中央に立つ。
粘着く視線が届いた直後、扉やクレーンの影から10を超すグレムリンが飛びかかってきた。
「何匹でも」
体重移動で察したイェジドがするりと包囲を抜ける。
分厚い扉の三角飛びの足場にして、高い位置まで主を運ぶ。
「同じだがな」
打ち下ろすストレート。
攻撃的なマテリアルが真っ直ぐに伸び、3分の2のグレムリンを押し潰して地面に突き刺さった。
「助かった。後は節約してくれよ」
イェジドの頭を撫でる。
行動阻害を与えるウォークライが実に良く効いたが残り使用回数はわずかだ。
効果範囲が広い有効なスキルだが、これでは可能な限り節約するしかない。
時間経過と共にグレムリンの動きが元に戻る。
トリプルJをあざ笑い、彼を乗せたイェジドを叩こうと動きが追いつけず、トリプルJの狙い通りに時間を無駄に消費した。
「……なんでしょう」
30mmアサルトライフルで数度牽制した後、エルバッハ・リオン(ka2434)は己の機体を倉庫近くに着陸させた。
敵が逃げないならこの場全ての歪虚を単身で倒すのも可能とは思うのだが、本能的な何かが全力で警戒を促している。
空のグレムリンは全滅寸前だし、歪虚化戦闘機も撤退も妨害されている。
建物内の歪虚もトリプルJが足止めしてくれているので、ファイアーボールで吹き飛ばせば後は戦闘機だけのはずだった。
グレムリンが1体、扉とイェジドの間をすり抜けた。
幻影の腕が細い体を力任せに握りしめ、その場から決して放さない。
「中は頼むぜ」
魔術師を連想させる機体が1つうなずき、ファイアーボールとは異なり周囲を巻き込まない銃を倉庫内に向けた。
直径30ミリの弾丸が軽快に発射される。
高度な回避能力を持つグレムリンにはトリプルJと同じくなかなか当たらない。
しかし相手の手が届かない距離からの攻撃は戦術の理想の1つだ。文句をつける者などいない。
「ですから、このままでは中の機材だけでなく格納庫全体に影響が出る蓋然性があると申し上げています」
エルバッハは攻撃だけでなく交渉も行っている。
回線の向こう側にいるのはこの地を管理する研究所の所長で、被害額を少しでも減らそうと無茶な要求をしてくる。
嫌な予感が強くなる。
何か、重大なことを見落としている気がする。
「5体目」
トリプルJが撃破数を確認してくれている。
このまま事態が進めば誰にとっても素晴らしい結果になるはずだ。
「話はまだ纏まらないのか? 中の具合が……こりゃまずい」
グレムリン1体を始末しもう1体を影で縛り付ける。
しかし歪虚は次々奥から現れては狭い入り口に殺到。
その数はあまりに多すぎイェジドの体格でも壁にはならない。
それでもトリプルJの腕でなんとか防いでいたが、扉に10体単位で歪虚がのしかかった結果、呆気ないほど軽い音を立てて扉が中から押し折れた。
黒い濁流が溢れる。
並べても区別のつかない歪虚の群れが、後から後から押し出されては無様に転がりじりじり迫る。
その様は、Gのつく昆虫を強く連想させた。
「っ」
嫌悪感で妙な吐息が一瞬だけ漏れる。
戦闘に支障をきたすような柔な鍛え方はしていないが、エルバッハは少女であり多少動揺することもある。
だから戦い方から容赦がなくなった。
火球を次々打ち込んでは爆発させ、これまでとは比べものにならない効率で歪虚を殺傷する。
しかし敵の数は多い。
当然撃ち漏らしも出てくるわけで、妙な気配を漂わせるグレムリンが脚部装甲の端に手をかけた。
HMDに警告表示が現れる。
負のマテリアルの濃度が極一部ではあるが急速に上昇。
30秒そのままなら【ウィザード】そのものが乗っ取られる可能性があった。
爆発が1つ。
無傷に見えるグレムリンが力なく装甲に寄りかかる。
その後頭部から背中にかけて、爆発で大きく抉れていた。
「過去の依頼の戦闘で飛行したことはありますが」
【ウィザード】が高度を上げる。
グレムリンの残骸が滑り落ち地面で砕ける。
「空中戦は確か初めてでしたね」
冷静にファイアーボールを連発。
飛んで追い縋るグレムリンを纏めて爆風で包む。
回避に優れているとはいえ一部のハンターや幻獣のような超絶の回避能力はなく、2度、3度と爆風を浴びせれば確実に落ちる。
新たに装甲に取り付いたのはたったの1体。
CAM用マテリアルダガーで切り落としたくなるのは理性で我慢する。
回避に優れた相手に向いているのは刃ではなく爆風だからだ。
「間に合いました。引きつけることしが出来ないかもしれませんが」
クオン機が地上に降りた上で支援砲撃を開始する。
広範囲攻撃手段は元々なく、高速演算も残り少ない状態では2、3体討ち取るだけでも大変だ。
盾として使っていた浮遊装甲に大柄なグレムリンが組み付き、少量ではあるが強烈な負マテリアルが注ぎ込まれた。
「というわけでお願いします」
エルバッハ機による爆発が発生。
タイミングをあわせて浮遊装甲にバリアを纏わせ耐えさせる。
装甲にしがみついたグレムリンだけでなく、その周囲のグレムリンも7割近くがその一撃で吹き飛ばされた。
「倉庫は任しとけ」
ヴァイスが呼びかける。
相棒のイェジドが一声吼えると倉庫内のグレムリン全てが怯えて足がもつれる。
トリプルJ達が始末をつけるまで、1分もかからなかった。
●蒼と紅の空中戦
「まぁ、色々と試したい気持ちは分からなくもないが、今回はそれが裏目に出たな」
歪虚化戦闘機により空気がかき乱されている。
狙いは並だが呆れるほどの射程を持つ105ミリ弾は、万一逃がしてしまうと極めて危険だろう。
「とはいえ、起きてしまったものは仕方ない。何処かへ居なくなる前に片づけるとしよう」
ワイバーン【ラヴェンドラ】の上で、透明だが大きく強靱な盾と法具の役割を果たす錬金杖を構える。
その体は男性にしては小柄であり、105ミリの砲を備えた歪虚がロニ・カルディス(ka0551)を甘く見た。
漫然とした射撃が始まる。
ロニは105ミリ弾が延々飛んでくるのを余裕をもって躱し、バレルロールとサイドワインダーを駆使してじりじりと距離を詰める。
そして、10メートルの距離まで詰めた所で闇の刃を発生させた。
「さすがに効きはしないだろうが」
無数の刃が105ミリ砲搭載に迫る。
案外器用に回避するが全ては無理で、いくつかの刃が発動機を貫通して一瞬で消えた。
「む」
エンジンが異音を発生させる。
まるで、故障で止まったのを力尽くで再起動させたかのようだ。
数秒の慣性飛行の後、歪虚化戦闘機は恐怖に駆られてロニから逃げ出した。
「なんと」
今のが決まれば一瞬で勝負がついた。
具体的にはエンストして墜落して地面で粉砕だ。
率直にいって、予想外の弱さだっった。
「……大丈夫なのか?」
戦闘機を作った人間の頭を思わず心配してしまう。
乗っ取り対策を含む状態異常対策が甘すぎるのではないだろうか。
このまま逃がす気は無いので、他の面子との連絡を密にした上での追跡を開始する。
「最高速度ではあちらに分がある。だが、機動力でも駆け引きでも負けるつもりは無い」
敵は一目散に逃げている。
ロニが追うが攻撃する余裕はない。
要するに単純な競争になる訳で、トランシーバー経由でもたらされる風や温度についての情報が非常に役に立つ。
しかも敵は怯えている。
進路の選び方も回避の動きも酷く雑になり、追い付けはしなくてもとある場所へ追い込むのは比較的簡単だった。
「本当に戦闘機だよ。いや戦闘機じゃないんだっけか? いいよもう戦闘機で!」
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)がグリフォンと共に空を舞う。
飛行幻獣としてはかなりの高速だが、105ミリ砲戦闘機に比べると速度では見劣りする。
「逃げられると本当にまずいか」
政治、経済、軍事、全ての面で非常にまずい。
だからといって怯えはしない。大きな意義のある戦いというのは、正直かなり盛り上がる。
「行くぞアストラ。新入りの鉄細工にこの空の厳しさを教えてやろうぜ!」
若き機導師とアストラが天に駆け上る。
対策無しでは一瞬で体温と体力を奪われる風が強烈に吹き付ける。
追われる戦闘機は、強風に翻弄されて本来の速度を出せていない。
「ドッグファイトは嫌か? なら正面対決だ!」
戦闘機の向きが変わる。
【アストラ】は向きは変えずに風に乗る。
歪虚とハンターが正面から向かい合い、凄まじい相対速度でお互い近づいた。
グリムバルドが握り拳を作る。
大きな力を注ぎ込まれたガントレットがきしみ、3つの光点を生じさせる。
「ハッ!」
大重量と衝突しかねない距離で腕を振ると、3つの点が光の線となり戦闘機の翼とレドームを突き抜けた。
戦闘機が安定を崩す。
【アストラ】は空中で180度反転という離れ業を見せる。
しかし両者の距離は瞬く間に離れ、追跡に専念するロニも距離を詰め切れない。
「対地攻撃機じゃないか」
握って開いてを繰り返してから、グリムバルドが思わずつぶやいた。
頑丈にも程がある。
複数世界の技術を結集した術具を使って、高位機導師による3連同時攻撃である。
普通の戦闘機なら当たれば落ちる。
「その分飛び方が甘いようだけどね」
トランシーバーがぎりぎりで電波を拾う。
『こちらヴァイス。歪虚の旋回能力が落ちている。上から押さえつけるから止めはやれよ』
グリフォンが高空から降ってくる。
頭部の純白と翼の深紅が美しいが、危険な軌道を危なげなく飛ぶ様の方がより美しい。
澄んだ青い空を雷が貫く。
歪虚となった戦闘機は速度を活かして躱しはするが、もとより低い進路変更能力がさらに落ちているためヴァイスの狙い通りの位置にしか行けなかった。
【アストラ】が力強く羽ばたく。
落下よりも速い速度で地上に向かい、逃げ惑い追い込まれた戦闘機の進路と交錯する。
「逃げ切ればお前の勝ちだ」
魔導ガントレット「キュベレー」が光を帯びる。
発動機が限界を超えて稼働。
わずかな増速と引き替えにプロペラと発動機にひびが入った。
歪虚は安堵する。
あの3連攻撃の射程からは逃れた。
後は逃げに逃げて、振り払ってから人間を襲えば良いのだ。
そんな甘すぎる夢はグリムバルドの術によって砕かれる。
術基準では超遠距離である60メートル飛んでも威力を落とさず、3つの光が無人のコクピットと燃料タンクを貫いた。
キャノピーが砕かれ後ろへ流れていく。
変形し根元から千切れた操縦桿も破片の中に混じっている。
攻撃を行った分速度は下がり、【アストラ】と戦闘機の距離が再び離れる。
しかし戦闘機の速度は明らかに落ちており、常に追いかけていたロニとの距離が20メートルを切った。
「ようやくか。ラヴェンドラ、確実にいくぞ」
ワイバーンが高度を上げる。
戦闘機が体当たりを試みても巻き込めない位置へ移動。
ロニが錬金杖を掲げる。
再び現れた無数の刃が、黒煙を吐き出した戦闘機に次々めり込み発動機を停止させた。
落ちていく。
水平方向への速度は0に近づき、垂直方向へは自由落下で急加速。
『研究所のメンバーは下がれ。巻き込まれたら死ぬぞ』
ヴァイスが避難誘導というより引率を担当している。
そして、ぼろぼろの航空機が地面に衝突して膨大な土煙が発生した。
グリムバルドが体を横に傾ける。
苦し紛れの105ミリ弾が何も貫けずに明後日の方向へ飛んでいく。
「しぶとさだけは認めてやるよ」
【アストラ】が着地する。
戦いの興奮は既にない。
グリムバルドは淡々とデルタレイを発動して歪虚の存在する力を削る。
風が吹く。
土煙の向こうから体積の半分近くが失われた歪虚が現れる。
105ミリが火を噴くが、砲の動きが遅すぎ【アストラ】にかすりもしない。
「よかったら止めを」
降下してきたロニに声をかける。
手柄を譲るという意味はほとんどない。歪虚を小さな部品まで完全破壊するのが面倒……いや、歪虚が復活する可能性を0にしたいだけだ。
セイクリッドフラッシュの光が大地と歪虚を通過した。
回路が蒸発する。
骨組み形を失い隅から蒸発して消えていく。
負の気配が完全に消える。
唯一残った105ミリ砲が地面に落ちてめり込んで、ようやく戦闘機騒動が終わったのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/01/19 21:10:59 |
||
試作品の後片付け ロニ・カルディス(ka0551) ドワーフ|20才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/01/20 22:25:10 |