アマリリス~飛行偵察隊

マスター:深夜真世

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/02/04 12:00
完成日
2018/02/18 01:12

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●物語背景
「鉱山作業の経験者で私たちを知るハンターの推薦があったのですから断る理由はありません」
 蒸気工業都市「フマーレ」郊外の旧グリス邸執務室で、セル鉱山のオーナーであるアマリリスことアムはにっこりとほほ笑んだ。手元の書類にサインする。
「では、早速現地の方へ向かわせます。もしも彼らの詳しい素性が必要ならハンターオフィスの依頼資料を見れば確認できるそうです」
 執事のバモスは書類を受け取り付け加える。
 こうして、とある依頼で職を失った者たちが新たな仕事場を得ることになった。
「実際、ポカラ村の住民を村の跡地に戻す計画もあるし、増員は嬉しいわ」
「ただ、そのポカラ村ですが未だ安全の確認が取れていないそうです」
 解説すると、同盟領のとある場所にあったポカラ村が大型歪虚に壊滅状態にされ、その難民を増員の必要があったセル鉱山で受け入れていた。いずれ故郷に戻りたいという意思があり、大型歪虚の侵攻がほぼ終わったので帰還し復興したいという希望が挙がっていた。
 これを実現させるには、セル鉱山の増員とポカラ村跡地の安全確認が必須。
 ただ、どちらもうまくいかない。
「セルリアの資金もこれ以上宙ぶらりんにしておくわけにはいかないし……」
 うーん、とアムが唸ったのは、セル鉱山近くにあったゴブリンの竪穴――セルリアと呼ばれる魔法一族の王墓から出た副葬品の金銀財宝である。
 ハンターの力を借りて王墓玄室への扉を開く謎と、王の呪いを防ぐ儀式を完全看破し財宝を持ち出すことができたのだが、魔法協会広報室にバレている。一応、土地の所有者であり発見者であるアマリリス商会に所有権はあるのだが、口止めして公表していない。公表したが最後、様々な方面から財産を守るのに神経を使う羽目になる。何より、セル鉱山で働く者たちはもともと荒くれものだったり盗賊だったりと、大金の存在を知ればどう出るか分からない連中である。対応を間違えるとあっという間に崩壊する危険性をはらんでいる。
「ポカラ村跡地に伐採場を設け、海岸沿いまで運んで造船業に打って出るのが一番です。同盟評議会も新たな産業の創出にむしろ後押ししてくれるはずですし、お嬢様のお父様――マッケレル海商の支援にもなります」
「……となると、やっぱり問題はポカラ村跡地の安全確保ね」
 うーん、とさらに唸るアム。
「鉱山の方はハミルさんとメイスンに任せておけば大丈夫ですからね」
 バモスも頷く。

●依頼本編
 さて、そのポカラ村跡地。
「一応、南西にある川岸に新たな駐屯地を造ってはいるが……」
「森の監視にゃここがもってこい、ってね」
 可変式魔導アーマー「ビルドムーバー」をトラック形態にして運転しているモータルの呟きに、補助席に座るキアンがぼやいた。
 ぼやく理由はキアンの足元。積めるだけ積んだ飲料水入りの小さな樽にある。
 これまでは村の最後の井戸が残っていたが、村の完全崩壊後はそれも潰れていたので川から汲んで運ぶしかないのだ。
「まあ、アムは村を川の近くに持ってきて森から伐採した木を川で運びたいらしい。それも兼ねてるんだろうけど」
「とはいえ見晴らしは元の場所の方がいいからな」
 到着して停車。
 その時、見張り用駐屯地から義勇隊の仲間が駆け寄って来た。
「モータルさん、やっぱり今日も羽根蟻を確認したよ。森から少し飛んでまた森の中に戻った」
「こっちに来そうか?」
 双眼鏡を持った男に聞くと首を振った。
「遠いし一匹。前に確認した時よりむしろ遠いような感じです」
「けッ、こんなとろくせぇことやってられっかよ。こっちから打って出ねぇのか?」
 キアン、キレた。元々盗賊の荒くれ者だ。さもありなん。
「魔術師協会にも相談してみよう」
 成果があるとは思わないが、とモータル。
 が、成果があった。
 ここで大型歪虚の監視業務をモータルたちの義勇隊に委託していた魔術師協会は、ハンターの航空部隊少数を派遣するというのだ。

 というわけで、飛行ユニットで森の上空を適当に飛んで、襲ってくる大型羽根蟻歪虚を掃討するハンター、求ム。

リプレイ本文


「なあ、新しい鉱山夫がこっちに流れて来たって聞いたぜ?」
 旧ポカラ村跡地に到着したトリプルJ(ka6653)が早速、現地に駐在するモータルに声を掛けた。その最中も相棒ユニットのワイバーン(ka6653unit004)からさほど大きくない樽を下ろす作業の手を止めない。
「セル鉱山はここから遠いですからね。あっちでバリバリ働いてるって聞いてますよ」
「そっか。仕事が終わったら一緒に酌み交わそうと思ったんだけどな」
 モータルの言葉に少し残念そうにしたJ。どうやら樽の中身は酒のようだ。
「ま、自分たちの能力を生かして貢献してるんならそれが一番だな。鉱山だってグリーク商会に買い取られたあの山よりゃ先があるだろう」
「Jさん、それお酒なの?!」
 あ。
 メルクーア(ka4005)が寄って来た。酒の匂いにつられたか。
「てっきり敵でも燃やすのかと思いました」
 サクラ・エルフリード(ka2598)も来た。こちらは戦闘用に使う油かもと見ていたようで。
「ひどい有様ですからね。民のためを思えばそれもまたいいでしょう」
 さらに寄って来たのは「不浄を灼く火祭の主」ことフェリア(ka2870)。瞳をかげらせているのはやはり地盤から根こそぎ壊滅させられている旧ポカラ村の惨状に心を痛めているから。
「でも森が焼けちゃうと大変だけどねー」
 メルクーア、汗たら~。
「いや、だから一杯やるんだって!」
「すでに一杯やってるような騒ぎだな」
 がうっ、と主張するJの横から榊 兵庫(ka0010)がぬっそり現れる。
「仕事の後だ、後!」
「しかし、まだ残っているとは。一杯食わされたぜ。……気になってはいたけど、ってのは言い訳だよな」
 今度は兵庫にがうっ。その横からレオーネ・インヴェトーレ(ka1441)が冷静に。
「その言葉だけでもうれしいですよ」
 孤独に自分たちだけでここを見張っていたモータルの本音である。
「それにしてもいつまで居座っているつもりなのだか…。腕以外にも何か理由があったのですかね…」
 サクラ、普段から真面目な顔でふざけている時も割と真面目な顔なのだが、真面目な顔で言う。
「大樹歪虚の戦いの時は見当たらなかったけど、やっぱ巣があるのか?」
「だとすると女王蟻でもいたりしないですかね…。穴があっても空から見えるとも限りませんが…」
 レオーネとサクラが最悪の展開に想像を巡らせる。
「発見されたのは羽根蟻、でしたね?」
「そうです」
 フェリア、念を押して聞いてみる。モータル、頷く。
「歪虚と言えど蟻だからなぁ…生態は普通の蟻と変わらねぇんじゃねぇの? 巣分かれの羽蟻なのか……」
 やれやれ、と森を見やるJ。
「……出来るならば、戦いなどではなく、その翼を広げてお前にのびのびとこの大空を駆けて貰うのが一番なんだろうな。……だが、こんな状況では致し方ないのか」
 そんなJを尻目に兵庫は相棒のグリフォン「月影(ツキカゲ)(ka0010unit005)」の身体を撫でていた。
「さあ、スティンガー、初仕事よ。頑張っていきましょ~」
 メルクーアも自身のワイバーン「スティンガー(ka4005unit003)」に向き直る。
「スティンガー、ですか……」
 自らのグリフォン「エアリアル(ka2870unit002)」の装備を確認していたフェリア、聞きとがめた。そう言えばお父様が、などと言いそうな雰囲気。
「相変わらずカクテルの名前よん♪」
 メルクーア、振り返って舌をぺろっと出したり。ああ、とフェリアも納得した。帝国の名家の長女だ。辛党の発する愛情を込めた発音に耳が反応することもあるだろう。逆に、メルクーアがこの歳にしてそういうおっさ……こほん、風格というか知識が備わっているともいうが。
「さて、ネーベル。今回はグリフォンキャリアー装備だ。頼んだぜ?」
「それでは行きましょうか…。出来るだけ奥まで調べられるといいのですけども…蟻がどの程度邪魔してくるかですかね…」
 レオーネも白毛白羽毛のグリフォン「白霧の騎士(ネーベルリッター)(ka1441unit003)」の方へ。サクラも名無しのワイバーン(ka2598unit005)へ歩み寄った。
 出撃である。
「あ、おい! 待てよ。俺様もこれで念願のテイマーだぜ! ……って、おい。聞いてくれ。ワイバーンテイムしてMAXまで育てたんだって」
 取り残されかけたJ、慌ててまだ名のないワイバーンの騎乗前装備点検をする。
 実はJ、このワイバーンとは初依頼。厳しい訓練を乗り越えての実戦に浮かれていた部分もあったのだ。
 もちろん、皆もその喜びを分かっている。
 全員急いでいたはずだが、騎乗する姿勢を止めてまでJの方を見てにやっとし、それぞれ無言で頷いたり親指を立てたりした。
 改めて出撃である。



「ええと、二人一組で3パーティーね。……こちらスティンガー、感度はどう?」
 空を飛んだメルクーア、早速トランシーバーやら魔導スマホやらで通話確認。中央に位置したのは連結通話と伝波増幅で連絡中継の役を果たすためだ。
「こちらJ。コードネームはワイバーンの名前か? こっちはまだ……」
「んじゃ、普通にしましょうか」
 Jはメルクーアとコンビで中央に。
「兵庫だ。感度良好」
「フェリアも同じく。敵も見えないわ」
 兵庫とフェリアは左に開いている。森上空に達したが眼下に異常はないようだ。
「ん……サクラも感度良好」
「レオーネだ。連結と伝波はオレもできるぜ。切れるあたりで交代していこう」
 サクラとレオーネは右に展開。どうやら連絡は密にできるようだ。
 飛行偵察の開始である。

 さて、左翼のグリフォン二頭。
「とはいえ、のんびりしたものですね」
「そうだな」
 長髪を片手で押さえるフェリアと軍用双眼鏡を手にした兵庫が呟き合う。
「まあ、その方がいいですかね?」
「この村跡地の安全が確保出来れば元村民の帰還にも弾みが付くかもしれないしな」
 二人の思いは、ここを立ち去らざるを得なかった民にあった。
「……なるべく多くの敵の間引きが出来ると良いのだが、な」
 今回の偵察は責任重大だ、と兵庫。近場の警戒はフェリアに任せ、自らは双眼鏡での広範囲警戒に切り替えた。
 この時、突然気流が乱れた。
 グリフォン二頭は少し煽られながらもすぐに体勢を立て直した。
「……出来るならば、戦いなどではなく、その翼を広げてお前にのびのびとこの大空を駆けて貰うのが一番なんだろうな」
 兵庫、主人のため高い木々に当たりそうなくらい低空飛行をしている月影の首筋を撫でてやった。
「あ、今のはもしかして……」
 フェリア、乱れた髪を気にして流した視線の端にうごめく黒い物体を捉えた。木々の間を動いている。
「……だが、こんな状況では致し方ないのか」
 兵庫、状況を理解。そちらへと月影を向かわせる。
「どうします?」
「初撃は任せる。逃がすとまずいだろう」
 ワンド「ゴールデン・バウ」を手にして聞くフェリテに短く答える。
 自らの手には、十文字槍「人間無骨」。月影の嘴には鳥嘴「カプリース」が光る。
 遠距離戦で空に呼び込み自ら決着をつける気満々である。
「さて、月影。上空での戦いではお前が頼りだ。……信頼させて貰うぞ、我が相棒」
 ぐうん、とフェリアのグリフォンから距離を置いた。
 その、フェリア。
「では、お任せします」
 たおやかに言うがその行動は裏腹。
 木々の間に先の羽虫を確認するとワンドを振るってファイアーボール。二つ名にふさわしい威力で――といっても、木々の間なので爆発の威力は軽減されているが――広範囲にダメージをいきわたらせた。
 ――ぴしゃっ、ぴしゃっ……ぶぅぅ~ん。
「来ました!」
「これは致し方ないな」
 酸の雨が周囲にまき散らされ、隠れていた羽虫がテイクオフして姿を現した。一匹である。
 グリフォン二頭と騎乗者はこれを食らうがひるまない。
「逃がすよりはましだろう」
 ぐん、と高度を下げた兵庫。頭上に浮上した羽根蟻を捉える勢いだ。
「こうすれば敵の死角にもぐることになり、こちらの死角もなくなる。……どうせ酸の雨は散って来るしな」
 いったん沈んで位置を取ると、一転高機動で加速上昇!
 この時、フェリアはうまく滞空して敵を引き付けていた。
「行くぞ、月影!」
 ほとばしるソウルエッジ。
 気迫の急加速をする月影。
 一気に敵の腹下を捉え……。
「古武術【榊流】……」
 ずぱっ、と人間武骨が突き刺さり引き抜かれた。
 ほぼ同時に月影の激しい嘴での突き攻撃。
「見事ですわ」
 狙われていたフェリテは涼しい顔で佇んだまま。
 兵庫と月影は一撃離脱して、すでに高い空に達していた。
 身動きしない羽根蟻が形を崩しながら森の中に落ちて行った。



 こちら、中央のワイバーン組。
「兵庫さんたちの方は現れたようね」
 通信に耳を傾けたメルクーアが戦闘態勢に入った左翼側を気にした。
「どっちから来たかが問題だな……」
「ん? どういうこと?」
 Jの呟きに反応する。
「巣がどっちにあるか分かるかもだぜ?」
「そんじゃ、敵を発見したら泳がせてみる?」
 にま、と応じるメルクーア。
「とはいえ……見失っちまうのもな」
 下を見るJ。
 森は密に茂っている。
 上空偵察しても確実に発見できるかも分からない。
 低空飛行しているのは目視発見のためだけではなく、敵からの対空攻撃を誘っている面もある。
「じゃ、できることを確実にしましょうかね~」
 メルクーアは爽やかに言うと身を動かした。
 彼女を乗せたスティンガーはこれに反応、少し身を傾けて右ロールし高度を下げた。
 いや、またすぐ何か指示するように動くメルクーア。今度は急上昇だ。
 と思ったら手にしたディファレンスエンジンを振り下ろしつつ急降下。
 どうやら実戦を想定したコンバットフライトを試しているらしい。地対空攻撃を受けた想定のようだが、まず下に逃げて相手の射角を下げさせ再び上空に逃げ敵を確実に視認してからの攻撃、という流れだろうか。
「よぉし。なかなかいいわよ、スティンガー!」
 もちろんいろいろ試している。いずれも満足そうなメルクーア。スティンガーも体を揺らして満足そうだ。主人の喜びが伝わっているらしい。
「やるじゃねぇか」
「私が見張るから今度はJさん、好きに飛んでみたら?」
「よし!」
 J、落ち着いた飛行に戻ったメルクーアと入れ替わりに……。
 おっと。
「あ、敵発見~。そっちに向かうよ!」
「おいっ!」
 まずはサイドワインダーを、などと思っていたJ、つんのめる。もちろん敵がいたなら掃討が先だ。
 ぎゅうん、と大きく弧を描くスティンガー。メルクーアはその内側の先を指差している。
 どうやら彼女は回り込みつつ、Jの直線攻撃を期待しているらしい。
 実際、敵が気付いたようでスティンガー方面に黄色い酸の雨を下から放出している。
「よし、予定通りサイドワインダーだ!」
 まだ名前のないワイバーンに指示するJ。これまでの訓練どおり、いい加速で目標潜伏地点付近へと突っ込む。
 と、Jの眼差しが優しくなった。
「俺ぁ射撃が苦手なんだ、期待してるぜ、相棒?」
 首筋を撫でる。
 意気に感じたかさらに速度が上がる。下への角度からも墜落しているのかともとれるような勢いだ。
 そうする理由は、すべてこの瞬間のため!
「いいぜ、この辺りだ!」
 ――どうっ……。
 Jの指示に応え、背負った幻獣砲「狼炎」をぶっ放す。
 同時に気付いた敵の酸、来たッ!
 ワイバーンにしがみつくJ。
「バレルロールだ!」
 何と、この木々も近い超低空域で樽が転がるように横回転して回避運動。もちろんその直後がくん、と急上昇して木々に引っかかるなどの危機を回避した。
 一方の羽根蟻歪虚。
 隠れいたので視認してからの砲撃ではない分、ダメージはない。
 ただ驚いたようでぶうん…と隠れていた森から浮上してきた。
「よおしっ、まずは急上昇!」
 そこへ絡むように、大回りして来たスティンガーが近寄り敵の注意を一身に受ける。
 メルクーア、突っ込んだ後は急上昇を指示。敵もつられてさらに上空へと舞い上がる。
 ともに並んで競うように空へ。
 戦闘をしないのは、酸には近く接近攻撃には遠いと絶妙な距離感を保っているため。メルクーアが攻めないのは……。
 おっと。
 敵がふわっと力を抜いた。
 あまり上空まで舞い上がれないようだ。
「とはいえ、思ったより飛んだわね」
 すっ、と上昇軌道から外れ下降線に入るスティンガー。特殊訓練サガラ仕様は伊達ではない。
 そしてメルクーアは敵の性能を見極めていたようだ。
 上昇性能が分かればもう遠慮する必要はない。敵も落ちつつ酸を放ってきた。Jはこの間に完全に万全の体勢に。
「これ食らうと森まで落ちるかしらね?」
 疑問に思いつつも機導砲!
 あ。
 やっぱりモロに食らって森に落ちた。殻がパラパラ散っているのは防御殻を外皮として纏っていたからか。
「もう見えるんで森に落ちても問題ないぜ……空爆だ」
 着地地点にJがすいっと入る。
 同時にレイン・オブ・ライトの空対地攻撃。
 たまらず敵がJ目掛けて一直線に飛んで来たが……。
「Jさん!」
「分かってるぜ!」
 低空域に移動していたメルクーアが水平移動しつつ射線に乗った。敵に狙われたJ、再びテンガロンハットを押さえバレルロール。敵の突っ込みを回避した。
「もうちょっといろいろ試したかったけどね~」
 その、スカって狼狽している敵の背後からスティンガーのファイヤブレス水平発射。
 直撃して吹っ飛びバラバラになる姿を横目に、突っ込んだ勢いのまま飛び去るメルクーアだった。



 そして右翼。グリフォン二頭。
「合図になるか?」
「……日中は微妙……かも」
 何やってんだ、な感じだが、どうやらレオーネが「魔導ライト「おでこぺっかりん☆」」で光の合図になるか試しているようだ。魔導アーマーのヘッド部分に装着可能なライトなだけに強力ではあるが、リアルブルーでいえば日中の車のパッシングと同じで正対していれば合図として気付くが注視していない者の気を激しく引くものではないようだ。
「それはそうと、またオレとコンビだな、サクラさん」
「そうですね。何もなければいい空の旅、という感じなのですけども……ね」
 サクラが微妙な言い方をしたのは、左翼、そして中央から戦闘開始の連絡が入ったから。
「結構広範囲にいるんだな」
「これまでは組織的な動きをしていたようにも思いますけどね……」
 実際、二人が交戦したのは敵側から攻めてきた時だ。
 組織力がなくなった、つまり攻める意思や戦力が無くなったのか、敵方もただの偵察なのか――。
「邪魔が多くなればそっちの方に何かしら大事なものがある、ということかもしれませんが…。さて、どうでしょうかね…」
「どっちにしても始末はつけないと終われないぜ」
 言い切るレオーネの言葉にサクラも頷く。
 瞬間、元村のあった場所の惨状が思い浮かんだ。
 復興できるのか――。
 アムさえ、元の場所をあきらめ少し外れた場所を考えているのだ。元村民の望む形ではないかもしれないが、致し方のないことだ。
 そう、もしかしたらただの自己満足、己の信念のためかもしれないが――。
「終われないんだよ。たとえ自意識過剰って言われても、だ」
 レオーネ、揺るがない。
「あ」
「どうした、サクラさん」
「目標物になりそうなもの、発見です……」
 ともに低空飛行していたが、サクラが木々のない岩場を発見した。ここなら飛行ユニットなどが一旦着陸することもできるだろう。
「苔生した岩が多いから目立たなかったですけど……」
「ついでだ、撮影しとくぜ?」
 魔導カメラでパシャリ。
 さらに森の奥へと飛ぶと……。
 ――ばしゃ、ばしゃっ!
「来たぜ!」
 眼下から放たれる黄色い酸に気付いたレオーネが叫ぶ。
「何度も戦った相手です…。あなたの攻撃はよくわかってますよ…」
 狙われたサクラはむしろ当たりに行くようにグリフォンを操った。
 理由は酸の速度が緩やかになり受け防御のしやすい放物線の頂点でサクラの構えた盾で処理してしまうため。
「とはいえ、酸の雨は厄介な事このうえないですけども…」
 高度を上げてしまっている。
 ついでに上に注意するあまり下がお留守になっている。
 もちろん、そこに羽根蟻歪虚が森から浮上し追撃する構え!
「ネーベル、頼むぜ?!」
 そこに水平位置からレオーネが来ている。
 騎乗のグリフォンが口を噛み、獣機銃「テメリダーV3」を発射!
 どうっ、と食らった羽根蟻歪虚の外殻が散る。これにより本体はまだ無傷。さらに上昇しつつサクラを狙う。
 ちょうど背後。七時の方向。グリフォンの死角だ!
 が、サクラも体勢を立て直すのに十分な時間をもらっていた。
 振り向く顔に余裕がある。
「近づいてくるなら私の得意距離ですよ…。刺し貫きます…!」
 銀の長髪が踊り身を伸ばす。
 その先に鋭く、霊槍「グングニル」の矛先。
 ――ぐさっ!
「……浅かったですか?」
 敵の突っ込みも甘かった。
 サクラの攻撃で羽根蟻、再び森の中に落ちた。
「この辺りだったか? ……わっ!」
 追ったレオーネ、防御障壁。
 敵は着地と同時に酸を撒き、タッチ&ゴーで再び空へ浮き上がった。レオーネは敵が一息つくと思っていたので不意を突かれた形だ。
 ただ、ネーベルはしっかりと反応。
「とにかく上昇だネーベル!」
 急上昇。
 ただ羽根蟻の上昇もそれと同等。
 同じ高度で顔を合わせた。
「くそっ。スライドだ!」
 レオーネの指示で横に距離を取るネーベル。敵も飛翔の頂点からさらに羽ばたいてついてきた。
「くっ! とにかく格闘は避けるぜ」
 さらに横にスライド。敵もさらに羽ばたき追随してくる。なかなかしつこい。
 が、ついに敵は飛翔の限界。
 少し間合いが空いたぞ。
 きらん、とレオーネの青い瞳が輝く。
「来たな、限界。ここだ、ネーベル!」
 勝負所でネーベル、翼を大きく広げて風をつかみ全身でそれを操った!
 ごぉう、と巻き起こる小竜巻。ツイスターだ!
「食らえ!」
 ここでマシンガンも火を噴いた。
 失速しつつネーベルから離れる敵羽根蟻。
 さらにそこに!
「ただ見ていたわけではありません……」
 静かな闘志とともにサクラが、彼女を乗せたグリフォンが急加速で狙っていた!
 少し上空に滞空していた状態から一気に加速したその技術は、サイドワインダー。
 身体をいっぱいに伸ばし矢のように一直線!
 そして噛みつくグリフォン。鞍上のサクラがそこを一突き。
 ツイスターを食らって動きの止まったところ、高速移動の衝撃と合わせ羽根も胴体もばらばらになるのだった。



 そして各班、帰投。
「さあ、酒盛りよん♪」
「おい、モータル。お前らも来いって。新しい鉱山夫連中がいないのは残念だがせっかくだ、楽しくやろうぜ」
 楽しそうに腰かけなど用意するメルクーアに、樽を割りつつモータルたち駐屯隊を呼ぶJ。
「天幕ぐらいは用意するものかと思いましたが……」
 フェリアが驚くのも無理はない。彼女は帝国の名家の出だ。
「報告が先のような気がしないでもないですが……」
「こちらは一匹を発見だ。はぐれ羽根蟻のようだった……まあ、最低の任は果たせただろう」
 いいのでしょうか、という感じのサクラ。ぶっきらぼうに報告した兵庫は木箱にどかっと腰掛けた。
「……本格的な掃討作戦の時には俺もこの槍を存分に振るわなければなるまいな」
 人間武骨を横に立てる兵庫。まだまだ本気を出したわけではなさそうだ。
「巣が見つかりゃすぐにでも本格的な掃討作戦だろ? 残念ながらこことかは違ったが」
 レオーネが魔導カメラのプリントを差し出す。
 例の、苔むした岩の広場である。
「着陸できそうだな。そういえばこっちはどうだったろう?」
「ええと……ここまで明確な広場はなかったはずです」
 兵庫とフェリアの担当した左翼には着陸に向く場所はなかったようだ。
「こっちには固まって木々の倒れてた場所があったかしらん?」
「でかい歪虚に二度襲われたんだろ? そいつが強引に木々を薙ぎ払って着陸した跡、って感じだったぜ?」
 中央担当のメルクーアとJの報告。敵の侵攻ルートにはそれなりの痕跡が残っていたようで。
「その割に蟻の動きはバラバラ……ですか」
「ま、もうちょっと様子見だろうな。……はぐれ羽根蟻のような手ごたえで巣があるような感じじゃなかったが」
 ふむ、と考えるサクラ。レオーネは肩をすくめた。
「差し当って危機が迫っている、というわけではないことが分かっただけでもありがたいですよ」
「そーだ。着陸可能地点があるなら今後偵察してもらうにしても頼みやすいしな」
 モータルと、その部下のキアンの言葉。写真があるので情報共有も早い。
 というか、いつの間にかハンターもモータルたちも輪になって酒をやりだしていた。
 いや。
 それだけではない。
「……え?」
「おいおい、一体どうした?」
 慌てるサクラとJの声。
「エアリアル」
「月影か。よくやってくれたな」
 フェリアと兵庫の元にも、主人を慕ってグリフォンがやって来ていた。サクラとJのところにはワイバーンが来ていたのである。
「ご主人たちが楽しそうにやってるから覗きに来たんでしょうね」
 モータル、くすくす笑っている。
「ちょうどいいわ。スティンガーも飲む?」
「飲ますのかよ! まあ、ネーベルもよくやったし労いたくはあるけどな」
 メルクーアとレオーネのところにも。
 とにかく、撫でてやったり餌をやったり、酒をちょびっとだけ飲ませたりと大いに盛り上がるのだった。

依頼結果

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参加者一覧

  • 亜竜殺し
    榊 兵庫(ka0010
    人間(蒼)|26才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ツキカゲ
    月影(ka0010unit005
    ユニット|幻獣
  • 魔導アーマー共同開発者
    レオーネ・インヴェトーレ(ka1441
    人間(紅)|15才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ネーベルリッター
    白霧の騎士(ka1441unit003
    ユニット|幻獣
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    ワイバーン
    ワイバーン(ka2598unit005
    ユニット|幻獣
  • 【Ⅲ】命と愛の重みを知る
    フェリア(ka2870
    人間(紅)|21才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    エアリアル
    エアリアル(ka2870unit002
    ユニット|幻獣
  • Pクレープ店員
    メルクーア(ka4005
    ドワーフ|10才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    スティンガー
    スティンガー(ka4005unit003
    ユニット|幻獣
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ワイバーン
    ワイバーン(ka6653unit004
    ユニット|幻獣

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
メルクーア(ka4005
ドワーフ|10才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2018/02/03 22:01:53
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/02/01 07:54:10