• 反影

【反影】スニークインザマシンワールド

マスター:真太郎

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~5人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/02/20 15:00
完成日
2018/02/27 16:46

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 グラウンド・ゼロには内部に様々な異界を内包する『虚無』という黒いドーム状の空間が幾つも存在している。
 異界の一つを調査したハンターのアズマは何らかの理由により、その異界から出る事ができなくなっていた。
 アズマと同じ調査隊の隊長だったハマーは彼を救う手立てがないか知るため、ハンターオフィスを訪れた。

 要件を伝えて案内された部屋の一室でハマーが待っていると、担当のオフィス職員が資料の束を手にしながらやってきた。
「お待たせしました。まずは虚無に関して判明した事をお話します」
 調査した虚無は全て内部に異界を内包していた。
 全ての異界で時間の巻き戻りが起こっていた。
 巻き戻りが起これば、それまで何かが壊れたり誰かが死んだりしていても元通りになった。
 異界内の物は外に持ち出す事はできなかった。
 異界内で撮影された画像や動画は外でも問題なく見る事ができた。
 虚無内には異界を構築している高位歪虚が存在していおり、その高位歪虚を倒せば虚無は完全に消滅するらしい。
 職員はそう言った事をまず話した。
「ここまでは全ての異界に共通する事柄です。ここからはハマーさん達の調査した異界について分かった事をお話します」
 職員が資料の束から幾つかの紙を抜き出す。
「歪虚に寄生された機械群が闊歩する異界、仮に『機界』と呼びましょうか。機界も他の異界と同じように一定のサイクルの時間を繰り返しています。そしてそのサイクルは異界が部外者を取り込んだ瞬間リセットされるようです」
「それは俺自身で何度も体験したので分かっている。それよりアズマの事で分かった事を教えてくれ。何故アイツを異界の外へ連れ出せないんだ」
「はい。私達は機界の巻き戻しがどの位の期間で起こるのかを知るため、ハマーさん達とは別のハンターに調査を依頼しました。兵士の陣地を遠方から密かに監視し続けた彼らの報告によると、アズマさんは兵士達と共に3日間陣地を支え続けました。しかし機械群の猛攻を支えきれなくなって陣地を放棄し……」
「ちょっと待て、おかしいぞ。俺達がアズマを1人異界に残していた時間は半日程だ。3日間陣地を支え続けていたのなら俺達の救援は間に合ったはずだ」
「それは、異界内と外とでは時間の流れる速さが違う事が原因だと思います」
「時間の流れが違う?」
「はい。調査隊の報告では機界での巻き戻りは7日後に起こり、巻戻りが起こるとハンター達は全員虚無の外に転移させられました。その際、外では半日と経っていなかったのです」
「なん、だと……」
「ですので、ハマーさんが半日で戻った時、機界内では既に7日以上経過していたと思われます」
「そんな……俺はすぐに戻ると言っておきながらヤツを1週間以上も待たせて……」
 スキルも使えず能力も半減する世界で1週間戦い続けたアズマに悲惨な結末が訪れただろう事は嫌でも分かる。
 しかし聞かなければならない。
 アズマ1人を残してきた自分には聞く義務があった。
「話を遮ってすまなかった。それで、アズマはどうなった?」
「陣地を放棄した兵士達は民間人を逃がすために遅滞戦を行い、アズマさんもそれに加わりました。プラヴァーは5日目に大破しましたが、アズマさんは現地の重火器で戦い続けました。しかし6日目に他の大半の兵士達と共に戦死し、民間人も7日目に全滅しました」
「くっ!」
 ハマーは渋面を浮かべて歯噛みした。
(俺が…‥…アイツを1人残していったばっかりに……)
 後悔と罪悪感の念が胸に内で膨れ上がり、顔を手で覆った。
(アイツの事だ、最後の瞬間まで俺が援軍を連れて戻ってくると信じて戦っていたに違いない。なのに俺は……俺は……間に合わず……)
 涙は堪えた。
 今の自分には泣く資格もないと思ったからだ。
 何より今は他にするべき事がある。
「アズマを、救う手段はないのか?」
「分かりません……」
 職員は難しい顔をした。
 しかし『分からない』は全否定ではない。
 ハマーはそこに縋った。
「何か救う手があるのか? あるなら教えてくれ! 頼む!」
 全力で頭を下げる。
「可能性はあるかもしれない、という程度の話ですが……」
「それでも構わない」
「分かりました。『マテリアルレーダー』の結果からアズマさんが歪虚化している事はほぼ間違いないと思われます。ですが歪虚化した人が助かった例もあります」
「本当か?」
「はい。高位の歪虚により堕落者にさせられた者は完全に歪虚化する前であれば、その高位歪虚を倒して助けられる場合があります。異界も高位歪虚によって作られている事が分かっています。異界で死んだ事により虚無に取り込まれたと考えられるアズマさんも高位歪虚によって歪虚化されたとも考えられ、堕落者に近い状態にあるかもしれません。もしそうであるなら機界を構築している高位歪虚を倒せば」
「アズマを助けられるんだな!」
 ハマーが勢い込んで尋ねる。
「いえ、全ては推論による可能性の話ですから本当に助けられるかどうかは不明で……」
「可能性が0%でないのなら十分だ。俺はそれに賭ける!」
 ハマーは決然とした面持ちで答えた。
「そうですね。いずれにせよ虚無を消滅させるには機界の高位歪虚を倒さなければなりません。しかしそれを成すには色々と問題があるのです」
「どんな問題だ?」
「まず、高位歪虚は恐らく機界の中心あたりにいると考えられますが、そこまでの距離が割と遠い事。そして機界はどこもかしこも歪虚に寄生された機械兵器だらけの世界だという事。生身の覚醒者はスキルが使えず能力も半減する事。それらが高位歪虚の討伐を困難にしています」
「……つまり、十全な力の出せない我々が単純に真正面から挑んだのでは、高位歪虚の元に辿り着く前に大量の機械群に包囲殲滅されてしまう危険性があるって事だな」
「その通り、ご明察です。ですので今、その問題を解決できる作戦を考案中です」
「分かった。その作戦ができたら俺にも知らせてくれ」

 後日、ハマーに作戦が通知された。
 その内容は、極力戦闘を避けられるルートで高位歪虚の元まで到り、包囲される前に高位歪虚を強襲して一気に倒してしまうというものだった。
 異界は巻き戻りが起こると敵の配置も元に戻る。
 なので敵の配置は常に同じであるため、高位歪虚の元まで極力戦闘を避けて辿り着けるルートも絞りこめるはずだと考えられたのだ。
 そのため強襲作戦の前にまず敵の配置を調べるスニークミッションが行われる事となった。

 作戦日、機界に入ると何時も通りアズマがいた。
「ずいぶんと荒廃した世界っすね」
「……アズマ、絶対にお前を助けてやるからな」
「へ? 何言ってんすか。隊長に助けられなきゃいけないほど俺弱くないっすよ。逆に隊長を助けてあげますって」
 アズマは以前と全く変わらない朗らかな笑みを浮かべる。
「そうだな。頼りにしてるぞ」
 ハマーも無理矢理笑みを浮かべ、アズマを促した。

リプレイ本文

 ハンター達は機界の探索をハマーとアズマを連れずに自分達だけで行う事にした。
 隠密行動になるため人数を多くするより少数精鋭の方が良いと判断したためだが、ハマーは渋い顔をしている。
「辛いだろうが耐えてくれ。遠回りに見えるかもしれないが、これが確実に進めるために必要なことだと思う」
 アルバ・ソル(ka4189)は戦友を思う気持ちがよく分かるため、不満顔のハマーを宥めた。
「必要な事だってのは分かってる。ただアズマのために何もできない事が不満なだけさ」
「必ず助ける為に必要な情報を持って帰ってくると約束する」
 納得してくれたハマーの代わりにアルバはできるだけの事をすると誓った。

「アズマさん……確かに様子はおかしかったですがそういう事だったんですね」
 異界の特性を知った冷泉 緋百合(ka6936)は前回のアズマの奇妙な言動や行動に納得がいった。
「何度も巻き戻る世界……本人に自覚は無いのが救いといえば救いでしょうか」
 鳳城 錬介(ka6053)がハマーと共に別行動を始めたアズマの背を見ながら呟く。
 恐らくアズマは同じ事を何十回、何百回と繰り返しているのだろう。
「助けられる望みがあるのですからいきましょう。共に戦った仲間を見捨てはしません。頑張りましょう」
「俺も彼をこの牢獄から早く解放できるよう頑張ろうと思います。この大きさで隠密行動とか初めてですが……」
 冷泉の鼓舞を受けて鳳城のR7エクスシア『志門』が歩み出す。
 全高8m近いCAMは確かに隠密行動に向いているとは言いがたかった。
 冷泉も全高8mのオファニム『ヴァルキューレ』を歩ませ始める。
(とは言え、異界とは言え一度死んだ人間は、戻るのでしょうか……)
 胸の内でそんな懸念を抱きながら。


 ハンター達は2班に分かれて索敵を行った。
 A班は、漆黒のプラヴァー『ノワール』に乗るアルバとイェジドを連れたトリプルJ(ka6653)が鳳城のR7より先行して斥候を行う。
「生体ユニットも影響を受けるかもしれないが、俺よりずっと動けるからなぁ。イェジドの耳や鼻でなければ気付けないことがあるかもしれないのを期待するってやつだ。頼むぜ相棒」
 イェジドは答える代わりに鼻をならしながら耳をピクピクと蠢かせて周囲を警戒する。
 B班の保・はじめ(ka5800)はユニット用ギリースーツで建物や兵器の残骸を装ったプラヴァー『特別仕様「三毛丸といっしょ」』で冷泉のオファニムより先行して斥候している。
 見つからない事を第一として遮蔽物に身を隠しながら移動。
 目視し辛い残骸の下や建物内の索敵には『マテリアルレーダー』を使い、クリアリングが済むとトランシーバーで冷泉に進行を呼びかける。
 ハンター達の進行速度は極めて遅い。
 冷泉は機体を低くさせながら移動する等の工夫をしてくれてはいるが、CAMが身を隠せる場所は多くはないため、移動にはどうしても手間がかかってしまうのだ。

 だがその甲斐もあってか、敵との初遭遇時に相手を先に発見したのはハンター達だった。
 イェジドが不意に立ち止まって身を伏せる。
(敵か?)
 トリプルJも身を屈めてイェジドの視線の先に目を凝らす。
 すると2体の虫型が巡回しているのが見えた。
(お手柄だ相棒)
 トリプルJは声には出さずイェジドの背を撫でて感謝を伝える。
 仲間達も虫型に気づき、臨戦態勢を取る。
「相手に見つかる前にぶっ殺す、サーチ&デストロイだ。行け」
 トリプルJに耳元で小声に命じられたイェジドは身を伏せながら慎重に虫型に接近してゆく。
 そして間合いに捉えると一気に飛び掛かり、獣剣「ユヴェーレン」で斬った。
 金属同士が擦れ合う擦過音が鳴り、虫型に残痕が刻まれる
 だが能力の半減したイェジドのパワーでは虫型の中枢まで刃は届かず、アーム銃口がイェジドの方を向いた。
 しかし虫型が撃つ前にアルバが魔導銃「トルキューンハイト」を発砲。
 銃弾に貫かれた虫型が機能停止する。
「行けガンポッド!」
 もう1体の虫型は鳳城のFガンポッド「ストラフPD7」の銃撃で幾つもの弾痕を穿たれて爆散した。
 戦闘を終えて戻ってきたイェジドはちょっとしょげた顔をしていた。
 どうやら敵を倒し損ねたためらしい。
「生体ユニットも力が半減するらしいから気にするな。相棒はよくやったさ」
 トリプルJはイェジドの頭を撫でて労ってやった。


 その後も何度か虫型と遭遇したが、いずれも増援を呼ばれる前に撃破でき、ハンター達は最初の難所と目されたビルの手前まで到達した。
 ビルの屋上には事前情報通り狙撃銃を構えた人型が見える。
 周囲には高い建物はあまりなく、CAMで接近すれば直ちに見つかる恐れがあった。
「私達はここから攻撃するしかないですね」
 冷泉がラズマライフル「イナードP5」を構える。
 だが鳳城のガンポッドは届きそうにない。
「なら俺が敵の気を引きます」
 鳳城は辺りにある瓦礫を物色し始めた。
 プラヴァーなら身を隠しながら接近できそうだったので、他の3人と1匹で慎重にビルに接近する。
 ある程度進むとビルの中を通れそうな箇所があり、幸いプラヴァーのサイズなら通れそうだった。
 ビルに入る前に保とアルバが『マテリアルレーダー』で索敵し、反応のあった箇所をマッピング。
「ここだけ妙に規則的に並んでいないか?」
 アルバが指差した箇所は確かに等間隔で反応が並んでいる。
 『マテリアルレーダー』ではビル内の構造までは分からないため、目視での観察と反応の位置から敵の配置を推測してみる。
「……屋上までの階段の踊場に配置されている感じでしょうか?」
 その推測を元に階段に向かい、サイズ的に一番見つかりにくいトリプルJが階段の陰から様子を伺うと、虫型が見えた。
「いたぜ。ビンゴだ」
「僕が仕掛けますので、援護して下さい」
「了解」
 アルバは階段の陰から出ると魔導銃を虫型に向けた。
 しかし虫型までの距離は10mもなく、アルバのプラヴァーが装備している武器はどれも有効射程範囲外だった。
「しまった」
 アルバに気づいた虫型がアームの先の銃口を向けてくる。
 だが虫型の気がアルバに反れた隙に、保のプラヴァーとイェジドが階段を駆け上がり、ミラージュグレイブと獣剣で斬り裂いて倒す。
 同じ要領で各階の虫型も倒してゆき、屋上へ繋がる扉の前に到着した。
 扉を少し開けて様子を伺うと、人型の姿が見えた。
 しかしここでもアルバの武器は全て有効射程範囲外だ。
「すまない」
「いえ、僕達だけで何とかしてみます」
 保はトランシーバーで鳳城と連絡を取った。
「配置につきました。こちらは何時でもいけます」
「了解、こちらが気を引いた隙に奇襲してださい」
 鳳城は用意しておいた瓦礫を思いっきり投擲した。
 瓦礫は潰れかけの建物に当たり、派手な倒壊音を響かせる。
 人型の狙撃銃が倒壊する建物の方に向く。
 その瞬間、保は扉を開けて飛び出した。
 人型が気づいて向きを変えるが、『スペルスラスター』で間合いを詰める方が早い。
 『スペルステーク』で炎のようなオーラを纏ったグレイブが人型を刺し抜く。
 続けてイェジドの獣剣が脇腹を斬り裂く。
 更に冷泉が『高速演算』で狙撃したプラズマ弾が胴体を撃ち抜いた。
 人型はグラリと傾ぐ。
 だが途中で踏ん張り、黒いオーラを纏わせたソードを構えた。
「仕留め切れなかった!」
 保は避けようとしたが間に合わず、プラヴァーの胴体部が縦に深く斬り裂かれる。
 人型が更にソードを振り上げる。
 しかし冷泉の放った第二射が先に人型を撃ち抜き、その身を塵に変えて散らせた。
 狙撃兵は倒せたものの、屋上で派手に戦闘を行ったため虫型に気づかれたのか、ビル内が騒がしくなり始めた。
 アルバが『マテリアルレーダー』を使うと、虫型の位置が変わっていた。
 保も『マテリアルレーダー』を使い、先程の結果と照らし合わせ、その差異から虫型の動きを予告する。
 どうやら虫型は外へ向かう個体と屋上へ向かう個体の2種いるようだ。
 その結果を外の2人にも知らせる。
「分かりました。外へ出る敵は任せて下さい」
 知らせを受けた冷泉は俯瞰してビルに狙いを定める。
 そして虫型が出てきた瞬間に狙撃。一撃で虫型が吹っ飛んだ。
 鳳城は『アクティブスラスター』でビルへ急行し、冷泉からは死角になっている位置に出てきた虫型を潰した。
「まるでモグラ叩きだね」
 屋上に登ってきた虫型は待ち伏せて各個撃破し、ビルでの敵の掃討は完了した。 

 戦闘で手酷い傷を負った保のプラヴァーだったが、鳳城が[SW]ロザリオ「タビアイマーン」の『アンチボディ』で修理してくれた。
「応急手当程度ですが、少しでも楽になれば幸いです」
「いえ、応急修理以上に直っていますよ。ありがとうございます」
 保の言うとおり、プラヴァーは完全ではないものの、十全に戦える程にまで直っていた。


 索敵を再開したハンター達だが、町の中心に近づけば近づくほど敵の巡回の数は増えていった。
 今までは虫型にしか出会わなかったのだが、人型に出会う事も珍しくなくなった。
 幸い、人型1機+虫型数体という編成が多かったため、5人と1匹で一斉に仕掛ければ増援を呼ばれる前に倒す事ができていた。
 しかし今アルバが発見した巡回は、人型3機編成だった。
「3機は厄介だな……」
 しばらく3機の巡回路を観察してみたが、プラヴァーだけならともかく、CAMまで見つからずにやり過ごす事は不可能に思えた。
「ここもサーチ&デストロイで突破するしかないな」
「デストロイ、できればいいのですけど……」
 トリプルJの意見に保は難色を示す。
 全員で奇襲をかけても人型を3機同時に増援を呼ばせず倒す事は困難に思われたからだ。
(戦闘になっても劣勢を装えば増援は呼ばれないはず……)
 そう考えた保は策を練り始めた。
 敵より数が多いと不利と判断されて増援を呼ばれる可能性があるため、仕掛けるのは3人以下でなければいけない。
 そして敵よりも劣って見える編成である方が望ましい。
 それらの条件から、保とアルバのプラヴァーと、イェジドで劣勢役を行う事となった。

 まず、アルバが魔導銃で先制。
 放たれた大口径の弾丸が人型の肩部装甲を撃ち抜き、派手な音を立てる。
 それを合図に保とイェジドが突撃する。
 こちらに気づいて身構えた人型に保がグレイブで、イェジドが獣剣で攻撃したが、共に盾で受け止められた。
 しかしこれは劣勢に見せかけるため、わざと防ぎやすく攻撃したのだ。
 だが本当に増援を呼ばれない保証はない。
 緊張しながら敵の出方を伺っていると、人型3機はソードを抜いて斬りかかってきた。
(よし、ここまでは予定通り)
 安堵しつつ保はグレイブでソードを受け止めた。
 しかし別の人型が保の横を抜けてアルバの方へ行こうとする。
 アルバのプラヴァーは近接武器を装備していないため、接近させる訳にはいかない。
 なにより人型3機を1箇所に留めておく必要があるため、保は『スペルスラスター』で人型の前に出て進路を塞ぐ。
 そのため保は1人で2機の人型を相手にする事となった。
 左右から繰り出される剣戟を防ぎ切る事は難しく、プラヴァーは何度も斬撃を受けて傷だらけになってゆく。
 劣勢に見せかけるどころか本当に劣勢に追い込まれていた。
 イェジドも獣剣は全て盾で防がれ、反撃の刃で刻まれた体は自身の血で毛皮を赤く濡らしている。
(長くは持たない……)
 それでも保とアルバは1体の人型に攻撃を集中させ、ダメージを蓄積させていった。
 そして人型3機が直線に並ぶ位置まで誘導する。
「今です!」
 保の合図で鳳城のR7が潜んでいた物陰から飛び出した。
「みんな、射線上から離れて」
 ヘッドマウントディスプレイに浮かんだ照準器に3機の人型だけを捉え、トリガーを引く。
 R7に格納されている射出口が開いて『マテリアルライフル』を発射され、高マテリアルのエネルギー光が3機の人型を貫いて走る。
 この機を逃さず、アルバは温存しておいた魔銃「ナシャート」を抜いた。
「とっておきだ、喰らえ!」
 放たれた非実体の光弾が人型の頭部を撃ち抜いて粉砕する。
 更に保が『スペルステーク』で畳み掛け、人型1体を葬り去った。
 トロプルJはイェジドが相手をしていた人型に後ろから襲いかかる。
「よくも相棒をいたぶってくれたな!」
 鉄爪「インシネレーション」で膝の裏を引き裂くと人型は膝をつき、その隙を逃さずイェジドが跳躍して首筋を獣剣で斬り裂く。
 だがどちらも軽傷で、人型はすぐにソードを薙ぎ払ってきた。
 トリプルJは腕を交差させて受け止めたが完全には防ぎきれず、刃が腕に喰い込む。
「くそっ! 力が出てねえ!」
 人型は後ろに退ってトリプルJ達から距離を取ると、照明銃を抜いた。
「撃たせるな!」
 トリプルJはイェジドに命じたが間に合いそうにない。
 しかし未だ潜んでいた冷泉がプラズマライフルで狙撃。照明銃ごと腕を破壊して発射を阻んだ。
「これでもう援軍は呼べないはず」
「よし、こいつは俺達に任せてそいつを早く殺ってくれ」
 トリプルJとイェジドで片腕になった人型を引きつける。
 鳳城は『アクティブスラスター』で最大加速させたR7でもう1体の人型に迫った。
 そしてMハルバード「ウンヴェッター」を大上段に構え、一気に振り下ろす。
 人型は盾で防ごうしたが、Mハルバードから出現した非実体の刃は盾ごと人型を斬り裂いた。
 更に保のブレイブが脇腹に突き入れられ、アルバの魔導銃が胸を穿つ。
 人型はソードに黒いオーラを纏わせて大きく薙ぎ払った。
 保はグレイブで、鳳城はMハルバードで受けたが、高威力に防御が弾かれ、胸部装甲を斬り裂かれる。
 だが攻撃後の隙を狙ってアルバが腕を撃ち抜き、人型の手からソードがこぼれ落ちた。
 保と鳳城は左右から人型を両断し、一気にトドメを刺す。
 そして残りの1機を全員で攻撃して破壊し、戦闘は終了した。
 しかし保のプラヴァーの損傷とイェジドの傷は酷いものだった。
 鳳城は『アンチボディ』をそれぞれに施したが、そこでスキルが尽きた。
 それでもイェジドの血は止まり、プラヴァーは戦闘に支障がない程度には回復できた。


 次に遭遇した巡回は人型2機+虫型という編成だった。
 保のプラヴァーとイェジドはダメージが蓄積しており、これ以上劣勢役をするのは厳しかった。
 アルバのプラヴァーと冷泉のオファニムは近接武器を装備していないため、劣勢役には向いていない。
 そのため劣勢役は鳳城のR7が行う事になった。
 わざと発見された鳳城はFシールド「ハイラハドム」で人型のマシンガンを防ぎつつ、Fガンポッドで反撃した。
 敵が接近してきたら『アクティブスラスター』で間合いを詰めてMハルバードで攻撃。
 ある程度をダメージを負わせたら全員で強襲して撃破。
 残りも援軍を呼ぶ前に一気に叩く。
 その戦術で乗り切ったのだが、しばらく敵の攻撃を全て1人で受け続ける事になった鳳城のR7は少なからずダメージを負った。

 その後、人型3機編成の巡回には出会わなかったものの、人型2機+虫型という編成とは出会い続け、その度にダメージは蓄積していった。
 度重なる戦闘でアルバは魔銃「ナシャート」の弾を全て使い切った。
 鳳城は1度Mハルバード「ウンヴェッター」を[SA]プロペラントタンク「フィーア」で回復させたが、それでも既に残数は2回になっていた。
「本当にここは敵だらけなんだな……」
 アルバは武装や機体の耐久値が心許なくなってきた事を心配しながら魔導スマートフォンのカメラで周囲を撮影する。
 他の者達も写真を撮ったりマッピングをしたりしてくれており、ここまでの敵の配置とルートの把握はできていた。
 だが戦闘の継続は難しくなり始めている上に、辺りの建物の数が次第に少なくなっており、視界の開けた場所も多くなってきていた。
「マズイな。ますます見つかりやすくなってしまう……」
 アルバが身を隠しながら慎重に先行する。
 すると前方から水音が聞こえてきた。
 更に進むと川が見えた。
 彼らは遂に第2の難所になるだろうと目された川まで辿り着いたのである。
 川には橋が掛かっていたが、その両端では人型が1機ずつ立哨していた。
 ハンター達は人型の気を引いている隙に、保のプラヴァーと冷泉のオファニムが残骸を装って川を渡り、両端の人型を同時に倒す作戦を行う事とした。

 まずはアルバが『マテリアルレーダー』で周囲に敵がいないかを確認。
 保と冷泉は上流へ、他の者達は下流へ、橋の人型に見つからないよう慎重に向かう。
「配置につきました、頼みます」
「了解、作戦開始します」
 保から知らせを受けた鳳城は用意しておいた瓦礫を投擲。
 瓦礫が派手な音を立てて地面を転がり、気づいた人型がマシンガンを向ける。
 だが注目した人型は橋の手前の1機だけで、対岸の人型はまだ周囲を警戒している。
「それならもう1度」
 鳳城が再び瓦礫を投げると、それは地面に落ちる前に人型にマシンガンで撃たれて粉々になった。
 そして今の投擲でこちらの位置がバレたのか、人型は鳳城が潜む建物にマシンガンの銃口をピタリと向けてきた。
 だが、今の銃声で対岸の人型もこちらに注目してくれた。
 その間に保と冷戦は川に入り、冷戦のオファニムは瓦礫に扮した保のプラヴァーにもたれかかって残骸機を装う。
 そして川の流れ沿ってゆっくりと対岸へ移動し始めた。
 橋の手前の人型は鳳城の潜む建物を警戒し続けていたが、対岸の人型はすぐに周囲の警戒に戻り、川を流れる2人に気づいた。
 そして、すぐにマシンガンを撃ち放ってきた。
 銃弾が次々と冷戦のオファニムに弾痕を穿ってゆく。
「え!?」
 確認のため撃ってきただけかと思い、しばらく動かずにいたが銃撃は止まない。
 敵は明らかにこちらを破壊しにきていると分かった。
「どうしてバレたの?」
 ユニット用ギリースーツで擬装している保のプラヴァーだけなら騙せたかもしれない。
 しかしプラヴァーの全高2.8mで、オファニムの全高8m。
 3m足らずの残骸の浮力で倍以上の大きさの鋼鉄が浮いている光景は見るからに不自然だったのだ。
 ともかくバレた以上このまま撃たれている訳にはいかない。
 冷泉はすぐにオファニムの身を起こすとプラズマライフルで反撃した。
「すみませんバレました。作戦変更。強襲して下さい」
 保は『スペルスラスター』で川を渡り、激しい水飛沫を上げながらトランシーバーで仲間に連絡する。
「了解です」
 連絡を受けた鳳城はすぐに建物の陰から飛び出した。
 身を晒した途端に人型にマシンガンで撃たれたが、Fシールドで防ぎ、Fガンポッドで反撃する。
「町の中心部は目前だ。そこの情報を得ずに帰る訳にはいかない!」
 アルバは建物を遮蔽に使いつつ魔導銃で攻撃。
「相棒、辛いだろうがここが踏ん張りどころだ。行くぜ!」
 トリプルJは2人が気を引いている隙にイェジドと共に人型への接近を試みた。
 一方、対岸の人型は自分達が不利な状況だと判断したのか、照明銃を抜いた。
「撃たせない!」
 冷泉は『高速演算』も発動させて人型の腕を狙い撃った。
 しかし人型は盾を掲げて防ぐ。
 プラズマ弾は盾を貫通して人型にダメージを与えたが、照明銃を持つ腕は無事だ。
 保もDAR「クルファナー」を構え、腕に狙いを定めて撃った。
 だが距離が遠かったためか避けられ、人型が照明銃のトリガーを引く。
 銃口から大きめの弾丸が真っ直ぐに空へと上がり、弾けた。
 眩しい程の光が輝き、煌々と川面を照らす。
 これで周囲の敵はこちらに向かって動き、配置が変わってしまう。
 これ以上の索敵は無意味になったのだ。
「あ……」
「そんな……」
 冷泉と保は愕然とした面持ちでその光を見上げた。
 他の仲間達にも照明弾の光は見えていた。
「なんてこった……」
 トリプルJが天を仰ぐ。
 だが呆けてばかりもいられない。
 敵の増援が押しかけてくれば、今の疲弊したハンター達では包囲殲滅されかねない。
「殿は俺に任せて川の下流へ! 下り続けていればいずれ異界の外へ出られるはずです」
 鳳城がFシールドで人型のマシンガンを受け止めて仲間を庇いながら川下を指差す。
「前を見ててくれ」
 アルバはトリプルJに頼むと、魔導銃で鳳城の援護射撃を行いつつ、プラヴァーの踵部のローラーを逆回転させて後退する。
 トリプルJはイェジドに乗ると、アルバの前を走って先導する。
 鳳城もFガンポッドで弾幕を張りながら後退した。
 一方、保と冷泉は川の流れを利用しながらスラスターも吹かし、全速で川を下っていた。
 やがて川の左右に援軍らしき敵がチラホラと見え始めたが、前に進む事だけに集中する。
 不意に視界が暗転し、景色が荒涼とした大地になった。
 機界の外に出たのだ。
 周りには5人と1匹が揃っている。
 少し待つとハマーも機界から出てきて、全員の生還が確認された。
 しかし得られた情報は川の手前までの敵の配置で、不十分な結果に終わってしまった。

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    アルバ・ソル(ka4189
    人間(紅)|18才|男性|魔術師
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    ノワール
    ノワール(ka4189unit004
    ユニット|魔導アーマー
  • ユグディラの準王者の従者
    保・はじめ(ka5800
    鬼|23才|男性|符術師
  • ユニットアイコン
    プラヴァートクベツシヨウ
    特別仕様「三毛丸といっしょ」(ka5800unit002
    ユニット|魔導アーマー
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士
  • ユニットアイコン
    シモン
    志門(ka6053unit003
    ユニット|CAM
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    イェジド(ka6653unit002
    ユニット|幻獣
  • 狂える牙
    冷泉 緋百合(ka6936
    オートマトン|13才|女性|格闘士
  • ユニットアイコン
    ヴァルキューレ
    ヴァルキューレ(ka6936unit003
    ユニット|CAM

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/02/18 08:33:00
アイコン 質問卓
保・はじめ(ka5800
鬼|23才|男性|符術師(カードマスター)
最終発言
2018/02/17 09:20:11
アイコン 相談卓
保・はじめ(ka5800
鬼|23才|男性|符術師(カードマスター)
最終発言
2018/02/20 11:12:05